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混沌坩堝。

【前回のあらすじ】

 シロちゃんが同人誌即売会で大暴れした挙句、イベントが中断されてしまったお詫びという名目で、ななお達一行はゴタンマ所有の南海の孤島へと招待された。

 誰にも邪魔されない完璧なプライベートビーチで思い思いのバカンスを満喫する一行。

 そこへさらにスペシャルゲストとして、現日本国内閣総理大臣こと波音リョータ首相をはじめとする総理家族全員までもが到着。

 ゴタンマのブレインであるニャオスリーは、紛れもない彼の愛娘だった。


 夕食後の風呂場にて総理と鉢合わせたななおは、彼の口から世界の驚くべき真相を明かされる。

 我々が生活しているこの世界は巨大な仮想現実空間てあり、全ての生命体はそれに付随する微細なプログラムコードに過ぎないのだという。

 その個体数には上限があり、世界はとっくにそのリソースを使い尽くしていた。

 無限にも思える仮想空間を有限な生命活動で何とかやりくりし世界を維持し続けてきたが、それも限界に近づきつつあった。

 波音総理はその限界を打ち破るべくゴタンマと結託し、あらゆる手段を講じて世界の存続を模索していたのだ。


 頭の整理が追いつかないながらも、ななおはまず現状を整理するべく首領のやまぶきと対峙する。

 彼女が首領の座に着いていることにどうにも違和感が拭えなかった彼は、本当の首領候補は別にいる…それは自分ではないのか?という仮説を導き出していたのだ。


 果たしてそれは真実だった。

 やまぶきの精神操作により長年封印されてきた彼の記憶が、今まさに甦ろうとしている…。





「お帰りなさい…若様。」


 金ちゃんがそう囁いた途端…世界がグルリと一回転した。


「ぁが…っ!?」


 いや違う、回ってるのは俺の視界だ。

 俺の目は金ちゃんを捉え続けているのに、世界が目まぐるしく回転し続けてるような、強烈な悪酔いのような感覚。

 そして何処からか猛烈な勢いで、見ず知らずの他人の人生が脳裏に雪崩れ込んでくる…!

 いや…他人じゃない。どれもこれも紛れもない、俺の実体験…俺自身の記憶だ。

 その発信源は他の何処でもない…俺の脳みその真ん中だ。

 俺の記憶は消失した訳じゃなく、最初からずっと頭の中に留まり続けてたんだ!


「今はいわゆるフラッシュバック状態です。ここが一番キツイと思いますが…我慢してください」


 今にもカチ割れそうな頭を抑えてうずくまる俺を、金ちゃんが小さな身体で懸命に抱きかかえてくれた。


「記憶は一瞬ですべて取り戻せる訳ではありません。これから脳が情報の取捨選択をし、時系列に整理して…そこでやっと定着します。

 この段階をないがしろにすると、白昼夢のような現実味のない記憶ばかりが蓄積されて…」


「荒れてた頃のあゆかみたくなっちまう訳だな」


 精神に深刻な後遺症が残るほどの無理クリはゴメンだぜ。

 もっともあゆかの方は一旦リセットされたから、もう過去の幻影に悩まされることもないだろうがな。

 要するにこのまま放っときゃ自然解決するっぽいけど、それじゃあ見せ場ってモンが…。

 せめて主人公らしくカッコくらいつけさせてくれよ。


「えーっと…ただいま?」


「…若様…!」


 よし、一応歓迎はされてるみたいだな。

 とりあえず、これだけは言っておきたかった。


「あの漫画雑誌って…もしかしなくても、俺のために用意してくれたんだろ?

 ゴメンな…絶対漫画家になるって大口叩いたくせに、結局デビューできなくって」


「いいえ…あなたはちゃんと戻ってきてくださいました。…『若様』として。」


 あの時は咄嗟の思いつきでテキトーに付けたに過ぎなかったペンネームが、まさかドンピシャだったとはなぁ。

 デビューできなかったのはいまだに心残りだし罪悪感もあるけど、彼女が喜んでくれたなら結果オーライかな?

 ともかく、今んとこ一番重要なのは…


「キミの呼び方は…金ちゃんのままでいい?

 それとも…やまぶき?」


「…やまぶきでお願いします」


 だよね〜。この名前、どうやら俺が付けたらしいし。年上を呼び捨てにするのは気が引けなくもないけど…


 ヤバい。苦痛のせいかどうかは知らないけど、涙腺が弱くなってる。このままじゃ泣いちまいそうだ。

 仮にも女の子の手前、無様な姿は晒せない。


「じゃあ…やまぶき。この苦しさを紛らすために…おっぱい揉んでいい?」


「…………。」


 ぅわーメッチャ外した上に余計無様になった気がしないでもない。やまぶきも引いてる引いてる♩


「それは記憶が戻ったらお願いします。

 今はとりあえず…コレで我慢してください」


 言うが早いか、不意打ちでキス。

 どうやら今の今まで我慢してたらしい…愛いヤツ♩

 ともかく、こりゃ凄い破壊力だわ。お陰で下心なんて一気に霧散した。


「あと、せっかくの感動シーンに水を差した罰として、もう少し苦しんでてください♩」


 ぺちんっ。やまぶきの脳天チョップ炸裂☆

 全っ然痛くはないけど、今のタイミングでそれヤバいって。ただでさえ意識が朦朧としかけてたのに…アカン、落ちる。

 上手くいけばマジにナマ乳の一つや二つは拝めそうだったのに、無念…がくっ。





 そして、朝。

 目が覚めると…頭上には見知らぬ天井。

 よくよく考えれば、昨日からゴタンマの施設に宿泊してるんだから当たり前か。どの部屋も似たような造りだから確証はないが、たぶん俺の部屋だろう。

 その部屋のベッドに俺は寝かされていた。あれから自力で部屋に戻った記憶はないから、誰かが運んでくれたんだろうか。


 昨夜、怒涛の勢いで甦った俺の記憶は…金ちゃんが言った通り、もはや違和感なく定着していた。

 というか、今までの生活の方が違和感の塊だったから、やっと納得がいった感じだけど…ショックはショックだな。

 だが…親父もお袋も、この俺を逃げ延びさせるために必死で嘘を吐き通してたんだと思うと、怒るに怒れない。

 …ななみだけは違う理由で皆に合わせてたらしいけどな。

 それに、七尾ななおとして過ごした記憶の大半は紛れもなく俺自身の実体験だし、何もかもがニセモノって訳じゃない。

 それは解っちゃいるんだが…受け入れるにはもうしばらく時間が掛かりそうだ。


 …そしてそれ以上に受け入れ難い状況の真っ只中に、俺は今まさに放ったらかされていた。

 俺の右隣には、右腕にぴったり寄り添って幸せそうに寝息を立てるやまぶきの姿。

 反対側の左隣には、同様に左隣に絡みついてムニャムニャ眠りこけるシロちゃんが。

 さらにその周辺にはななみやへぼみをはじめとするウチの連中と、さらに何でか波音総理御一行様までもが同じ部屋で全員雑魚寝していた。

 …一体全体、どーしてこーなった?


《…おはようございます、若様》


 大混乱の最中、出し抜けに頭の中にやまぶきの声が響いた。実際に聞こえてる訳じゃなく、脳みそが強引に理解させられている感じだ。

 視線を彷徨わせると、起きたばかりのやまぶきと目が合った。


〈テレパシー…こんな能力もあったの?〉


 試しにこっちも頭の中で語りかけてみると、やまぶきはなるべく身体を動かさないよう静かに頷き返して、


《とはいえ私の能力は極めて不完全なので実用には不向きですが…場合が場合ですので》


 やまぶきの能力は精神操作に特化されており、逆に相手側から精神干渉を受ける可能性があるテレパシー能力はあえて限定的に抑えられているんだとか。

 この能力が通用するのは、彼女と波長が合う対象者が至近距離にいて、さらに対象者が自己の精神管理に長けている場合に限定されるそうな。

 というか一応誰にでも使えはするが、気分にムラが多い相手や精神状態が不安定な場合だと、受信状態が悪いラジオみたくノイズまみれで会話が成立しないし、大抵の相手は聞こえはしても幻聴で済ませてしまうんだとか。

 昨夜までの俺はまだ『覚醒前』だったため、たぶんそうなるだろうとの判断で普通に会話を交わしつつ、チャンスを窺っていたらしい。


 そんな不完全な会話手段をわざわざ用いるってことは、現状グースカ眠りこけてる皆を起こさないように内密に済ませたい話があるってことだろう。

 実際この方法は精神内で会話がなされるため、肉声を介するより短時間で通話が済むし、理解も早いのがありがたい。


《んで…何なの、この状況?》


〈一言で説明すれば、若様の人徳の成せる技ですね♩〉


 俺がやまぶきの部屋で気を失った直後、彼女はあえてへぼみを呼んだそうな。

 アレなら十中八九大騒ぎしてすべてを煙に巻いてくれるだろうし…実際そうなった。

 予想外だったのは、騒ぎを聞きつけて真っ先に駆けつけたのがシロちゃんだったことだ。


"お兄ちゃんが倒れたって聞いたにゃ!!"


 …え゛、何その呼称!? 俺聞いてない!


《本当にね…いったい何があったんですか?》


 いや、やまぶきの部屋に行く前に彼女の部屋の前を通りかかって、なんやかやあって友達になっただけなんだけど?


《『友達』…本当にそれだけで、あの子があーなっちゃいますか?》


 だよね〜。それだけで『お兄ちゃん』呼びってフツーしないよね〜?

 でも本当にそれだけだって…あ、おっぱい見たし、別れ際にオデコにチューとかしたよーな気もするけど。


《散々しちゃってるじゃないですくわっ!?

