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真・恋姫大戦記  作者: 明火付
第一部・漢中争奪戦
13/34

第十三話『拠点フェイズ 風編 1』

拠点フェイズ1の最後、風編です。

次からシリアス風味にいくので最後にはっちゃけきっていきます。

拠点フェイズに限り横文字が出てきます。お気をつけ下さい

王は臣の心にも配慮しなければならない。

それが重臣ならば尚のことだ。

父親が家族サービスを疎かにしていると突然、「お父さんの服と一緒に私の洗わないでよ!」とか娘に言われたり、「お父さんって使い古したタワシの臭いがするんだけど?」そして最後は、「お父さんって、よく結婚出来たよね?あたしなら絶対に嫌」などの心無い暴言を食らったりして、父親は家の隅でしくしくと泣いてしまう。そんな気難しい女心の離れ方と同じような速度で、臣が離れていったらどうなるだろう。


閑話休題。


北郷一刀が汗を垂らしながら布団の上で飛び起きていた。

それは勢力の主にしては質素な部屋だ。机に、窓。張柄の掛かった布団。ただそれだけ。

以前の主はもっと金粉に桃色の塗装を張ったものだったが、一刀が趣味が悪いと打ち壊したのだった。

そんな部屋の窓から篭れ出る月明かりは、まだ夜が深いことを現している。

にも関わらず、何故熟睡していた筈の一刀が息も絶え絶えかというと。


「い、嫌な夢を見た」


――彼の名誉を思うならば、ここで見た夢は上に上げた娘の感情、などではない。

勿論、彼もとある世界で家族を持ったことはある。しかし――

しかし、台詞をほぼ同じにした風が出てきたのは少なくとも彼にとって衝撃だった。


「いや、今も昔も洗い物は一緒にしてないけどさ。それでも、なんか、こう――」


ぽけぽけした彼女に言われると胸にくるものがある。

誰かに嫌われるというのを好むのは一部の性癖主だけだ。

そして一刀はそんな性癖を持ち合わせていない。

誰かに嫌われるというのは人としてこたえるものがあり、それが風ならば尚更だった。

そういえば、っと一刀は思う。

遠い昔、現代社会にいた際に、夢には意味があるっと言ったゴシップ記事を読んだことがあった。


「もしかして予知夢か?でもそんな嫌われる要素あったっけ」


――あった。

少し考えたら、沢山。

漢中の文官はいま非常に少ない。星も師愉も、勿論鍛えられた一刀も協力しているが、この領地を治めるには人が足りていなかった。

その中で風の存在は大きかった。


『甲の処置はこのように。乙はこれですね。次はー』


昼間の彼女の精力的な活動を思い出す。

そういえば司法も扱ってなかったっけ?

