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黄昏炉理。

【前回のあらすじ】

 締切が近づいた新刊同人誌の執筆に余念がないななおとななみ。

 そのアシスタントを務める傍ら、さよりの処女原作を得て初の同人誌制作に乗り出すあゆか。

 そんな彼らのサークル『セブンスシーパラダイム』の新刊を心待ちにする左右田そうだ姉弟。

 一方、あゆかをななお達に託した真木名まきなれいじは秘密結社ゴタンマに単身乗り込み、首領のやまぶきと付き人しろがねの信用を勝ち取り特別待遇にて組織に潜り込む。

 順風満帆のれいじに口説き落とされ、すっかりその気になっている担任のていち。

 さらに夜の帳が下りた街角では、ななお達の母親と親友はるきの密会が…。

 それぞれの想いを胸に秘め、物語は新たなステージへと…!

 …あ、へぼみは特になんもしてなかったねテヘッ♩





 全てはここから始まった。

 今から遡ること二十年前…。


「正気か兄上ッ!?」


 まだ血気盛んだった頃の私の怒声が首領室に轟いた。


「アレを『被験体』の養育係にするだと!?

 アレがどれだけ危険な存在か、知らないはずがないだろう!?」


「フッ…だからこそだよ」


 室内最奥の玉座にふんぞり返り、私の必死な訴えにも余裕綽々の薄ら笑いを浮かべる一人の青年。

 これが『秘密結社ゴタンマ』の現首領であり…私の兄だ。


 秘密結社ゴタンマ…その歴史は古くは江戸後期にまで遡り、日本掌握を目論む欧米列強から祖国を守り抜くため、国中の学識者やら霊能者やらが集結した呪術組織がその前身とされる。

 困ったときの神頼みという訳ではないが、我が国では古来より学術と宗教は並列もしくは同一視されてきたし、国の成り立ちからしてそもそもは宗教団体に他ならなかった。

 第一、現在では科学と呼ばれ世間に広く普及している技術だって、中世までは錬金術という魔術の一種とされていたんだ。

 この世はいまだに不思議な謎に満ちている。そして調べれば調べるほど、人類には到底理解不能で不条理な理屈がそこにはまかり通っている。

 それはまさしく神の成せる業で…

 まるで…魔法だ。


 …ところが、やがて幕府が開国に応じて形骸化すると、新政府と仲違いした当組織は国賊とみなされ、激しい弾圧を受ける羽目になった。

 が…どれだけ痛めつけられようとも、超常的な能力で危機を回避し続けた我らが組織を根絶することは遂に敵わず…

 根負けした新政府は、我らに国家の闇の仕事を一任し、独立行政機関として扱うことを決定した。

 以来、我らはその存在をますます国民に秘匿しつつ、陰から国を支配するようになった。

 それがいつしか名を変えたものが、我ら『秘密結社ゴタンマ』。

 しかし元々は日本守護が目的で創設された組織であるからには一概に悪とは言い切れず、そこで生み出された様々な技術が広く世間に浸透し、人々の暮らしを助けている。

 表向きは『マタンゴグループ』として。


 だがその裏では、おおよそ衆目には晒せない非人道的な研究も肅々と行われている。

 今、私が口にした『アレ』もそうした研究成果の一つ。

 さる人からもたらされた驚愕の遺伝子組み換え技術により、超人…挙げ句には神の創成を目指してスタートした『超人計画』。

 まだまだ途上の段階ではあるものの、早くも目覚ましい成果が続々と報告されているが…

 アレだけはいかん。

 アレはまだ早すぎる。

 アレのせいで、しおりは…っ。


「だからこそ『彼』の養育係として最適ではないか。誰も恐れをなして近づきたがらない…この私ですらおいそれとは近づけない『彼』にとって、良き理解者となるだろう」


「理解"者"…だと? やはり何も解ってないじゃないか!

 アレは人などではなく…『魔女』なのだぞ!?」


 人ならざる者に名前など無い。

 故に『魔女』と呼び称されるアレの能力は…『人心掌握マインドコントロール』。

 対象の精神に介入し、その言動を意のままに操る…どころか、記憶の改ざんまでが可能だ。

 そのために対象の心情を読み取る『読心術マインドリーディング』にも長けているとされるが…なにぶんろくに会話が成立しない相手なだけに詳細は不明。


「アレはその能力で…しおりを…っ!」


「アレが開発主任の逃亡にどこまで関わったのかは不明なのだろう?」


 くっ…確かにその通りだ。

 彼奴がしたことは事件当日、セキュリティ担当者の意識を操作して実験棟の通用口のロックを解除させたというだけだ。

 直後に駆けつけた警備員によって無抵抗のまま取り押さえられたアレは、顔色一つ変えずに応えた。「頼まれたから」と。

 同時に「頼まれて記憶を消した」とも供述したことから、開発主任への記憶操作も明らかとなった。

 構成員の幹部や主任への反抗もしくは敵対行為は反逆罪とみなされ処罰対象となる。

 が、主任からの依頼とあらば、それは命令に忠実に従ったのみでありお咎め無しだ。

 とりわけアレは、まるで自我を持たないかのようにこれまで上の命令に忠実だったことから、今回もしおりの言いつけ通りに行動したに過ぎないものとして一切の処罰を得ず、事件は内密に処理された。


「そもそも…お前が女の面倒をちゃんと見てやらないから、こういう事態に陥ったのではないか?」


 ぐぬぅっ!? あからさまに他人事な態度の兄上に、もう何度目か判らないほどの激しい殺意を覚えた。

 彼と俺は同じ母親から生まれたというが…見てくれから素質から才能から…どう考えても平凡の極みな俺とは段違いだ。

 恐らく彼の方は、父上が戯れに別の女に産ませたのだろう。ウチのような組織においてはさほど珍しくもない話だ。

 それでも昔は家族思いの優しい男だったのに…

 首領としての手腕は歴代随一と謳われつつも、病弱ゆえに早々と急逝した先代…我らが父の跡を継いでからというもの、兄上は変わってしまった。

 現に、父上を亡くしてから腑抜けてしまわれた母上を遠方の療養施設に幽閉し、面会謝絶のまま放置しているという…!

 年齢はそう大きくは離れていないのに、生まれつき何もかもが桁違いに優秀な彼に、俺は事あるごとに比較され…それでもずっと憧れ続けてきた。

 それが今では見事に裏返って、奴の一挙手一投足が…何もかもが気に入らない!

 超人の…果ては神の創造という誇大妄想のために、数多の罪もない子供達の身体を日夜いじくり続ける非人道的な研究が、しおりの良心を…精神をどれだけ蝕み続けていたか…

 お前のように生まれつき恵まれ過ぎた輩は、想像したことすらあるまい!

 ついに限界を迎えて俺に泣きついてきたしおりを、俺はただ慰めることしか出来なかった。

 無論、兄上には何度も研究の中止と方針転換を提案した。しかしその度に奴は首を振るばかりだった。


「我らはもう、世界の変革という大きな流れに取り込まれてしまったのだ。

 この課題をクリアしない限り…我ら人類に未来はない」


 などと、ワケの解らんことをほざき続けてな!


「とにかく…お前になんと言われようと、私の方針は変わらん。

 アレも『彼』も…今後の我々人類には必要不可欠な存在なのだ。

 さらには…お前が現在進行中の『計画』もな…!」


 ぬうっ、やはり気づかれていたか。

 兄上が方針を変えぬなら俺が変えるしかないと、超人計画に匹敵するやもしれぬ、さる『計画』を秘密裏に進めていたことに…!


「そして、これがうまくいったその時こそ…

 我らゴタンマは、遂にその役目を終える。」


 …なん…だと?

 ゴタンマを…終わらせる…!?

 此奴…いったい何を企んでいる…っ?


「すべてはこれからだ。そして、一旦動き出してしまえば…もはや一刻の猶予もない。

 お前もこんな処で燻っている暇があるなら、さっさとあの女の跡を追うべきではないのか?」


 それは…俺はもう、この組織に必要ないということか!?

 おのれぇ〜兄上めぇ〜…っ!





