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追憶父娘。

【前回のあらすじ】

 ゴタンマで過ごした頃の記憶を取り戻したななおは、さっそく朝っぱらからやまぶきとイチャコラ♩…こいてたところを、ななみに見られたァーッ!?

 同人誌即売会などでのななおの態度から不信感を抱き、自分への愛情の翳りに危機感を募らせていたななみの不満はついに大爆発。

 ここが絶海の孤島であるにもかかわらず、書置きを残して家出?してしまう。


 だがななおの勘の冴えは凄まじく、捜し始めていくらも経たないうちにななみを発見。

 その場で誤解を解き、血の繋がらない彼女への愛情がむしろますます増していることを示したななおは、ついにななみと結ばれた。

 実は二人の逢瀬の一部始終はへぼみによって既に全員に知れ渡っており、宿舎に帰るなり生温かい祝福の餌食に。


 これからも少しずつ変化しつつも、これまでと何も変わらない穏やかな日々が戻ってくる…かと思った矢先、ななおの正体を見抜いた副首領が島を訪れた。

 急転直下、混乱必至の彼らの明日はどっちだ!?





 島の上空を旋回し続けたVTOL機は、やがてローターの向きを変えて降下を開始した。俺達のすぐそばに着陸するつもりらしい。


「撃ちますかぁ〜?」


『やめときなさい。』


 薄ら笑いを浮かべつつ、機体の下っ腹に照準レーザーを照射しながらのへぼみの射撃許可を全員で却下。

 おおかた、またテキトーな攻撃衛星を乗っ取って軌道上からビームで撃墜するつもりだったんだろ。他所様ん家の兵器を私用でホイホイ拝借すな。

 まぁ、俺の正体に気づかれたからには確実にメンドイだろうけど…相手の出方も見極めないうちから科特隊隊長みたいな『怪獣出現→即攻撃』判断すんなし。市街地住民…いや真下にいる俺達の避難もまだなのに。


「それにアレ…いちおーお前の上司だろ?」


「はぁ〜。でもでもぉ、あたしに課せられたマスター死守命令は最優先事項ですしぃ〜」


「…へぼみちゃん? ソレ極秘指令だったんだけど」


「敵の親玉に直接お出まし頂いたんですからぁ、もぉ極秘も何もありませんよぉ〜♩」


 恐るべき攻撃能力を有しつつ、上司の命令をも勝手に上書きするHWMってヤバくね?

 ま、いかにも偶然を装ってへぼみをウチに寄越したのはやまぶきだし、確かに今さらだけどな。


「将来的にはマスターのお立場が相手を上回るご予定ですからぁ、チンケなゴミ虫はとっとと叩き堕としておいた方が手っ取り早いじゃないですかぁ〜♩」


 うっわー。ヤバイどころか今すぐスクラップにすべきじゃねーかコイツ?


「ハッハハッ、イイねぇ〜この子!

 これぐらいあからさまに腹黒い方がむしろ扱い易いから、僕は好きだな♩」


 皆が引き気味のなか、波音総理だけが大爆笑で拍手喝采。そりゃ〜アンタ以上に腹黒い御仁もそうそうおるまいて。


「はぁ〜、首相閣下のお褒めに預かり光栄至極ですぅ〜♩」


 褒めとらん褒めとらんっ!


「…生憎だがね、へぼみくん。キミに私を倒すことは出来んよ。我が結社のHWMはそういうふうに組んである」


 俺達がしょーもないやり取りに気を取られている内に、近くに着陸したVTOL機から姿を見せた副首領がニヤリとほくそ笑んだ。


「ほぇ?…あ〜、本当ですぅ。攻撃禁止コードが出て動けましぇ〜ん!」


 何をやらかそうとしたのか知らんが、彼に目を向けたへぼみの動きが途中でピタリと固まった。

 さっきみたく照準までは出来るようだが、攻撃の実行は拒否されてしまうらしい。


「ウチでHWMの開発を指揮したのは誰だと思っとるのかね?」


 …つまり、最初から彼への攻撃が出来ないように仕組まれてる訳だな。

 大昔の何処ぞのロボット警官映画では、会社をクビになった途端にコードが解除されて撃たれまくってた悪役上司がいたけど、無論そんなチョロいギミックにはなってないだろう。


「さて…久しぶりだね、七尾ななおクン?」


 俺にフレンドリーな挨拶をかました副首領の目に、やおら狂気の光が宿る。


「いや…前首領である私の兄者…の、不出来な『クローン』。」


 あ〜言っちまった。やっぱメンドクセーことになったぢゃん…。


 ざわ…っ!?


 洗いざらい暴露しちまったじろさんのせいで、周囲のどよめきがことさら大きくなった。

 無理もない。ここで俺の正体を知ってるのは、ななみたち俺の偽装家族とやまぶき達ゴタンマ関係者の極一部だけだったからな。

 …あるいは波音総理もか?


「なるほどー、これで納得いったなー。道理で常人離れした知能を持ってた訳だなー…」


 ていちが独りで合点して、しきりとウンウン頷いてる。ただの教師にしては勘が良すぎる奴だとは思ってたが…まさかここまで気づいてたとはな。常人離れはどっちだよ?


「え…ってことは、ななおクンは…ななおクンじゃない…?」


「んにゃ、少なくともお前らと出会ってからの俺は俺自身だよ。…それ以前が違うってだけだ」


 混乱しきりのさよりに応えた俺の顔を真正面から見つめて、あゆかは少し怯えたように…


「つまり…お前はどこの誰なんだ?」


「…さあな。そいつは俺が訊きたい」


「しらばっくれるな! 貴様が俺にしでかした数々の非礼を、忘れたとでも言うつもりか!?」


 じろさんが急にキレた。一人称まで変わっててチョイ怖っ。

 そんなコト言われたって、知らねーものは知らねーし。


「言っとくけどな、じろさん? 俺はアンタの兄貴のオリジナルでも、その最初のクローンでもないんだぜ?」


 そう。俺は一旦死んだ後、やまぶきの能力で新品の素体に彼女が知り得る限りの人格や記憶を詰め込まれて再生された…言ってみりゃ『クローンのクローン』だ。

 やまぶきが知らないコトは当然、俺も知らないし、ましてや兄弟間の確執なんざ知ったこっちゃねー。


「アンタについて引き継いでる記憶っつったら…

 いきなり撃たれて殺されたから、次は注意しろってコトくらいかな?」


「んなっ!?」


 面食らったじろさんの周囲で、ギャラリーのどよめきがますます大きくなった。

 どーよ、さっきの仕返しだぜ?


「真田じろうくん…アンタ…」


 首相も詳しい経緯は知らなかったらしく、ショックのあまり第一話以降久々に出てきたフルネームで彼を呼んだ。

 単純に『真田くん』じゃないのは、かつて兄である前首領の方をそう呼んでたから差別化を図ったんだろう。

 ということは…首相とじろさんとの仲がそれほど深くないことの証明でもある。


「それについては、ゴタンマの倫理基準的には大したコトではありません。

 『若様』にはその時点では人権はなく、単なる実験体の扱いでした」


 フォローを入れたのは意外にもニャオスリーだった。そのあんまりなお言葉に、やまぶきが当然のように抗議しようとするが、


「しかもそれがソレが自ら施設からの脱走を企てたとなれば、組織への立派な反逆行為…。

 副首領の対処は極めて正当なものでしょう」


 と続けて却下した。脱走を手助けしたやまぶきも勿論同罪だから、追及されたくなければ黙っとけということだろう。

 さしもの波音総理も、ゴタンマの管理者である自分の娘がそう判断したのであれば異論は挟めまい。

 が、ニャオスリーの話はこれだけでは終わらなかった。


「それよりも問題なのは…その後に前首領本人を銃殺したのも副首領だった、ということでしょうか?」


『!!??』


 三度、全員に衝撃が走った。

 だが当時の事情を知るやまぶきや…張本人のじろさんは涼しい顔。ニャオスリーが喋り始めた時点で、ここに話が及ぶことを予見してたんだろう。


「クローン施設の無断使用というペナルティこそあったものの、首領の地位を鑑みれば、その程度では彼の殺害理由には遠く及びません。

 …どう申し開きなさいますか…副首領?」


 ニャオスリーは管理者でこそあるものの、組織内における副首領の立場は彼女よりも上位だ。

 そしてゴタンマが非合法組織である以上、一般的な法律では彼を裁くことはできない。

 たから…ニャオスリーは待っていたのだろう。今日のような機会が訪れることを。


「…なんですぐ言わなかった? 僕に任せてくれれば対処のしようも…」


「ゴタンマの守秘義務に抵触しますので」


 おカタイ言い訳で総理の助力を退けたニャオスリーだが…本当のところは、父親に泣きつきたくなかっただけなんだろうな。

 自分がデキル女であるところを見せつけて、愛する彼に格好付けたかったんだろ。

 けど…もうちょい可愛げがあった方がモテると思うぜ? せっかくカワイイ顔してんだし。


「まったく…へそ曲がりなのは相変わらずだな」


「別段おへそは曲がってないと思いますが…直にご確認くださいますか?」


 あ、ちゃんとモテてた。子供のように…我が子だけど…ニャオスリーの頭をポンポンあやす総理に、彼女は名前通り猫のように目を細めて甘えている。


「フッ…ところ構わず傍迷惑な父娘愛を見せつけられるのも今日までかと思うと清々するな」


 その様子を忌々しげに眺める副首領の目に、再び狂気の光が宿る。


「何のために諸君らのバカンス先に手を回して、この島を選ばせたと思っとるんだ?」


 ジャキッ。いつの間にか彼の背後にスタンバっていたHWM達が、一斉に銃口をこちらに向けた。

 HWMと言ってもへぼみやあゆかとは違い、いかにもロボット然とした旧式タイプだ。


「へぇ、『自立歩行型攻撃機』か。いまだに各国の軍隊でも採用されているけど…そろそろ骨董品の域かな?」


 HWMときたら黙ってはいられない専門家の真木名れいじ博士が解説役を買って出た。

 ちなみに隣ではていちがしきりとウンウン頷いてる。仲がおよろしいご様子で。

 んで、このタイプは戦闘用ドローンを発展させた代物で、任務遂行のため必要最低限のAIを搭載しているが、自我や人格を持たず、指令を忠実に実行する、まさに殺人メカだそうな。


「古いからって決して弱いって訳じゃないし…余計な思考に振り回されない分、どんなに非情な命令でも着実に遂行できる。

 実にタチの悪い殺し屋だよ」


 よくよく周囲を見渡せば、そのタチの悪い殺し屋の一団に、俺達はすっかり包囲されちまってた。油断して長話が過ぎたようだな。

 な〜んかピンチっぽいけど…はてさてどーしたもんかね?