 ソレもう友達の範疇超えちゃってますよ!》


 その後にななみ達ウチの連中だけじゃなく、波音総理一家までもが押し掛けて…


"僕のせいかもしれないなぁ。風呂で長々と話し込んじゃったからねぇ…"


 と責任を痛感した総理は、現場に居合わせた皆の顔をグルリと見渡して…


"よし、こうなったら皆で責任取って一緒に寝よう!"


 ってなんでやねんっ!?

 自己責任をすかさず分散するのはいかにも政治家らしいけど…時々意味不明な発言で周囲を戸惑わせるのはいかにも天然なこの人だなぁ。


"コイツは昔っからずっとこうだったわよ…"


 と第五夫人のユウヒさんをはじめとする夫人一同も呆れ顔ながらも、誰一人取り残さない満場一致の同意でこのようなハーレムナイトが実現したんだとか…。


《っとに似た者同士なんだから…誰彼構わず巻き込むのはやめてくださいよ…》


 散々ジト目で罵倒するやまぶきだけど、それは主に総理に抗議してください。俺も彼に巻き込まれた被害者ですんで。

 しかしやまぶきはふと考え込んで、


《でも…考えようによっては、これは思わぬ好機ですね。上手くいけば将来的な衝突を回避できるかもしれません》


 ってーと?


《有り体に言ってしまえば…シロちゃんは副首領の叔父様が放った刺客ですから。

 味方に取り込むことが出来れば俄然有利かと》


 …なるほど。それで合点がいった。

 甦った俺の記憶には彼女との想い出はない。

 ということは、俺がゴタンマから脱出した後に忽然と現れた存在なんだろう。

 なんともタイミングが良すぎる。


《…驚かれないんですね?》


 ああ。あのイベント会場で、あんだけ人間離れした挙動を嫌ってほど見せつけられちまえば、そりゃーね。

 そして副首領のジロさんといえば、超人開発を行う前首領の兄…つまりは俺のオリジナルに反目してHWMの研究開発を始めたって、波音総理が言ってたっけ。ってことは…。


 俺は左腕にしがみついて眠りこけるシロちゃんを起こさないよう、そ〜っと腕を引き抜いて…その手で彼女の首筋を撫でてみた。

 やがて…指先に伝わる違和感。メンテナンスハッチの感触だ。彼女の髪型がツインテールなことが幸いして、確認は比較的容易だった。


《…本当に話が早くて助かります》


 やまぶきが苦笑する。

 いや、理解はしたけど納得はしてないぞ?

 シロちゃんといいへぼみといい、なんでゴタンマ製HWMは人間以上に人間臭い曲者揃いなんだ?


《現に叔父様も「HWMに個性や人格など不用」と主張してらっしゃいましたけど…開発部が「そんなツマランモンは造らない」とゴネたらしくて…》


 うむ、自分の趣味を他人にゴリ押ししてこそオタクの存在意義があろうってもんだから、それは解るとして。

 へぼみをウチによこしたのは、その対抗措置だったのか。

 三人がなんとなく似たようなタイプなのは偶然じゃなかった訳だな。


《はい。ベースになったのはキャットちゃん…ななみさんです》


 その幼生体でも驚異的な戦闘データが、以降のWHMの基準となったんだとか。

 シロちゃん…しろがねは見た目こそ似てないが、キャットの俊敏さに着目し、機動性に特化した個体として開発されたらしい。

 そしてへぼみはそのシロちゃんに対抗すべく、廃棄処分となっていたキャットの生体パーツを使用し、多少の攻撃にはビクともしないハイパワーな防御特化型に仕上げたんだとか。

 その成果は先日のイベントで拝ませて貰ったばかりだ。

 つまり三人は、事実上の姉妹って訳だな。

 …言っちゃアレだけど、マトモな性格のが只の一人もいねーのな?


《元となったのが気まぐれな猫ですし…》


 あ〜なるほど、道理で扱いにくい訳だわ。


《という訳ですので、くれぐれも若様の素性がバレないようにご注意頂かないと…》


 だよね〜。下手すりゃこの三匹だけで俺はおろか日本…いや世界そのものを滅亡させかねん。

 けど現状なにも打つ手がないのも事実だし、とりあえず静観するしか…


 …てか、そんなヤバいのにエロ漫画描かせたり乳揉んだりしてたの俺?


《世界滅亡が既に秒読み段階ですけど…

 今さらですが、あの漫画のためにキャットちゃんに一体どんな指導を…?》


 安心しろ、まだ手籠にはしてねぇ。

 だがソレ以外ならだいたいヤッた♩


《鬼畜ッ!? ますます安心できないんですケドぉ?》


 ああ、誰かさんがいないせいでポッカリ心に空いた穴を、どうやって癒そうかって必死だったからな…今にして思えば。


《…ズルい言い方ですね。まんまと浮気を正当化されちゃいました》


 記憶喪失中でも浮気ってことになるの?

 でも、これからはやまぶきがそばにいてくれるんだろ?


《可能な限りそのつもりですけど…》


 なら大丈夫。俺、これからはやまぶき一筋だから♩


《とか言ってる端からカノジョとかこさえてらっしゃいますよね?》


 ぐはあっ!?


《他にもアレやコレやと触手いや食指を伸ばしてらっしゃいますし…》


 むぅ〜痛いところを…てか触手て。

 あの、それなんだけど…俺も波音総理方式を採択しちゃダメ?

 てか悪の秘密結社の首領なら、元々法律とか無関係ぢゃん♩


《ここぞとばかりに一夫多妻制宣言!?

 …まあ、どうせそう言い出すと思って覚悟は決めてましたけど…女性的には結構不安なんですよ、アレって。

 自分以外にも若様の気が向いてるのは確実なんですから》


 ですよね!

 てゆーか、ここまで散々アレコレ言っても全然愛想を尽かさないやまぶきもスゴイと思うけと…。


《…お忘れでしょうけど、若様はいっぺん死んでらっしゃるんですよ、私の目の前で?

 あの時の喪失感に比べたら、まだ他にオンナこさえられる方がよっぽどマシです》


 いやさすがに自分が殺されたことは忘れてないけど。

 なんかどんどん物言いに遠慮がなくなってきた気がするけど…それってある意味、究極の愛と言えなくもない気が…。


《お亡くなりになられるよりはマシってだけで、フツーに腹は立つのでお間違いなく!

 あと私が認めたからって、他の子もそうとは限りませんけど…どーするつもりなんです?》


 す、すんましぇん性分なもので…。

 それに言葉を介さない脳内会話だと、どうしても倫理的な歯止めが効かなくて…。


《あまつさえ若様の思考は、普通の人と違って一切ノイズがないのに、高解像度でろくなこと考えてないから余計ムカつくんですよっ!

 私でなければ速攻ブン殴られてますから!

 てか私も今すぐブン殴りてーですっ!!》


 重ね重ねすんましぇんっ!

 でもでも、やまぶきへの愛は本物だからっ!


《…昨夜までコロッと忘れてたクセに。》


 はぐぅあっ!?


《まぁ幸い、私には相手の本心がすぐ見抜けますから。若様の言葉に嘘偽りがないことぐらいは判ります》


 ホッ…♩


《本当に嘘偽りがなさすぎてソレだから、かえってムカつくんですケド。》


 ほぇあ!?


《で、でも…曲がりなりにも将来を誓い合った仲ですし…信じるしかないじゃないですか》


 やまぶき…。

 ぅわヤベェ可愛すぎるっ!

 今すぐ抱きしめてチューして◯◯して△△してXXしたいっ☆


《◯◯や△△やXXは後回しにするとして…

 チューなら私もしたい…かも?》


 後回して。結局全部すんのかい。

 そこまでゴーサイン出されてキスだけで寸止めとか、かえってムズくないスかフヒョヘヘヘ?

 …あ、でもせっかくだけど…今は両手が塞がってて身動きとれないや。


《じゃあ、また私からですか。世話の焼けるカレシさんですね♩》


 言いながらやまぶきはそっと俺に顔を寄せて、唇を…


 と、その寸前で、視界の端に何やら違和感のあるモノが写り込んだ。

 やまぶきも俺の心の動揺をみて状況を察知し、ようやく自分の注意力の散漫さに青ざめ始めた。


《…キャットちゃん…!?》


 そう。てっきり皆と同じように眠り呆けてるもんだと思ってたななみが、今まで見たこともないような恐ろしい形相で俺達の濡れ場をガン見してたのだ!

 そして俺と目が合うと、突き立てた中指をクイっと曲げて『ちょっとこっちゃ来いや』ポーズ。

 やまぶきの方にはもっとダイレクトに、


《くぉら金公、ちょっくらツラ貸せや!…だそうです》


 金公て。やれやれ、よりにもよって一番メンドイ奴に見つかっちまったぜ…。





 俺達はななみの要望通り、他の連中を起こさないように寝床を抜け出した。

 そして誰にも聞かれないように、わざわざ早朝の海岸まで出向いた。

 まだ日の出前の波打ち際はそれでも薄明るく景色も美しいが、真夏でもひんやりと肌寒い。みんな薄手の寝巻き姿だからなおさらだ。


「…朝っぱらからヤル気満々かよ、この万年発情パカッポー!」


 寄せては返す波の音を打ち破り、開口一番ななみが放った言葉に、俺達は反論不能なまま真っ赤になってうなだれる。


「言っとくけど、やまぶきってこんなガキみたいなツラで、実年齢は兄貴二周分くらいのババアだからね!?」


「はぅあっ!?」


 やまぶきダメージ甚大。そのへんは俺も重々承知してるけど、言い方!


「しかも死んだ兄貴を生まれ変わらせたんだよ!? ってことは母親みたいなもんじゃん!

