6-2 最も暗い夜にこそ、星は探しやすい。最も深い絶望にこそ、希望は生まれる
治療を済ませたアポロは、奪還した遺物を守りながら、激流を下っていく。
その背後には、川岸を追いかけてくる騎獣の足音が迫るが岸壁に遮られ地団駄を踏んでいた。それからもう2台の筏が離岸しフォーク一味の怒号と矢と銃弾が放たれていた。
「アポロ、大丈夫ですか?」 エステルの心配する声に、
「傷ならエステルのお陰で大丈夫だ。だが、このままでは追いつかれるのは間違いないな。」
その時、アポロの隻眼が、川岸の岸壁に続く、崖の窪みを見つけた。
「フィン、あそこだ!」 アポロは、筏を巧みに操り、崖の窪みに筏を隠し隠蔽の結界を張った。
「フォークは、このまま川を下っていくはずだ。俺たちは、奴らの背後を襲う」
自分たちの斜め前を通り過ぎていくフォーク達に隠匿がバレないか三人の間に、緊張が走っていた。
「フォークは、なぜ王国を裏切ったのでしょう」 エステルの言葉に、銃を構えたままのアポロは静かに答えた。
「王都の貴族か商人かそれとも外国の勢力に、金で雇われたんだろう。博打、女、酒、騎士団時代から、派手だった」
アポロの言葉に、エステルは悲しげに瞳を伏せ、
「そんなことのために「父は斬り伏せられ」「故郷は焼かれた」のですか…」
「覆しようもない事実だ。それが、世の中というものだ、聖女さま」 アポロは、吐き捨てるように言った。
その時、フォーク一味が、結界で隠蔽されていたすぐ横を通り過ぎてしまったので視線を戻し、その隻眼がエステルとエステルの背後で控えるフィンのふたりの姿を捉えると、ふと声の棘を抜き、静かに続けた。
「…君の親父さんの受け売りなんだが、
『最も暗い夜にこそ、星は探しやすい。最も深い絶望にこそ、希望は生まれる』
…エステル、絶望の中で己の良心と向き合え。普遍の価値基準となってくれる内なる意識の心に問え。」
「それは神ですか?」
「さてね聖職者じゃないオレにはわからない。自分で見つけるんだ。」
エステルは、最初アポロの冷えた言葉に反論しようとしたが、続く言葉が父の教えであり、自分を試すような真剣な眼差しであることに気づき、(この言葉を掛けられたということはこの人も同じ絶望することがあったと気付き)言葉を飲み込んだ。




