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南海邂逅。

【前回のあらすじ】

 同人誌即売会場にて、月刊ゴタンマ編集長よりデビューを打診されたななみは、あれだけ自分をプロにしたがっていたななおの突然突き放したような態度に違和感を覚え、話を保留する。

 一方で、さより&あゆかの処女作の完成度に驚愕した編集長は二人にもデビューを勧め、さよりは快諾。

 だがあゆかは、同作品が思い通りに描けなかったのは自身がHWMだからと思い悩んでいた。しかし周囲の説得により、最終的には自信を取り戻しデビューに応じる。


 そこへサークル巡回から戻ってきたへぼみにより、やまぶきがゴタンマ首領であることが暴露されてしまう。

 そのへぼみに鉄拳制裁を加えたのは、突如現れたしろがねだった。

 イベント会場を大破させたしろがねは、やまぶきの正体を知った一堂をその場で始末し口封じを図ろうとするも、やまぶきに手出し無用と初めて『命令』されたことにショックを受ける。


 かくしてうやむやのうちに中断された即売会から、悶々とした気分のまま引き上げるななお達一行。

 他方で、ゴタンマの本拠地に戻ったしろがねより、ななおの正体が死んだと思い込んでいた『若様』だったことを知らされた副首領は、やまぶきにハメられていたことを悟り大憤慨するのだった…。





 頭上に広がる澄んだ青空。

 沸き上がる白い入道雲。

 視界一面に広がる紺碧の大海原。

 振り返れば、手付かずの樹海が織りなす大自然のコントラスト。

 そして、寄せては返す波打ち際には…


「ね、ねぇ…この水着、新しく買ってみたんだけど…どーかな?」


 いつもの清楚な彼女からは予想外に肌色面積過多な純白のビキニ姿で、俺を惑わすマイハニーさより☆


「くぅおらぁっ!! 真夏のイメージから一番程遠いクセに、なにいっちょこ前に先陣切って目立ちまくっとるくわっ!?」


 あ〜んど、無難なタンキニ水着でどやしつける、普段着のキャミソール姿とあまりにも変化なさすぎな大平原むしゅめのななみサン…」


「ちゃっかりナレーション横取って好き勝手抜かしてんぢゃねーぞクソ眼鏡ってか誰が大平原だゴルァッ!?

 そーゆーオメーだってパッド重ねても3D化には程遠いほど真っっっ平らだろがぃッ!!」


「を〜を〜エエ度胸じゃのぉワレェ!?

 この世のどこいらへんにナイチチがトップ飾っちゃアカンちう法律があるんぢゃいゴルァッ!?」


 まぁまぁ餅突けマイハニー…てか最近ホンマにキャラ崩壊甚だしいな。お前は一体どこの地平を目指してんの?

 と、そこへ…


「やれやれ…何処に行こうと変わり映えせん連中だな」


 気怠げにのっそりのっそり近寄ってきたのは、ホルターネック水着に身を包んだあゆか嬢。

 一歩足を踏み出すたびに、今にも水着の胸元を引きちぎらんばかりに肥大した脂肪の塊が、脇からこぼれ落ちそうなほどボヨヨンボヨヨン揺れてダッダーン☆な感じ。


『のっひょお〜〜〜〜っ!?

 しゅいましぇん未熟者どもが大変失礼致しました…っ』


 格が違いすぎる乳圧にミジンコ並みのプライドを押し潰された貧乳二人はたちどころに意気消沈。

 一方で俺は、こんな膨大なモンをモロに拝まされた日にゃ〜、今にも水着から増長した一部分がポロリンチョと顔を出しそうな危機に見舞われていた。


「…フフッ。」


 周囲に壁もないのに壁ドンポーズで俺を追い詰めたあゆかは、俺の身体的変化をチラ見しつつ満足気に微笑んで、


「隠さなくても、ななおなら狼藉を許すぞ?

 幸い、ここの海岸には岩壁も多い…」


 ってイキナリ何のお誘い!?

 日増しに男前度が急上昇してるなお前!


『うぐぐぎげごがご…っ』


 ななみとさよりは歯軋りが歯こぼれ…いや刃こぼれしそうな音を立てて俺達のやり取りを恨めしげに睨み続けている。

 一旦負けを認めてしまった手前、軍事介入しづらいらしい。てか早よ誰か止めろやっ!

 と、その時タイムリーに、


「お待たせしましたぁ〜♩ 着付けに手間取っちゃいましてぇ〜」


 早くもぽよんぽよん不吉な効果音を立てて、へぼみが走り寄って来た。

 この際何でもいいが、とにかく助かった…とそちらに目を向けた俺達は、真夏の直射日光を浴びてるにもかかわらずビキィッ!と瞬間凍結。

 彼奴が着ていたのは、いわゆる『紐水着』だった…。あんな効果音が鳴るわけだよ!


「先日のイベントで伝家の宝刀のすくぅるみじゅぎを使っちゃいましたのでぇ、思い切って新調してみましたけどぉ…なかなか隠せなくってぇ〜♩」


 そんだけ苦労した割には、隠せてない!

 断っじて、一ミリもっ!

 あちこちハミ出しっ放しっ!!

 てめえのダイナマイツグラマラスばでぇを甘く見過ぎだっ!!


「ちょっへぼみ、もうちょい慎まんかい!?」


「あふぅんっ!? ま、ますたぁ…そこはビンカンなのぉ…っ」


 しょーがねーだろ隠そうとしたらどーしても触っちまうほどアレコレ出っ張ってんだから!

 あーもーどーすれバインダーッ!?


「こーすりゃいいのにゃっ!!」


 ドゴブワシャアッ!…どざっぱぁーんっ!


 白銀の一閃に葬り去られたへぼみは大きく弾け飛んで、大海原の藻屑と化した。


「…フンッ、何をどうしようと存在自体が破廉恥極まりない奴にゃ!」


 へぼみが墜落した海を睨みつつ、腕組み仁王立ちの凛々し過ぎるポーズを取るのは、銀髪ツインテールのしろがねことシロちゃん。

 今日は装飾皆無のセパレート水着姿だけど、これくらいシンプルな方が彼女の活発なイメージをより強調してくれてよく似合い過ぎてる♩

 それはともかく、先日は敵として俺達と対峙した彼女が、なんでここにいるのかといえば…


「も〜シロちゃん、みんなと仲良くしなきゃダメだよぉ…」


 恥じらいつつこちらに近づいてきたのは、金髪碧眼の美少女やまぶきこと金ちゃん。

 こちらはゴージャスな装飾てんこ盛りなワンピース水着で、元々人目を惹きつけてやまない超絶美少女の魅力をより華やかに飾り立てている。

 こうしてシロちゃんと並んで立つと、まさしく好対照で理想的なお子様ペアだな。うんうん♩


「…なにジロジロ視姦してるにゃ? 金ちゃんをあんましエロい目で見てんじゃないにゃ!」


 いや凝視対象はチミも含めてなんだけど…。

 この子の行動原理は単純明快、何を置いても金ちゃん最優先ってことが解ってきたら、さらに可愛さ増し増しだにゃあ♩

 でも…


「チッ…こんなエロガキと仲良く…にゃあ?

 それはお願い? それとも…また命令?」


「や、やだなぁ。お願いに決まってるじゃないそんなの?」


 どうもこの二人、先日からギスギスしてるみたいなんだよな。


"いくら金ちゃんのワガママでも、こればっかりは聞けにゃ…"


"ワガママじゃなくて…『命令』だモンッ!!"


 …あの時のやり取りを、シロちゃんがいまだに根に持ってるらしくてさ…。


「…あっそ。ならボクは好きにやらせて貰うにゃ」


「あ、ちょっと…シロちゃ〜んっ!?」


 踵を返してスタスタ離れていく彼女の後ろ姿を見送ってから、金ちゃんはハァ〜っと大きな溜息をついて、


「んもぉ…すみません、まだ慣れないみたいで…」


 慣れないも何も、最初はあからさまに敵視されてたからなぁ。


「…ま、あんだけ意固地になってしまったら、しばらくそっとしといた方がいいかな?

 うちのななみが機嫌悪いときも、そーしとけば自然に治まるし」


 それはそーと…水着姿、カワイイなぁ…♩


「え…あ、ありがとうございます…♩」


 小さいなりにスタイルも良いし…おっぱいも思ったより大きいし♩


「あははぁ…昔、そこばっかり触られちゃいましたから…♩」


 そっかぁ…そこばっかりモミモミ…


「って、アレ? もしかして俺…口に出てた?」


「あ゛…い、いぃ〜えぇ〜? でもそのあのその…それだけ熱心に見つめられちゃいますとぉ…♩」


「それはしょーがないよ…そんだけ可愛かったら…♩」


 見つめ合う瞳と瞳。

 何だろう…まだ知り合って日も浅いはずなのに、そばにいると不思議と落ち着くし…

 年齢もずいぶん離れてるし、普通だったら対象外なはずなのに…

 まさか、俺ってロリコンなのか? ななみもいい加減ちんまいし。

 けどフツーにカノジョのさよりもいるし、あゆかは大人っぽいし、ていちともあんなコトに…


「それは単に節操ナシなだけでは?

 てゆーか、まだ他にも手を出してたんですか…!?」


 だから何でバレてんの!?


「…お二人さ〜ン。そこいらへんで一旦周りを確認してみた方がいいと思うけど〜ン?」


 出し抜けに編集長に耳元に囁きかけられて、心臓が身体ごと跳ね上がった。

 言われるままに周囲を見回せば、ななみ達が血の涙を流して俺達を睨みつけていた。怖っ!


「まさに恋は盲目…ですかね?」


 相変わらずのフラット口調でニャオスリーがてんで見当違いなことを…

 てか…まさか、傍らからは充分そー見えるってコトなのか?





