初めての外出
「....はい?町?」
「そうだ、カズの力も安定してきたしな。そろそろ顔見せも必要だろうし、明日の休みにでも行ってくるといい。ちゃんと案内も付けるし、心配はするな」
いつものように模擬戦が終わり、息を整えていると親父が急にそんな事は言い出した。
どうやらこの空に浮かぶ大陸には、約2万にもの人が住んでいるらしい。
てっきりここは、親父たちの隠れ家みたいなもので、家で働いてくれてる人だけなのかと思っていたのだが違うらしい。外出しなくても特に不自由しなかったせいかその辺りの事は全然考えてもいなかった。
この家、バカでかいし、めっちゃ広いからな....
この家で働く使用人やメイドは、家の裏にある男性寮、女性寮、家族寮と呼ばれる3つの棟に分かれて暮らしている。
この大陸の町は、農業系を主とした町、酪農や畜産系を主とした町、繁華街や娯楽を主とした町の3つに分かれており、食糧自給率は驚きの150%を超えているらしい。
保護した人々は、迫害されず、虐げられる事もないこの地をとても大事に思っているらしく、積極的に労働に励んでくれているのだそうだ。
怪我で動けない者や、精神的に働けない者には治療やケアも手厚く行っているらしい。
そんな親父の説明を聞きながら、少し親父の事を誇らしく思うのだが、本人は絶対言わない....
そういえば....経済的な事とかどうなってるんだろ?主にお金とか....
さすがに働いて、給料は現物支給です!なんて事はないだろう。
商業施設的な場所もあるって言ってたし.....まさか、物々交換でよろしく!なんて仕組みじゃないよね?ね?
「そういや、こっちってお金とかその辺どうなってんの?」
「ん?普通に地球と同じだぞ?働いてお金を稼いで、お金を払って物を買う。ちなみに硬貨は地上と同じ物だな」
「外貨とかどうやって稼いでるんだ?もしかして....母さんが大量生産してるとか....ないよな?」
「失敬なっ!そんな事するかっ!実は俺と一緒に召喚された友人がいてなぁ、そいつが王様やってる国が地上にあるんだよ。そんでそいつの国と密かに交易してるんだよ」
ウハウハだぞ?っと顔をニヤニヤさせながら俺に言ってくる。
少し前の、俺の誇らしい気持ちが台無しだよっ!
それにしても、そんな人がいたのか....いつか地上も行ってみたいし、その時に会えるかな?
いや...流石に王様やってるから無理か?まぁ、親父の事だ、ある日突然紹介されたりするんだろうなぁ。
「まぁ、久々に外出するんだ。のんびりと楽しんでこい」
「ああ、そうするよ」
「じゃあ明日の朝、迎えを寄越すからな。しっかりと案内してもらえ」
「わかった」
そう言って親父と別れると、汗を流す為にお風呂に向かう。
なぜか最近、最初にいたメイドさん達ではなくリロロ達、専属のメイドさんが入浴を手伝ってくれるようになった。
俺はなんで我慢してるんだろう....このまま流されたら楽になれるんじゃないか?
彼女達からここまで言われて手を出さないのは逆に失礼なんじゃないか?
欲望に負けそうになる心を、なんとか理性を奮い立たせて自分を鼓舞する。
忠誠がゆえ、自分の身体も捧げて奉仕するなんて気持ちであれば、正直止めてほしいんだよなぁ....
なんかそういうの嫌だし....
好意をもって言ってくれてるのであれば、もう少し前向きに喜べるんだけどなぁ....
でも、特に好意を告げられるとかは無いんだよねぇ....
う~ん、わからん!
そんな事を考えながら、今日も大人しく彼女達にワシャワシャと洗われるのであった。
翌日の朝
コンコンッ!っとノックの音が聞こえ
「どうぞー」
俺の返事の後に
「「「失礼します」」」
と言いながら3人のメイドが入室してくる。
「「「おはようございます」」」
「おはよう、今日はアリアとリロロとミラーカが案内してくれるの?」
「左様でございます。本日は私とこの二人が側付きとして同行せて頂きます」
「アリアは母さんから離れても大丈夫なのか?」
「問題ございません。というよりもミリア様からのご指示でございます」
っと微笑み、大丈夫だとアリアが告げると
「私とミラーカちゃんは、今日行く町に住んでいたので詳しくご案内できると思います!」
元気いっぱいにリロロが答える。今日も一部から凶悪な波動が溢れでている....