「ホラホラぁ〜やっぱり撃っといた方がメンドくなかったじゃないですかぁ〜」


 へぼみがやれやれと文句を言う。

 今さらだが禿同だな。この大量のHWMも、あのVTOL機でわざわざ運んできたものだろうし。

 どうやらじろさん、本気で俺達をここで討つつもりらしい。


「いやはや、『表』の代表がよもやここまで短絡的とは思わなかったな…」


 総理が疲れたように首を振る。

 『秘密結社ゴタンマ』はあくまでも裏の顔で、表向きは世界有数の企業グループ『マタンゴ』で通っており、じろさんはそのCEOを務めている。


「まあ世界に目を配れば、よほどの有名企業でもコレ以上に短絡的な経営者は掃いて捨てるほどいますから。

 フツーの会社ならこれでもOKでしょうが、『ゴタンマ』の首領にはそぐわないというだけのことです」


 ニャオスリーもここぞとばかりに言いたい放題ながらも、かつて彼を首領に推さなかった理由を簡潔に説明している。


「ちょっと厄介ですねぇ〜コレはぁ。

 このタイプは古すぎて、任務遂行中の命令変更がリモートでは効かないんでぇ、あたしでもハッキング不能なんですぅ…」


「稼働中に敵に乗っ取られるのを防止するため、あえて不便なシステムになってるんだよねー…」


 ジワジワ包囲網を狭めるHWM軍団に困り顔を向けるへぼみの言葉を、真木名博士が補足する。

 クソッ、万事休すか?


「いえいえ、対処法はありますけどぉ〜?」


 へ?とマヌケ面を晒した俺達をよそに、へぼみは何の防御もとらず一体の攻撃機にトコトコ歩み寄って…ガゴンッ! ボフンッ!!


「こーして直接どつけば簡単に倒せますぅ〜♩」


 鉄拳を真正面から叩き込まれて爆炎を上げる敵機を背に、ニッコリ微笑むへぼみがコワイ。それ、お前以外は全然簡単じゃないからな?

 でもこれなら楽勝じゃん。いったい何が厄介なんだ?


「あー…これは『バーサクモード』発動だな」


「あの博士、この局面で専門用語はナシにして、解りやすく言ってくんね?」


「これは失敬。基本的には攻撃プログラム通りに動く彼らだけど、予定外の反撃を受けるとテロ行為発生と判断して、現場に動くモノが無くなるまで一斉攻撃を開始するんだよ」


 なん…だと…!?

 ヒュンッ。博士の解説を理解するよりも早く、どっかから飛んできた弾丸が俺の鼻先をかすめた。


「なので全部叩き潰すまで、流れ弾に注意してくださいねぇ〜?」


「ソレ先に言えやアホぉーーーーっ!!」


 実にイキイキしたイ〜ィ笑顔でHWM軍団を迎撃しつつのへぼみの警告に、ななみがドッヂボールかリンボーダンスかといった要領で銃弾からヒョイヒョイ逃げ回りつつ涙声で怒鳴り返す。

 てか…何でかアイツのとこにばっか攻撃が集中してね? まぁ当たりっこないだろうけど。


「より活発に動き回る標的から優先的に狙い撃つようになってるんだよ」


 と、またしても真木名解説。

 もちろん俺達も必死こいて逃げ回ってるけど…ゲームじゃねーから一発でも食らったらオシマイだからな…ななみがあらかた敵を引きつけてくれてるせいか、難易度はいくぶん下がってる。


「てか…動くから狙われるんなら、止まってみたらどーだ? ダルマさんが転んだみたいに」


「お前は人喰いグマを目の前にして死んだフリが出来るのかー?」


 博士の代わりにていちが呆れたように応えた。

 …出来るわきゃねーだろがぃチクショー!


「残念ながら生体識別機能もちゃっかり搭載してるから、死んだフリは無駄かな?」


 と博士。ですよね〜、戦場でンなチョロいモン使うわけナイっスよね〜。


「でも攻略法は無くもないかな?

 …皆さん、敵の顔を見てください!」


 やおらその場の全員に聞こえるように叫ぶ博士。

 言われた通り見てみれば…敵HWMの頭部中央には、双眼鏡のような赤外線スコープがキラリと光っている。


「奴は標的を認識するために赤外線を照射し、目標を捉えてから撃ってきます。攻撃方向は常にスコープの直線上…つまり、目の前にさえ立たなければ撃たれません!」


 なるほど、ナイスアドバイス!

 皆、教わった通りに対処し始めたお陰で、敵の射撃回数が目に見えて減って、俄然避け易くなった。

 けれどもこれだけ数が多いと、どうしても敵の射線上に位置してしまうこともある訳で…その時ばかりは勘で回避するしかない。

 そして、この場にいる全員がどうやらニュータイプらしかった。


「あははっ、ゲームみたいで楽しいねコレ♩」

「真面目におやんなさいっ! 当たったら人生そのものがゲームオーバーなんだから!」

「へいへい。相変わらずウルサイな〜もぉ…」


 ダンスゲームでもするかのように華麗なステップを披露する第二夫人のマヒルさんを、第五夫人のユウヒさんが嗜めている。

 この二人は高校時代からの親友同士らしく、掛け合いも阿吽の呼吸だ。


「ねぇねぇ、こんなんどーかな?」


 その二人に呼びかけたのは、一見子供にしか思えないミニマムバディな第四夫人のシノブさん。年齢的には皆同じくらいのはずなんだが…?

 彼女は何を思ったか、わざわざ敵に自ら接近してベロベロバァ〜っと挑発。

 これに怒りを覚えるような高尚なAIは搭載してないはずだが、HWMは即座に彼女目掛けてブッ放した!

 しかしシノブさんはそれをじっくり見極めてから、余裕でヒョイッと跳んでかわす。凄っ! いったいどんな動体視力してんの!?

 そればかりか、撃った先には別のHWMが突っ立ってて…見事にジャストミート!

 撃たれたHWMは最後っ屁とばかりに弾を放ってから機能停止。その弾は、先に撃ったHWMに迫り…キレイにリベンジヒットを決めた!

 生身の身体で二体同時撃破…だとっ!?


「イヒヒッ、どーよっ!?」


「凄っ!?…いは凄いけど、程々にしときなさいアンタも! もうすぐ母親になるんだからっ!!」


 ユウヒさんに怒鳴られ、バツが悪そうに頭を掻くシノブさんを見つめて、


「いいなー…私も早く赤ちゃん欲しいなー♩」


 第三夫人のヒマワリさんが夢見るように呟けば、そばで聞いていた第一夫人のハイニャオさんが、


「ええ、子供はとても良いモノですよ。ソレさえあれば私はあと十年…否、永遠に戦えます

 たとえ全く懐いてくれなくても…命、燃え尽きるまで…!」


 と感涙するのだった。

 …も少し母親に優しくしたれやニャオスリー。





「…はぁううう〜っ!?」 ドッゴォッ!!


 一方こちらでは、背後からのっそり忍び寄っていた敵の気配を素早く察知したアサヒさんが、駄々っ子パンチを畳み掛けて粉砕したところだった。

 え゛、駄々っ子パンチにそんな威力ある?…と思ったそこのアナタ。年齢を重ねても彼女はカワイイ→カワイイは正義→正義は必ず勝つ!


「今のよく見抜いたな。オレ全然気づかなかったぞ!?」


 一緒に逃げていた旦那さんの或角あるかどリヒト氏が舌を巻くと、アサヒさんは下顎に指を押し当てて、


「んーなんかね〜、チロリロリン♩って電波が飛んできたの☆」


 まさにニュータイプ!? 彼女は以前は耳が聞こえない不自由な生活を強いられてたそうだから、常人よりも勘が鋭いのだろうか?


「ぅおわあっ!?」


 唐突に響いた悲鳴に驚いて振り向けば、


「いつの間にかこんなコトに!? へるぷみーっ!」


 四方八方をHWMに取り囲まれたはるきが泣き喚いていた。

 一人ぐらいは非ニュータイプの凡人がいた方が安心できるが…どーやったらそんな器用な状況が作り出せるのか。てかなんで撃たれない?

 ガゴゴゴゴッ!…ちゅどどどどお〜んっ!!

 またもや突然、一体のHWMがド派手にすっ転んで隣り合うHWMにぶつかったかと思えば、それが連鎖的に発生してはるきを中心に円を描き…順番に連爆して果てた。


「なっ…んだコレぁ…!?」


 引き攣った顔で戸惑いまくる彼の前に、シュタタッと降り立つ二人の人影。


「セカンドハニーは殺させない…!」

「左様。今後の話し合いもまだなのに、勝手に死んで貰っては困るな」


 …やはり、助け船を出したのはお袋と親父だったか。


「二足歩行…それこそが連中の最大の弱点」

「ローターかせめて車輪移動の方が安定するのに、わざわざ接地面積を減らしてアンバランスになっておるから、簡単にすっ転ばせる」

「脚などタダの飾り。エライ人にはそれが解らんのです…!」


 大昔から取り沙汰されてるロボ作品の矛盾を、今さら蒸し返されてもなぁ…。


「おっお奥さん…奥さぁ〜んっ!?」「わお、ダーリン積極的♩」「どさくさに紛れて女房に抱きつくなァーッ!!」


 恐怖のあまりお袋にしがみ付いたはるきを、親父が血相変えて引き剥がしてる。これはこれで割とバランス取れてねーか、この三人?


「しろがね! 何処にいる、しろがねっ!? 早く助けに来んかッ!!」


 どさくさに紛れて聞こえてきた悲鳴の方を見やれば…じろさんも俺達同様に銃弾の雨から逃げ惑ってた。いったい何しに来たんだアンタ?