「ほぉ…お前が『魔女』か?」


 興味深げに私をしげしげ見つめる漆黒のスーツ姿の青年。

 彼がこの秘密結社ゴタンマの首領だと、さっき係員から教えて貰ったばかり。

 首領なんていうから、どんなコワイおぢさんが来るのかと身構えていたら…あまりにも普通で拍子抜けしてしまった。

 外の世界を知らない私から見たら、彼はそれくらい他の人と変わり映えしない。

 確かに世間一般的には格好いいんだろうし、落ち着き払ったキザな態度には大物感が漂ってるけど、いずれにせよ私にはどうでもいいことだ。


「…そう呼ばれることが多いですが、決まった名前はありません。ご自由にお呼びください」


 事前に係員に教わった通りに応えて、私はさっさとそっぽを向いた。人の視線に慣れてない私を、いまだに品定めするようにジロジロ見てくるからだ。

 大抵の人は逆に私から目を逸らして遠ざかるのに。"心を読まれては敵わない"と思いながら。

 その辺はさすがに首領様だ。さっきからずっと心を読もうとしてるけど…つけ入る隙が微塵もない。

 普通の人は無警戒に思考を垂れ流してるから、何もしなくてもラジオ放送のように勝手に聞こえてしまう。しかもこういった組織だから、到底聞くに耐えない罵詈雑言ばかり。

 最初の頃は煩くて仕方なかったけど、すぐに慣れた。ずっとテレビやラジオを点けっぱなしにしてても、四六時中意識してなければ全然気にならないのと同じだ。

 けれどもこの人はよっぽど自制心が強いのか、全身が分厚い壁に覆われた感じで雑音がすべて遮られてしまう。

 それ故に絶対心を読ませないという自信に満ちてるから、私のことも無遠慮に見つめ倒して来れるんだ。

 自分がいつ何処で生まれたのかさえ知らない私だけど…こんな人は初めてだ。


「ふむ…魔女などと呼ばれる割には、案外普通の可愛い少女にしか見えんな?」


 …こんな評価を下した人も。

 可愛いだなんて…生まれて初めて言われた。


「首領様、その件についてですが…」


 すかさず私の係員がフォローに入る。

"そう思わせて油断させるのがコイツの手口なんだよ"と胸中で溜息を吐きながら。私自身はそんなつもりは微塵もないのに。


「記録によれば、彼女の年齢は貴方様と同じくらいかと。能力を安定させるため、その発症がピークとなった年齢の時点で人為的に成長を止める処理が施されたとか…」


「ほぉ? ならば余計に話し易くて助かる。

 魔女よ、今後は私と対等に話してくれても良いぞ。特別に許可しよう」


「わかり…わかった。」


 付き人達が慌てふためいているけど、私としても気を使わなくていいから助かる。


「それで…私はどうしてこんな格好をさせられてるの?」


 私は日頃からずっと着慣れてきた検体衣ではなく、組織の事務員と同じ制服に袖を通していた。着慣れてないせいか締め付けが気になって仕方がない。

 それにしても、よく私のような子供サイズの制服があったものだ。特注品だろうか?


「よく似合っているぞ」「…それはどうも」


 いちいちいつもと勝手が違って調子が狂う。


「お前には…これから会って貰いたい者がいる」


 そう応えた首領の心の壁が厚みを増すのを感じた。のみならず、あたかも深呼吸して気を落ち着けようとするかのように不規則な収縮を繰り返している。

 私はそれを『緊張』と解釈した。


「…貴方の御子息?」


「…ほぉ、さすがに察しが良いな。さては私の心を読んだか?」


 私は静かに首を振り、


「周りの人にそう説明された」


 と答えると、


「フッ、これはとんだ早とちりだったな」


 と首領は自嘲した。が…


「自分の子供に会うのに…どうしてそんなに緊張してるの?」


 さっきから気になっていたことを問いただすと、首領の顔がにわかにこわばり、


「…なるほど。どうやらお前は『本物』だな」


 と答えを濁したっきり黙りこくってしまった。

 天下無敵の彼をここまでさせるほどの存在とは…?

 今まで何事にも興味を持てなかった私の好奇心が、生まれて初めて疼くのを感じた。





 核シェルター並みに分厚い隔壁を何層も通過した先に…首領がいう『彼』がいた。


「…父さん!」


 普通の子供部屋のように仕上げられた空間の片隅から、首領めがけて飛びかからんばかりの勢いで駆け寄ってきた『彼』に、私達の周囲を取り囲む警備員たちの緊張はマックスに達した。

 なかには衣類の下に着用した銃のホルスターに手を掛けている者までいるが…正気の沙汰とは思えない。

 なぜなら…『彼』は本当に何の変哲もない、私と同じくらいの背格好の子供だったからだ。

 久々に会いに来た首領への喜びの感情を無警戒に爆発させる様子は紛れもなく子供そのもので、見るからに特殊能力の類も一切持ち合わせてなどいない。

 それなのに…どうしてこんな厳重な管理下に置かれているんだろう?

 ううん、問題はそんなことよりも…


「『父さん』?…彼がそう?」


 『彼』が発した言葉をオウム返しに唱えた私に、首領は珍しくバツが悪そうに応えた。


「…そのようなモノだと思ってくれて構わない」


 相手を自分の子供と認めるだけで、どうしてそんな持って回った言い方をするんだろう?

 首領の受け答えはいつも大概そんな感じだけど、今回ばかりは様子がおかしい。

 もっと言ってしまえば…この子に会うのを異様に恐れている。玉虫色の答弁は、内心では自分の子と断じて認めたくないことの裏返しだ。

 でも、どうして…?

 たしかに顔立ちは首領にそっくりだから、実の子で間違いないと思うのに…。

 事前に聞いた話では、首領はいまだ独身だとか。けれどもそういったお相手くらいはいくらでもいるだろうし、この手の組織の性格上咎める者など皆無だろうに…?

 首領からは回答を得られそうにないので、周囲の者たちの心にも耳をそば立ててみたけど…

 どうやら誰も『彼』の正体を知らないまま、本能的に怯えてるだけみたいだ。

 わけもわからずしきりと首を捻っていた私を見つけて…その子は顔を輝かせて、こう考えた。


〈ぅわ…カワイイ☆ 誰だろこの子!?〉


 どうやら私の外見は世間的に見ればそういう評価らしい。とはいえ今まで世間に出たことがないから自覚も興味もなかったけど。


「父さん…このカワイイ子、誰!?」


 驚いた。生まれて初めて思考と言動が寸分違わない相手に出会ったからだ。

 しかも、面と向かって可愛いと言われたのも生まれて初めてだったから…私は生まれて初めて不思議な顔の火照りを感じた。

 そして、それが『照れる』という感情だと、初めて実感した。


「…彼女が今日からお前の養育係だ。何なりと申し付けるがいい」


 …え゛。何それ聞いてないんだけど!?

 私は生まれて初めての焦りを感じた。

 ろくに人と顔を合わせたこともない私に、そんな大役が務まるとは到底思えない。


「あの…!」


 慌てて否定しようとした私の手を、けれどもその子は我先に掴んで、


「じゃあ、これからずっと一緒にいられるんだね!? とてもカワイイ子のそばにいられて、とっても嬉しいよ!!」


 掴んだ手をブンブン振りしきって、全身で喜びを表現する。どうやらこの子には裏表はおろか、恥じらいすら存在しないらしい。

 そこまで大喜びされてしまえば…今さら断れる訳がない。


「…よろしく…お願いします。」


 そして私もさっきからなんだか調子がおかしい。顔の火照りだけじゃなく…しきりと胸が高鳴って仕方がない。

 何もかもが生まれて初めてで、戸惑うことしか出来ない私に…彼は矢継ぎ早に訊いた。


「ねぇキミ、名前はなんていうの!?」


 さて困った。私には元々名前なんて無いから答えようがない。識別番号で言おうか、それとも『魔女』で…?


「…それはお前が決めることだ」


 困惑する私の様子を見てとって、首領が言った。…私ではなく、その子に。

 丸投げかい。無責任にも程があるだろ!?

 私は生まれて初めて首領に胸中でイチャモンをつけた。実際口にしたらその場で首が跳んでたかもしれない。


「そっかぁ、キミも名前が無いのか…僕と同じだね?」


 …え? 首領の子なら普通、名前があって当然でしょ?…どゆこと???


「でもみんなには『若様』って呼ばれてるから、それでいいかなって♩」


 …なんだかずいぶんテキトーな子だな。何も悩みなんて無さそう…と思って思考を探ってみたら、ホントに何も悩んでなかった。


「じゃあ今すぐパパッと決めちゃお♩」


 いやそんな犬猫じゃないんだから…


〈う〜ん、何がいいかな? ポチとかタマってのはさすがに失礼だよね…〉


 ホントに犬猫レベルだった!?

 それは本気でやめてほしい。失礼以前にネーミングセンス酷すぎ…。


〈パパッと決めるって言ったけど、そんなすぐには出てこないなぁ。でも早く決めないと嫌われちゃうし…〉


「それくらいじゃ嫌いませんから…真面目にお願いします」


 思わずそう言ってしまってから、しまったと思った。私にコレをされた相手は大概、思考を読まれていたことを知って露骨に顔をしかめるからだ。


「えっ…よく解ったね!?」


「…言い忘れていたが、この子は相手の心が読める」


 案の定驚いた様子の少年に、首領は仕方なさげに私の能力を明かした。お手数お掛けします。


「ふ〜ん? じゃあ、いちいち伝えなくてイイから便利だね♩」


 …今度はこっちが驚かされた。そんなことを思った相手は初めてだったし、たぶん今後も出て来ないだろう。


〈わ、驚いた顔もカワイイなぁ。カワイイカワイイカワイイカワイイ☆〉


「や、やめてください…」


 どうやらこの子は本当に思考を読まれることに何の抵抗もないようだ。それだけ言動に裏表がないからだろう。


〈カワイイっていえば、フワフワの金髪に宝石みたいな青い目がホントにキレイで…食べたら美味しそうだなぁ〉


「食べないでください。でも…ありがとうございます」


 親の顔なんて見たコトないけど…たぶん親譲りだろう髪色と瞳は、自分でも気に入ってる数少ないポイントだ。この子、わかってる♩

 それにしても…不思議だ。どうせ本音が駄々漏れな他人との会話なんて面倒くさいだけだったのに…この子と話すのは、なんだか楽しい。


〈なるほど…じゃあその線で考えてみよっか。

 ゴールデン青子…金の字…シャチホコ…えびふりゃあ…〉


 そして相変わらずネーミングセンス最悪。

 しかもなんでどんどん名古屋寄り?

 迂闊に金髪を意識させてしまったのが、かえってマイナスだったかな…。


〈黄金っていえば…やっぱり小判だよね。よくテレビの時代劇で、悪徳商人が悪代官に「山吹色のお菓子にございます」って…〉


 子供だてらにずいぶんシブいモノ見てるな。

 てゆーかココ、テレビあるんだ…いいなぁ。

 それにしても…この子、どうしてこんなに一生懸命なんだろう?

