ばったり邂逅!フラレンジャー!!
「えっ。」
紅と黒貞の邂逅。
女性たちをストレッチ用マットの上に寝かせ、
紅と黒貞は無言のままリングサイドのベンチに腰をおろした。
「俺たちよぉ……''フラレンジャー"ってやつ?だよな?」
「そっ…すね……。」
「ほんで、なんじゃいフラレンジャーって。」
その時、頭の奥に直接響くような謎の声が、割り込むように解説した。
『フラレンジャー。それは、失恋による心の乱れを力に変え、悪と戦う、選ばれし戦士たちだ。』
「……選ばれたってことか?」
『まさしく。』
そして声は、やや不満げに続ける。
『……しかし、さっきは忙しかったぞ!!急に2人も、しかもほぼ同時に戦士として導かねばならんかったのだ!!勘弁してくれ!!』
「いや、しらんよ…。」
なぜか怒られている。
「さっきから喋ってくるあんたよぉ、ナニモンなんだ?」
『私は、悪によって無念を晴らせず、成仏出来ない思いを秘めた者たちの集合思念体だ。実態は無く、心に直接語りかけている。』
謎の声ーーいや、「思念体」はさらに続けた。
それは、「乱れた性交渉」とは対極にある存在だそうだ。
とはいえ、性交渉そのものを否定しているわけではない。むしろ愛を育くむ健全な関係を推奨しているという。
「あんたに名前はあるのか?」
『私は…今となっては、皆の思いが溶け合った存在。もはや名前などない。だが、あえて名乗るとすれば…。基となった者の名前を継ぎ、"今度 産夢"と名乗ることにしよう。』
「じゃ、産夢と呼ばせてもらうぜ。ところで…いつになったら、この変身は解除できんの?」
産夢によれば、フラレンジャーは精神エネルギーによって変身しており、初期段階ではその力が不安定なため、自分の意思で解除するのは難しいらしい。
人によるが時間を要する。といったところだ。
実際、2人は変身の解除をしようと試みたものの、失恋の辛さや痛みが蘇り、怖くて元に戻れないでいた。
敵の正体は、ダークサイドに精神を乗っ取られた者たち。
元は一般人だが、もはや人ではない。
目的はーー生命エネルギーの吸収。
対象を魅了し、性交渉を通じて心身を削り、やがて廃人にする。
性病、薬物、借金、望まぬ妊娠、暴力等の犯罪行為…。
吸い尽くされだ者は、最悪命を落とす。
『純粋、心が傷ついている者、賢く無さそうな者…所謂、心に隙のある者。奴らは、"チョロそう"な人物を狙う。』
(未恋さん…チョロいの…?)
「俺ぁ、しういう連中が反吐が出るほど嫌いだぜ。」
「俺も同じく。クソ野郎は撲滅だ。」
『一度でも奴らの魅了に堕ちれば、後戻りは難しい。ホスト狂いやギャンブル依存に近いものがある。そしてエネルギーを吸収することにより、奴らは強固に、より欲深くなってゆく。』
「…つまりよぉ、狙われた女性っちゅうんは、悪の力で惚れさせられてたってことか?」
「そ、そうだ!未恋さんがあんなチャラ男に惹かれるわけない…!と、思いたい…。」
『概ね正解だ。人は誰しも、無意識下では欲に抗えない。どれだけ清廉潔白を心掛けようと、本能的な衝動を抑えることは不可能だ。純粋であればあるほど、安直な性衝動に走りやすい。悪だと知りつつも、な。』
紅は、先の戦闘中、敵の誘惑にあったこと(それに全力で耳を傾けたこと)を思い出し、内心かなりどきっとした。
「つまり、恋愛的なアレでいうと……俺達にもまだチャンスは残っている、てことか!?そういうことでいいのか!?」
『いや、まあ…あくまで可能性の話ではあるが、そうかも…しれない。。』
紅と黒貞は、なんだか嬉々として顔を合わせているが…なんというか、ポジティブである。
「…まぁ、さておき、わからんことは今後聞いていきゃええ。」
『私はいつでもそばにいる。問いかけにはいつでも応えよう。』
紅と黒貞はようやく落ち着き、改めて向き合った。
「そういや、顔を合わせちゃーいたが、まともにしゃべったことねぇよな俺たち。」
「そうですね。ここではお互い体動かしてるだけですし。」
「…何を敬語使ってんだよ!タメでいこうぜ!」
「いや、年上だったし…じゃ、お言葉に甘えて。」
「黒貞さんってさ、変身してたってことは、誰かにふられたってこと?」
「ああ、食事にでも誘おうかと思ったらスルーされてよ、その後に、たまたま男の車に乗ってるとこ見て、な…。」
「あちゃー…きっつ。」
「お前さんはどうだ?」
