5-2 アナザープランだ。
訝しげにしかし、エステルの神聖な祈りの声が、激流の轟音を貫く。水の精霊たちは、その声に応えるように、結界にわずかな綻びを生み出した。アポロ達は、その隙を見逃さず、シャドウと角鹿を駆って、一気にその結界を突破した。
フォーク一味の野営地の背後、流木や土石流の岩山からアポロは『連装式魔導バリスタ』と『魔晶石』を遠くに捉えることができた。またフィンによる風の精霊術によってフォーク一味の会話が伝え漏れていた。今は夕凪の時間で風が非常に弱くなる時間であることも幸いして上流側にいるフィンの精霊術の働きに助けられていた・・・
「おいヘレナ、ボルグがなんか言ってなかったか?いつまでこんなとこいるんだよ。」
「うるさいよ。ガストン。イライラさせるんじゃないわ・・・」
(フィンの追跡術は本物だ。それに、エステルの祈りもなければ、この策は無かったな…)
「あれは何でしょう?」 フィンが囁く。
アポロは、双眼鏡を向け、その棺に不気味な文様が刻まれているのを見た。アポロは、フォーク一味の荷物の中に、もう一つ、禍々しい気を放つ巨大な「棺」があることに気づいたがその内容物については知り得ようもなかった。
「あんなものは、聞いてねぇぞ…」 アポロが不審に思っていると、フォークが幹部達数名に低く、しかし確信に満ちた声で告げているのが聞こえた。
「作戦を言うぞ。 辺境伯オーウェルを失脚させ、シルバラードの利権を王都の手に取り戻す。そのための第一歩として、このバリスタと魔晶石でシルバラードの一部に破壊工作をかける。」
フォークは、私怨だけで動いていないとアポロは直感した。奴には仲間にも打ち明けない別のプランがあるようだった。別の第三者勢力の介入や複数の思惑を感じ、アポロは戦慄したが、一方で見えない眼の傷を撫でながら沈思した。
「…」
エステルとフィンはその様子を見て無防備にみえるアポロの代わりに周囲を警戒始めた。
アポロは、この場でフォークたちを殲滅するか、遺物を奪還するか、それとも別のプランがあるか決断を迫られる。人生は選択の連続だなという理をいまさらのように噛み締めてしまう。
「アポロ、どうしますか?」 エステルの声が、アポロの耳にようやく届く。
「アナザープランだ。…今は遺物を奪う。フォークの首より優先させないとシルバラードがヤバい。」 アポロは、シャドウに跨がり、用心深く近づいていく。
「エステル様、また謎の言葉が・・」といいつつ、フィンはエステルと自分に隠蔽をかけつつアポロの後を追った。