 そんな相手に欲情するなんて…このロリペドマザーファッカー!!」


「ごぶぁっ!?」


 今度は俺のダメージ甚大。


「いやいやちょい待ち、俺は断じてロリじゃねぇ!

 カノジョのさよりは同級生だし、最後までイタシたあゆかはボンキュッボン☆だし、一緒に風呂入ったていちは年上で担任だし!!」


「…待てやゴルァ。いつの間にセンセにまで手ぇ出してんのっ!?」


 出してない、出されたんだ!

 そしてお風呂でシコシコどぴゅっ♩って出しちゃったんだ☆


「聞き捨てならないのは山々ですが…

 わ、私が若様のお母さん!?…てへへ♩」


 えっ、やまぶきはそっち!?

 でもうまい塩梅に話が逸れた。


「おまけに、なんであのクソチビに『お兄ちゃん』呼ばわりさせてんの!?

 兄貴をお兄ちゃんって呼んでいいのは、あたしだけなのにィーッ!!」


 感極まって絶叫してから、ななみはしまったと顔を赤らめる。

 気持ちは解らんでもないが…クソチビって、シロちゃんのことだよな?

 知らんがな、アレが勝手にそう呼んでるだけだし。文句は当人に言ってやれ。


「てゆーかさ。いきなりそんな関係に戻ってるってことは…記憶が戻ったんだね、兄貴?」


「…そういうお前は、やっと化けの皮を剥がす気になったんだな?」


 ななみが普通の人間じゃないってことには、実はずいぶん前から気づいてた。

 体力測定で世界記録更新連発の女子なんて、そうそういるはずないしな。学校では測定機器の不具合ってテキトーな理由で誤魔化されたらしいが。

 あまつさえ、あの両親の異様な戦闘力…。

 どう考えてたってマトモな家族じゃねぇ。

 それでも俺の希望通りに漫画を描き続けてくれるなら、コイツの正体なんてどーでも良かったんだがな。


「…それはそれでムシが良すぎないですか?」


 やまぶきも急に話の腰を折らないっ!

 ってかどっちの味方なの!?


「それはやっぱり女の子に肩入れしますよ。

 キャット…ななみちゃんがどんなに若様を大切に想ってるかは、わざわざ心を読むまでもなく一目瞭然ですし」


『うぐっ…』


 やまぶきの指摘に二人揃って赤面する俺達義兄妹。あ〜話がちっとも進まねぇ!


「ただ、ちょお〜っと素直さが足りなかったせいで今まで損してたみたいですけど」


 それホントな。なんであんなにヒネクレ捻くれまくってたんだお前?


「だ、だって…お母さんが…」


 ななみによれば、俺達が偽装家族を始めた頃にお袋に脅されたらしい。

 俺が記憶を取り戻したり、ななみが人間じゃないことがバレたら、もう家族ではいられない…と。

 でも、ソレってたぶん…


「キャットちゃんが普通の女の子らしく振る舞うように仕向けた『足枷』かと」


 やっぱそーだよな。

 でも、いくら俺の記憶が戻ったところで、長年生活を共にしたお前らを見捨てると思うか? 見くびるのも大概にしやがれ。


「ううっ…」


「それにな、俺はこれからもお前に漫画を描き続けて欲しいと思ってるんだぜ。

 記憶が戻ったからって、今すぐ首領に返り咲けるって訳でもないだろうし…まだまだ当分面倒見てやんなきゃな」


 とゆー殺し文句で、いつもならすんなり引き下がるはずのななみだが…


「そーゆー割には…なんか最近、急に冷たくなったし」


 …あれ?


「兄貴はあたしを漫画家にすんのが夢だったんでしょ?」


 ああ、そいつは今でも現在進行形だぞ?


「ってゆー割には、編集長から再三デビューを持ちかけられても待ったをかけてたし…

 こないだのイベントで直に交渉されたときだって、あたしに『自分で決めろ』って…」


 だからそれは、お前がまだ高校に進学したばかりだからって…!


「…若様、マズイですよ。キャットちゃんの不信感がずいぶん高まってます。

 おそらく先日のイベントで、さよりさんとあゆかさんのデビュー作がいきなり高評価を受けたことにコンプレックスを抱いていたのではと…」


 ああ、確かに…処女作であんなトンデモネーもんをひけらかされて、力量の差をまざまざと見せつけられちまっちゃーな。

 おまけにあゆかはその出来映えにこれっぽっちも満足してなかった。どんだけ貪欲なんだ…。

 そのせいで編集長の関心はすっかりアイツらに逸れちまって、本来のスカウト対象だったななみは蚊帳の外。

 挙句、シロちゃんとへぼみが大暴れしやがったせいで即売会は中断され、ななみの新刊はあと一歩で完売には至らなかった。事後にネットでキッチリ捌けたからトントンだけど。


 けどな。漫画ってのはそんなモンで評価される訳じゃないだろ?

 いかに世間的評価が高かろうと、読者がダメだと思えば駄作だし、気に入ってもらえたなら誰がなんと言おうが傑作なんだよ。

 とりわけスポーツ漫画や不良漫画は、たとえどんなに人気作であっても、興味関心がない人は絶対読まないだろ?

 つまり、大切なのは読者それぞれの嗜好であり評価であって、そのためにはより多くの人の目に触れなきゃならないんだ。

 そして…ななみ、お前の作品はあれだけ多くのファンが支持してくれてるんだぜ?

 あのイベントでそれを目の当たりにして、俺は充分満足できた。

 だからこの先、プロになろうが同人を続けようが、どっちでも構わない…って思ったんだ。


「…だから、そいつはお前が決めろって言っただろ? いつまでも俺にばっか頼ってんじゃねーよ」


 こう言えば、ななみならきっと解ってくれると思った。

 が…俺の隣にいたやまぶきは慌てて俺を小突き、しかめっ面で頭を抱えて、


「若様…それ、ミスチョイスです」


 …あれっ?


「…ほら、やっぱり。兄貴はあたしを見捨てたんだ…!」


 ななみの顔がにわかに掻き曇ったのを見て、俺は自身の失言を悟った。

 いやいや、今の俺の話聞いてたら解るだろ!?


「若様、そもそも何も言ってません」


 んが!? しまった、さっきからのやまぶきとの精神会話が便利すぎて、ななみに対しても脳内完結しちまってた!


「護ってくれるって言ったのに…嘘つき!」


「ちょい待て! 確かにあの時そう言ったけど、生活の面倒まで見るとは言ってねーぞ!?」


「だからあたしとは繁殖できないんだ!?

 やまぶきやあゆかとはズコバコやってんのに!」


 ズコバコて!?


「あの…私は肉体年齢的に妊娠できないし、あゆかさんもHWMだから子供はできないと思いますけど…」


「だから安心してダバドボ中出ししてんでしょ!?」


 ダバドボて!?


「あのあのっ…私はその、『入り口』が狭すぎて…あと若様のも大っきすぎて痛くて最後まで入らなかったから…まだ先チョンだけですっ!」


 やまぶきも律義に答えんでいいっ!


「あたしは先チョンすらして貰ってない!!」


「する訳ねーだろ妹にっ!!」


 叫んでからしまったと思ったが、後悔先に立たず。


「若様…またしても…」


 ミスチョイスだろ? 言われんでも判っとるわい。

 ななみが目に涙を溜めて、わなわな打ち震えてるのを見りゃあな。


「こんなことなら…兄貴と兄妹になんて、なりたくなかった…っ!」


「んなっ…どーゆー意味だそりゃ!?」


「ぅ…るさいうるさいうるさいっ! もー何も話したくないっ!!」


 そう言い放って、ななみは駆け足で海岸を後にする。


「ちょい待て…って速ぇーなオイッ!?」


 さすがは世界記録を塗り替える記録保持者、彼女の姿はあっという間に小さくなって視界から消えた。

 っちうてもこの島で他に行くところなんてある訳ないから、朝食時にはまた顔を合わせることになるだろうけど。


「若様…マズくないですかコレ?」


「そりゃマズいけど…今さらしょうがねーだろ。まぁ、また後で落ち着いた頃に、腹を割って話せば…」


 とはいえ、アイツがあそこまで俺を拒否したのは初めてだしな。うわどんどん不安になってきた。


「そう上手くは行かない気がギュンギュンするんですけど…」


 俺の気休めを頭ごなしに否定して、さらに不安がらせるやまぶき。おいおいそこはフォローしてくれんのがお前の役割だろ?


「だって…若様もいつも人の話なんてろくすっぽ聞かないじゃないですか?」


 うーわ、いらんトコばっか似てくる義兄妹だな!? こりゃ確かに兄妹になんてなるべきじゃなかったわ!


「それです。どうやら彼女にとって、今の関係は年々負担になってきてたようですね…」


「だからそりゃ何でだよ!?」


「皆まで言わなきゃ解りませんか?

 とはいえ、私が言ったらまたキャットちゃんがヘソを曲げるだけですから…後はご自分で察してあげてください」


 いきなり丸投げ!?

 チュートリアルが親切だと思ってたら、本番になった途端にそれまでの学習内容が吹っ飛ぶほど高難易度なゲームみたいな…。

 でもきっと聞いても教えてはくれないんだろ?

 わーったよ。とりあえず今は…


「…まだ眠い。朝メシはまだだろ? それまで寝直そうぜ」


「若様…」


 心底呆れ返ったやまぶきの視線が痛いけど、慌てたところで今はどーしょーもないしな。





 そして全員が起き出してからの朝食。

 朝っぱらからシェフが腕によりをかけた豪華な料理が並んだが…そこにやはり、ななみの姿は無かった。


「い、いや、昼メシにはきっと…」


「まだおっしゃいますか。食欲旺盛な彼女が食事の席に姿を見せない時点で充分異常事態だと…」


「あ、ななみさん居ないんだ? 道理で今朝は静かで快適だなーって♩」


 ここぞとばかりに何気にヒドイさよりはさておき、


「お兄ちゃんと金ちゃんの秘密の逢引きと関係あるのかにゃ?」


『ぶぉっほぇあっ!?』


 さりげなく、そしてそのものズバリなシロちゃんの追及に、俺とやまぶきは揃って飲み物を吹き出した。

 以前の彼女だったら僕らがイチャコラこいてた時点で大騒ぎしてるところだろうけど、友達になった俺の顔を立てて黙っててくれたらしい。

 それはそれでありがたいけど…なぜ今このタイミングで暴露しちゃうのかなっ!?