 私の名前なんて考えたところで、彼には何のメリットも無いと思うのに…。


「…うんっ、決めた!」


 ずっと胸中で考え込んでた子が急に大声で叫んだものだから、不意を突かれた私は不覚にもビクッとたじろいでしまった。

 それにしてもこの子は、ずいぶん突飛な思考の持ち主らしい。多少は気がそれていたとはいえ、ちゃんと心を覗き続けていたけど…決心したような素ぶりなんて微塵も感じられなかった。


「キミの名前は『やまぶき』☆

 どぉ、けっこー良くない?」


 …驚いた。確かに胸中でそう口走ってたし、何がなんでも髪色にちなんだ名前にしたいんだろうと覚悟はしてたけと…

 予想以上にマトモでステキな名前だった。


「…はい…ありがとうございます」


 今まで人前で喜んだことなんて一度も無かったから、喜び方が判らないけど…自然と顔が緩んでしまうのがわかる。

 それを見るなり、彼は小躍りして、


「やたっ! 喜んでくれた!」


 そしてその胸中では、


〈よし、やっと笑ってくれた! 笑ったら絶対カワイイと思ったから、頑張って考えた甲斐があったぞ♩〉


 衝撃だった。私の笑顔が見たい…ただそれだけで、ここまで他人に尽くせる人なんて…

 少なくとも、今までこの施設内で見かけたことなど一度もなかった。

 そして解った…この子には一切の損得勘定がないんだって。

 相手が喜んでくれれば自分も嬉しい…ただそれだけで、なんの見返りも求めずに動けちゃう子なんだって。

 どんなに幼い子供でも打算なく行動できる人は稀なのに…この子はそれだけ純粋な心の持ち主なんだ。

 そう思ったら…こんなに小さな子なのに、とっても格好良くてステキに見えてきて…今さらながらに気恥ずかしくなってきた。

 そして、こんなにステキな子が、私の名前を一生懸命に考えてくれたのかと思うと…

 自分はなんて幸せ者なんだろうと胸が熱くなって…自然に涙が溢れた。


「えっえっ、なんで泣いてんの!? ホントは嫌だった!?」


「…逆だろう。人は嬉しくても泣けるものだ」


 私の涙に慌てふためく彼に、溜まりかねた首領も思わず吹き出しながらフォローを入れた。

 首領が心の底から笑ったことなんて後にも先にもこの時だけだったし…初めて親子らしい触れ合いを見た気がした。


「…それじゃあ、これからよろしくね。やまぶき♩」


 やっと安心した彼は、改めて私に右手を差し出した。


〈でも…本当にこんな可愛い子が、僕なんかと仲良くしてくれるのかな? 泣かせちゃったし…〉


 でもその心は謎の自信に満ち溢れていた今までとは違って、罪悪感と心細さに支配されていた。

 その不安をすぐにでも取り除きたくて…私は彼の手を両手で握り返した。


「私こそ…これからよろしくお願いします。

 …若様♩」


 上手く笑えたか自信がなかったけど…たぶん大丈夫だと思う。

 彼…若様も安心して笑い返してくれたし…

 私は今、これまでになかったほどの幸福感に包まれているから。


 彼と一緒なら…これから、もっともっと幸せになれると思うから。





 そして私と若様は…前言通り、幸せの真っ只中で毎日イチャコラしてた。

 それはもう、真面目に働いてる他の構成員の皆さんに申し訳なく思えてくるほど。


「うーん、今日の御飯も美味しいね、やまぶき♩」


「はい♩…と言っても私が作ったんじゃありませんけどね」


「そうなの? いつもキミが持ってくるから、作ってくれてるのかと思ってたよ」


 彼が誤解するのも無理なかった。今食べてるこの食事も、規定の時間に所定の場所に用意されているものを私が届けているだけで、以前は別の係員が配膳していたという。

 つまり、実際に誰かが調理してる現場を見たことがないのだ。

 普通の家庭なら母親あたりが用意するのが一般的らしいけど、私も含めて彼に母親はいない。

 私達『実験体』の場合は保護施設から引き取られたり、実の親に売り飛ばされたりと、大抵ろくでもない経緯でここにいるけど…

 彼の場合は物事ついた頃からここに幽閉されてて、今まで一度も母親らしき人物に会ったことがないから、元々いないものと理解しているようだ。

 生物学的にそんなはずはないけど…それなら若様は、首領と『誰』の子供なのか?

 …この辺はあまり深く首を突っ込まない方が良いかもしれない。


「私…お料理したことありません。というより…調理器具の使用許可が下りませんから、たぶん」


 若様との生活は、施設の外に一切出られない以外は比較的自由度が高かったけど…よくよく知れば知るほど不便なことが多かった。

 刃物や火を使う調理も制限事項の一つだ。理由は言わずもがな…私達に武器となりえる物を持たせない為だろう。

 部屋にはテレビも置いてあるけど、現在放送中の番組のリアルタイム視聴はできない。

 なので動画配信オンリーだけど、そのラインナップも昔のアニメや特撮ドラマや時代劇が中心で、ニュースや情報番組の類は無い。

 おそらくは外の世界に興味を持たせない為だろうけど…まさに飼い殺しで、将来的な後継者候補とは到底思えない扱いだ。

 それが何故かはいまだに解らないけど…さすがに二人っきりでのお食事は(主に私の)間が持たないので、適当な番組をたれ流しながら箸を進めている。

 若干お行儀が悪そうな気もするけど、ここには私達にお説教する人は皆無なのでやりたい放題だ。


「あ…若様、お顔にご飯粒が付いてますよ?」


「ホント? じゃあ取って♩」


「もぉ…甘えん坊さんですね」


 やれやれと仕方なさげな風を装って、若様の頬に手を延ばす。

 …けど、中身は大人でも身体は子供な私ではリーチが足りない。やむなく身体を彼に寄せる。

 年齢の割には整った若様の顔が間近に迫って緊張する。ううっ、やっぱりカッコ良すぎ…

 と思ったら、その顔が急接近して、


 …ちゅっ♩

「ほあっ!?」


 思わず間抜けな声が洩れてしまった。

 だって、急に…キス…してくるから。

 …頬っぺたにだけど。

 だというのに、若様は一つも照れずに小首を傾げて、


「う〜ん? こんなんで良いのかな?」


「は、はぃ…?」


「こないだ観てたアニメで似たようなシーンがあったから真似してみたけど…よく解んないや」


 え゛…よーするに気になったシチュエーションを真似てみただけ?

 こっちは今頃になって心臓バクバクだってのに…こんなお子様染みたキスで…。


「だって、好きな子にはこーするモンなんでしょ? 僕はやまぶきが大好きだからネ♩」


 ゔゔっ、また臆面もなくそーゆーコトをいけしゃあしゃあと…。

 私を好きってことは心を読むまでもなくイヤってほど伝わってくるけど、これじゃあこっちの身が持たない。

 若様の気持ちが真っ直ぐすぎてツライ…。


「そもそもあのアニメ、なんであそこでキスしてたの?」


 ワカランまま真似てたんかい!?

 とはいえ、アレじゃあ私にも説明しづらい。

 若様が観てたのは、だいぶん前の少年漫画が原作のアクションアニメだ。

 昔の作品にはありがちだけど、アニメ版はアクションにより比重が置かれ、ストーリーやその他の要素はかなりシンプルに端折られていた。

 人気アニメーターが集結して、当時のアニメとしては作画レベルが全体的に高い良作なのに、肝心なところで損をしてるパターンね。

 なので主人公がヒロインと恋人になるまでの過程も潔すぎるほど省略され、せっかくの見せ場がアニメ版しか知らない人には意味不明な単なるサービスシーンと化してしまってる。

 その辺が原作ファンや視聴者から大不評を買って、もう何年も連載が続いてる人気作なのにアニメはわずか半年間で終了してしまったという曰く付きの作品だった。

 …話が激しく脱線してしまったけど、要するにこのままじゃ説明のしようがない。


「せめて原作でも手に入れば…」


 と言いかけて、たしか以前の守衛さんが単行本を全巻揃えてたことを思い出した。

 しおり先生の脱走を手助けしたあの日…警報装置を解除するために訪れた警備室の棚に並んでいたはず。

 あれだけの騒ぎになって警備担当者も代わっただろうから、今でも置いてあるかどうかは判らないけど…


「…若様、しばらくお出掛けしてきますので、少々お待ちください」





「…お待たせしました」


 という訳で、ちょろっと警備室まで行ってブツを回収してきた。

 私も若様同様、みだりに施設の外に出られないよう制限が課されてるけど…ちょっと本気を出せば警報も警備もあって無いようなものだし、若様からの依頼とあれば誰にも咎められない。


「…で、ソレなに? ずいぶん重そうだけど」


 私が両手で抱えてきた単行本を興味津々に指差す若様。

 肝心の単行本は今も警備室に置かれたままだったけど、なにぶん今も連載が続いてる人気作でとても全巻持ち出すことはできなかったので、とりあえず最初の十巻だけお借りした。それでも子供体型の私には重労働だったけど。

 ちなみにアニメ版は大不評だった初代から十年以上を経て奇跡の再アニメ化を果たし、今日まで続く大人気作となっている。本当に余談だけど。


「ふ〜ん?…で、原作って何?」


 ずるっ。まずそこから説明が必要ですか。

 で、かいつまんで説明すると、


「…えっ、アニメってそうやって出来てんの!? 知らなかったぁ…」


 若様は原作という概念はおろか、『漫画』という媒体自体を知らなかった。


「まったくオリジナルな作品もありますけど、現在のアニメは九割がた原作付きですかね?」


 嗚呼…典型的な箱入り息子の無垢な知識を、自分色に染め上げていくこの快感…ハァハァ♩


「なるほどぉ…。それにしてもやまぶき、なんだかやたらと詳しいね?」


「ゔ。」


 というよりも…この手のことに病的に詳しかったのはしおり先生で、私の知識はすべて彼女の受け売りだ。

 見た目はこんなだけど、実年齢では同世代だった私は彼女のお気に入りだったらしく、色々なことを教えて貰った。

 …中には、若様には到底言えないようなエッチな知識も多いけど…。

 お陰で私はすっかり耳年増だ。

 …しおり先生、元気でやってるかな?