 さて、呼ばれた方のシロちゃんは…


「ぅにゃにゃにゃにゃにゃあ〜ッ!!

 いま手が離せないから、自力でガンバレなのにゃっ!」


 …あ、いたいた。へぼみ同様に戦闘HWMを片っ端から潰して回ってる。

 マスターが持ち込んだ物騒な代物を、結局手下が処分するハメになるとわ。ヘボ上司に苦労するのはどこの世界もおんなじか。

 その戦闘スタイルは力任せのへぼみとは対照的に、優れた敏捷性を活かして敵の間を走り回り、混乱した敵の同士撃ちを誘ってる。なかなかクレバーだが効率が悪いな。


「彼女のフレームは、あの速さを産み出すために強度を犠牲にした造りだからね。と言っても僕ら人間よりは頑丈だけど、屈強な軍用機をマトモに相手にしてたらタダじゃ済まないだろうな…」


 博士の弁から察するに…先日のイベントでへぼみを殴り倒したときには、ありゃヤセ我慢してたな?

 おそらくへぼみのボディは現存するHWM内では最強クラスの剛さを誇るだろうし。


「てか博士…シロちゃんがHWMだって知ってたのか?」


「ああ、これでも今は開発主任の立場だしね。

 彼女はゴタンマ初の人格搭載型HWMだから、何かと興味深くってねー」


「さすがはへぼみを追っかけてゴタンマに入った変態博士、ロリッ子には目がないな?」


「ヘンタイだーヘンタイだー♩」


 隣で茶化すていちに顔を引き攣らせた博士は、


「あの…貴女にそう言われると、割りかしショックなんですケド。

 …自分では恋人候補のつもりだったもので」


「へ…♩」


「そ、それにしても…あの二人も凄いね。人間にしとくのがもったいないよ」


 バラ色に染まるていちの視線から照れて思わず顔を逸らした博士が次に目をとめたのは、意外に善戦してる左右田そうだ姉弟。


「次の獲物は此奴じゃ、弟よッ!」「応ッ、姉上ッ!」


 鬼神と化した双子が男塾のように掛け合いつつ、一体のHWMを前後から挟み込むと、その周囲を妖艶な舞いでゆっくりと周回する。

 対するHWMはすぐにでも反撃できそうなものなのに、頭部のスコープをグルグル回転させるばかりで…まるで目を回してるようだ。


「巧い攻略法だね。とはいえこの二人にしか出来ない芸当だけど」


 博士によれば、双子ゆえに瓜二つな風貌の二人が機械的には判別できず…同一人物が同時にニ方向に出没するものだから、混乱して照準が定まらないんだとか。

 すなわち、アレは本当に目を回してるんだ。

 双子姉弟はなおも舞い続けながら、徐々にHWMとの間合いを詰めていき…

 やがて、直に手が届くほどの至近距離になったところで、


『…破ッ!!』


 二人同時に前後から張り手を叩き込んだ!

 パァンッ! 敵のスコープレンズが粉々に割れて吹き飛ぶ!

 さすがに本体の破壊までには至らないが…え、アサヒさんは駄々っ子パンチで敵を畳んでたって? だからアレは美少女のみに許された特権行為なんだよ。

 かと言って双子も充分お釣りが来るほどの美男美女コンビには違いないが…さっきのアレは見なかったコトにしようッ!


「よしっ、目や耳に当たるスコープやセンサー類を破壊すれば、もう攻撃は出来ない!」


「いやまだ武器持ったままですけど?」


「まあ見てなって♩」


 博士は楽観視してるが、敵さんは案の定手にした銃を構えて乱射モードに移行しそうな気配。

 そうなる前に左右田姉弟はとっとと奴のそばから退避しており…ズババババッ!


「!?」


 確かに銃撃は開始された。

 ただしそれはあのHWMではなく…その周囲にいたHWM達が、件の個体めがけて一斉に襲いかかったのだ。


「ああなってしまったら最後、制御不能とみなされた個体は安全確保のため、周囲の仲間によって強制停止させられるんだよ」


 博士の解説が終わると同時に、文字通り蜂の巣にされたHWMはその場にガラガラと崩れ落ちて只の鉄屑と化した。嗚呼なんたる非情!


「やったのぉ♩」「よし、次行ってみよー☆」


 鉄屑を前に祝福のハイタッチを交わした二人は、次の標的を求めて現場からズラかった…。

 …いやいや何なんあの戦闘力!?

 彼等の家柄は日本舞踊の家元だとばかり思ってたけど、只の舞踊にあんな威力がある訳ないじゃん!

 その実態は古来より伝わる一撃必殺の暗殺拳…暗黒舞踊だったらしい。

 ゴタンマの前身も江戸時代に結成された諜報機関だし…彼等の御実家もたまたまご近所だったんじゃなくて、何らかの関連があるのかもしれん。う〜む?

 などと考え込んでたところへ、


 ズビシッ! 「クッ…!?」


 誰かがすぐそばで被弾した!?

 ついに犠牲者が…と思ったら、


「あゆかさんっ!?」


 被弾者の陰からさよりが顔を出した。撃たれたのはあゆかだったか。逃げ遅れたさよりの盾になったらしい。

 フレームは生身の人間よりは頑丈だろうが…


「あゆか!? 大丈夫かっ!」


「あ、ああ…少しかすっただけだ」


 嘘つけ。被弾部分の外装被膜…人間でいうところの皮膚がド派手に弾け飛んてるじゃねーか。

 …などと反論しようにも、彼女に呼びかけたのは俺じゃなかった。


「何を言ってる!? キミは戦闘用の設計じゃない。生体部品の割合も多いから、出血が多ければ機能停止するぞ!…人間の死と同義だ!」


「…誰だ、貴方は?」


 心配のあまり叱り飛ばした博士に、あゆかは根本的な疑問で応えた。記憶領域を初期化した際、博士に関する記憶も消えたからな…。


「僕は…………キミの開発者だ。」


 かろうじてそう答えつつも、博士が受けた精神的ダメージは少なくなかったらしい。

 彼女と出会ってからまだ日が浅かった俺ですら結構キツかったんだ。

 かつて彼女と許嫁の関係にまでなっていた博士にとっては…。


「開発者…それなら私を直せるだろう? ついでにもう少し頑丈にしてくれないか?」


「無茶言うなよ…善処はするけどね」


 などと、なんとなーくイイ雰囲気なかつての許嫁…今は開発者と最高傑作な二人のじゃれ合いを、


「…ヘンタイだーヘンタイだー」


 嫉妬したていちがまたもや大人げなく囃し立てるのだった。ハイハイ、仲良くケンカしな♩


 さて、残るやまぶきと桜ふぶき編集長は…あ、いたいた。

 駆けつけた宿舎の警備員達の手厚い保護を受けてるから、まぁ大丈夫っしょ。


「金ちゃん金ちゃん金ちゃあーんっ!?」

「ハイハイ大丈夫よ〜大丈夫ですよ〜…たぶん」


 いつもとは完全に立場が逆転して、子供のように怯えてしがみつく編集長をやまぶきがあやしてる。

 まあ編集長は以前はまったくフツーの民間人だったから仕方ない…いやフツーじゃないか、あれだけ巨額の利益を稼ぎ出す人だし。


 …とかやってるうちに、ふと気づけば銃弾の雨はいつしか止んでいた。


「ハァ、ハァ…やっと終わったにゃ…」


「大したコトないけど数だけは多かったから、割り合いてこずりましたね〜♩」


 夥しい数のスクラップの中心に佇んだシロちゃんとへぼみが、互いの健闘を讃え合ってる…ように見えなくもないけど。





「皆さんご無事でしたかぁ〜?」


「ゼェゼェハァハァ…ザマァ見ろコンチクショーッ!!」


 へぼみの問いかけに、満身創痍なななみが足下の戦闘HWM…だったガラクタを蹴り飛ばして雄叫びを上げた。


「ななみくんがあらかたの敵を引きつけてくれたお陰で、全員なんとか無事みたいだね?」


 周囲を見渡した波音総理が安堵の息を洩らす。


「でも、あゆかさんが…」「大丈夫だ、大したことはない」


 うろたえるさよりを落ち着かせようと気丈に振る舞うあゆかだが、大きく抉れた傷口が見るからに痛々しい。

 それでもかろうじて生き延びた健闘を皆がてんでに讃えあっていた、その時。


「このっ…役立たずめがァッ!」

 バキャアッ!!

「ぅにゃあっ!?」


 突然シロちゃんを殴り飛ばした副首領に、皆の視線が集まった。


「貴様ッ、飼い主である俺の危機を放ったらかして、今まで何をしていたっ!?」


「あ、あの場面ではまずその危機の原因を取り除くことが先決だったのにゃ…!」


「口ごたえするなァーッ!!」


 そしてまた鉄拳制裁。


「お前はいつもそうやって俺の命令に逆らってばかりっ…! マスターをないがしろにするのも大概にしろォッ!!」


 じろさんのあまりの剣幕に誰も近づけず、遠巻きに「ちょっと奥さん、ご覧になって? ヤァ〜ねぇ〜アレ!」と井戸端会議状態。

 俺達ごく一部の人間は、シロちゃんの正体がHWMで、そのマスターはじろさんだと知ってるから、無理もないかと静観できるが…

 そうでない者の目には、いたいけな少女をいい年したオッサンが痛ぶってるようにしか見えない。


「どいつもこいつもっ、糞がっ! クソがッ! クソッタレがぁあ〜〜〜〜ッッ!!」


「ゴメンにゃゴメンにゃあ〜!」


 ぽこスカぽこスカ…罵詈雑言は聞くに耐えないが、やってるコト自体は擬音にするとこんな感じでなんだか滑稽だし、実際たいしたことはない。

 だいたいHWMにあんなオッサンのへなちょこパンチが効くわけもないだろうが…シロちゃんはどうやら本気で怯えている。

 造られてからまだ日が浅いこともあって、マスターにここまで本気でブチキレられたことが無かったんだろう。

 そして彼女の精神年齢はまだまだ幼い。だから叱られたという行為自体に震え上がってしまって、ろくに反撃もできず一方的にやられ放題。

 たしかにじろさんの言い分にも一理あるが、親が人前で子供を叱ることすら憚られるこの御時世に、なんてご無体な。

 こりゃも〜見てられん。と誰もが引き気味に目を背けていたところへ…


 ツカツカツカツカ…パシィーンッ!


