ふーん、意外と綺麗にしてんじゃん
竜騎士を名乗るサナの家は古代樹の森を抜けた先の岩場をくりぬいて存在していた。なんかカッパドキア──トルコのなんか遺跡──みたいだなと思ったら、建築センスが終わってるから仕方なく洞窟生活をしているのだという。
「あ、入る時靴脱いでね」
「ゲームの中で……?」
「うん。魔素パーティクルが靴に付着してるから」
なんだそれ。そんなものの存在は認知していない。てか公式サイトが英語だったからマジで読むの大変だったんだぞ。なんで日本の企業なのに英語なんだ。
まあ、プロデューサーがアレだったもんな。
「あ、ぽかんとしてる」
「説明キボンヌ」
「魔素パーティクルっていうのはね、ゲーム内の最小エンティティなの」
「振動するヒモってことか」
「原子って言えばいいのになんで超ひも理論の話するかなぁ……」
「で、魔素は名前からして悪そうだから、家には入れたくないと?」
「ううん。魔素は魔法の元だから普通に滞留してるよ。でも靴で上がられたら気分的に嫌だし、靴に魔素パーティクルがついてる状態で家に入ったらエンシェントドラゴンラストオブエンドファイアが脚に照射されるようになってる」
先に言えよ。
俺は靴を脱ぎ脱ぎする。
「エンシェントドラゴンラストオブエンドファイアで死ぬところだっただろ」
「まあ、沢山死んでたから、いっそ良いかなって」
また経験値吸うつもりだろこの女騎士。
「さ、入ってはいって!」
促されてはいると、中は結構綺麗だった。北欧美人な女騎士、装備があまりに武骨なのであばらやにでも住んでるのかと思いきや、顔に似合う印象の、つまり北欧家具の揃えられたお部屋だったのだ。
「ふーん、意外と綺麗にしてんじゃん」
「ツンデレ負けヒロイン幼馴染みたいな台詞だね」
こいつどんだけサブカルに明るいんだよ。オタクがよ。友達になろう。
「座って座って。お茶入れるから」
「エンシェントドラゴンラストオブエンドファイア出ないだろうな」
「うん。室内だもん」
玄関なら良いのかよ。まあ、迎撃用ってところなのだろうな。
「緑茶と紅茶どっちがいい?」
「味覚モジュールのDLC買ってんの?」
「あ、そっか。課金してないとただのお湯だよね」
「いや、課金はしてる。親の金で」
「言わなくても良いこともちゃんと言うんだね……」
緑茶を頼んで、辺りを見回す。何というか、違和感があった。
家の広さ。反響。整然さ。
こいつ、ひとりぼっちなんだな。
壁の中にはいくつもの部屋がつながり、家自体の広さは相当だ。だが、そこで生活を送る人間は彼女だけだ。なぜなら、家具が全て一人暮らしようだから。ここにはあいつしか住んでないし、たぶん、一人なんだ。
確証はないが、ぼっちはぼっちを見極める目を持つ。
こんな時間にFTOやってる時点でお察しだが。
「入れましたよ~……。ん、どうしたの?」
「たまに、ここにきていいか?」
「え?」
「お前に経験値食わせたろ。その代価。ここに住ませろ。そしたら、俺もまともなゲームライフが送れる」
至極真っ当な論を展開したつもりだが、彼女は少し呆けていた。それからはっとして、少しだけ耳朶を朱に染めて、俺を見返す。
「い、いいよ。同棲、しよ」
なんなんだこいつ。……まあいい。これでFTOでの生活拠点が無料で手に入った。これは爆アドだろ。今後の事は落ち着いて考えるとする。
しかし、北欧美女がもじもじしてると、可愛いな。ちきしょうめ。
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