 せっかく逃してあげたんだから…幸せになってくれるといいな。


「で…コレ、どーやって読むの?」


 ずるるぅっ。…まぁ、漫画も知らなかったんだから、当然読み方も知らないよね。


「えーっと、基本的には上から下、右から左のコマに向かって読み進めていきます。

 セリフの吹き出しの尻尾が口元に向いてるのがソレを喋ってるキャラで、尻尾が点々になってる場合は口には出さない胸中の呟きで…」


 う〜ん、日頃感覚的に行っていることを改めて説明するのは意外と難しい。

 よくよく考えたら漫画には暗黙の了解的なルールがやたらと多いし、読み進めるのにもかなりのスキルを要求されるものかもしれない。

 こんな二次元的な表現の漫画やアニメで、時には感涙に咽ぶほど感動できるのは、人間ならではのイマジネーションの成せる業かも…。


「ふむふむ、それでこの子は戦ってるのか。

 …うわっ、コイツは本当に悪い奴だな!

 正義の味方な主人公が許しておかないぞ!」


 何事も飲み込みが早い若様は、あっという間に漫画のお約束をマスターしてバッチリ感情移入してる。

 悪の総帥の御子息が、あまり正義の味方に肩入れするのもどうかと思うけど…。


「…なるほど、それで…これが本当のキス…」


 いよいよ問題のキスシーンまで到達した頃には、主人公の心情をあらかた理解できたらしい若様が私を見る目が、なんだか熱っぽくなってることに気づいた。


「…ゴメンね、やまぶき。勝手にキスしちゃって…」


「あ…い、いいえ、あの…若様にキスされるのは…イヤじゃない…です」


「そぉ!? それなら良かった。やまぶきにキスしたいくらい好きなのは、本当だからね…えへへっ♩」


 ううっ、何なのこの拷問…?

 嬉しいけど、恥ずかしくて…何度でも死ねる気がする…っ。

 私は精神年齢的には彼よりもずっと年上なのに…どうしてこんなに照れるんだろう?


「あ、そういえばこのコマだけど…この人達、裸で抱き合ってナニしてんの???」


 ぐはぁっ!? ソ、ソレはいわゆるセッ…!

 アニメ版は全年齢対象だから、その手のシーンがすっぱりカットされて、それが不評の最大要因だったことを忘れてた…!


「やまぶきさえ嫌じゃなかったら…試してみたい…かな?」


「そ、それは…若様がもっとオトナになられてからでお願いします」


 そう言い繕ってからハッと気づいたけど…若様がこの先どんどんオトナになっても、私はずっと…永遠に子供のままなんだった。

 …さすがにヤバいでしょ、ビジュアル的に?


「オトナかぁ…」


 私の言葉に、若様はしばらくぼんやり考え込んで、


「…よぉーし、僕はオトナになったら漫画家になるぞ!」


 決断早っ!? そしてすこぶるシンプル!!


「僕もこんな漫画を描いてみたい!」


 いえいえ、夢をお持ちになるのは大変結構なんですけど…若様はお立場的に将来が決まっちゃってますし…。

 それに、漫画ってのは兎にも角にも、まずは絵が描けないことには…ねぇ?


「あ、今ちょっとバカにしたでしょ?

 絵だったら結構自信あるんだよ。

 ちょっと待っててね…ホラ♩」


 と、彼がそこいらの紙の裏に鉛筆でちょこまかと描いてよこしたモノを見て…


「…スゴイ…ホントにお上手…!」


 私は目を見張った。若様が描いてくれたのは私の似顔絵だったけど、単に写実的に上手いだけじゃなく、今しがた読んだばかりの漫画的なデフォルメもちゃんと盛り込まれてる。

 何物にも惑わされない純粋な心の持ち主だからこそ、ここまで真っ直ぐな線が描けるのかもしれないけど…そもそも、この年齢でここまで描けるものなの…!?

 これなら本当に漫画家になれちゃうかも…。

 一緒に暮らし始めてしばらく経つのに、いまだに知らなかった彼の意外な才能には心底驚かされた。


「…でもあの…私、こんなに胸、おっきくないですけど…?」


「そこは漫画的誇張で。おっきい方がウケるみたいだしね♩」


 くうっ!? 今しがた初めて漫画を見たばかりで、もうそこまで世間の道理を見抜くだなんて…解っちゃいるけど、正直ちょいムカ。


「ありゃ、なんか機嫌悪そう…。だってやまぶき、お風呂でも絶対見せてくんないし…」


「ゔゔっ…そ、それもオトナになってからで…」


「ちぇ〜っ。じゃあ今は触るだけで我慢しとくよ…」


 ぷにぷに♩


「ひゃふぅ!? お、お触りもご遠慮くださーい!!」


「えー? こんなに柔らかくて気持ちいいのに?」


 そりゃお見せもお触らせもできませんよ、言っちゃなんだけど…こんなマセガキに!

 しかも半ば無意識に、私の◯◯◯なポイントを的確に突いてくるし…恐ろしい子!

 さらに言っちゃなんだけど、この年齢で…アレのサイズもマセてるし♩

 そろそろ私の倫理観の方が限界なんだけど、一体いつ頃までお風呂をご一緒するのが正解なんだろう…?

 でも若様がいくらオトナになっても、私のサイズは以下略…。

 オトナになった若様…ハァハァ♩


「それじゃあ、約束だよ!? 早くオトナになって一人前の漫画家になって、やまぶきと色々エッチなコトするぞーッ☆」


「ちょっ、そんな大声で!?」


 どーせ何処からか一部始終監視されてるんだろうけど、それでもやっぱり恥ずかしい。

 けれども…


「頑張ってくださいね…若様☆」


 彼がそう望むなら、私は応援するのみだ。

 いくぶん歪んだ目的だけど、それでも将来の夢や希望は人生を生き抜くための糧となる。

 それがたとえ絶対叶わないモノだったとしても…。

 そして…今はすべてが私に向いている若様の好意が、将来的には他の誰かに向けられようとも…。



 


「こんにちわ〜守衛さん♩」


「おぉ〜やまぶきちゃん、今日もお使いかい?」


 とゆー訳で、私は今日も警備室に漫画を借りに来た。若様のために。

 最初は会う人ごとにいちいち洗脳したり記憶を消したり、我ながら涙ぐましい努力をして此処を訪れてたけど…

 そのうち私の目的が純粋に漫画を借りたいだけって解ったら、守衛さんや他の職員さんもみんな割り合い協力的になって、こうして気さくに会話できるまでになった。

 私の日常は若様を中心に回ってるから、元々逃亡の意志なんて無いし、逃げたところで今さらマトモな社会生活なんて送れそうにないしね。

 ただし、私がこうして当たり前に付き合えるのは、彼らのようにまるで敵意がない人に限られる。

 顔ではニコニコしながら内心で私達を小馬鹿にしてる人や、あからさまに敵視してくる副首領みたいな人はやっぱり怖い。もっとも後者については自業自得だけど…。


「それにしてもやまぶきちゃん、会うたびにどんどん可愛くなるね〜♩

 最初のうちは正直、口数も少なくて暗かったし、何されるか解ったもんじゃなかったから、冷たい態度を取っちゃってゴメンねぇ〜?」


「アハハ〜…その節はお手数お掛けしました」


 実際、会う度に何かしてたのは事実だから文句は言えないしお互い様かと。

 ここまで環境が劇的に変わったのは、全部若様のお陰かも。彼との出会いが私のすべてを変えたんだと思う。


「それで今日は、どの作品にする?」


「えーっと、前回のタイトルを若様が気に入ったようなので、その続刊と…あっ、コレ新刊ですよね!? アニメ化かぁ〜やっぱり人気あるんだなー!」


 てな感じで、警備室内は今ではちょっとした書店並みの品揃えだ。古今東西の名作から現在連載中の人気作まで、そこそこ有名なほとんどの作品が揃う。

 これらは気のいい守衛さんが私達の好みの傾向を調べて購入してくれてる。私達が直に注文さえしなければだいたいの希望は通るし、何でかちゃんと経費で落ちてるらしい。

 若様が暮らしてる施設内はネット回線が通ってないからデジタル配信は利用できず、こうして紙媒体で取り揃えるしかないという時代錯誤も甚だしいシステムだけど…

 やっぱり自分の目で紙面の隅々まで見回しながら、自分の指で直にページをめくる方が頭に入ってくる情報量が桁違いに多い気がする。

 若様に感化されて、今では結構な漫画マニアになった私がウキウキしながら漫画を手に取る様子を、そろそろ孫がいてもおかしくない年頃の守衛さんは店番のおじさんのようにニコニコ見守っていたけど、


「そういえばやまぶきちゃん、若様とはそろそろ次に進んだのかい?」


「ゔ。そ、それは…追々…」


「油断してちゃダメだよ〜。彼はこれからどんどん大きくなって色んなことに興味を覚えるから…いつまでもチュー止まりじゃあ、そのうち飽きられちゃうかもしれないなぁ…」


「…が、頑張ります」


 当然っちゃ当然だけど、私達の行動はこの人達に監視されていて全部筒抜けだ。

 漫画の件も、私がちょくちょく施設を抜け出してここを訪れている件も、本来なら重大な規定違反だけど、この人達が外部に報告しないでくれているに過ぎない。

 特にこの守衛さんは私のよき理解者で、年齢的に私を見る目も、完全に子供や孫を見守る父親のソレだった。

 職務上、私達の生活を覗き見てはいるけど、やましい気持ちはほとんど無いようだし。

 彼にとっては私の実年齢なんてどーでも良くて、永遠に幼い少女の見た目こそが全てなんだろう。

 そして実際…見た目通りに幼いままだった私の時間は、若様と出会ったことでようやく進み出したような気がする。

 それまではずっと誰かの言いなりになるだけだったのが、やっと自分の意志で動けるようになった。

 もっと早くこうなっていれば…しおり先生のことも引き留めていたかもしれない…。

 

「一緒に風呂にも入ってるし、たまにおっぱい触らせてやってるんだから…いっそこっちから押し倒して最後までやっちゃっちゃ〜どーよ?

