初めてのお買い物①
いつもより少し短めです。
目の前に迫る鋭く尖った氷の塊の雨を、俺は対峙する人物の外側を大きく回り込むように走りながら躱していく。
「よい、よいぞ!ふむ....では次はどうする?」
アイスニードルと呼ぶには少しばかりデカすぎる氷柱の雨が止み、特大の火球が視界を塞ぐ。
「んぎっ!....こなくそぉぉぉぉぉ!!」
俺は躱すのは無理だと悟り、素早く体勢を立て直してウィンドカッターを火球にぶつけた。
ぶつかり合った瞬間、大きな爆発が起こり激しく土煙が巻き起こる。
今だっ!俺は術者との距離を詰める為に全力で土煙の中突っ込んで行く。
「もらったぁぁぁぁぁぁ!」
拳を振り上げ、術者に攻撃が届く。
そう思った瞬間
「甘いわ!」
術者はニヤリと笑い、俺と術者の間に白い光の壁みたいな膜が展開されると、ガンっ!っと俺の拳が阻まれた。
「へっ?.....ぐぼぁっ!」
攻撃を止められ、硬直した一瞬の間にカウンターを貰い、俺は吹き飛ばされて気を失ってしまった....
どのぐらい気を失っていたのだろう。
気が付いた俺は綺麗に殴られた頬に手を当てながら身体を起こした。
「痛っっ!....くっそ~、もう少し手加減してくれよシャルミナ」
「すまぬすまぬ、思った以上にカズキ様がやれるんでの。思わず力が入ってしもうたわ」
カッカッカッ!と腰に手を当て胸を逸らしながら笑う少女、シャルミナに恨みがましい視線を向ける。
紫色のボブカットでその頭の左右から立派な巻き角を生やし、褐色の肌に少し釣り目で黄色の瞳を楽しそうに細める。
背は低く、背には蝙蝠みたいな羽が生えており、メイド服を着ている姿は小学生がコスプレしているようにしか見えない。
そんな彼女がここにいる経緯は、他の者と少し事情が違う。
彼女、シャルミナは地上で長く魔族を束ねる国の王、魔王を務めていたのだが、ある突然『飽きた』と言って部下に強引に魔王の座を譲り、フラフラと色んな場所を旅している時に親父と出会い、そのまま付いてきたらしい。
「いやぁ~、それにしても随分と強くなっとるのぉ。あの火球が相殺されるとは思いもよらなんだわ。よいことじゃ」
そう言いながら俺に手を向け、回復魔法を使って傷を癒してくる。
シャルミナは楽しそうだが、俺は物凄く悔しい。
今日こそは1発ぐらいは入れてやる!そう意気込んでいたのだが結局いつも通りに1発も入れれずに終わってしまった.....
内心で悔しさを押し殺していると
「おーいっ!カズキーっ!!」
後ろから誰かの呼ぶ声が聞こえてきた。
「なんじゃ?カイエンではないかや?」
シャルミナの言葉に俺も振り向くと、カイエンが手を振りながらこちらに走ってくる。
傍にきたカイエンに俺は立ち上がりながら軽く手を上げて答える。
「よっ!今日はどうしたんだ?また模擬戦でもしに来たのか?」
「いや、本当は手合わせしたいんだけどな。今日は別件と言うか、お誘いにきた」
「お誘い?」
「おうっ!....ってアレ?シャル婆じゃん?久しぶり!」
シャルエルに気付いたカイエンが挨拶を交わすが、シャルエルは青筋を浮かべ
「んん~?気のせいかのぉ?今婆と聞こえた気がしたんじゃが?のぉ?カイエン?」
「いだだだだっ!!すいませんでしたっっ!!俺の勘違いでしたっっ!!」
フワリとカイエンの顔の高さまで浮かぶと、ガシっとカイエンの顔掴み笑顔でアイアンクローをかます。
目が笑ってないからその笑顔はとても恐ろしい.....
というか、そのちっちゃな手でよくアイアンクローなんてできるね?
「よいか....妾はカズキ様より少しだけお姉さんな乙女じゃ。よいな?」
「いででででっ!!分かった!分かりましたっ!!間違えましたっ!シャル姐でしたっ!!いだだっ!!」
そういってアイアンクローから解放されるカイエン
「おぉ~....いってぇ~....いきなり酷いじゃねーか、シャル姐!」
「ふんっ!失礼な事を突然言い出す方が悪いんじゃ!」
「いや、それは悪かったけどさ.....そういや、シャル姐もメイドの恰好してるって事はカズキの側付きなのか?」
「うむ、その通りよ。妾も皆と共にカズキ様からの寵愛を頂けるように目指しておる。まぁ、カズキ様の事情はフローラから聞いとるからの。なぁ~に、カズキ様の身も心もこの妾の大人で魅力的なぼでぃでイチコロじゃ。あっと言う間にお心を癒してメロメロにしてみせるでな」
そう言って妖艶に微笑みながらシナを作る。
せくしーぽーずを作ってるつもりなのだろうが、見た目小学生ぐらいなので圧倒的に色気が足りない。
それを見たカイエンが、ブフッ!と吹き出してしまい、再びシャルミナから折檻を受け始めた。
我が友は相変わらずである。
というか....少しぐらいは学ぼうよ....
