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真・恋姫大戦記  作者: 明火付
第二部・逆賊、北郷一刀
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第十七話『呂布、天下無双のこと』

たった一人で張遼、呂布と対峙する星。

遂に戦端が開かれます。

「どういうこっちゃ?」


目の前の光景に頭を捻らす張遼。

これまでの数日とは全く違う対応だ。

軽い戦闘で分かったことは、陽平関の突破が容易でないこと。

こちらは山々で足場が取られているのに際して、あちらは背後に宿舎や武具が置ける。

更に天険の山々は迂回して攻めるには適していない。

仮に出来たとしても、地理はあちらにあるのだ。

視界を失った中で各個撃破などされては溜まったものではない。

故に、敢えて本隊の到着を待ち、後詰の部隊ごと撃破する。

それから精兵の騎兵を以って。漢中の地にいる兵が集結する前に本城を落とす。

電撃戦を得意とする張遼の作戦はこうだった。だが――


「たった一人?――まさか」


――退いたんか?

陽平関の上から軍勢を見て、勝てないと分かるや城に逃げた?

それも関の兵を全員呼んで、あの趙雲とかいう配下を捨て駒にして?

いや、っと被りを振る張遼。

彼は女の子を助けるために危険を冒して1人で敵陣に潜り込んだ。

そんな正義心の強い男が、腹心である趙雲を残して逃げるわけが無い。


「じゃあどこにおるんや?北郷。部下を1人晒して、自分は隠れとるんか?」


それは失望に近い声だ。

気づいたのは関係の長い呂布。首を傾げ、こちらを見る。

心配されていることに気づき、張遼は安心させるように笑みを作った。

――そこまでの男なら関係ないな。

そう胸中を変え、そして。


「第一隊、行きい!」


「お、お待ちを」


その号令の声に、漢より派遣されていた将が進言した。


「あの要塞に近い門を開け、その前には1人。きっと何か策があるに違いませぬ。ここは様子を見られたほうが宜しいかと」


「じゃああんた。その策が分かるんか?」


「い、いえ。それは……」


「安心せい。うちも分からん」


笑顔。そして、


「将に必要なのは何かに怯えることやない。見極めることや!」


だから手に持つ武具を掲げ、星を指す。


「まずは、当たってみてから向こうの策を見させてもらおうやないか」


その言葉に隊が動いた。

数百はある一軍が、走り出したのだ。



黒を基調とされた兵達は西涼で黄巾党相手に死線を潜り抜けた猛者達だった。

その動きは早く、乱れが無い。

どれもが自分の周りを走る兵達と連動し、統率が取れていた。

手に持つのは槍、刀、矛。石弓等、様々だ。

普段なら武具は統一されているが、遊軍として構成されたこの隊はどんな状況にも運用出来るものだった。

荒野を土煙を上げながら進軍する。

しかしその威に迫った少女は動かない。

一里に差し掛かった時、進行する兵達の数十人が後ろに下がるように動きを止めた。

弓兵だ。石弓、長弓。それぞれが間断なく構え、


「射ッ!」


前進する兵に当たらぬように空に鏃を放つ。

一度重力を振り切った鏃は、しばらくして角度を変え、その対象に殺到する。

空気を裂く刃が、雨のように降りかかる。

その来訪を肌で感じ、微動だにしなかった星が動いた。

身に掛かる火の粉を振り払う為だ。

まず一本を弾く。

手に持つ愛槍はまるで自分の体のように星が感じた。

今までで一番体が軽い、っと思う。

彼女の視界。山脈に陽は沈みかかり、影を大きく視界全てに落としていた。

淡い陽光は零れるように、そのすべての残滓を照らすだろう。

いま、自分の後ろには、その最後の瞬きを感じながら今日一日を終えた者達がいる。

自分が通せば、その笑顔は失われる。故に、

弾いた。

槍を右手を振りかぶり、一矢。

腰に廻しながら、一矢。

先行した物は気の早い者達の射た矢だな、と思う。

目を上げれば、まるで煌く流星群のように、本命達がきた。

綺麗だな、っと場違いな感情を抱き。

そしてくすりと笑う。

自分の真名も、星だ。なら――


「主殿。ご覧下さい」


そう言って、構える。


「星の輝きでなら――私は誰にも負けませぬ」


そして、その身に鏃の大雨が降り注いだ。



死んだな、と殺到した鏃で土煙が上がった光景を見ながら先行する兵は思う。