 あの年頃のガキは単純だから、そうすりゃもーやまぶきちゃんの言いなりだぜ?」


「さ、最後までって…若様はまだそんなお年頃じゃないですよぅ!?」


「そういうやまぶきちゃんだって、カラダは子供、頭脳はオトナなどこぞの名探偵みたいなモンだろう? ささ、今すぐ腕時計でプスっと♩」


 ゔゔ…時々キョーレツすぎるアドバイスも頂戴するけど…それが出来るくらいならとっくにやってます!

 いくら人の心を操れるからって、誰でも彼でも自由自在にできるほど万能じゃないし…若様にだけは使いたくない。

 これが昔の私なら、上からの命令とあらば忠実に従ってたかもしれないけど…若様のステキさを日々発見するにつれて、どんどん身動きが取れなくなっちゃってマス。

 …てゆーか、そこまで覗かれてることにはさすがに抵抗を覚えるけど…彼は前述のようにお子様体型の私自身には興味がなく、私達二人の仲の進展具合にこそ興味があるとゆー変態さんだ。

 そんな彼に、若様との赤裸々な私生活を全部覗かれてるということに、私もある種の快感を覚えたりして…私、どんどん変態っぽくなってる?


「とはいえ、そっちはさすがに漫画みたいに上手くは行かないか…」


「えぇまぁ…若様の漫画の上達ぶりは凄まじいんですけどね〜」


「…そーゆー意味じゃないんだが…確かにあの器用さには恐れ入ったな。腕前だけならもうプロの域じゃないか?」


 守衛さんが驚くように、なんでも器用にこなす若様だけど、とりわけ日々心血を注いでる漫画技術は贔屓目なしでもスゴイと思う。

 もう、どこかの雑誌に掲載されててもまったく違和感がないレベルだし、投稿すればすぐにでも受賞なり連載なりが決まるんじゃないだろうか?

 …現状、それは決して叶わない夢だけど。

 若様も今のところは漫画を描くこと自体が楽しくて仕方がなくて、将来のことまでは考えてない感じだけど…

 いずれ、その時が訪れたら…私はどうすればいいんだろう?





 そして…その時が来た。


「…どうかな?」


「とっても良くお似合いですよ、若様♩」


 真新しいスーツに袖を通してはしゃぐ彼は、相変わらず無邪気なままだけど…

 その容姿はすっかり大人びて、今では時々様子を見に来る首領と並んで立つと、どっちがどっちか一瞬迷ってしまうほど良く似た風貌になった。

 …私と彼が出会ってから、もう十年。

 月日の経過はあっという間だ。

 とはいえ…


「私の方は全然変わり映えしませんけどね…」


 能力安定のため成長が凍結されている私は、いまだに若様と出会った当時のままの姿。

 既に生物のことわりを逸脱しているため、寿命もどこまで延びるか不明だそうだけど…少なくとも若様よりは長生きするだろう。

 それを考えると今から憂鬱になるけど…。


「いやいや、初めて会った頃よりは確実におっぱいが大っきくなってるよ。僕が保証する♩」


 モミモミん♩


「若様がソコばっかり触るからですよ…ってあの、勝手に揉まないでください…あふっ。」


「ずーっとカワイイやまぶきのままだから、僕は気に入ってるんだけどネ♩」


 彼の私への愛情は冷めるどころか、ますます加熱する一方だった。

 私以外の人とはろくに会えない日々をずっと送ってきたから当然かもしれないけど。

 そして…漫画学習の成果で様々な愛のカタチを習得した若様のアレなスキルは…なんてゆーか、その…もはや天下無双☆


「ンフフ…僕が今どんなコト考えてるか、解る?」


 私の胸に手を添えたまま、耳元で囁きかける彼。

 わざわざ心を読むまでもない気がするけど、せっかくだから読んでみたら…想像以上にスンゴかった!?

 誰よこの人に成人向け漫画なんて見せたの?

 …私ですスミマセンッ、つい魔が差しちゃいましたっ♩

 だって私達、そーゆーお年頃なんだモン☆


「…おいで。やまぶき♩」


「…はい♩」


 守衛さんから聞き出した、監視カメラの死角に私を招き入れた彼は…


「…気持ちいい?」


「は、はい…んあっ!?」


「カワイイよ…やまぶき♩」


「…若様のえっち♩」


 てな感じで、以前にも増してバカップル度全開のダイミダラーでゴーダンナーな日々を謳歌しちゃってた☆

 肉体的に幼い私が痛がるせいで我慢してるらしく、さすがにまだ最後の一線は越えてないけど…それ以外のコトはだいたいしちゃってるし…すぐに下着が汚れちゃうから、着替えるのも大変で…


「僕が何もしてなくても準備万端になってるキミのせいでしょ?」


「…言わないでくださいよぅ…バカ♩」


 ハンサムで、優しくて、誠実で、カッコよくて、頭も良くて、なんでも器用にこなせて…私だけをまっすぐに見つめてくれる。

 若様は本当に非の打ち所がない、理想の恋人そのものだ。

 逆に私の方が非の打ち所ばかりで…

 最初のうちは私が若様を支えていたのに、今では支えられてばかりで…

 こんなダメダメな私なのに、それでも彼は恋人としてそばに置いてくれる。

 もう、嬉しいやら情けないやら申し訳ないやらで…これ以上望んだらバチが当たりそう。


「でも…やまぶきの下着って、まだ下しか見たことないけど。上は着けないの?」


「必要ないですよ…そんなに大っきくないし」


「そぉ? キミの胸、服の上からでもポチッてるのがけっこー目立つよ…ホラ」


 つんつくつんっ☆


「ひゃふぅっ!? ピンポイントで突っつかないで…っ」


 確かに、こんな若様の狼藉から身を守るためにも、そろそろブラを着けた方がいいかもしれないし、申請すれば支給されるだろうけど…

 何でいまさらサイズアップしたのかって勘繰られるのが恥ずかしいんですよぅっ!


「そっかぁ。んじゃ…買いに行く?

 …外のお店に。」


 …はい?

 さも当然のように言い放った若様に、私は思わず目が点になった。それって…えっ!?


「ずっと前から考えてたんだ。

 いつかココを出て、外の世界を見てみたいな…って」


 そりゃ、こんなところにずっと閉じ込められてたら、誰だってそう思うのが当然だろう。

 けれども若様は決してそんなことを言い出さないから、本気で興味ないのかと思ってた。

 でも…違った。


「ここは確かに恵まれすぎた良い場所だけど

…それじゃあ僕はいつまで経っても成長できないでしょ?

 けど、昔の僕らは本当に幼くて何も出来なかったからね。それで外に出たって、すぐに行き詰まっちゃうじゃない?」


 だから彼は、ずっとその時が訪れるのを待ってたんだ。なぜなら…


「やまぶきが大きくなれないんだったら…その分まで僕が大人になるしかないじゃない?

 それに、精神的にはキミの方がずっと大人だったから…これでやっとお揃いだしね。

 すっかりお待たせしちゃってゴメン♩」


 ずっとそんなことを企んでたなんて…私でも見抜けなかった。

 そして悟った。彼にとっては…漫画さえも、そのための手段だったんだって。

 外の世界の知識を、漫画で学習してたんだ…って。


「僕だって漫画のお陰で色々学んだし、身体も大きくなって、漫画で食べていけるほどの技術も身につけた。

 だから…そろそろ頃合いかなって」


 若様はずっと純真な子供のままで…

 けれども、その裏ではずっと狡猾に機会を窺ってたんだ。

 それを知った私はもう、驚くやら呆れるやら感心するやらで…。


「行こうよ…やまぶき!

 僕と一緒に…外の世界へ!」


 若様はすっかり逞しくなった腕を差し伸べて、私をいざなう。

 本来なら、ここで思いとどまらせるのが私の役割なんだろう。けど…


「そして…ずっと一緒に暮らそう」


「…若様…?」


「僕と…結婚してくれる?」


 嗚呼…なんて眩しいんだろう。

 溢れ出る涙で視界がどんどん曇って…もぉ、何も見えない。

 そんな私の手を取って、力強く繋ぎ止めた若様は…壊れそうなほど強く、熱く…私を抱きしめてくれた。

 ここまでされてしまったら…答えはもう、決まりきってる。


「…はい…若様。」


 そして私達はキスを交わした。

 いつもの子供じみたキスとは違う…

 生まれて初めての…大人のキスを。


 それが…最後のキスになるなんて、思いもせずに。





 外の世界へと踏み出すためには…まずは守衛さんをなんとかしなければ。

 …と、思ってたのに。


「やっと決心がついたんだな? なら俺は止めないね。後はこっちで巧くやっとくから、何処へなりと行っちまいな!」


 彼は最初からこうなることは織り込み済みだったらしく、むしろ協力的に私達の背中を押してくれた。

 事が明るみに出たら、彼だって無事では済まないだろうに…もう、どれだけ感謝してもし足りない。

 私と若様は揃って深々と頭を下げて、彼が解錠してくれた外への唯一のドアをくぐった。


 その後も行く先々で何人かの職員や警備員に出くわしたけど、意外にも皆やはり協力的で、私が手を下すまでもなく見て見ぬフリをしてくれた。

 どうやら皆、私達の仲をとっくに知っているようで、露骨に「頑張れよ!」「しっかりな!」「良い子を産めよ!」と励ましてくれたり。

 嬉しいけど…どこまで見られちゃってたんだろ?