あれ、でも開墾とかも任してたよなー

今までは配下だったので、そんな主としての気配りなんてあまりしたことがなかった。

今更ながら。自分が如何に風に依存していたか、そのことに気づき顔を青くする一刀。

――ま、まずい。

過労?それとも精神的疲労?溜まっていてもおかしくない。


「な、何か、風に家族サービスをしないと!」


真夏の夜。まだ家族でもないのにも関わらず、そう一刀は決意したのだった。

窓辺でそれを聞いていた羽虫が、小さく音を鳴らしている。





「風ちゃんの労に報いたい?」


まず一刀が相談したのは師愉だった。

城下。農業の開墾作業と馬舎の増設の報告に来ていた師愉はその言葉に目を丸くする。


「まあ確かにあの子は最近働き過ぎだね。でも、何であたしなんだい」


「いや、元ゴッドヴェイドウの導師だろ。だからそういう気配りに詳しいと思ってさ」


「……そういうのが苦手だったからあんなことになったんだがね」


「うっ」


少し無神経だったかな、っと一刀。

でも、っと師愉は笑った。


「まあ頼られるのは悪い気がしないさね……そうだねえ。やっぱりあれかね。ちょっと待ってな」


そう言って城に隣接する蔵に向かって師愉は、すぐにその両手に何かを持ってやってきた。

米俵に米を発酵させて作られた地酒、師愉製作『米屋殺し』である。


「……はい?」


「まあたっぷり米を食べて、ぐっと酒精を煽る!これが人間の一番の贅沢だよ」


「いや、でも風ってまだ幼いしさ」


「幼い?関係あるかい。たまには一緒の席でゆっくりしなよ!じゃあね」


豪快に二つを投げ渡し、(一刀も師愉も常人の力ではないので米俵が持てる)。去って行く。

一刀は両手に持つそれらを見てため息をついた。

師愉。やはり人の心の機微には少し苦手な部分があるようだ。

だがせっかくの好意、無駄にする訳にはいかない。

どうするかなあ、っと歩く一刀の前に。たまたま星が通りかかった。

その手には小瓶が一つ、大切に抱えられている。

表情も普段に増して若干明るいものだった。

こちらの姿を見つけ、


「主殿ではありませんか」


「やあ星。やけに上機嫌だね」


「ふふっ。分かりますか。懇意にしている店から、遂に届いたのですよ」


そう行って瓶を掲げて見せた。


「秘境の山里でしか手に入らない貴重なタケノコを、秘伝の発酵製法で作られた至高のメンマです」


「そ、そうなんだ」


彼女のメンマ好きはどこも変わらないらしい。


「ええ!給金をはたいて買った甲斐がありました。今夜はこれを肴に一献――」


想像しているのだろう。頬を染め、


「ふふ、今から楽しみです。どうです?主殿もご一緒に」


「素敵なお誘いだけど、今はちょっと考えることがあってさ」


「それは残念。主殿、因みに悩み事は両手に持つ米俵と米屋殺しが関係あるのですかな?」


「ああ、えーっと」


一刀は良い機会だ、っとばかりに星にも相談した。

聞いた星は思案するような顔を見せ、


「主殿。風は格別、辛そうに仕事をしておりましたか」


っとだけ尋ねた。


「いや、そんな様子はなかったけど」


眠たそうな顔は変わらなかったが、いつもの表情に見えた。

それを聞くと星は諭すような表情を作った。


「で、あれば。何かをする必要は無いのではないですか?臣下として主の為に働くは当然のこと。それに漢中でいま忙しくない者などおりませんし、過度な贔屓は他の臣の反感も買いますよ」


「じゃあ俺が風の慰労を特別に労ったら、星は反感を抱く?」


「ご冗談を。男を拘束する女は嫌われます」


そう言って、星は背を向けた。


「主殿の好きなようにするといいでしょう。大切なのは伝える気持ち、ではないですか」


「そ、そうだな。ありがとう、星」


言葉に何かを見つけて一刀は走り出した。

背を向けていた星は、そんな遠くなっていく後ろ姿をちらりと見て、呟く。


「――羨ましい、とは思いますがね」







一刀は緊張をしていた。

彼の手には小さな盆があり、そこには桃色の飲み物が揺れている。

そして皿の上には饅頭が二つ。

苦労して手に入れた桃を使った果実酒と、自分で小麦粉を練って作った皮に羊の肉、野菜をあんで包んだ饅頭だ。

会心の出来だ、っと思う。果実酒と言っても酒の割合は低い。

――食堂に来ていなかったから、まだここにいるはず

彼のいる場所は城で働く女性用に建設された、風の部屋の前だ。

木製の扉を前に、一刀は息を呑む。

――いつもお疲れ様、差し入れだよ。

うん、ただそれだけでいい。

星の言うことも最もだ。だから、これぐらいはいいだろう。うん。


今まさに部屋を叩こうとしたとき、中から風の声が聞こえた。


「そうなのですよー。お兄さんには困ったものなのです」


「――ん?」


誰かと一緒にいるのか?

悪いと思いながらも扉に耳を当ててみる。

しかし相手の声は聞こえず、風の声だけ確かに聞こえた。



「天然でくさい台詞を吐きますしー。いっつも自信たっぷりです。それでいてこっちのことは良く見ています。おお、わかってくれますかー」


話しが弾んでいるようだ。

誰だろう?師愉?星?