 その他のメンツも続々集まってきたところで、今さらよーやく説明させて貰おう。

 俺達はいま…南の島に来ている。

 ああ、南の島ったら南の島だ。そうとしか説明のしようがない。

 何故ならここが具体的に何処なのか、俺達には知りようがないからだ。

 判っているのは、この場所がゴタンマの所有地で、南海の孤島ってことだけ。

 いや正確には国内かどうか、本当に南海かどうかも判らない。目隠しされて乗せられた飛行機は体感的に南方へ飛んだようだし、気温や日差しや周囲の景観からしていかにも南国っぽいからそう判断しただけだ。

 ここに降り立つまでに試してみたが、付近に中継局が無いためスマホの電話は通じず、ジャミングを受けているためGPSも利用不可。

 ネットに関してはイントラネットが機能しており使えるには使えるが、島の外部には一切繋がらないなど著しく制限されている。東側の独裁国家みたいな感じだ。

 つまり、ここは…日常から完全に切り離された別世界だ。


 事の始まりは先日の同人誌即売会の直後。

 自宅のPCにニャオスリーから突然メールがあった。

 既に一度ゴタンマからもメールがあったから、うちのアドレスを知ってても何ら不思議はないけど、彼女個人からってのが意外すぎた。


《突然のメールで失礼致します。今回は首領からの極めて個人的な連絡になりますので、私が代理としてお送り致しました。

 続きは対面にてお話し致します》


 実に丁寧な文面に感心しつつも、あーそりゃ首領か直にメールする訳にもいかんだろうしなぁと納得した。

 …って、対面?


「はい。やはりこちらの方が早いですから」

「お、お邪魔します…っ」


 うわビックリした!?

 いつの間にか背後にニャオスリー当人と、これまた驚くべきことに金ちゃんが立っていた。

 いや前者のテレポート能力はこないだ見たけど、首領本人がそんなホイホイ他人の家に来ていいもんなの?


「あはは…表向きは、相変わらず報告が滞りがちなHWMへの直接指導ってゆー名目になってます」


「え〜? 週に一度は連絡してるじゃないですかぁ〜?」


「毎日しなさいって言ってるでしょっ!?

 しかも何ですかこの内容は!

 『今日から夏休みですぅ。毎日好きなだけ眠れてとっても楽しいですぅ♩』って幼稚園児かっ!? ちゃんとお仕事しなさいっ!」


「お給料もろくに出ないのに働く気になんてなりませんよぉ〜ブーブー!」


 ブータレるへぼみを叱り飛ばしてお冠の首領サマ。コイツに手を焼いてんのはうちだけじゃなかったんだな…。

 てか給料って、要るの?


「要りません! むしろ申し訳なさすぎて逆に謝礼金をお支払いしたいくらいで…」


「首領。過度の謝礼は顧客をつけ上がらせるだけです。謝罪は程々に。決して土下座はしないように」


 ニャオスリーも客の前で堂々と上司を嗜めなきゃ〜理想的な部下なんだろうけどな?


「それはともかく…先日はうちの若いモンがお手数お掛けしました。どうにも血の気の荒い子なもので、何卒…」


 若いモンってシロちゃんのことだろうけど、聞きようによっては脅しにも取れるなぁ…。


「で、色々ご迷惑を掛け通しですので、お詫びとしまして…皆さん、もう夏休みですよね?」


 そう。学校は先日からいよいよ夏休みに入った。

 とはいえ俺達は次の新刊に備えて原稿作成を続けるのみだから、ぶっちゃけいつもとほとんど変わらないけどな。

 予定が押してきたらズル休みや授業サボリも日常茶飯事だし。


「そーゆーことを教師の面前で堂々とだなー…」

「まあ私が来てからはまだ一度もズル休みさせてませんけど♩」


 頭を抱えるていちを宥めるさよりを尻目に、なぜだか金ちゃんの前ではいつも不機嫌なななみが、


「んで、首領サマ直々に何の用? 遊びにでも連れてってくれるワケ?」


「あっソレ当たりです☆」


 …何ですと!?


 金ちゃんが言うには、場所は明言できないがゴタンマ所有の離島があり、そこで数日間のんびり過ごさないか?とのこと。

 海岸には綺麗な珊瑚礁が広がっており、人間の生活域からは遠く離れているためゴミは無く水質も良好。だが私有地につき部外者は皆無。

 宿泊施設は小洒落たリゾートホテル並みの規模で、専属料理人が腕を奮った食事が三度三度提供される他、コンビニ並みの売店や自動調理機器が随所に設置されており衣食住はカンペキだそうで。

 また本来は海洋関係の実験施設であるため、周辺で捕獲した動植物が多数飼育されており、ちょっとした動物園や水族館になっているんだとか。


「ですが、当結社の関連施設のため皆様には守秘義務が課せられ、違反した場合の身の安全は保証致しかねます。

 一応、付近に危険生物の存在は確認されませんが、安全のため立ち入り禁止エリアや門限も厳密に指定させて頂きます。

 また日程もこちらで定めさせて頂きたく…」


 等々、ゴタンマという組織の性格上、ニャオスリーが言うように何かと物騒な制限事項は山盛りだが…。


「そちらにも何かと御予定はお有りでしょうから、無理にとは申しませんが…」


『行くぅーっ!! 行く逝く往く育郁幾生い゛ぐぅあ゛あ゛〜っイクイクイックゥうううぅぅぅぅ〜〜〜〜んッッ!!!!』


 一斉にゾンビのごとき唸り声をあげて大興奮状態の皆に、さすがのニャオスリーも若干仰け反りつつ、


「…熟女モノのAV女優みたいな反応ですね」


 なぜ知ってる?


「じゃあ、決まりですネ☆」


 という首領サマの一声で、未定の予定は決定になった。賛成の反対の反対なのだ♩


 目的地までは大型機をチャーターするので参加者は何人でも良い、という太っ腹なお達しに甘えて、こちらのメンバーは既に動物園状態の俺、ななみ、さより、あゆか、へぼみに加え、ていちにはるき、左右田そうだ姉弟…

 要は先日のイベントに参加した全員から快諾を貰った。全員揃って予定が空いてるだなんて、よほど暇な青春を謳歌しとるよーだな。人のことは言えんけど。

 そしてゴタンマ側からは先の金ちゃん、シロちゃん、ニャオスリーの他…


「むっひょ〜〜〜若いコがよりどりみどりねぇン!? 無理言ってお休み貰って良かったわぁ〜ン♩」


 その性癖の守備範囲はいったいどこまで及ぶのか?なお馴染みフシダラ編集長こと桜ふぶき。てかアンタもまだまだ若いっしょ?

 ちなみに水着はグラマラス美女には定番で納得の黒ビキニでピッタリバッチリマッチング♩


「いや〜先生、ご無沙汰してます。またお会いできて…あまつさえ、そんな素敵なお姿を拝見できて光栄至極ですよ♩」


 そしてこれは予想外? いやむしろ当然の顔見せか?な真木名まきなれいじ博士も御参加。ゴタンマに再就職したらしいって聞いてたから、いずれまた会うとは思ってたけど。

 野朗の水着なんざ紹介してもクソ面白くもないから、言われたていちに目を向ければ…


「ううっ、博士も来るって聞いてれば、もっとシャレオツな水着を用意したのにーっ」


 と珍しく照れてる彼女は、これも教育者としては大正解なピチピチ競泳水着☆

 元々アスリートで引き締まった身体つきの割にお乳がたわわなていちには恐ろしくよく似合っている。解ってんぢゃ〜ん博士。アンタとは美味い酒が酌み交わせそうだ♩(←未成年)


「あゆかも久しぶり。元気にしてたか?」


「…誰だお前は? 馴れ馴れしい奴だな」


 ををぅ…あゆかが初期化されたら博士に関する記憶も失うってコトを失念してたのか?

 これはダメージでかいぞぉ〜?


「…博士、後で飲みましょー」


「だ、大丈夫です…けど、後でお部屋にお邪魔してもよろしいですか?」


「えっ…は、はいー…ドキドキ♩」


 この二人のお付き合いも順調なようだな。近いうちに吉報が聞けるやもしれん。

 そして最も番狂わせなのは…


「おおななお、久しぶり…でもないか。ワッハッハー!」

「ななみも少しは大きく…なる訳ない。しょんぼり。」「放っとけや!(←ななみ)」


 親父にお袋…今まで音沙汰なかったのが嘘みたく頻繁にエンカウントするよーになったな。

 てか旅先で親子再会ってどーなのよ?

 二人ともバカンスというよりは首領の護衛で同行したらしく、ライフガードみたいな目立つ色のシンプルな水着を着ている。


「…な、なぁななお。お前達のお袋さんって、ホントにお袋さんなのか?」


 はるきが興味津々にコッソリ訊いてきたが、そーいや面と向かってお袋から聞いたコトなかったな?

 見た感じ、ていちや編集長とどっこいどっこいなピチピチ具合で、息子の俺から見てもそそる身体付きだし…とても俺達を産んだよーな年齢には見えない。

 てか明らかに人種も違うし…もしかして、親父とは再婚?

 う〜ん…昔の記憶がない俺には判らんが、訊いてどーするって気も…


「セカンドハニー、おひさ♩」


「ははははいっ、ご無沙汰しとりましたっ!」


 セカンドハニー!? はるきは一度うちに遊びに来たことがあるから、お袋とは顔見知りだろうけど…明らかにタダならぬ関係な予感が…?


「いやぁ〜はるきクン、ななお達と…うちの嫁が大変お世話になっとるようだねぇ〜?」


 ベキバキボキキッ♩


「お、お父様…そんな物騒な指の鳴らし方しないで、まずは穏便に話し合いましょお〜?」


 …まあ、ここは当人同士にお任せしよう。くわばらくわばら。


「いや〜それにしてもイイトコだねぇ〜姉さん!?」

「うむっ! ウチは旅行自体ろくに出掛けたコトがないから、こーゆーバカンスバカンスしたのは初めてぢゃのぉ♩」


 唯一、周囲のしがらみとは無関係に南国気分を満喫してるのは、我が校の生徒会長・左右田みぎこと風紀委員長・左右田さじろうの双子コンビ。

 二人とも、襟元に着物っぽい意匠があしらわれたお揃いの水着姿。男女どちらでも着られるジェンダーレスデザインだけど、オーダーメイドだろうか?


「それもこれも七海センセ様々ぢゃのぉ。イベントに参加して良かったわい♩」

「うんうん、襲撃されてみるもんだねぇ♩」


 盛り上がってるトコ悪いけど、イベントで悪の組織に狙われることなんてフツー滅多にないからな?


「む?…はて、アレはなんぢゃ?」「こっちに近づいてくるみたいだね?」


 海原の遥か彼方を指差す双子につられて目をやれば…俺達が乗ってきたのと同型のVTOL大型輸送機がこちらに飛来してくる。他にもゲストがいるのか?


「…無事に来られたようですね。なにぶん多忙な方ですから…」


 ニャオスリーが珍しくホッと安堵した顔でそちらを眺めている…ということは彼女の関係者かな?