 あと…私の身体は幼過ぎるから、赤ちゃんは産めません。ごめんなさい…若様も。


 …けれども。

 最後に立ちはだかったこの人だけは、そう簡単に通してくれそうにはなかった。

 残すところ、頑丈な隔壁扉を一枚くぐれば、晴れて施設外へ出られるというところで…


「やはり脱走を企てていたか。裏切り者め!」


 扉の真ん前に立ちはだかって、怒りの形相も凄まじく私達を睨みつけるのは…鬼の副首領。

 あえて心を読むまでもなく、ここから先は一歩も通す気がなさそうだ。

 私はしおり先生の逃亡を手伝って以来、一度も会ったことがなかったし、若様も本当に幼い頃にしか対面した経験がないようだけど…

 そんな私達へのあからさまな敵意を隠そうともしない彼の態度は忘れようがない。

 でも…言うなれば彼の恋人を奪った立場の私は恨まれて当然だけど、なぜ甥っ子の若様まで?

 あの事件以来、首領との間に深い確執が噂されているから…その息子も憎しみの対象になるというのだろうか?


「違うよ叔父さん、僕は逃げるつもりなんて全然ないよ」


 若様はそれでも果敢に彼と対峙する。


「ただ、ここから外に出て、自分の力だけでどこまで出来るか試してみたいだけなんだよ。

 ちゃんと居場所を教えて連絡もするし、ダメだったら帰ってくるつもりだし」


 えっ、そーなの? なんかカッコ悪…。

 などとほんの一瞬でも若様に幻滅してしまったせいで、副首領から意識が逸れてしまった。


「お前達は自分の立場というものが解ってないようだな。逃げる逃げないの問題ではなく…ここから出るな、と言ってるんだ!」


 ジャキッ。若様の提案を頭ごなしに否定したばかりか、副首領は懐から拳銃を取り出して銃口を向けた。

 それでも若様は怯まない。彼の甥にあたる自分を…首領の息子を撃てるわけがなく、単なる脅しだと思ったらしい。


「そこを何とか。少しは彼女に良いところを見せたいんだよ…叔父さんだったら解るでしょ?」


 かつて彼としおり先生がデキてたことを知ってた若様は、私をダシにして同情を誘おうとしたらしい。決して冷やかすつもりなんて無かった。

 けれども、それはいまだに副首領の最大の逆鱗だった。


「貴様と一緒にするなぁッ!!」


「…ダメッ若様ッ!?」


 副首領が若様に向ける怒りと憎悪が爆発的に膨れ上がったのを感じた私は、反射的に絶叫した。

 でもそのせいで、若様は一瞬フリーズしてしまった。私が余計なことさえしなければ、人並外れた彼の反射神経なら、あるいは避けられたかもしれないのに…すべて後の祭りだった。


 パンッ。


 乾いた銃声が轟くと同時に、若様の真新しいスーツの左胸に小さな穴が開いた。


「…え?」


 信じられないことが起きた表情でその穴を見つめる若様の顔が、次第に苦痛に歪んで…食いしばった口元から鮮血がツウーッと糸を引いた。


「若様…? 若様ぁっ!?」


 一瞬遅れて駆け寄る私の眼前で、若様が膝からガクリと崩れ落ちる。

 その身体を支えようとした私の手に伝わる、ヌルッとした嫌な感触…。

 背中まで貫通した左胸の傷からの、夥しい量の流血だった。


「イヤァ〜〜〜〜ッ若様ッ若様ァーッ!?」


 すっかり取り乱して泣き喚く私の腕の中で、彼はそれでも優しく笑い返して…


「…ハハッ…失敗しちゃったかな…?

 けっこー痛いね…コレ…」


 そんな若様の命の灯火がみるみる小さくなっていくのを感じる。


「…ごめんね…やまぶき…。

 もっと…漫画…描きたかっ…」


 最後まで言い終わる前に、彼の全身からスウッと力が抜けて…本当に蝋燭が燃え尽きたように、何もかもが消え失せた。

 私の手の中でいまだ穏やかな微笑みを絶やさない彼は…けれども、もう二度と起き上がらない。


「…フッ、最後まで間抜けな奴だったな」


 勝ち誇ったようにほくそ笑んで、副首領がツカツカと歩み寄ってくる。

 今しがた自分の甥っ子を…身内を自ら殺害したばかりだというのに、微塵も動揺の色がない。

 ううん…元から私達を人間扱いすらしてなかったんだ。

 どうしてそこまで非情になりきれるのか、疑問には思うけど…でももう、どうでもいい。

 いちばん大切な人を目の前で亡くして…私の世界は文字通り色褪せた。

 その元凶である副首領に刃向かう気力すら、もはや残ってはいない。


「残るはお前だけだ…『魔女』。

 この時をどんなに待ち侘びたことか…!」


 一旦はしぼんだ彼の憎悪が、若様のとき以上に膨張していく。

 そうか…彼の標的は最初から私だったんだ。私に惨めな気分を嫌というほど味わわせるために、わざわざ若様を先に始末したんだ。

 殺したいなら殺せばいい。若様のいない世界でこれ以上生きてたって…もう…。


「あばよ、魔女…!」


 彼が手にした拳銃が、再びチャキッと撃鉄を起こす。

 これでやっと…私も若様のお側に…


「…そこで何をしている」


 私のせっかくの覚悟に水を差したのは、今頃になって姿を見せた首領だった。

 私の腕の中ですでに冷たくなっている若様を見下ろした彼は…ほんの一瞬、表情を歪めただけで…すぐに真顔に戻ると、言った。


「…説明しろ」


「『被験体』が施設外に逃亡を図ろうとしたのを、実力行使で止めただけだ」


 副首領は愉快そうに答えながらも、私に手向けた銃口を逸らさない。

 『被験体』? 私達『実験体』とは違う呼称だけど…どうして若様に…?


「…やむを得まい。」


 首領の口からこぼれた信じ難い一言が、とうに失くしたと思った私の怒りを呼び覚ました。


「何なの…それ?

 自分の子供が殺されたのに、どうしてそんなッ!?」


「おいおい、今度は兄上に歯向かうつもりか?

 やはり貴様は危険だ魔女、今すぐここで…ッ!」


「止めろッ!」


 珍しく言葉を荒げた首領が、副首領の銃を取り押さえた。銃口を自分へと向けさせ「ならば撃ってみろ」と有無を言わさぬ態度で。


「この者は私が養育係に任命した。

 『被験体』亡き今もその任は継続中だ。

 勝手な真似は許さん…!」


 副首領のみならず、私にも険しい目を向けて…「早まるな」と言わんばかりに。


「クッ…命拾いしたな、魔女。

 …次は無いぞ…!」


 悔しげに歯噛みした副首領は拳銃を懐にしまい込みながら安っぽい捨てゼリフを吐き捨てると、駆けつけた回収班と入れ替わりに現場から姿を消した。


「…丁重に弔ってやれ」


 やはり自身の息子とは思えない言葉を手向けつつ、それでも言葉少なに敬意を示した首領と私が見守る前で…

 敬礼を返した回収班は、若様の亡骸を丁寧に遺体袋に収納していく。


「…若様…っ」


 再び泣き崩れる私の肩に手を置いて、首領は…誰にも聞こえないよう、私の心に直接語りかけてきた。


《…救いたいか? 『若様』を》


 この局面でまたもや驚くべき言葉だった。

 にわかには信じ難いけど…若様を救う方法が、まだあるというのか!?


〈当然です! でも…どうやって?〉


 私は泣き続けるフリを続けながら、胸中で問い返す。


《ならば…後で『最下層』に来い。

 …くれぐれも、奴には悟られんようにな》


 副首領が消えた方向に留意してそう答えた首領は、くるりと私達に背を向けてその場から立ち去った。


「…こんな時まで冷徹な人だな」


「黙って作業を続けろ。血痕も残すなよ」


 呆れとも敬意ともつかない愚痴をこぼしつつ作業を続ける回収班の様子をぼんやり眺めながら…私は混乱していた。

 現に若様は、こうして私の眼前で永遠の眠りに着いているというのに…ここからどうやって助けるというんだろう?





