ローグンのダンジョン⑨
俺達の目の前には今、扉がポツンと立っている。
この島には扉の他何も無く、その扉もまるで空間に生えているようで周りには何も見えない。
横から見ても、後ろから見ても見えるのはその扉だけである。
「裏にはドアノブが無いね?こっちが表なのかな?」
ミラーカの言う通り、裏と思われる側にはドアノブは付いておらず、心なしか扉の装飾も地味な気がする。
「空くんだろうか?ボスに勝たないと空かないとかだったら面倒だなぁ~」
「なぁ~に、その時は妾が瞬殺してくれるわっ!」
カカッ!っと頼もしく笑うシャルミナなのだが、俺はその言葉に少し考える。
.....いや、俺今まで何もしてないんだけど.....ここは俺戦う!って言った方がいいのかな?
俺はこれまでボスとは戦っていない。
辛うじて3層でスノーウルフを退治したぐらいである。
つまり殆ど役に立っていない訳なのだが、俺にも一応プライドと言う物がある。
.....よしっ!やってやるっ!やってやろうじゃねぇかっ!!
「.....いやっ!ここは俺が戦うよ!俺は今まで何もしてないしな.....」
俺は意を決して言葉を吐いた。
「妾は別に構わんが.....でも何もしてないと言う事はなかろ?じゃから無理にカズキ様が戦わんでもええんじゃないかの?」
「雑魚相手なら僕達に任せてくれてもいいんだよ?」
「いや、実際何もしてないしな。ここは俺に任せてくれっ!」
2人は俺を気付かってそんな事を言ってくれるのだが、その優しさに俺はますます気合いを入れる。
.....優しさだよね?期待されてないとかじゃないよね?
若干不安になりながらも俺はやる気を漲らせる。
うぉぉぉぉぉっ!やるぞぉぉぉぉぉっ!!
「でも.....まだ戦うと決まった訳ではないんですよね?」
俺はリロロの言葉に少し冷静になる。
「まぁ.....そうだね。もしかしたらすんなり扉は開くかもしれないしな.....とりあえず開けてみるか」
俺はそのままドアノブを掴み、扉を開こうと手に力を込めた。
すると扉は何事も無く、スッと開いたのである
開くんかいっ!!
「何で簡単に開いてんだよっ!じゃあ、あのボスは何の為にいるんだよっ!!」
俺は大声で思わずツッコむと
『あのボスは倒すとここまで来る道が出来るんだよ』
突然扉の中からそんな声が聞こえてきた。
『ワオッ!?可愛い子ちゃんが4人も!?ささっ、中へどうぞどうぞっ!お疲れでしょう?』
俺達はその声の言われるまま中へと入る。
あと、誰が可愛い子ちゃんだっ!俺は男だっ!!
「.....ここがダンジョンの最奥なのか?」
『その通りだよ可愛い子ちゃんっ!ここがこのダンジョンの終着点、コアルームさっ!』
「ここが.....ってオイッ!俺は男だっ!間違えんなっ!」
『ペッ!男かよ.....男が来やすく俺様ちゃんに話けてくんなっ!』
「コイツッ.....男と分かった途端に手のひら返しが激しいなっ!んで?お前は何なんだ?」
『......』
「シカトしてんじゃねぇよっ!!」
そんな俺達のやりとりを見ていたシャルミナが口を開く。
「.....お主はこのダンジョンのコアか?」
『その通りだよっ!可愛い魔族お嬢ちゃん!良かったら俺様ちゃんと交尾しないかいっ?』
コアは軽い感じでシャルミナへと言葉を投げかける。
「.....カズキ様、このダンジョンぶっ壊してもええかの?」
「待って待ってっ!壊すとローグンの人達が困るからっ!気持ちは分かるけど壊すのだけは止めてあげてっ!」
『アッハッハッ!ジョークジョークッ!お茶目なコアジョークだよっ!』
「コアってこんな感じなのかな?僕も初めて知ったよ」
ミラーカが何やら幻滅したような感じで言葉を漏らすと
『ヴァンパイア族のお姉さん、コアも千差万別、色々なコアがいるのですよ。あっ、よろしければ俺様ちゃんと小作りでも如何?』
「.....僕もこのコアはぶっ壊した方が良いと思う」
今度はミラーカにコアは余計な事を口走る。
「待ってミラーカっ!気持ちは分かるからっ!気持ち悪いよねっ!?でもローグンの人達の為にも何とか抑えてっ!後で俺が何でも言う事聞いてあげるからっ!」
「えっ?今何でもって言った?言ったよね?絶対に僕の言う事聞いてもらうからね?」
「アッ、ハイ」
しまった.....ついうっかり言っちゃったけど失敗したわぁ~.....
