◯プロローグ:オレと踊ってくれる可愛い子ちゃんは居そうもないなぁ
王都から遠く離れた西の都シルバラードを目指す馬車隊が百人超の野盗に襲われる絶体絶命の状況で、乗り合わせた!?隻眼の男アポロが一人で敵の前に立ちはだかる。
彼は飄々とした態度とは裏腹に、魔銃と超人的な能力で瞬く間に野盗団を圧倒する。何事もなかったかのように一行を護衛し目的地へたどり着いたアポロは、危険な禁域を平然と旅する凄腕の持ち主だった。
◯プロローグ:オレと踊ってくれる可愛い子ちゃんは居そうもないなぁ
闇が迫り始めた荒野に、先ほどまで吹き荒れていた砂塵を突然の風雨が叩きつけ、荒れた地面を濡らし始めていた。
王都から遠く離れた西の都シルバラードの郊外。
郊外といってもここは、禁域と呼ばれる広大な未開の地となっていた。
街道を行く幌馬車隊十台ほどの車列は、目的地である”シルバラード”への希望を胸に、しかしその脆弱すぎる姿を風雨に晒していた。あと半日、あともう少し、だが、その迫りくる嵐は容赦なく吹き荒れることになった。
突然、遠雷のような蹄の音が大地を震わせ、瞬く間に馬車隊を囲んだのは、百人を超える野盗の連合軍団だった。彼らの松明が不気味に揺れ、獲物を前にした世紀末の哄笑が響き渡る。
「ハイぃぃ見ぃーつけたぁ」
「ヒャッハー」
「お前らいくぜぇ」
「金と女は五番目の馬車さぁ金貨賭けるぜ」
「オレのもんだ!!」
「ヒーハーっっ」×2
「早いもん勝ちだぁ」
御者たちが悲鳴を上げ、乗客たちが震え上がる中、一人、幌馬車の陰から静かに立ち上がり歩み出た隻眼の男がいた。その男、名をアポロという。
古びた革のコートを翻らせ、腰と肩から背中には使い込まれた剣と魔銃。
彼の真の武器は、眼前の世紀末どもを殲滅せんとする強烈で確固たる意思だったが、出てきた言葉は、
「やっと歓迎パーティ始められ・・る。(一瞥した後、深いため息)
ヤーレヤレ徒党を組んだ野盗くずれ・・・。
オレとワルツ踊ってくれる可愛い子ちゃんは居そうもないなぁ」「はぁ」
アポロは、油断なく目配りしながら盗賊達の頭目の位置を確認すると身体強化と思考加速を自らに掛け、
「加速・展開」
とつぶやく。
彼を取り巻く雨滴が瞬時に止まって見える刹那の時間、彼は更に加速していく。
馬車から弾丸よりも早く飛び出したアポロは頭目とその幹部ぽい腕の立ちそうな男たちに瞬時に接敵するとその頭部や腹部に向けて容赦なく魔銃を撃ちまくった。
「ヒャッハーなんだアレ」
「頭目死んじまいやがった」
「ヤべっあいつは”隻眼”だ! ネームドだ。」
「お前ら逃げろっ!!」
「ネームドだと」
逃げろと指示した幹部たちも、なすすべもなく脳ミソや内蔵をぶちまけ血飛沫がキラキラ光る水滴みたいに飛んで瞬殺されていく。
あとに残る雑兵どもには散弾を用い扇型に広がる多弾頭を用いて撃ちまくる。
当然の報いであったが、男どもは臓器を撒き散らして存分にくたばっていた。
しばらく後、荒野には盗賊たちだった残骸が散らばり、止んだ雨音と血の匂いが濃密に漂い、もう既に魔獣犬が群れ始めていた。
街道沿いの死体についてアポロは魔法で寄せて全て焼き払い、野盗どもの馬を車列に加え、目下の安全を確保したアポロは、静かに幌馬車に戻り、無事だった御者と乗客たちに一瞥をくれる。
その中で唯一圧に耐えた年嵩の男が
「お前さん、あんなのによく立ち向かって行けるね」
「リスクを前にじっとしてたら可愛い子ちゃんを口説くこともできないからさ。」
斜め上の回答で男を絶句させると話しをへし折るように、
「立ち止まるな。征けシルバラードへ」
と指示すると眠った。
彼らの目には、不安と恐れ、嫌悪感、そして命を救われたことによる畏敬の念が宿っていた。アポロは何も語らず、ただ動から静に戻っていった。
馬車の乗り心地や音も意に介せず仮眠を1時間ほどとったアポロは、幌馬車から自らの騎獣に乗り換え警護を続ける。
更に半日ほど進むとようやくシルバラードへ帰着した。
「おい見ろよ」
「おっ隻眼か。しっかし、毎回毎回、あの魔獣や野盗がうろつく”禁域”に潜って生きて帰れるって、スゲェな」
城壁門番の視線の先に器用に騎獣を乗りこなす隻眼の大男が居た。