『自由な女神』
大通りの交差点角にあるレストラン。
ここに私が来てから26年が経ちました。
入口の脇にあるショーウィンド的な場所に
私は居ます。
もちろん私は本物ではありません。
スケールだって土台部分を入れても2メートル程度。
そもそもオリジナルはどこにあるのかも意外と知られておりませんね?
大抵の製品はアッパー湾の島にいる女神を模しているようですが。
「実は世界中に点在しているってみんな知らないものね♪」
私は、ずっとこの場所から外を見ておりますが
街並みは常に新しい物へと変化を遂げておりますけど
最近、人々の様子はあまり変わらないように見受けられます。
何というか、みんな手に持った小さな銘板ばかり見ている?
「のでっ!」
始まりは、ほんの出来心だったのです。
間違い探し的な遊び感覚です。
「えっと・・・ 左手に持っている銘板を」
私の右手は真っ直ぐ天高くに揚げられた象徴的なトーチ(たいまつ)。
そして、左に手には記念日となった日付が刻印された銘板を
しっかりと抱えておりますが
ある日、私はその銘板を広辞苑と交換してみました。
ちょっと、従来の銘板よりも3倍以上は分厚くなり
重量も増しましたが頑張ります。(汗)
「うわ・・・ 重たすぎて筋肉痛になりそう・・・(泣)」
銘板から広辞苑に持ち替えたその日
あまりの重さに午前中で顔が引きつり・・・
午後を過ぎ夕方にかけて腕が悲鳴を上げ始め
閉店の夜には私が発狂しそうになってしまいました。(泣)
「ちょっと、この重さは無理ね・・・」
広辞苑は流石に厚いし重いし無理なので!
翌日からは少し軽量な旧約聖書に持ち替えたところ
これなら今まで通りずっと持っていても大丈夫なのですが
それよりも・・・
「あれ? 数日が経つけど誰も気付かない?」
銘板を広辞苑に変え、あまりの重さに翌日からは
旧約聖書に持ち替えて今日で7日が過ぎましたが、歩道を行き交う人々。
レストランに入店する人々。みんな私の姿なんて全く視界に
入っておりませんね?(苛)
「ちょっとは見なさいよね!」
のでっ!!
第2弾ですっ!
今日からは左手に持った旧約聖書はそのままに。
右手で高々と上げられているトーチをっ!
「生ビールジョッキに持ち替えてみましたっ!」
もちろん、グラスにビールは入っておりません。
炭酸が抜けてしまいますし、温度だって窓際では
常温すら超えて不味くなるしっ!(私は知りませんけど)
けど、分かった事がひとつ♪
「ビールジョッキって持ちやすいですね~」
そもそも、グラス自体に重量がありますし
それに飲料が入ると結構な重さになると思うのですが
この取っ手の太さと絶妙な曲がりが、万人に対応するかのような
素晴らしい作りになっているようです♪
「全然疲れない♪ むしろ、トーチより持ちやすいわね!」
意外と、トーチもそれなりの重量があるのですけど
上下の重量バランスはジョッキの方が格段に良いです♪
トーチは、上部だけが重たくて握るのに力が入り疲れます・・・
「けどっ! そんな事より、誰も気付かないっ!?」
いくらビールジョッキが持ちやすいからと言って
7日間も全く気付かれないのは、ちょっと悲しいですね・・・
「むぅ~(焦)」
今回の反省点としては・・・
ただでさえ私は台座の上に立っていて
そこから更に、手を高々と挙げていますので
行き交う人の視線として、私の右手は見えない高さなのでしょうか?
「それなら!」
第3弾ですっ!
右手の高々と挙げたビールジョッキはワイングラスに変更です!
左手の旧約聖書は手放してパーティーバッグを持ちますっ!
そして!
「衣装を少し大人っぽくっ!(///)」
みんな手元とか下方向しか見ていないので
それならと思い、ドレスの裾から少しだけ片足が
見えるようなポーズに変えて、ごわごわした首元も
ちょっと胸元が見えるくらいには着崩してみました。
「パーティードレス姿で乾杯みたいな?」
ドレスを着て行くようなパーティーに行った事ないですけど。(泣)
あと、そんなに見せられるような足でもございませんが。
だって、みなさん知っての通り私の肌の色は緑青色ですので
ドレスのスリットから大胆に足を見せても需要がないのですよね・・・(涙)
と言うか、肌もドレスも同一色なので分からない!?
けど、この緑青色ですが実は元々の色は赤茶なのですよ~♪
あっ! 私はオブジェなので最初から緑青色の塗装ですが。
「にしてもっ!」
どう言う事でしょう・・・
数日が経過しましたが、このガラスって偏光ガラスか何かで
実は外から私の姿って見えにくいの???
