第二十七話『西涼決戦』
少し時間が掛かりました。
色々急展開ですね
風を切る音がした。
広大な空間で戟音が鳴り響く。
陽が上りきった先。支柱で覆われた場所で矛を交えるのは二つの影だ。
床を間断なく歩で叩く音が鳴った。
切れ長の瞳の少女、星が手に持つ朱槍を振るう。
腰を落とし、両手を伸ばした一撃は突きを現すもの。
対して柔和な少年、一刀が身を捻って回避した。
対象を失った槍はそのまま空気を裂き、一本の支柱に激突する。
轟!っと音が鳴った。
背後より破壊と連動して、空気を吸い込む音が浮かぶ。
その一撃で一刀の頬に浮かんだ汗が球体となった宙に浮く。
追うように前進する星がその液体を頬に偶然当て、赤みのある舌で舐め上げた。
「甘露ですな、主!」
「そりゃどうも!」
答える言葉は一瞬だ。
対して交差する刃は二度。
引き抜いた槍を旋回させる星と、一刀の刀が激突する。
再び金属音だ。裂くような音で、窓辺より見ていた風が耳を塞いだ。
「全く。お兄さんも星さんも脳筋ですねー」
「なーに。たまには体動かさないと色々溜まるのさ」
気づけば黒髪を揺らしながら小柄な少女、師愉が傍らに座っていた。
人懐っこい笑みで手に持つ酒瓶を一杯煽りながら、である。
二人は壇上で争う一刀と星を窓辺より眺める位置にあった。
「で、あたし達はどう動くんだい?」
「どうとは……なんて野暮なことを風は聞かないのです。皇帝崩御、そして張譲、董卓の専横ですね?」
「そうだよ。皇帝が呆気なく死んでもう一月だ」
師愉が感慨深く呟いた。
皇帝死す。その報は大陸中を駆け抜けた。
風は一つため息を付き、視線を外にやる。
方向の先は洛陽が繋がっている空だ。
「冠婚葬祭を担当する太常は動かず、遺言を受けたと自称する十常侍の張譲は西涼の董卓を招聘。その武力を以って軍閥を洛陽より遠ざけました。後は皇帝の次子である劉協を即位させて、好き放題。長子の劉弁は不義の子として反乱を企てたとされる何進将軍と共に処刑――言葉にすれば簡単ですが、一気に時代が動きました」
仮にも皇族の人間を臣下の二人の息が掛かった宮中が断じたのだ。
更に洛陽を離れた軍閥。袁紹、曹操、袁術等は皇帝死後に新しい官位を頂き国に帰ったが――
「それぞれが現皇帝を助け出さんと今にも軍を起こす気配ありかい。やれやれもう漢王朝も終わりかね」
「漢王朝終われども天子様の存在は今だ大きいですからねー。これからは誰が後継に着くかで天下は揉めるのですよー」
「ん?張譲、董卓の二人が好き勝手やってることは、今は童だって知ってるよ。それなのにまだ天子にこだわる必要あるのかい」
「あー。漢中っていうある種独立した場所に住んでいた師愉さんは知らないですよね」
ため息一つ。
「彼らが好き放題やれるのは天子様を頂いているという大義名分があるからです。この大義名分というのはとても大事で、民草の評判や風評、名声に大きく影響するのです」
風たちが商業の流通に苦戦しているのは逆臣という悪評があるからですね、っと呟くように言う。
「成る程。漢王朝が滅びそうでも、天子という象徴を頂いていることに価値があるってことだね」
「そですー。曲がりなりにも大陸を治める長ですからねー。利用価値は多々ありですよー」
「利用、ねえ。アンタも一応中央の人間だろ?天子に敬いってのはないのかい?」
興味本位に聞いた師愉に、風は一瞬迷うように視線をやり、
「ないですねー」
言い切った。
「私が頂くのはたった一人。お兄さんの天下なのです。儒学の教えによる善行に反するかもしれませんが、それでも風は良いのです。あの、透明ながら濁ったお兄さんの矛盾した瞳に、風はゾッコンしているのですよ」
「ゾッコン、ねえ。表情は読めないけど、アンタ意外に熱いところあるんだね」
「暑いのは苦手ですよ?」
「そっちじゃないんだがね……」
小首を傾げながら言う少女に苦笑しながら、師愉は視線を前に向けた。
そこでは体制を崩した星に一刀が刀を振りかざす場面であり、
「っ、うおおおおおおおおおお!」
示現流の叫びと音速の一撃が星の手より朱槍を弾き飛ばした所だった。
手より武具が弾かれたことを理解した星が肩を竦めて、一刀が尻餅を突いた彼女に手を伸ばす。
星は若干顔を赤らめながら、しかしその手を取った。