あの数だ。彼女がどのような武人でも、1人で裁ける量ではない。

そうすれば後は簡単だ。あの開け放たれた関を占拠すればいい。

楽な戦だ、っと。

しかし、次の瞬間、鏃の落ちた場所、土煙が何かに吸い込まれるように裂けた。

それは威だ。舞い上がった微細な砂達を吹き飛ばす力。

星が無傷で立っていた。

彼女を中心として一歩分。円を描くように無地な地面があり、その周囲は冗談のように鏃で埋まっている。

槍の柄に刺さった無数の鏃を一振りで払いのけ、彼女は笑った。

陽と体の発熱で上気した頬を、汗で濡れた髪をその額に張り付かせて。

先行した兵はその、妖艶に近い美貌に身を戦かせる。

そして、次の瞬間には激しい激痛を感じた。

見れば、自分の腹部には鏃が突き刺さっている。


「あ――?」


痛みが全身を震わせ、膝から倒れた。

薄れ行く意識の中で、周りの兵達も次々に倒れていくのが見えた。

どこを見ても、射手などいない。なのに――何故?

一方、後方。

倒れゆく兵達を張遼は目を細く見ている。

あの鏃で無傷だった星にも驚くが、何より兵達が倒された原因が分からない。

傷や蠢き方からして、弓だろう。

しかしどこにいる?

関の上には姿なく。門前にも星1人だ。

それに、


「あの数の弓矢、うちには全然見えんかった」


まるで、いきなり何も無いところから出てきたかのように。

しかしそれをかいくぐって星に到達した者達がいる。

だが彼女の槍の刃が陽に反射したかと、次にはその者達が土煙を上げて倒れていた。

まずいな、っと張遼。

手が読めん。

そしてそれは更なる恐怖を震撼させた。


「ご、ゴッドヴェイドウだ……」


それは見ていた兵士から零れた。


「ゴッドヴェイドウの術だ……俺達はみんな、殺されるんだ」


一刀が人を癒す、ゴッドヴェイドウを味方に引き入れているのは周知だった。

彼らの治療にあえば、そんな技などないと分かる。

しかし西涼にはまだ彼らの知名度は低かった。

故に道教という形で取られており、それは兵の恐怖心を駆り立てた。

波のように伝播するその言葉に屈強なはずの兵達が戦意を喪失していく。

――あかん。

術などない。そう言うのは簡単だ。

しかしその実態が分からない。

無意味な叫びは動揺として伝わり、軍を硬直させる。

――くそ。一度下がるか?

考えた時だ。

彼女の隣の少女が、すっと前に出る。

たったそれだけの動きで。

ぴたりと、軍の震えが掻き消えた。

天下無双。呂布。

その出撃だった。




「行くんか?」


張遼の言葉に、呂布はこくんと頷く。


「たぶん……分かった……」


「ほんまか!?」


「うん……でも言葉より、見せたほうがはやいから……見てて」


だから、っと前を向く。

手に持つ方天画戟を担いで、呂布は疾走を開始した。

爆発音。それが地を蹴り上げて発生したものだと誰が理解しただろうか。

軍を覆う程の土煙を上げながら、呂布は歩を進めた。

その動き、威圧に。

初めて星の表情を緊張が走る。

しかし想定していたという顔だ。

そして、隙間なく、呂布に向かって何かが煌いた。

鏃だ。地面にほぼ沿うような形で、横一群が襲ってくる。

しかし呂布は、つまらない、とばかりにその手に持つ得物を振るった。

たったの一閃で、生じた威圧と風の波が、鏃全て吹き飛ばした。

その結果に、星は構えを崩さない。

向かってくる威力そのままに、赤い雷光が蠢き、

対するように眩い白刀が激突する。

激突音は一瞬だ。


しかし、朱は勢いそのまま、白を吹き飛ばした。

人の身でありながら高く飛び上がった星は、そのまま城門に叩きつけられる。

伏した星を一瞥すると、呂布は歩を進める。

それは、門前にあった。

堀だ。門の前を、横に並ぶように人が潜れる空間がある。

そこから地面ぎりぎりの所で鏃を撃っていたのだろう。


「くだらない……」


中には震える弓兵達。

もう戦意を失った兵達に向けて。


「邪魔……死ね……」


呂布は得物を構える。

彼女が死体の1人でも引きずり出せば、それで策は後方にも分かるのだ。

威力を持った武は、そのまま容赦なく振り下ろされた。





























長くなってしまってすいません

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