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 僕の師匠は隠せない。


「ベリル、それでは足りない。獄炎魔法は魔力をもっと練り上げるのだ」


 炎熱が渦巻く修練場の中央で、僕は息を切らしながら膝をついた。師匠の言葉が厳しく響く中、目の前にはまだ完全に形を成さない獄炎魔法の残骸がゆらめいている。


 僕の師匠は女性で初めて『大賢者』に上り詰めた最強の魔術師。僕は一年前から彼女に師事している。


 師匠の指導は厳しく、魔力の扱いに妥協を許さない。だが、その実力を考えれば当然だろう。彼女の放つ魔法は、天地をも震わせるほどの力を持っている。僕は彼女の足元にも及ばないが、少しでも近づきたいと思い、日々努力を重ねていた。


 しかし、そんな偉大な師匠にも欠点がある。


 ——それは自分の『狐の尻尾』を隠せないこと。


 師匠の銀色の髪の後ろから、ふわりと揺れる尻尾が一本、いや、今日は三本か。師匠が本気を出したとき、尻尾は九本になるらしい。そう、師匠は九尾の獣人なのだ。


 しかし、師匠自身は隠せているつもりらしく、自分の尻尾の存在には驚くほど鈍感だ。今もゆらりと...。


「こら!指導中に腑抜けているのでない!」


 しまった……! 師匠の尻尾がピンと立っている。


 これは怒っている証拠だ。ひとまず尻尾のことは忘れ、真剣に訓練に取り組もう。


 僕は再び魔力を練り上げ、師匠の指導のもと、何度も何度も獄炎魔法を試みた。炎の勢いを増し、形を安定させるたび、師匠の尻尾は微かに揺れていた。もしかすると、満足の兆しかもしれない。


 そうしてようやく——


「——では今日の修練はここまでとする」


「はぁはぁ......あ...ありがとうございました」


 全身に疲労がのしかかり、僕は膝に手をつきながら深く息を整える。滲む汗を拭いながら、使い終えた訓練場を片付け始めた。


「師匠、今日はなんか修練が厳しくなかったですか…?」


「修練中に別の女の事を考えているからだ! ふんっ!」


 師匠はそっぽを向いてしまった。


「師匠のことを考えていたんだけどなぁ……」


「え。そ、そうなのか」


 僕が何気なく呟くと、師匠の顔が俯き軽く頬が赤くなる。師匠の尻尾がハート型になったのを見ると、どうやら機嫌が良くなったらしい。僕の本音がつい漏れてしまったが、結果的に機嫌が治ったのなら問題ない。


 このまま機嫌が悪いままだったら、明日の修練がさらに厳しくなるところだった。僕は内心ほっとしながら、夕食の準備に取り掛かった。


「……あれ? 油揚げがない。今日のお味噌汁で使おうと思ったのに」


「ギクッ」


 ……はぁ。『ギクッ』なんて、言葉に出して驚く人を僕は師匠以外に知らない。彼女の尻尾が地面につきそうな勢いで下がっている。これは間違いなく、犯人は師匠だ。


「師匠?」


「し、しかたなかった。そ、そう! ネズミがお腹を減らしていたのだ!」


「へぇ、師匠が結界を張って外から埃一つ入らないのに、ネズミが食べたんですね。じゃあ、仕方ありませんね。今夜の夕食には油揚げ抜きですね」


 師匠は油揚げが大好きで、たまに盗み食いをしている。毎日の夕食で使うのに、バレないと思っているのが不思議だ。


「ま、待つのだ! 私が食べた! だから油揚げ抜きはやめてほしいのだ!」


「はぁ。じゃあ僕が隣町まで買いに行ってきますから。その間に下処理だけしておいてください」


 僕はホウキを手に取り、準備をする。出発前に、昨日作ったマカロンを机の上に置いた。


「師匠、行ってきますね。おやつは保存魔法をかけて机の上に置いてありますから、お腹が空いたら食べてくださいね」


 家の外へ出て、ホウキにまたがる。夜の冷たい風が頬を撫で、これからの空の旅を思うと少し気持ちが引き締まった。そのとき、家の中から微かに声が聞こえた。




「ぐへへ、ベリルの匂いだ〜」

 ……やっぱり僕の師匠は隠せない。

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