「なにソレ聞いてないっ!?」


「いま初めて言ったからにゃあ」


 慌てて詰め寄るさよりに意地悪くほくそ笑むシロちゃん。さてはこの子、こうなると判っててわざわざバラしたな!?

 仲良くなっても性格の悪さは相変わらずか。

 ただ、精神的な幼さのためか、そこまで大それたコトとは思ってないらしいのが不幸中の幸いだけど。


「…どういうことだか説明して貰おうか?」


「あゆかさん? 私、あなたからも何の説明も受けてないけど?」


 早くもグダグダな様相を呈してきたあゆかとさよりの自称カノジョコンビを前に、やまぶきは意を決して、


《…若様、ここは私にお任せください》


 おーおー、説明できるもんならしてみなさい。

 やまぶきはスゥッと深呼吸して、


「さよりさん、あゆかさん、黙っててごめんなさい。実は私…」


 クワッ!と目を見開いて、


「若…ななおさんにこまされましたっ!!」


 ブバァ〜〜〜〜ッ!?

 よりにもよってなんちうことをっ!?

 せっかく口直しに含んだ飲み物を全部リバースしちまったじゃねーかっ!


「わははっよくやった! それでこそ次期首…痛ててててっ!」


 と拍手喝采で口を滑らせかけた波音総理のほっぺたを、隣に座ったニャオスリーがギュルリとつねり上げつつ、


「とりあえず、おめでとう…と申し上げるべきでしょうか?」


 ちっとも祝福の意思が感じられない口調でのたまう。まあコイツはすべてを知ってるだろうしな…以前の俺とやまぶきを。

 だが、それを知らない人にとっては…。


「いやいやその子、まだ年齢一桁くらいでしょ? いくら悪の組織だからって、倫理的にどーなの?」


 ある意味いちばん常識人っぽい第五夫人のユウヒさんが露骨にしかめた顔を俺に向ければ、


「な〜んか昔のリョータみたいな節操なさだよね〜?」


 逆に最も常識無さげな第二夫人のマヒルさんが愉快そうにケタケタ笑う。


「あ、首領室でぶっ倒れたってのも?」


「はぁ、うっかり警備システムを切り忘れてまして…」


「あははっ! ヤンチャなおガキ様にはいいお灸だわね♩」


 なるほど、上手い説明…ってそれだと最後までヤレる訳ねーぢゃん!?

 ま、みんな矛盾に気づかず納得してるみたいだけど。


「んでんで? どうやってタラシ込まれちゃったのン?」


 興味津々に尋ねる桜ふぶき編集長に、やまぶきは頬を染めつつもむしろ積極的に、


「昨夜、私の部屋にやって来た彼は、早々に私を口説き始めて…。

 とても口が上手い人だけど、心の底から優しい人だったから…私、すっかり…」


「御託はいい。何をして、何をされたのか? 具体的に答えて貰おう」


「ちょちょちょっとあゆかさんっ!?

 こんな子供に、そんな大人げないっ!」


「年齢の問題ではないが、生憎と私はまだ子供だ」


 あゆかの容赦ない追及にさよりが非難の声を上げるが、そう言われてしまうと「それもそうか」とあっさり追及側に回った。

 そんな二人の高圧的な態度にやまぶきは微塵も動じず、ますます顔を紅潮させて、


「み、身も心も…奥の奥まで…」


『身も心も!?』『奥の奥まで!?』


 朝食の席上はにわかに詩吟の大合唱会と化した。


「具体的には、指でこう…くぱあって♩」


「はいダウトォーッ!!」


 俺は慌ててやまぶきを取り押さえた。これ以上はマジあかんて!

 てかその卑猥な指づかいやめれっ!


「あんっ!? そ、そこ…当たりです♩」


 あ゛ーっ!? 勢い余った俺の指がやまぶきの乳の卑猥な頂点をピンポイントに指し貫いていたァーッ!

 てかいつから乳首当てゲームになった!?


『な、なんてことを…』


 男性陣からは羨望の眼差しが、女性陣からは奇異と侮蔑の眼差しが俺に注がれ、場内は静かなどよめきに満ちた。


「わ、私…カノジョなのにまだくぱあされてない…っ」「私は愛人だけどされた♩」「あんた達、どーゆー関係なの?」


 脇でさよりとあゆかとユウヒさんがしのごの喚いてるし。ううっ、針のムシロ…。

 …とそこへ、


「ななお…」


 俺に向けてツカツカ歩み寄ってきたお袋が、


「…歯を食いしばれ。」


「へ?」


 唐突にそんなこと言われても、まったく心の準備が整わないところへ、


 バチコォ〜〜〜〜ンッ!!


 完全なノーモーションから繰り出された、容赦ない痛烈なビンタ!


「私はお前をそんなふうに育てた覚えはない。」


 奇遇だな、俺にもまったく無ぇよ。基本的に放任主義だったろアンタら!?


「んなっ…なんてことを…っ!?」


 と今度は血相変えた親父が大慌てで、走り寄ってきて、


「公衆の面前で何しとるんだ!? 今日びドメスティックバイオレンスだのコンプライアンスだのと、何かとややこしい御時世なんだぞ!」


 本来の役割とは真逆な行動をとる変態夫婦に、周囲の奇特な視線が注がれる。

 親父の慌てぶりは、自らの正体を理解できた今の俺には解らなくもないが。


「悪いコトしたときにはすぐに躾けるのが親の務め。」


 お袋も負けじと言い返すが…それ、ペットに対する飼い主の心得だよな?


「そして済んでしまったコトは仕方がない」


『ならなんで殴った!?』


 俺と親父の同時ツッコミの陰で、


《相手が私だから仕方ないで済まされたけど、普通は仕方ないじゃ済みませんからね?》


 やまぶきがしっかり釘を刺す。肝に銘じておきます。


「女の敵にはそれなりの制裁を。

 あと…一度やってみたかった♩」


 本音は後半だな? けど、確かに効いたぜ。


「…遊びじゃねーよ。責任はちゃんと取る」


 呟いた俺に、やまぶきは《若様…☆》と感涙し、その他大勢は『どうやって?』と好奇の視線。


「く、くぱあって何かにゃ? なんだかエッチぃ気がするけど…リアルタイム検索でもヒットしないにゃあ!」


 独り置いてけぼりなシロちゃんが、自身がHWMであることを暴露しかねないおイタ発言を披露してるけど…実年齢による検索コードはちゃんと仕事してるらしい。


「ハイハイ、後でちゃんと教えてあげるから」


「ホントかにゃお兄ちゃん!?」


 憐れんだ俺の同情発言にシロちゃんがカワイイ顔を輝かせるも、


『教えるなっ!!』


 女性陣が一斉に放った渾身の拳が、四方八方から信号機のない交差点のように俺に炸裂。

 ううっ、親父にもぶたれたことが無かったのにぃ…っ。


「だから甘ったれだと以下略。でも今はそんなコトよりも…」


 そんなコトよりも!? くぱあそっちのけな衝撃の反応に愕然とする俺とやまぶきに、お袋はなおも、


「ななみがここに居ないのは、それが原因?」


 あ…すっかり忘れてた。





 そしてまた、自室に引き篭もったななみを引きずり出すため、全員でぞろぞろと奴の部屋へ。付き合い良いな〜コイツら。

 でもななみはアレで割と小心者だから、これだけ大勢で詰めかければ、恐れをなしてすぐに飛び出てくるだろう。

 …とか思ってる間に奴の部屋に到着。


「な、ななみぃ? 朝ご飯、美味しいよ? せっかくだから、みんなで食べよ?」


「引き篭もりの子を持つバカ親かにゃ?」


 うるせーぞシロちゃん、こちとら必死なんだ!


「でも、引き篭もりの人に『みんなで』ってワードは禁句な気が…」


 ううっ、やまぶきまでツッコむぅ〜!

 それでも扉は固く閉ざされ、何の音沙汰もない。


《というか…室内にはまったく反応がありませんね》


 え? それって…


《誰もいないか、もしくは手遅れ…》


「な、ななみ!? くそッ!!」


 手遅れというワードにざわついた俺は、扉を打ち破るべくタックルモードへと移行!


「落ち着け。鍵なら開いてる」


 ガチャッ。キィ〜。

 沈着冷静なあゆかが開け放ったドアの向こう側へと、


「花びら大回転ーッ!?」


 ゴロゴロズドンッ!

 勢い余って転がり込み、テーブルセットをなぎ倒す。

 …やはりやまぶきが言った通り、室内はもぬけの空だった。

 ななみの奴、またどっかに出掛けたのか?


「出掛けるって…何処へ?」


 そう。さよりが言うように、ここはゴタンマ所有の南海の孤島。

 この宿舎以外には目立った施設は無いから、出掛けようもないはずなんだが…?