対して上がるのは歓声だ。
お、っという言葉を伸ばしたもの。
「まあお兄さんに策は献上する予定ですし。そろそろ動くでしょう。皆もそう思っていますよー」
窓を見れば、風と師愉の背後。居並ぶように隊列を揃える兵達がいる。
漢中城下大広間。その巨大な空間すべてを白の軍勢が覆っていた。
一刀はそれを見て、星に言う。
「これで指南は四勝、八敗か」
「主殿が本気を出された四勝です。私には価値があるものではありませんな」
星は背後、眼下にある軍勢に目をやった。
「総勢二万五千。我が軍の領土防衛以外でぎりぎり出せる兵達です。本当に来るのですか。西涼よりの使者が?」
「西涼だけじゃない。新皇帝の名の下に張譲からの使者も来る」
「逆臣であるのに。ですか」
「だからさ」
言った時だ。
伝令兵が息を切らして二人に走りよってきた。
膝をつき、伝える言葉は一つだ。
「西涼が武威太守。馬騰様より使者ご来城!宮中からの使者を伴っております!内容は――」
「五胡の大軍の進行。それに対する防衛の要請」
「は……そ、その通りでございます」
言われ、星が驚きで目を見開いた。
――主の言われていた通りだ。
この人はどこまで先を読んで、どんな蒼天の空が見えているのだろう。
事前に言われていたこととはいえ、彼女は少し身を震わせた。
◇
漢中の諸将が居並ぶ中で宮中の使者は慇懃無礼に書状を開く。
「皇帝の名の下に告げる。逆臣、北郷一刀!先の戦の非礼、そして天の御遣いなる暴言。それらを差し引いて汝、忠義を示す機会を与える。西涼より進行してきた五胡の大軍を打ち破り、その首級を持ち洛陽に凱旋せよ!さすれば、皇帝の慈悲を以って汚名が晴れることだろう」
言って、彼は口元をニヤリと笑わせた。
「宮中も張譲殿も期待しておられる」
言われた言葉は単純だ。汚名を雪ぐ為に敵と戦え、というもの。
五胡とは西涼に隣接する小数民族達の連合だ。
蛮族と宮中では言われているが、その馬術、文化は蛮族のそれではない。
そして続く馬騰の使者が現れた。
姿に全員の視線が集中する。
五十代半ばと言った所か。内からの筋肉で膨れ上がった鎧には無数の矢を受け、顔には無数の殺傷。恐らくろくな治療もせず馬を進めたのだろう。化膿して青く濁った肌は見る者を呻かせるものがあった。その惨状に宮中の使者は不快な表情を隠そうともしない。
しかし西涼の男は強面変わらず声を張り上げた。
「現在、我が主治める武威は突如国境を越えた五胡の大軍に包囲されております。宮中まで20日。漢中まで15日。多くの日々を費やしました。いま、愛すべき民が戦火に巻き込まれぬよう、主、馬騰は援軍を信じて奮戦しております。どうか力をお貸し願いたい」
「董卓殿は動かないのか?」
一刀の言葉に使者が首を振った。
「西涼の主戦力、十五万は皇帝の直轄軍勢として使われております。今は一兵たりとも割けない、とのご返答を頂きました」
思うところがあるのだろう。彼は瞳に薄い涙を浮かべる。
そもそも董卓の軍勢がいればこのような事態にはならなかったはずなのだ。
だから使者は最初に宮中に行った。そして、張譲に利用されてこうなった。
――ということは董卓は自由に動けない身なんだな、やっぱり。
一刀の知っている別世界の彼女は弱きを見捨てるような人間ではない。恋に霞という機動力に優れた騎馬軍団の二大将軍もいる。一兵も出さないなんていう事態にはならない筈だ。
――知っている彼女じゃないという可能性もあるが、まだ張譲が生きている以上は――
使者の二人に返事を保留して下がらせた後。
漢中の主はそこまで思考し、軍師に目をやった。
「風。策を」
「上策、中策、下策とありますがー」
「良いよ。忌憚無く言ってくれ」
「上策。使者には快諾の返事を与え、のらりくらりと時間を稼ぎます。五胡の軍勢が武威を陥落させた後に、兵を出して討伐。主不在の西涼の領土を時間を掛けて手中に治めます。その為の仕込みはいつでも行えますよ。名声と風評と領土、どちらも手に入りますね。故に上策としますー」
上策は、実利優先。
「中策。同じく使者には快諾の返事を与え、早急に軍勢を送ります。馬騰と連合して五胡を叩き、宮中に凱旋します。但し被害の割りに得るものが少ないですね。故に中策とします」
中策は善意の行動。
