5話 少女、助ける
先程までの目的地が視界からどんどん遠ざかる。
「あの」
思わず、私を連れていく少女に声をかけた。
「ごめんね、ほんとにごめんね」
「…私と、友達だけ、修学旅行休んでて、さっきの衝撃波で、友達が歩けなくなって、私だけじゃ運べなくて、でも先生もいなくて」
話から少女は3年生の先輩と推測できる。必死な顔をして走りながら、息切れ切れに説明してくれた。私を連れていった時も端的に伝えていたが、やはり友人を助けるのを手伝って欲しいという頼みだった。
そうして上がった4階は、先程までいた3階よりも悲惨な状況で、東側の教室は消し飛んでおり、付近の廊下に学ランをきた少年が倒れていた。
「桜、ちゃん…?」
「おまたせ、一緒に逃げよ!」
少女は私の手首を離して素早く少年に駆け寄るのに続いて私も近づくと、少年の足にギプスが着いていることに気づいた。つまり、ロスターによる怪我ではなく元から満足に歩けなかったのだろうか。そばには折れた松葉杖が置かれていた。
(そっか、さっきの攻撃で杖が…)
そう考えていると、少女は少年を運べるよう肩を貸してほしいと頼んできた。私は、先程の強引な手引きに怒ることも、手伝いも断ることもできなかった。
「ごめんね、ほんとうにごめん」
自分の肩へと腕をまわし、2人がかりで少年を運び始めると倒れていた彼はうわ言のように謝罪を繰り返した。
言葉とは裏腹に、少年は歯を食いしばりながら体に力をこめ、前を向き、背筋を伸ばし、私たちへできるだけ体重をかけないようしているのが伝わった。それに対し少女は大丈夫だから、と何度も返していた。しかし途中、申し訳なさそうにこちらを向いて
「無理やり手伝わせてごめん。さっき、逃げるとこだったでしょ」
と謝ってきた。確かに私は逃げていた。あの階段から降りようとしてした、が、今、こうして3人全員が生きていることは、あの時の行動が最善であったのを証明している。私としては気にすることでは無いのだが、先輩達には負い目があるのだろう。
「いえ、気にしないでください。助けられて良かったです」
そういう他なかった。
気づけば先程の階段へ戻ってきており、慎重に慎重に少年を降ろしていく。
(本当に、助けられて良かった…)
私の心には、先日自分を助けた少女が浮かんでいた。あの時程輝いていなくても、この少女には私が少年を助ける希望に見えていたのかもしれない。写真ごしでさえ希望を与えてくれたあの少女。自分が、そんな少女に少しでも近づけたかもしれない、それがどうしても嬉しかった。
(…いつか、私も、か)
つい数十分前に気の迷いだと捨てた言葉が反芻する。ロスターと対峙したとき、確かに私は魔法少女をやり残したこととして思い出していた。きっと、心のどこかではもう分かっている。
(私、魔法少女に…)
(…)
複雑になった気持ちは、見なかったことにした。とにかく全ては外へ出て、助かった後考えるべきだ。そう、言い聞かせた。
そうして階段を降りていると、先程の3階へとたどり着いた。そういえば、ロスターが現れてから何分くらいたったのだろうか。きっと真央や小紀たちも体育どころではなくなっているだろう。ただ、おそらくロスターが発生したのは私たちの教室付近だと思われるので、2人や他のクラスメイトもきっと大丈夫だろう。
「みんなもう避難したみたいだね、2年生が無事でよかった」
さくらと呼ばれた先輩の言う通り、3階から人の声も逃げる足音も聞こえることは無かった。視線を向けると、逃げてきた教室付近の廊下に瓦礫が散乱しているのが見える。
「はい。6組と7組は体育だったので、攻撃が当たった教室のみんなも無事だと思います」
「そうだったんだ。…ねぇ、そういえば名前まだ聞いてなかったや、私は3年5組の安達 桜喜。キミの名前は?」
「私は、堀澄、つb」
突然、地面が揺れる。階段を降りている途中だった私たちは、転げ、2階と3階を繋ぐ踊り場の壁へと打ち付けられた。
「ロスターがまた攻撃したんだ…2人とも、大丈夫?」
揺れが収まり、男の先輩が私たちの安否を確かめる。
「大丈夫です、桜喜先輩は…」
「私も大丈夫、ゆっくりはしてられないみたいだね。早く降りようか」
桜喜先輩の言葉に同意し、また男の先輩を2人で背負う。あと2階、早く降りなければ。




