小さな成果、大きな一歩
ポポイさんに厳しく扱かれてからおよそ1月.....
俺は今、ミラーカと対峙していた。
「行くよっ!」
ミラーカそう言うと、一気に俺との距離を詰め拳を繰り出してくる。
風を切るような音が遅れてやってくるようなその物凄い速度の連撃の雨を、俺は落ち着いて冷静に1発1発確実に躱していく。
「.....ほぉ.....見事に躱しておるの」
「1月前のカズキ様なら最初の一手で沈んでたっすね」
「.....凄く強くなってる.....」
「カズキ様、凄いです!」
「見事ですわね.....体捌きがまるで別人のようですわ」
「ポポイよ、お主一体何をやらかしおったんじゃ?流石にここまでとは妾も想像しておらなんだんじゃが.....」
俺の成長ぶりに嫁さんズは驚き、シャルミナがポポイさんに詰め寄る。
「別に何も特別な事はしてないよ?適度な鍛錬を愚直に繰り返していただけさ」
.....えっ?適度?数えるのも馬鹿らしくなるぐらい死にかけたんですけど.....適度とは.....
『あっ!ごめん。手加減間違えたよ』
『ごめんごめん。今のは少し強すぎたね』
『お~い、生きてる?.....うん、生きてるからセーフだね』
『よし、コレに耐えられるかそろそろ試してみようか?.....ごめん、まだ少し早かったね』
『つい力が入っちゃった。ごめんね』
俺の脳裏には次々と死にかけた記憶が蘇る。
.....フフフッ、本当によく生きてたな.....俺。
おっと、いかんいかん。今は目の前のミラーカに集中せねば。
ミラーカは連撃をある程度俺に打ち込むと、サッと素早く後ろに飛んで俺から距離を取る。
「今のを全部避けられるとは思わなかったよっ!じゃあ.....コレはどうかなっ!」
ミラーカはそう言うと、自身の影から無数の影の獣を召喚していく。
(ミラーカの影の眷属かっ!)
ミラーカの影の眷属達は、召喚されると同時に次々と俺に襲い掛かってくる。
俺はその眷属達を刀で切り捨てながら、何とかその攻撃を凌いでいる。
(くそっ.....数が多すぎる!このままじゃジリ貧だ!どうする.....考えろ、考えるんだ!)
影の眷属達と激しく切り結ぶ間にも、思考を素早く巡らせて何とか打開策を考える。
(よしっ.....この手で行くか!)
俺は刀を地面突き刺すと、その刀を伝わせ地面へと魔力を流していく。
そして影の眷属達ごと吹き飛ばすように大きな爆発を起こした。
影の眷属を吹き飛ばした衝撃と共に舞い上がる土煙を隠れ蓑にし、俺はミラーカまでの距離を急速に詰めていく。
今だっ!
俺は渾身の力を込め、手にする刀をミラーカへと振り下ろした。
取った!
.....俺はそう確信したのだが、刀はミラーカの身体をすり抜けるように空を切る。
その感触に手ごたえはない。
「残念っ!そう来ると思ってたよっ!」
「霧化かっ!?」
「正解っ!」
ミラーカは俺の行動を予測し、それに合わせて自身の身体の一部を霧と化して俺の攻撃を躱していたのだ。
(落ち着け!その程度で心を乱すな!ポポイさんから言われた事を思い出せ!)
『いいかい?相手の攻撃を無力化した瞬間こそが、最大の隙が出来るのさ。だから攻撃が防がれた瞬間に君が次にどう動くかが重要だ。チャンスは一瞬。その一瞬に君の全てを.....』
(叩き込むっ!!)
俺は刀を空かされた直後の態勢から、一気に身体強化の出力を最大にまで引き上げる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
ブチブチと身体中から何かが切れる音が聞こえてくるが知った事か!
俺は素早く刀を手放すと、勢いのまま身体を1回転させそのままミラーカへ向けて渾身の拳を打ち出していった。
この1撃に全てを込める!
「えっ?やばっ!?」
そんなミラーカの声が聞こえた瞬間、身体に激しく衝撃が走り、俺の意識はそこで暗く閉じていった。
しばらくして俺が意識を戻すと、ミラーカがシュンとした様子で俺の前まで来る。
どうやら気絶している間に魔法で傷は癒してくれたみたいだ。
「ごめんなさい.....カズキ様の攻撃が僕の思ってた以上で、つい本気出しちゃったよ.....」
「.....えっ?今何て言った!?」
俺は思わずガバッと起き上がり、ミラーカの肩を両手で力強く握った。
「え?ごめんなさいって.....」
「違うっ!その後!」
「つい本気を出しちゃったっ.....って」
「本当かっ!?本当にミラーカが本気を出したのかっ!?」
「えっ?うん.....あの.....カズキ様?ちょっと痛いよ?」
俺はそんなミラーカの声が耳に入ってこないぐらい歓喜に包まれていた。
フフッ.....フフフッ.....やった、やったぞっ!