 そういう彼女の水着も個性的で面白い。セパレート型で、チャイナドレスのような意匠があしらわれている。

 チャイナ服自体がなかなかセクシーなこともあって、ミステリアスな印象の彼女には実にお似合いだ。


「…気になりますか? コレは私の父が学生時代、母のために見立てた水着と同じタイプでして…我が家の伝統衣装のようなモノです」


 いつになく饒舌なニャオスリーが、自ら水着を解説してくれた。てか伝統衣装て…。

 そしてそんな父親好みの水着をわざわざチョイスするなんて…もしかしてファザコン?

 とか思ってるうちに輸送機は俺達がいる海岸のそばにわざわざ降り立ち、


「…元気にしてたか、海猫ハイマオ?」


 搭乗口から陽気に手を振り、彼女を本名で呼ぶその人は…!?


「はい。お父様もお変わりなく♩」


 ニャオスリーが無邪気に微笑みながら抱きついたのは…日本でいちばんエライ人。

 現役総理大臣・波音はのんリョータ閣下御本人だった!!

 …って…『お父様』!?





「嘘っ…ホンモノ!?」「マヂか…!?」「首相がゴタンマのスポンサーなことは知っていたけど…これはまた…!」


 俺達はおろか、ゴタンマ側の編集長や博士までもがプチパニックになってる。どうやら首相が此処に来ることは一部の関係者以外にはサプライズだったらしい。


「あ〜皆さん初めまして。そんな恐縮しなくていいっスよ。今日は完全にプライベートだから、無礼講ってことで♩」


 気さくに挨拶を交わす首相は、予想以上にフレンドリーな印象だった。

 いや、そんなことよか…なんで!?


「ニャオスリーの父親は総理なんですよ。ちなみにゴタンマのメインスポンサーも務められておりまして…」


 と、金ちゃんがあっさりすぎるご説明。

 さっき本人も「お父様」言うてたけど、いまだに信じられない。

 てことは…政界と裏社会はやはりズブズブの関係だったってオチで…。

 うわー、薄々解っちゃいたけど、こうも露骨だとやっぱ引くわー。


「…お前ら『守秘義務』の件、忘れてないにゃ?」


 睨みを効かせるシロちゃんに、俺らは全員ウンウン頷くしかない。万一忘れた日には生命の保障は無いって契約にあったしな…怖っ。

 それでもなお信じ難い顔を並べていた俺達を有無を言わさず納得させる人物が、総理に続いて輸送機から降りてきた。


「アレ…首相夫人よね?」「ああ、ニュースで見たことある…」「親子でバカンス…優雅だな」


 ギャラリーからヒソヒソ声が洩れる。

 福海鳥フーハイニャオ…波音総理の第一夫人にして、今や世界に冠たる台湾発祥の一大企業・福音グループ元CEOだ。

 第一というからには当然、以下第二夫人から第五夫人あたりまでズラリと続く。

 そう、長らく重婚が禁止されていた我が国の法律を変えてまで、首相は一夫多妻制を実現させたんだ。

 もちろん誰でもOKという訳じゃなく、一定以上の収入や社会的ステータスを有し、その存在が恒久的に世界レベルでの影響を及ぼす人物…など、非常に厳しい審査基準が課せられてはいるが。

 閑話休題。その第一夫人だが…これがまた、見れば見るほど娘のニャオスリーに生き写し!

 年齢的な差異こそあるものの、もはやクローンではないかと疑うほどの…


「…スルドイですね。さすがです♩

 あの人は別名『ニャオツー』。

 うちのメインフレーム…中枢コンピュータの先代管理者でした。

 その仕事を引き継いだのが娘さんのニャオスリーです」


 金ちゃんが今度は幾分詳しく説明してくれた。…って世襲制管理者!?


「メインフレームのユーザー認証はかなり厳しくて、実質的に同一人物でなければ認められないそうで…」


 そこで、ニャオスリーは誕生前後から遺伝子改造を受け、成長するにつれてさらにオリジナルに近づけるべく定期的に遺伝子編集が行われているんだとか。


「つまり、彼女達は事実上のクローン…というよりも、ほとんどオリジナルそのものなんです」


 という話を聞きながら、改めて彼女達を交互に凝視すれば…なるほど、信じるしかないなこりゃ。

 いやはや、あまりにも荒唐無稽すぎて頭がついていかないけど…ゴタンマには、それを実現できるだけの技術力があるってことか。

 そうして生み出されたニャオシリーズは、ゴタンマ史上最強の能力保持者なんだとか。実際、俺達の目の前でテレポートとかも軽々やってのけてたしな。


 だが、その能力はニャオシリーズ自身のものではなく、メインフレームの脅威的な演算能力を借りて実現している。逆に言えば、メインフレームが無ければ普通の少女と変わらない。

 そしてソレがあるゴタンマの本拠地から離れるにつれて、両者間の通信ノイズが増大するため精度がガタ落ちし、使用不能に陥る。

 この島が本拠地からどれだけ離れてるのかは知る由もないが、現在はオフライン状態ってことか。

 それ以前に、一度にテレポート可能な人数には上限があるため、これだけ大勢の人員を運ぶことは土台不可能。なので此処までの移動には輸送機を使った訳か。

 いつも無表情で何を考えてるのかいまいち判りづらい子だけど…あれだけ父親に甘えてるってことは、内心かなり心細かったのかもしれないな…。


「いえ…あれはどうもそれだけじゃないみたいですけど」


「…ってゆーと?」


「母親とほぼ同一人物ってことは、恋愛対象も…ね?」


 金ちゃんの言葉にハッとして、再びそちらに目を向ければ…ちょうど首相夫人が、自分に瓜二つの娘に話しかけたところだった。


「…変わりないようね、マオ。会いたかったわ」


「そうですか…私は別に。」


「…相変わらずね。ともかく、そろそろ彼を放してくれる?」


「イヤです。貴女はいつもお父様にベッタリじゃないですか。今からは私が独占します」


「アナタのために言ってるのよ? 節操無しな彼のことだから、実の娘に欲情しないとも…」


 嗚呼なんたる塩対応!?

 そして会話がイチイチ実の母娘とは思えないほどキンッキンに冷えきってるぅ〜ッ!!


「ぅおいっ!? いくら僕でも肉親にそんな感情は…肉親…肉の親…ハァハァ♩」


 そしてこの首相、素でヤベェよ!?

 なるほど、同一人物が想い人を間に挟むと、これほどまでに恐ろしいことになるのか…。


「こらこらアンタら、人前でも容赦ないわね〜?」


 呆れ顔で話しかけたのは、第五夫人の波音ユウヒ…だっけな?

 結婚はいちばん遅かったけど、首相は一時期彼女の自宅で同棲状態にあった等、関係性はいちばん深いと噂されてる黒髪美人だ。

 その頭髪は、生え際が鮮やかなプラチナブロンドで、伸びるにつれて黒く染まる…という、通常の毛染めとは真逆な色合いのため、地毛だろうと言われている。なんとも神秘的なルックスだ。

 その他、元有名水泳選手の第二夫人や、敏腕弁護士の第三夫人、諜報機関所属という噂の第四夫人などが続々集まってきて、この上なく華やかにして賑やかな有様に。

 いいな〜アレ…♩


「…ななおさんってホント、ご自分の境遇には無自覚なんですね…」


 ??? 金ちゃんが急にご機嫌ナナメに。なぜ?


「でも…そんなトップシークレット、部外者の俺に打ち明けちゃっていいの?」


「そうですね、他の人なら処分対象ですけど」


 だから怖ぇーってばよ!?


「アナタは特別です。

 …いずれ戻ってくる身ですし」


 え? それってどういう意味…と金ちゃんを問い詰めようとしたところで、


「あっ…嘘っ!? アレって…『美岬みさきアサヒ』じゃない!?

 隣にいるのは『或角あるかどリヒト』だし!!」


 突然さよりが興奮気味に叫んだ。

 言われてみれば、入り乱れる夫人軍団に混じって、一際華やかな芸能人オーラを撒き散らす若手カップルが一組。

 前者はなんと!小学生でデビューした天才人気小説家で、波音総理の実の妹。年齢は総理より四歳年下らしいけど、いまだに少女で通りそうなほど若々しい清純派美人だ。

 子供時代には耳に重度の障害があったけど、不思議と次第に聴力が回復して、現在では遜色なく会話できるようになったという奇跡の人でもある。

 後者は若手歌舞伎役者にして超絶人気俳優の超イケメン。アサヒより年下だけど、高身長でニヒルな顔立ちはそれを感じさせない。

 かつては大物悪徳政治家・鈴盛土すずもんどジモンの御曹司として育てられたが、とある事件で父親が逮捕されたと同時に、人気歌舞伎俳優の或角レオンが実の父親として名乗りをあげ、その後の人生が激変したこれまた奇跡の人だ。

 この奇跡的カップルは、交際こそ小学生時代から続いていたそうだけど、お互い多忙だったため、つい最近やっと籍を入れたことで大きな話題を呼んだ。

 意外とミーハーなさよりは、こーゆーのにホント目ざといよな。

 とはいえこの二人は理想的な美男美女カップルとしてマスコミにも幾度となく取り上げられたから、さよりほどテレビにかじりついてない俺でもこれだけ詳しい。


「わ、私ちょっとサイン貰ってこよっかな♩」


 浮き足立つさよりだったが、わざわざそうするまでもなく向こうの集団の方からこちらに近づいてきた。


「いやぁ〜やまぶきちゃん、相変わらず可愛らしいね〜♩」


「あははぁ…ご無沙汰してます」


 フレンドリーっちうかナンパ丸出しな挨拶を交わした首相の耳たぶをギュルリンっとつねって、第五夫人がヘソを曲げた顔で、


「アンタの節操無しも大概だと思ってたけど、いよいよこんな小さい子にまで…!?」


「痛だだだっ!? お、落ち着けユウヒ!

 …この子が首領だよ」


「へっ!?」


 他の夫人達も一様に驚愕。だよね〜、俺達も先日まるで同じ反応だったよ。

 そんな中、


「いやいやみんな驚きすぎっしょ。この子が首領継いだのはもう何年も前だよ?」


 諜報部員の第四夫人・波音シノブだけは事前に知っていたのか涼しい顔をしている。さすが。


「何年も前って…この子、いったい幾つなの?」


「さあな。少なくとも僕よりは年上だろうけど」


 …………え゛?





