人は慣れるもの、例外もある
異世界ミーアゼルクという世界で暮らすようになり、3か月が過ぎた。
初めは困惑していた状況も今では日常だ。
基本的には午前中は基礎的に鍛錬を行い、午後から模擬戦を行うという鍛錬尽くしの日常だが、これが思ってた以上に楽しい。厳しくて辛い時もあるけど.....
初めて魔法を使えた時なんて、テンションが振り切れてはしゃぎ過ぎてしまったのを、使用人やメイドの人達に温かい目と表情で見られてた時は、流石に恥ずかしかったけど.....
それだけ魔法という未知の技術と力を覚えるのは楽しいのだ。厳しくて辛い時もあるけど.....
魔法だけでなく、各種武器の扱い方や格闘などを覚えるのも楽しい。
筋トレやランニングなどは、ただただ辛い.....大事な事は分かるから、疎かにはしないけどね.....
午後の模擬戦の相手は、使用人やメイドさんが相手をしてくれる時もあるが、基本的には親父が相手だ。
どうやら父の威厳を見せようと、張り切ってるらしいのだが、毎回ボコボコにされる俺としては、もう少し手加減して欲しい。
毎回、ボコボコにされた後のドヤ顔がムカつくので、いつか絶対にその顔面をぶん殴ってやる!
模擬戦相手で驚いたのが、マッシュが人型で相手をしてくれたのだ。
こっちの世界って竜は人型になるのが普通なのか?と疑問に思って聞いてみたら
「いや、人化できるのは我だけですな。竜の姿だと美味い物を腹いっぱいになるまで喰らおうと思うと、大量に必要ですからな。この姿になると少しの量で済むので、大変便利ですな」
わはははは!っと、とても食い意地の張った理由だった。
ちなみに、本来、竜などこの世界の魔物に分類される生き物は飲食を必要とせず、魔力があれば生きていけるらしい。趣味嗜好はそれぞれで違うらしいのだが、マッシュは飲食がとても好きで頑張って人化を取得したのだと、自慢げに語ってくれた。
竜って、もっと厳格で威厳あるイメージだったのだが....
そういえば、ポテチも『とりあえず消し飛ばしておけばヨシッ!』みたいな脳筋コメントしてたな....
やはり、イメージと現実って全然違うんだなぁ.....
いかんいかん!話を戻そう。
最初は、人型と言ってもそこは竜。俺消し飛んだりしないよね?と、ガクブルだったのだが、以外と言ったら失礼だが、マッシュはもの凄く手加減が上手かった。
アドバイスも丁寧で分かりやすく、ノリと勢いだけのどこかの親父は、是非見習って欲しい。
『グッとして、ススッと動いて、ズンだ!』ってなんだよっ!分かるかっ!!
まぁ、俺の為に張り切ってくれてるっては分かるから、少し嬉しい気持ちもあるんだけどな....
恥ずかしいし、調子に乗るのが目に見えてるから絶対に言わないけど。
この世界では1年は360日らしい。
それぞれ1~12の月があり、1つの月、30日を10日毎に上・中・下と分け、そこから1~10の数字で区別してるらしい。
たとえばクリスマスをこちらの暦でいうなら、『12の月、下の5日』となるのだが、日本の暦に慣れ親しんだ俺は、まだまだ慣れない。
俺の鍛錬は基本、2日鍛錬したら1日休養日なので、今のところは問題ない。
鍛錬が終わると風呂に入ってのんびりするだけなんだが、風呂も最初は戸惑った。
広くてデカいのも驚いたが、これはまぁ、日本の温泉とかでも見るのでスゲーって感想で終わった。
問題はメイドさんに数人で、頭の先から足の先までワシャワシャと洗われる事だ。
恥ずかしいからと断ったらめちゃめちゃ泣きそうになられ、『彼女達の仕事を奪うな!』と両親に怒られたので恥ずかしいが我慢している。
ちなみに当の本人達は、二人で入りたいからと自分たちだけでのんびり入っている。解せぬ.....
洗ってくれるメイドさん達は一応、湯着みたいな物を着ているのだが、薄くて濡れると透ける。
日本だと、確実に『顔採用だ!』と言われるような、そんな美女、美少女ばかりを視界に入れるのはかなり目に毒な訳で....いや、俺も健全な男だから嬉しいけど、必死に仕事をしてくれてる彼女達をそんな目で見るのは失礼じゃないかい?
そんな事を思い、目を瞑り、冷静になろうと必死に頭で違う事を考えていても、俺の意志を無視してマイサンは『おっ?出番か?』とばかりに元気に主張するので羞恥心で心が死にそうになる。
ふふふ.....泣きそう。
洗い終わるとのんびりと湯につかるだけなので、くつろげない事はないのだが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
まぁ、気にしても状況が変わる訳ではないので慣れるしかないのだが、これにはもう少しかかりそうだ。
風呂から上がると、あとはご飯を食べてのんびりするだけだ。
ご飯は基本的に家族揃って食べるのが我が家のルールだ。一人で食べたり、自分の部屋で食べると母さんが物凄く拗ねる....
料理長を務める魔族と呼ばれる種族の男性ポールと、副料理長を務めるエルフ族の女性リリにはこの屋敷に来た日に挨拶をされた。和食、洋食、中華、どのジャンルでもいける凄腕らしい。
この世界の食材を使った料理も当然あり、物凄く美味しかった。
特に竜ステーキ。やはり、竜の肉は旨いってのは定番なんだなぁ、と感動したりしたのだが、うちにはマッシュやポテチがいるのを思い出す。
これって大丈夫なのか?マッシュにそれとなく聞いてみると
「弱肉強食はこの世の常ですからな。ちなみに我も好きですぞ」
「狩られる程弱っちいの方が悪いので、若様はお気になさらずに」
と言われてしまった。
竜族って色んな意味で凄いな.....
