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シニカルなエンディングを  作者: 鈴本詩人
1/7

Prologue:餐宴の火炎

お世話になります。


相棒(バディ)とつむぐ物語』コンテスト に応募する作品です。


相棒であり先輩後輩であり、上司と部下である「グレイブ」と「フェイトアスタ」の物語をお楽しみください。

 街は燃えている。至極、当然のように。


 午前3時、作戦は開始した。


 今この区画にの周囲には「警安局」が待機している。もし仮に私が時間をかけるようなことがあれば、容赦なく突入してくることだろう。

 この土地を完全に私たちに丸投げしたくせに――とは口が裂けても言えない。言ってしまえば戦争になってしまう。


 早急に仕事を終わらせるために、私は()()()()()()()()()()廃工場の屋上に飛び乗った。

 ここは見晴らしが良くて、「トリウォール州」の全容が見える。


 ――私たちが任された、この燃えている街が。


 許されざる暴徒の暴挙により、善良な市民は夜道を歩けない。火炎瓶を投げたり、銃を乱射したり、女子供を誘拐したり。好き勝手し放題だ。

 だから、私たちがいる。


 今回の作戦は、暴徒を統べる上級幹部に違法薬物の在り処を聞き出すこと。

 なに、簡単なことだろう?


「手ぇ上げな」


 私は背中に携えていた「命槍(グレイブ)」を三人に向けながら、少し低めの声でそう言った。決して恐怖感をなくして言ったのではないが、奴らには効かない。

 それもそのはずで、「自分たちの最大の敵だ」と散々教育されてきた敵が、女の私だったからだ。奴らに私たちの具体的な情報は充分に行き渡っていない。


「まさかボスが言ってた〈黒犬(ドーベル)〉ってのはこの嬢ちゃんか? ふっ、ふはははっ! 笑わせてくれよるわ。おい、覚えとけよ。俺たちみてぇなクズでもな、逮捕には令状がいるってもんだぜ? それと──」


 気付いた時には、既に私は数多の敵に様々な種類の銃を向けられていた。


「B域は俺のシマだ。二度と手ぇ出すんじゃねぇぞ」


 銃弾の雨が、私の体に降り注ぐ。


 やはりこの感覚は嫌いだ。体中が痛くて、熱い。

 骨を、皮膚を、内臓を鋼鉄の弾丸が貫く。

 脳みそが激しくシェイクされ、考えもロクにまとまらない。

 雨が止んだ頃には、私の体はいくつかの肉片と化し、そこら中に散らばっていた。


 ────しかし、私のグレイブは遥か上空にて生を保っている。


「話は終わりか、おっさん」


 何事もなかったかのように私は実体を取り戻し、上級幹部の背後に立っていた。

 奴の首筋には私のグレイブ。私と魂を契った、命の槍。


 やはり私は先程のように敵に銃を向けられるハメになったが、今度は人質を取っている。ここにいる誰よりも丁重に扱われるべき命が、私というイレギュラーで無価値な存在に手玉に取られている。


「おいおっさん、”Shit down?(ひれ伏せ)”」


 上級幹部を私と対面させ、グレイブを持っている手と反対の手で地面を指差した。明らかに不服そうな顔をしたので、刃先を首筋まで当ててもう一度忙しく指を動かした。

 上級幹部は顔を地面に着け、手首を腰の辺で組む。


「じっとしてろよ」


 そう言い放つと、勢いよく息を吸い込んだ。息を止め、グレイブを持つ手に力を込めたまま、その場で一回転。百を優に超える人間の頭部がその場に転がった。辺り一帯に血の海が広がる。

 これにはさすがの上級幹部も私の足元で目を見開いた。

 これでさっきの元は取れたかな。


 グラハムに早く情報を吐かせるため、(しかばね)が落とした拳銃で一発ずつ、彼の両脚に弾を撃ち込んだ。悶絶の末、私を睨みながら彼は黙った。


「話が早くて良い。私が聞きたいのは一つだけだ。お前が扱っていた薬物は、どこから輸入してきたもんなんだ? この街で輸出入が出来るのは政府が認可した私たちだけなんだよ。なのにどうして、お前たちがそんなことを可能にしてんだよ?」


 私とグラハムを囲うようにして、首なし死体と頭部が輪環状に広がっている。タイムリミットはもってあと一分といったところか。遠くから陳腐なサイレンが聞こえてくる。


「言えよ、脚潰されたいのか? あ?」


 体力的に削っても意味がなさそうだ。あまり好みではないけれど、精神的に削るしかない。警安局が到着するまでに絶対に吐かせないと。私も私で、任務を達成しないと上司がうるさい。


「吐かなかったら、お前の奥さんも娘さんも蜂の巣だ。それかあらゆる手段を使って健康なまま『牢獄』にぶち込んでやる。女に飢えた汚い男たちで溢れているあの『牢獄』に! どうなっても知らないぞ」


 グラハムの顔が歪む。私だってこんな卑怯な手は使いたくない。だけど色々と覚悟を持ってやらなければこの仕事は務まらない。それはグラハムもきっと分かっているはずだ。


「わ、分かった! 分かったから妻と娘だけは助けてくれ……! リスエテのブラックマーケットを牛耳ってる奴から仕入れてたんだ!」

「トランスポーターは誰なんだ。誰が密輸ルートを? ……おい、おいっ! クソっ、血が足りなくなったか」


 できることならばトランスポーターの情報まで仕入れたかったが、輸出元が分かっただけでもこの「作戦」は意味を成す。私はグレイブを背中に戻し、その場で勢いよくジャンプした。


 私たちはそんな汚れた仕事をしなければならない。

 世界の平和のために、市民の笑顔のために。

 命を賭してでも、守らなければならない。

 私たちは、魔衛警安省・魔衛局神異課────通称・〈黒犬〉。


 熊をも喰らう、黒犬だ。

・魔衛局

 魔衛警安省所属の部署。主に〈魔女〉の護衛にあたる。


・魔衛局神異課

 通称〈黒犬(Dober)〉。〈魔女〉の護衛ではなく、〈魔女〉反対派である〈緋熊〉による反政府テロを未然に防ぐために、〈緋熊〉が拠点としている「トリウォール州」に駐留している部隊。

 現在は隊長である希蝶ユイが失踪しているため、副隊長の藍原サユリが代表を務める。

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