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新たな仲間!ホワイト&ブルー!!

 ーー河川敷。


 紗礼子とよく歩いた、思い出の多い場所。


 蒼は足取りも定まらぬまま、街の喧騒から逃げるように河川敷へ向かった。


 感情の昂りは一向に収まらない。

 胸の奥が焼けるように痛み、視界が滲む。

 ただ、泣いた。

 声も出さず、ただひたすら涙を流した。




 やがて、蒼は深く息を吸い込み、ゆっくりと背筋を伸ばした。

 感情の制御は、常人のそれを逸脱している。

 彼は泣きながらも、冷静に思考を組み立てていた。


「……紗礼子が、複数の男と乱れる……か」


「あり得ない。一体何が起きた」


 紗礼子を正当化したいという感情論もあるが、俯瞰し冷静な分析もできた蒼には、数々の疑念が浮かび上がる。


 ーー遊ぶことに関しては、魔が差したりすることもあるだろう。


 金絡みか?

 いや、違う。


 最近の様子も、明らかにおかしかった。


 数週間、ほとんど連絡がなかった。


 別れたいなら、そう言えばよかったはずだ。


 だが、今日の会話の感触は、むしろ逆だった。


 何より、心身ともに衰弱していた。


 ――少し前、夜の求め方も、何かに縋るようだった。


「怖がらなくていい。俺は、いつでもそばにいる」


 そう語りかけたときの、紗礼子の声。


 震えの混じった、不安の匂い。


「……何かが起きたんだ。間違いない」


 だが、今さら聞けるはずもない。


 真実を知ったところで、自分に何ができるのか。


 蒼の心は、深く冷たい海へ沈むように、闇の中へと落ちていった。




ーーその頃、叶須ジムにて。


「……その棒を、包み込むように握ってくれ……強く締めすぎんな……そう、いいぞ、くれちゃん……」


 ギシ……と軋む音が響く。


「まずは、ゆっくり……そうだ……丁寧に動かして……いい、いいぞ……」


 紅の顔は紅潮し、熱を帯びていた。


「焦らず、そう、そのまま……! いい、いいよ! そのまま動かして!! 気持ちいいのはこっからだ! ほら、もうパンパンだろッッ!! 感じんだろ、オラッ!!」


「兄貴ぃ! 俺、もう……あっ、ああーっ!!」





 叶須ジムの片隅。


 ベンチプレスに励む男が二人。

 気持ち悪いほど熱を帯びた声を上げながら、大胸筋いじめに勤しんでいた。


「いやー、くれちゃん、いい感じだぜぇ。フォームが大事だからよぉ。それを忠実に守ってるから、伸び代に期待できんぜぇー」


「腕と胸が熱い……。なんか、気持ちいいかも」


「だろぉ? 爽快感と達成感がクセになんだわ。次は少し重量あげてみっか!」


「いけるかな……」


「大丈夫! 俺が補助つくからよ! やってみようぜ!」


「……っしゃぁー!! やってやらぁッッ!!」


「気合は大事だが、力み過ぎないようにな。まずは肩甲骨を下に寄せて、バーを肩幅より広めに握る。握り込むんじゃなく、掌底部に乗っけて骨で支える感じだな。そして足を使って背中を反らせる。バーを下ろす位置は剣状突起あたりを目標に」


「スーッ……。ふん……、んむぅッッ!!」


……ガシャーン!!


「おー! いったなぁ!」


「挙がった……! 気持ちいいーー!!」


 ……全くもって、脳筋達の祭りであった。



ーそんな最中。


『フラレ戦士たちよ! 緊急だ!!』





ーー廃倉庫。


 昨日の激闘の余韻も冷めぬうちに、フラレンジャー一行は再びここに立っていた。


「なんか……嫌な予感がする」


「俺もだ。なんじゃい、この気色わりぃ感覚は……」


『君達がお察しの通りだ。昨日倒したと思われた奴らが、生きていた。いや、正確には、倒しきれていなかった、というべきか。そして、不穏な思念は混沌ながら一箇所に集まっている』