そんなに風がこの城で誰かと話している姿は見たことがなく、少し新鮮だった。


「仕事ですかー?ええ。とても楽しいのですよ。必要とされるというのはうれしいものですね」


その言葉に誰かは分からない話相手に感謝した。

ありがとう、貴方のお陰で俺は少し救われたよ――っと内心で一刀。

だが――


「きゃっ。もー。急に飛び掛らないでください。驚いちゃいますよー」


――はい?

飛び掛る?ってなんだ。何が飛び掛った

何ガ、何処二、どう飛び掛ったんデスカ?

脳裏の想像ばかりたくましくなる一刀を、まるで挑発するように、中からはどたどたとした音と、そして、


「あー。そこは舐めないで下さいー。くふふ。こそばゆいのですよ」


その言葉に一刀の脳裏はぷっつんした。


「こらー!真昼間から部屋でなんてお父さん許しませんー!」


人権問題何のその。自分のことも棚に挙げ。

青筋を浮かべた一刀は部屋の扉を開いた。

どこの男が忍んでたんだ、野郎ぶっころしてやる!っと鼻息を上げる彼だったが、


「――お兄さん?」


そこにはきょとんと目を見開く風と、


「にゃあ?」


その上でじゃれていた黒猫と目が合ったのだった。

どっと笑い。





「お兄さん」


「はい」


「風はそんな軽い女じゃないのです。失礼しますねー」


事情を話すと珍しく顔を怒りの表情で浮かべた風の前で正座する一刀。

猫がその腕をがしがしと甘噛みをしていた。


「いや、本当にごめん」


「下半身と思考が直結しているのです。軽蔑してもいいですか?」


「もう許してください。本当、悪かったよ……」


想像すれば分かることだった。

風は猫と会話する癖がある。

それは時に猫語、時に普通の言葉だった。

しかし、まさか部屋に連れ込んでいるとは思っていなかったのだ。


「この子は野良さんで風来坊なのです。たまにこうしてやってきてくれるんですよー」


「ああ、可愛い猫だな」


「誰が口を開いて良いと言いました?」


「はい、すいません」


まだ怒りは取れていないらしい。

暫くそうしたかと思うと、それで、っと風は言う。


「一体何の御用なんです?」


「ああ、えーっと」


そこで一刀はおずおずと自分が来た理由を話した。

夢で風を見たこと。自分が多くの仕事を任せていることに気づいたこと。

それを労おうとしたこと、だ。


「その気持ちは嬉しいのですよー。お兄さん、でも」


前置き一つ。


「風は好きでやっていることなのです。何もないところから有る物を作り出す。それも軍師としての力の見せようなのですよ。そしていまここでは一番私が必要とされていますー」


それって、


「今までに得なかった感情です。だから、風はいまとても充実しているのです」


そう言う顔はいつものおっとりしたものだが、しかし確かに笑みがある。

嘘ではないことを確認して、一刀は最後に、


「無理しないこと。きちんと睡眠をとること。一杯無茶を言うと思う。でも、これだけは今後も約束してくれ」


「はい、お約束します」


その言葉に偽りはないだろう。

この子は約束を違える性格をしていない。

だから、っと一刀は持ってきた物を渡した。

風はそれをとても喜んでくれたのだった。


――簡単な食事を終えたあと。

午後の仕事に向かおうとする一刀に、風は言った。


「しかしお兄さん。風としては、このような慰労の場も嬉しいのですが、その準備の時間も仕事をしてくれたらもっと助かるのですよ?」


「ははっ、手厳しいな」


「っというわけで、午後は午前分も仕事してもらいますね」


「……俺は猫になりたい」


「知らなかったのですかー?書類仕事からは逃げられないのです」


そう言って意地悪く笑う風には、先ほど言われた言葉があった。

お父さん許しませんよ、っとの言葉だ。

夢で見た内容に引っ張られているのだろう、っと思いたい。

なぜなら。なりたいものはそんなものではないのだ。


「ほらほら。早く行きますよー」


そう言って主を押す顔は。

どこまでも笑顔そのものだった。



はい、拠点フェイズ終了です。

次は新しい章に移ります

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