承5
さて。
そんな感じで、強気で負けず嫌いで、ついでに喧嘩っ早い性格が災いして、うっかり自ら王子の婚約者としての立場を日夜固めていってしまっているわけだが、そもそも問題はこの顔だけ王子にあると私は思うのだ。
「アンタ、もう少ししゃんとしなさいよ!」
「えー?」
一日の終わりの反省会で、今日も私は呑気な王子様にキレた。
「下の身分のやつらに明らかに馬鹿にされてるでしょ!こんなに舐められてていいわけ!?」
「別に構わないさ」
おかしそうに笑うと、王子は私に向かってパチリと片目を瞑って見せる。
「あと、正直なところ、僕は皆が君を路傍の石と思ってくれていて助かるよ。どこぞの誰かに、君がとられちゃうと困るし」
「は?」
反応に困るコメントに、私はとりあえずしかめ面をして目を細めた。感情は目に出る。読まれたくないときは目を隠すのだ。
「平然と何言ってんの」
「君が本音でぶつかってくれるからね。僕も本音で口説けたらいいなって」
どこまで本気か分からないヘラヘラとした発言を、私は若干の動揺を隠して鼻で笑う。
「どれだけ口説かれたって、私を石ころ扱いする連中のなかに、私を放り込もうとする男なんかお断りなんだけど?でもまぁ聞くだけ聞いてあげるわ。なんで私を選びたいの?あ、ガラスの靴を理由にするのはダメよ」
最近イライラすることばかりだったので、せっかくなら褒めたたえられて良い気分になろうと思ったのだが、女心を解さぬ王子様はにっこり笑って堂々と言い放った。
「僕をお人形さんにしようとする人々ばかりだからね。頑丈な石造りの砦が欲しいなって思って」
「は?」
飄々と笑う顔だけ優男を前に、私あこめかみに血管が浮きそうになる。なんだとこの男。
「十五歳少女に守られようとするな二十六歳成人男性!」
「男女差別も年齢差別も反対だなァ」
「身分をふりかざして王宮に監禁してくるクソ野郎の台詞じゃないわよね!」
「いや、本当にごめん。それについては返す言葉もないけれど」
激怒して次々とクッションを投げつける私に苦笑を返し、ひょいひょいと避けながらため息をつく。
「でも本当に大変だったんだよね、君を見つけるまで、僕は結婚する気なんて更々なかったのに、色んな女性が押しかけてきたから参ったよ。ありとあらゆる手段で僕を篭絡しようとしてね、下手をすると寝台にもぐりこんでいたりしたし」
「……それは怖いわね」
「もちろん手引きした使用人は極刑にしたよ、僕を殺す気かってね」
あっさり言った王子は、いつも通りの顔だ。まぁ王族の寝所に侵入者を招き入れるような者は一族郎党死罪にされても仕方ない。本人だけ罰したのは優しいほうだろう、確かに。普段と同じのんびりした顔でまるで王族みたいな怖いことを言うから少しびっくりしたけれど。
「実際、僕って口がたたないし、戦嫌いだし、優柔不断っぽいし、優しそうでしょ?だからみんな無理な事を言ってくるんだよ。押せば通ると思ったんだろうね」
「随分自己評価が高いのね」
「平民なら高評価でも、王位継承者としては物足りないんじゃない?御しやすしと思われてるんだよ」
よく言えば気が優しく、悪く言えば気が弱いこの次期国王は、魔力はあるのに戦い嫌いの軟弱者と、多くの貴族たちから舐められているらしい。
だからこそ、家臣たちは自派閥に都合の良い傀儡にしようと、都合の良い令嬢を押し付けてきたのだという。
「……ったくもう!頼りにならん男だわね!そんなんだから、その年になっても独り身なのよ」
「ううっ……すまない……」
ちょっと前までへらへら笑っていたくせに、この男は私に独身を責められると効くらしい。王子は、悄然と肩を落としている。まったく情けない。実際はお相手として名乗り出てくる女は山ほどいたわけだし、少しくらい言い返せばいいのに。自分は死んだ女を一途に思う漢気があるんだ、死んですぐ切り替える薄情者や浮気性より百倍良いだろう、くらいのことを言えばいいのだ。それを言われたら、私だって多少はグッとくるのに。
「十一も下の女にこんな好き放題言われて何をしょぼくれてんのよ!王子様でしょ!もっと強気にいなさいよ!」
「僕は昔からこうなんだ……言われ放題でも柳のようにしなやかに受け流して生きてきたんだ……言われるがままこれからも生きていくしかないんだ……」
「よく言うわね」
しょぼしょぼと小声で嘆く王子の肩をバシンと力任せに叩く。何を言っているんだか。婚約者が死んでから十年以上新しい婚約を拒み続けた頑固者が、よく言う。
「まぁなんとなく把握したけど、でもアンタ、もう少しバシッと言い返したりね、決めるべき時には決めないと」
王子のものがうつったように、同じ調子のため息を吐きながら、私は呆れ混じりに言った。
「今んところ、アンタが本当は意思が強くてしっかりしているって知らない人間の方が多いんだから。そのうち周りから愛想尽かされるわよ」
「ちゃんと外では頑張っているよ!」
「じゃあ私の前でももう少し頑張りなさいよ。私を口説きたいならむしろイイトコロ見せなさいよ。今のところカッコ悪いところしか見ていないけど」
「ううっ、ひどい」
当たり前すぎる突っ込みに、王子は傷ついたようにぎゅっと眉を寄せた。泣く前の子供のように唇をへの字にする王子を甘やかすことはせず、私は無言のまま三白眼で睨み上げた。そのまま圧力をかけていると、王子は悔しそうに口を開いた。
「……前の婚約者は僕をありのままで愛してくれて、いつもこのままでいいよと言ってくれる器の大きな人だったのに……彼女と同じガラスの靴が履けても、彼女みたいにおおらかな女性とは限らないんだな」
あてこするように言ってくるが、あまりに馬鹿馬鹿しすぎて、痛くもかゆくもない。私は盛大に鼻で笑わせていただいた。
「は?ありのままの僕を受け入れてくれる女を探してるわけ?やっぱり馬鹿だったのね、頭の中がお花畑すぎるわよ」
「ひ、ひどすぎないか!?夢くらい語らせてくれよ!」
いい年をして何を言っているのか。この年齢までこの馬鹿みたいなピュアさを飼って生きてこれたこと自体に感動する。我が国の王室はずいぶんと平和な場所らしい。あと死んだ婚約者を美化しすぎだ。そんな大した女でもなかったはずだが。
「てか、それ何歳の時なのよ」
「あの人が十三歳のころかな?彼女は四歳上で、僕が十の時に死んでしまったんだ」
ということは、その言葉は王子がまだ幼気な少年の頃に言われた台詞だろう。そう察して私は鼻で笑った。
「そりゃあ、その年頃で、その歳の差なら、そう言うでしょうよっ!私だって一桁の年齢の坊やには優しいわよ!」
ちなみに現在私は十五歳。王子との年の差は十一歳だ。はるかに年上のくせに情けないことばかり言うこの顔だけ王子に、私は完全に呆れ果てている。
「うっ……でも僕は引っ張って行ってくれる人がいいんだ……」
「はんっ」
あまりに情けないことばかり言う男に、私は目を細めて鼻で笑った。
「ってことは、アンタは王家の子種要員としてしか役に立たないつもりなわけね?この種馬」
「種馬!?」