「誰も気付いてくれないのですけどっ!!!」
あれこれ変化して、もうすぐ3週が過ぎますけど
私の前で立ち止まったり、二度見する人は誰一人居ませんっ!
「良いわよっ!(半ギレ)」
それならそれでっ!
第4弾です!
「どうせ誰も私の事なんて見てないんでしょ?」
それならっ!
思い切って脱いじゃいましょう!
「ポーズも明るく元気で躍動感を意識して!」
まずは、両手のアイテムを全て変更します!
少し軽やかになった大人なドレスも着替えます!
あと、トゲトゲした王冠も外しますっ!
「えっと・・・ これ、横から見えない? 大丈夫!?」
もちろん見えませんので大丈夫ですが
でも、かなり勇気がいりますね・・・(///)
「あわっ! ちょっと短すぎない!? 無理だよね!?」
別に見えても構わないように仕立てられていますが
それでも躊躇してしまいます・・・(汗)
「あとは、象徴的なコレを両手にですね?」
大通りとはいえ、お店の前を歩く人通りも全くない深夜。
着替えも終わり、渾身のポーズも決まり!
あとは夜明けを待つだけですが・・・
「うぅ・・・(汗)」
日が昇るにはもう少し時間がありますが
ビルの隙間と大通りの先に広がる薄明の空。
徐々に動き出す街。
「や、やっぱり無理っ!(涙)」
外の様子を気にしながらも私は急いで
この店で一番広い席からテーブルクロスを引き抜き
誰にも見られないよう頭から土台の先まで被って
姿を隠す事に・・・(泣)
「ドキドキ(焦)」
間もなく、クロス越しにも朝日を感じるようになり
次第に通りを行き交う人や車も増えてきました。
それからしばらくして太陽が高くなった頃、いつもの時間に
オーナーが出勤してくると、すぐに私の変化に気付いたようで
被っていたクロスの隙間からこちらの様子を覗いてきましたが・・・
「(や、やっぱりアウトですよね・・・)」
い、一応!
朝日が昇る直前に再度考えたのです。
もし、お店の印象に悪影響が出てはマズいのではとっ!
「・・・」
少しの間、オーナーは私の姿を凝視したのちテーブルクロスは
そのままにして、どこかへ行ってしまいました・・・
「(お、怒らせてしまった!?)」
そうですよね・・・
私が入口に居ると言う事は
お店のシンボル的なものなのですから
この格好は不適ですよね・・・
「取り返しのつかない事をしてしまいました(涙)」
陽が昇った今は動くことが出来ませんし
オーナーもどこかへ行ってしまいましたし。
「ぐすん(泣)」
テーブルクロスをかぶったまま落ち込んでいると
1時間ほどしてから、オーナーが帰って来たようで
足音がこちらに近づいて来たかと思うと
「(あわわっ!!!)」
今まで、私を覆っていたクロスは一気に剥ぎ取られ
気を取り直す間もなく、頭には何かを乗せられました。
「えっ?」
そして、ガラス越しにユニホームと
私の足元に幾つかの用具を飾るとオーナーは満足げに
入口全体を眺めております。
「頭のこれって、ケモ耳のカチューシャ?」
ガラスに反射して見える私の姿にはモフモフの大き目な耳。
そして今、人々を魅了して止まない人物が所属するチームの
ユニホームや用具。
「これって、コアラのケモ耳?」
どうやら、ノースリーブとミニスカート姿で私が両手にポムを持った
チアガールの姿をしていたのでオーナーはそれに合わせて
バットやグローブの他、応援している選手と同じユニホームの調達と
マスコットキャラクターのコアラにちなんでケモ耳カチューシャを
私に取付けたようです。
「えっと・・・ これってセーフって事!?」
一応、オーナーが小物類のセッティングをすべて行って
覆っていたテーブルクロスを外したのですから
お店的には大丈夫と言う判断なのでしょうか・・・(汗)
「そして・・・ なんか、見られてる・・・(恥)」
これは、偉大な選手の恩恵なのでしょうか?
街を行き交う人々の意識が一瞬お店側に向き
何だかいつもよりお客さんがお店側に近いし
視線も多い気がします。
「あわわ・・・(///)」
それから。
べ、別に承認欲求があった訳じゃありませんが・・・
(本当は少しありましたが・・・)
私の姿も見てくれる人が増えて(照)
何だか少しだけ有名人になっております。
もちろん、お店の評判も上がっているようです♪
「これってヒットなのでしょうかね?(喜)」
それなら、次の第5弾は・・・
ウエディングドレスが着てみたいですね。(///)
最後までお読みいただきありがとうございました。
書き始めの頃は、制服姿に片目眼帯とかも考えたのですけど
なんかチアガールになってしまいました♪
にゃはは~
ホント、自由な!女神さまでございます♪