 てな訳で挨拶もそこそこに、総理側メンバーも早速水着に着替えてきての海浜レジャー大会と相成った。

 最初は皆、金ちゃんの見た目と実年齢との違和感に戸惑いまくりだったけど…かくいう俺も今だにショックが抜けきらないけど…

 総理の妹のアサヒさんが無類の子供好きで、そんなコトはお構いなしに金ちゃんやななみにちやほやするのを見て、皆も次第に打ち解けていった。

 同じく猫可愛がりされたシロちゃんはかな〜り迷惑そうだったけど。

 お陰でさよりもお目当てのお二人からスムーズにサインを貰えてホクホクだった。

 せっかくだから俺も総理のサインを貰って学校で自慢しよっかな〜?とか思ってたら、


「…この島で消息不明になりたくなきゃ〜やめとくことだにゃ」


 とシロちゃんに脅されて渋々諦めた。怖っ。


「ハァーイみんな、お昼ご飯ですよ〜♩」


 第五夫人のユウヒさんが、この短時間で瞬く間に豪華な手料理とバーベキューの準備を整えてくれた。

 なんでも学生時代には本気で料理人を目指してて、現在でも料理研究家としてベストセラーを連発してるそうな。

 加えて宿泊施設の料理人が提供した食事も運ばれてきて、スーパースペシャルウルトラデラックスゴージャスな昼食会となった。

 いやはや、初日から贅沢すぎないかいこりゃ?


「けど…な〜んか忘れてない?」「…だな。」

「うんうん、こーゆーときにいちばん大はしゃぎしてそーな奴の姿が見当たらないだけで、こんなに平和なんだね〜♩」


 などとさよりやあゆか、ななみが囁き合ってるのを見て、俺はようやく足りないひとかけらに気づいた。


「…へぼみは?」「チッ、余計なコトに気づいちゃったか」


 先に気づいてたんなら早よ言えや!


「そーいえば、冒頭でシロちゃんに海に放り込まれたっきりですよね…?」


 金ちゃんがそう言うなり、皆の顔色が海よりも青く染まった。


「大丈夫にゃ。アイツの防水機構はそんじょそこらの潜水艦よりも頑丈に出来てるのにゃ♩」


 と当のシロちゃんが応えたから一旦は安心したものの、


「でも…防水機構と潜航能力って、全然別物だけど…」


 という金ちゃんの一言で、再びマリアナ海溝のズンドコに叩き落とされる。

 しかし誰一人として彼女の身を案じている訳ではない。ま、へぼみだしな。


「…サルベージ部隊に救助を要請します」


 金ちゃんがゲンナリした感じで専用ケータイを取り出した。電話が通じないこの島でも普通に連絡が取れる神ガジェットだ。

 すなわち…アレの引き揚げには恐ろしく手間暇かかるから、そっちの方が心配な訳だ。

 ぅわ〜メンドくさっ。


 …へぼみには発信機が取り付けられていたらしく、GPSが効かない周辺でも居場所はすぐに割り出せた。

 しかしそこは、落下地点から沖合になんと十キロ近くも進んだ海域だった。

 へぼみの身体は金属フレームが中核でクソ重たいから潮に流されるはずもなく、自らそこまで移動したらしい。

 幸い周辺は遠浅の珊瑚礁だから、水深は二十メートルもない。…万一、海溝にでも落ち込んでいたら、即時引き揚げは不可能だった。

 潜水夫が調査にあたったところ、その海底で海藻に絡め取られて身動きがとれなくなっていたへぼみを無事に発見した。


「ごぽぽぽっ…ぷはぁ〜っ。なんだかクレーンゲームの景品になった気分ですねぇ〜♩」


 サルベージ船のウインチに巻き上げられて浮上してきたへぼみの呑気な姿に、その様子を見守っていた俺達のこめかみにビキィッと青筋が立った。


「…無様だな。」


 ジト目で睨むあゆかが放った一言に、満場一致でウンウン頷き返す。


「あやや〜…ご心配お掛けしちゃったみたいですねぇ〜?」


 やがて甲板に降ろされたへぼみは、皆に文字通りゴミのような視線を手向けられて意気消沈していた。

 着用していたアブナイ水着には大量の海藻が絡み付いて上手い塩梅に隠れてたから、目のやり場に困ることもなかったし。


「…何だってこんなトコまで泳いで来てたんだ、お前は?」


「え〜っとぉ…あたしは泳げないんでぇ、ここまで歩いてきたんですけどぉ〜?」


「方法の問題じゃねーんだよっ!?」


「まあまあマスター、まずは落ち着いて〜」


「オメーが落ち着かせねんだろがいっ!?」


 …しばらくお待ちください…。


「しゅみましぇ〜んっ。初めて見た海の中が、とぉーっても綺麗だったものでぇ…

 お魚サンを追いかけてたら、いつの間にかこんな場所まで来ちゃってましてぇ〜…ぐっすし」


 散々怒られて、やっと申し訳なさそうに涙をちょちょ切らせたへぼみのそんな純朴な言い訳を聞いてしまったら、これ以上追及できそうにもなかった。

 そうだよな…コイツはまだ、生まれたばかりの赤ん坊みたいなもので…見るものすべてが本当に新鮮なだけなんだろうな…。


「ハァ…わーったよ。今回は仕方ねぇ。

 けどな…これからは俺が、こんなモン目じゃないほど綺麗で素敵なモノをいくらでも見せてやるから…もう、心配かけさせんじゃねーぞ?」


 言っててどんどん照れ臭くなってきてシマッタと後悔したが、


「…マスター…☆」


 まだ真昼間だっちうに、真夏の星空のようにキラキラした瞳で俺を見つめ返すへぼみには効果テキメンだったようだ。


「…なに今の?」「最高の殺し文句ぢゃん。」「へぼみちゃん、ズルい…っ!」


 何故だか女性陣の羨望の眼差しを一身に受けて、どうにもいたたまれない気分のワタクシ。

 だがしかし、そこに話しかけてきたのは意外な人物だった。


「へぇ…なかなかヤルね。キミがななおクンか…そうかそうか♩」


 なんと、波音総理が興味津々な目を俺に向けてきたのだ。しかも何だかエラく含みを持たせた感じだし…。

 いやいやアンタのお眼鏡に適うほどの野郎じゃないっスよ。こちとら一介のチンケな男子高校生に過ぎやせんぜ?

 むぅ…何をどう考えても、彼とは何の接点も無いと思うんだが…どぼぢて?


「こいつは将来が楽しみだね…金ちゃん?」


「そですね…ぷくぅ〜っ」


 しかも何でか金ちゃんに同意を求めてるし。

 その首領サマは、なんでかフグみたいな膨れっ面で俺を睨んでるし…だからどゆことよ?

 ん〜…こりゃやっぱ、後で直に彼女を小一時間問い詰めるしかなさそうだな。


 …夏の日暮れは早く、サルベージ船が島に着く頃にはだいぶん影が長い時刻になっていた。

 一悶着あったせいで海水浴に充てる時間は減ってしまったけど、代わりに珊瑚礁クルーズを存分に味わえたから、これはこれで。

 まだまだ時間はたっぷりあるし、初日としては上出来なんでないかい?





 宿泊施設に帰ってからも、首相側と俺達を含むゴタンマ側との交流は続いた。

 へぼみというチビっ子がまた一人増えたことで、アサヒさんの猫可愛がり度もMAXに。


「へぼみちゃん、飴チャン食べる〜?」


「食べます食べますぅ〜。ア〜ン♩」


 …海遊館でイルカに餌付けしてる大阪のオカンみたいだな。

 さすがの腹黒HWMもここまで厚遇されたらデレデレに甘えさくってるし、アサヒさんも無邪気に応じてくれるへぼみが大のお気に入りみたいだ。


「へぼみちゃんってカワイイ名前だね〜。名付けた人、天才かも〜♩」


「ありがとサンですぅ〜。マスターも大喜びですね〜♩」


 センスもすごい独特な人だけど…俺も褒められて喜んでますぅ〜♩


「なんつーか…すんごいズーズーしいHWMだな?」


「リヒトくんも後でイイコイイコしてあげるから〜♩」


「…忘れんなよ?」


 旦那さんのリヒトくんも思わず嫉妬するほど仲睦まじい。

 けど、そんなアンタ達の初々しすぎなバカップルぶりもじゅーぶんキテると思うぞ?

 これで自分達にも子供がデキたらどーなっちまうんだこの人達?


「う〜ん、そー思って毎晩ガンバッてるんだけど、なかなか…ねー?」


「『ねー?』ぢゃねーよ。余計なこと言うなし!…でも今夜もガンバル☆」


 う〜んパカッポー♩


 他にも目を配れば…

 ユウヒさんとさよりが料理討論してたり…

 第二夫人のマヒルさんとていちがアスリート談義で盛り上がってたり…

 第三夫人のヒマワリさんとあゆかが、如何にして男をその気にさせるかという変態的な話題に興じてたり…

 第四夫人のシノブさんとニャオスリーが、セキュリティーについて話し込んでたり…。

 冷静に考えたら本当にスゴイことだよな。こんなやんごとなき人々の、ここまで明け透けなプライベートを間近で堪能できるだなんてさ。

 これだけの贅沢時間はたぶん金輪際ないだろう。


 おや? それ以外にも…

 集団の片隅では、波音総理と真木名博士が何やら小難しい話題で意気投合してる。

 超インテリの総理は大概の物事に精通してるから、博士も専門的な談義を心行くまで楽しめてご満悦だ。

 でも時折りさよりやへぼみのHWM方面に目を配ってるあたり、やっぱり気になってしまうんだろうか?

 …なんでかシロちゃんにも視線を送ってるけど、何故? よもやていちが洩らしてるように、本当にロ◯コン…?


 なんだか怖くなってきたから、もっと他に目を向ければ…ぅえ!?

 はるきがお袋にとっ捕まって、それを親父が面白くなさそうに見守ってるぞ?

 ずいぶん親しげな様子だけど…いつの間に? アイツらに接点なんてほとんど無いはずだろ?

 でもはるきの奴は、あれでけっこー年上にモテるらしいし…ををぅ、さらに怖い想像に至ってしまう。くれぐれも家庭不和には発展しないでくれよ?


「…んで七海センセ、デビューする気になってくれたン?」


 をっ? こっちでは編集長がななみをキャッチしてるぞ。

 するとななみは浮かない顔で、


「ん〜、ぶっちゃけ最初からそのつもりではいるんですけどね…。

 でも、そしたら一般向けに描かなきゃいけないじゃないですか?」


「んにゃ別に必ずそうと決まった訳じゃないし、お色気路線でも充分アリよン。

 その手のシーンには本誌では修正掛けといて、単行本ではしれっと外しとけばイイだけだし〜ン♩」


 はいアウトぉーっ!! ちょっとやそっとの修正ではどうにもならんでしょ、ありゃ?

