眼鏡爆発。
【前回のあらすじ】
いいんちょがやってきた! ヤァヤァヤァ! と喜んだのもつかの間、七尾家の中心でエロ漫画撲滅を叫んだ彼女は、強制措置の名目で偽ななみに拉致られてしまった!
ななおたち義兄妹はゴタンマ特製拘束ワイヤーによる亀甲縛りで動けない!
猛烈にピンチなんでないかぃ?
◇
「やいコラッ、何だよここはァッ!?」「拘置所にぶち込むんじゃなかったのかよ!?」
ドーム状の大広間に通された容疑者たちが、大人げなく騒ぎ立てます。
…容疑者という呼び方は適切ではありませんね。貴金属店内の防犯カメラ映像により、彼らがショーケースを叩き割って商品を強奪したのは明らか…よって紛れもなく犯罪者です。
最近の防犯カメラは大幅に進化しており、たとえ覆面をしていようと多少の整形をしていようと、高確率で人物特定が可能なため言い逃れはできません。
さらには犯罪者という呼び方すら、既に時代遅れです。
人間による裁きは担当者により量刑がまちまちで不公平な上、何かと準備に時間を要するため判決が出るまでに関係者に過大な負担を強いるなど、現代社会にはそぐわない古びたシステムと化してしまったことが長年の課題でした。
そこで裁判にもAI判定を導入する運びとなったのが今から十年程前。すると当然のように「人間を機械に裁かせるのか?」という反対運動が巻き起こりました。
他の生物の生命を我が物顔で弄び続けてきた人間がそれほどまでに御大層なものだとは、私には到底思えませんが…。
紆余曲折の末、ならばいっそ犯罪という概念そのものを取り払うことになりました。
人間は生まれながらに罪人であり、それ故に道を踏み外すことが多々あります。
外れた者は、元の正しいルートに戻してやれば良いだけのこと。
かくして従来の犯罪者は『要矯正者』と呼び名を改め、刑務所に代わる『矯正隔離施設』にて矯正処置を受けることと相成りました。
なるほど、これなら機械に裁かれるのではなく『不良品』として一時的に弾かれるだけです。
なんだか呼称を改めただけのような気がしなくもありませんが、それでも大勢の国民が納得するならきっと良策だったのでしょう。
従って現在、我らが国家には犯罪者は唯の一人も存在しません。
矯正処置はAIによって適切かつ合理的に執り行われ、早い者では数日から遅い者でも一年未満で再び社会復帰します。
従来のように更生の見込みがない者を半永久的に隔離し続けたり、オトナの事情で死刑執行が実施されないまま寿命が尽きるまで無駄な税金を投入し続ける必要もありません。
ですが…
「誰か何とか言えやゴルァッ!?」「後で覚えとけよクソがァッ!!」
中にはご覧のように、矯正するだけ無駄な輩も少なからず存在します。
モニター越しに毒づく彼らには気品など微塵も感じられませんし、現に確保後のAI診断でも「処置なし」と見限られました。
その様なクズ…いえ『不良国民』たちは、こうして我が秘密結社ゴタンマに送致されて来ます。
…様々な生体実験のサンプルとして。
「どーする金ちゃん、コイツらまるで使い道なさげだけど? 警備ドローンのパーツにすらなりそうにもないにゃ」
私の隣でモニターを眺めて顔をしかめたシロちゃんが、投げやりに吐き捨てます。
現在でこそ完全電脳化された警備ドローンですが…開発初期のAIは反応速度が人間以上に遅く、緊急を要する現場ではまるで使い物になりませんでした。
そこで、こうした不良国民の脳髄を初期化した上で四肢を切断し、ドローン内に生体パーツとして直接設置していた時期もあります。
形式名はたしか…『あーるないん』だったかな?
ところが生体パーツは衝撃には極度に脆く、激しい使用に耐え切れず本体内部で生体パーツがシェイクされ、落っことしたプリンみたいになってしまうことが多々ありました。
その度に中枢パーツは丸々交換となり、必要経費もバカになりませんでした。
幸い生体パーツの予備だけはいくらでも補充されて来ましたが…結局使い切れずにミンチにして生物兵器の餌にしたりもしましたっけ。
今回の彼らも拘束時に一人が頭部損傷で重篤となり、『生命に別状はなかった』ものの処置の施しようもなかったため、早々と精肉処理に回されました。
…え? それは法律的や倫理的にどうなのかって?
はて、それをウチの様な非合法組織に訊いてどうなるというのでしょうか???
そもそも悪いのは使い道のない不良国民たちであって、それをウチに突っ込まれるようではおしまいですかね〜?
「しょうがない…久々に『アレ』、やってみる?」
「…『アレ』かにゃ? めちゃめちゃキショいんだけど…首領サマの御判断なら仕方ないにゃ♩」
ニンマリ笑ったシロちゃんは、すぐに関係部署に指示を送ります。
やがて…広間へと通じるシャッターが重々しく開き、暗がりから何かがモゾモゾ這い出してきました。
「ぉ…ぃぉぃおいおーいッ!?」「な、何だコレ…何なんだコリャアァーッ!?」
不良国民…いえ、被験者たちが泣き叫びます。『アレ』を目の当たりにすれば無理もないでしょう。
広間に姿を現したのは、体長数メートルにも及ぶ巨大な芋虫。頭部先端に何個もの複眼と巨大な口を持つ以外には、まさにそうとしか表現できません。
芋虫は移動速度こそ遅いものの、その巨体をいかして、逃げ惑う被験者たちの退路を塞ぐようにじわじわ距離を詰め、やがて壁際へと追い詰めました。
見た目に反して利口なのか、はたまた被験者たちのオツムの具合が残念だったのか…。
それから、まるで女性器ように卑猥な口をパッカンと開くと、ヌラヌラぬめる体内から昆虫の脚のような摂食器官を繰り出して…ドシュッ!
「グギャアァーッ!?」「アヒィーッ!?」
被験者の一人の脳天に突き刺すと、なかの脳髄をチューチュー吸い上げます。
ものの数秒ですべて吸い尽くした後は、一説によれば対象者の生態や記憶を分析して仲間の蟲たちに知らせるのが本来の行動のようですが…
「ぐるるる…ペッペッ!」
どうやら味がお気に召さなかったとみえて、ほとんどそのまんまの形で吐き戻しました。
床に落とした豆腐かヨーグルトのようなその廃棄物を、遅れてシャッターからワサワサ這い出してきた無数の蟲たちが寄ってたかって喰らい尽くします。お仲間は芋虫ほどのグルメではなかったようですね。
「あぎゃ助けぶべばァアッ!?」
残ったもう一人は泣き喚きながら逃げ惑ったもののすぐに追いつかれ、瞬く間に道端の動物の死骸のように蟲どもの餌食に。
耳や目や口…全身のあらゆる穴に蟲の鎌状の脚が突き刺さり、八つ裂きにされた挙句、細切れの人間なめろうにされてしまいました。
やれやれ…これではもう使い物になりませんね。実験サンプルが減ってしまいましたが…どうせ不良国民は雨後のタケノコのように無尽蔵に湧いて出るので、気にする必要はないかと。
さて…注目はむしろ、文字通り中身がスッカラカンになって幾分凛々しい顔立ちになった被験者…だった空容器の方です。
それが倒れている処に向けて、天井から給油ホース状のノズルが静かに降りてきました。
その先端が頭部の傷口に接続されると、ホースが脈動し始めます。
あれは頭蓋内部にナノマシーンの集合体である有機量子コンピュータを流し込んでいます。
腐った脳みそは廃棄し、新たな頭脳を与えて真人間へと生まれ変わらせるのです。
これで便宜上、我が国に不良国民は一人も存在しません。誠に素晴らしき事かと。
「でも…問題はここからなんだよにゃ〜」
シロちゃんが言うように…やはり今回もソレが発生しました。
やおら被験者の首や手足がバキバキひしゃげて伸び出したかと思うと、次第に形状や色合いが変化し…あっという間に巨大な蟲になってしまいました。
黄色と黒のツートンカラーの脚が、まるで縞々のニーソックスみたいでお洒落でカワイイと思うのですが…何故だかシロちゃんにはセンスがないと笑われてしまったので、以来言わないようにしています。
もちろんナノマシーンにはその様なプログラムは仕組まれていないのですが…脳を入れ替えただけで何故こうなってしまうのか、現時点では皆目原因不明です。
あるいはコレが人類本来の姿で、先祖返りを果たしているだけなのかもしれませんが…。
そして次の瞬間。
「あっ。…やっぱり逝ったにゃ」
華麗なる変身を遂げたグレゴール・ザムザの姿が、忽然と目の前から消えました。
あれだけの質量を持った物体が一瞬で跡形もなく消え去ることなど、通常は考えられません。
追跡調査の結果…なんと、外宇宙の別惑星に転送されている事実が判明しました。
確か…ぶれんだす星系…だったでしょうか。
しかもそのギミックはさらに謎で、我らがゴタンマが誇る最強AI『ニャオスリー』の解析によれば、遺伝情報が人間のものから蟲に置き換わった瞬間、所在地までもが変わってるというのです。
これまた原因不明ですが、ニャオスリーいわくシステム上の都合によるもので、リージョンの相違だとか、コード制限に抵触するからだとか…?
加えて、両者の遺伝情報はほぼ同一で、唯一居住許可区域だけが異なるとか…?