「とにかく、中に入って確認しよう」


「おう、そうだな」


「……」


 二人の間に沈黙が漂う。


「……兄貴、先どうぞ」


「何言ってんだ、くれちゃん。パッと入りゃいいじゃねぇか」


「兄貴こそ、サクッと入ってぶっ飛ばそうぜ」


「とりあえず先に入りなよ」


「いやいや……」


 二人は入り口前で小突き合う。


『……二人とも、何してんの?』


 産夢のツッコミに思わず、目を合わせる。


「……いや、だってめっちゃ気持ちわりぃんだよ、この感覚!! なんなんだよこれ!?」


「得体の知れん感じが、なんかゾワゾワすんだよ!!」


 二人は、まるで心霊スポットを前にしている夏休みの小学生じみていた。


『いいから、早く入れ!』


「お、おう……」


 意を決した二人は、恐る恐る中をのぞきながら侵入する。


 廃倉庫内には、始末しきれなかったウェーイの戦闘員集合体が鎮座し、蠢いていた。


「うわっ! グロッッッ!!」


「きもっ!! なんじゃい! アレは!!」


 手、目、口、耳、脚、それらがランダムに、何重にも束になり連なった異形のモンスターが、禍々しい樹木の様な形相に成り果てていた。


「うわーっ! キモいキモいキモいキモいキモい!!!!」


「俺こーゆーん無理ぃ!!」


『いやギャルかよっ!!』


 緊張感というか真剣味に欠ける会話が倉庫内に響く。

 男たちのキャーキャーはしゃぐ絡みが一区切りついた後、異形の肉塊を観察する。


「……攻撃してこないな」


「あの部分、胴体がわりときれいに残ってんな。肩から先が本体(?)に溶け込んどるけど」


「下半身しか残ってないの、アレ兄貴のSTK食らったやつじゃね?」


『余裕だなキミらッッ! さっきのはなんだったんだ!!』




「ところで……あれ、どうする?」


「産夢、あれどうやったら倒せんだ?」


『正直、見当もつかない。かつての引退したフラレンジャーが戦ったのは、大体が一人、極稀に二人で、確かに最大三人の時もあったが……』


『明らかに、規模が違う』


 蠢いていた肉塊の中に、顔らしきパーツはいくつかあったが、その一つがフラレンジャー二人を見るやいなやーー。


 突然、肉塊は二人に攻撃をしかけた。


 怪物の腕のようなものが、黒貞を貫く。


 ドゥッッッ!!


 鈍い音と共に黒貞の身体が後方に弾き飛ばされる。


「……!!! ぐうッッッ!!!!」


 宙に浮いたその巨体は、なす術もなく出入り口まで勢いを殺すことなく飛ぶ。やがてシャッターにぶつかるも、それごと外へと吹き飛ばされる。


「兄貴ぃ! ぐぁッッッ!!」


バキッ!! ミシミシミシッ!!!


 続けざまに紅にも攻撃が飛ぶ。


 辛うじて防いだものの、鈍い打撃音と共に、紅も外へと弾き出される。


「……大丈夫か、兄貴……」


「……なんとかな。それより、こいつやべぇ。パワー、スピードが規格外だ」


「なら……!! 先手必勝ッッ!!!」


 紅はダメージが残るも、素早く立ち上がり、肉塊の攻撃をなんとか掻い潜り、本体へ接近する。


 突撃の勢いを殺さず、渾身の一撃を放つ。


「うぉぉおッ!!! らあーー!!!!!」



バゴォォーーン!!!



 派手な炸裂音と共に、爆風で建物が軋む。



 しかし、そこにあるのは僅かに焦げた跡と、微動だにしない本体。


 紅に肉塊の攻撃が飛びかかるも、連続のバックステップでなんとか回避する。


「俺の本気が通用しない! まじかよ!!」


「やべえな! 歯が立たん! 倒せる気がしねぇ……!」


 かなりの防御力に、一撃でも当たれば致命的な攻撃。状況は絶望的だ。


「……こちらの方を見てる顔っぽいところ、あそこ潰せるか? 俺が攻撃してくる腕、止めてみるわ」


「兄貴、いけるか?」


「これしか思いつかねぇ……。やるしかねぇんだ。……行くぞっ!!」


「頼むっ!!」


 突進する紅と黒貞。


 二人目掛けて伸びる肉塊の腕。


 前に出る黒貞は、鞭のようにしなりながら降る肉塊の勢いを横に逸らし、その触手のような腕を掴んで紅の活路を作った。


「今だ! 行けぇッッッ!!!」


 黒貞の背中をステップ台として飛び上がり、本体まで急接近する。


「うぉるあああッッッ!!!」


 バッッゴォォーーン!!!