 薄暗い照明に照らし出された、自然のままの岩肌が剥き出しの洞窟が延々と続いている。

 どこからか地下水でも漏れ出してるのか湿気が高く、ジメジメした不快な場所…。

 ヒーロー番組の影響で、秘密結社といえばこんな光景を思い描く人も多いだろうけど…

 実のところは本物の構成員の私達でも、こんな不気味な場所には滅多に足を運ばない。

 ここが首領に指定された『最下層』へと続く地下通路の一角だ。

 踏み出すごとに反響する自分の足音に怯えつつ、それでも若様を救いたい一心で歩き続けることしばし…

 ようやく突き当たりの扉の前に、見覚えのある黒いスーツの人影を見つけた。


《…待っていたぞ》


 肉声ではなく、なおも念話による会話。

 話し声が反響しやすい場所ということもあって、ずいぶん警戒しているらしい。

 とはいえ首領自身がテレパシーを使える訳ではなく、そのために私を起用したのだろう。彼の先見の明にはつくづく恐れ入る。


〈こんな場所に…若様を救う方法が?〉


 不安にかられた私に静かに頷き返すと、彼は扉に向かい解錠操作を始めた。


《そのためには…まず、お前を驚かさねばならん》


 それだけ覚悟を決めておかねばならない光景が、この先には広がっているということか。

 普段口数が少ない分、テレパシー上ではいつもより饒舌な首領の言葉に、私は身を引き締めた。

 けれども…唸りとともにゆっくり押し開かれた扉の先にあった光景は…


「…!!!?」


 まさしく想定外だった。

 自然洞の最奥にあるとは思えないほど近代的な施設の中には、大小様々な機器が夥しい本数の配管で接続され、メカニカルなのにどこか有機的な様相を呈していた。

 その要所要所には巨大な円筒形の水槽が設置され、内部がブクブクと泡立っていることから現在進行形で使用中なことが判る。

 そして、その中に浮かんでいたのは…


「…若…様?」


 水槽によって成長具合に差はあれど、そのどれもが彼の肉体だと…幼い頃から常に傍らで見てきた私にはすぐに判った。

 中にはつい最近入れられたと思しきへその緒が付いたままの胎児や…身体が歪に捻じ曲がったり、手脚や指の本数が異状な、明らかに人間の域を逸脱したモノもあった。

 この異様な光景はいったい何なのか…若様と共に古今東西の漫画を読み漁ってきた私には、一目瞭然で見当がついた。


「…若様のクローン…!?」


「正確には、私のクローンだ。」


 首領が明言する。


「幼い頃からお前と共に過ごし、先程死亡したアレは…その中から選出され、試験的に成長過程を観察していた『被験体』だったのた」


 それで全てが繋がった。

 若様が決して施設外に出して貰えなかった理由。

 副首領が彼を人間扱いすらしなかった理由。

 そして…首領が彼を異様に恐れていた理由。


「だから…私が産み出されたのか…!」


 クローンで複製可能なのは遺伝情報のみ。

 身体的特徴や素質、嗜好等はオリジナルに酷似する一方…個人的な経験に基づく記憶は当然のごとく受け継がれない。

 そこで私の記憶操作能力が効力を発揮する。


「万一、私に父上のような事態が発生した場合には…速やかに次の素体が用意され、お前の能力で私の記憶を刷り込まれた新たな『私』が次期首領の座に着く寸法だった」


《まったく…これでは私も組織も未来永劫、停滞したままだろうが…》


 淡々と『首領再生計画』を暴露する一方で、彼は不愉快極まりない内心をあえて吐露する。

 現首領の彼は、先代をも凌ぐ歴代最強の素質の持ち主と噂されているから、そうした計画が浮上したのは無理もないことかもしれない。

 けど、それは決して彼が望んだことではなかったのだろう。


「そして今こそが、まさしく万一の事態だ。

 アイツももう少し分別がある奴だろうと買ってやっていたが…よもやここまで嫌われていようとはな」


 苦笑する首領の言葉に、先刻の副首領の様子を思い出す。

 彼は初っ端から敵愾心の塊で…微塵のためらいもなく若様を撃った。

 首領の息子、ではなく…『首領そのもの』に他ならない若様を。

 そしてその後、私にも銃口を向けた。しおり先生の逃亡事件の当事者である、この私に。

 彼の憎悪はすでに常軌を逸していた。

 それでも副首領は何の罪にも問われることはない。

 彼が殺したのは人間ではなく、あくまでも『被験体』なのだから。


「でも…これで若様を甦らせることになるの?」


 誰もが思うであろう当然の疑問を、私も直に問うてみる。

 長年苦楽を共にした若様と、これから創り出そうとしている若様は明らかに別人だ。

 室内を見渡してみたところ、死んだ若様とそっくり同じ素体は見当たらないし…。


「…自信が無いのか? 何のためにお前をアレの傍に置いてやったと思っている」


 ニヤリと意地悪く微笑む首領の言葉にハッとする。

 若様のことを誰よりもよく知っているのは、言うまでもなく…常にその傍で彼を見続けてきた、この私だ。

 そして此処に居並んだ素体は、肉体的にはまさしく彼そのもの。

 ならば…私が何ら疑いなく『若様』だと思えるほどの存在を創り上げることさえ出来れば、それは紛れもなく『若様そのもの』ということになる。

 何処ぞの大ヒット恐竜映画で描かれた、"太鼓の蚊の化石から抽出した恐竜のDNAを、カエルの卵子に移植して誕生させたモノが、まさしく恐竜に他ならなかった"のと同じ理屈だ。


「…貴方はどうして…こんな事態の到来を予測できたの?」


 首領の恐るべき先見の明に仰天する私に、彼は冗談めかして答えた。


「それが私の『能力』だからな。…お前と同様に」


 後々知ることになるけど、それは冗談でも何でもなかった。

 未来予知…とはいかないまでも、様々なデータをシナリオのように複雑に構築し、あたかも一本の映画のようなビジョンを完成させる…AIをも凌駕する極めて高精度な『未来予測』。

 彼のクローン計画が実行された理由もまさにそこにある。

 そしてそれは、拭いようのない一つの事実を物語っていたのだけど…それはまた別の話だ。





 クローン体の培養槽の間を縫うように歩き回りながら、首領と私は目ぼしい個体を探した。

 さながら悪趣味なウインドウショッピングだ。

 …やがて、首領はとある培養槽の前で立ち止まり、顎に手をあてて計器上の数値を確認している。

 私には素体の外観の良し悪ししか判断できないけど、見た目が良くても中身がダメだったりと色々あるようだから、選定は彼にお任せするしかない。


「フム…これが最も生育状態が良いようだな」


 首領がOKを出したのは、死亡時の若様よりもずいぶん若くて…まるで私達が初めて出会った時に逆戻りしたような幼い素体だった。

 水槽の中で眠るように揺れているその背格好や手脚の長さは私の身体と同等で…

 なんてゆーか、その…股間のアレもカワイイお子様サイズ…


「…これぐらいの方が、お前の身体にも丁度いいだろう?」


 私の視線の先を追って、しなくても良い理解を示した首領が意地悪く微笑む。こんな時の顔は本当に若様そっくり…って、クローンのオリジナルだから当然だけど。


「わ、若様と同じ顔で下品なコト言わないで…っ!」


 真っ赤になって非難する私に、首領はなおもいけしゃあしゃあと、


「アレの方が私と同じ顔をしているのだがな。

 少なくとも私の方がより上品だと思うし」


「なら子供じみた反論はやめて。どうしてそんな意地悪ばかりするの?」


「…はて、なぜだろうな?」


 などと言い合うまでもなく、それが明らかな愚問だったことに気づいた。

 クローン同士の嗜好や性格は似通ってるから、若様が私に惹かれたなら、つまりは首領も…。


『魔女などと呼ばれる割には、案外普通の"可愛い"少女にしか見えんな?』


 初めて出会ったときの彼のセリフが今さらながらにリフレインして…二人揃って気まずくなって目を逸らし合った。

 そして気づいた。首領ともあろうやんごとなき御仁が、なぜ一介の実験体に過ぎない私にタメ口をきくことを許したのかを…。

 あと、本気で若様に世話役を付けるなら、マインドコントロールの件は別にして、どうして腕に覚えのある警備員や実験体ではなく、戦闘力皆無な私だったのかも。


「…い、今さら貴方にはなびかないからね?」


「…だろうな。私はお前のようなショタコンのもはや守備範囲外か?」


「ムッ…そーゆー貴方こそロリコンでしょ!?

 道理で浮いた噂の一つも聞かないと思ったら…」


「ムゥ…私の場合はお前と違って、周囲が火消しに奔走しているだけだ」


「そんなしょーもないコト、人に任せるなっ!

 私に一途な若様を、もっと見倣ったら?」


「その若様が、将来的には私になるのだがな?」


「うぐっ…止めましょう、なんか不毛だし…」


 …ま、まあ、確かに顔は若様と同じだし、態度も紳士的でそう悪くはないし?


「…それにしても、お前が私にここまでモノを言えるようになるとはな。最初はまさにお人形さん然としていて、いささか不安を覚えたものだが…」


 なのによく私を起用する気になったな…。


「貴方の方こそ、その口から下ネタやらショタコンなんて言葉やらが飛び出すとは思わなかったわ…」


「別段不思議はあるまい。私はコレのオリジナルだし…漫画も割と好きだぞ?」


 自身のクローンがたゆたう培養槽をコンッと小突いて、さらに予想だにしなかったことをのたまう首領。

 けっこう顔を合わせてたのに、この人のコトは何も知らなかったんだな…私。

 これが済んで落ち着いたら、もっとじっくり話をしてみても良いかもしれない。


「…お前との与太話も悪くはないが、時間が惜しい。そろそろ始めよう。手順は解っているな?」


 言われて私もハタと気を引き締める。

 しょーもないコトにうつつを抜かしてる場合じゃなかった。

 この日に備えて、『洗脳』手順はイヤというほど叩き込まれた。

 最も手っ取り早いのは、催眠状態の相手にこちらの要望を刷り込むこと。

 幸い、培養槽内の素体はすでにその状況下にあって、言語や一般常識などを学習中だから…そこに割り込む形で記憶を上書きする。

 若様と出会ってから悲劇的な最期を迎えた先刻までの、私が間近で見てきたありとあらゆる『彼』の姿を。

 …ここで注意しなきゃならないのは、あまりにもこちらに都合が良いコトばかり押しつけないこと。

 それを失念すると必ずどこかにシワ寄せが来て、歪な人格に陥りがち。大切なのはバランスだ。

 とはいえ若様の嫌な部分なんて数えるほどしかないけど…それも包み隠さずキチンと練り込む。


 夢見がちで現実がぜんっぜん見えてないトコとか…

 無闇やたらと自信過剰なトコとか…

 大らかに見えて割と短気で、すぐ拗ねちゃうトコとか…

 私が傍にいるのに、他の綺麗な職員さんや漫画のカワイイ子にすぐ浮気しちゃうトコとか…

 ホントは大っきいおっぱい大好きなトコとか…

 ちょっとエロいと、すぐにおち◯◯ん大っきくしちゃうトコとか…

 常に八割がたエロエロなことしか考えてないトコとか…

 恥ずかしいって言ってるのに、思っきしおっ広げちゃうトコとか…!