その割には、ニャオスリーが再び彼らの遺伝情報を書き換えてやると、まるで問題なく地球上に居住するようになります。
今、モニター越しに見ているあの蟲たちは、そうして試験的にこの地に取り寄せたものです。
そもそも、そんな遠方の存在の遺伝情報をニャオスリーがどうやって書き換えているのかも、誰にも解りませんが。
彼女いわく「システム自体にアクセスできれば比較的簡単」だそうですが…その『システム』なるものがいったい何処にある何を指すのかも、我々の理解の域を超えています。
そんな具合でさっぱり要領を得ませんが…案外、我々人類の祖先は、かつてあちらから何らかの手違いで地球上に転送された蟲だったのかもしれませんね。
やがて人類がそちらの星系まで進出を果たした暁には、同じ人類同士が出逢う感動的なシーンもあり得るかもしれません。
「…まあこの件に関しては、今後も引き続き調査ってことで♩」
何事も一人で考え込むのはよくありません。解らないことは解る人に任せて、私のような部外者は何も考えないのがイチバンです。
「ラジャー☆
…それにしても金ちゃん、今日のはやけに判断が早かったにゃ? いつもはギリギリまで粘ってるのに」
シロちゃんが言ってるのは、今回の被験者たちの処遇についてです。
どうしようもない不良国民とはいえ、個々の人間であることに変わりはないし、多少は可愛げもあるので、いつもはああするまでに多少は悩むものですが…
「…あの人たち、大っ嫌いだったから♩」
彼らが犯した空前絶後の過ち。
それは『若様に襲いかかった』ことです。
いつもは温厚な私もこればかりは許せませんでした。
そこで実はコッソリ裏から手を回し、彼らが最短日数で確実にこの場に送致されるように仕向けました。
職権濫用と後ろ指をさされようと…私の大切な若様を脅かすものは、誰であれ何であれ、こういう目に遭うと思って頂いて結構です…!
…でも、おかげでスッキリできました☆
「さて、私たちもそろそろお昼ご飯にしよっか? 蟲さん達のお食事見てたら、お腹空いちゃった。
私はプリン・ア・ラ・モードがいいな〜♩」
「うぷっ、アレ見た後で? 金ちゃんやっぱりこのお仕事メチャ向いてるにゃ」
口を押さえたシロちゃんが青ざめた顔で言います。この子はゾンビ映画とか大の苦手ですから…私は大好きですけど♩
「あとそれ、主食じゃなくてデザートだから。太るにゃ? しかも昭和っぽい…」
「うぐぅ…っ」
本当はお蕎麦とかうどんとか牛丼とかカレーライスとか、手軽に食べられるメニューが好きなんですが…
それ言うとシロちゃんが「おぢさんっぽい」って笑うから、知ってる内から一番カワイイものを言ってみたのに。
見た目だけは若いと自負している私ですが、どーせ中身は年相応のオバサンですよ…フンッ。
「ありゃりゃ…いぢけちゃったにゃ?」
◇
「ゴッタンッマゴッタンッマ清〜く正し〜い我らがゴッタンッマぁ〜♩
…ささっ、とっととお入りやがれですよぅ!」
意味不明な鼻歌を口ずさむHWMに廊下を引きずられ続けた私は、とある部屋の前に到着するなり室内に蹴り込まれた。
見た目は可愛いメイドさんなのに…行動の端々にヤンチャな本性が見え隠れする子だ。
それにしても、この部屋…大きなツインベッドが置いてあるアダルティックな様相かと思えば、大半は膨大な漫画本がギッシリ詰め込まれた本棚で埋め尽くされていたりと混沌としてる。
よく見れば、部屋の真ん中には壁を無理やりくり抜いたような跡があるし…いったい何なの?
「えっへん! ココがマスターとあたしの愛の巣ですよぉ〜♩
…約一匹、小うるさい野良猫も入り浸ってますけどぉ」
なんですと!?…ってことはココで七尾くんと妹さん達がくんずほぐれつ、あーんなコトやこーんなコトを…はぁはぁ。
「なんかあらぬ妄想をされてるよーな気がしますがぁ〜?」
「ハッ!?…こほんっ。こんなトコに連れ込んで、いったいどうするつもり!?」
「はぁ〜、これからいいんちょサンをサクッと『洗脳』しよーと思いましてぇ〜♩」
せせ洗脳!? 今、洗脳て言った!?
「それほど酷いことはしませんよぉ〜。まずはぁ…コレでも見てリラックスしてくたさいませませぇ〜♩」
と言いながらHWMは、本棚からペラリと引き抜いた薄い本を私に手渡した。
なにコレ? こんなパンフレットみたく薄い本、書店じゃ見かけないけど?
…裏表紙にも書籍コードが無いし…正規の流通品じゃない?
「あやや〜ご存知なかったですかぁ〜? それこそがマスターと野良猫がこさえた漫画…いわゆる『同人誌』ですねぇ〜」
へぇ…これが。書店には足繁く通う私だけど、もっぱら文芸専門だから漫画方面の知識はさほど多くない。
同人誌という代物自体は今日でも健在で、以前と変わらない勢いで世に出回り続けているというけど…実際に手に取ったことはなかった。
改めて表紙を見返せば、一般書籍に勝るとも劣らない美麗なイラストがフルカラーで印刷されてて、思わず見惚れてしまう。
さっきリビングでチラリと見た鉛筆画も素晴らしい筆致だったけど、ちゃんと清書して製本されると驚嘆すべき完成度だ。
あんなチビっ子にこれほどの画力があるなんて、いまだに信じられない。
描かれてる内容が内容なだけに、素直に褒める気にはならない……ハッ!?
「もしかして…コレも?」
おっかなびっくり表紙をめくれば…予想通りの酒池肉林ぶりに目を覆いたくなる。未成年がこんなの描いてちゃダメでしょ明らかに!?
しかも…鉛筆描きでも充分すぎるほどの迫力だったけど、ペン入れされてるとさらに凄まじい。
表紙にはしっかり十八禁表示がなされてるし、まだ高校生の私が読んで良いワケないのに…読まざるを得ない禁断の青い誘惑。
でも描いてる本人たちが未成年なんだから、まいっか? ハァハァ♩
「ふひょへへ、お気に召しましたかぁ〜?」
…ハッ!? アブナイアブナイ、うっかり敵の術中に嵌るところだった!
「フ、フンッ! こんなモノでどう洗脳するって? コレ見てオナニーでもしろっての!?」
普段人前では絶対口にできない言葉も、HWM相手ならスラスラ言えてしまう(※割と失言まみれだが、本人はまるで無自覚)。
ストレス発散にはもってこいかも…
「今のぶっ飛び発言、しっかり録音させて頂きましたぁ〜♩ マスターにお聞かせしたらきっと、そりゃも〜大喜びで猿のように…」
「それだけはヤメテお願い言うコト聞くからッ!!」
まさか録音機能なんて罠が潜んでたとは…迂闊だった!
「げっへへへぇ〜、それじゃあ身体が自然に馴染むまでソレ読み耽ってエロ漬けになりやがれですよぉ〜♩」
くぬぅっ、この下衆HWMがッ!!
まあ、ブツの末端価格が安いのだけが唯一の救い…
「ちなみにその作品、野良猫のデビュー作で発行部数が少ない上に修正がギリギリまで緩かったんで、現在はプレミアが付いて超お高いですよぉ〜?
たしか現行価格でゼロ四つ…」
「ちょっ…そんな希少本手に取らせないでっ!」
危うく汗とかヨダレとか色々汁まみれにするトコだったじゃない!?
今の聞いて出るモンも引っ込んじゃったわよ!
「ではでは、お口直しにこちらをどうぞぉ〜♩」
すっかりタガが外れた私に、アブナイお薬の売人みたくほくそ笑んだHWMが、今度は大判の茶封筒を手渡す。
うぅっ…自分の本性をさらけ出してしまったみたいで、相手がHWMだと判ってても恥ずかしい。
どうせコレもそうなんだろうけど、いまさら拒絶するのもアレだからと受け取って封を開く。
「…あれ? 同じお話…」
「はぁ〜、そちらは今しがたお読み頂いた同人誌のナマ原稿になりますぅ〜」
ということは、印刷前の状態か。
直筆は印刷物をさらに上回るペン画の迫力。原稿自体が製本版より一回り大きいから、微細な箇所まで緻密に描き込まれているのがよく判る。
どうやらトーン処理や背景はPCで行われてるようで、本当にペン入れされた線画のみだけど…それでも充分肉感的で魅入られてしまう。
けど、なんでまた同じ内容のモノを…と疑問を抱きつつ、濡れ場に差し掛かった瞬間。
「ッ!? し…修正…されてない…!?」
思わず目が釘付けになる。
当然だけど、同人誌上では性器描写に修正が施され、完全には見えない状態だった。
でもこの原稿では、修正は一箇所もなく…モロ見えなのよモロ見え! ハァハァハァハァ☆
「そりゃ原本ですからねぇ〜。そこからPC上にてAIで出版コード診断並びに自動修正を掛けてるようですぅ〜」
なるほど…それなら故意にせよウッカリにせよ修正漏れが防がれて、警備ドローンに拘束される事態も防げる訳か。
それにしても…ここまでリアルに描き込まれてるだなんて…♩
「もちろん元ネタがありますからねぇ〜。たとえどんな天才でもAIでも、想像だけではそこまでは描けませんよぉ〜」
「元ネタ? ネットに出回ってる無修正画像とか…?」
「いいえ〜。どーやらあの野良猫はPCやスマホが使えないようなので〜、必然的に身近なモノを参考にするしかありませんねぇ〜?」
身近なモノ…?
ってゆーことは…
「はぁ〜、つまり女性器は野良猫ので、男性器はマスター…」
「あ゛ーっ! あ゛ーっ!! あ゛ーっ!!!」
聴こえない聴こえない何にも聴こえなーいっ!
でも一足遅かったから丸聴こえだったァーッ!!
一旦インプットされてしまったら、もはやどう見てもそうとしか思えない。
この、何もかもさらけ出して彼氏のをパックリ受け入れてるのが妹さんので…
それを激しく突き上げる、雄々しくそそり立ったのが…七尾くんの…?