「当然妾もじゃろ?」
「モチロンデスヨ~、アハハ」
くっ、数秒前の俺を殴ってやりてぇ.....
『そこの犬獣人のお嬢さん、どうだい?俺様ちゃんとその大きなお胸で楽しい事しないかいっ?ハァハァッ!』
次はリロロをターゲットにしたようだ。
「.....カズキ様、壊しましょう。このような邪悪なコアはこの世に残しておけません!直ぐに粉々に砕くべきです!」
「リロロもスト~ップッ!!リロロのお願いも聞くからっ!だから何とか我慢してっ!お願いっ!.....ってかお前もいい加減自重しやがれっ!!」
俺はリロロを何とか宥め、コアに向かって大声を張り上げた。
『.....うっせぇなっ!男が俺様ちゃんに指図すんじゃねぇよっ!確かカズキっつったな?.....うん?カズキ?』
あっ、この感じ.....俺、知ってる。
『.....もしかして.....ミリアーナ様のご子息のカズキ様?.....いや、まさか.....でもお顔も良く見れば似ていらっしゃるような.....』
「.....母さんの事知ってんのか?」
『勿論でございますよっ!いやぁ~、坊ちゃんもお人が悪いっ!ミリアーナ様の息子様ならそうと言って頂ければ良かったのにっ!ささっ、お疲れでしょう?あっ、肩でも揉みましょうかね?』
コイツ、手首にドリルでも装着してんのか?ってぐらい掌返すな.....
いや、丸い宝玉みたいな奴だから手首なんて無いんだけどさ。
「.....ミリア様の息子と知った途端に態度をアッサリと変えよったぞ?」
「.....急に凄く媚びだしたねっ!」
「.....流石に虫が良すぎるんじゃないですか?」
コアのあまりの変貌ぶりに3人も若干引き気味だ。
「それで?何でまた急に態度を変えたんだ?やっぱ母さんの息子だからか?あっ、普通に喋っていいぞ?何か急にお前に畏まった感じで媚び売られると気色悪いわ.....」
『酷いっ!ってかまぁそうですね。流石にミリアーナ様のご子息に無礼は出来ませんよ!』
「.....いや、既に結構手遅れだと思うんだが?」
『スイマセンでした~っ!どうかお許しくださいっ!何卒、何卒ミリアーナ様には内密にっ!』
「何でそこまで焦ってんだ?」
『当然じゃないですかっ!ミリアーナ様ってすっごく怖いんですよっ!?私みたいなコアなんて簡単に壊されちゃうんですからねっ!?』
「んんっ?何でそんな事になるんだ?」
『私達コアは全部繋がってるんですよ。それでラナードって人族の国に居るコア達からの情報だと、ミリアーナ様はご子息を溺愛しており、そのご子息に無礼な物は許さないって聞いてるんですっ!なのでこのままだと私が壊されちゃうっ!お願いしますっ!どうか今までのご無礼をお許しくださいっ!』
えぇ~っと.....つまり母さんが俺の事で暴走するって情報がコア同士のやり取りで行われていたと。
それで俺に無礼所か喧嘩売ってたコイツはこのままじゃ命.....ダンジョンも命って言うのか?まぁ、いいか。命が危ないと思って俺に謝罪して媚びを売り出した訳か。
「流石にそんな事はさせないぞ?っつかわざわざここまで来た意味が無くなるしな」
『そう言えば.....ここへは何用で?』
「このダンジョンの上にローグンって街があるのは知ってるか?」
『えぇ、魔族と人族の街ですよね?結構頻繁にダンジョンの中に来てますよ?最近は魔族の数が減ってるみたいですけど』