 果敢にもそんな二人の間に割って入って、じろさんに見事な平手打ちを喰らわせた彼女に、誰もが今度は呆気にとられた。


「いい年した大人がっ! こんな小さい子にっ! なんてコトしてんのッ!?」


 いかなる場面でも空気を読まない、もしくは読めない鉄血才女…さよりである。

 今までのやりとりから皆、シロちゃんがHWMであることに薄々気づいたようだが、彼女だけは勿論まっっったく気づいてなかった。

 怒りに肩をわななかせ、眼鏡の奥に涙を滲ませた正義漢の塊なその姿は、まさしく理想の委員長像そのものである。

 助けられたシロちゃんは、すかさずその背後に隠れてぽろぽろ涙をこぼしている。普段気が強い子がこんなにも弱々しいと、これはこれでカワイイ♩


「…昔のいいんちょって、常にあんな感じだったよね。最近はななおのお陰でずいぶん丸くなったって安心してたんだけど…」


 俺と同じく小中高とず〜っとクラスメイトだったらしいはるきが、畏れとも尊敬ともつかない顔で鬼子母神の再臨を見つめている。


「このポンコツロボットだって、元は貴方が持ち込んだものでしょ!?

 それでななおクンをボコるつもりが見事に返り討ちにあって、うまくいかなかった腹いせに周りに当たり散らして…恥ずかしいと思わないのッ!?」


「ぐぬぬぅ…ぉのれえ小娘っ、言わせておけば

ァーッ!!」


 再びブチキレたじろさんが、お返しとばかりに右手を高々と振り上げた!

 おいおい今度はマジヤベーだろっ、さよりはHWMじゃねーんだぜ!?

 慌てた俺や腕に覚えのある連中が、彼を取り押さえるべくダッシュしかけた、その時。


「…むぅ?…むむむぅ?…んむむむむぅ〜〜〜〜っ!?」


 何を思ったかじろさんが、相手を張り飛ばすことなくへなへなと引き下げた手をさよりの顔へと差し伸べ、粘土細工のようにコネコネこねくり回した。


「ふみゅうっ!? ちょっ…勝手に触んないでよッ! 誰か警察呼んで警察! このおぢさん変態ですよぉーーッ!!」


 一瞬うろたえたさよりは、当然のごとく大暴れしてじろさんの手を振り解き、ますます激昂。

 しかし、じろさんはまるで胃に介さず独り言のようにブツブツと、


「この顔…そしてこの容赦ない性格…間違いない…っ」


「な、なんかこのおじさん、アブナくない…?」


 今さら相手のヤバさに気づいたさよりが顔面蒼白になるも…

 対するじろさんはまたもや勝手に彼女の肩をぐわしと掴んで強引にたぐり寄せると、チューでもかますのかと思うほどの至近距離にグワッ!と顔を寄せて…


「…しおりっ!!」


 瞬間、場の空気が凍りつく。

 そしてさよりは直前までの威勢はどこへやら、すっかり怯えきった様子で、


「…誰それ? 私はさより…」


「…万城目まきめしおり博士は、以前ゴタンマの生体工学部門に研究開発主任として在籍していた女性科学者です」


 さよりの疑問に答えたのは、現首領のやまぶきだった。


「かくいう私も彼女の改造手術を受けて特殊能力と、未来永劫老いることがないこの身体を授けられました」


「フンッ。兄上の命で訳わからんバケモノばかり作らされおって…気の毒なことだな」


 憎まれ口を叩くじろさんだが、その口調には自分にはどうすることも出来なかった彼女の宿命への憐れみがこもっていた。

 たしか、この二人は一時期恋人関係にあったと噂されてるんだよな…。


「彼はかつて『たとえ悪の組織に身を置いて社会規範に背こうとも、人道的・倫理的に許されない行為はすべきではない』と説いた良識者でね」


 いつの間にかそばに立っていた総理が、じろさんには聞こえないよう俺に囁きかけた。

 それは感心すべきことだが…何処から全てに背きまくりになったんだ?


「やはり、しおりくんが彼のもとを去ってからかな…。あとは歪んだ正義感に突き動かされるがままって感じかな?」


 歪んだ正義感…なるほど。いくら憎んでも肉親である前首領に引き金を引くなど、普通は良心が咎めるところだろうが…

 それでも撃てたのは、兄の行為は絶対許す訳にはいかないという義憤にかられたが所以か。

 自分を正義の味方だと思い込んでる輩は、いつしか大勢から疎まれ悪役に成り下がってることにはなかなか気づかないものさ。

 それはさておき…真木名博士と万城目博士って、なんか語感が似てね? ただの偶然か?


「うちの家系は今でこそカラクリ専門だけど、かつては西洋魔術…いわゆる錬金術だね。その研究に携わってたみたいでね」


 とか思ってたところへ、その当人が説明してくれた。


「大昔に、一族の禁忌を破って破門された者が時々あったらしいけど…もしかしたらその女史の御先祖様は、その内の誰かかもしれないね」


 もしかも何も、同族確定じゃん。よもや思わぬところで奇妙な巡り会いを果たしていようとは…。

 それほどの才女と、全国屈指の頭脳の持ち主であるさよりとの繋がりとは…それこそ無関係とは到底思えんが?


「…大変失礼した。さより…くんと言ったか?

 つかぬことを訊くが…キミの母親は?」


「…本当の母親は、私を産んですぐに亡くなりました。今はその時のお医者様宅にお世話になっています…けど、それが何か?」


 よーやく正気を取り戻して紳士的に接する副首領に、さよりはいまだ不信感を露わにしながらも礼儀正しく答えた。

 するとじろさんは「そうか…」と感慨深げに頷き返して、遠い空を見上げながら…


「ではキミは、自分が何処の誰だか知らないままなのだな?」


「…バカにしないで。私は仙石せんごくさより。仙石病院の一人娘よ。

 少なくとも、貴方なんかとは縁もゆかりも…!」


 ムッとしたさよりが言い返す。てかしっかりフラグ立てちゃってんじゃん?


「…違うッ!」


 それを聞いたじろさんは苛立たしげに振り向いて、たじろぐ彼女の瞳を真正面から見つめて、


「さより…あいむ・ゆあ・ふぁーざー!」


 ホラやっぱりィーッ!

 有名ゼリフのモロパク頂きました〜☆


「…嘘…っ!?」


 ショックを受けてよろめくさより。もーええて。


「いいえ。」


 それを無慈悲に否定したのはニャオスリーだった。


「貴方達のDNA解析は既に終了しています。その遺伝率は著しく高く…99.999%の確率で実の父娘であると判明しました。」


 これ以上ないほど簡単明瞭に証明終了した遺伝子解析のプロに、さよりはもはやショックを通り越して事後状態でひきつけを起こしている。

 だよね〜、テレビ公開捜査じゃあるまいし、いきなりそんなコト言われて納得できるわきゃねーよな。

 ましてや父親は生粋の犯罪者だし…彼女が今まで必死に積み上げてきたモノが一瞬にしてパァじゃん!?

 どんだけ収拾つかない事態にするつもりだよ?





 それにしてもずいぶん手回しがいいなと思ったが…たぶんコレ、最初から仕込まれてたな?

 やまぶきはともかくニャオスリーともあろうものが、俺達を一掃しようとする副首領の企てに気づかないはずがない。

 おそらく彼女は、さよりが彼の実の娘であることを以前から知ってて、今日のような機会が訪れるまでずっと伏せてたんだ。

 そして、俺達当事者だけじゃなく、現状はただの一般人にすぎないさより達にも危険が及ぶことを承知で、この島まで同行させた。

 副首領による前首領暗殺を糾弾すると共に、彼の逆襲を無効化するための強力な武器であり盾として…。


「言われてみれば…激昂すると何をしでかすか判らないトコなんて、まんまソックリだよね〜あの父娘ぐべぶわっ!?」


『やかましーわッ!!』


 父娘の共通点を目ざとく看破して苦笑うはるきの顔面に、二人が投げた石ころが立て続けにクリーンヒットして、標的は沈黙した。

 シンクロ率99.999%の実に見事な同時攻撃だった。


「もう間違いなくホンマモンだろ? そろそろ認めてやれよ。そりゃ道を踏み外したヴィランかもしんないけどさ…」


 敵ではあるが、ずいぶん年上の弟でもある…そんな奇妙キテレツ関係のじろさんに塩を送った俺に、さよりはキィッと歯を剥いて、


「違うッ!!」


 頑なだけど、なにやら猛烈なデジャヴを感じるな?


「悪人だとか何人ブッ殺したとか、今さらンなこたぁどーだってイイのよっ!」


 いや断じて良くはないぞ。清々しいほどの思い切りの良さだが…ショックがデカすぎていよいよイカレたか?


「たしかに、天涯孤独だと思ってた自分に、こんなんでも一応は血縁者が見つかったのは、少しだけ…ほんのちょっとだけ嬉しくはあるけど…それってつまり…」


「混乱するのは解らなくもないけど、嬉しいんならもっと素直に喜べや。今さらいったい何が問題なんだ?」


 って問題しか無いか…などと独りでツッコむ俺の胸ぐらを鷲掴んで、さよりは叫んだ。


「いい? コレが私のお父さんってことは、そのお兄さんがななおクンなんだから…

 あたし達、血が繋がってるじゃないっ!?」


 あれっ?…ホンマや!?

 なんで気づかなかったんだろ!?


「そうと判った途端に、なんだか強烈な犯罪臭が漂い出しましたね〜?

 って初っ端から犯罪者集団ですけど〜♩」


 やかーしぃわへぼHWMは黙っとれ!


「ううっ、やっと兄妹の呪縛が解けてさっきまで嬉しかったのに…どぼぢでにわかに敗北感が?」


 とななみが涙をちょちょ切らせれば、


「正直、まだまだおぼこなさよりから三馬身はリードしていたつもりが…気づけばダートコースに迷い込んでぬかるみに足をすくわれた気分だ」


 とあゆかが謎の競馬用語を連発し、


「この中では一番古くからお付き合いしてきたつもりが…年月ではどうにも埋められない特別枠でのし上がるだなんて、ズルすぎますっ!」


 とやまぶきが地団駄を踏む。

 う〜む、負けヒロインが多すぎる…!