医学的知識として一通りのことは知ってるつもりだったけど、ここまで詳細なモノをまじまじと見たのは生まれて初めて…。
スゴイ、今にも血管が破裂しそうなくらい張り詰めてて…あっ、こんな処にホクロが…
結合描写も病的にリアルだけど…まさかあの二人、実際にこんな行為を…?
ううん、昨日までは実の兄妹だと思ってたんだから、それは無いとしたら…何か代わりのモノを自分で押し込んで…!?
い、痛くないのソレって? 私は想像しただけでもう無理っ!
いつもはせいぜい、周辺を指先で撫でるだけで精一杯で…
…ダメっ。こんなのいつまでも見てたら、理性が持たない!
って解ってるのに…どうしても目が背けられない…っ!
「はぁはぁハァハァ…ぽたっ♩」
…『ぼたっ』?
いや〜んな予感がして原稿に目をやれば…
ヒロインの喘ぎ顔のド真ん中に、私のヨダレが作った大きな染みが出来ていた。
こ、この同人誌って希少本でプレミア価格ン万円…そのナマ原稿ってことは…っ!?
「あ〜〜ら〜ら〜こ〜ら〜ら〜♩ マーースターにぃ言ってやろぉ〜♩」
「ヒィイ〜〜〜ッ!? おおお願いですから見逃してくださいHWM様ァーッ!!」
してやったりとドス黒い笑みを浮かべる下衆メカ娘に、私は平身低頭で拝み倒すしかなかった。
…それこそが彼女の張った罠だと気づく余裕すらなく。
後でその染みをよくよく観察してみれば…水分で用紙がふやけてはいるものの、インクの滲みが一切なかった。
直筆ならインクでペン入れしてるから、たとえ耐水インクでも多少の滲みは発生するはず。それが無いということは…
このナマ原稿は私を陥れるためにあらかじめ用意された、精巧なコピーだったんだッ!
おのれぇ、なんたる悪虐卑劣な手口! こんなの造ったのは、きっとろくでもないメーカーに違いないっ!(※正解☆)
「フヒョヘヘヘへだったら…『おとなしく俺の言う通りにしろよ…アン?』…ですぅ〜♩」
えっ!? いっ今、七尾くんの声が…
まさかこのHWM、声色も偽装できるの!?
「『ヘッ、やっと気づいたか。だが、今さらアンタに何ができる?』ですぅ〜」
うわっ、この腹黒さ…まさに七尾くんだ。語尾だけHWMっぽいのが気にならないくらいソックリだから…逆らおうにも逆らえない!
「『この落とし前はキッチリつけて貰うぜ、このお汁粉眼鏡?』ですぅ〜!」
誰がお汁粉眼鏡よっ!?などと逆らう間もなく、HWMは私の服の胸元に手を掛けて…ビリビリィ〜〜〜ッ!!
「ちょおぁーーーーッ!?」
◇
「くぅ〜っ…ダメだビクともしねぇ! ちょっとやそっとじゃ引きちぎれそうにもねーぞこのワイヤー!」
全身に込めた力が一気に抜けて、俺はゼェゼェ荒い息を吐いた。
「だからアイツそう言ってたじゃん。こーゆーのはルパンみたく身体を揺すれば…ア゛ダダダダッ!?」
見よう見まねの縄抜けを試みたななみの柔肌に、ワイヤーはむしろますます深々と食い込む。団鬼六も真っ青のカンッペキな亀甲縛りだ。
貧相な身体付きながらも、ワイヤーに絞り出された乳房や股間が盛り上がってエロエロな造詣を露わにするのが、ハッキリ言って辛抱まらんっ!
…あぎゃすっ、思わずチ◯コおっ勃てちまったらますます締まってきたッ!
「ったくあの腐れHWM、いったいどんな縛り方してんのよッ!?」
「SMは専門外だったなお前。今後の参考によく見とけ」
「はぁ? こんな時になに言って…って、こんな時になに欲情してんのッ!?」
「こんな時のお前がエロエロだからだろ。チビっ子SMとゆー今では絶対公開不可能なジャンルがあってだな…」
「ううっ…御託はいいから! てか誰がチビっ子じゃいッ!?
こーしてる間にも、アイツらどんどんヤバイ状況に陥ってんじゃないの?」
…だな。いつまでも義妹の痴態を堪能してる場合じゃなかった。
「ななみ、もうちょいこっち近づけ。結び目は割と単純だから、うまくいけばほどけるかもしれん」
「こ、こぉ?…ううっ、兄貴の大っきいのが目の前に…っ!」
「それが判っててなんでそっちに顔向けんだよ、背中向けろ背中ッ!」
「ちょ、ちょっと待っ…あ、脚が痺れて…
ひぐぅっ!? 兄貴のがあたしのお尻にィッ!」
「う〜んジャストフィット☆
こんな時にまでラッキースケベを披露するだなんて…お前、なかなか持ってるな?」
「妙な感心すなッ!!…あふっ、叫んだらアソコに響いて…っ」
「…なんか湿ってきたぞ?」
「わざわざ口に出すなバカァーッ!!」
著しく出版コードに抵触するビジュアルショックにより、詳細な情景描写を割愛することをご容赦ください♩
◇
「なんてコトすんのっ、この服高かったのにぃッ!」
「『おいおい、そんな安物と俺たちの薄くて高ぁーい御本が吊り合うとでも思ってんのかぁ?』ですぅ〜!」
力尽くで引き裂かれてはだけだ胸元を抑えてうずくまる私に、七尾くんが乗り移ったHWMは壁ドンポーズで覆い被さり、
「『この責任は…オメーの薄っぺらいカラダで償ってもらうぜぇヒャハーッ!!』ですよぅヒィハァーッ!!」
「あひぃきゃあ〜〜〜〜っっ!?」
無礼千万な罵詈雑言を吐き捨てつつ、私の衣類を下着ごと一気に剥ぎ取った!
「あーんどあたしもきゃすとお〜〜〜ふっ♩」
「ってなんであなたまで!?」
という私のツッコミに、追い剥ぎHWMはおっ立てた二本指をチッチッチッとキザに揺らして、
「たとえ字面だけだとしても、そーんな貧相な裸だけで誰が満足できますかぁ〜ん?
読者の妄想力ナメんなですよぉ〜!」
何気にヒドイッ!
酷いといえば何なのこの性能差!?
背丈は私より低いし体格も華奢なのに、一部分だけ非常識なまでに大きいし。生物学的に破綻してるでしょ…って生き物じゃなかった。
「『まぁまぁ、これからキッチリぬっぽり可愛がってやるからよぉゲヘヘッゲヘヘヘッ!』ですよぅ〜?」
立てた二本指を卑猥にクイクイ折り曲げて下卑た笑いを洩らすHWM。何気にエロい…♩
「お、お願い…もぉ酷いコトしないで…っ」
あまりにも唐突すぎて、私はもう呆然自失で…それだけ言うのがやっとだった。
七尾くんもさすがにそこまで酷いコトはしないし言わないと思うけど、同じ声色ってだけでもぉ…涙で視界が霞み始めて、目の前にいるのが誰なのか、正常に判断できなくなってきてる。
ひょっとしたら私…彼にこんなコトされるのを期待してた…?
そんなあらぬコトを考えていた私に、外道HWMはさらに目玉をギラつかせて、
「『ケッ、まだ毛も生え揃ってねぇネンネの分際で偉ぶりやがって。おかげで具が丸見えじゃねーかウケケッ!』ですやぅホヒョヒョーッ!」
「うあああ気にしてるのにぃ〜ッ!!」
私は年齢の割には成長不良気味で、痩せぎすで背も低い。
伊達メガネなんて掛けてるのは童顔を隠すためだし、ポニーテールも髪を盛り上げることで、少しでも背が高く見せかけるためだ。
成長を促すには身体を動かすのがイチバンと聞いてそれなりに鍛えてみたけど、まるで効果がなかった。
いくら頭ばかり良くても、こんなんじゃ委員長としてクラスメイトからナメられちゃうし…七尾くんとも吊り合わない。
…と思ったら、ここん家にはおチビちゃんばっか。約一名、化け乳がいるけど…。
え、もしかして…七尾くんってロリコン?
それなら、私でも勝ち目があるんじゃ…!?
そんな期待を胸に、思い切って珍獣屋敷に突入してみれば…
「『オラもっと脚おっ広げてテメーのアワビちゃんをさらけ出しやがれこの売女がァッ!!』ですぅケヒャハーッ!!」
「うわ〜んっ! こんな猛獣がいるなんて聞いてない〜〜〜〜っ!!」
私はもはや泣き喚くしかない。
それにしても、なんで監視AIが一向に反応しないの? 普通ここまで派手にやらかせば、あらゆる家電に内蔵されたAIがすぐさま保安当局に通報して、巡回ドローンがとっくに家の周りを包囲しててもおかしくないのに…
まさかこのHWM、監視AIのキャンセル機能が付いてるんじゃ…違法のはずだけど?
なんてことをつらつら考えながらも涙がとめどなく溢れ出る私の頬を、そっと撫で上げる手のひら。
「『やれやれ…そんなに泣いたらせっかくの可愛い顔が台無しだぜ?』…ですぅ〜」
急に彼…じゃなくて、彼女…だっけ?
もうどっちでもいいけど…が優しくなった。
「『涙をお拭きよベイベー。そして…もっともっと、可愛いところを見せてくれないか?』…ですぅ〜♩」
…飴と鞭! マズイ、コレ絶対ダメなやつ!
コレを仕掛けられたら大抵の人間はコロッと陥落しちゃう!
それが解ってても…嗚呼、この甘美な囁きには逆らえない…っ。
「…っ」
私の両腕から自然と力が抜けて、頑なに覆い隠していた胸元が露わになった。
「小っさ! 野良猫といい勝負ですぅ!」
んがっ!?