「はい!僕とリロロはあの町に住んでいたのでご期待ください!」
ミラーカと呼ばれたメイドはニッコリと笑顔でそう言ってきた。
このミラーカ、長い金髪をサイドで纏めており、真紅の綺麗な瞳をしている。
身長が高くスレンダーな体型なのだが、出るところは出ているのでとてもバランスのいい体型だ。
歳はリロロよりやや上ぐらいに見えるが、実年齢は倍以上らしい。聞かないけど....
ニコっと笑った口元からは、牙にような犬歯が2本見えている。
彼女はヴァンパイア族なのだそうだ。
ヴァンパイアのイメージとしては
日光に弱い、ニンニクと十字架に弱い、心臓に食いを指すと死ぬ、銀製品が苦手、真水が渡れないなど色々な弱点があるイメージだったのでそれとなく彼女に聞いてみたら
「日光に弱いって生物としてダメなんじゃ....僕、ニンニク料理は好きですし十字架も全然なんてことないですよ?心臓に杭を刺されて生きてられる生物っているんですか?お風呂は大好きですよ?」
と言われてしまった。正論過ぎてなにも言えぬ....
休日で出かける時など、装飾品でおしゃれをする事も多いらしく、銀製品がダメって事もないらしい。
寧ろ銀を使った装飾品は好きらしい。
そしてヴァンパイアで1番有名であろうイメージ、吸血。
吸血について聞いてみると
「ぼ、僕以外の人に外でそんな事を言ったらダメですよ!」
っと顔を真っ赤にさせて注意されてしまった。
どうやらこっちのヴァンパイアにとって、吸血行為は夜にパートナーと行うちょっとエッチな運動と同義らしい。
生きていく上で血を摂取する必要は全くないないらしく、俺が気軽に聞いた
「血って吸わないの?」
って発言は彼女からしたら『エッチな事しないの?』って急に言われたに等しい。
そりゃ、そんな反応になるよね....
迂闊な自分をぶん殴りたいぜ.....
そんな彼女達との軽い挨拶とやり取りを終え、移動した俺の目の前にあるのは車である。
異世界ェ....と思わず言ってしまいたくなるぐらいの文明レベルだが、便利なのはありがたい。
目の前にある車は、正式には魔動車と呼ばれるらしく、エンジンの変わりに魔動エネルギー連動装置と呼ばれる物に魔力を注いで動かす物らしいい。
外見はバスのように大きい箱型をしており、内装はリムジンみたいな豪華な部屋になっている。
はえ~....と感心しながら乗り込むと、バスがゆっくりと動き出した。
運転してくれているのは、トカゲ顔で鱗に覆われた肌をしている、リザード族と呼ばれる、ピシッとした制服らしき物をきている人だ。残念ながら、トカゲ顔のリザード族の性別を判別するのは無理だったので、そばにいる3人に聞いてみる。
「彼は雄ですよ」
とミラーカが優しく教えてくれ
「リザード族の性別を見た目で判断するのは、僕達も無理ですから....」
っと苦笑いしていた。
車に揺られる事2時間.....
どうやら目的の町が見えてきたらしい。
主にこの町は農業を主としているらしく、町つくまでの間、道の左右に広大な畑が広がっていて圧巻だ。
俺が普段口に入れている野菜や果物は、ここで採れた物なのだそうだ。
この町の管理を任されている人物にまずは挨拶を、という事でその人の屋敷を目指す。
奥になんかでかい家が見えるから、きっとそこなんだろうな。
向こう途中で町の様子を見てみる。
この町は、大まかに分けて、綺麗なコンクリートみたいな白い家が立ち並ぶエリア。
食品や雑貨、日用品を売っているエリア。
農業系の実験や品質をチェックする専用のエリア。
などに分かれているらしい。この町で暮らすのは約6000人ぐらいらしいので、町の規模は小さい。
娯楽などは専用の町が別にあるらしいので、休日は皆そっちに出かけるのだそうだ。
今の時間帯は仕事に出ている人が多いせいなのか、町は人通りが少なく静かだった。
ただ、見かける人達は皆幸せそうに見え、過去に辛い思いをしてきたとは思えないような笑顔で会話していた。
親父達は、本当に頑張ってるんだな.....
俺はこれから何をしたいんだろうか.....