 あんまし甘やかさない方がいいですよ。ななみが本当にエロしか描けなくなったら困るし。


 そもそも成人向けを描かせたのは手っ取り早く売り出すためってのは何度も説明したけど、俺的にはそれほどドギツいモノは正直期待してなかった。ななみは女の子だし、最初はメチャ恥ずかしがってたし。

 ところが描いてるうちにすっかりハマっちまったようで、予想以上にドエロいモノに仕上がってしまったときには内心かなり焦った。

 いま思えば、その時点で一旦ストップをかけておくべきだったかもしれない。

 最初から飛ばし過ぎると、ファンは次回作にもその水準を求めてしまうから、よりエスカレートしていくしかなくなる。

 すると後で他のジャンルを描きたくなっても、ファンも作家自身もエロ抜きではどうにも物足りなくなっちまうんだ。

 エロゲメーカーがこさえた一般ゲーが淡白すぎてつまんねーのと一緒だな。


「でもでも、やっぱり一度はマトモなモノも描いとこっかな〜って、色々試してみてるんですけど…な〜んかイマイチなんですよね〜」


 うーむ、早速その兆候が出てるか…マズイなこりゃ。

 俺がそう思いつつ彼女達のやり取りを眺めていたことに編集長も気づいたようで、軽く頷き返すと、


「まあ今すぐデビューって急がせてる訳でもないから、とにかく試行錯誤してみることねン。

 何かあれば相談に乗るから、気軽に連絡してねン♩」


 ななみにはそう言い置いて、ついでに連絡先を交換しながら、


《あまり根を詰めさせても逆効果だから、せめてこの旅行中は筆を休ませといてねン》


 とゆーチャットメッセージを俺宛てに送信してくるという器用な真似をやってのけた。


〈了解っス。俺も注意して様子を見ときますよ〉


 と返信して、何事もない素ぶりを装ってその場を離れた。

 口から出まかせじゃなく、実際に気をつけないとな。


 なんてゆーか、ななみはマジメ過ぎってゆーか…イマイチ漫画を楽しんで描いてる気がしないんだよな〜昔っから。作品そのものは問答無用で面白いんだけどな。

 それでも一番初めに描いてみせた、あのノートの落書き漫画には、未熟ながらも意欲的な仕掛けがてんこ盛りで脱帽モノだったんだが…

 何をどう描けば売れるのかがある程度判ってしまった今では、ひたすらソレを繰り返すだけの単純作業になりつつあるコトにも危機感を覚える。


 現状、売れ行きは確かに良好だけど…露骨にソレばかりになってしまうと、かつての某ゲームメーカーみたく粗製濫造が目に余ってユーザー離れを招くことになりかねないし。

 あまりにも売れ筋を意識させ過ぎたことも原因かもな。たまには流行から離れて、もう少しななみの自由にやらせた方がいいかもしれん。

 幸いこれまでの儲けはたんまりプールされてるから、多少の失敗なら穴埋めできるし。

 こないだあゆかにも、失敗してもいいから思う存分やってみろって言ったばかりだしな。


 そうこうしてる内に夕食の時間に。

 これまた昼食に負けず劣らずの豪華ディナーになった。

 昼間は海中にいたため食いっぱぐれてしまったへぼみは、腹いせとばかりにあらゆる料理を片っ端から口に流し込んでいた。

 飼い主としてはお恥ずかしい限りだが、開発元の金ちゃんも真っ赤な顔で恥辱に耐えていた。

 しかしいくら恥じたところで、コレは今さら誰にもどうにも出来ないんだから諦めよう。

 だがそれ以上に驚いたのが…アサヒさんの見た目からは予想もつかない食べっぷりだ。

 とりわけデザートにリクエストした、フルーツとハチミツと生クリームに埋もれた特盛りパンケーキを、一人で何皿もあっという間に平らげていく様子は、見てるだけで胸焼けを催すほど凄まじかった。


「この子は昔っからこうなんだよな…」


 と総理達も呆れ顔。

 これほどの飲食物が、全体的には小柄で細い彼女の身体のどこに収まってるんだろうか?

 …やはり、アンバランスなほどたわわなお乳に…?


「リヒトくんが喜んでいっぱい触ってくれるから、もっともっと大っきくしとかないとネ♩」


 …のろけっぷりはさらに凄まじかった。

 いくら揉まれても減りはしませんから。逆はあるかもしんないけど♩


「…本当にあるかもしれませんね♩」


 ぅわっ!? ビックリした…金ちゃんか。

 なんか、この子…いや、この人にはチョイチョイ心を読まれてる気が…?


「…この子、で結構ですよ」


 しれっと応えて、彼女はクスッと微笑んでみせた。

 …マヂ?





 夕食後は自由時間。

 とりあえずひとっ風呂浴びるかと大浴場に向かったら、先に波音総理が脱衣場にいた。


「いよっ、少年。一緒にどうだい?」


 メチャクチャ恐縮だけど、別段断る理由もないし…せっかくだからと一緒に入浴することに。

 風呂場も案の定ブルジョワの極みな造りだった。露天風呂にもそのまま出られるようになっていたから、二人揃ってそちらの方へ。

 他の人はまだ来ていないらしく、これだけ贅沢な風呂時間をたった二人でのんびり過ごすことに。


「というか…今さらだけど、キミは相手が僕でも遠慮しないんだね?」


「初対面で散々ビビらされましたから、それこそ今さらですかね。

 それに、相手が首相閣下だからって遠慮する方が失礼じゃないスか?」


「ハッハハ! いや大したもんだよ。

 さすがは…」


 と言いかけて、総理はそこで首を横に振った。…何を言おうとしたんだ?


「あーいや、大物の風格だなぁと思っただけさ。…実際『大モノ』だしね♩」


 正真正銘の大物に下ネタでからかわれる方が大モノ…いやオオゴトだと思うが。


「にしても、ゴタンマのスポンサーが国の首脳だなんて…ベタすぎて笑うに笑えませんよ。

 俺はいまだによく知らないんですけど…何なんスか、この組織って?」


「『悪の秘密結社』。」


 そう答えてほくそ笑む総理。まんまやんけ。

 アンタが言うとホントに洒落にならないほど悪そうだけど…だからソレって結局何なん?


「そもそも『悪』って言葉には、文字通り悪逆非道ってな意味の他に、『社会通念上おおよそ理解されない物事』って意味もある。

 ゴタンマの場合は後者の意味合いが強いね」


 非合法的…ってことか。


「そもそもの前身が江戸末期、黒船の来訪で国家存亡の危機に陥った幕府が後ろ盾となって創立した、諜報工作機関だからね」


 なるほどね。冷戦時代に発足したCIAやKGB、モサドみたいなもんか。

 一見、政府とは無関係な体を装うために結社化されてるけど、実質ズブズブだしな。

 それに…へぼみの製造一つとっても生体パーツや兵器開発等、なかなかにキナ臭い分野にまで踏み込んでる。

 そうした表沙汰にするのが現状困難な研究開発を行うための組織だって、副首領のジロさんも最初に言ってたしな。


「僕以前の首相経験者には、ゴタンマの存在すら知らない輩も大勢いたようだけど…

 僕は必要に迫られてしまったからね。そもそも、コレが総理を目指した理由でもあるし」


 そこまでして今すぐ取り掛からねばならない事態って、いったい…?


「『世界滅亡の危機』…さ。」


 …………ほぇぁへ。


「えっと…いきなりスケールでかすぎってゆーか…荒唐無稽すぎってゆーか…?」


「だよね〜♩」


 戸惑いを隠せない俺に、総理はケタケタ笑ってから…穏やかながらもいたって真面目な顔つきになって、


「ここから先の話は、あくまでも僕の個人的な意見なんだけどね」


 と前置きしてから、いきなり思いもよらないことを言い出した。


「実は…この世界は『仮想現実』なんだ。」


 うーわー、せっかく風呂に入ってるのに寒気が止まらねー!


 彼が言うには、この世は誰かが創造した仮想空間で、俺達は皆その中で機能しているオブジェクトルーチンなんだとか。

 まんま映画『マト◯ックス』みたいだけど、大きく違うのは、本当の僕らはカプセル内で眠っていたりはせず、まったく実体がないプログラムコードに過ぎないってことだな。

 かつて遺伝子配列を研究していた或る人が、あらゆる動植物には『通し番号』が割り振られていることに気づき、その事実を突き止めた。

 その際の遺伝子解析用に開発したAIが、現在のニャオシリーズの元祖で…


「ふときたきっかけで『彼女』と知り合った僕は、当時交際していた後の妻…海鳥ハイニャオと融合させ、名前と身体を与えた。それが…」


「ニャオツー…今のニャオスリーの先代ですね?」


 ご名答…と総理は笑った。

 実の娘の脳髄を有機量子コンピューターに入れ替えた彼のことを、なんて親だと憤ったこともあったけど…そんな経緯があった訳か。

 つまり…それだけ彼女を信頼してるんだ。

 荒唐無稽に思えた話も、そうした実例を挙げられてしまえば納得せざるを得ない。


「通し番号というからには桁数があり、すなわち上限がある。

 そして…この世界の生命体数は、既にその上限に達していたんだ。」


 限られた数の中で、常にどれかが死に絶え、また新たに生まれ変わる…そうしてなんとかやりくりしてる状態らしい。

 人が増えれば自然が減るのも、そうしたバランス故だと。

 また近年、大昔ならとっくに世界滅亡レベルの大規模災害や大戦が立て続けに勃発してるのは、そうした循環システムが限界に近づいてるからだ…と総理は言う。


「この世界を創り上げた何者かが、その管理にそろそろ音を上げているのかもしれない。

 …あるいは滅亡させようとしてるのかもね」


 環境汚染や戦争は、人類の努力次第で回避できるかもしれない。

 だが、リソースの上限が打ち破れない以上、システムの崩壊はもはや時間の問題だろう。


「それを知ったなら、やるだけのことはやってみたいと思うじゃないか」


 だから彼は世界に抗うことを決めた。

 そのために、まずは国のトップに…


「あ、それは成り行き上だね。世界の破滅が間近に迫っても、いまだに足の引っ張り合いを続ける政治の世界なんかには元々興味なかったんだけどさ♩」


 ずるバシャンッ。盛大に湯船に突っ伏した僕に笑い転げてから、ヤンチャな総裁様は物思いにふけって、


「でもお陰で、当時僕に想いを寄せてくれていた彼女達を誰一人切り捨てることなく妻に迎えられたから結果オーライってことで。

 妹のアサヒだけは仕方なかったけとね」


 いやそれはそれでどーなんだろう?