 体重、スピード、技を全て一撃に込め、完璧と言える必殺が放たれた。


 肉塊は抉れ、集合体の動きが止まった。


 ーそれも、束の間。


「ぐぁッッッ!!」


「兄貴ッ!? ウゲッッ!!」


 無惨にも、二人への攻撃が再開。


 集合体は未だに動き続けている。


 それどころか、腕の本数が増え、縦横無尽に襲いかかる。


 ダメージを受けた二人は、身動きが取れない。


 辛うじて立ち上がった二人に、ダメ押しの攻撃が襲う。



ーその時。


「えいっ!」


 泥臭い戦場に、らしからぬ軽快な声と共に、強烈な閃光と炸裂音が辺りを包み込んだ。


 肉塊からの攻撃が止まり、沈黙している。


「今のうちに!」


「あ、ありがとう!」


 集合体から距離を取り、新キャラと合流。


「……えっ!? 真白ちゃん!?」


「……ふぃー、助かったぜ。あいつの動き止まらんかったら、やばかったわ」


「あたし、二人みたいに戦えないけど、サポートはできると思う。やれることはやりたい……!」


 頼れる新しい仲間との合流。僅かながら希望を感じることも束の間、集合体から腕が伸びる。


「あ、やばい! えい!!」


「は?」


 再び強烈な閃光。


 集合体からの攻撃は免れ、動きを止めた。


「……。え、ちょっと、二人とも?」


 同時に主力の二人も動きを止めていた。無表情のままぼーっと立っている。


「……ん? おぉ……」


「……え?」


 二人が目を合わせる。


「ええっ!? 俺寝てた!?」


「いや、寝てないけど。どしたの。戦わないの?」


「それ危ない! そのピカってやつ!!」


「気ぃ失ったんかと思ったわ!! こわっ!!」


 どうやら、真白の特殊技を見た者は、一瞬だが完全に無力化できるようだ。しかし、味方にも効く。使い方には要注意だ。


「ほんであいつ、どう倒す!?」


「全く手応えがない! どうしよう……!!」





「とりあえず、真白ちゃんに動きを止めてもらおう! そんで弱点っぽいとこ狙おう! ほら、あの上のとこ!!」


 異形の中心部、喉元を黒貞が潰したやつだろう。上顎から上が露出しているやつが、こちらを見ている。


「ましろちゃん、あそこに向かってピカってのを出して!」


「わかった! えいっ!!」


 瞬く間に強烈な閃光と破裂音が響く。


「今だ! いくぞ!!」


「うらぁーーッ!!!」


 ドゴォォーーッ!!!

 炸裂音と共に、集合体の一部が抉れた。


 しかし、一向に動きを緩める気配がない。


「……だめだー!!」


「殺せる気がしねぇ! ジリ貧じゃねぇかッッ!!」


「しかも、潰したところ、なんか修復してる!!」


「まじかっ!! ふざけんな!! 回復早すぎんだろ!!」


「でも、やるしかねぇッッッ!! 真白ちゃん! 頼むッ!」


「……ち、ちょっと待って……。これ結構、疲れる……」


「……えっ! 出ないの!? ってヤバいヤバいヤバい!!」


 体勢を崩した紅に、腕が振り注ぐ。



「ーー昇り三日月」


 ジャキィィーーーン……!!!