「…ま、コレはコレで♩」


 底辺を這うライバル達の様子に、一気に優越感を漲らせたさよりは鼻高々で俺に腕をからめてきた。


「いや〜モテモテだねぇ、未来の首領様は♩」


 総理が肩を小突いてくる。見てくれだけのポンコツばっかだけどな。

 てかアンタこそ隅に置けないっしょ、美女揃いの夫人軍団はべらせて。


「ちょちょちょっと待て! お前らいったいどーゆー…?」


 人目も憚らずイチャつきまくりなさよりと、出来れば憚りたい俺の親密さに血相を変えたじろさんが問い詰めると、さよりはふんぞり返って鼻を鳴らし、


「恋人よっ!! 保護者承諾のねっ!」


「ンな…っ!?」


 ショックを隠しきれないシン・父親に、さよりはさらに、


「既に婚約も済ませたし、早く子供の顔が見たいってせがまれてるんだから♩

 アータも私の父親だってんなら、とっとと交際を認めなさいっ!」


 おぉ〜ここぞとばかりに畳み掛けたなぁ。

 対するじろさんの回答は…


「アホかぁあぁあぁあァーーーーッッ!!」


 ですよねっ☆


「なんでよっ!? いいじゃない従姉弟なんだし!」


 負けじと言い返すさより。ちなみに俺の『生成年月日』は謎だから、どっちが上か下か実際には判らん。


「良くないわヴォケ娘がぁッ!!

 其奴はお前の従姉弟などではなく、俺の兄上だぞっ!? 叔父との結婚は法律上禁止だし、そもそも俺が認める訳ないだろがッ!」


「え?…あ、あれれぇ!? ちょと待てちょと待て……圏外かよォーッ!?」


 慌ててスマホを引っ張り出したさよりは、この島ではネットが使えないことを思い出して二重にショックを受けている。

 ちなみに実際にじろさんの言う通り、叔父や叔母など三親等内の血縁者との婚姻は法律違反だ。

 なるほど、へぼみの言う『犯罪臭』とはこのコトか。本当に抜け目ない奴だな…。


「う、ううぅ…でででもでも、ななおクンはクローンでしょ!? 人間じゃないならイイんじゃないの!?」


 がびょんっ。今度は俺が少なからずショックを受けた。人間じゃないて…。


「う〜ん…確かに我が国には現状、クローン人間に人権を与える法律は存在しないから微妙なところだけど、倫理上は明らかに人間だしなぁ…コイツはとんだ抜け道だったなぁ」


 さしもの波音総理も判断に迷う案件らしい。


「ほれみろ。兄上が推進していた研究がいかに邪悪で危険なモノだったか、これで解っただろう!?」


 ここぞとばかりに正論をぶつけてくるじろさんだけど、確かに反論の余地ナシだな…。


「それもこれも、貴様の存在自体がそもそもの原因だ! 速やかに殺処分すべきだッ!!」


 ズビシィーッ!と指紋がハッキリクッキリ見えるほど人差し指を俺に突きつけて、やっと本題に戻ったじろさんに、再び事後モードに陥ったさよりも死んだ魚のような目をして、


「…確かに。」


 同意しちったァーッ!?

 この父娘、まぢヤヴァくね?


「さぁしろがねっ、今度こそ俺の言うコトを聞けっ!

 今すぐコイツを始末するんだァーッ!!」


 忘れてたように悪役モードに復帰した副首領の命令に、すっかり放っぽり出されてたシロちゃんはなおも怯えたように首を横に振って、


「…い、嫌だにゃ…お兄ちゃんは殺したくないにゃ…!」


「ほほぉ? これほど明確にマスターの命令を却下するとは…いったいどういうギミックなのか、俄然興味が湧いてきたね♩」


 HWMの専門家としての好奇心に火がついたっぽい真木名博士だけど…どーにもこーにも小っちゃい子にハァハァしてるようにしか見えないのが、これまた…


「ヘンターイ、ヘンターイ…」


 まだやっとったんかい、ていちも。

 博士ももっと彼女の方にも興味を向けたれや。


「こんガキャア、またしても…っ!」


 すっかり頭に血が上った様子のじろさんが、シロちゃんにズカズカ歩み寄る。

 だがさすがに学習したのか、もう手を上げることはなく、


「…お前がそんな目にばかり遭うのは…誰のせいだ?」


 おっと、今度は説得策に出たか?


「やまぶきも、この男も…口ではお前を友達だのなんだのと褒めそやして、自分達の都合が良いようにお前をこき使って…

 それでお前はいったい何を得られた?」


「……」


「そうだ…此奴らは自分達がイチャつくためだけに、お前の好意をただただ利用し、搾取し続けたに過ぎんっ!」


「……っ」


 マズイなこれは。根が単純…いや純粋なシロちゃんは、すっかりマスターの口車にノセられている。

 けれども俺達の方も、確かに彼女を欺き続けていたし、その好意に甘え過ぎていた感は否めない。

 シロちゃんは只々、友達が欲しかっただけなのに…。


「…そうにゃ。金ちゃんもお兄ちゃんも、ずっと昔から友達だったってコトを、今までボクに黙ってたにゃ…!」


「だ、たからそれはっ!」「話を聞いてシロちゃんっ!」


「うるさいっ、ウルサイにゃッ!!」


 ダメだ、もう俺達の声に耳を貸さない。

 この取りつく島もない様子は…さっきのななみに瓜二つだ。

 シロちゃんはキャットの研究データを参考にして開発されたっていうけど、何もこんなトコまで似せなくてもいいのに…。


「何が友達にゃ! そいつのせいでこんなツラい目にばかり遭うなら…友達なんて、もう要らないにゃあーーーーッ!!」


 クソッ、ついに開き直っちまったぞ?


「こーなったら、金ちゃんもっ! お兄ちゃんもっ! 二人まとめてブッッッ殺ぉ〜すッ!!」


 おいおいオイオーイッ!?

 なんかもう目が血走ってるじゃん、HWMなのにっ!?

 先日のイベント会場で、彼女がへぼみをぼてくりこかしたときの光景を思い出した。

 超頑丈なへぼみはまったくの無傷だったが、会場の床には大友克洋作品も真っ青の巨大なクレーターがぽっかり口を開け、結局イベントが中止されてしまうほどの大騒ぎとなった。

 アレを生身の俺達がモロに食らってみろ…文字通りすり潰されちまうぞ?

 クレーターを摺鉢にして、鮮血したたる人間つみれ汁の完成だ…!


「…とゆー訳でぇ、ここはやっぱりあたしの出番ですかねぇ〜?」


 やっと出番が回ってきたとばかり、へぼみが横からしゃしゃり出てきて俺達の盾になった。

 なんだかんだで職務に忠実なのは感心だが…なんでそんなに嬉しそーなんだ?


「フヒョヘヘヘ〜、そりゃあいけ好かないパワハラ上司をブチのめす絶好の機会ですからねぇ〜♩」


 指をポキポキ鳴ら…すつもりが人間のようには鳴らないので、内部フレームの関節を無理やり引っこ抜いては押し戻し、バッキィンバッキィン耳障りな金属音を立てている。

 初戦でいきなり不意打ち喰らわされたことを、しっかり根に持ってやがったな?

 ゴタンマのHWMはなんでこんなに血の気が荒いんだ…?


「あーそれフレームの劣化が進むから止めた方がいいね。

 どうせなら歯を打ち鳴らした方がもっとイイ音すると思うよ。HWMの歯は交換がきくし」


 真木名博士が要らんアドバイスをしてるが、本当にクソの役にも立たん豆知識だ。


「出てきたにゃポンコツ! 丁度いい…憂さ晴らしに付き合って貰うにゃッ!!」


「憂さ晴らしでマスターを殺されちゃっちゃ〜、せっかく頂いたステキな名前が廃りますしね〜♩

 一度は不意を突かれましたけどぉ、今度は完勝させて頂きますよォーッ☆」


 口上を述べ合ってから、並んで海岸方面へと歩いていくシロちゃんとへぼみ。

 途中でシロちゃんがクルリとこっちを振り返り、金色こんじきの目をギョロリと剥いて、


「戻ってくるまで逃げんにゃよ?

 …必ず死なすっ!!」


 こっっっっわ!?


「ダイジョブですよぉマスター、戻ってくるのはあたしだけですからぁ〜♩」


 朗らかに笑いかけてから、シロちゃんの背中を押して海岸へと急かすへぼみ。

 次第に小さくなっていくその後ろ姿に、俺は今までにない…あり得なかったほどの憧憬と頼もしさを感じていた。

 …へぼみたんカコイイ♩

 こんなことならもっと良い名前を付けてやるんだった。

 

「感慨に耽ってるヒマがあるなら、二人を止めなさいよっ!

 だいたい全部このアホ親父が悪いんだから、コレぶちのめせば済む話でしょ!?」


 この期に及んでまだ宥和政策の望みを捨ててないさよりだが…じろさんが父親だと判った途端に容赦なさすぎね?


「フ…フンッ! 俺の方こそ、自分に子供がおったなど予想もしとらんかったわ!

 …しおりはもうどこにもいないのに…こ〜んな凶暴な娘だけ残されてもしょうがなかろうっ!?」


 じろさんも気持ちは解らんでもないが、もっとオブラートに包め〜?


「って…アンタ、本当に知らなかったのか? その、万城目しおり博士とやらに子供が出来てたこととか…」


「ああ…俺には何の相談も無かったからな。それなのに、そんな身体でゴタンマから逃亡するなど…なんという無茶を…っ!」


 ふむ? やまぶきのような子供でも容赦なく研究材料にしていたマッドサイエンティストにしては、確かに妙だな…。

 自分の子供なら何処ぞのマッド総理のように、尚更やりたい放題しそうなものだし…

 非道ついでに言ってしまえば、邪魔なら堕ろせばいいだけなのに…何故、自分の命に代えてまでさよりを産み落とした?


「…それこそが、しおり博士がゴタンマを去った理由だからです。」


 やまぶき…?