「そうそう、そこの魔族側にこのダンジョンの資源.....つまり制御を渡す為に俺達はこのダンジョンを攻略してたんだよ」
『魔族側?人族達はいいんですか?』
「人族達はなぁ~.....まぁどっちかって言うと敵.....なのか?」
俺は思わず嫁さん達に聞いてみた。
「敵じゃろ?」
「敵だよね?」
「敵ですよ?」
冷たいようだが、俺自身あんまり印象に残ってないからどうでもいいんだよね。
ジーポーンって国は確かに好きじゃないけど、それでその国に在籍する全ての人が敵か?って言われたら微妙なんだよな.....興味が無いとも言うけど。
「まぁ、そういう訳でこのダンジョンの力をローグンの魔族の人達に渡したい訳なんだが.....それって出来るか?」
『勿論可能です。ですが、管理者を選んでもらう必要がありますよ?』
ダンジョンマスターの事か。
『管理者はどなたにすればいいですか?』
「管理者って、このダンジョンを攻略した人しか選べないのか?」
『いえ、特にそのような決まりはありませんけど?どなたが外部から連れてきた人でも問題ないですよ?』
ふむ....
俺は少し考え込む。
「カズキ様、どうするつもりじゃ?」
「いや、俺はダンジョンを攻略したらダンジョンが勝手に魔族側に味方してくれるって思ってて、ダンジョンマスターの存在をすっかり忘れてたんだよ。だから1回戻ってザザさんに聞いてこようかなって思ってるんだけど.....」
「あ~、そういえば僕もすっかり忘れてたよっ!」
「そう言われればそうですね。ダンジョンを管理するならダンジョンマスターが必要。何故このような当たり前の事を忘れてたんでしょうか?」
いや.....まぁ原因は俺なんだろうな。
母さんから逃げるように勢いだけでダンジョンに来たからな.....
「なぁコア?ここに来るのってまた1からダンジョンを攻略しないと無理か?」
俺は一応そう聞いてみる。
『いえ、1度攻略された方なら何度でも行き来出来ますよ?.....え~っと.....あっ、コレです』
コアはそう言って俺達の目の前に何やらブレスレットを出現させた。
「.....コレは?」
『それは転移のブレスレットです。転移と言ってもここと地上を行き来出来るだけですが、そのブレスレットを装備した人に触れていれば別に人も一緒に移動できますよ』
「おぉっ!それは有難い!じゃあ1回戻ってからまた来るよっ!」
『畏まりました。ではお待ちしております』
「って事で1回戻ろうか?とりあえず俺の身体に触れてくれ!」
俺はそう言うと、3人に俺に触れるように言う。
.....別に抱き着く必要は無いんじゃないか?
えっ?直に触れた方が確実?
いやいやっ!別にそんな事ないだろっ!?
何で服を脱がそうとしてくるんだよっ!
オイッ!止めろっ!
ズボンの中に手を突っ込もうとしてくるんじゃないっ!
えぇいっ!とりあえず戻るぞっ!!
こうして無事にダンジョンを攻略した俺達は管理者を選んでもらう為、1回地上へと戻るのであった。
.....アレッ?もしかしてこのブレスレットで移動するって事は、ヘラクレス君に会う機会が無いって事か?
俺の脳裏に不吉な事が思い浮かぶが、俺は気のせいだ!そんな事ないさ!きっとまた会えるさ!と自分に言い聞かせるのであった。