「『でも、そのぶん敏感なんだね。ほら、もぉこんなにビンビンじゃないか』…ですぅ〜」
一瞬本音が剥き出しになったよーな気もするけど…すぐ七尾くんモードに戻ったHWMは、私の胸の先端を指先で摘み上げた。
「ひぁッ!?」
途端にそこから全身に電流のような刺激が広がる。一人で触ったときにはそこまで感じないのに…なにコレ…?
「『へぇ…上だけじゃなくて、下ももうこんなに…』ですぅ〜♩」
「あぅっ、そ、そこは…っ」
思わず隠そうとした私の手をそっと掴んだHWMは、さっきの原稿のあられもないページを目の前にチラつかせて、
「『これからキミも…こんなふうに感じさせてあげるからね』ですぅ〜♩」
わ、私にも…この漫画みたいに…キモチイイことを…?
嗚呼ダメ…もぉ逆らえない…っ。
「『♩あーなたーのおー名前』じゃなくて…『キミの名前は?』ですぅ〜」
「さより…仙石さより」
七尾くんには今まで委員長としか呼んでもらってないから、名前を知らなくても無理ない。
こっちはちゃんと名前で呼んでるのに…時々「ななおくん」って。どっちも同じ変な名前だから気づいてないと思うけど。
いい機会だから…これからはちゃんと、名前で呼んで?
「『さより…可愛い名前だね』…ですぅ」
褒められた…嬉しい。私にとって、他人に褒められることは無上の悦びだ。
それが七尾くんになら…もぉ、死んでもイイ…♩
「『じゃあ、さより。これからお前を…爆発させてやるゼ☆』ですぅ〜☆」
爆発オッケー☆
もぉ〜爆破テロでも飯テロでも悦んでヤッちゃう〜♩(※脳細胞死滅中)
「『ほら、もっと脚を広げてごらん?』…ですぅ〜ワクテカ☆」
「…こ、こぉ…?」
さっきまでは恥ずかしくて絶対に応じられなかったのに…いや今でも充分恥ずか死ねるけど、それでも一刻もはやく彼を受け入れたくてうずうずしてる二律背反な私。
そんな私のお父さんにも見せたコトない部分を、七尾くんは興味深げに覗き込んで…
「『…本当に経験なかったんだね』ですぅ〜」
急に弱腰な気配を漂わせる。それでも本当に見られちゃったんだと解って、身体の芯から火照ってくるけど…
「『それならまたの機会にしとこっか?』ですぅ。マスターより先に手ぇ出しちゃったら、さすがに激オコでしょーしぃ…」
「え…どうして止めちゃうのっ!?」
慌てて跳ね起きた私に、驚いて仰け反った七尾くんを逃すまいと、私は彼にしがみついた。
「痛いのは怖いけど…きっと我慢しますっ!
お願い、続けて…あの漫画みたいに、メチャクチャにして…っ!」
必死の思いで吐き出したセリフに、七尾くんはクラリスにせがまれたルパンのように指をワキワキさせて逡巡してたけど…
やがて腹を括ったように私の肩に手を置いて、
「『バカ言っちゃイケネェよ。やっとエロ漫画の良さが解ったばっかりじゃねーか?
俺っちのように爛れちまっちゃあオシマイなんだよ…』ですぅ〜」
…なんかキャラ違くなってるし意味不明な説得ですが、この際もう気にしません。
「…解った。でも、その代わり…ちゃんと最後までイかせて?」
渋々そう応えて身体の力を抜いた私に、ルパ…七尾くんはためらいがちに手を回して…
「『てな訳でこっちで楽しませて貰うぜ』ですぅ〜ヒャホッ☆」
「え゛…ちょっと待って、そっちはお尻の…!
そっちの方は一生知らなくてもいいから、それだけは堪忍して…っ」
ぬぷっ。
「ひぐぅ…っ!?」
抵抗も虚しく、彼の指先が別の粘膜をこじ開けて私のなかに分け入ってきた。
思いのほか痛くはなかったけど…そこから燃えるような熱さが全身に伝染していく。
スゴイ…もう、前とか後ろとかどっちでもいい。
七尾くん達の漫画って…こんなにスゴかったんだ…。
裸がダメとか、エッチがダメとか…そんな些細なコトで愚痴愚痴言ってたのは、どこの誰?
実際に味わってみなきゃ、この崇高さは理解できない。
非日常的でひたすら甘美なこの世界に、もっと、もっと浸っていたい…!
「『…イキそうかい?』ですぅ〜?」
耳元で囁く七尾くんの声に、私はただただ頷くばかり。
「『いいのよ…もっと逝っておしまい!』ですぅう〜!!」
またキャラ違くなったけど、もぉどーでもいー。
そっか…これがイクってコト…。
わたし…逝っちゃうんだ…。
イクぅ…さより、飛んじゃう…っ!
「エロ漫画って…快…感…っ!」
白濁する意識のなか、どっかの古い映画で見た、煙燻る機関銃を抱えたセーラー服の娘のように呟く。
「…みっしょん・こんぷりぃと。ですぅ〜♩」
そんな囁き声を最後に…私は逝った。
◇
「ひうぅ…も、もぉらめぇ…っ!」
「もう少し我慢しろ、そろそろほどけそうたから…!」
涙声でむずがるななみに背後からのしかかったまま、その背中の結び目を歯でこじりながら俺は励ます。
ゴタンマ謹製特殊ワイヤーとやらはよっぽど頑丈な素材らしく、歯先が欠けてボロボロだが、委員長の危機には代えられない。
「ら、らってぇ…いつまで突き上げてんのぉ?」
「しょーがねーだろ、お前がエロすぎんだから…!」
ななみの股間に当てがった俺の俺はいまだおっ勃ったままで、間に挟まれたスパッツとズボンの生地がヌルヌルぬめってる。
「ってよくよく考えたら結び目に届きさえすりゃイイんだから、わざわざこんな犬ダフルスタイルにならなくても良かったんだよな?」
「今頃気づくなバカァ!! あたしは最初っからそう思ってたっつーの!」
「ならなんでどかさないんだ、コレ?」
ツンつくツンっ☆
「あふぅあっ!? だから突くなってぇ…!」
「だよな。どーせなら、マッパで直に突いた方がイイよな…ニヒッ?」
「こ、この弩エロ兄貴…ッ!」
などと他愛ない義兄妹の触れ合いをやらかしてた最中…
「おまぐわいのトコ誠に恐縮ですがぁ〜、こっちの方が一足早かったですねぇ〜むひょへは♩」
いや〜んな下卑た微笑をたたえて、偽ななみがひょっこり戻ってきた。
しかも何故だかまた黒い下着のみのあられもないお姿! 同じ顔したのと仮接続してる状況でソレはヤヴァイって!
「ひぎぃーっ!? お、お兄ちゃん激しすぎ…っ♩」
アカン、さらにおっきしてしまったせいでシン・ナナミが昇天寸前だ。今さら素に戻るなよ、萌えてまうやろーッ!?
「てかお前なんでまた脱いでんだ!?」
「はぁ〜、任務遂行上の障害だったいいんちょさんのお洋服を剥き剥きしちゃいましたのでぇ…代わりにあたしの衣類をお貸ししましたぁ〜」
なん…だと? ってぇことは委員長は…!?
「はぁ〜、大変美味しく戴きましたぁ〜♩
てな訳で洗脳完了ですぅ〜☆」
『洗脳!?』
俺とシン・ナナミの裏返った大声が見事にハモった。
「ではではいいんちょサン、どんぞお入りやがりませぇ〜♩」
妖艶な格好の割にはメチャメチャ陽気な偽ななみに促され、委員長が静々と戸口の陰から現れた。
事前予告通り偽ななみのメイド服を着用してるけど…これが予想外によく似合う。
ちうかハッキリ言って微塵もメイドらしくないHWMよりかよっぽどピッタリだ!
「い…委員長…」
義妹に馬乗りになったまま思わず見惚れてしまった俺に、彼女は顔と声を引き攣らせてその場に泣き崩れ、
「お、お願いだから…もぉ酷いコトしないで…!」
「ひ、酷いコト…されちゃったの? 誰に?」
幼子をあやすように問いかけた俺に、涙で喉を詰まらせた委員長は遠慮がちにこちらを指差した…ってなんでやねん!?
「『オイオイ俺が悪りぃってぇのかぁ?
ケツの穴ほじくり返しただけじゃ物足りなかったかこのメス豚めがァッ』ですぅ〜♩」
突然、俺の声色で話し始めた偽ななみに、俺は唖然としつつも薄々状況を理解した。
なるほど確かにヒデェ奴だな〜俺。
「安心してください、前はちゃあ〜んと残してありますよぉ〜ですぅ!」
「そりゃありがたいけど、なるべく後ろも取っとけや! 両方から掘り進んで真ん中で開通式と洒落込みたかったのによォッ!!」
ピキーーーーンッ!
何故だか周囲が凍りつく。
「さ、さすがはますたぁ…私ごときでは到底成し得ない悪逆非道をこともなげに言ってのける…そこにシビレる憧れるですぅ〜♩」
「予想の斜め上を余裕で突っ走るヤバイ奴だったわねこのドS兄貴…でもソレ、次のネタに使えそう♩」
がっくり膝をついて感服する偽の方と、さっそく創作メモにペンを走らせる真の方。
なんだか知らんが褒められたんなら、いっか♩
「…んで? 洗脳とやらが成功したんなら、なんでこんなに怯えてんだよ?」
「はぁ〜それがですねぇ、どーやら予想以上に妄想力旺盛なお方だったらし〜くぅ…
蹂躙後にメイド服を着せちゃったもんだから、自ら悲劇のメイドになりきっちゃってるみたいでしてぇ〜」
「蹂躙て。つーかソレ普通失敗って言わね?