「…待て。何かある」


 あゆかが机の上に置かれたモノの存在に気づいた。

 そこには…せっかくのバカンスだってのに、こんなトコにまで持ち込んでいたななみ愛用のアイデア帳が置きっぱなしに。

 そして、その上に…丁寧に折り畳まれたノートの切れ端が。

 おっかなびっくり開いてみれば、そこに書かれていたのは…


"人生に疲れたので旅に出ます。

 探さないでください…ななみ"


 何処へ旅に出るつもりなんだ!?…と満場一致のツッコミ。

 だってココ、何度も言うけど南海の孤島…


〈素朴な疑問だけど…キャットって、泳げるのか?〉


 心の中でやまぶきに話しかける。猫は水場が苦手だと思ったんだが…すぐに返ってきた回答は、


《個体差はあるけどフツーに泳げるかと。半分は人間ですから》


 だよね〜言われてみれば。


《キャットちゃ…ななみさんは学校のプール授業にも参加してらっしゃいましたし》


 そうなの? 学年が違うから知らんかった。

 …妹のすくぅるみぢゅぎハァハァ♩


《それでよく妹には手を出さないとかおっしゃれましたね?》


 重要なのは妹ではなくスクール水着☆

 スク水を着た妹はたまらなくセクシー♩

 …スク水を脱いだ妹はそれほどでもない。


《…わ、私も着てみよっかな?》


 ならば俺は旧スクタイプよりも競スイタイプの方が好き♩


《…そんなに細かい指定が入るとは思いませんでした》


 などという戯れは程々にして。


"P.S.兄貴のバーカバーカ♩"


「…意外に平気そうじゃねーか?」


「まあ、この島に危険動物が生息していないことは確認済ですし」


 というやまぶきの返答に一安心したところで、


「時々、逃走した実験動物が森に逃げ込むことはあるけどにゃ。数日前に見失ったサーベルタイガーはまだ捕獲されてないにゃ」


 だからなんで一言多いのシロちゃん?

 …てか逃げたの絶滅種!? モン◯ンみたいなカッケー名前だけど、かつて実在したヤツ!


「あと、島中の至る所に護衛用の自動砲台や自律機動兵器がわんさかと…」


「そげなヤベェ場所によく俺達を招待したなお前ら!?」


 おいおい…そんなの、いくらななみでも…


《まあ今のところキャットちゃんの攻撃力を上回るのはシロちゃんとへぼみちゃんだけですけど。今回のウチの損害額は一体どんだけ計上されることやら…》


 え゛…俺、そんな最強生物と同居してたの?

 てかやまぶき、後半本音がダダ洩れな。


「てゆーかコレって、あからさまに『捕まえてごらんなさいオホホホホ〜♩』ってクソチビの罠ですよね〜?」


 キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン。

 おそらくへぼみの言う通りだろうが…アイツ、俺が身体的には極々普通の人間だって解ってんのか?


「それでも捕まえに行くのが、兄さんとしての最後の務め。」


 お袋がダメ押しするけど、無茶ゆーなって。

 …って、『最後の務め』?


「大丈夫…キミなら出来る。」


 無責任に焚き付けんなよ。

 だがまぁ…そーゆーことならしゃーねぇか?


「…チッ、わーったよ。死んだら骨は拾ってくれよな?」


「極力そーならないようにフォローはする。

 獅子は千尋の谷に我が子を突き落として…」


「それ、ただの迷信だから!」


 だが…子育ては確かに母ライオンの仕事らしいしな。

 しょうがない…これが彼女の、母親としての最後の望みならな。


「…行ってくる。」


「…ってちょっとちょっと!? 何がどーなってそーなるワケ!?」


 俺達親子のアグレッシブなやりとりに呆気に取られていたさよりが抗議の声を上げるも、心配するなと手を振って、俺は施設のロビーへと向かった。





 ななみを捜し始めてすぐ…施設そばの森の外れでサーベルタイガーの死骸を見つけた。

 俺達が寝泊まりしていた場所のすぐそばにこんな猛獣が潜んでいたってのも驚きだが…

 あまつさえ、早朝に近くの海岸まで行ってきたりした時によく出くわさなかったな…。

 しかしもっと驚くべきは、その首筋に鋭利な爪で引っ掻いたような致命傷が深々と刻みつけられていたことだ。


「コレ…もしかしなくても、ななみが殺った…んだよな?」


 あの…ホントに俺が迎えに行く意味ありますコレ?

 ななみのヤツ、完璧に野性を取り戻してんじゃん!?…いや、元からそのままだったのか?

 これで万一、島の外に出られたりしてたらもうアウトじゃん。どれほど泳げるのか知らんけど、少なくとも人並み以上なんだろうし。

 そして実際、その可能性は高い。

 何故ならななみの部屋には一切合財の荷物が置きっぱなしになっていたが、水着だけが見当たらなかったからだ。

 つまり…アイツは今、そんなあられも無い格好でそこいらをほっつき歩いてることになる。どんだけ野性に戻ってんだ?


 とはいえ、いくらアホの子でも目的もなく闇雲に歩き回ったり泳ぎ回ったりはしないだろう。

 ここは南海の孤島。見た感じ、島全体の広さはそれほどでもない。

 高い山も無いし、大半がなだらかな平地だ。

 つまり…そのままではすぐ俺に見つかって捕まっちまう。

 ということは…自由を手にするためには島の外に出るしかない。

 が…何度も言うがここは南海の孤島。島の外には何も…


 …いや、一つだけあった。

 という訳で今朝も訪れた海岸にまたやって来た。

 ほぼ真正面に、この島と同程度の大きさの島影が見える。他にはな〜んも無いこの海域唯一の隣島だ。

 隣とはいえ、たぶん数十キロは離れているだろう。いかにななみでも、あそこまで泳ぎ着けるとは到底思えないが…

 アホの子の考えることだ。水着で出て行ったってことは、きっとあそこを目指したに違いない。

 そして、今は…。

 俺はスゥッと深呼吸してから、ありったけの大声で、


「ったくななみめ、俺達にこんなに心配かけやがって…!

 見つけたらお尻ペンペンだ! ケツの皮がズル剥けるまで叩き潰してやるっ!!」


 ガサガサッ!?

 すぐ近くの茂みが不自然に揺れ動く。明らかに潮風の影響とは違う。

 ということは…大当たりだな。


「そうされたくなきゃ、無駄な抵抗はやめて速やかに出てこい!」


 茂みに向かって最終警告を行うと、やや間があってから…


「ぐすっ…ひぃっく…ごめんなざいーっ!

 お願いだから酷いコトしないでぇ〜っ!」


 案の定、泣きべそを掻いたななみが茂みの陰から現れた。

 サーベルタイガーを余裕で倒せるような奴に俺が何を出来るんだって話だが、コイツは昔から俺に怒られることを極端に怖がる傾向にある。

 おそらくゴタンマの実験施設で酷い扱いを受けていたときの記憶が甦るんだろう。可哀想とは思うが、お陰で何の抵抗もみせず素直に投降したから結果オーライだな。

 何はともあれ、無事に、そして拍子抜けするほどあっさり見つかって良かった。


「よし、じゃあお尻を向けなさい」


「ゔゔ…わがりまぢたぁ…」


 いまだ泣きじゃくり続けながら、言われるまま俺にお尻を突き出すななみ。

 うっかりしていたが、今のコイツは水着姿。ほとんど下着と変わらん薄布一枚に包み込まれた下半身がドデンッと目の前にあると、さすがにドギマギする。

 この状況で本当にお尻ペンペンしたら鬼畜すぎるだろうし…よし。


「代わりに尻を二つに割ってやる!」


 むにゅりんっ☆ くちゅっ♩


「ひゃふぅ!?」


 って尻は元々二分割されてるか。しかもなんか卑猥な擬音が聞こえたような気が…。

 おまけに尻肉を押し広げたら水着がズレて、具がハミ出したよーな気もするし…結果的にますます鬼畜になっちまったな。


「…も、もっと酷いコトするの?…ハァハァ♩」


 なんだかノリノリじゃねーか?

 まぁいい、とにかく今は…


「ほぁ…っ!?」


 俺はななみを抱きすくめてその場にへたり込んだ。

 そして、訳もわからず目を白黒させているアホの子の耳元に囁きかける。


「こんなに身体冷やしやがって…心配かけさせんじゃねーよ」


「…ごめん…なさい…」


 しゅんとうなだれるななみを見てると、コイツと出会ったばかりの頃を思い出してしまう。


「…謝んのは俺の方だよ。ずいぶん無理させちまったみたいだしな」


「え…?」


 急に謝られてますますキョトンとするななみに、俺はこう問いかけた。


「お前…ホントは漫画、キライだろ?」


 ななみの肩がビクンッと跳ねた。

 …当たりか。

 コイツの漫画は問答無用で面白いが…それを描いてる本人はちっとも面白くなさそうで、常に余裕無さげな顔してゼェゼェ喘いでる。

 いかにも楽しんで描いてるあゆかに比べたらその差は歴然で…嫌でもその事実に気づかされた。


「…だって…そうでもしないと…」


 やっと観念したななみがボソリと呟く。

 解ってるよ。たぶん漫画にのめり込み過ぎて、ちっとも自分を構ってくれなくなった俺を振り向かせようと必死だったんだろ?