 


「私が初めて出会った頃のしおり博士は…」


 おごそかに始まったやまぶきの過去バナは、


「なんてゆーか…なんとも言い様のないムチャクチャな人でした。

 その才能は確かに他の誰とも比較のしようがないほどハイスペックなのですが…

 基本的に常に情緒不安定気味で、気に入らないことがあるとすぐ暴れるわ、研究が思い通りに進まないと周囲に当たり散らすわで…

 そんな彼女の周りはいつも賑やかでした…主に彼女一人だけ…」


 いくらも経たないうちに不穏な空気をプンプン漂わせ出した。

 それを聞いてるじろさんがしきりとウンウン頷いてるところからも、件の彼女の尋常ならざる人柄が偲ばれる。


「…ちょっと。なんで私を凝視するの?」


 話を聞きながら、いつしか思わずさよりを見つめ倒していた俺とはるきに、彼女がにわかに苛立ってくるのが見てとれた。

 やっぱり血は争えないものだな…。


「博士の家系は代々ゴタンマに協力し、様々な研究開発に従事してきました。

 常に前人未到の凄まじい成果を上げつつも、組織の性格上どこにも発表できず、誰にも褒められず、どこまで行こうと決して陽の目を見ることもない不毛で孤独な旅路…。

 それがその傾向をますます助長して、彼女はコンプレックスの塊でした」


 ななみ…キャットがその愛らしい外見からは予想もつかない運動性能や創作能力を開花させたり、シロちゃんやへぼみといったHWMの世代を大幅に更新させるトンデモナイ代物を完成させても、基本的には社外秘だったしな…。

 真木名博士のようなその筋の専門家が注目したり、俺が勝手に学校に持ち込んだりしなければ、誰にも気づかれない地上の星のままだったかもしれない。


「それでも、彼女自身が手応えを感じ、前首領にも『我が結社の近年稀に見る最高傑作』と高く評価された研究成果である、この私にはとても優しかった…。

 自我に目覚めるまで施設の外に一歩も出たことがなかった私は、彼女からあらゆる物事を教わり、彼女が相手なら人並みに会話できるまでになりました。

 私はそのような環境に属したことがないので同じかどうかは判りませんが…家族や姉妹とは、きっとあんな感じなのでしょうか…」


 後に俺の養育係に任命されたやまぶきが、最初からスムーズに仕事をこなせたのは、そうした教育の賜物だったのか…。


「そんな博士が他にも心を許した数少ない存在が…叔父様、貴方です。」


 やまぶきに名指しされ、副首領は思わず身構える。

 だが、彼女の目的は彼の糾弾などではなく…


"この仮初めの世界にいずれ訪れるであろう未曾有の危機を脱するには、我々人類の能力を底上げする以外にない…。"


「そう唱えて人類改造計画へと舵を切った前首領の方針に、貴方は真っ向から反論しました」


"否、そうして生み出された存在は、もはや人間の同類とはいえない。

 そもそも生命を弄ぶ行為はいずれ手痛いしっぺ返しを食らうことになる。

 それよりは我々をサポートする新たな存在を創造し、協力して危機を乗り越えるべきだ。"


「そう主張して独自のHWM開発計画に着手した弟の貴方を、前首領は『日和見主義』と蔑んだ。

 それが元で周囲から隔絶されながらも、それでも果敢に自分の使命に向き合おうとしていた貴方に…博士は自分と同じ空気を感じ取り、シンパシーを抱いたようです。

 貴方が博士より年下だったこともあって、彼女は貴方を弟のように可愛がり、その研究にも助力を惜しみませんでした」


 シロちゃんはキャットの研究ノウハウを参考にして開発されたけど、そのデータを提供したのは産みの親であるしおり博士自身だったのか。


「そうして心を通わせ合った二人が、やがて男女の仲に発展するのにさほど時間は掛からなかった…。

 やがて、彼女は貴方の子供を身籠ります。

 言うまでもなく…さよりさん、貴女です。」


 さよりが息を呑む。

 先ほどまでは実の母親とはいえ見ず知らずの存在なため、いまいち実感できなかったようだが…やまぶきから具体的な話を聞かされて、やっと現実味が湧いてきたらしい。


「初めは博士自身でさえその事実に気づいてはいなかったものの…

 彼女の中に別の存在を感じ取った私がそう告げたことで、自分で調べてみて真実に至ったようです」


 胎児は脳から成長が進み、あらかた出来上がった頃にはもう意識を有し、生物としての生存学習を母体内にいる時点で既に始めているとする説もある。

 生物としての意思の疎通さえ図れれば、やまぶきは相手の精神を操作できるが…

 あるいは彼女とさよりは、この時点で既に面識があったのだろうか?


「博士が如実に変わったのは、その頃からです。私に何も告げないまま、独りで思い悩むことが日増しに増えていき…

 ある日突然、別れを告げられた時には大変驚かされたものです。

 この私の能力をもってすら、事前には何も予見できませんでしたから…」


 子供が出来てから性格が変わるのは何も人間に限ったことではないが…しおり博士もやはり、一人の女だったということか。


「…なぜだ…何故、この俺に何の相談もしなかったんだ…っ!?」


 副首領が頭を抱える。博士をそうさせたのは他ならぬ自分だから、気が気ではあるまい。

 それに対するやまぶきの回答は…実にシンプルだった。


「それが叔父様、貴方や生まれてくる子供のためだと思ったからです。」


「俺の…ため?」


 呆然となる副首領に、やまぶきは深くゆっくりと頷き返した。


「貴方との間に子供をもうけたとなれば、二人の立場の違いから非難が集中するのは火を見るよりも明らかです。

 自分はともかく、叔父様の立場が今まで以上に微妙なものになるのは何としても避けたかった…。

 だから博士は、貴方に子供が出来たことは遂に一言も洩らさなかったのです」


 副首領の顔色が呆然から愕然へと変わったのを見届けてから、やまぶきはさらにこう続けた。


「そして、それ以上に…二人の子供の存在を前首領が知れば、何をされるか判りません。

 少なくとも、貴重な『素材』が手に入ったと大喜びで研究対象にさせることは明らかでしょう。

 彼女は、それは何としても避けたかった」


 はて…あれだけ多くの人体実験を大喜びで繰り返してきた博士がなぜ?

 どうして自分の子には指一本触れさせたがらない?


「当時の私にも、それは全く理解し難いことでした。

 …というより、理解するための知識や経験が欠けていた、というべきでしょうか?」


「もったいぶらずに早く答えろっ! しおりは何故…!?」


 痺れを切らした副首領が回答を急かすと、その察しの悪さにやまぶきは苛立ちを隠さず、


「そんなの…叔父様を愛してたからに決まってるじゃないですか!!」


 愛とは、一種の呪縛だ。

 それさえあれば他には何も要らない…などと嘯きながらも、貪欲に相手を求めずにはいられない。

 また不変の愛などというものは何処にも存在せず、その形は常に移ろいゆく。

 冷静に考えてみれば不合理極まりない代物であるにもかかわらず、時にはその為なら命すら惜しまず突き進んでしまうのは…

 あくまでも私見だが、それは脳味噌の誤作動に他ならないからだ。

 そんな曖昧なものだからこそ…目には見えないものだからこそ、人々はソレに確かな形を求めてやまない。

 そして、ある意味では究極の愛のカタチ…それこそが、自らのセルフクローンであるところの『子供』だ。

 逆に言えば、脳味噌はソレを得るためにあえて誤作動を引き起こし、ソレが得られた後にはあらかた役目を果たし用済みとなった親達を死に急がせるのかもしれない。

 おそらく、あらゆる生物は愛によって子をなし、愛ゆえに滅びを迎えるのかもしれない。


 もしかしたら…この仮想世界を生み出した『神』は、そんな『愛』のギミックを研究するために、こんな御大層な実験室を用意したのだろうか?