…ともかくこのままじゃラチがあかん。なんとかせい」
「チッ、マスターだと思って偉ぶりやがってですぅ〜…オラおっ立ちやがれ肉奴隷〜♩」
マスターの命令にずいぶん斬新な反応をみせるHWMもいたもんだが。
いかにもメンドっちそうに委員長を引っ立てようとすると、彼女は悲鳴をあげてHWMにすがりつき、
「ヒィーッ!? もぉ堪忍してくださいっ…
お姉様ァーッ!!」
『オネーサマッ!?』
再びハモる俺たち義兄妹を尻目に、変態HWMはプルプル身震いして、
「をっほを〜うっ、コレはコレで良いものですねぇムハァ〜ッ♩
ほらほら仔羊ちゃん、何もしない、何もしないからスマイル、スマイルアゲーン?」
「ぇ…ぅぇへ…お姉さま…っ」
涙目のまま、御命令のままにぎこちない笑みを浮かべた委員長を、偽ななみはどこからともなくシャッター音を立てながら凝視し続ける。
委員長、撮られてる、撮られてるゾ!?
「ハイお次はアヘ顔ダブルピース逝ってみましょっかぁ〜☆」
「あへあへあへぇ〜♩」
こ、こんな素直にアホ顔さらす委員長…俺は未だかつて一度も見たコトなかったのに…っ。
いやド天然のアホいトコならいつも見てるけど。
「いいんちょさんはァー?」
「お姉様のモノですっ♩」
「いいんちょさんのお尻はァーッ!?」
「お姉様のモノですぅ…っ☆」
を…をを…これが、これこそが、噂に名高いN・T・R…!?
もぉヤメロぉーッやめてくれぇぇぇッ!!
やおら視界が真っ赤に染まる。どうやら俺は泣いていたらしい。
「…コレ、洗脳っつーか人格崩壊しちゃってない?」
委員長のあまりの豹変ぶりにシン・ナナミがマジ引いてる。
「へ、へへっ…チキショウ、涙で何も見えねーぜ」
「うわっ血の涙!? 兄貴マジ死にそーなんだけど!」
だよねー。実際血の涙を流す奴なんて、いつぞやテレビで見た海外のマリア像くらいのもんだし…って元々生きてないじゃんソレあはははは〜☆
「ところで、ご飯まだですかぁ〜? ポリッと一発片付いたらお腹空いちゃったんですけどぉ〜」
さっき散々つまみ食いしてたよなお前!?
ラブホ帰りに彼女同伴で飯屋に立ち寄るサラリーマンかよ!
HWMの分際で、何ものにも縛られない自由すぎる奴だな…。
◇
でも確かに夕飯には良い時刻になってたので、ここらでモグモグタイムと相成った。
人間、嬉しいときも悲しいときも富めるときも病めるときも余すことなく腹は減るもんだ。
「ところでいいんちょさん、お尻のご機嫌はいかがですかぁ〜?」
「あはは〜お食事時ですよ〜TPOをわきまえてね〜♩」
「おやおやぁ、さっそく上から目線ですかぁ〜? まだまだ調教が足りないみたいですねぇ〜?」
「あはは〜、はいはいフリーザ様っと♩」
委員長も腹が膨れてきたらオツムの回線が復旧したらしく、洗脳が解けた直後に会見を開くタレントのような虚ろな眼差しでまあまあ普通に会話できている。
むしろ…俺への態度の方がなんだかぎこちない。NTRれちまったから無理ないか。
ちなみに委員長はすでに予備の普段着に着替え、偽ななみは元通りミニスカメイド服着用。
俺はそのままでも良かったんだけどな…チッ。
あと、アホHWMがビリビリに破いちまった委員長の服代は結局俺が立て替えた。ななみの同人誌の売り上げでそこそこ潤ってはいたが、予想外に高くついたぜ…ケッ。
「…七尾くん、ごめんね。両方あげられなくなっちゃった…」
委員長はそれだけ言って俺から目を逸らす。
俺は何も言ってやれない。
だって…俺は後ろの方にはさほど興味ないし、前が残ってんなら万事OKじゃん♩
てゆーか、これって…面と向かって俺に貰って欲しいって告られちゃってない?
「…なんだかな〜、このいたたまれない空気は?」
ひとり蚊帳の外なシン・ナナミは、咥えたスプーンをブラブラさせてふてくされてる。
ホント、どーしてこーなった?
…まあいい。今はそれよりも…
「…委員長。ななみの漫画のことだが」
「あ、そーだった。ななみさんっ!」
俺が言いかけた質問を遮って、委員長はいきなりシン・ナナミにブッチューでもしそうな勢いで顔を近づけた。地味にショックだ…。
「ぶぇぺっ!? げぽっ…な、なんスか?」
委員長の迫力に気圧されて、シン・ナナミは飲み込みかけたスプーンを吐き出しつつ、真っ赤な顔で後ずさる。
そこへさらにグイグイかじりつく委員長。
「私、言いたいことは色々あるけど…
えぇ〜そりゃもー山ほどあるけどっ!
…でももう、ななみさんの漫画については何も言わない。」
「…あ、その話っスか」
いったい何を期待してたのか、いささか拍子抜けした様子のシン・ナナミ。
俺も含めてすっかり忘れてたけど、確かに洗脳は成功したらしい。だが…
「その代わり…新作ができたら真っ先に読ませてネ♩
もぉ〜すんっごいドギツいエッロエロなヤツを期待してるから! きゃぴルンッ☆」
…どーよ、委員長サマのこのおぞましいまでの変わり様?
偽ななみよ、オメーいったい何やらかしてくれちゃいやがったんだ?
「あはー、陵辱系はあまり好きじゃないんだけどなー…エロエロなのは保証するけど♩」
ともあれ、シン・ナナミも内心それなりに喜んでるようだ。面と向かってファンの声援を貰ったのは、これが初めてだからな。
初っ端からギスギスしてたこの二人も、これで少しは打ち解けられ…
「あと、あの挿入シーンだけど。アレってどうやって描いたの? やっぱり七尾くんの肉奴隷になって実際に…」
「肉奴隷やめろしッ!! んんんなコトすすするワケねーだろがいッ!?」
露骨に動揺すんなよマイシスター。実際にはどっちかってーと俺の方がお前の肉奴隷だしな。
「じゃあやっぱり、鏡に自分のを映しておナスとか挿れて…」
「セクハラもヤメレッ!! てかなんで知ってんだエスパーかお前!?
ナ、ナスビなんてぶっ太いモン入るかボケェッ!!」
…委員長もそろそろ口は災いのもとって諺を覚えろや。
シン・ナナミも律儀に全部答えてくれちゃってるし。なるほど、ナスビはまだ無理…と。
でも何かしらはしちゃってる訳だぁね。お兄ちゃんショック…。
この分じゃ、こいつらが仲良くなれるのはまだまだ先のようだな。
◇
唐突に小一時間後。
「ふぅ〜、いいお湯でした♩」
ポニテをほどいた長い髪をバスタオルで拭きながら、委員長がリビングに戻ってきた。
眼鏡は元々必要ないから外してるし、ロングTシャツ一枚きりというなかなかに大胆不敵な寝巻き姿のおかげで、湯上がりの上気した首筋や太ももが露わに。
いつもは制服姿しか見たことがなかったクラスメイトの私生活を覗き見たせいで不覚にも胸が高鳴る。
「ケッ、ババ臭ぁ〜」
「…いちいち絡まないでくれる?」
遅れて部屋に現れたジャージ姿のシン・ナナミとさっそく小競り合い。犬猿の仲も相変わらずだな。
「はぁ〜、みんなで一緒に入ったお風呂は、やっぱり楽しかったですねぇ〜♩」
「いや、だから全員一緒に入る必要どこにあった? うちの湯船はそんなに広くないのに、部分的に二人前のアンタまで無理やり入ってくるからはみ出しまくりだったでしょーが!?」
最後に現れたパジャマ姿の偽ななみがワクテカすると、すかさずそっちにもツッコむシン・ナナミ。何事にも突っ込まざるを得ないのは漫画家の性だろうか?
「そもそも野良猫の分際で風呂に入るってのが解せないんですよぉ〜。表のドブでヒゲでも研いでりゃいいのにぃ〜」
「何なんだよお前は!? あたしと他の態度が違いすぎるだろがぃッ!」
などと、三人よればかしましい女子達の会話に聞き耳を立てつつ、俺は内心深ぁ〜い溜息をつく。
…なんでせっかくの入浴シーンがすっ飛ばされてるのかって?
しゃーねぇだろ、俺だけ除け者だったんだから。
「へーへー、ずいぶん楽しげなご様子で。
んで、これからどーすんだ?」
「あー、今日はもう寝るわ。なんだかんだで疲れ果てたし」
ふてくされた俺の問いにしれっと応えたシン・ナナミに他の二人も同意。
健全な高校生が寝るにはまだ早すぎる時刻だし、もっと不健全なコトもしたかった気もするが…かくいう俺も全面同意だ。
「お〜そっかそっか。じゃあ寝る前に…せめてコレほどいて行けやクソHWM!」
そう。女性陣が入浴中、おれはまたもや件のワイヤーでがんじがらめにされてリビングに転がされていたのだ。
「ふひょふょサーセンますたぁ。あたしはご一緒しても良かったんですけどぉ、他のへタレが縛れ縛れうるさかったものでぇ〜♩」
メチャ腹立たしいにやけヅラで全然心がこもってない詫びを入れつつ、偽ななみはあれだけ複雑怪奇に絡みついてた俺のワイヤーを一瞬でほどいてみせた。
さっき俺たちが結び目を解く寸前だったから、セキュリティーレベルが上がったらしい。チキショー余計な真似しちまったぜ。
「ったく…あちこちアザになっちまっただろが。傷口に染みるから、俺は風呂はいいや。
じゃあ委員長、また明日な。あ、部屋はさっき案内したトコ使ってくれ」
手首の縛り跡をさすりつつ挨拶を済ませると、
「はーい。じゃ、また明日〜♩」
委員長もあくびをしながら部屋を後にする。
「んじゃ、俺たちも寝るか」『そだね〜』
ななみーズと頷き合って、俺たちもリビングを出て寝室へと…
「…ちょっと待った。」『ほい?』
直前で委員長に呼び止められた。眉をピクピク引き攣らせて、彼女は俺たちに問う。
「どーして三人一緒に足並み揃えて同じ部屋に向かってるのかな〜?