 それもあって、ななみにプロデビューの話があった時には、『後は』好きにしろって言ったんだ。

 いつまでも俺の趣味に無理やり付き合わせ続けるのも気が引けるし…

 もう充分楽しませて貰ったからな♩


「それって…やっぱり、あたしに飽きたってコト…?」


「…フッ。バーカ♩」


 不安気なななみの頭をクシャクシャに撫で回して、俺は苦笑する。


「ついこないだまで、お前のコト本当の妹だって思ってたんだぜ?」


 兄妹や家族に飽きたもヘッタクレも無いだろ。


「それに…最初から言ってるだろ?」


"本当にカワイイなぁ、お前は♩"


「俺ぁ初っ端からお前に骨抜きにされてんだ。

 …心底惚れてんだよ。」


 言ってしまってから、あまりの恥ずかしさに虫唾が走った。

 なので照れ隠しのために、呆然自失のななみに顔を寄せて…


「…むぐっ!?」


 強引に唇を重ね合わせた。


「…っぷはぁ!? ちょちょっ、イキナリ何すんのっ!?」


「本当の兄妹じゃねーんだから問題ないだろ?」


「大アリだわいっ!! あ、あたしにも意志ってモンが…っ」


「お互い好きなら合意の上だから、いんじゃね?」


「ううっ…なんでかバレてるし…」


 むしろなんでバレてないと思ってたのか、小一時間問い詰めたいね。


「あと朝、アレもしたいっつってたから…ヤッちまう? くぱあ。」


「うううううう〜〜〜〜っっ!?」


 まさに羞恥の極みな赤面を通り越してチアノーゼ気味の赤黒い顔で、ななみは視線を彷徨わせた後…


「…お手柔らかにお願いします。」


 素直でよろしい♩





 ひとまず状況を整理しとくと…

 やはりななみは俺の読み通り、水平線の遥か向こうに見えるあの島を目指したらしい。

 そして、こちらの島からひっきりなしに飛来するミサイルやレーザービームを躱し切り、小一時間ほど泳ぎ続けてみたものの、島影には一向に近づけず断念。


「だろうなぁ。魚でもない限り、数十キロも泳ぎ切れる訳がない」


「嘘っ!? アレ、そんなに遠いの!?」


 海上には他に比較対象が存在しないから距離感が狂うんだよ。

 しかもななみは常人よりも視力が優れているだろうしな。澄んだ夜空に浮かぶ月が、すぐそばに見えるのと同じ理屈さ。

 そんなこんなで引き返してくる最中、接近してきた迎撃魚雷を鹵獲し馬乗りになって、大幅にショートカットしたんだとか。

 …俺の妹、どんだけ万能なの?

 てか、それでなんで無傷なんだ…?


「ハァハァ…んう…っ」


 ななみの可愛い喘ぎ声が、波の喧騒に掻き消されていく。

 OKサインを頂戴したので、さっそく妹殿を頂戴してる真っ最中ですが。

 何の遮蔽物もない海岸線で致してると誰かに見られないとも限らないので、近くの岩場の陰に潜んで、やりたい放題やらかしてます♩


「にしても、ななみがここまで触らせてくれるなんて予想外だな。いつもは半殺しの目に遭わされるのに」


「勝手に触るからでしょ!? ちゃんと言ってくれたら、それなりに…」


 くそぅっ、そんな罠が…惜しいコトした。


「でもこれからは、いつでも勝手に触って良いんだよな? 晴れて両想いになったんだし」


「え? そぉ…なのかな…?

 …いやいやそんな訳ないでしょ!?」


 チッ、騙されなかったか。

 だが今日は、いつになくしおらしいななみの、しかもレアな水着姿でお触りしまくり♩

 しかし水着とはいえ、普段着のキャミ&ショーパンとさほど変わらないタンキニ…これでは変化に乏しすぎる。


「胸…直に見てもいいか?」


「えっ!?…ど、どーぞ」


 一瞬躊躇した後、覚悟を決めて頷き返す。

 この反応は、肌を見られたくないというよりも…。

 とにかく許可は得たので、水着の上着の裾に手を掛けて、そろりそろりとたくし上げる。

 夏休み中ほとんど自宅にこもって漫画を描いてたにもかかわらず、健康的に日焼けした小麦色と、生焼けで真っ白な肌色とにクッキリ塗り分けられた素肌が露わになって…

 それらとはまた違う色合いの硬くしこった突起が、隆起が極めて少ない山頂にそそり立っているのが見えた。


「ををぅ…真っっっっっっ平ら!!」


「ガァーンッ!?…フンッ、どーせいちばん胸が小さいですよ〜っだ!」


 悔し気に涙を滲ませるななみ。コレをバカにされたくないから脱ぐのをためらったのか。

 けど、女の子の脱衣にときめくのに、胸の大小は実はそれほど重要じゃない。

 最も大切なのは…


「そのぶん敏感なんだろ?」


 乳房のてっぺんを指先でピンッと弾いてやると、ななみは「ひぅんっ!?」と声を荒げた。


「痛かったか?」


「も、もぉそんな年じゃないモン!」


 負けず嫌いにも程がある。

 けどコイツの年齢って、元々ウチに住んでた家族に合わせて俺の一コ下にしただけだから…

 実際にはもっと若い可能性もあるんだよな。

 外見的にも精神的にも、見るからに幼いし。

 でも大丈夫って本人が言ってるから…

 俺はななみの乳首をそっと指先で摘んで、クニクニと弄ぶ。


「…お前、もう漫画描かねーの?」


「…わかんない。ずっと描いてきたから、ソレしか知んないし…そこまで嫌いって訳でもないし」


「ふぅん?」


 クニクニクニクニ。


「でも、アレ描いてると時間取られて、他にはなんにも出来ないし。

 あたしだって、他にもやりたいコトは色々あるし…」


「こんなコトとか?」


 クニクニコリコリ。


「ひぅっ…え、えっちなことなら、兄貴が良ければいつでも…」


 よし、言質は取った。

 俺は弄んでいた指先をピタリと止めた。


「…兄貴?」


 もっとしてくんないの?と上気した顔に不満を覗かせるななみに、俺は囁きかける。


「俺、お前のこと大好きだけどさ。

 お前と同じくらい、お前が描く漫画も好きなんだよな〜♩」


「う゛。」


「そっかー…もぉ描かないのかぁー…」


「か、描かないとは言ってないから…続き…」


「そう言ってはぐらかして、結局描かない子とか…お兄ちゃん困っちゃ〜う〜な〜ぁ♩」


「あーんっもぉ! 描く、描くからっ!

 だから続きしてっ…お兄ちゃんっ!!」


 よぉ〜しよしよし♩ 何気に呼び方が昔に戻ってるのもポイント高し!


「ではご褒美に…レロレロレロ♩」


「あっあっあっ!?」


 抜き打ち気味に乳首を口に含むと、ななみは身体を跳ね上げて可愛い声を躍らせた。


「ったくもぉ…いぢわるでズッコいトコはちーっとも変わってないし」


「ぢゅるるっ。そりゃ悪の組織の最高幹部的には光栄な褒め言葉だな♩

 けどお前…俺のいぢわる、嫌いじゃないだろ?」


「そりゃ…兄貴が本当はとっても優しいの、解ってるから…」


「でも甘いだけじゃ満足できない。相変わらずマゾっ気過多の変態っ子よのぉ♩」


「…何とでも言って。兄貴が普通の子よりも変わった子の方が好きなのも、解ってるし…」


 そう言ってななみは自ら俺に唇を重ね合わせる。お互いの性癖を知り尽くしちまうのは、エロ漫画制作の難点だよな。


「…さて。そろそろナマくぱあ、逝ってみよっか?」


「…っ」


 さすがに胸よりは抵抗があるのか、ななみの表情と身体が若干こわばった。


「安心しろ、モノ自体はお前の修正前の漫画でいつも見てるし」


「それで何をどう安心しろと!?

 てゆーか…なんでバレてんの!?」


 判らいでか。ななみは電子機器を使えないからネットも検索不能だし、それ以前に厳格な年齢制限によってその類の画像は一切入手不能。

 ならば残る手段は…自身のモノを参考にするしかない。

 てゆーか、野郎のモンは散々俺のを参考にしてるだろ。


「しかしいくら絵だからって、よくまぁ自分のを堂々と描く気になったな?」


「絵なら特定されないと思ったんだもん…」


「いや、ファンサイトではかなり話題になってたぞ。あまりにもリアルに描き込まれてるから、きっと七海センセのをそのまま模写してるに違いないって…」


「嘘ぉんっ!? も、もぉえっちいシーン描けない…」


 あまりの羞恥心に涙を滲ませるななみだが、作家なんざ自身のプライベートを切り売りしてナンボのもんだろ。

 なら、嫌でももっと描きたくなるように…


「よし、ななみ。『レッツ・コンバイン』!!」


「…ふえっ!?」


 コレは大昔の某ロボットアニメで使われた、いわゆる『合体』用語だ。

 放映当時、巷に登場し始めた、トラクターに様々な機能を加えた複合農業機を『コンバイン』と呼称したのがその語源。

 世間の流行を貪欲に取り込みつつ、既に飽和状態にあった合体ロボットものになんとか差別化を図ろうとしたスタッフの苦労が偲ばれる。


「具体的には、俺のナニをお前のソレに…」


「わざわざ説明しなくてもナニソレくらいは解るけど…えっ、いいの?」


「俺と繁殖するのがお前の夢だったろ?」


 小学生時代、教室でそれを盛大にブチ撒けて大顰蹙を買ったこともあるしな。


「あ、あの時はまだ言葉を憶えたてだったから…恥ずかしいコト思い出させないで!」


 最初はろくに喋れなかったななみは、俺と話したい一心で瞬く間に言語を習得し、わずか数ヶ月で何の遜色もない日常会話が交わせるまでになった。

 漫画の件といい、コイツの学習能力は恐ろしく高い。人類にとってはある意味、戦闘能力よりもそっちの方が驚異的かもしれない。


「そのお陰で、お前に睨まれてまで俺に近づこうとする奴がいなかったから気楽で良かったぜ」


「…なかには眼鏡女やはるきさんみたいな人もいたけどね」


 まぁ、毒を喰らわば皿までってゆーか、先天的に毒が効かない連中はどこにでもいるもんだからな。


「でも…本当にいいの? だってあたし…人間じゃないし」


「おいおい、ンなコト今さら俺が気にすると思うか?」


 あゆかもへぼみもHWMだし、さよりもおおよそマトモな人間とは言い難いしな。

 …な〜んてことを面と向かって言った日にゃあ、マジで首を捻じ切られるかもしんないけど。


「それに…お前のガキならカワイイに決まってるしな♩」


 ちうても一発目で大当たりってこたぁ無いだろうが…そーなったらそん時ゃそん時だ。


「お兄ちゃん…♩

 あ、でもあたし、高校くらいは普通に卒業したいから、なるべく当てないでネ?」


 …こりゃまた無理難題を。当たるも八卦、当たらぬも八卦。結果は神のみぞ知るってか?

