第1話 新しいガジェット
学部の友人・ダイキは、筋金入りの新しもの好きだ。
彼の家へ遊びに行くと、必ずと言っていいほど新しくて珍しいものが増えている。
「これ、面白そうだな」
ネットで何かを熱心に見ていたダイキが、俺にパソコンの画面を見せてきた。
表示されていたのは、クラウドファンディングのページ。資金を募って、今までにない音楽再生機器を開発しているのだという。
「スピーカー? Bluetooth接続の? 似たようなものなら、いくらでもあるだろ?」
俺は首を傾げた。ダイキは首を振る。
「違うんだよ、これが。どんな液体もスピーカーにしてしまえるんだってさ。……よし、買ってみよう」
言うが早いか、ダイキはさっそく購入手続きを始めている。
「おいおい、そんな衝動買いばっかりして、大丈夫か?」
思わずたしなめた俺の声には、幾分呆れた気持ちも混ざっていたと思う。
どうやらこいつの実家はそこそこ裕福なのだろう、と俺は踏んでいる。だが、それでも月末前に仕送りを使い果たしてしまうようで、時々食べ物を無心してくる。
こちらとしても、限られた食材でやりくりしているのだから、それを当てにされても困るのだが……。今月は予算内で収めてくれよと思いながら、俺は様子を見守った。
数日後、ダイキの自宅に呼び出された。商品が届いたので、見せびらかしたいらしい。
「これから、開封の儀を行う」
「はい、はい。わかったから。早くしろ」
苦笑する俺に構わず、ダイキは目を輝かせながら梱包を解いていく。
中から現れたのは、子供の拳大ほどの小さな球体。
「なんだか、ガシャポンのカプセルみたいだな」
俺は率直な感想を述べた。
「でも、見ろ。ここに小さなタッチパネルがついてるだろ。これで操作するみたいだ」
「へえ。どこから音が鳴るんだ?」
「待て、待て。まだ焦るな」
そう言いながらダイキは、付属の説明書を読み始める。
「なるほど、ペアリングするには、スピーカーにしたい液体を大さじ3杯、このカプセルに取って……?」
説明書を読みながら、彼は球体を真ん中の境目から開けた。そして、飼っている熱帯魚の水槽から水をすくい、カプセルの中に注ぎ込んだ。
「で、このボタンか」
ダイキは説明書の指示に従い、タッチパネルのボタンをタップした。それからカプセルを振った。念入りにシェイクしたかと思うと、またカプセルを開けて、中の水を水槽に戻した。
「これで、この水槽の水がスピーカーになったはずだ」
「じゃあ、何か音楽を流してみてくれよ」
俺が促すと、ダイキはカプセル表面のタッチパネルを操作し始めた。
「このプレイリストが良いかな。流すぞ」
ダイキが再生ボタンをタップすると、水面が微かに振動し、スピーカーとなった水槽の水からルイ・アームストロングの歌声が流れ始めた。水中を泳ぐ熱帯魚の姿と相まって、なんだか優雅でお洒落な気分になってくる。
「おお、なかなかいいじゃないか」
『この素晴らしき世界』に聴き惚れる俺。
一方ダイキは、もうすでに次の実験対象を手にしていた。
「今度はこれを試そうぜ」
そう言って差し出してきたのは、レモンサワーの缶。
「え、飲み物……? って、まさか、ペアリングした後、それを飲むのか? だったら、カプセル洗えよ。さっき水槽の水を入れたんだから」
「お前ならいけるかと思ったけど、やっぱりだめか」
「当たり前だろ! 雑菌飲ませる気か」
「はい、はい。分かったよ」
そう言ってダイキは、カプセルを持ってキッチンへ行った。
洗剤で洗って戻ってくると、レモンサワー缶を開けて、中身を少し注ぎ込んだ。そしてカプセルをシェイクする。
「しまった。炭酸だから、振ったら泡立っちゃうな」
「まあ、でも、ちょっとだしいいだろ」
「じゃあ、注ぐぞ」
ダイキは缶に残っていたレモンサワーと、カプセルで振ったレモンサワーをすべてグラスに注ぎ入れた。
「今度は何流す?」
「レモンだしな……じゃあ、米津玄師で」
「了解」
ダイキは再生ボタンをタップした。グラスのレモンサワーから米津玄師の歌声が流れ始める。
「さっきカプセル洗ったから、大丈夫だよな? 飲んでみてよ」
「やっぱり俺が飲むのか……」
仕方なく、一口飲んでみた。
俺の喉で粘膜を震わせて、米津玄師が歌っている。
米津玄師は喉から食道を徐々に下へ降り、やがて胃に到達した。
自分の喉や腹が振動してエモーショナルな歌声が響く感覚に、俺は奇妙な高揚感を覚えた。
「……なんか、これ……面白いな」
思わず呟くと、残りのレモンサワーをぐびっと飲み干した。
ダイキも未開封の缶を開け、無加工のレモンサワーをそのままあおった。
「流す曲を、ちょっと変えてみようか」
ダイキはカプセルのタッチパネルを操作し、選曲を変えた。演歌が流れ出す。演歌歌手のこぶしを利かせた歌声が、俺の体内に響いた。
「おお、なんかすげえ迫力だな」
「だろ?」
ダイキは得意げに言う。
「じゃあ、次はこれいってみようぜ」
彼はまた新たな曲を再生した。今度はラウドロックだ。ギターとドラムの重低音が体内で響き渡る。俺は思わず興奮してきた。
「いいじゃん! なんか、ライブ会場にいるみたいだ!」
「フォーッ!!」
俺から流れる音を聞いているだけのダイキまで、なぜかその気になって雄叫びを上げた。
「よし、じゃあ、次は……これだ!」
そう言ってダイキが再生したのは、怪談のポッドキャストチャンネルだった。
ナレーターが俺の体内から、おどろおどろしい口調で語りだした。