俺たち『も』って…まさか?」
ヤベ、勘付かれた。
「お、俺たちは兄妹だから、別におかしかねーだろ?」
「兄妹なら年齢的になおさらおかしいし、兄妹じゃなければもっとおかしいよね!?」
だよね〜。こりゃお兄さん一本取られちゃったなハハハのハ☆
「ならあたしは兄妹じゃないから安心安全ですかねぇ〜。孕む危険もありませんしぃ〜♩」
「て言ってる人がイチバン信用できないってコトをついさっき身に染みて経験したばかりなんだけどッ!?」
いちいちごもっともでございます。とりあえず、ウチはこの不良品を預かってるだけなんで、苦情はゴタンマへ直にお願い致します。
「で、あたしはこんな塩梅で危なっかしい兄貴とロボ子を見張るために一緒に寝てるだけで…」
「だからあなたは別の意味でイチッバン危なっかしいでしょッ!?
あ〜も〜何なのここん家の連中はッ!!」
話が堂々巡りになりかけたことに地団駄踏む委員長に、シン・ナナミはやれやれと被りを振り、
「じゃーもぉあんたも一緒に来なさい! うだうだやかましく言われるよかよっぽどマシだし」
おおっ、そりゃ名案だ! これで俺も健全に不健全なコトができるし、至れり尽くせりウケケッ♩
「オメーが頼りになんねーからだろがこのゴミ兄貴ッ! 言っとくけど、誰であれ万一なにかしようもんなら庭の木にブッ刺して鳥葬だからねっ!?」
…怖っ。早贄はご勘弁だぜ。
◇
「ヒィ〜〜〜ッ!? こ、この部屋って…この部屋ってぇえ〜〜〜〜っ!!」
今は亡き両親の寝室とひと繋がりになった俺の部屋に通すなり、委員長はまたもやPTSDを発症した。
「ぅおいゴルァ糞ロボ娘ッ、これでもまだ洗脳成功って言い張るつもりっ!?」
「はぁ〜、先ほどこのお部屋で洗脳処理を施しましたのでぇ〜、多少のリバウンドは致し方ないかとぉ〜」
ブチ切れるシン・ナナミに、いけしゃあしゃあと応える偽ななみ。国会議員なみに反省まるでナッシング。
「おーい委員長、もう大丈夫だからこっちゃ戻ってこい。こっちのみーずはあーまいぞっと♩」
迂闊に呼び寄せたのがマズかったのか、委員長は俺にヒシッとしがみついて、
「お許しくださいっ…ご主人様ぁッ!!」
ご主人様…ご主人様…ご主人様…☆
さっき見たメイド姿似合いすぎな委員長像が目の前にチラついて、前後不覚に陥る俺ラリホー♩
「あー…ダメだこりゃ。素敵ワードが永久リフレインしとる。
ほら眼鏡、とっとと入りなさいっての!」
「ヒイィッ!? 地下室はイヤッ、地下室はイヤアァ〜〜〜〜ッ!!」
「…うちに地下室なんてねーよ。」
ちなみにここ二階。
てな訳で一向に埒があかない状況なので、
「こら乳風船、お前ホント何やらかしたんだ?」
尋常ならざる状況を問いただすと、偽ななみは可愛らしく小首を傾げて、
「ホントに大したコトじゃないんですけどぉ〜? ちょおーっと◯◯◯を◯◯◯して◯◯◯しただけですからぁ〜☆」
ホントに大したコトやらかしてやがっブォアバァーーーーッッ!!
「ぅわ今度は兄貴が大それたことにっ!? 北斗神拳なみに鼻血とか脳汁とか色々噴き出たらダメなモンまで噴き上げちゃってるしっ!
ロボ子ッ、あんたのせいでしょ何とかせいッ!!」
「えとえとえとぉ〜〜〜…」
厳命に従い部屋の惨状を観察した偽ななみは、
「…てへっ☆」
欧米人ばりのお手上げポーズとともにペロリンっと舌を出す。
「お前ぇえ〜〜〜〜っっ!?」
「さぁさぁコンディション・レッドですよぉ。ブリッジは乗員を残して退避、退避ぃ〜♩」
あっさり職務放棄した偽ななみは、掴みかかるシン・ナナミのドタマをグワシッとクレーンゲームのように鷲掴んでズルズル引きずっていく。
「あ痛だだだぁーッ!? どわぁーから髪引っ張って拉致るのはヤメレーッ!!」
ぎゃーぎゃー騒ぎ立てながら、ななみーズはゾンビ化したブリッジを放棄してどこへともなく去った。
◇
「ぅ…かゆ…うま……ハッ!?
ぁひぃっ、何なのコレ!?」
しばらくして、やっと正気に戻った委員長は部屋の惨状に再び取り乱しかけた。
「ぃよぉカール、元気だったか…?」
「誰がカールよ…って七尾くん!? な、なんか猛烈に干からびちゃってるけど!?」
やがてベッド上に横たわる俺に気づいた彼女は、恐る恐る近づいてきた。
そりゃあ色々海上放出しちまったからな…もぉ汁気は微塵も残ってねぇよ。
「ぅぅ…み、水…お、おぱい…おぱーい♩」
汚染物質は満載だけっどもな♩
「ちょちょちょお〜っとッ!?」
いきなり胸に触られて、委員長は当然のように悲鳴を上げた…が意外にも拒絶しなかった。
「うぇへへ、やっぱノーブラじゃん。
…あ、不肖の右手がお邪魔してます」
「今さら!?…ま、その分なら大丈夫そうね。
…私もご一緒していい?」
さらに意外なことに委員長は、俺の返事も聞かず自ら積極的にベッドに入ってきた。
「こ、これは…飲んでいいってコトか!?」
「イキナリ飛躍しすぎ!…出るわけないし、お触りだけにしといて。
…どーせ満足させられるだけのボリュームは無いけどね」
そーでもねーよ。ななみの断崖絶壁ぶりに比べたら、まだそれなりの肉感はあるし…
「ココの自己主張も激しいしな♩」
「んあ…っ」
シャツの布地越しにもハッキリ判る先端の突起を指先で弾くと、委員長は色っぽい声を洩らした。
それでも俺を拒もうとはしない…何故に?
「どーせ七尾くんは憶えてないだろうけど…あなたが私に触ったのって、これが初めてじゃないんだよ?」
えマジ? いや、憶えてるだの忘れただの以前に…
俺が彼女とクラスメイトになってからそろそろ一年経つけど、こんな艶めかしいシチュエーションになったのはこれが初めてだぜ?
そもそも学校でたまに仕事を手伝ってただけで、校外でバッタリ鉢合わせしたことすら無かったんだし。
しかも…見ろよ、この変身ぶり。
ポニテに眼鏡という通常装備を解除した彼女には、学校で見せるいかにも秀才的な雰囲気が微塵もなくて…一言で表せば『子供っぽい』。
同世代のJKのような化粧っ気もないし、背丈もいつもより縮んで見えるしで、下手すりゃななみーズよりも幼く見えなくもない。
仮に今の学校以外で出会ってたとしても、気づかない可能性が大きいな。
…いずれにせよ、それほどまでに印象的なエピソードなら俺も憶えてないはずがない。
けど実際まるで記憶にないってことは、たぶん事故レベルだったんだろうけど…
「あの時から私…七尾くんのこと、ずっと意識してた。」
何気に告白までされちゃってますけど…
あの時ってどの時よ? さっぱり思い出せん。
熱っぽい瞳で見つめられるほど、こっちの背筋は凍りつく。
「…つかぬことをお伺いしますが。委員長の誕生日っていつ?」
「十一月一日…ってことになってる」
ほらやっぱり。コイツはいわゆる『蠍座の女』…激ヤバ物件に手ェ出しちまったかもしれん。
たしかに時々メンヘラめいたところもあるし…いよいよ自宅にまで押し掛けられちまったしな。迂闊だったぜ。
…でもカワイイから許すッ☆
とまあそんな混乱状態の俺を置き去りにしたまま、追撃モードに入った委員長はさらに、
「お触りしながらでいいから、ちょっと私の話を聞いて…?」
こういう時は得てして「何もせず黙って聞いてろ」って意味だよな。しかも「離さないで」って注釈付きで。女って生き物は本当に面倒くさい。
けどそれぐらいは心得てるナイスガイな俺は、乳揉みを止めて彼女をそっと抱き寄せた。
すると委員長は安心したように俺の胸に顔をうずめて…
「…街中に古びた病院があるでしょ、『仙石病院』っていうの」
あー、たしか学校のすぐそばの…産婦人科だっけ? 高層ビルの谷間に埋もれるようにして、小さな町医者がひっそりと開業してる。
行きつけの画材店に立ち寄るときの通り道だから、嫌でも目に入る。
あの界隈は昔ながらの建物がまだ多く残ってて、路地裏には同人誌の印刷でお世話になってる印刷工場もある。
言うまでもなく、今じゃどれも斜陽業種だけどな。
かつて日本は出生率の急速な低下を経験したものの、現在では少しは持ち直したという。
各種社会制度が充実し、子育てが以前よりは比較的容易になったことと、海外からの移住者を多く受け入れるようになったことが要因だ。
医療技術に関してもAI進化の恩恵で往年の医者不足が解消され、以前よりも短期間で安全に出産できるようになった。
それでも、最新技術に安心できない層はいつの時代も相当数存在するし、それが新たな生命の誕生に関わるものならなおさらだ。
今日では国の手厚い保護もあって、産婦人科をはじめとする町の開業医は現在でも昔ながらの盛況ぶりだが…
「…じゃあ、委員長って『仙石さん』?」
「『仙石さより』! さっきも教えたでしょ、んもぉ!(※洗脳効果継続中)」
いやいや知らんて、初めて聞いたって!