 紅と腕の間に割って入った人物が、呟いた瞬間に腕が宙を舞う。


「助太刀する」


「「「えっ、誰」」」





ーー時間を少し遡る。


 河川敷沿い、蒼は一人塞ぎ込んでいた。


『……哀しき失恋の戦士よ、今こそ、立ち上がれ』


「………」


『私の名は、産夢。君の心に直接語りかけている。恋人のことは、残念だった。守ることが出来ず、申し訳ない』



「……!!!??? 何か知っているのかッッ!!!」


 思わず、立ち上がり叫んでしまった。


『君の恋人は、eiz'sと名乗る悪の集団に、性的な暴行を受けた。その組織を壊滅する手助けをして欲しい』


「……なるほど。つまり、そいつらに良いようにされたわけか、紗礼子は……」


 全て合点がつく。

 力なく、その場に膝をついた。


「病院に運んでくれたのは、君の関係者か?」


『そうだ。彼らは現在、その残党と戦っている』


「俺に何が出来る?」


『奴らを、倒して欲しい』


「……願ってもない、絶好の機会だ。是が非でも」




ーー場面は廃倉庫前に戻る。


「朧月夜ーー紫電」


 空気が変わり、一瞬で消えた。


 いつの間にか敵に近づき、刀のようなもので斬り刻んでいた。


「ーー鎌鼬」


ーージャキジャキジャキジャキィィィーン……!!!


