終章-2 シルク様あの方は何をやらかしてるんですか?
「アポロあれは?」
「アレは使者が口上を述べにきて、申し開きの機会は与えたが、激昂して挑んできたのでやむなく殺したという屁理屈を正当化し手袋を投げるための儀式だね。」
「儀式ってそんな」
「激高しているのは王都の首席判事と子爵かい。ヘボ役者が揃ったな。おっ戦端が開かれた。向こうが先に手を出したかぁ。フォークと共同でこちらに2方面から攻撃をかける手はずが筋書きを書き換えられたからね。」
「アポロ! 撃て!」 辺境伯の号令が響く。アポロは、バリスタの引き金に手をかけた。
「悪いが、俺とワルツを踊る相手はもういる。――間に合ってるぜ」
「ナニが間に合っているって?」とそこには仁王立ちする優美な獣人シルクがいた。
「へっ?! げっ、シルク」思わず、引き金を引くと数十条の光の矢が、空気を切り裂き、王都騎士団の先陣へと突き刺さった。爆発、悲鳴、混乱。 だが、敵も精鋭だ。すぐに隊列を立て直し、魔法部隊が城壁への攻撃を開始する。
「エステル!」 「はい!」 エステルの張った障壁が、城壁を守る。 フィンが敵の魔法使いの位置を叫び、シルバラードの弓兵たちが矢を放つ。 アポロは、冷静にバリスタの狙いを定め、第二射、第三射を放っていく。 それは、かつて彼が忌み嫌った 「殺戮」の光景。 傍目には躊躇なくアポロは引き金を引いていた。「ファーストブロット」と心の中で唱えつつ・・。
千人ほど存分に殺戮し、連合軍の動きが停まり狼狽や恐怖にかられたところで、
「ようやく落ち着いたかな。早く白旗あげて欲しい・ぜ」とその時エステルが崩れ落ちる。
「「エステル!!」様!」
「こいつはどういうこった?」
シルクが冷静に「その娘、即死級呪術に掛かっている。聖女さまだから即死していない。」
「あっあのときの!女・オリオン神官長が殺されたとき顔に刺青を入れた女に見下されていたんです。」
「ザイラだね。・・もう5分保たないよ!」
「やっぱこういうラストは好きじゃないなぁ。シルクあと頼まぁ」
「ちょっとぉ。帰ってきたらオイタだからね」
「げっ」と言いつつ、既に最速の加速を展開させたアポロは周囲の全ての事象を止める勢いで敵の左側面から浸透し、軍の将校以上に魔導銃サンダーボルトの狙いを定め、撃つ瞬間だけ加速を止め、あるポーズをキメていく。
「ん、あれって、シルク様。加速を止めた時の動きが何かの踊り?ワルツですか!?」とフィン
「は?あのバカ。”ナチュラルターン”の次は、”リバース・ターン”(逆の左回転)だと。」
その間も上級将校の頭蓋や腹に弾をぶち込み続ける。ついでに王都の首席判事と子爵、それに大将首を討ち取ったときには、
「次は、”テレマーク”(進行方向を変える)からの”ウイング”?!」と辺境伯もずっと呆れ顔だ。
そして最後の呪術師ザイラに至っては、
「ちっ難易度の高い”コントラ・チェック”で決めやがった。とんだイカレポンチだ。」とシルクが吐き捨てる。
「シルク様あの方は何をやらかしてるんですか?」とフィン。
その時エステルが起き上がる。
「あぁエステル様ぁ(抱きついて)良かった。」「シルク様・・即死の術掛けられたエステル様がなぜこんな容易に起きあがれたんですか?」
「術者が死んだからね・・それから何をやらかしているって話だが、アイツはここ一番のときには、ポーズをキメて踊り出すんだよ。」
「へっ、と、とんだ変態ですね。ヒト殺しながらですよね。」激しく動揺するエステル。
起き上がる様子を観察していたシルクは、
「へぇ流石、聖女さま。即死級食らって起き上がるんだ。いやぁあいつ前にダンサーとかいうのをやっていたらしくそのほうが体のキレが良くなって弾が当たらないらしい。あとアレはマジ切れしてるな。大事なヤツが死んだか…」