やっぱ蠍座コワッ!
「私…そこの病院で生まれたの。
正解には…病院の正面玄関前で」
え…?
「私の母親は、身元不明の女性だったの。そこで私を産み落とした直後に絶命したらしくて…
だから正解な出産時刻は判らないの。
看護師長をしていた育てのお母さんが、戸締りをしていた最中に私たちを見つけた時刻が深夜零時ちょうどだったから…
それが私の誕生日になった」
だからか…さっき誕生日を聞いたときの答え方に違和感を覚えたのは。
っていや、問題はそこじゃなくて…唐突すぎる委員長の身の上話に頭がついていかない。
「産みの親は、素性が判るものを何も持ってなくて…。
結局、子供がいなかった院長と看護師長の夫妻が私を引き取ってくれたの。
…どこの誰かも判らない、この私を」
俺たちも実の家族じゃなかったけど、それでも同じ組織から来たってことは判ってるし、表向きは普通の家族と変わらない日常生活を営んできて、真相を知っのはほんの昨日だ。
だからいまだにそれほどの違和感も居心地の悪さも感じないし、家族気分も抜けない。
けど…委員長の場合は、それを早い時期から知ってしまった。子供心にその衝撃や動揺はかなり大きかったのだろう。
「だから…私はあの人たちに、一生かけて恩返しをしなきゃいけないの」
俺の胸に顔をうずめたままのくぐもった声色に決意を秘めて、委員長は呟いた。自分自身に言い聞かせるように。
「お義父さんもお義母さんも、もうそんなに若くない…。普通の会社ならとっくに定年を迎えてる年頃なの。
産婦人科ってとにかく多忙だから、二人には体力的にそろそろ限界だと思う。
だから、私が跡を継がくちゃ。主治医になるなり、他から優秀なお婿さんを迎えるなりして…ね」
ああ…それでか。委員長が自身の成績だけじゃなく、とにかく外ヅラを良く見せることに拘ってた理由は。
それは自己満足のためじゃなく…養父母に少しでも良い所を見せたいが為だった。
だから、クラス委員長なんて他人が請け負いたがらない面倒な仕事も進んで引き受けて…
本当は壊滅的に苦手なPCを介した雑用も、引き受けざるを得なくて…
それでも愚痴一つこぼさずに頑張ってたんだ。
…そして、この俺にこれだけ恋焦がれながらも、その想いを進んで実らせようとはしなかったのは…
どのみち俺とは結ばれないことが判ってたからだったんだ。
「幸い、私の頭の出来具合は並みの人より良かったみたくて…学校の成績は常にトップだった。
初めて受けたテストも満点でね。それを二人に見せたときの喜び様ったらなくって…
だから、ますます喜んだ顔が見たくて…」
その気持ちは俺にも凄くよくわかる。
もっとも俺の場合、頑張ってもらうのは自分じゃなくてななみの方だけどな。
アイツの作品が読者の圧倒的な指示を受けてちやほやされるほど、俺は誇らしい気持ちでいっぱいになる。
どうだ、俺の妹の才能はスゲェだろ?
でも、まだまだこんなもんじゃねーぜ!
…ってな。
たぶんそれはななみも同じだろう。
アイツは俺を喜ばせたい一心で漫画を描き続けてる。
ななみの…『七海奈緒菜』のいちばんの読者は俺で、俺のいちばんの推しは『七海奈緒菜』だ。
…でも…だけど…さ。
「そんなのって…虚しくないか?」
つい口を突いて出てしまった本音に、委員長の息が止まる。
それでも言わずにはいられなかった。
俺は自分自身の漫画家になりたいという夢を諦めて、ななみを一流の漫画家に育て上げようとしてる。
ななみの人気が上がれば上がるほど、目的に着実に近づいている気がして嬉しい。
けれども…評価されてるのは俺じゃなくて、ななみの方だ。
この先アイツが漫画家としてどれだけ伸びようとも、俺が褒められることはない。
このまま行けば『七海奈緒菜』のプロデビューは確実だろうが…
俺自身の夢は永遠に叶わない。
そして、委員長も…己の夢や希望を捨て去ってまで、養父母のために人生すべてを捧げようとしている。
…はたして、それで良いんだろうか?
俺の方はもう、それでもいいやと思ってる。
実質的には俺も作品制作にガッツリ参加してるし、『七海奈緒菜』は俺たち二人の共同ネームとも言えるから、曲がりなりにも本来の夢は叶えられてるからだ。
だけど…委員長の場合は…
「…わかってるよ…そんなの」
彼女の声は震えていた。どうやら図星だったらしい。
「それでも、私は…私にとっては、お義父さんとお義母さんがいちばん大切な人たちだから…」
そんな彼らのためなら、何を失おうと構わない。
委員長はすでにそんな決意を固めていたんだ。
「でも…でもね…もう、ダメかもしれない」
にわかに湿り気を帯びた彼女の声に、俺はハッとしてその肩を抱き起こした。
委員長は…すでに泣いていた。
泣きながら、俺に切々と訴えかけた。
「二人とも…いつの頃からか、私が良い成績を取っても、あまり喜んでくれなくなって…
私が跡を継ぎたいって言ったら…そんなことしなくていいって…」
生涯かけて恩返しをすると誓った二人からの拒絶。
「お前はお前のやりたいようにやればいいんだって…そこまでして気を遣われるのは、むしろ…迷惑だって…っ!」
その言葉にどんな意図があったのかは知る由もないが…それは委員長にとっては絶望でしかなかった。
「そんなこと…今さら言われたって…
私…もぉ…どーしたらいいのよォーッ!?」
ずっと胸の内に押し留めてきた思いの丈をぶちまけて、彼女は号泣した。
再び俺の胸に顔をうずめて…
俺のシャツを両手で握りしめて…
子供のように泣きじゃくった。
そんな彼女に、俺は…
頭を撫でてやることさえできずに…
ただ黙って泣き声を聞き続けることしか、出来なかった。
◇
「うっひょお〜〜〜っ!? これが青春の青息吐息ってヤツですかぁ〜〜〜っ!」
部屋の戸口から兄貴たちの様子を覗き込んだロボ子が、ヒソヒソ声ではしゃぎまくる。
おおよそマトモな奴じゃないって判ってたけど、デバガメ趣味まであったとは。
「…あんまし騒ぐと聞こえちゃうでしょ?」
「フヒヒわーってますよぉうっせぇ野良猫ですねぇバーロー♩」
「バ、バーロー!? あんた、兄貴とあたしで態度違いすぎない!?」
「はぁ〜、あたしはマスターには忠誠を尽くしますけどぉ、そのオマケにまで従うつもりはサラサラごぜーませんのでぇ〜ムヒョヒョ♩」
コ、コイツ…っ。薄々そんなこったろーと解っちゃいたけど腹立つッ!
あまつさえ自分と同じ顔なだけに、めっちゃムカつくッ!!
ホンマもんの双子は常にこんな状況下に置かれて、よく発狂しないものね。マジそんけーだわ!
「それにしてもぉ…くっはぁ〜堪りませんねぇコレはぁ。ヤミツキになりそーですぅ〜♩」
おやぢかこのHWMは!? ゴタンマの連中もトンデモネーもん寄越してくれたわねっ。
…とはいえあたしも気にならない訳はないから、こっそり室内を覗いてみたら…
ベッドの上でヘタレ兄貴が腐れ眼鏡の乳をまさぐってるトコだった。
ホンットおっぱいマンよねアイツ。あたしとロボ子もとっくに餌食になったし…小さい頃にはお母さんのおっぱいにもよく触ってた気がする。
あたしだって、どーしてもって拝み倒すなら触らせてやらなくもないのに…よりにもよってあたしと大差ないボリュームのあの女に媚びるなんて、どーゆーつもりよ!?
てかあの女も女で、ロボ子になんかされちゃったせいでリミッター外れてない!?
いかにも処女臭いアレが、よもやここまで大胆になるなんて予想外だったわ…。
「…止めに行かないんですかぁ〜?」
気がつけば戸口で同じ顔を並べてブツクサ呟いてたあたしに、迷惑そうな表情のロボ子が尋ねる。ハイハイ、お楽しみの邪魔して悪かったわね。
「フン、こんくらいならまだ平気よ」
昔はもっと嫉妬深かった気もするけど、今じゃしがないエロ漫画描きの習性か、はたまた兄貴のあたしへの関心が薄れてないことを熟知してるせいか、大概の粗相は許せるようになった。
実の兄妹だったらこれ以上の仲に進展させようがないから詰んでたけど、血が繋がってないって判っちゃったしね♩
それにほら、兄貴のアレ…まだ半分フニャってるから大丈夫。
兄貴はああ見えてかなり我慢強いから、あれくらいならそうそうヤバい事態には…
「…ををっ!? をっほぉ〜オンナの方からガッツリしがみつきやがりましたぜぇッ!」
「なんやてぇ!?」
見ればあの眼鏡、兄貴の胸にしがみついて何やら必死にせがんではる!
どーせそんな度胸はないだろうと高を括ってたのが裏目に出たかコンチキショーッ!!
「安物女の分際でなかなかヤリますねぇ〜♩」
「感心しとる場合かっ!? ロボ子の怪力で無理やり引っ剥がしてこい命令ッ!」
「だ〜からあたしはマスター以外の命令には従う義理はないって言ってんですよぉ物覚えの悪いクソチビですねぇ〜…」
「オメーも見た目同じクソチビだろがいッ!?
