王座陥落
昔突如神が現世に舞い降りた。そして神と人類は大陸を血で染めた後、神の勝利として終わった世界は神の大陸漢理と、人間が住む大陸、その他の陸地へと別れた。
漢理大陸は神が自身を支援してくれた人類の一部に「漢理石」と呼ばれる石を渡し、渡された彼らは王としてそれぞれ国を持った。
そんな漢理は現在十四大国のうち、2つを除いた12の大国とその他いくつもの小国に別れている世界一の大陸だ。そのうち大陸中央南部に位置する火の国「バーン王国」。バーン王国は王、ロイム・バーンが統治する国家だ。ロイムは息子であるフロウ・バーンを残して、隣国「出雲」へ貿易等に関しての対談をするため出雲へと出向いた。
王都ヴァルべの大きな道場の一室で、木刀を持つ男と竹刀をもつ師範らしき女が対峙していた。
男は小さく息を吐き、踏み込み木刀を女の頭上に入れようとする。
女は木刀はすぐに横に払い、横から男の腹をめがける。男は若干避ける動作をしたものの脇腹に重い一撃を叩き込まれる。
その一撃を物ともせず男はすぐさま木刀を女の前に突き出す。その動きを読んでいたかの如く女も体勢を整える間を稼ぐために竹刀を顔の前に置き防ぐ。
しかし女の予想以上に木刀の威力は高いのか、竹刀を貫いた。
彼女は竹刀の間を貫いてきた木刀を間一髪で躱したが、竹刀が使い物にならない事への不満か、小さく舌打ちをする。そして男が追い打ちをかけようとしたその刹那、道場に竹刀の打突音が大きく響いた。
その次の瞬間には木刀の男は倒れ、女は弦から先のない竹刀をもち、弦から先は2人から少し離れた場所に落ちていた。
男が頬を手で覆っていたところを見るに、女の方が男に対して竹刀を思い切り顔目掛けて振ったようだ。
「お前はバカか!顔はするなって言ったろ!」
男は即座に顔を覆っていた面を外し怒声を発した。
面を外した男は童顔で少し幼く見えた。
「私は『武』の漢理石者として、あなたの父から命を受けている。『火』の漢理石があるからといって、武術の手を抜く理由にはならないと言われているだろ」
女も少々怒り気味でそう言いながら面を外した。
女は男より若干幼く見えるものの、身長は男より高かく艶やかな長い髪を後ろで結んでいた。
2人はそれぞれ漢理石人であった。
竹刀を持った女は『武』の漢理石所持者、武藤京子。
木刀を持った男は『火』の漢理石所持者で、バーン王国の王子 フロウ・バーン。
京子は続けて言った。「この国の次期王がその程度の武術であったら他国との戦いでどうする気だ。しかし今日は現王が出雲に行く日だったのだから、わざわざ稽古をつけなくてもよかったはずだが、何かあったか。」京子は怒りともに疑問を投げかけた。
「そんなのどうだっていいだろ。」
フロウがそう言うと「よくない」と間髪入れずに京子は言う。
フロウはこれは逃げれないと悟り、ため息を吐いたあと話した。
「親父と喧嘩したんだよ。」
フロウがそう言ったあと、京子は豆鉄砲を喰らったような顔をしたのちに、高笑いをしながら「そうかそうか」と相槌を打つ。
「親父がいない間はそろそろ俺が王座に座っていたいって言ったら親父が『フロウは経験がないから炎谷に任せる』って言われたんだよ」
フロウは不貞腐れてながらもそう言った。
それを聞いた瞬間京子は神妙な顔をした。
「ん?なにか問題か?」
フロウがそう投げかけると、京子は「いや」と言いかけたとき外から声が聞こえた。
「遅れてごめん!」
ハイトーンの女性の声が走ってくる音が聞こえる。
「パレード観てたら遅れちゃって!」
「天音、だから親に捨てられるんだぞ。音速で来ればよかったのに。」
「はぁ!?たかだか稽古如きに漢理石使うわけないでしょ!いい加減その脳筋頭治したら?」
京子は遅れてきた女性の言い訳を一蹴したが、女性側も負けじと言い返しきた。
遅れてきた女性は『音』の漢理石所持者音羽天音で、2人よりも若干幼く見え、幼さ故の華奢な様子が際立ち、束ねていない長い髪が風に靡いていた。
京子と天音は互いに睨み合ったあと同時にフロウに答えを求めた。
『フロウ、どっちが悪いと思う!』
フロウはくだらない争いだな、と思いつつも答える。
「あのな、正解以前にどっちも後継者の枠から降りてんだから互いに後継だの漢理石だので争わない。いいか?」
フロウがそう言うと間髪入れずに再度言い合いが始まる。
「私は末っ子だからわかるけど、京子は長女なのに継げずに同盟国に流されたんだから漢理石の才能は私の方が上。」
「天音お前、たかだか小国の生まれで粋がんなよ。リルドの漢理石人口は音楽しかできないど田舎とは違うんですー」
「はぁあ?!この王国1のアイドルと言われるこの私をど田舎平民ゴミカスアーティストですって?その『武』の漢理石ぶち割ってやろうか?!」
「平民に謝れよ奴隷!あんたの石の方が価値ないんだからぶち割ってその人生終わらせてやるよ!」
2人の言い合いに終わりは見えない。
天音、京子ともに音の国『ソンド』、武の国『リルド』の王族の後継者候補であった。しかし末っ子だから、女性だからという理由で隣国であったこの王国に友好の証として送られてしまった。
「お前らいい加減にしろ!」
フロウの怒号が部屋中に響く。
「はぁ…ごめんなさい。天音着替えてきなさい。」
納得はいってない京子だったが、天音に形だけでも謝罪をした。
「うん、私の方こそごめんね。」
天音も謝りすぐ様着替えをしに行く。
天音が離れたのを確認すると京子は言った。
「フロウ、さっきの話の続きだけど」
「ん、炎谷の事か?」
「そう、彼確かこの前宝庫への放火疑惑があったのよ、それでなぜ王代理を任されているのか疑問に思わなかったの?」
「それは確か炎谷の娘だったって話じゃないか。」
「本当ならね。ただ炎谷の娘って天音と同じ15よ。それであの火力を出すのは限界があるはず。」
「いや、宝庫くらいのものなら俺も15の頃出せたぜ」
「炎は火のように器用じゃないのよ。炎は「火の穂」が語源。火と同じ火力を出すには同じ要領では打てないの。だからあの年の少女くらいの子が出せる領域じゃないのよ。」
「なら、京子の推測では炎谷の娘は冤罪なのか?」
「恐らく。ただ私も確認しているわけじゃないから保証はできない。」
フロウは言葉が詰まった。もしかしたら炎谷が本当に起こしたのかと、一瞬本気で思った。
「王子!」
急に大きな声が道場の正門から聞こえてきた。
門の方向を向くとボロボロの服装の男がいた。結べばマンバンが似合いそうな長髪のアラフォーくらいの男がいた。しかしフロウも京子も誰なのか分かっていないようだった。
その男は2人に人差し指を向けて確認の意味も込めて聞いた。「2人はそれぞれフロウ王子とリルドの京子だよな、王が殺された。」