4話 少女、相対す
神様、私は何か悪いことをしたのだろうか。否、きっと先程までが幸せな夢のようなものだったのだろう。吹けば消える、泡沫の夢。現実とは、死とは元々身近にあったのだ。
ロスターは私を感知してか知らずか、動くことなく眩い光を体に溜め込んでいった。足を動かそうにも、動かない。決して怪我をしたとか、すくんだというような理由では無い。
(あ、私死ぬんだ…)
身近すぎる死は、その原因が身体に訪れる前から脳が、心が諦める。動き、抵抗する気力がなくなるのだ、初めて知った。そして、これがおそらく人生最後の学びになるのだろう。変に冷静になった頭は直近の未来を、ただ静かに受け止める。
ドシャアンと、目の前に瓦礫が降ってきた。先程の攻撃で脆くなった建物が崩れ、私とロスターの前にほんと少しの隔たりを作る。そしてその衝撃は、私のもとへと何か運んできた。
「これは…ブロマイド?」
なんてことない、よくあるお菓子付きの魔法少女ブロマイド。きっと、誰かがお昼に買っていたのだろう。そこに写っていたのは、先日出会った白い少女だった。
瞬間、頭が覚醒する。これまでのこと、やり残したこと、死への恐怖が突如として湧いて、先程までの冷静さを消し、このまま終わりたくないという想いが溢れ出てきた。死にたくない。ここで死ねない、
(生きないと!!)
…もうまもなく第2の光線を放つだろうロスターを改めて視認する。慌てて、先程出来た隔たりの影に身を隠した。
(これでアレが防げるかはわかんないけど…!)
可能性は五分といったところだろう。と、考えている合間に、体に振動が響いて学校が崩壊していく音を聞いた。攻撃が始まったのだろう。咆哮のような音が耳を劈くが、耳を塞げるわけもなく、壁ごしでも伝わる衝撃に吹き飛ばされないよう、必死で耐えていると再び静寂が訪れた。
少しだけ顔を出し、状況を確認する。隠れていた隔たりの数センチ先は無くなり、4階建ての3階であったはずの教室からは空が青々と見えていた。
(今日、中3が修学旅行で良かった…)
きっとこれが平日なら被害は学校だけじゃ済まなかっただろう。
(早く逃げないと)
ロスターがまた仕掛けてくる前に素早く立ち上がり教室を出る。背後でまた教室が崩れる音がした。もしあのまま隠れようとしなかったら…と考えるとゾッとした。あの死を受け入れる感覚を、今では理解できなくなっていた。
廊下を走っていると、ふと手に違和感を感じる。目を向ければ、左手に先程のブロマイドが握りしめられていた。あぁ、この人は写真でさえ私に希望を与えてくれるのか。と、心に余裕が生まれる。落とさないようポケットに入れて、生きるためのことを考えた。
(私の教室は東側の一番端だから、西側と真ん中の階段なら大丈夫のはず…!)
崩れた教室へ背を向け、全力で階段へ向かう。
「見えた!」
教室3つ分駆け抜けて、ついに真ん中の階段へと辿りついた。
と、同時に
「ねえ!そこのキミ!」
上から声をかけられた。
顔を向けると、4階へと続く階段から、同じ制服の少女が走ってきた。
「お願い、手伝って!友達が歩けないの!」
「え!?」
言葉が出る前に強引に手首を握られ、私の体は上の階へと連れて行かれていった。