有名大学出なのに希望部署に配属されずに不貞腐れた新入社員みたいな逆ギレしとらんと、とっとと逝けやゴルァッ!!」
相変わらず態度最悪なロボ子を部屋に蹴り込んで、いまさら拒否れないようあたしも室内へと殴り込む。その途端…
「私…そこの病院で生まれたの。
正解には…病院の正面玄関前で」
眼鏡女の口から飛び出た信じ難い独白に、あたしは思わずつんのめった。
「しゃーねーから行きますよぉ〜オラオラとっととマスターから離れねーとその眼鏡カチ割ってアンテナに突き刺して天日干ししてメザシにすんぞフン二ギャアッ!?」
ユニークな晒し方を提案したロボ子の罵詈雑言は悲鳴に掻き消えた。あたしがすんでのところで奴のデカパイを鷲掴んで強制停止させたからだ。
巨乳キャラの脳みそは乳袋に詰まってるから、こうして脳髄を破壊してやれば止まる。(※個人の見解です)
それにしても、巷の男子はなんでこんな脂肪とコレステロールの塊が大好きなんだろ?
原作で巨乳設定という割にそこまで大きくないキャラも、アニメ化やゲーム化で必ず五割増になるし。とんだ原作レイプよね。
かくいうあたしの漫画のキャラも、貧乳よりは巨乳の方が圧倒的に支持されるし。
まあ、アホ兄貴の場合はサイズにこだわらず、身近にある乳にはまんべんなく手を出してるけど…でもロボ子を巨乳にデザインしたのはあのアホよね、思い返せば?
…閑話休題。
「だから…私はあの人たちに、一生かけて恩返しをしなきゃいけないの」
あたしたちの突入にはまるで気づかず、ベッドの二人はなおも予想外の話を続けてる。
…なんだ。眼鏡女もあたしと同じだったんだ。
あたしが兄貴と血が繋がってないって知ったのは昨日のことだけど…
実はそれ以前から漠然と、そんな予感があった。
どんなきっかけがあったのか、全然憶えてないけど…兄貴はあたしにとっての大恩人だって、ずっと思ってた。
だから…兄貴の夢や希望は、全部叶えてあげたくて…
漫画を描き始めたのだって、兄貴が漫画以外まるで興味なかったからだし…
その兄貴が自分の夢を捨ててまで、あたしを漫画家にしたいって思うなら…
是が非でもそうなりたいと思って、いまだに努力し続けてるところ…なんだけど…
「そんなのって…虚しくないか?」
なんでアンタがそんなコト言うのよバカ兄貴!?
アンタのために頑張ってるのに、そんなコト言われちゃったら…
「そんなこと…今さら言われたって…
私…もぉ…どーしたらいいのよォーッ!?」
あたしの代わりに泣き叫んでくれた眼鏡女に、あたしは心の中で拍手喝采だった。
実の兄妹じゃないって判ってしまった今でも…兄貴はまだ、あたしを漫画家にしたいって思ってくれてるんだろうか?
兄貴はこれからも…ずっとあたしのそばについててくれるんだろうか?
あたしは、いったい…これからどうしたらいいんだろ…?
「…スゥ…スゥ…」
…ふと気づけば、泣き疲れた眼鏡女は兄貴にしがみついたまま健やかな寝息を立てていた。
言いたいことを全部ぶちまけて安心したらしい。…羨ましい女よね。
それを兄貴が、やっと寝ついた子供をあやすように撫でながら見守ってる。
…ホント、羨ましい奴…。
「…って訳だったらしいぜ。どうせ全部聞いてたんだろ?」
あたしたちの存在にとっくに気づいてたらしい兄貴が、チラリとこちらに目を向けた。
今さら隠れるつもりもないし…いつしか目元に溜まっていた涙を拭って、あたしはベッドへと近づく。
「…割とお気の毒な方だったんですねぇ〜」
柄にもなく眼鏡女を気遣いながら、ロボ子もそばに寄ってきた。
たしかに…最初はなんてズル賢くて気に入らない女なんだって思ったけど…
すべてを知ってしまった今となっては、ある種のシンパシーすら感じてしまって…追い出す気は微塵もなくなっていた。
それはたぶん、眼鏡女も同じで…だから塾の寮に入るなんて大嘘こいてまで、無理やりウチに転がり込んだんだろう。
ここの皆なら、自分の気持ちを解ってくれると思って…
兄貴なら、きっとなんとかしてくれるって…すがるような気持ちで。
このアホ、こう見えてけっこー頼り甲斐あるしね♩
「…んで、これからどーすんの?」
「どーすっかなぁ…やれやれ…」
なーんも考えてない感じで部屋の天井を仰ぎ見る兄貴…だけど、こういうポーズをとった場合には大抵、とっくに腹を括ってる。
「あ〜ぁ、せっかく告白までされちまったのになぁ…」
「同時にフラれてたじゃん?」
どこからどう見ても兄貴に気がある素振りを見せといて、初っ端から付き合う気なんてサラサラ無かったなんて…やっぱトンデモネー性悪だわ、このクソ眼鏡。
「たはは…どーせなら、もっとこっぴどくフラれてみっか?」
へ? 思いがけない発言に目が点になるあたしたちの前で、兄貴は眼鏡女を起こさないようにそっとベッドから抜け出して…
「…まだ寝るには早い時刻だしな」
と、不敵な笑みを浮かべた。
◇
窓辺の小鳥の囀りで目を覚ます。
窓の外はもう明るい。枕元の時計を確認…しようとしたら、無い。
そういえば此処って住み慣れた自分の家じゃなくて…七尾くん家だったっけ。
途端に昨夜の色々なことを一気に思い出して…顔が熱くなって、再びベッドに潜り込む。
周りにもう誰もいなくて助かった。
体感時間で、いつもの起床時刻よりかなり遅いことが判る。みんなもう起き出してるんだろう。
ゲスト扱いとはいえ寝坊は禁物。今後はもっと早く起きようと誓いながら、ようやくベッドから抜け出す。
廊下に誰もいないことを確認して、寝室から自分の部屋へと速やかに移動。
いまだ未開封だったスーツケースから普段着のワンピースを引っ張り出して、手早く着替えを済ませる。
寝乱れた髪を束ねて、いつものポニーテールに。もっと色々試してみたい気もするけど、この髪型がいちばん大人っぽく、背も高く見えるから、普段はこれで通してる。
伊達メガネを掛けて角度調整、もっとも頭が良く見える位置をキープ。コレが無いとずいぶん幼く見えてしまうから、素顔は好きじゃない。
爪を切ってハンカチとポケットティッシュをポケットに忍ばせたら、姿見の前で最終的な身だしなみを指差し確認。
「爪よぉーし。鼻毛よぉーし。眼鏡の曇りよぉーし。…うん、今日もカンペキ♩」
ここまでが私の朝のルーティン。健やかな日常は規則正しい身支度から。
寝坊したままのボサボサ頭で食パン咥えて「遅刻、遅刻ーッ!」って言いながら通学路を全力疾走する子なんて考えられない!(※実際いねーよそんな奴ぁ!)
「…って、もう寝坊してたんだった! 遅刻、遅刻ーッ!」(※あ、いた)
部屋を飛び出て、階段を踏み外しそうになりながら慌てて駆け降りて、一階に降り立つ。
途端にリビングから談笑する七尾くんの声が聞こえてきた。ななみさん達の声はしないから…相手はお客さんかな?
昨日の今日で、彼とは顔を合わせづらいから、それならまた後で…と踵を返しかけたところで立ち止まる。
七尾くんにあれだけ不誠実な態度をとったというのに、この上まだ逃げるって言うの?
確かに、彼とは将来的には結ばれることはないだろう。
けれども…今の私の彼への想いは、偽らざる本物なんだ。
それならダメだと彼に言われてしまえば、それまでだけど…このままスゴスゴ引き下がってたら、わざわざこの家にまで押しかけた意味がない。
せめて朝の挨拶くらいちゃんとして…あわよくばお客様には「カノジョです♩」とご挨拶して、既成事実化しちゃお☆(※やっぱり小賢しい)
「お、おはようございまーす…」
「…お、委員長。遅よう♩」
ううっ、いかなり出鼻をくじかれた。部下の遅刻をちびちびいぢくる嫌われ上司みたいな真似してくれちゃってからにもう!
「よく眠れただろ? 二人の共同作業であんだけガンバッた後だしなっ♩」
ちょっ何言ってんのこのエロガキッ、お客さんの前だってのに!?
…と、そのとき。
「ハハハ、なかなかユニークなカレシさんじゃないか。なぁ母さん?」
「ええ。おまけにこんなにカッコイイし。さよりってけっこー面食いだったのね♩」
七尾くんの向かいの席から、聞き覚えのある二人の声が…
覚えもなにも、昨日までは毎日聞いてた、耳馴染んだこの声って…!?
「やぁさより、おはよう」「珍しくお寝坊さんね♩」
席を立ってこちらに手を振る二人の顔を見て、私は軽いめまいを感じた。
「お…父さん…お母…さん…!?」
【第三話 END】
のっけから何やら穏やかならざる第三話ですが…まあコメディでも平然と人死にが出る、いつもの作風ですんで(笑)。
割りかしドギツい描写が多めな今作ですが、もう手加減するのはやめました。
理性的に振る舞った結果がツマラナイんじゃしょーがないですからね。己の心の赴くままに!(笑)
今のところはまだおとなしめな委員長ですが、今後もっともキャラ崩壊するであろう厄介な存在です。こういった一筋縄ではいかない人物を描くのが大好き♩(笑)
作中では貴重な眼鏡っ子ですしね(笑)
一見、秘密結社ゴタンマとはまるで無縁な一般庶民ですが、実は…?
後の話ではもう一人、こちらは理知的な眼鏡野郎が登場する予定なので乞うご期待!
かくいう作者も外ではコンタクト、家では眼鏡着用のハイブリッドキャラだったりします(笑)。