「下策。使者に拒絶の言葉を送り、今まで通り漢中を統治します。しかし時節が動くいま、大きな名声を得ねば取り残されてしまうでしょう。また西涼の民を見捨てたと張譲に言いふらされても困ります。被害は最も少ないですが、これが下策として提案します」
下策は被害が最も少なく、変化に乏しいもの。
こうして三つの策が提案される。
漢中の諸将に反論するものはいない。どれも漢中を思っての献策だ。
選ぶのは主だ。全員の視線が集中する。
一刀は目を閉じ、そして、
「上策は利ばかり優先している。下策は機会に行動を起こさないと得るものは少ない。ここは中策でいこう」
「実利は少ないですが、宜しいのです?」
「大義名分が天の御遣いしかない俺達にとって、分かり易い英雄譚は必要だ。どちらにせよ五胡が西涼だけで満足するとも思えないし、漢中の為にもなるんじゃないか」
言葉に星が頷く。
「戦は自領土で行わないことは基本ですからな。なるほど、主もなかなか人が悪い」
「善意だけじゃ付いてくれる民にも、犠牲を強いる兵にも申し訳がたたないさ。誰か!」
一刀は兵を呼び使者二人を呼んだ。
宮中の使者に頭を下げ、申し出を快諾。一方、馬騰の使者はその報を受けるとすぐさま西涼に伝えに馬を走らせた。
洛陽は五湖の動乱に漢中の北郷一刀を向かわせることを正式に表明。暫定ながら逆臣の汚名を解除し、征西将軍に馬騰を、その下に着く形で安西将軍の位を一刀に授けて征伐を促した。
その知らせを受けたのち、異例の抜擢に北郷一刀。二万五千の兵を束ねて漢中を出陣。
副将に閻圃、周倉、廖化という将を加え、中核には趙雲、張魯。参謀には程イクと層々たる顔ぶれだ。
この報を聞いて喜ぶのは張譲だった。
いま、五胡の為に割く兵はない。宮中を手に治め、軍を扱い他の勢力をけん制する。新皇帝はまだ若く心まで入れる算段は進行中だ。北郷一刀には功を稼ぎ、兵を消耗させた後に、再び難癖をつけるか正面から潰せばよい――と考えていた。
――まさか、西涼十五万の兵と皇帝の意向に逆らう人間がいるなど、宮中に生きる彼は考えてもいなかったのだ。
◇
漢中を出撃して十日。
どこまでも続く荒野の下、馬上にいるのは一刀だ。
彼の同じ馬の上には、何故か小柄にぴこぴこ動く姿がある。
風だ。彼女は衣擦れを気にしながら手に持つ書状を吟味していた。
「あのー。風さん。籠なら用意してるからさ。そっち移動したほうが」
「このほうが見易いのです」
「またか……でもさっきから股が痛そ」
「お兄さんは乙女の純情を何だと思っているのですかー?」
胡乱な目で言われ口を紡ぐ一刀。
それを見ながら笑うのは今回副将として選ばれた周倉だ。
一刀の護衛も勤める彼女は、素足に千切れかかった衣服を縫い合わせた姿だ。
長身痩躯の麦わら帽子の下、瞳が快活に笑みの姿を見せる。
「くっ、くくく。面白いにゃあ。我が主様は」
「いや、周倉。お前も一軍の将ならその、にゃあ口調は止めたほうが良いと思うぞ。正直、年頃の女性の言葉にしたら、かなり痛い」
「しょうがないにゃ。こちとら好きでやってるわけじゃにゃあ。むかし南蛮を旅してたら語尾が変な形で感染したんだにゃ」
そう言って肩を竦めると、普通に仕事が出来そうなお姉さん、っと言った所だろうか。
まああそこは色々と異郷だから……っと納得しかけた一刀である。
っと、そこで風が呻いた。
「どうした?」
「にゃ?」
周倉と一刀が首を傾げる中で、風が言う。
手の平、見せた書状は
「遂に諸侯が動きました。これを」
彼女が見せた紙は間諜が手に入れてきたものだ。
そこには達筆での檄がある。
差出文は華北に一大勢力を持つ袁紹のものだ。そこには訥々と現在の宮中の争乱を憂い、相手の悲哀を煽り、そして義心を呼び起こす内容になっていた。
よっぽど配下に文才のある者がいたのだろう。心を揺さぶる文の下には連合を組み董卓を討ち滅ぼすべし、っと締められていた。
「袁紹。流石に行動が早いですね。これでは張譲と董卓に不満を持つ諸侯がこぞって参戦するでしょう」
「……風。この間諜は何日掛かった?」
「都より二十日、と言った所でしょうか」
言って一刀は考える。
――早すぎる。
董卓が都に入ってまだ二月しか経っていない。今までの人生ではこの結成の文が出るまで半年は掛かった筈だ。なのに何故――?