 連続斬りの音が響く。


 腕や足の形をした末端部が本体から切り離されていった。


「え、えぇ……かっこよ」


「クッソ強えー、かっけー……!!」


 感心する二人を横目に、蒼の攻撃は続く。


 しかし、その横から攻撃の腕が伸びる。


 バキィッッ


「ぐぁッッッ!!」


 新キャラが攻撃を受けた。見るからに痛がっている。



「……ぐっ……。かはっ……」



 脇腹を押さえ、地面を転がっている。


「防御力は低いのね」


「言ってる場合かい! やべぇ! また攻撃いっとんぞ!!」


 紅は駆け出し、千切れかけの腕が蒼に襲いかかる。


「……邪魔だァーーッ!!」


 千切れかけの腕が蒼に伸びていたが、渾身のパンチで宙に舞った。


 その腕は空中で爆発四散。


 黒貞が蒼を安全な場所へ担ぐ。


「すまない……助かった」


「いや、こっちこそ!」


 フラレンジャーに強力な戦力が加わった。


 しかし、依然として敵の攻略法が見つからない。



 皆して、蠢く集合体を見る。


「あいつどうする?」


 一呼吸の間がフラレンジャー達を包む。



「もしかして……」


「今、紅さんがぶっとばした腕、もう復活してなくない?」


「……マジだな」


「ましろちゃん! さっきの頼む!! いける!?」


「オッケー! 今ならなんとか大丈夫!」


 キィィーン……。


 真白から放たれた、けたたましい音と共に、辺りを閃光が包む。


 黒貞は、蒼が切り離した腕目掛けて走る。


「くれちゃん、ほれ!」


「フンッ!!」


 黒貞が投げた肉片を、紅が殴打。肉片が宙に舞い、爆発四散する。


 それを何度か繰り返す。


 すると、集合体本体も、なんとなく縮んでいる。



 要するに、細切れにして、パーツにトドメの一発を放つ。



「ッッッしゃああ!! 勝機ッッッ!!!」



「……元気だな……ッ!」


「ハァッ、ハァッ……」


 かと言って、こちらも万全ではない。



 黒貞は、集合体からの度重なる攻撃により、疲労とダメージが蓄積。


 真白は、閃光を放つ毎に具合が悪くなる。


 蒼は、受けた一発がよほど効いたのか、未だにふらついている。


 そんな中ーー紅だけ、何故か元気だった。夏休みの小学生の如く無敵状態である。


「みんな! 力を合わせりゃ勝てる!! 今だ!!」


 紅は皆を鼓舞したつもりで言ったが、他三人には全く響かなかった。


「くれちゃん……おめぇなんでそんな元気なんだよ……」


「うっ……技使いすぎて、ちょっと気持ち悪いかも……」


「……そのタフネスは正直、羨ましいな……」


 そんな状況で、なおも空気が読めない主人公。


「えっ!? どうしたんだよ、なんだよ、みんな元気ないじゃん?」



「「「お前が異常なんだよッッッ!!!」」」


 身内の小競り合いも束の間、蠢く集合体を背に、フラフラの三人の方を向く紅。


 案の定、集合体の腕が紅の後頭部目掛けて伸びていた。


 ゴンッッッという鈍い音と共に、紅は地面に伏せた。


「……あちゃー、今のは痛ぇぞ、大丈夫かよ?」


「く、紅さん、大丈夫!?」


「いいのもらったな……」



 ムクリと起き上がる紅は、ダメな感じのドロっとした鼻血を流していた。


 相当いいところに入ったのか、先程まで異常なテンションだった紅も、足元が覚束なくなっている。


「あ、アニキ……、なんかほとんど目が見えねぇ」


「マジなダメージ受けてんな……、立ってんのもギリギリじゃねぇか」


「あいつ、倒せそうなの……?」


「……」



 その時。


 蒼が、ゆっくりと一歩前に出た。


 俯いていた顔が上がる。


 その瞳には、迷いや不安の類を一切感じさせない、真っ直ぐな闘気。


 底知れぬほど静かな怒りが、集合体を見つめていた。


「……一か八か、賭けないか」


「……お、なんかひらめいたか?」


「集合体の中心部。あそこから、他とは違う邪気を感じる」


 削り落とされた肉塊の中央。

 黒紫色の核が、心臓のように脈打っている。


 どくり。どくり。


 まるで、誰かの絶望を吸い続けているかのように。



 紅は、なおも出しゃばろうとする。


「……あ、あそこを……ぶっ潰しゃ……いんだな……へへっ」


「くれちゃん、頑張りは認めるが今は落ち着け」


「紅さん、もはや怖いよ……」


「昭和世代も真っ青な根性だな」


 悪いことをしているわけではないが、冷ややかな反応についに消沈した。


「んで、あいつの攻略、目処はあんのかい?」


「……あそこを、一気に貫く」


「倒せると思うか?」


「保証はない」


「直感、か?」


「ご明察。よって、あの部分を斬ったからといって、倒せるかどうかわからない」


 蒼の脳裏に、紗礼子の姿が浮かんだ。


 震える声。


 縋るような夜の抱擁。


 助けを求めることすら出来なかった、あの瞳。


(……怖かったんだな)


(誰にも言えず、壊されて……)


 刀を握った拳が震える。


 怒りは、熱ではなかった。


 氷のように静かな、鋭い刃だった。



「マジで博打だな」


「それに加えて、数分前に初めて顔合わせしたヤツに、全てを賭けられるかってとこだが……」


 黒貞は、息を切らせながら蒼に向き直す。


「俺ぁ、あんちゃんの強さを見たら、賭けたくなるぜ。何より……殺意がホンモノだ。ブルっちまうくらいだ」


 真白は地べたに尻もちをついて、絞るように返答する。


「……てかアタシは、難しいことわかんないけど、他に方法無いと思う……」


 紅は、血を拭いながら笑う。


「へへっ……賭けるしかねえな……うぅっ……」


 まだ鼻血が止まらなかった。


「くれちゃん、おめぇマジでヤベェじゃねえか?」



ーーズズズズズ……!!


 集合体が再び蠢き、無数の腕が地を這う。


「来るぞ!!」


「ましろちゃん!」


「……マジ?……えいっ!!」


 甲高い音とともに、周囲が白光に包まれた。


 世界が一瞬、停止する。


「うぅっ!……ダメっ! もう無理……!!」


 真白は、その場で膝をついた。


「ありがとうましろちゃん! 後は任せろッッ!!」


 紅が叫ぶ。


「中心部までの道を、頼む……!」


 蒼は構え、気を練り集中する。


「おうよ! 任せんかい!!」


 黒貞が肉片を蹴り飛ばし、蒼が疾風のように走る。


「朧月夜ーー紫電」


 蒼の姿が掻き消えた。


 次の瞬間、集合体の目前。


「ーー鎌鼬」


 ジャキジャキジャキィィィン!!!


 刃が閃く。


 腕、脚、顔らしき部位が宙を舞う。


「くれちゃん!」


「っしゃぁあ!!!!」


 紅の拳が炸裂する。


 ドゴォォン!!


 肉片が爆散し、黒い霧となる。


 集合体の体積が、確実に縮む。


「効いてる!!」


「いけるぞ!!」


 だがーー


 ブンッ!!


 死角から伸びた腕が、蒼の後頭部を狙う。


 だが、間一髪のところで黒貞が割って入った。


 ドゴンッ!!