 波音総理の説が真実なら、どうやら神様ってのはホントにいるらしいしな。


「与太話はそのへんにして、まずはくぱあだくぱあ♩」


「ひょわわっ、ちょちょちょっと待って!」


 彼女の水着の下を掴んで引きずり下ろそうとすると、慌てたななみが引っ張り返してきた。


「なんだ今さら…もしかして、やっと生えてきたのを気にしてんのか?」


「ち、違っ…」


「シノゴノ言わずにハイご開帳〜!」


 すぽぽぽぽーんっ☆

 …あ。むしろ逆にまだツルツルだった。


「うわーんっ、だからヤだったのにぃ〜っ!」


「まあまあ。お陰で奥までよく見えるし♩」


 ちゅぷ…っ。両手の人差し指を差し込んで、左右に押し広げる。う〜んこれはキツい。

 そして漫画に描いてあるのと寸分違わない。

 鏡に映して描いてるせいか左右逆転してるけど、それが判るほどの再現度の高さが凄まじい。


「てかコレ…ホントにコンバインしちゃって良いのか?」


「今さら!?」


「だってコレ…俺の挿れたら確実に裂けるぞ。ホラ?」


 パオ〜ン☆

 俺もズボンを脱ぎ去って、ギンギンにいきり勃った股間を披露してやる。

 漫画を描くたび参考資料として目にしてるからか、動揺こそしないななみだが、自身の極小物件とは明らかにサイズ違いなソレを緊張した面持ちで吟味し…


「…我慢…する!」


 決意も新たに俺の顔を真っ直ぐに見つめ返した。


「だって、お兄ちゃんがせっかくヤル気になってるのに…この機を逃したら、また何年待たされるか判んないもん!」


 あーいや、堪え性の無さには自信があるから、そんなには待たせないと思うが…。


「じゃあ、いっちょイングリモングリしてみるか…」


 早速、洞窟の入り口に肉塊ドリルをあてがってみる。

 う〜む…やはり狭くて硬い。すでに十二分に潤滑されているはずなのに、先っぽすら入らない。

 このままじゃ、向こうが裂けるのが先か、こちらが破断するのが先か…。


「それでも…オス猫のよりはよっぽどマシだもん!」


 ななみが生まれ持ってる野性的性知識によれば、オス猫のチソチソには無数のトゲトゲが生えているため、メス猫側はかなり激痛なんだとか。

 それに比べりゃ人間の俺のは単にデカい…てか頭でっかちなだけだから、それさえ通過できれば後は楽勝か。


「ではではひと思いに…ふんぬっ!!」


 ブチンッ!!


「ひギィッ!?」


 成せばなる。けど案の定、裂けた。

 …いや、それでいいのか?

 一気に奥まで捻じ込んだ勢いで、ななみの身体が砂の上を大きくスライディング。せっかく苦労して挿れたのに、弾みで抜けかかったからメチャ焦った。血も出てるしな。

 絶対入らないと思ってたのに、見事に入ったよ。デブが若い頃のジーパン履くような奇跡が起こったよ。女の子の身体ってスゲェな。

 ともかくこれで晴れて貫通式が済んだ訳だが、祝福ムードは微塵もなく。


「大丈夫かななみ…すんごい痛そうだけど?」


「い、痛い…メチャメチャ痛い…死ぬかも…っ!?」


 涙をちょちょ切らせて呻くななみの様子に、死なれちゃ困ると慌てて引き抜こうとするが、


「…ヤダッ!」


 ななみは両手両脚を俺の身体に蜘蛛のように絡めてガッチリロック。意地でも放さないつもりだ。


「いいから…動いて…早く出して…っ!」


 出してって…生々しいなぁ。

 とはいえこっちも元々限界まで張り詰めてた上に、このキツキツ具合。

 そしてピストン運動するたびに「あっあっ!?」とカワイイ呻き声。こりゃアカンっしょ♩

 お陰でほんの数往復しただけで、見事に大爆発して轟沈。どぷんっ☆


「…え…なにコレ…もう出たの?」


 急速に俺のがしぼんで楽になったからか、やっと余裕が生まれたななみが顔を上げる。


「ああ、終わったよ…ホラ。」


 魅せてあげよう、二人の結合部から溢れ出す、赤と白のエクスタシー。

 だがそれを見たななみは意外にも不満そうに、


「…早すぎない?」


 がーそ。ソレここで絶対言っちゃアカンやつ!

 下手すりゃ不能路線まっしぐらだぞ!?


「お前が早く出せっつったんだろがぃ!?」


「でも、だって…なんか思ってたのと違うもん。すんごい痛くて全然気持ちよくなかったのに、お兄ちゃんだけチャッチャとイッちゃって…ズルいっ!」


 お前とゆー奴は…どんだけ禁句のオンパレードなの!?

 苦渋の涙を流す俺に、鬼ディレクターはやはり悔し涙で応えて、


「だから…やり直しを要求するっ!」


 あゝ無情。なんたる無理強い!?

 男には事後に賢者モードってインターバルが…


「ンなモン女には無いッ! いいから早くっ!!」


 いやいやそんな無茶言われましても…。

 てか痛くないのお前?


「だって早くお兄ちゃんの子供が欲しいんだモン!」


 ぅおいっ、さっきと言っとるコトがまるっきし違うやんけ。高校卒業どこ行った!?


「…お願い、お兄ちゃん…☆」


 むっはぁ!? この土壇場で可愛すぎる妹の顔とか…大ッッッ好物ですっ☆

 よぉ〜っし、お兄ちゃんガンバッちゃうゾォーッ♩(←単純バカ)


「あっあっ…スッゴォい…!?」


 ななみの中で瞬く間に膨張して大復活を遂げた俺に、彼女の顔がほころぶ。

 加えて子種だの新たな分泌液だので水気も大幅に増してるから動きもスムーズ。


 いかんせん野性に戻ると知能指数が際限なく低下する気がするが、そもそもこーゆーコトに何かを求めちゃダ〜メダ〜メ♩

 波打ち際の岩陰で生まれたままの姿に戻った俺達は、心ゆくまで二人きりの真夏のバカンスを堪能したのだった。





「…てか、そろそろ離れてくんない?」


「ヤダ。もうちょっとこのままいさせて♩」


 数年ぶりにこれまでになくイチャコラしまくりなななみが、俺の腕にガッツリ絡みついて解放してくれない。

 あれからしばらくしてやっと理性を取り戻した俺達は、皆にしれっとななみ発見・捕獲の一報を入れるべく宿泊施設の近くまで戻ってきた。

 もちろん白いのやら赤いのやらは海水で洗い流し、服も着直して何食わぬ顔で。

 ななみはちょっともったいなさげな顔をしてたが、あんな姿をさよりに見られでもしたらマジ刺されかねん。

 だが、お陰で彼女の不機嫌や不満は木っ端微塵に吹っ飛んだようで、終始ご覧通りのご機嫌ぶり。


「い〜いアイデアが浮かんだから、帰ったらすぐ書き留めなきゃ♩」


 漫画への意欲も無事に取り戻したようで、鼻歌混じりにあれこれ妄想を炸裂させている模様。

 旅先にまでアイデア帳を持ってきてたぐらいだから、なんだかんだ言って漫画への愛着はそれなりなんだろう。


「それにしても…まだなんか挟まってるみたいで、歩きにくい…」


「我慢しろ。物理的には怪我したのと同じなんだし、しばらくそんな感じだと思うぞ?」


「男は無傷なのに…ズルい! お詫びに後であたしの部屋に来て♩」


「俺がお前に詫びるのか? しかも、まさかその状態でまだヤルつもりかよ…」


「とーぜん! あたしに何の許可もなく勝手にクソ眼鏡やパツキンファッキンとくっついて、あまつさえ童貞をあゆかに捧げちゃったダメダメお兄ちゃんを矯正すべく、今後はあたしが影のカノジョとして君臨しますから♩」


 さより=クソ眼鏡はともかく、やまぶき=パツキンファッキンて…闇が深い。


「あと、あのクソチビにまだ『お兄ちゃん』て呼ばせてんの?」


「しゃーねーだろ向こうが勝手に呼んでんだから。単なる呼称で、今んとこそれ以上の意味はないようだし。

 …お前はどーすんだ?」


「う〜ん…もうしばらく『兄貴』呼びで…」


 皆の手前、急に態度を変えるのは恥ずかしいんだろうな。

 そもそも『兄貴』呼びも漫画を描き始めてからのことだから、ななみなりの区分があるのかも…


「いぃ〜えぇ〜、下手なお気遣いは御無用ですよぉ〜♩」


 出し抜けに辺りに響いた、間延びした声色に、俺達ね肩がビックンチョッ!?とすくむ。

 あれこれ考えるまでもなく、常に能天気なこの声は…!


「ご開通おめでとーございます〜、マスターあ〜んど腐れ小娘〜♩」


 ニマニマほくそ笑みつつ、近くの木陰から悠然と現れたのは…やはりへぼみだった。

 ご開通て…とっくにお見通しかい。さては俺達の行動を逐一監視してやがったな?