一瞬とはいえ、ミラーカの本気を引き出せたんだっ!この、俺がっ!
「俺がっ!俺がミラーカの本気を引き出せたんだっ!これが喜ばすにはいられるかっ!ミラーカもありがとうっ!このこのっ!ちゅ~してやるっ!」
俺は興奮そのままガバッとミラーカに抱き着き、キスの雨を降らせる。
「ふえぇぇぇっ!?か、カズキ様っ!?そんな.....こんな場所でっ!?.....で、でも.....カズキ様が望むなら僕だって.....」
んっ?何やらミラーカが小声でボソボソと言ってるが、声が小さすぎて何を言ってるのか聞こえない。
ミラーカは顔を真っ赤にさせながら何かを決意したような表情をすると俺を見つめ、そして目を閉じた.....
.....何故?
「何をこんな場所で盛っておるんじゃ!時と場所を考えんかっ!時と場所をっ!」
少し様子の変なミラーカと、困惑する俺にシャルミナがそう言いながら拳骨を落としてくる。
.....痛いっ!
「全く.....2人して何をしておるんじゃ!それにカズキ様もあんな無茶をしおってからに.....無理矢理身体強化を使ったせいで健が千切れておったぞ!」
「うっ.....スマン、気持ちが高ぶってここで決めるしかないって思って、つい.....」
「ミラーカもじゃぞ?.....まぁ、あのカズキ様の攻撃は見事じゃったからな。気持ちは分からんでもないが.....じゃが本気で蹴り飛ばさずとももっと他に方法もあったじゃろうが!躱すなり抑え込むなり」
「つい.....ごめんなさい.....」
シャルミナに怒られ、シュンとする俺とミラーカにポポイさんが助け舟を出してくれる。
「まぁまぁ、姉さん。それだけカズキ君の攻撃が見事だったって事だから勘弁してあげなよ」
「分かっとるわ!.....それでも心配なのは心配なんじゃ!」
「それは勿論さ。カズキ君、さっきの君が使ったような自爆覚悟の特攻は褒められたもんじゃないよ?それは君も分かってるだろう?」
「.....はい、すいません」
「でも.....だっ。君がミラーカ君の本気を引き出せたのもまた事実だ。例えそれが一瞬だったとしてもね。そこは鍛錬の成果が出たと誇ってもいい事だと思うよ」
ポポイさんにそう言われ、俺は改めその事実を実感していく。
今までは手加減された状態でも手も足も出なかったのだ。
それが一瞬とはいえ、本気を引き出せたのだ。
結果は負けてしまって今までと同じように思えるが、この事実は俺の中でかなり大きな1歩だ。
「ポポイさん。ポポイさんのおかげです!俺に指導してくれて、本当にありがとうございました!」
俺は心からの感謝を込めてポポイさんに頭を下げる。
「君を鍛えたのは僕のお礼だし、強くなったのは君が頑張ったからさ。だから僕にお礼なんていらないよ」
「それでも、それでもポポイさんのおかげでここまで来れたんです!だから何度でも言わせてください!ありがとうございました!」
「.....それなら受け取らないと失礼かな?じゃあ、どういたしまして」
ポポイさんはそう言って嬉しそうに笑う。
「成果は確実に出てるんだ。焦る必要はないさ。これから先もコツコツと頑張っていれば必ず君の望む君になれるはずだよ。頑張ってね」
「はいっ!」
「うんうん。自信を持って目標に向かう若者の姿はいいものだね」
「なぁにを爺臭い事を言うておるんじゃ.....」
「いや、僕は見た目は幼いけど、年齢で言うなら確実にお年寄りだよ?」
「.....ほう?それは妾も婆と言いたいのかや?」
「.....あっ!?僕は魔王の仕事があったんだった!急いで仕事に行かないとっ!」
ポポイさんはしまった!っという顔になり、汗をダラダラと流すと慌ててそう言って走り出した。
「待たんかっ!ポポイには女心をじっくりと話しておかねばならんようじゃな!逃がさんのじゃ!」
シャルミナはそう言ってポポイさんの後を追いかけて行った。
俺達はその姿がやけに面白く感じ、大声で笑いあっていた。
俺は、ポポイさんのおかげで新たな1歩を踏み出す事に成功し、少しだけ自分に自信が持つ事が出来た。まだまだ実力は及ばないのも事実だが、このまま頑張ればいつかきっと.....
こうして季節は冬も目の前という季節になり、俺達は次の目的地『樹海国家ユグフォレシア』を目指す準備を進めていくのであった。
いつものように次から閑話を数話挟んで新しい章に突入します。
次はフローラがメインの国になる予定です。
いつもお読み頂き本当にありがとうございます。