「……ぐぅッッ!!」


 黒貞が地面に叩きつけられる。


「アニキ!!」


「気にすんな……やれっ!!」


「ーー鎌鼬ッ!!」


「オララララァーー!!!」


 肉片の爆散で黒い煙に包まれ、死角から腕が紅を捉えた。


「しまったっ!! 昇り三日月ッッ!!」


 蒼は刀を振ろうにも、肉体の限界と怪我のダメージで対応が遅れた。


 伸びた腕に太刀筋が入るも、勢いは止まることがなかった。


 バキィッッ!!


 鈍い音と共に、紅と蒼が地面に転げる。


「……紅さん!!」


 真白の悲痛な叫びが響く。


「……へへ……まだ、立てる……」


「……最後だ。一撃で決める」


 蒼の瞳に、決意が宿る。


 もう立ち上がることすら出来ない真白だが、涙ながらに力を振り絞った。


(みんな、命懸けの戦いしてるのに、アタシは何を甘えてんだ……!!)


「……ぇえーいっ!!」


 最後の閃光。


 世界が止まる。


 真白は、その場で力なく倒れた。


(真白ちゃん、無理して……! ありがとう!!)


 その隙に、紅は跳んだ。


 蒼は、全身全霊で気を練る。


「往生……しやがれぇぇええ!!!!」


 ドゴォォン!!


 紅の一撃により、核が完全に裸になった。


「ぐはっ……! もう、動けねぇ……!!」


 しかし、流石の紅もその場で倒れ込んだ。



 蒼は一撃に全てを賭けるため、最大限の気を練る。


「コォーーーーーッ……」


ーーしなる竹のように、力を込めろ。

  無駄な力は必要ない。想いを乗せ、意識し、感じろ。

  そして……時が来たら、躊躇なく、放てーー


(紗礼子……)


(もう、誰にも壊させない)


 黒紫の核へ、一直線に。


「叢雲ーー疾風斬ッッ!!!」


 一筋の光が中心部を貫く。


「うおおおおおおッッ!!!」


 ーーキィィィーーン……!!


 ーードゴォォォォン!!!


 肉塊は上下に分割され、轟音が辺りに鳴り響いた。


 集合体が悲鳴のように震え、崩れ始める。


 肉塊が瓦解し、塵となり、闇へと消えていく。



ーーやがて。

 倉庫には、静寂だけが残った。


 蒼は、その場に膝をついた。

 怒りは消えない。


 だが、やれることは全てやり尽くし、終わった。


(……遅くなった。すまない、紗礼子)


 夜風が、倉庫の割れた窓から吹き抜け、雑草を揺らす。


 黒貞が呟いた。


「……勝った、んだな?」


「……流石に……ヤバかった……」


 紅は寝転びながら言う。


「……やっぱ筋トレしてて正解だ……」


「……そ、そこかよっ……!!」


 真白が力なくツッコむ。


 暫く、全員が動けず、勝利の余韻と生存の喜びに浸っていた。


 達成感、緊張緩和、疲れ、色々な感情が、一気にごちゃ混ぜになり、やがてーー


「くっ……」


「……ぶはっ!!」


「ぷふーっ!! あはははは!!」


「くくく……はははははっ!!」


 皆が、半泣きになりながら笑った。


 真白は、涙を最も流した日になった。


 そして、蒼は人生で最も感情の温度差が激しい涙を流した。


「キモすぎんだろ! なんだアイツぁ?! ヘビとかイソギンチャクが可愛く見えるぜ!!」


「アニキ、あれ系ダメなの!? 似合わねー!!」


「あははは! 死ぬかと思った! 怖かった!!」


「君達、個性強いなー!!」



「だぁっはっはっはっは!! ……は? あ"ーーーっ」


「ギャーッハッハッハッハ!! くれちゃん! 鼻血出過ぎぃ!!!」


「やだぁーー!! あははははっ!!」


「くっはっはっはっ!! ……いや彼、ぶっ倒れたぞ!!」


「きゃーっ! うそ!? 救急! 救急車!! 紅さぁーーん!!」


「いびきかいてるぞ! ヤバいヤバいヤバい急げ!!」


「くれちゃーん!! 死ぬなーー!!!」





 次回予告


 とりあえず養生しろ、フラレンジャー!

 そして新たに加わった仲間!

 皆、変身解除できるか!?


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