第二話-死神-
この世には超能力が存在する。
それならば、霊的なものも存在しているのではないだろうか。
答えはイエスだ。
「おい、今かばんからチョコ盗っただろ」
静かなバスの中で、彼は呟いた。
「誤魔化すな!流石の俺でもそれぐらいわかるぞ!」
「今週のお供物抜きにしてやってもいいんだからな!!」
「全く…」
相当頭に血が昇っていたのだろう。彼は、自分が公共の場にいることを忘れていた。
「あ…」
彼は目的地から遠いバス停で降りてしまった。相当恥ずかしかったのだろう。
「お前のせいだぞ…!」
次は小声で、左側に顔を向け呟いた。
不幸なことに、呟いた瞬間、柄の悪そうな男が横を通りかかった。
もちろん、その男に対して言ったわけではない。
彼は、普通の人の目には映らない、何かに話しかけている。
しかし当然ながら、横を通りかかった男は普通の人間だった。
「おいてめぇ、今なんて言った?」
「い、いやぁ…あのぉ…そのぉ…」
「ゆ、許してくれません?」
一か八か、可愛げに手を合わせた。
が、結果は予想通りだった。
「ぶっころす!!」
この後、めちゃくちゃボコボコにされた。
「うぅ…くっそ…なんでこんな目に…」
ひどく落ち込み、肩を落としていると、電話が鳴った。
着信音はG線上のアリア。なんとも優雅な曲だ。
「もしもし…」
「俺だ」
「あぁ、黒羽か、どうした?もう少しでそっちに着くけど」
「すまないが、予定を変更する。今から言うホテルまで来てくれ」
「まぁ、いいけど。で、どこ?」
「サンライズホテルだ」
「いや分からねぇよ」
「池袋だ」
「…はぁ!?」
彼こと、[新道 宏樹]の現在地は新宿のど真ん中。
そこまで遠いわけでもないが、近くもない。
「なんで今更変更したんだよ!」
「蓮加いわく、美味しいクレープ屋があるらしい。「クレープ好きとしては絶対に押さえておきたい!」と、言っていた」
「そんな理由で…?嘘だろ…?」
「残念ながら、紛れもない真実だ」
「もう俺行かなくていいかな…?」
「それは困る。何のためにわざわざ海外からお前を呼んだと思ってるんだ」
「はいはいはい、分かりましたよ…」
宏樹はしばらく海外に出向いていた。
任務の一環という名目で。
それをわざわざ呼び戻したのには、理由がある。
数日前、黒羽と惑が回収した男の死体を調べたところ、不可解な点があったのだ。
鋭利な刃物を突き刺されたようなが傷が、心臓に残っていた。
しかし、外傷は一切なく、心臓だけが的確に傷つけられていた。
「でもホントに俺が必要なのか?」
「だから呼び戻したんだ」
「蓮加も心配していたぞ」
「はぁ…すぐ行くよ…」
そう返事をすると、通話を切り、ホテルまでの道のりをスマホで調べ始めた。
「あ、俺このホテルで働いてたことあるよ?」
「え、まじ?」
「嫌な思い出しか思いつかないけどな」
「そういえばお前、ホテルで愛人に殺されたって言ってたな…」
「今度会ったら絶対呪い殺してやる!」
「あんまり俺の生命力使うんじゃないぞ〜」
「宏樹はまだ着かないの?」
「そろそろだと思うが…急な変更だったから、仕方ないだろう」
「海外旅行になんて行ってたあいつが悪いわ」
「一応、任務の一環として行ってたみたいだが…」
惑は、一切曇りのない眼を黒羽に向け返事をした。
「どうせ遊びに行ってただけよ」
言い終えた直後、黒羽と惑の仲睦まじい会話に雑音が混じった。
「でさ〜元彼が〜」
「あっ、すいませ〜ん、部屋間違えました〜」
「いえ、お構いなく」
「全然大丈夫ですよ」
ドアが完全に閉まるまで、咄嗟に作った笑顔を守り続けた。
が、しかし。
「どうする?殺す?」
「なぜそうなるんだ…」
「もしかしたら組織の回し者かも。それに、組織の人間じゃなかったとしてもどうせDQNよ。死んでも誰も困らないわ」
「そ、そうか…」
「ただいまぁ!」
またもや会話に雑音が混じってしまった。
「うるさいぞ。ここは公共の場だ。少しは自重することを覚えろ」
「それにここはホテルよ?貸してもらってる分際でただいまなんて言わないで」
「貸してもらってるのはお前らだろ…」
「確かに」
「まぁそんなことはどうでもいいわ」
「早く見てちょうだい」
「はいはい、分かりましたよ〜」
「おい、その手に持っているのはなんだ?」
「チョコ!美味しそうな店があったからつい寄っちゃったんだ〜」
宏樹は生粋のチョコ好きだ。
「寄り道する暇があるならもっと早く来れたんじゃないの?」
「お前ほんと嫌味なやつだな!」
「褒め言葉ありがとう」
「ぐぬぬぬぬ….」
「あっ、ていうか、見てくれってどういうことだ?」
「そのままの意味だ。見てくれ」
「おいおい、嘘だろ…お前…」
黒羽が取り出したのは、先日回収した男の死体が写った写真だった。
「普通現物出すだろ!写真だけじゃなんも分からな-」
「…んん!?」
「え、ちょっとまてよ…なんだよこれ…」
「何か見えたみたいね」
「あぁ、見えてるんだけど…こんなことあり得ない…」
「ただの写真に残滓が映るだなんて…」
「そんなにヤバイの?」
「あぁ。普通、幽霊や悪霊の残滓は肉眼でしか確認できない」
「じゃあなぜお前には残滓が見えているんだ?」
「さぁな…俺もこんなのは初めてだから…」
「おい!宏樹!!」
「っ、どうしたー?」
「やばい!まじでやばい!」
「だからどうしたんだって!」
「お前、誰と話してるんだ…?」
「まさか、海外に行ってる間に薬にでも手を出したの…?見損なったわ」
「ふざけんな!幽霊と話してるんだよ!」
「冗談だ」
「冗談よ」
「で、どうした?」
「俺を殺した女がいた!!!」
「…え?」