考える。
今までは自分は主になってなどなかったし、五湖の乱ももう少しあとの話しだ。
つまり、西涼に出陣したことで、この賛同を早めた人間がいる。
袁紹ではない。彼女は単純だが事は急がない。
ならばこの董卓の乱で最も徳するのは誰だ――?
言って、そして導き出された解答が――
◇
蒼の軍勢がいた。
荒野を突き進む軍勢は優に万を超える。装備に質、将兵共に充実しており気力も高い。
その状態に満足を覚えながら、金髪の少女、華琳は微笑む。
「我が軍の状態は良好みたいね?春蘭」
「はっ」
言われ、答えるのは荘厳な黒馬に跨った黒髪の女だ。
身ほどの剣を携え、凜とした瞳を主に向けた。
「我が領内にいた黄巾党全てを従え、私が徹底的に調練しましたから!」
「ふう。私もだぞ、姉者」
そう言うのは春蘭の隣、雪のような髪を右方に流した女性だ。
切れ長の瞳は春蘭に似ているが、しかし知性と涼やかな物腰を感じさせる。
「そう。秋蘭もお疲れ様。貴方達姉妹の訓練ならよっぽど効果のあるものだったのでしょうね。ふふ……歩からも血の滲むような特訓が目に見えるよう。お疲れ様」
「華琳様のためなら如何様にでも!……しかし華琳様。疑問があるのですが、宜しいですか?」
「あら。春蘭が質問なんて珍しいわね。明日は雹でも降るのかしら?」
言われ、春蘭は「そこまで言わなくても……」っと呟いて、
「何故今回の出兵を早めたのですか。確か桂花の策では袁紹を焚き付けるのはもう少し先だった筈。私には何か意図があるように感じるのですが」
言葉に華琳が目を見開いて絶句した。
華琳だけではない。居並ぶ軍師二人も、秋蘭も、配下の三人娘も、護衛の二人も口をぽっかり開いている。
「あ、あれ?私、また何か変なこと言ったのですか?」
「違うわよ。馬鹿なアンタがまともなこと言うから皆が驚いてるのよ」
辛らつに口を滑らすのは茶髪猫耳軍師、桂花だ。
自分が軽口を言われたことは分かり、春蘭が声を荒げる。
「な、なにおー!?貴様あ、私が馬鹿だというか!」
「なによ。馬鹿に馬鹿って言って何が悪いの。前の戦だって前進しか言わなかった癖に」
「減らず口を!」
言い争いが始める一歩寸前。
華琳が声を荒げた。
「止めなさい!」
透き通る声が二人の争いを一瞬で止める。
絶対的なものなのだろう。桂花は一礼して口を紡ぎ、春蘭もバツの悪そうに顔を顰めた。
「教えてあげるわ。つい先日、五胡の大軍が西涼に攻め寄せた。馬騰は使者を出したそうよ――救援の兵を。だというのに張譲と董卓は断った。あろうことか、漢中の北郷一刀に官職を与え、軍を起こさせたとか」
「え?漢中の北郷といえば。つい前まで逆臣として漢王朝に逆らっていた筈ではないですか」
春蘭の疑問に人差し指を立てて、華琳は言う。
「そ。自分の手の兵を出すぐらいなら、逆臣を利用しようと考えたのでしょうね。しかしこれは最大中の愚策。桂花」
言われ、桂花が口を開いた。
「正面で戦っていた相手を手の平を変えて内に入れるなど――今までの行動を許容すると同義です。もしくは正面から戦えないと言ったようなもの。これで漢王朝の権威は更に落ちて、北郷一刀の正当性と機運が高まった――この方針を下した人間は春蘭より馬鹿ね」
「くっ」
言外に醸し出される不愉快な気分を推しとどめ、春蘭は言う。
「しかしそれと反董卓の軍勢が結成される早さに何の関係が?」
言葉に華琳が頷いた。
「決まっているでしょう。この決を下せたのは宮中にいて民草の批評やら時代の機運やらが一切飲めない無能が行ったことで――その無能は北郷一刀が五湖を討伐した後に、すぐに叩き潰せると過信している人物。そんな誇りの欠片も無い人間」
