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真・恋姫大戦記  作者: 明火付
第二部・逆賊、北郷一刀
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第十四話『洛陽動乱』

楽観視していた漢中を再び動乱が起こります。

張譲のキャラですが、アニメ版ではなくオリジナルキャラです。宮中の扱いが物語りっぽく本来では絶対にありえないことに脚色しているのでお気をつけを。

宮中での動乱など一刀は想像をしていなかった。

漢中内の黄巾党を滅ぼし、残りを迎え入れた。

そして前太守を追い出した張侑を倒した。

張侑、波才の首は早馬で洛陽に送られる。

そこには張侑と波才の共謀を示す書状を添えて、だ。

何かしら認められるだろう、っと思っていた。


だが――考えは甘かった。

曹操ほどの家柄もなければ。

劉備ほどの徳もなく。

孫策ほどの地盤もない。


そして何よりも悪かったことは。

張侑が懇意にしていた賄賂の相手が、あの十常侍、張譲だったということだ。





洛陽、宮中。

百官が居並び、玉座に位置するは時の皇帝、劉宏その人だ。

白い髭を蓄え、その顔には深い皺が刻み込まれている。しかし目は白くくすみ、視線は虚ろだった。

一方、無数の視線を受け、体を震わすのは一刀の使者の兵だ。

彼の手には先ほどまで波才と張侑の共謀を示す書状があった。

しかし。その一大の証拠となる紙は、既に無造作にただの紙切れに寸断されている。


「ほっほっほ」


その書状を切り裂いたのは、張譲その人である。

彼は宦官だった。男性器を切り取り、宮中に精魂かけることで地位を得た者だ。

男の象徴を失ったことで髭もなく、声も甲高く肌も白い。

その白髪に皺一つもない顔は不気味の一言に尽きる。

皇帝を前にして、勝手に使者の書を破り捨てられる。

それが出来るのが、今の彼の権力あった。



「官職もなく、地位もない。無名の義勇兵如きが皇帝陛下の任命しようとした人間を誅伐した?しかも、こんな文まで偽造するなど――」


笑みは、


「お前達、笑え」


ほっほっほ。っと配下の白い男達が笑う。

彼らは張譲と同じ宦官で十常寺と呼ばれる者達だった。

元は中常侍という官職で内宮の庶事をとりしきり顧問応対を行う。宮廷に宿直する役で皇帝の秘書官だ。しかし、その実態は皇帝を威を自らのものとして行う、横暴だった。


「静まれ」


ぴたりと、その笑い声が止まる。


「いやしくも漢の太守となるべき男を殺害し、民を悪戯に傷つけた北郷一刀。いやはや、このような者、生かす訳には参りますまいなあ。奴のしていることは黄巾共と同じでございます」


「お、お言葉ですが!」


それを遮ったのは一刀の兵だ。

彼は張侑に妻子を拘束されていた前太守の兵だった。

傷もなく、しかも戻る場所のない自分達に住居を作り、仕事をくれた恩義がある。


「張侑が横暴!民を傷つけ、黄巾と共謀した行為。許されざる者ではありませぬ!それを見過ごせず、我が主、一刀様は私兵を以って立たれたのです。その言葉は余りにも――」


しかし張譲はその血走った目をくわっと、見開いた。


「陛下の御前であるぞ!許可なき発言は慎まんか!」


「くっ……」


歯を軋ませ黙った兵を見て、張譲はしたり顔で頷いた。


「それに前太守に仕えておった貴様は知らんだろうが――あの太守は不正を行っていた。都尉として治安に携わっていた張侑の義心ある行動は、皇帝の威光を守っていたのだ」


「な――!」


あり得ない、っと兵は思う。

前太守は無能ではあったが、悪人ではなかった。

張侑に地位などない。何故なら蜂起するまで一道教にいただけのただの男だ。

それが官職についていた?しかも群の治安を守る都尉に?