「俺は、今日プロテスト合格してさ、勢いに乗じてコクったんだ。見事に"ごめんなさい"って言われてさ。その後、男とホテルへ入っていくとこ見えて…。」
「おっ!?コクったんかい!男みせたな!!よく頑張った!!おめー男だわ!!」
「結局、かすりもしなかったけどね笑」
「俺なんかコクってすらいねぇよ笑」
「いやいや、想いを伝えた方が絶対楽だって!黒貞さんの方が辛いと思うよ。」
「何言ってんだよお前さんは。無駄に年食ってねぇぞ俺ぁよぉ!」
汗臭いジムの一角で、男二人の傷の舐め合い。
…しかし、不思議と悪くない。
「…なんかさ、こうして人と話すの、久しぶりかも。」
「おう、俺もだ。プロレス辞めてからフラフラしてたし、友達もいねぇからな。」
「えっ!?黒貞さんプロレスやってたの!?どうりで体格がスゲェわけだわ!」
「結局鳴かず飛ばずで終わっちまったがな!」
「それにしても、このバルクに深いカット…これは痺れる。その僧帽筋と二頭筋、どうなってんの!?」
「お前さん、なかなか見所あるじゃねぇか。どうだ?一緒にウェイトやるか?笑」
男同士のイチャイチャが続く。
「…で、この嬢ちゃん、起きるまで待つか?」
「うーん。どうしようかな。家、隣だし…でも送り届けるのもおかしいか。親父、俺がコクったの知ってるし。」
「俺は佐知さんの家がわかんねぇし、俺んち連れ込むわけにもいかん。とりあえずここまで来たが…。」
二人して悩む。
「…しかし、佐知さんとこには小せぇ息子がいんだよな。佐知さんにゃ悪いが、バッグん中探って住所調べるか。」
「どう説明すんのさ。」
「そんときゃそん時だ。」
紅は、そのどっしりした構え方に、正直惚れた。
まさか黒貞が「住所を合法的に探る」というストーカームーブを発揮させているとは知らずに。
「そんじゃ行ってくらぁ」と、颯爽と出ていく黒貞。
残された紅は、横たわっている未恋を見つめた。
(異性同士、リングサイド、低身長巨乳、なにも起きないはずがなく…。)
「ふ、ふたりっきり…」
「……いや、いかん!!」
(俺も黒貞さんみたいに、男らしく!どうした紅!いつもの勢いで押し通れ!!)
ーー叶須家
紅がインターホンを押すと、未恋の父・四股郎が出た。
「紅、お前…!その格好はっ……!」
「いやーっはっは!ちょっと色々あって!!」
実際、色々あったが説明が壊滅的に下手すぎる。
だが、なんとなく伝わったのだろう。
「…そうか。助かった、ありがとう。」
四股郎は驚きの表情を見せると直ぐに、いつもの神妙な顔に戻る。
「今日は疲れたろ、ゆっくり休んでくれ。」
「あ、はい!失礼します!」
紅はなんとなく、またジムへ戻った。
未恋が横になっていたマットに手をやる。まだ少し温かみが残る。
…つい、鼻を近づけてしまう。
その時、外から足音。ビクッと身体が跳ね、意味もなく伸びをし、変にごまかそうとする。
「…んだぁ?まだおったんかい!何してたんだ?」
「く、黒貞さんこそ、どうしたん?」
「家に佐知さんのかあちゃんがいてよぉ、息子の面倒みてたんだわ。佐知さん、酒くっそ弱ぇから普段飲まねぇんだと!たぶん、飲まされてらぁ…。あのヤロウ、腹立つけどぶっ殺したから、それでいいか!」
なんとも物騒な会話である。
「おめぇさんはどう戦ったんだよ?」
「俺は…。」
ーー敵の誘惑に耳を傾けてしまったなんて、口が裂けても言えない。
「て、敵の隙をついたんだ!拳に渾身の力を込めて、一撃一閃!!」
シャドーボクシングをすると、変身が解かれていないせいか、拳から炎がボッボッと音を立てる。
おー、と感心し拍手する黒貞。
「あ、そうだ!必殺技の名前考えないと!」
「必殺技だぁ?んな大層なもん、あんのかよ」
「え、必殺技出してないの?逆にどうやって倒したんだ?」
「コンクリ片で頭かち割って、ベランダからポイーよ。」
「…えぇぇ……。」
紅、さすがにドン引き。
「せっかくだ、飲まねぇか?」
「俺、金ないよ?」
「俺もねぇ!スーパー行こうぜ!!」
コンビニではなくスーパーを選ぶあたり、ちゃっかりしている。
何を隠そう、もうお気付きではあると思うが、黒貞は貧乏である。
ーーリングサイドで飲み明かす2人。
ツマミはスーパーの惣菜。半額の時間だったみたいで、値段のわりに豪勢なラインナップとなった。
語り合ううちに、もう他人とは思えないほと打ち解け、直ぐに意気投合した。
兄貴、くれちゃんーーそう呼び合う仲になった。
次回予告
フラレンジャーとして初出動!チームプレイは出来るのか!?