 ならば、転生回数に制限が設けられているのは、セルフクローン時に劣化を引き起こさないための安全策なのかも…。

 コピーを繰り返す度に劣化が進行するのは世の常だからな。

 それは例えデジタルであろうとも同じで、その度にいくらかのデータが必ず抜け落ちる。完璧な複製などあり得ないのだ。

 故にコピー品である『子供』は、決してコピー元である『親』の思い通りにはならない。


 …閑話休題。

 副首領への愛の証である子供を守るため、万城目博士はゴタンマからの脱出を決意した。


「彼女は私に、彼女自身の記憶を消去し、施設からの逃走を手助けするよう依頼しました。

 そして私は…その依頼を承諾しました」


 依頼通り万城目博士のゴタンマでの記憶を消したやまぶきは、次いで施設の警備員に精神操作で通路を解錠させ、博士を外の世界へと送り出した。


「散々お世話になった人ですし…その頃の私はまだ、人格形成が未熟でしたから…依頼を断ろうなどとは、微塵も思いませんでした…っ」


 ただ単に、彼女を家の外に出しただけ…当時のやまぶきにとってはその程度の感覚だった。

 今頃になって、なんて大それたことをしてしまったのだろうと…今でも悔いていた。

 その後に俺とともにゴタンマからの脱走を図ったとき、一人だけ逃げられなかったのは…その時の罰が当たったのかもしれないと思った。


「…なんと…いうことだ…っ!」


 やまぶきの独白を、副首領はもはやなす術なく受け入れるしかなかった。

 今までずっと、彼女が独断で恋人の記憶を消し去ってゴタンマから追い出したのだと思っていた。

 博士からの待遇に不満があったやまぶきが、厄介者を始末したものとばかり思い込み、彼女を憎み続けてきた。

 だが、実際には…すべては博士が愛する自分のためだったのだ。


「…教えてくれ。彼女の…しおりの最期を…」


 涙ぐむにわか父の懇願を、娘のさよりはもう断れなかった。


「お母さんは…産婦人科の玄関先で命を落としました。

 彼女の身元が判るものは何も無かったけど…私を産み落とした時には、まだ意識があって…」


 それは以前、さよりの養父母から聞いた話と同じだった。その経緯をさよりは知識としては知っていたが、今の今まで現実味は伴なわず、ほぼ他人事だった。

 けれども、こうして詳細が判ってくるにつれて…この人こそが自分の本当の母親に違いない、と確信するに至った。


「へその緒が付いたままの私を今の両親に手渡して、『この子をお願い』って…。

 二人が私を受け取ると、安心したように笑って…そのまま眠るように息を引き取ったって…」


 後半は涙声で聴き取りづらかったが、ようやく話し終えたさよりはその場に膝から崩れ落ちて…


「…おかあさん…っ!」


 泣きじゃくる娘の肩を抱いて…


「しおりぃ…っ! お前はもう…いないんだな。本当に…何処にも…」


 副首領もまた号泣していた。

 しおり博士はもういない。

 けれども…彼女が命をかけて守り抜いた子供は、今もこうして生きている。

 そんな彼女の強い想いが、今またこうして二人を引き合わせた。


「…お父さん…まだ、私がいるから…っ!」


「さより…さよりぃ〜!」


 生き別れた父と娘は…再び巡り合い、こうして心を通わせることが出来たんだ。

 目の前で抱き合う二人の姿に、俺はホッと胸を撫で下ろ…


「この事件と前後して、前首領の心境にも大きな変化があったようです」


 …あ、やまぶきの独白にはまだ続きがあったっぽい。





 万城目博士の逃亡に関与したやまぶきは、当然のようにその罪の一切合財を押し付けられた。

 とりわけ副首領はそんな彼女を生み出した博士の研究を邪悪で危険だと主張し、それに同意する幹部も少なくはなかった。


「それでも前首領はなおも自らの方針を変えようとはせず、私の身柄も彼に一任されました」


 やまぶきの供述から、その能力の有用性をますます高く評価した彼は、それをさらに上回るより強力な『超人』開発へと突き進んでいくことになる。


「そして、その類稀なリーダーシップの高さ故に、彼自身もまた周囲の多大な信望を集めていきました。

 それはカリスマなどという安易な言葉では表しきれず…やがて、ほとんど『宗教』と呼べる域に達するほどに…」


 なるほど…そいつは危険な兆候だな。

 強力すぎるリーダーシップは、ほぼ例外なく悲劇を産む。ヒトラーや毛沢東を思い起こせば解り易いだろうか。

 彼らを崇拝する周囲は、いずれ自らの判断力を放棄し、すべての意見をトップに委ねるようになる。

 その意見を鵜呑みにし、忠実に実行することで、自身もまたトップに近づける…と思い込んでしまう訳だ。

 そして自分達に反対する存在を不穏分子と見做し、それらが一人残らず消滅するまで駆逐し続けようとする。

 こうした恐怖政治にすっ転び易いのも独裁政権の特徴だ。トップがそれを望もうと望まざると、周りがそうさせるんだな。

 …やがて、トップがハタと気づいた頃には、もはや自分自身ではどうにもならない事態に陥ってる次第さ。


「事実、前首領の場合もそうなりました。

 幹部達は彼の支配を未来永劫に継続するため、彼の『クローン』を創造する案を提出し…それを拒む選択肢は、彼にはもはや残されてはいませんでした」


 そうして製造された内の一体がこの俺な訳だな。

 以前にも何処かで触れた気もするが、クローン技術で再生されるのは肉体だけで、精神までは複製できない。

 『未来予測』の能力を得ていた前首領は、そこまで見越して精神操作能力を持つやまぶきを手元に残したのだろうか…?


「ここに来て彼は初めて、自らの行いの過ちに気づきました。

 人類救済のため、より強力な人類の創出を目指していたはずが…いつしか、かえってその可能性を摘む側に回ってしまっていたのです」


 そう…より優れた者を選出するには、多種多様な人材の中から可能性を有する者を見出す必要がある。

 だが、クローン技術で生み出されるのは、言ってみればオリジナルのコピー…。多少の差異はあれど、決してオリジナルを超越することは無い。

 すなわち、クローンは選択の幅を狭めるだけなのだ。

 いかに優れた者がコピーされようとも、同じものばかり延々と作り続けていれば。いずれ限界を迎え、滅びへと向かう。


「自分の方針は人類救済どころか、ますます滅びへと加速させるだけだった…。

 未来予測能力を駆使しても、こんな体たらくに至ってしまった自分には、もう何をどうこうする資格はない…。

 そう悟った前首領は、その権利を他の人に委ねようとしました。そう…」


 振り上げたやまぶきの人差し指が、静かに…副首領を指し示す。


「叔父様…貴方です。」


 副首領に動揺が広がる。


「兄上が…俺を…?」


「はい。一度は否定した貴方の方針を、彼はもう一度信じてみることにしたのです。

 HWMの命や心は人工的に創出されたもの…その生成技術がうまく軌道に乗ったならば、現状でリソースの上限に達している世界中の生命の許容数を引き延ばせるかもしれない…と。

 と同時に、誤った方向へと暴走し始めた自分に、貴方の手で終止符を打たせようと考えました」


 それならば、愛する者を彼から奪った自分への仇討ちにもなるし、自身の罪滅ぼしも出来る。

 そして、自分の未来は…やまぶきが目覚めさせるであろう、新たな自分自身に担って貰うことにした。

 波音総理の説によれば、死は新たな人生の幕開けへの第一歩…だからさほどの恐怖は感じない。

 もっとも、自分の輪廻転生回数は、後どれだけ残されているのか知らないが。ニャオスリーには怖くて訊けずじまいだったからな。

 だがもう既に新たな種は芽吹いた。古株の自分がここで朽ち果てようとも、また新たな自分が未来を築く…。


「未来予測が可能な彼が何故、あんなにも容易く貴方の凶弾に倒れたのか…?

 …そんな疑問の答えがコレです。」


 思い出した。父さん…と俺が呼んでいたオリジナルである前首領は、クローンの俺をやまぶきに目覚めさせた直後に、培養室前の地下通路で副首領の手に掛かって殺害されたんだ。

 彼は元々、あそこで死ぬつもりだったのか…!?


「で、では兄上は…むざむざ俺に討たれるために、あえてあの場を訪れたというのか?

 一人の護衛も付けず…誰の目も届かない、あの場所に…」


 全身の力が抜けた副首領がその場にへたり込む。


「自らの手でしおり博士の仇を討った…その感想はいかかでしたか、叔父様?」


 その時のわだかまりがずっと胸中に燻り続けていたやまぶきが、副首領を皮肉る。

 が、彼の反応は彼女の思惑とはまるっきり正反対で…


「仇討ち?…フッ…あんなことでそれが叶うぐらいなら、今頃世界中は死体の山だらけだ。

 さぞかしスッキリできるかと思えば…なおさら後味の悪い気分が永遠に晴れずに続いて…

 あの時、目にした奴の最後が…全身の血が凍りつくように不快な気分が…後になればなるほど、より大きくなって…っ」


 大抵の殺人犯はその後、良心の呵責に耐えかねて自首…もしくは自ら命を断つ。たとえ逃げ損ねて逮捕されたとしても、ずっとダンマリを決め込むなんて出来やしない。

 心を何処かに置き忘れてきたような完全無欠の殺人鬼でもない限り、その罪を一生誰にも告白せずにのうのうと暮らしていくことなど不可能なんだ。

 そしてどうやら、副首領は悪の秘密結社の実質的な最高幹部であるにもかかわらず、いたって人並みの心の持ち主らしかった。


「あの時見た光景が…兄上の最期の顔が、今でも夢に出てくるんだっ!

 お願いだ兄上、もう許してくれ…っ!!」


 あ〜あ〜年甲斐もなくガタガタ震えちまって、見てらんねぇな…。


「…んじゃ、許す。」


「……は?」


 あっさり応えた俺に、副首領のじろさんはマヌケな呆けヅラを向けた。


「見た目さえクリソツなら、世間一般では同一人物で通るんだろ? だったらアンタは誰も殺しちゃいない。

 アンタの兄貴は…俺はまだ、こうして生きてる。」


 原理的にはそうなるよな。銃撃なんざ日常茶飯事な組織内において、オッサンがしでかしたコトは…ただの過失だ。


「だ、だが貴様は…」


「ああ、クローンだろ? 俺は確かにアンタの兄貴本人じゃない。

 だが紛れもなくその一部だ。まったくの別人とまでは言い切れない。だからアンタは俺も殺した。

 けど、こうして無事に生き返った。だからアンタの兄貴も生き返った。

 …それでいいだろ? あんまり難しく考え込むなよ」


 我ながら、なんたる屁理屈。

 それでもじろさんには、案外効果的だったらしい。


「フッ…ハハッ、そうだな。子供の頃の兄上は、いつもそうやって俺を元気づけてくれた。

 貴様はソレとは何から何まで違うのに…何もかもがそっくり同じだ…っ」


 そう言って、じろさんはさめざめと泣き出した。

 今度こそは苦渋や悔恨ではなく…とても温かく、優しい涙だった。


「俺は…俺達は、まだ…やり直せるのか?」


「ああ、もちろん。

 …と、言いたいところだが…

 そいつはアンタの娘さん次第かな?」


 思くそ年の離れた兄弟同士の暑苦しい魂の抱擁に締め出され、隅っこで放置されていたさよりに目をやれば…


「二人とも兄弟って認めちゃった…。

 ななおクンが…私の叔父さんになっちゃった。

 もぉ…結婚も子作りも出来ない…」


 すっかり放心状態で、ホンマモンな人のようにしきりとブツブツ独り言を垂れ流してる。

 コレはコレではよ何とかせにゃな…。


 ちゅどぉ〜〜〜〜んっっ!!


 唐突に爆音が辺りに轟く。

 驚いて見渡せば…海岸付近から上空めがけて巨大な爆炎が立ち上っていた。


「…始まったようだね」


 波音総理が眉をひそめる。

 そうだ、めでたく大団円を迎えた気になってすっかり忘れてたけど…へぼみ! シロちゃん!?


「ど、どうして…? 二人が争う理由なんて、もう無い…」「ことを彼女達はまだ知らないんです!」


 うろたえるさよりの言葉を継いだやまぶきが、懐から小型端末を引っ張り出す。へぼみに連絡を入れるつもりらしい。


「…ダメです、オフラインになってる!」


 さては仕事中に他人に口を挟まれたくないタイプだなアイツは?