そこまで考え、結論に結びついた。

違う。

後から、その役職についていたことにしたのだ。そうすれば、


「前太守に代わり漢中を守っていた人間に対しての、なんたる不義!なんたる不忠!そして――」


両手を見開き、百官に見せ付けるように言う。


「奴は天の御遣いを名乗っているという!天とはすなわちこの国の中心。皇帝陛下を差す言葉!ああ、不忠者。恥知らず!そのような賊にどう対処すべきか。皆様の言葉を伺いたい」


それに対して、百官は脚を踏み鳴らして叫ぶ。


「「誅伐!誅伐!誅伐!」」


「よかろう!」


その言葉を聞いて、張譲は身をさっと翻すと、皇帝の前で手を突き、首を下げる。


「謹んで申し上げます。他の黄巾同様、北郷一刀を誅伐する軍を送り込むべし!各地の将軍に伝令を」


皇帝はその煤けた瞳を向かわせ、そして。


「張譲の言うとおりにせよ」


その涸れた声で言ったのだった。






洛陽の判断に漢中は騒然となる。

張侑なる漢臣を殺害した異教の主、北郷一刀を討つべし――

その伝令は大陸を駆け巡ることにある。

報はすぐさま、一刀の元にも届けられた。


「馬鹿な!」


激昂したのは星だ。


「漢中を貶めた黄巾の名高き将、波才、それと共謀して権威を辱めた張侑。二つの首と証拠、そして民の陳情を送ったはずだぞ!何故そのような命になるのだ!」


「そ、それが」


文官の1人が言う。


「全ての証拠は張譲なる者に握りつぶされたと。皇帝は彼の言を聞くばかりで――」


「まずいことになりましたね」


風は目を細めて言う。


「いま、漢は少しでも黄巾党を討伐することで名を挙げて力を得ようとする群雄が大勢いるのです。また、皇帝の名の下では私達は逆臣。立場も危うくなりますよー」


「しかも」


っと、師愉が続く。


「まだ漢中の兵も、施設も回復してないよ。戦になるとすると相当厳しいさね」


結論は簡単だ。

まだ漢中の地に力はない。

そして大義を失った者に、加わる者もない。

八方塞がりだった。


「――」


一刀は黙ったままだ。

視線を一心に浴びて、そしてただ言葉を吐いた。


「――降伏しよう」


「主殿!?」「お兄さん!?」「一刀様!?」


三者三様の声だ。

それば居並ぶ文官も同じ、だが。


「馬鹿を言うんじゃないよ!宮中を仕切る張譲は張侑の賄賂を受けていた奴だよ!そのことをよく知ってるあんたをどうするかなんて!ちょっと考えれば分かるじゃないさ!」


師愉が代弁するように叫んだ。

だが、一刀の表情に変わりはない。


「だからだよ。だから、この土地を治めた俺が命を差し出せば、三人や、漢中に住む民は少なくとも無事だ。宮中でこうなるなんて、今までなかっ――いや、愚痴だな」


ともかく。


「はは。少し怖いけど、でも、それ以上に、俺はここに住む人たちに愛着があるんだ」


その言葉に星、師愉、風は黙る。

戦力の差は一目瞭然。この地で逆賊の名を受けたのだ。これからどう足掻いても、ただではすまない。

新しいことが、自分の理想が始まったばかりで、頓挫したこと。

やはり自分に王たる才も、機会もなかったのだ。

ただの今回も、誰かに天の御遣いとして仕えていればよかった。

身支度を整えないと、っと一刀は思い、最後に使者となってくれた兵に労いの言葉を掛けることを思い出した。


「じゃあ、あの使者になってくれた兵を呼んでくれないか?労いの言葉を掛けるのが、俺の出来る最後の仕事だ」


「そ、それが」


言葉に報を告げた文官が顔を顰め、そして言った。


「使者、ですが。漢中に戻り、報をすると――自室で首を吊りました」


「――」


息を飲んだ。

その言葉に一刀の動きが止まる。


「なん、だって?」


「張譲に証拠を破り捨てられ、このような結果になり、恩義に報いられなかったこと。漢中を戦乱に巻き込むこと。それらの結果を自分の力不足だと、手紙を残して、明朝に――」


重い、鉛のような感情が部屋を包む。

涸れた、声が。感情が、一刀から洩れ出た。


「主殿。外を」


言われ、一刀。

城下を見れば、民達が押し寄せている。

それも莫大な数だ。歓声を上げながら、一刀を見上げていた。

聞こえる声は嘆願の声だ。残って欲しいという、希望の声だ。


「家族、か。そうだな。教えてもらったことを忘れていた。民は家族。守るべき者だって。もう、俺は背負ってたんだよな」


「お兄さん」


「勝手な君主だ。歴史に悪名を残すだろう。それでも――付いて来てくれるか?」


三人は全員頷く。

一刀。声を上げる民達に約束するように呟いた。


「お前の死は、俺のせいだ。だからせめてその家族には幸せな国を見せる――そして、張譲」


決意だ。それは請願に近い形で一刀は言った。



「お前は、お前だけは。必ず殺してやる」














という訳で新章です。

絶体絶命ですね。

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