 うわっ、思い出したらすんごいムカついてきた。殴っちゃろかい!?


 …あの、私、ちゃんと若様のこと好きだからね? ホントだよ!?

 正直いろいろ不満もあるけど…でもそれこそが、私の大好きな若様なんだからネ!

 などと誰に対してか不明な釈明に追われつつも、私が知り得る限りの『若様』を対象に叩き込んだ…!


「…よし。覚醒させるぞ」


 私の作業が終わったのをみて、首領が機器を操作する。

 すると培養槽の水がゴボゴボと抜けていって…やがて全部抜け切ると、水槽が天井にリフトアップされた。

 倒れたマネキン人形のように、中から素体がゴロンと転がり出てくる。

 慌ててその身体を支えると…温かい。

 今まで水中にいたから冷え切ってはいるけど、この温もりは…たしかに生きてる!

 そう実感できた次の瞬間、


「ゔ…げほゴポがぽほッ!?」


 激しく身悶えながら口から水を吐き出した素体が、痙攣する瞼をこじ開けて、朦朧とした視線を漂わせた。


「けほっゼェハァ…なんで水の中に…溺れ死ぬかと思った…。

 ってアレ? たしか僕、叔父さんに撃たれて死んだんじゃ…?」


 記憶が…ちゃんと繋がってる…!


「でも傷口がない…ってゆーか…アレ?

 …アレレレェ〜〜〜〜ッ!?

 どうして子供の身体に戻ってるの!?」


 至極当然な疑問にパニクる若様の様子に、私はもう居ても立ってもいられなくなって…!


「若様…っ!!」


「や、やまぶき!?…ゴメン、心配かけちゃったみたいだね」


 私に抱きすくめられた彼は、号泣する私を見てすべてを悟ったらしい。


「…頑張ってくれたんだね…ありがとう」


 そう言って優しく頭を撫でてくれる彼は、以前の彼とは確かに別人かもしれないけど…

 私にとってはまさしく本物に相違なかった。


「あと…ゴメンね、コッチも子供に戻っちゃった」


 自分のおち◯ち◯を指先でこねくり回して、残念そうに詫びる若様。

 いや、私に謝られましても…。

 妙な気遣いをされたせいで、せっかくの感動が台無しに…いかにも彼らしくて安心したけど。


「…よし。これでいい…!」


 そんな私達の様子を傍らで愛おしげに見つめていた首領は、まるで自らを納得させるように大きく頷いたかと思えば…


「最後に…私からの忠告だ。

 これから先、お前達には大きな苦難が待ち受けていることだろう。

 …だが、必ず道は開ける。

 決して諦めるな…!」


 まるで何処ぞの王道RPGみたいな定型セリフを口走ったかと思うと、珍しくニッコリ優しく微笑んで…そのまま部屋からフラリと出て行った。

 柄にもなくクサいコトをのたまってしまって照れてるのかなと思ったけど…

 彼には『未来予測』能力があることを、その時の私はすっかり失念していた。


 そして…それが彼の最期の姿になった。





 …奴が出てきた!

 やはりここに来ていたか。

 ということは…『魔女』は室内か。

 恐らくは『被験体』の再生作業中だろう。お利口さんな連中は行動が読みやすいな。


「…ここで何をしていたのかな…兄上?」


「…設備の点検だ」


 呼びかけつつ通路の岩陰から姿を現した俺に、首領はさほど慌てた素ぶりも見せずにしれっと応えた。


「ほぉ? 首領様自ら点検とは感心だな」


 フンッ、見え透いた嘘を。


「ココの"使用"には全幹部の承認が必要だ。独断での稼働はたとえ首領でも許されんぞ?」


「ならば…どうする?」


「知れたことを。裏切り者には処罰が必要だ」


 懐から引っ張り出した銃を見せるも、奴は顔色ひとつ変えない。俺もずいぶん見くびられたものだな。

 …いや、未来予測能力を持つ此奴のことだ。こうなることは当初から織り込み済みか。

 ということは…


「おのれっ、『魔女』と『被験体』を逃すつもりか!? そうはさせんぞっ!」


 憤慨しつつ銃口を向ける俺を、しかし首領は小馬鹿にしたように笑い飛ばし、


「お前の勘の鋭さには目を見張るものがあるな。なまじ未来予測に頼りがちな私には、そうした必死さが足りない。

 だが…残念ながら、お前はいつも詰めが甘い。だから女の一人も守ってや」「黙れェッ!!」


 タァーンッ!


 この期に及んでの罵詈雑言を、奴がすべて吐き終わらないうちに、俺は反射的に引き金を引いた。

 俺の意志じゃなく、奴がそう仕向けたせいだ。

 それでも奴の未来予測なら、あらかじめ"知っている"弾道を避けることなど容易い…はずだった。

 しかし…奴は一切動こうとはせず、鉛玉をその胸に受け止めた…!?


「…何故…だ? どうして避けない!?」


 結果的に俺の方が慌てふためいて、倒れ込む奴に駆け寄ることになった。

 だが…一見してそれは致命傷だと判った。


「…言った…だろう? 私には…必死さが足りない…と。運命に抗う術など…知らん…っ」


 だからといって…! き、救護班! 救護班に連絡を…すれば俺が撃ったことが一目瞭然じゃないかァッ!?


「良い…首領など、多かれ少なかれ…ろくな死に目には遭えん立場…だ。

 それが嫌なら…お前はせいぜい抗ってみせろ。

 先にあの世で待っててやる…あの女と共に…な」


 縁起でもないことを!と言いかけて…その言葉の違和感に気づいた。


「待て…あの女とは?…まさかッ!?」


「そう…だ。お前の女…しおりは既に…死んで…る」


 バ…バカな…っ!?


「私が放った…調査員からの報告…だ。首領ともあろう私が…幹部の逃亡を…黙って見過ごすはずもなかろう…?」


 嘘だ…ウソだ…っ!?


「だから…言っただろう。こんなところで燻っておらずに…さっさと跡を追えと」「嘘だぁア〜〜〜〜ッ!!」


 タンッパパンッタタタタンッ!


 俺はまたも闇雲に引き金を引き絞った。

 しおりを失った悲しみと悔しさ…そして首領への憎しみ…

 様々な感情が入り乱れた涙で視界がかすむ中、無機質な銃声が洞窟にこだまし、首領の身体が大きく跳ねる。

 だがそれも最初だけで、すぐに微動だにしなくなった奴はただ弾丸を受け止めるだけの哀れな肉塊と化した。

 やがて全弾撃ち尽くし、カチカチと耳障りな音を立てるだけになった拳銃を取り落とすと…


「…ぁ…ぅぁ…ち、違う…違うんだ…っ!」


 今さらながらに自分がしでかしてしまった事に愕然となった俺を、言いようのない恐怖感が襲った。

 首領が…兄上が目障りで仕方がなかった。

 こんな奴など消えて無くなってしまえばいいと、いつも胸中で願っていた。

 けれども実際それを、しかも自分の手で実現させることになろうとは…。

 こんなことが明るみに出れば…俺はもう破滅だ…!


「殺してもなお、俺は奴に敵わないというのか…?」


 首領の権力は絶対だ。そしてそれは今もなお継続している。

 あのクローン達がいる限り…奴は死なない!


「…否…断じて否!

 俺はたった今…兄上を超えるッ!!」


 そうだ…もう失うものなど何もない。

 負け犬のまま終わるなんてゴメンだ。

 こうなったらもう破れかぶれ…

 何だってやってやるッ!!




【第九話 END】

 前回までとは打って変わって、今回はゴタンマ現首領こと金ちゃんことやまぶきの過去バナがメインです。

 いわゆるネタバレ回ですね(笑)。

 通常、この手のお話は最終回直前にねじ込むものだと思いますが、今後の展開上ここいらである程度手の内を明かしておいた方が解り易いかな〜と考えた次第でして。

 何故あんなちんまい小娘が首領を任されてるのか? 主人公ななおとの接点は?

 そしてななおが自分でも解らないほど漫画にドップリのめり込んでるのは何故なのか?

 様々な謎が氷解する高密度なお話となっております…が、それだけに一回では収まり切らなかったので次回も続きます。


 てな訳か?ラストはほとんど副首領ことじろさんの独壇場どくだんじょうとなっております。

 あたかも少年漫画のような諦めない男を演出しておりますが…単に諦めが悪いだけの女々しい野郎です。現実は紙一重!(笑)。

 こーゆー何やっても報われない人って、けっこー好き♩

 今回は出番が無かったななおの両親、やまぶきの相棒のシロちゃんことしろがね、そしてななみ等、物語の根幹に絡む主要人物はほとんど出てくるので、乞うご期待!とゆーことで。

 実はそれ以外に根深く関係してるキャラもいますが、さすがにこれ以上のネタバレは御容赦をば。

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