一息入れて、和やかに微笑んだ。
「私がずっと見過ごす訳ないじゃない。もう宮中は組織の体すら残っていない。彼らは充分に仕事を果たしたわ」
「成る程。しかしこれでは北郷を助けることになりませんか?」
秋蘭が疑問を浮かべる。
それに対して陣中にいた全員が首を縦に振った。
同意の意味だ。そして、
「違うわ。逆よ、秋蘭」
華琳は告げた。
「これ以上勝手に失点を増やして天の御遣いを増長させたら困るもの。新しい時代には無能は舞台から降りてもらうわ。生き残った者のみで、誇りある戦いを行う――乱世の終焉を掛けた戦いを」
言って華琳は兵に指示する。
兵が急いで持つのは大鎌だ。四人がかりで運ばれた釜を、彼女は片手で軽々と振るう。
その先、眼前に広がる土煙に向けた。
はためく旗は華雄と書かれた牙門旗だ。
「これが洛陽に繋がる最初の障害となるわ。我らが至高の戦を、西涼の狼共に教えてあげなさい!他の諸侯に遅れるな!」
「応!」
言って武将達が掛けていく。
頼もしき軍の片鱗を垣間見ながら、華琳は空に視線を向けた。
恐らくその先にいる人物に向かって、だ。
◇
「華琳が早めたか。成る程、天子を担って対抗するには今しかない……」
一刀は思考する。
袁紹に近く、焚き付けることが出来る人物は彼女しかいない。五湖を撃退出来れば更に天の御遣いの風評は上がる。そして今回は逆臣の悪名もないのだ。
その報が来る前に本当の逆臣を討ち滅ぼし、天子という大義名分を手に入れる。
天の御遣いという神輿が本物になる前に行動を早めた。
――流石、っと思う。
しかしことはそう上手くいくだろうか。連合軍には孫策や劉備もいるし、袁術、袁紹も黙っては無いだろう。どちらにせよ、早く中央に凱旋しなければ、何も関与出来ない。
「時間との勝負になるな」
呟いたときだ。
彼の眼前に無数の土煙が上がった。
五里は先。荒野を駆けてくるのは異形の皮を纏った軍勢だ。
獣を彷彿とさせる姿で、大地を黒一色に染め上げて駆けてくる。
軍勢より聞こえてくるのは歓声、そして悲鳴。
「西涼の民を攫っているのか……!」
この時代は人も商品になる。
恐らく本体より離脱した遊撃隊だろう。
近隣の村々を襲い略奪し、破壊する。
数は遠目で見て五千ほどか。しかし数の優劣を気にせずその進軍速度は止まらない。
「鶴翼の陣を引いてくださいー。輜重隊を後方に」
風に言われ、兵が鐘を鳴らす。
それは数にして数回だ。
しかし鼓動にあわせて兵達は隊列を変えていく。
まるで鳥が翼を伸ばしたように迎え撃つ形だ。
前衛。突撃を受ける兵達の中で、何人かが木材を持つ。
それは記号と番号が書かれた組み立て式だ。その番号に沿って彼らが陣地を築く。
一刀が作り上げた工作隊だ。簡易なものなら短時間で作れるように訓練を受けていた。
一刻も経たず、騎馬の攻撃を防ぐ柵群が完成した。
五胡は西涼の民に劣らず馬術が上手い。正面から突撃を受ければ被害は甚大だ。
故に柵の隙間。生えるように迎え撃つは本来の倍は長い槍だ。
兵達はそれを正面に構え、背後、弓隊が隊列を生み出す。
「何十回も訓練した五湖の戦だ。訓練通りにやれば俺達は絶対に勝てる!」
一刀が腰元の刀を抜きさる。
「黄巾の子らよ!ゴッドヴェイドウの従者よ!漢に生きる全ての人間よ!その悲憤、怒りを奴らに思う存分に叩きつけろ!もう二度とこの漢を侵さぬように!」
応!っと無数の声。
頷き、一刀は刀を掲げた。
「行け!」
言葉一つ。
そして両軍が激突した。
展開がとても、速いですね。
色々巻き気味で更新が遅れていますが、宜しくお願い致します