「クソッ! しろがねには元々、無線での通信機能は付けとらんっ!」


「任務遂行中の事故や敵の妨害を防止するため、通信手段を有線接続のみにしたのが裏目に出ましたね」


 歯噛みする副首領の声を真木名博士がフォローした。


「いかんっ、すぐに止めなければ…この分だとこの島自体が吹き飛ぶぞ!?」


 副首領の末恐ろしい言葉に、皆の顔色が一様に青ざめた。


「けど、止めるったってどうやって?」「そりゃ説得するしかないだろ」「直に!? 危なくない!?」「だからってこのままここでたむろってても、なおさら危なくなるだけだぞ」「元々皆殺しにされるだけだったしな、遅かれ早かれ」「じゃあどのみち危険は変わらんか」「…よしっ、まずはともかく二人に合流しよう!」


 早々に結論付けた俺達は、南海の青空を焦がす紅蓮の炎の出火地点へと急いだ。





「これはまた…!」


 現場に到着した俺達は、予想外の惨状に息を呑んだ。

 あんなに美しかった波打ち際の景色が木っ端微塵に吹き飛んで…

 海岸にポッカリ空いた巨大なクレーターに流れ込んだ潮流が、新たな入り江を形成してる。

 こんな短時間で、地形がすっかり変わってしまうほどとは…。


「死ねやぁ〜〜ボケぇ〜〜〜〜ッ!!」


 真っ先に目についたのは、辺りをぴょんぴょんノミのように跳び回りつつ、時折り何処からか調達したロケットランチャーをブッ放してるシロちゃん。

 臨機応変に立ち回るランボーさながらだ。


「そっちこそとっととくたばりやがれですぅ害虫上司ィ〜〜〜〜ッ!!」


 その照準の先に立ったへぼみは移動を必要最小限に控え、何処からか召喚したらしい大型機動兵器にまたがって高出力レーザー砲を乱射。

 こっちはパワーに物を言わせて並み居る敵を片っ端から薙ぎ倒すシュワちゃんスタイル。

 ちなみに二人とも、どうやら固有の武装は持たないようだ。

 機動性確保のため体内に火器類を内蔵せず、かつ汎用性を高めるため外部兵装という方式を採用しているらしい。

 それでなくとも人間離れしたパワーとスピード、スタミナだけで充分な戦力だし、へぼみに至ってはあらゆる兵器にハッキングをかけて自分の支配下に置くという恐るべき能力を有しているしな。


「へぇ、実に個性的な闘い方だね」


 真木名博士が興味深げに呟く。何を不謹慎なと思わなくもないが、ここまで酷い状況を目の当たりにすると現実逃避もしたくなる。

 しかし、いつまでもこのまま指を咥えて見ている訳にもいくまい。とっとと二人の仁義なき戦いに終止符を打たねば、憎しみの連鎖が止まらなくなる。


「ぅおーいっ、二人とも聞きやがれ…ダメだこりゃ、爆音がうるさくて聞こえやしねー」


 早々と諦めかけた俺に、


「拡声器、あるよ?」


 第四総理夫人のシノブさんが何処ぞのドラマのようなイントネーションで応え、どっからか取り出した拡声器を投げてよこした。


「い、いつの間にこんなモノ…?」


「さっきの現場に駆けつけた警備員さんが持ってたから拝借しといた。こんなこともあろーかと♩」


 用意が良すぎね?と思ったら、彼女はいつも総理の身辺警護の責任者を務めてるそーな。さすがは本職♩

 でわでわ早速…


《ピィーッ!…こほん。あ〜あ〜…

 聴こえるか二人とも!? チミ達は完全に包囲…じゃなかった、こっちの揉め事は片付いたぞ! もうお前達が争う必要は無くなったんだ!

 速やかに投降…もとい、ケンカはやめてぇ〜〜〜〜っ!!》


 どどぉーんっ…ぼっかぁ〜んっ…きゅぼおーーんっっ…


《…おんやぁ?》


 一向に争いが鎮まらない…何故?

 相手は人間よりは耳が良いHWMだってのに、これでもまだ聴こえてないのか?


「私には生物の心理状態しか読み取れないので、HWMは専門外ですけど…」


 首を傾げ続ける俺に、やまぶきが所見を説明し始めた。


「どうやら、あの二人…ガチで歪み合ってますね」


 ぅげっ!? なんかやたら乗り気でドンパチ始めたと思ったら…俺達の代理戦争などじゃなくて、自分達がボコり合いたかっただけかいっ!

 憎しみの連鎖はとっくに臨界点に到達してましたとさテヘッ♩


「じ、じゃあどーすんのコレ!?」


「決まってんでしょ、こーするッ!」


 うろたえまくりのさよりを押し退けて飛び出したのは、もはやすっかり野性の勘を取り戻したななみだった。

 俺達が制止するのも忘れて見守る眼前で、全速力で二人の下へと突進した彼女は、


「オメーらっ、くだらねぇケンカはやみろってェッ!」ボフンッ!!


 まずは辺りを跳び回ってたシロちゃんをハエ叩きのようにど突き倒したかと思うと、暴発したロケット弾にしがみついて上空へと舞い上がり…

 その砲弾を空中で力任せにガツンッとぶん殴って軌道を変えると、今度は真下で待ち構えるへぼみ目掛けて急降下!


「言ってんだろがこんクソボケがぁ〜〜〜〜っっ!!」ドムッ…!


 途中で砲弾を蹴飛ばしてさらに勢いをつけると、自身はその衝撃を活かして緊急離脱。

 放たれたロケット弾は、へぼみがまたがる機動兵器のど真ん中を貫いて大地に突き刺さり…


 ゴッッッバァアーーーーンンッ!!


 兵器の真下で炸裂した砲弾は、爆炎とともに敵を宙高く噴き上げた!

 機動兵器はグルグル高速回転しながら空中分解し、打ち上げ花火のように無数の部品を周囲に撒き散らしつつ燃え尽きた。

 同時に撒き散らされたへぼみが受け身の体勢をとりながら墜落するのが見えたから、まぁ大丈夫っしょ?


 くるくるくるくる…シュタッ!

「ほいっ、一丁あがり♩」


 華麗な宙返りを決めて俺のそばに着地したななみに、皆はバケモノを見るような驚愕の視線を手向けた。

 一見どー考えてもHWMよりはパワーもスピードも劣るだろうに…二体同時撃破、だと?

 信じられん…東方不敗かコイツは!?


「んなっ…なんてコトすんだにゃアブナイだろォーッ!?」


 砲弾発射の反動でここまで跳ね飛ばされてきたシロちゃんが抗議の声を上げれば、


「せめて一言掛けてから空爆してくださいよぉ〜うっ!」


 機動兵器の破片を緩衝材代わりにして生還したへぼみが、こちらも非難囂々。

 あれだけド派手にやらかし合ったというに、三人ともまるっきし無傷なのが信じられん。

 もとを正せば全員同じ素材から開発が進み、着地点の違いこそあれど事実上の姉妹品らしいし…嗚呼なんたる非情で殺伐とした邂逅だらうか!?


「バーロー何度も呼び掛けただろがぃっ!?

 オメーらも少し人の言うこと聞けッ!!」


 そして今、不出来な妹達を叱り飛ばしてる長女のななみが、いちばん人の話に耳を貸さない奴なのは言うまでもない。

 てゆーか根本的には同じ穴のムジナであるが故に、なおさらお互いへの同族嫌悪が凄まじいのかもしれんがな…。

 …この際だから俺からも、オカンのようなアドバイスをさせて貰おうか。

 俺は再び拡声器を口元にあてると、ハウリングも厭わずがなり立てた。


《オメーら…姉妹なんだから、もっと仲良くしなさァーーーーイッッ!!》


 ある意味では衝撃的な俺のシャウトに、三人の目が一様に点になった。こゆとこだけ仲良いのな。


「え゛…まぢ?」「お、お兄ちゃんそれホント!?」「ほぇ〜…やっぱしそーゆーオチでしたかぁ〜?」


 三人三様の反応が返ってきたが、俺がその疑問に答えることは無かった。

 それよりも早く、ニャオスリーがいつになく深刻な顔色でこう告げたからだ。


「お話も佳境のご様子ですが…皆さん、緊急事態発生です。」


「…何があった?」


 ただならぬ娘の様子に総理が問いただすと、ニャオスリーは懐からスマホを取り出して皆に指し示す。


「私から説明するよりも、こちらをご覧頂いた方が早いかと」


 …あれっ、ネットに繋がらないからスマホは役立たずなんじゃ…?


「只今よりこの島の通信制限を解除します。…もうそんな必要もありませんし。

 後は各々のスマホでご確認ください」


 ニャオスリーがそう言い終えると同時に、皆のスマホが一斉にけたたましいアラームを鳴らして震え始めた。

 慌ててスマホを引っ張り出せば、待ち受け画面に表示されたトピックスには…


[警告:米国より核ミサイル発射。標的は赤道直下の無人島。付近の海域を航行中の船舶は注意]


 …はい?




【第十七話 END】

 前回は公開までに約一ヶ月かかったので、今回はリカバリーのために約一週間で書き上げました(笑)。

 今回はまあ、サブタイトル通りの内容ですかね。これまた当初から色々伏線を張りまくってたので、察しが良い向きには予想通りの展開だったかもしれませんが。

 長々と引っ張ってきたアレやコレやの確執もだいたい解決して、後はハッピーエンドまで一直線!…とはすんなり行かないようですけどね。

 そろそろ帰り支度をする段になって、買い込んだお土産が鞄に収まりきらないかのごとく、なかなか終わりが見えてきませんが…もうしばらくお付き合い頂ければ幸いです。


 現実はこのお話のように簡単ではないでしょうが…結局、人間同士のいがみ合いなんてものは、誤解さえ解ければ案外あっさり決着がついたりするものです。

 それまで互いにどんだけ甚大な被害を被っていようとも、最後にはハリウッド産アクション映画のごとくハッピーエンドバイアスが掛かり、全て無かったことにされますし。

 太平洋戦争も大筋ではそんな感じだったっしょ?

 決して笑って済まされることではありませんが、何よりもまずは平和かイチバン♩

 今現在、世界中で起きている小競り合いも、早く解決すれば良いですね。

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