 てか妹さんにまで粉かけてたんかい!?


「そーゆーキミだって、なかなか愉快なコトになってるじゃないか?

 僕の地位くらいにまで登り詰められれば同じ技が使えるから、まぁガンバッて♩」


「うぅ…そうは言っても俺、ごく普通の一介の高校生っスよ?」


「またまたぁ。内心そうは思ってないんだろ?

 キミ…現在の境遇には違和感しかないんじゃないかい?」


 …本当に怖いくらいスルドイ人だな。

 おモテになる訳だぜ。

 しかし総理はそれ以上この話題には切り込まず、急に話の矛先を変えた。


「…そうして首相になった僕は、やがてゴタンマの存在を知り、この話を持ちかけた。

 当時はまだ首領が代替わりしたばかりでね」


 自分達なりの組織作りを模索していた先代の首領と、現在も副首領を努めているその実弟はとても聡明で野心的な若者達で、総理の話にも大いに興味を示してくれたという。

 …この弟って、やっぱりジロさんなのか?

 兄貴がいたのか…。

 どういう経緯でまた世代交代したのかは知らないけど、普通なら次席の彼が首領に昇格するはずだよな?

 それがなんでまだ副首領のままで、あの金ちゃんを新たに首領に担ぎ上げたのか…?

 やたらと勘が鋭い子だと思ってたら、どうやら人の心が読めるらしいけど…それだけで首領なんて務まるものだろうか?


「で、最初は、リソースが限られてるなら、より人間以上に進化した存在を…いっそ人間の域を超越した『超人』を作ってみたらどうかと、早速やってもらったんだ。

 超人の研究は、僕がニャオツーに出会う以前から続けられていたしね」


 ところが…ある一線を踏み越えた途端、被験者は突然異形の怪物に変貌した挙句、地球から遠く離れた別惑星に瞬時に転送されてしまうことが判った。(第三話参照)

 この転送原理を応用したのがニャオスリーのテレポート能力だけど、それはまた別の機会に。

 何度試しても結果は同じで、最初は皆目理解不能な現象だったが…


「そのうちどうやら、世界のことわりを大きく逸脱したモノは、地球上に存在することが許されないんだって判ってきたんだ」


 だからって他の天体に強制転送して廃棄するなんて、ご都合処理にも程があるだろ。

 まあ管理者にとっちゃゲーム感覚なんだろうし、『神の領域』をみだりに踏み荒らそうとする者への警告なのかもしれないけどさ。


 …しかしここで問題なのは、異世界に飛ばされても彼らの『通し番号』は解除されなかったということだ。

 つまり、地球とは別の星で彼らが繁殖を繰り返せば、そのぶん地球側のリソースが目減りする。

 やがてその事実が明らかとなった遥か未来、彼らと人類との間に星の命運をかけた大戦争が勃発することになるんだが…それは別作品のお話となるので、そちらでお楽しみください♩


「なら、どうするか?

 ここで兄弟二人の意見が割れてね」


 兄の首領が主張したのは、人間の域を逸脱しない程度に、能力のより一層の強化を図ろうという案。

 …早い話が『超能力者』の開発だ。

 そして自らが最初の実験体となった結果『未来予測』という強力な能力を手に入れた。

 他にも数多の被験者に同様な処置が施され…現首領の金ちゃんの『精神操作』もここで育まれた。

 …なるほど、彼女は心が読めるだけじゃなく、相手の精神を意のままに操れるのか。どうして首領の座に収まれたのかがようやく理解できた。


 一方、弟の副首領はそもそも人間を用いるのではなく、生物学や機械工学を総動員して新たな人工生命体を創生しようという、兄とはまったく異なるアプローチを主張。

 …その成果はへぼみを見れば一目瞭然だろう。

 当時すでに盛んな研究が行われていた『HWM』技術のさらなる応用・発展だ。

 これなら生命体の遺伝子とは無関係だから、リソースの限界に煩わされることもない。


"だが、それでは我々人類の尊厳はどうなる?"

"いや、人類が全ての頂点に君臨するという傲りこそが問題だ。世界存続のためなら二番手以下でも構わないだろう?"

"その謙遜は度が過ぎている。将来的に人類は新興勢力に自らの足下をすくわれかねない"

"それを言うなら『超能力者』だって無能力者を見下さんとも限らんだろう…兄上のように"


「兄弟は互いに一歩も譲らず…結局、最後まであのままだったのが残念だな」


「最後…っていうと、何かあったんですか?」


 遠い目で昔語りをしていた総理はそこでハッと我に返って、


「少し喋り過ぎたらしい。これ以上は守秘義務ってやつかな?」


 …言葉を濁した時点で、何があったか薄々見当はついたけどな。

 『未来予測』なんて御大層な能力を持ちながらも…恐らくは自分の身に降りかかる災難が見えていながらも、前首領がむざむざその座を開け渡さざるを得なかった理由。

 その後に副首領ではなく、金ちゃんが首領を継いだ理由。

 その彼女をニャオスリーが全面的にバックアップしている理由。

 そんな彼女ら超能力者に比較して、へぼみらHWMの立場が弱めてある理由。

 …前首領亡き今も、ゴタンマ内部では彼の支持者が圧倒的多数ということか。


「とまあ、そんなこんなで現在に至ってる訳さ。

 …どうやら現首領サマは、世界の将来よりもずっと大切なコトで頭がいっぱいらしいから、僕もひとまず様子見のつもりでいるけどね」


 苦言を呈しつつも愉快そうに笑う総理を見るに、金ちゃんとの関係はまずまず良好らしくてホッとした。

 それにしても…本当にスゴイ人だ。

 彼は、小手先のことにばかりとらわれがちな俺達とは違って、遥か遠い未来の、さらにその先を見据えている。

 俺達が、本当はこの世のどこにも実在しない…そんな絶望的な事実を知ってなお、俺達の未来のために抗い続ける道を選んだ。

 かように壮絶な覚悟を決めたこの人に比べたら、俺なんて…。


「…なんで俺なんかに、そんな話を?」


「愚問だね。キミには知っておいて貰っても損はない…と踏んだからさ。

 …いずれ近いうちに、僕らの側に来るだろうしね」


 …まただ。さっき金ちゃんもそんなコトを言ってたけど…いったい俺が何だってんだ?

 どうして皆、俺にそこまで期待するんだ?


 俺は只の高校生……じゃ、ないのか?





 話し込んでるうちにすっかり長風呂になってしまったから、のぼせる前に先に上がらせてもらって総理と別れた。

 ものすごく興味深い話ではあったし、もっと聞いてみたい気もしたけど…これ以上聞き続けたら後戻りできなくなりそうで怖かったし。

 けど、こんな奇跡的な機会はそうそう無かっただろうし、惜しいことをしたかな…。


 さて、この後はどーしょっかな〜?とか考えながら、とある部屋の前を通りかかった途端、


「…だから、なんでこんなに高つくんだって訊いてるにゃッ!?」


 廊下にまで届く激しい剣幕に驚いて、恐る恐る部屋のドア越しに耳を澄ませば…


「場所の特定はこっちで済ませたし、お前らのやったコトはそこまで船出してあのバカにワイヤー掴ませて引っ張り上げただけだにゃ!?

 そこいらの漁船にも出来ることに、なんでこんなに経費がかさむにゃっ!?」


 …どうやら昼間のへぼみのサルベージに掛かった費用交渉でモメているらしい。

 部屋にいるのは…特徴的な語尾から考えるまでもないな。

 へぼみはゴタンマの製品だし、海に突き落としたのは他ならぬこの子だから、自業自得だろうけど…一応の飼い主は俺だしな。

 先日のイベントの件もうやむやになったままだし…仕方ない、一言ぐらい詫び入れとくか。


「…誰だにゃ?」


 遠慮がちにノックすると、すぐに反応があった。


「俺ですけど…」


「おう、エロガキかにゃ。いま電話中だけど、とりあえず入るにゃ!」


 忙しそうなので気が咎めたが、断ったらそれはそれで怖そうなのでソロリソロリと入室。

 てか、俺の呼び方は『エロガキ』で定着しちゃってんのね?


「ハァ?…休日出勤だから!?

 秘密結社に休みも祭りも無いにゃっ!!

 キサマらボクをナメちょんのかにゃッ!?」


 …室内ではベッドの上に寝っ転がったシロちゃんが、ケータイ相手に怒鳴り散らしていた。

 終わるまでボーっと突っ立ってるのも何なので、ベッド脇のソファーに腰掛けて待つことにする。

 それにしても…なんとも刺激的な格好だなぁ。下着みたいなキャミソールに、下着みたいなショートパンツ…と思ったらどうやら本当に下着だった。

 電話に夢中で、俺が彼女の幼い肢体を舐め回すように凝視していることに気づかないようだ。

 金ちゃん同様に幼い…いや金ちゃんが幼いのは身体だけだっけ?

 まあいいや、たぶんシロちゃんの方は言動からして見た目通りの年齢だろうし。

 ともかく、この幼い身体のどこから、あんなにパワフリャな攻撃が繰り出されるんだろうか…?


「物理的に首チョンパになりたくなきゃ通常料金で済ますにゃ! ホントはタダにしてやりたいところだけど、払うモンは払うってんだからそれでいいにゃ?…文句を言う奴は死刑にゃ♩」


 ちょお〜パワハラなキライはあるけど。

 単なる脅しじゃなくて本気だよな、今の?

 などと俺が冷や汗かいてるうちに通話を終えたシロちゃんは、ケータイを枕元に放り投げてベッドに大の字に寝っ転がった。


「ったく、どいつもこいつもアホばっかりにゃ…」


「…お、お疲れ様」


「ん? おぉ…ぉ?…ぉわああああっ!?

 何で貴様がここにいるにゃっ!?」


 今さら俺の存在に気づいて飛び起きる金ちゃん。いや自分で入ってこいって言ったんじゃん。やっぱりアンタが一番アホの子…


「言ったかもしんないけどイチイチ憶えてないにゃ! よって死刑にゃッ!!」


 理不尽極まりないことをほざきながら、ベッドの上でキシャーッ!と猫の威嚇ポーズをとるシロちゃん。

 あ、そのポーズはアカン! お嬢、それはあきまへんぇ!

 ただでさえ乳が無くて胸元ガラ空きなんだから、それやられちゃうと、そのぉ…


「お、おぱーい丸見え…♩」


「ふにゃあああ〜〜〜〜っ!?