「・・・・」あまりのことに目が点になって絶句するエステル。
「ところであんたさぁエステルさんだっけ?」
「はい」
「あいつが踊り出したってことはアンタに惚れたね。」
「はい?」
「あいつのアレは人間の理性を揺さぶり、支配する根源的な感情の働きらしい。なんでも情熱のパッションとか言っていたぜ。意味分かんねーなあはは」
「情熱って(エステル真っ赤っかになる)いやいやおかしいでしょ。」
それをニタニタ見ながら、シルクが
「アタシ見たことあるからわかるのさ。」
「えっ同じワルツだったんですか?」
「いや違うわよ。」
そこにザイラとついでに、首席判事と子爵、それに大将首を始末したアポロが戻ってきたので会話が途切れるが、何故か、じっと見つめてくるエステルや何故かニマっと微笑むシルクにドギマギするアポロだった。
戦は一方的に終結した。
貴族連合軍を退けた城壁の上で、オーウェルは改めてアポロに騎士の紋章を差し出した。
「受け取れ。シルバラードの英雄」
「……」 アポロは紋章を恭しく受け取ると、それを自らの胸ではなく、城壁に翻るシルバラードの獅子の旗に近づき、強く刺し縫い付けた。
「今度の一件で判ったが、俺は、この街が汚されるのが、ただ気に食わなかっただけさ。俺が誓いを立てる相手がいるとすれば、それは王国じゃねえ。この街の石畳と、ここで暮らす人々、そして大好きな女のためだ。・・そんな誓いに、紋章は必要ない。」
その時、エステルとフィンが駆け寄ってきた。 ちょっと外れたところにはシルクが佇んでいた。
「アポロ…」 「私たちは、森へは帰りません。この街に残ります。戦いで親を失った子供たちのために、新しい神殿を…いいえ、家を建てたいのです」 エステルの言葉に、アポロはぶっきらぼうに
「好きにしろ」とだけ返した。
だが、その隻眼は、どこまでも優しく細められていた。
エステルは一歩踏み出し、少し頬を染めながらアポロを見上げた。
「私、ワルツはあまり得意ではないのです。でも、いつか優しい瞳のアポロの隣でなら、上手に踊れる気がします。……きっと、どんな舞踏会のワルツよりも、素敵でしょうね」
「なっ……」ぶっきらぼうな態度は消え去り、アポロはただ狼狽えることしかできなかった。そんな状態を見ていたシルクは「このヘタレが、お仕置き追加」とのたまっていたのを目撃したフィンは内心正直怖いと思った。
王都との戦いは、まだ始まったばかりだ。しかし、隻眼の狼と白百合の聖女、そして森の子が見つめる先には、同じ明日が、確かに輝いて見えた。
題名を変更しました!
『銃弾は円舞曲のリズムで~ネームド「隻眼」と白百合の聖女』となっています。
以下は以前のあとがきとなります。
おかげさまで二律背反シリーズ第一弾なんとか書き終えました。
『二律背反する円舞曲ネームド「隻眼」VS.白百合と聖典の聖女』を最後まで読んでくださり心より感謝申しあげます。
二律背反の場合の男女関係とは、「愛するほどに自由を奪うのか、それとも愛するほどに自由を与えるのか」といった形で現れることもあります。どちらの選択も、その一方が正しいとは断定できず、関係性の中で絶えず揺れ動くテーマです。
重要なのは、二律背反を「どちらかを選ぶべき二択」と捉えるのではなく、「二つの矛盾する命題を同時に認識し、バランスを取るべき課題」と理解し、このバランスをどう取るか、それぞれの関係の中で見つけていくことが、より深い愛と理解につながる鍵となると考えます。
も、何言っているかわからなくなってまいりました。またの再会を心待ちにしています。
二律背反シリーズ第二弾は
『二律背反する情熱と哀愁のタンゴ ~ネームド「隻眼」VS.獣人シルク~』
です。