何が出来るんだろうか.....
何をするべきなんだろうか.....
自分の今後の事をぼんやりと思考する。
「お疲れ様でした、カズキ様。到着致しましたので降りるご準備を。リロロは先に行って出迎えの準備の補佐をしてきなさい。ミラーカはカズキ様の護衛として私たちに同行しなさい」
「「はいっ!」」
アリアの指示により、返事とともに即座に動きだす2人。
いかんいかん、今後の事は後で考えるとして、今はちゃんと挨拶しないとな。
心を切り替えバスから降りると、屋敷の前にズラリと並ぶ使用人とメイド、奥には初日に紹介された額から角を生やした女性が立っているのが見えた。
バスから降り、屋敷の門をくぐると
「「「「「おかえりなさいませ!カズキ様!」」」」」
と一斉に頭を下げられてしまう。
ほわい?どゆこと?普通ここは、いらっしゃいじゃないの??
困惑する俺に、アリアが耳元でこそっと教えてくれた。
「ここの場所は元々、ジン様とミリア様の物でございます。ですのでそのご子息であるカズキ様の家も当然と言っても過言ではございません」
若干のドヤ顔でそんな事を言う。
過言だよっ!
そもそも初めて来る場所なのにおかえりって変だろっ!
そこはいらっしゃいませにしとけよっ!
大声でそう叫びたかったのだが、出迎えてくれている人達の雰囲気を見ると、とてもじゃないけど言えない....
「あ~....えっと、ただいま?」
苦笑いでそう返すのがやっとである。
後ろではアリアが当然とばかりにウンウンと頷いていた。
スッと角を生やした女性が前に出てくる。たしか....ソウカさん、だったか?
「ようこそおいで下さいました。改めて紹介させていただきます。ジン様とミリア様からこの町の管理を任されております、名はソウカ、種族は鬼族です。どうかソウカとお呼びください」
「お久しぶりです。こちらこそ今日はよろしくお願いします」
「私はカズキ様の臣下にあたります。かしこまった口調は私には必要ありませんので、どうか普段通りにお話ください」
「わかった、そうさせてもらうよ」
「では、お部屋にご案内させていただきます。どうぞこちらへ」
彼女に部屋まで案内され、ソファーに腰かける。
リロロが淹れてくれたお茶を一口飲むと、ふぅー....っと一息つく。
さて、これから色々話を聞こうとしたその時、遠くの方からドドドドドドッ!っと音が聞こえ、誰かが走りながら近づいてきているようだ。
その音に釣られ、全員ドアの方に視線を向けると、ドアがバンッ!っと勢いよく開き、角を生やした男が飛び込んできた。
「カズキ!やっと来たんだってな!!手合わせしようぜっ!手合わせっ!!待ち遠しかっ、ぶへらっっ!?」
飛び込んでくるなりテンション高めで大声で喋っていた男をソウカが殴り飛ばし、男は壁に頭から吹き飛ばれた。
壁に首まで頭をめり込ませ、お尻を向けてブラーンとしている男の姿は、とても悲しかった。
死んでないよね?アレ....
~キャラ設定メモ④~
本名:アリアエル
種族:天使族
性別:女
身長・体重:165cm・??kg
年齢:?歳
好きな食べ物:甘い物
嫌いな食べ物:辛い物
戦闘スタイル:後衛の魔法職、攻撃も回復・補助も使える
容姿:肩口ぐらいまでの長さの真っ白な髪に銀色の瞳、背中からは5対10枚の翼を持つ
性格・その他:ミリアに創造された彼女の眷属。ミリアの事を崇拝しており、その息子の和希の事も崇拝している。陣にも忠誠は誓っているが、二人に比べると扱いは控えめで常識的である。
背中や翼はとても敏感で、特に付け根の部分が弱い。
実は翼は消す事も可能なのだが、ミリアから創造された姿に誇りを持っており消すのを嫌がる。
そのせいで背中の空いた服しか着られないが、本人は特に気にしていない。
なんでも卒なくこなすように見えて、実は割とポンコツ。
彼女の崇拝はやや狂信に近く、ポンコツな狂信者といった、ミリアとは違った意味でやべー奴。
カズキに向ける感情は、異性としてではなく、弟や息子に向ける感情に近く、ミリアのように甘やかしてお世話したい過保護っぷりをその心に秘めている。