「えぇ〜それはもぉ〜。付近を巡回してた警備ドローンをハッキングしてモニターした甲斐があったとゆーものですぅ♩」


 そういやコイツは以前にも攻撃衛星を手なづけて、軌道上からのレーザー照射で自宅の壁を破壊したことがあったな。

 そこいらへんを徘徊してるノラドローンを支配するくらい朝飯前ってか。もう昼だけど。


「…どこから観てやがった?」


「『代わりに尻を二つに割ってやる!』から『…早すぎない?』までですかねぇ〜?」


 おはようからおやすみまで…つまり全部かいっ!?


「せっかくなのでぇ、皆さんもご一緒に大食堂の巨大スクリーンで鑑賞会を開催致しましたぁ〜♩」


『ぁんですとぉーーーーっっ!?』


 素っ頓狂な悲鳴をカチ上げた俺達の前に、周辺に隠れ潜んでいた暇人どもがゾロゾロ姿を見せて勢揃いしやがった。


「うるうる…ななおくんの裏切り者ぉ!」


 涙目のさよりが泣き叫んだのを皮切りに、


「ななおキサマぁ…解っちゃいたけど…解っちゃいたけど、やっぱり解りたくねぇっ! 万死に値するッ!!」


 とはるきが血の涙を流して断罪し、


「いや〜若さって無敵だわねぇ。ちなみにあたし達の中ではあたしが真っ先にねじ込まれちゃったケドね〜あはは♩」


 波音総理第二夫人のマヒルさんが訊いてもないコトを暴露し、


「ななおくんもお兄ちゃんみたく小っちゃい子が好きなんだね…変態サン♩」


 同実妹のアサヒさんが盛大に誤解し、


「ならボクも対象かにゃ? 仲間はずれはイヤなのにゃ!」


 シロちゃんが絶対よく解ってないままに催促し、


「朝っぱらから大変刺激的でした。ただちょっと…いえだいぶんムカついたので、お仕置きOK?」


 やまぶきがこめかみの青筋をビュックンビュックンひきつらせながら例の能面的笑顔を手向け…ってかその手のペンチはナニをどーするおつもりですかね!?

 他にも有象無象がてんでにやいのやいのと囃し立て、もはや収拾がつかん状態に。

 嗚呼ー、おイタして謝罪会見開いたタレントの心境って、きっとこんな感じだろうなー。


「殺して…誰かあたしを殺して…っ!」


 見せ物パンダに奉り上げられて、ものの見事に真っ赤に茹で上がったななみが涙と羞恥心を垂れ流す。

 耐えろ、俺達は別段おかしなコトはヤッてない。ちょっと鍵穴をこじ開けて子種を注ぎ込んだだけじゃないか?(←罪悪感の耐えられない軽さ)

 …と、そこへ。


「…ななお…ななみ…」


 モーゼの海割りを彷彿とさせる光景で、大衆を押し退けたお袋がゆっくり俺達に近づいてきた。

 その表情はいつも通りの無表情だが…何なんだ、この寄る者すべてを完膚なきまでに擦り潰すような異様なプレッシャーは…?


「ぉ、ぉぃ…」


 いつもは堂々としてる親父も、彼女が醸し出す只事ではない空気に気圧されて、遠慮がちに制止を試みている…が無論、効果はない。

 と、突然…!


「お、お袋…!?」「お母さん!?」「お前…!」


 滂沱のごとく涙を流し始めたお袋に、俺達はなす術もなく慌てふためく。

 そんな俺達に向かって、お袋は嬉しそうに一言。


「二人とも…これで立派な大人」


 いや、水を差すようで悪いけど…オトナの意味合いが若干違くね?

 しかしお袋は些細なことなど意に介さず、遠い目をして呟いた。


「これで…私の仕事は終わり。」


「待て、勝手に終わらすな!」


 ハラハラ心配そうにこちらを見つめるやまぶきをチラリと見て、親父がツッコむ。上役の警護指示はまだ解除されてないしな。

 だがお袋はなおも暴走し続け、


「私たち家族は…今日で解散します。」


 どこぞのアイドルグループみたいに宣言しちった!?

 そりゃ元々は寄せ集めの偽装家族だったかもしんないけど、決して短くはない時間をともに過ごしてきたんだぜ?

 なのに、ンな一方的な…。

 てんでにショックを受けてる俺達に、お袋は…


「そして私は…これからは一人のオンナとして、自分の幸せを追及する!」


 さらに驚愕のウーマンリブ宣言!?

 しかも、『見つける』ではなく『追及』て?


「カマ〜ンヌ、マイ・セカンドハニー♩」


「えっちょっ…お姉たま!?」


 お袋が強引に招き寄せたのは、意外にも…はるき!?

 てかお前もお前で何故『お姉たま』呼び?

 コイツらがウチで対面したのはたった一度きり。しかも単なる俺の友人と保護者というだけの立場だったはずだが…いったい何処で繋がった?


「フッ…ちょこざいな若造ッ! 貴様ごときにこのアホ女房が扱えると思うてか!?」


「思わないし、どうこうする気なんて微塵もねーっスけど!? まずは落ち着いて!」


「マイハニー。私のお尻はアナタのモノ♩」


「どゆことーッ!? てかオレはお尻よかオパーイの方がイイっスゥーッ!!」


 同感だな。さすがは同志。

 てかそろそろ、この異常なアホ騒ぎを収拾しとくか。


「あのなぁお袋。ななみとも話し合ったんだが…」


「あたし達、せめて高校卒業までは今まで通りの生活を続けた方がいいかなって」


 俺とななみの弁に、お袋は「へ」とマヌケな声を洩らす。


「つまりはお前の早とちりだな。それをこのアホは…自ら望んだ家族関係を勝手に崩壊させおってからに…!」


 頭を抱え込む親父に、お袋は「やってもーた」という顔で小さく呻いた。

 いつも無表情な彼女が真っ赤になるのを初めて見た。


「言っとくが…家庭崩壊した後も、俺はお前との夫婦関係を解消する気はないぞ。

 お前みたいなアホ、他に誰が養える?」


 ヒューヒュー言うねぇ〜親父。ちょっと照れてるのがカワイイぜ♩


「あなた…♩」


 お袋も惚れ直したご様子。ならなんで裏切った? しかもよりにもよって不倫相手がはるきとか…。


「若造、貴様にも後で話がある。

 …何、悪いようにはせん。このアホはこれでも人を見る目は確かだからな」


 見る目が確かな奴はそもそも不倫などしないと思うが…まぁ男女の仲に余計な口出しはすまい。

 これではるきも晴れて実夫公認の愛人か♩


「いやいやイヤイヤ滅相もないっ! てかどーしてこーなった!?」


「それはこっちが訊きたいが…これからヨロシクな、はるき義兄さん♩」


「『義兄さん』ヤメテェーッ!!」


 俺の冷やかしに本気で嫌がるオクレ…否はるき義兄さんだったが、


「ぅわ〜いっ、お兄ちゃんが増えてウレシイな♩」


「…あ、やっぱちょっとイイかも♩」


 ななみの冷やかしはいいんかい。キモッ。

 ちなみに…後で聞いた話だが、コイツはななみそのものではなく『兄にベタ惚れな妹』というシチュエーションに萌えるのであって、俺達の仲の進展には別段異論は無いんだとか。

 やっぱキモッ☆


 ともかく、朝っぱらから騒々しかったアレやコレやも一段落して、やっと平穏無事な日常が…


《送れると思ってるなら大間違いだぞ、ななおクン。

 いや…『若様』。》


 唐突に上空から、人の心境を勝手に読んだ声が大音量で響き渡った。

 続けざまに辺りに轟くジェット音とローター音。見上げてみれば…俺達が乗ってきたのと同型のVTOL機が旋回していた。


「…叔父様…どうして…?」


 やまぶきが熱に浮かされたような顔でそれを見つめている。

 てことは…やっぱ副首領のじろさんかい。

 俺達をこんな世間から隔絶された場所にわざわざ招待するなんてアヤシイと思ってたら…どうやら俺の正体はとっくにバレちまってたみたいだな。

 そして、それ以上にバレちゃイカンかった相手が…


「…お前が…『若様』…だったのにゃ?」


 信じ難いモノを見るようにこちらを凝視するシロちゃんの目には、俺への不信感がアリアリと浮かんでいた。

 あっちゃ〜…順番間違えたな。一応釈明させて貰えば、彼女とお友達になった時点では俺は自分の正体を知らなかったんだが…今さら後の祭りか。


 にわかに不穏な空気が立ち込め始めた絶海の孤島を嘲笑うかのように、不気味なローター音がいつまでも鳴り響いていた…。




【第十六話 END】

 ふぃ〜っ、なんとか月が変わる前に書き終えました。

 先月半ばにコロナに倒れてから、少なからず後遺症の影響を受けてなかなか筆が進まず難儀しつおりまして。

 通常は一話あたり二週間前後で仕上がるところが倍以上も掛かってしまいました。

 というか、以前はそれなりに順調に書き進んでおり、ネットに上げる一週間前には完成していたものでしたが…今やストックもすべて使い果たしました。

 サブタイトルの『混沌坩堝こんとんるつぼ』とは、作品内容よりもむしろ作者自身のことです。実は次回の方がより混沌としてますが(笑)。


 さて今回は、最も厄介だったななみとの関係の再構築編です。

 やまぶきにより記憶を封じられていたななおとは異なり、最初からすべての記憶を持ったまま妹としての生活を続けていた彼女でしたが…そんな曖昧な暮らしがいつまでも持続するわきゃ〜ありません。

 だって思春期だもの♩

 なので回を追うごとに次第にななおへの不信感を募らせていくようにしたりと、仕込みが大変でした。


 そしてそろそろクライマックスっぽい雰囲気が漂い出しましたが…具体的にあと何回で終われるかは今のところ不明です。

 他にもまだまだひた隠しにしてるネタがいくつもありますし…果たして伏線すべてを無事回収しきれるかどうか?(笑)

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