まるで成長していない。そんな事を思いながらしばらく2人のやり取りを静かに眺めるのであった。
2人の折檻をしばらく見守り、落ち着いてきた頃に俺は声を出す。
「そういえば、用事ってなんだ?」
「忘れる所だったぜ。この前見学に来た時にいた、牛系獣人のおっちゃんの事覚えてるか?」
「収穫に参加してた、あの身体のデカい気の良いおっちゃんの事か?」
「そうそう!そのおっちゃん!それでよ、そのおっちゃんに子供が生まれたんだよ。だから何か祝いの品を送ろうと思うんだけどさ、良かったら一緒に買いにいかねーか?」
「おぉ!それはおめでたいね!行く行くっ!あの時お世話になったしな!」
「じゃあ決まりだな!なら明日一緒に娯ら...じゃなかった、ファンタスの町に一緒に行くって事でいいか?」
「ああ、それで問題ないよ。俺はまだサラディ以外行った事ないからな。正直、物凄く楽しみだ」
カイエンとそんな会話をしていると
「なんじゃとっ!?明日じゃと!?ぐぬぬぬ....今日であれば妾が同行者であったものの....明日はネルの番じゃからあやつは確定としてもう一枠か....ミラーカは用事があると言うとったから、ライバルはリロロとフローラか。前回の同行者決定じゃんけんでは遅れを取ってしもうたが、今回こそは妾が勝利をもぎ取ってくれるわっ!」
シャルミナが後ろで1人、小声でブツブツと何か言っていた。
どうやら前回の時はじゃんけんで負けたらしく、それがとても悔しかったのだろう。
「じゃあ、また明日の朝迎えにくるって事でいいか?」
「ああ、それでいいよ」
「わかった。じゃあまた明日なっ!」
そう言いながら後ろ手に帰っていくカイエンに俺も軽く手を上げ返す。
そんな俺の後ろで、今日のじゃんけんを勝つために、真剣に自分の世界に入りブツブツと呟くシャルミナの声が耳に入ってくる。
「リロロは目が良すぎるから簡単なフェイントには引っかからんしのぉ....フローラの奴は幻術まで使ってきよるからその対策をどうするかじゃな....こうなったら大規模結界でも展開して本気をだすか?じゃが、それをしたら外は平気でも部屋が吹き飛ぶからのぉ....こうなったらネルをこちらに引き込むか?そうなると対価を何にするかじゃが....」
などと悩んでいた。
....それって本当にじゃんけんなの?
そんな物騒な言葉を耳に入れつつ、修練場の片づけを始める。
明日は商業と娯楽の町ファンタスか....楽しみだな~....
そんな事を思い、ワクワクした気持ちを抑えるように、未だ1人ブツブツと呟いているシャルミナと共に屋敷に向けて歩きだしたのである。
~キャラ設定メモ⑧~
本名:カイエン
種族:鬼族
性別:男
身長・体重:210cm・108kg
年齢:27歳
好きな食べ物:お酒類
嫌いな食べ物:特に無し
戦闘スタイル:近接前衛スタイルで主武器は刀。魔法は苦手だが、武器に魔力を纏わせたりそれを飛ばしたりと以外と器用。
容姿:黒い短髪に額の中央から角が生えている。朱色の肌をし若干目つきは悪いが顔は整っている。ソウカの息子だけあって、目つきの悪い所以外はソウカにとても似ている。
性格・その他:軽薄な言動が目立つが根は仲間思いで真面目。思った事をすぐ口にしてしまい、デリカシーのない発言をする事が多く、よく女性陣からお仕置きをされている。
叱られてもまったく懲りる気配がなく、常にポジティブな和希の友人である。
じっとしているのが嫌いな為、ソウカの後を継いでサラディの町をまとめる気はなく、本人は憲兵として町に貢献したいと思っている。
学校を卒業した時期がリロロと同じであり、リロロの在学中にはよく手合わせをしていたのだが1回も彼女に勝てたためしはない。
学校にいた女性達からは物凄くモテているのだが、本人は強さを追い求める事に夢中な為その思いには気付いていない。