 金ちゃんにも見せたコトなかったのにぃーッ!」


 俺の反応に慌てて胸を覆い隠したついでに、現在の格好のアラレもなさにようやく気づいたシロちゃんは、一気に真っ赤に茹で上がってベッドに潜り込んでしまった。

 これもうアホの子ナンバーワン決定で良くね?


「ぅぅぅ〜っ…責任取れにゃっ!!」


「と、取ってもいいけど…死刑にされちゃったら取るモノも取れないなぁ〜?」


「…わ、解ったにゃ。取り終えるまでは殺さないにゃ」


 てことは取り終わったら殺すんかい。


「ったく、カワイイ顔してなんて血生臭い…」


 ガタタッ!? 俺がそう言った途端にベッドが大きく揺れて、


「カ、カワイイ…? このボクが…可愛いって!?」


 突っつきまくったデンデン虫が恐る恐る殻から顔を覗かせるように、丸まった布団からひょっこり顔を出すシロちゃん。なんかカワイイ♩

 てか、いかに乱暴者な彼女とてやはり女の子ってことか。日頃の言動が災いして、あまり言われ慣れてないのかもしれない。

 フム…使えるな♩


「あーうん、これほどまでにカワイイ子はそうそういないと思うよ。

 ほら、へぼみをうちに送ってくる前のメール動画で、シロちゃんもんのっ凄くノリノリで踊ってたでしょ?

 アレでついうっかり送信ボタンを押しちゃったばっかりに、今こーなってるんだしネ」


「それは…ボクのせいだって言いたいにゃ?」


「んにゃんにゃ、むしろご褒美だよ♩

 あの時のコスチューム、まだ持ってる?」


「アレは…金ちゃんがどっからともなく用意してきて、おだてられるまんま着てみただけにゃ。

 あーゆーヒラヒラでフリフリなヤツは、本当はあんまり好きじゃないのにゃ…」


 だろうね。なんとなーくななみの趣味に近いのかなって思ってた。

 アレもシンプルでスポーティーな、動きやすい格好を好むし…事実、運動神経なら誰にも負けないし。

 漫画は割と体力勝負だから、滅多なことじゃ音を上げないほどの体力バカなのは正直ありがたい。


 ただ…ちょっと従順すぎるキライはあるかな。

 一見反抗的な態度をとっても、最後には俺の希望に沿うように努力し続けるし。

 …でも時々、運動部から助っ人を頼まれて大会に出場したときには、本当に活き活きした顔で場内を所狭しと走り回ってる。

 本当はそっちの方がやりたいんじゃないか?

 俺のせいで無理させてんじゃないかな…?

 と思うこともしばしばだ。

 まったくアイツは…なんであそこまで?





「…金ちゃんと仲いいんだね?」


 内心の不安を払拭するため、あえて話題を切り替える。

 どうせこの後、そっちの方も回ってみる予定だったから、ついでに情報収集しとこう。


「ん〜まあにゃ。…お前らのせいでここ最近はギスギスしてるけどにゃ」


 そして盛大に地雷を踏んじまった。

 その原因と思しき彼女達のやりとりを、俺は目の前で見ていたしな。


"お願いじゃなくて…命令だもんっ!"


 親しき仲にも礼儀ありとは言うけど…急に身分の違いを認識させられたときほどショックなことはない。

 俺だって、ただの幼い美少女に過ぎないと思ってた金ちゃんが実はゴタンマの首領サマで、しかも俺よりずっと年上だと知った日には…

 いやいやショックどころか、なんか無性に腹立つ!

 こんなの誰が予想できるってんだ!?

 ◯リ成人使ったAVじゃあるまいし、反則もいいところだろ!

 え、ンなモン国内じゃあり得ないって最初から判りきってるだろって? そこに浪漫を追求するのが男ってモンだろがいバーロー!


 ゼェハァ…フッ、つい熱くなっちまったぜ。

 金ちゃんについては後でたんまりお礼参りしてやるとして…

 さっきの海岸でのやり取りを見る限り、その金ちゃんの様子には以前とさほど変わったところは無く…

 壁を作ってるのは、むしろシロちゃんの方だった気がするけど。


「お陰で毎日退屈にゃ。金ちゃんをからかってるときが一番楽しいのに…」


 そう言ってシロちゃんは、また布団の中に引っ込んでしまう。

 どっちがからかわれてるのか定かではないが…ゴタンマみたいな特殊な環境下では、友人を作るのも大変なのかもしれないな。

 見た目的には彼女達よりも少し年上なニャオスリーは、初っ端からスタンドアローンを決め込んで、組織内での中立な立場を貫いてる感じだし。

 それだけに父親である波音総理とのじゃれ合いが甘々すぎて、見てるこっちが当てられっぱなしだったけど。


 まあともかく、そんな時の解決法は二つ。

 一つはとっとと誤ってよりを戻すこと…だけど、このシロちゃんが素直に頭下げられるタマとは到底思えんから、場合によってはとっとと済まない場合がある。

 そこで第二弾…!


「じゃ、新しい友達作っちゃえば?」


「それはなんか…逃げじゃないのかにゃ?」


 確かに根本的な解決にはならないが、少なくとも一人きりで悶々とするよか気は紛れるだろう。

 とにかくまずは精神安定をはからねば…長引くと得てして闇堕ちしてすべて相手のせいにして、なおさらこじれかねないしな。


「それに…金ちゃんの他に、誰がいるにゃ?」


 うをっ、そこまでは考えてなかった!

 そもそも今日中に解決するような問題じゃないけど…シロちゃんは絶対せっかちだから、即答できなきゃ高確率で首チョンパだ。

 ななみやさより、あゆか…はだいぶん畑違いか。

 はるきはななみ以外の年下には興味なさげだし、秒で機嫌を損ねてリアルに首を刎ねられかねない。

 ってことは…


「へぼみなんかは…?」


「現状いっちゃん不愉快な奴の名前を出すんじゃないにゃッ!? もっかい言ったらそっ首掻っ切って芋蔓式に脊髄引っこ抜いてやるにゃ!」


 ヒィ〜イッ!? モロ地雷だった!!

 しかも単純な首チョンパよかよっぽど惨いっ!

 そしてこの子は実際、ヤルッ!!


「ったく、なんであんなおバカキャラが人気あるのにゃ!? 見てるだけなら面白おかしいだけの天然アホ子だけど、部下に持った途端にこっちの脳髄を破壊しかねないナチュラルボーンクラッシャーに豹変だにゃっ!

 世の中絶対間違ってるんだにゃーッ!!」


 ベッドを軋ませて涙混じりに悔しがるシロちゃんに海より深〜い同情を感じてしまった俺は、


「あ゛ー解る解る。ありゃ絶対マトモに相手してたらこっちの身が持たんわ。

 なもんで規則違反は重々承知で申し訳ねーけど、ウチ以外ではなるだけ衆人環視の中に放置して、他人のフリを決め込んでるぜ。

 アイツはあれで結構人当たりはいいし、話し好きだからチヤホヤされてる間は大人しいしな」


 アレを見てると時々思うんだが…

 みんなの人気者って奴は、結局は誰にも理解されないことを容認した奴なのかもな…。

 俺なりの経験則で編み出した対策法を披露してやると、シロちゃんはキョトンとした顔を俺に向けて、


「…それは想定外だにゃ。研究施設には限られた人員しかいなかったから、不特定多数を相手にした場合の検証データが不足してたにゃ」


 そげなろくに動作検証も済んでない不確実な代物、ウチに送りつけて来ないで貰えませんかねぇ!?


「お前はソレを一人で見抜いたっていうのかにゃ…!?」


「ああ。幸いウチは人の出入りが多かったから『モルモット』には事欠かなかったしな」


 んで結果的に、常にウダウダ口やかましい妹サマには頭っから反抗的だったが、あまり細かく口出ししない俺や、最初から割り合い友好的だった俺のカノジョ様にはすんなり懐いた。

 なら優しけりゃ誰でも良いのかと思えば、初っ端で躓いたはるきとはいまだにギクシャクしてたりと、一丁前に好みがあるようだ。


 な〜んかどっかで見覚えがあるパターンだと思ったら…なんのことはない、ななみのときと一緒だった。

 アイツも躾に厳しい親父のことは怖がってなかなか懐かなかったけど、何かと身の回りの世話を焼いてくれる俺やお袋にはすぐに甘えさくってたしな。


 そしてたぶん、目の前のシロちゃんも…。

 極端な性格の持ち主は、自分に少しでも敵対的な者を遠避け、身内をイエスマンばかりで固めがちだ。

 そしてまた、この類の人物は何故だか組織的に上位マウントを占めていることが多く、上昇志向が高いイエスマン達は気に入られてより上の立場にのし上がろうと競い合うため、外面的には交流が活発で成果も軒並み高く…

 結果的にトップをますます自惚れさせる。


 それでも組織が正常かつ円滑に回るなら、それに越したことはないが…元々がいびつな歯車ばかりの寄せ集めなもんだから、じきに油切れを起こしてスムーズには回らなくなる。

 そこで必要になるのが…『潤滑剤』。

 つまりは…この俺だ。


 ただ一つ、注意したいのは…

 この種の人物の前では決して「ほらほら、俺が必要だろう?」などと急かさないことだ。

 慌てず騒がず、相手の方から歩み寄ってくるのをひたすらじっくりと待つ。

 …自意識過剰な彼らには、あくまでも自分自身で選んだように仕向けるのが肝心だ。


「…お前、なかなか使えるにゃ。

 ボクの仲間になってみる気はないかにゃ?」


 ビンゴ☆

 ずいぶんと上から目線だけど、カワイイから腹も立たない♩

 でも、要望通りにする気は毛頭ないけどな。


「仲間ねぇ。ん〜…それは今んとこ間に合ってる…かな?」


 シロちゃんが俺を仲間に引き込みたがる理由は、言わずもがな…俺がへぼみや金ちゃんとサシで渡り合える人物だからだ。

 とりわけ今、最も期待されてるのは、俺を介して金ちゃんとなんとかしてよりを戻せないか…ということだろう。

 もちろん俺だって、最終的にはそうなって貰うのがいちばんスッキリするから、協力するのはやぶさかじゃない。


 けど、ただそれだけのためにすり寄るってのは…なーんかしっくり来ないだろ?

 せっかく、そこいらの芸能人並みにカワイイ子が目の前にいるってのに、それだけが目的ってのは…ねぇ?

 だから…


「それよか、シロちゃん。

 俺達…『友達』になるってのはどう?」


「!?」


 思いがけない俺の反撃に、シロちゃんの時間がピシッと止まる。

 そんな大袈裟な…と思う人も多いだろうが、それほどまでにこのワードは、とりわけ友達がいない人間にとっては鬼門だ。

 『仲間』とどう違うんだ?という人もいるだろうけど…正直、俺にもよーワカラン。

 だって俺、友達いないし。

 ただ、『友達』の方が『仲間』よりもなんか強そうという、ただそれだけのコト。


 …メンドイだろ、正直?

 だから俺はそうした人間関係の煩わしさを放棄するべく、自ら友達は作らないまま今まで過ごしてきた。

 何もしなくても何でか寄ってきたはるきを除けば…な。

 それに…プライドの塊のようなシロちゃん相手なら、こんな出過ぎた希望はたぶん断られる可能性が高いだろうと踏んでいた。

 だからこそ、むしろ安心してお誘いできた訳だし。


 加えて今のままなら、気まぐれなシロちゃんのことだから、せっかく仲間に加えて貰っても「やっぱやめたにゃ♩」とあっさり手のひらを返してくる可能性が高い。

 だがここまでハッタリかましておけば、もはや俺をそう簡単に切り捨てることは出来まい。

 なにしろ相手は何かと厄介な子だからな。予防線は張れるだけ張っておくに越したコトはない。

 将を射んとすれば、まず馬を…なんて回りくどい手口はこの子には効かない。だから、当たって砕けろだ。

 むしろ毒を喰らわば皿まで…の心境だな。


「友達…友達かにゃ?

 ふぅ〜む…悪くないのにゃ♩」


 ところがシロちゃんは予想以上にウェルカムだった。

 やっぱりこんなにカワイイ子なのに日頃の言動が災いして、毒は毒でも猛毒を喰らおうとする者はいないようだな。

 かと思いきや、彼女は残念そうに首を振って、


「でも、残念だけど…ボクにはもう金ちゃんがいるのにゃ」


 ズルりんこ♩ あ〜いるよね〜、他の友達に不義理はできないとか考える奴。

 けど、新しく友達をこさえることの何がどう不都合なのか、俺には解らないし…

 恋人じゃないんだから、別に何人いたって困らねーだろ?

 それしきで壊れるような古臭い友情なら、最初っから要らねーよ。な、はるき?


 だが…コレはコレで使えるなぁ…ニヤリ。


「じゃあさ…僕らは他の誰にもナイショの…

『秘密の友達』ってことで、どう?」


 我ながらツッコミどころ満載だ。

 何でわざわざ他には伏せなきゃならんのか、さっぱり理解できん。

 でも子供ってこーゆー秘密めいたモノが大好きだろ?


「…秘密の…友達…☆」


 ほらほら、シロちゃんの瞳がキラキラ輝き始めた。どうやら彼女のハートにはドンピシャなパワーワードだったようだな。

 人の心が読める金ちゃんにはすぐバレるだろうから、それまでの極短期間限定だけどね。


「そっかぁ〜秘密かぁ〜…じゃあ仕方ないにゃ♩」


 仕方ないの一言で女同士の友情をあっさり踏み躙って、シロちゃんは照れた様子で俺にくっついてきた。

 さすがは悪の秘密結社、激チョロ♩


「てゆーか、あの…そんな薄着でくっ付かれたら、色々と…」


 いかにお子様体型ったって女の子には違いないし、むしろその方がヤバさ増し増しなんだけど?


「友達なら仕方ないにゃ。おっぱいの一つや二つ、ケチケチしないにゃ♩」


 友達認定した途端に境界ユルユルってゆーか…なんか友達ってモンを誤解してない?

 てな訳でせっかくこうおっしゃってるんだから、といきたいのも山々だったが…ここまで無邪気に喜ばれてしまうと、かえって手を出す気にはなれないもんだ。

 良くも悪くもお子様なんだよなぁ…この子。

 こんなに愛らしい笑顔を向けられちまっちゃ〜、一足跳びに賢者モードに強制シフトさせられて、ヤクザな真似なんて微塵もしでかす気は起きねーわな。


 とにかくそろそろ金ちゃんの処に向かわにゃならんので、シロちゃんとはお楽しみはまた明日ってことにして、オデコにチュ♩して部屋を後にした。

 …我ながら猛獣相手にやりたい放題だな。

 これで相手がななみなら確実に三回は殺されてるぞ。

 …ああ大丈夫。通りすがりの窓ガラスや調度品の鏡にはちゃんと俺の姿が映ってるから、まだ死んではいないようだ。

 映画『シックスセンス』の主人公もそうすりゃ一目瞭然だろうに、なんで気づかないかね?

 あまつさえ愛車にガキ乗っけて運転までしてるし…どーなってんだアレ???





 …とか何とかやってるうちに首領室前までやってきちまったぞ。

 周辺の廊下にはあからさまに銃を持ったSPがうろついてたりして、にわかに物々しい雰囲気だ。

 かと思いきや、相手が俺だと判ると軽く会釈してすんなり通してくれた。

 事前に金ちゃんから通達がなされてるのかもしれないが、なんたる拍子抜け。

 いかにも重厚な防弾仕様のドアをノックすれば、俺達の部屋のとは明らかに違う反響音とともに、


「…鍵は開いてます。どうぞお入りください」


 俺が来るのを予期していたらしい、落ち着き払った声が応えた。


「え〜っと…お久しぶり?」


 ドアを開けて室内を覗き込みつつ、我ながら間抜けすぎる挨拶を交わせば、


「御夕飯ぶりですね。いつも通りで結構ですよ」


 既に室内の応接セットにスタンバってた金ちゃんが愉快そうに苦笑する。

 そうは言われましても、向こうの方がだいぶん年上だしな…見た目は真逆なのに。どんな態度で接すればいいか、イマイチ解らない。

 とりあえず彼女の向かい側のソファに腰掛けて、さて何から訊いたものかと考えあぐねていると…


「…まず、どうして私が首領を務めているのか…からご説明しましょうか?」


 ををっ、こりゃ質問の手間が省けた。便利だな〜心が読めるって♩


「…やっぱり驚かれませんね。普通は今ので結構引かれる方が多いんですけど…」


「そりゃ、事前に知ってりゃ驚く要素なんて無いでしょ?」


 ほぉ…と感心しきりの金ちゃんを、反撃とばかりにマジマジ見つめ倒す。

 出会ったときからすこぶる美少女だと思ってたけど、そこに能力やら実年齢やらが加わった今は、さらに妖艶さが増し増して…エロ幼女?


「あ゛ゔ…っ」


 よしっ、効いてる効いてる!

 面と向かっては言えないことも、頭の中なら妄想したい放題だぜ☆

 てゆーか昼間に海辺で見た彼女のあられもない水着姿…。

 体型はシロちゃん同様にお子様なのに、おぱーいだけ妙に膨らんでて…


「…誰のせいだと思ってるんですか?」


「ほぉ、ソレはどこの世界線?」


 俺の引っかけにまんまと反応してしまった金ちゃんが、しまった…と顔を歪める。

 この子、精神操作云々以前にメッチャ顔に出るんだけど?

 そして世界線なんて何処ぞのタイムリープものでもない限り一本こっきりに決まってる。

 つまり…


「…さっき風呂場で波音総理と一緒になってね。色々興味深い話を聞かせてもらったよ。

 到底信じ難い話ばかりで、どう扱って良いやら途方に暮れててね」


「そうですか、総理が…。

 でしたら、別段隠し立てすることはありません」


 あたかも最初からその話題になることを予想していたかのように、金ちゃんは静かに頷き返す。


「現在のゴタンマは、彼の思惑を実現すべく動いています。

 もっとも、私はニャオスリーから特に何も依頼されてはおりませんので、現状そちらの事業は半凍結された状態ですが…」


 よし、言質がとれた。

 それはつまり、金ちゃんはあくまでも中継ぎであり、本格的な組織運営をさせるつもりは無い…ということ。

 だから今は、彼女の好きなように新事業を次々立ち上げつつ『その後』に備えている。

 すなわち…これから『本命』の登場を控えているんだ。


 そしてそれは、『現首領』から『次期首領』への引き継ぎがスムーズに行われるということ。

 いかに金ちゃんといえども、見ず知らずの人物に容易く座を開け渡すほど首領の椅子に執着が無いわけでもないだろう。

 と、いうことは…次期首領候補ってのは、たぶん…


「…次は、俺…なのか?」


 あえて色々端折った俺の問いに、金ちゃんの瞳が大きく見開かれて…その端に涙が滲み始めた。

 当たり…か。

 けど、その前に…


「俺の記憶は…戻してくれるんだろ?」


 こくりと頷き返す金ちゃん。何かと話が早くて助かる。

 そして、そのためのパスワードが…今、彼女の唇から静かに紡ぎ出された。


「…お帰りなさい…若様。」




【第十五話 END】

 やっとこさ書き上がりました謎解き編前編。

 今回はかなり重要な回で、前作『はのん』の主人公である現総理大臣・波音リョータ等も登場します。

 これは取って付けた展開ではなく、連載開始当初から予定してました。

 今作と前作の世界観が共通していることは再三述べてきましたが、彼の希望は一朝一夕に叶うものでは到底なく、そのために今日まで着々と準備を進めてきた訳です。

 そしていよいよ、長年に渡り封印されてきた主人公ななおの記憶も甦る…寸前で一時中断です。


 今回は掲載までにいつもより時間が掛かりましたが…実は執筆中にいよいよコロナに感染してしまったため、丸々一週間な〜んも作業できませんでした。

 いやはや、正直ここまでキツイものだとは思いませんでしたよ。

 高熱や咳はあまり出ず、食べ物の味もちゃんと判りましたが…発症初日にいきなり全身筋肉痛、そしてその後の倦怠感と食欲不振…。

 それがちょうど九月の連休週間中に重なってしまい、天候不順もあって約二週間ずぅ〜っと寝たきりでした。


 でも思えば八月の盆休み中もコンスタントに書き続けていたので、思い切って無理せずしっかり休ませて頂きました。

 なので執筆再開後になかなか勘が取り戻せず、終盤グダグダになってしまいましたが…今さら修正する気も起きんわ(笑)。

 このままダラダラ書いてもとりとめが無さそうだったので、あえて一番肝心な場面でぶった斬った次第です。

 後半ではさらに一波乱も二波乱もありますので、キリが良かったかもしれませんが。

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