この世界で暮らす事になって、不安に思ってた事がある。
娯楽の少なさだ。のんびり過ごすと言っても、娯楽が少なければすぐに飽き、暇を持て余してしまう。
ネット環境やテレビやゲーム、漫画にアニメ、レジャー施設にスポーツなど、日本にいる時のように時間を潰す事は無理だろう。そうなると、その時間が結構苦痛に感じてしまうもんだ。
そんな心配をしていたのだが.....
めっちゃ充実してたわ!ネット環境とかテレビとかは見れないけど、普通に漫画とかゲームとかあるし、ブルーレイとかDVDとかで映画とかも観れた.....
漫画やゲームは普通に地球で買ってくるらしい。
そういえば、戻れないのっては俺だけで、二人は普通に行き来できるのか.....羨ましいな.....
こちらの世界では電気が無いらしいのだが、家電系や電気が必要な物は魔力で稼働するようにしたらしい。
どうやって?って聞くと『ママに任せておけば、大丈夫よ~』とニコやかに言われてしまった。
例の神様パワーのおかげらしい。万能すぎない?
娯楽系だけでなく、この家で暮らし始めて思ったが、日本に居た時と大差ない生活をしてると思う。
魔法があるので、魔道具という物がこちらでは普及しているのか、ある意味日本以上の生活かもしれない。
もしかしてこっちの世界の文明って下手したら地球より上なんじゃね?と、思ったのだが
「そりゃここだけだぞ。下の国々はこことは全然違うからな。まぁ、魔道具とかあるし、公衆浴場とかもあるからそこまで低いって訳じゃないが、ここと比べたらめっちゃ不便だぞ」
なんて親父の言葉が返ってくる。
どうやらまた、母さんの神様パワーでここを整えたらしい。
あまりにも理不尽で理解不能な力なのだが、へー、そうなんだ。ぐらいにしか感じない俺も、相当毒されてきてるのだろな.....
のんびりする為に部屋へ戻るのだが、俺一人だけではない。身の回りの世話の為に、俺専属のメイドさんが付いているのだ。
人数は1人なのだが、専属のメイドさんは数人いる為、1日毎に変わっている。
今日の担当は黒味がかった茶色の犬耳と、ふさふさのしっぽを持ったリロロという見た目高校生ぐらいの獣人の子である。
身長は低く、150cmあるかないかというぐらいで華奢な体躯なのだが、一部、胸部装甲だけは凶悪だ。
いわゆるロリ巨乳というやつだ。チラリと視線を向けると、俺も少し斜め後ろを綺麗な姿勢で歩いているのだが、胸部装甲が一歩歩く度にポヨンポヨンと素敵な魅力の波動を放つ。
クッ、負けるな俺!
彼女みたいなほぼ人をベースに、耳としっぽなどの生えた獣人系の使用人やメイドさんをうちでは多く見かけるので、彼女達みたいなのが普通なのかと思っていたがそうではないらしい。
獣人は、ほぼ獣の顔や毛の量を持っている者が普通であり、彼女達のような獣人は半端者と見下され、馬鹿にされるのだそうだ。扱いもほぼ奴隷並の扱いしか受けられず、相当待遇は悪いらしい。
人族からも、出来損ない扱いを受け、玩具替わりに簡単に暴力を振られ、慰み者にされる者も多々いるらしい。
胸糞悪くなる話だ......
親父はそういった境遇の人達を助けて保護し雇っていたみたいだ。
グッジョブ!親父っ!!
リロロのように若く、比較的ここに来て新しい人達は、地上で情報収集する為に活動している使用人によって助けられてここにきたらしい。
リロロ自身も村を戦争に巻き込まれ、村人や両親から裏切られて生贄に選ばれ、肉奴隷として差し出されて枷を嵌められ、連行されていく絶望の中を助け出されてここにいるのだと言う。
だから彼女は
「私はジン様のおかげで今、幸せに暮らせています!だからジン様やミリア様、カズキ様の為に誠心誠意仕えて少しでも御恩をお返しするんです!」
と息巻いていた。
親父や母さんが頑張った結果で、俺自身は何もしていないので、俺の事はもう少し気楽にしてくれていいよ?と言ったのだが彼女は
「カズキ様はとてもお優しいです!私みたいな者にも普通に人として見て、扱ってくださいます!だから精一杯仕えるんです!」
普通に扱われるだけでも嬉しく感じる.....その事実に、この世界の闇の一部を知ってしまい少し憂鬱になるな.....
まぁ、彼女が、彼女達が今後も幸せに、穏やかに暮らせるように俺も頑張らないとな!
パシンっ!と気合いを入れ直すにように自分の頬を叩く。
部屋に着き、そろそろ休もうかと彼女におやすみ、と笑顔で語り掛けると彼女を首を傾げ
「今日も夜伽はなさらないのですか??」
と思わず笑顔を凍る。リロロだけでなく、俺に付いてくれるメイドさんは、やけに夜伽に拘る傾向が見える。
そりゃ、健全な男だから、興味がないと言ったらウソになるが、俺は彼女達を性のはけ口にするつもりはさらさらないのである。
そんな気はない!と言えれば簡単なのだが、そう言うと彼女達は自分に魅力がないと言われたと思うのか....こちらが引くぐらい泣きそうに狼狽える。
そんなことないよ!と慰めたら『ではご奉仕しますね!』とパァァァっ!と顔を輝かせて嬉しそうに言ってくる。そして、そうじゃないよと伝えると、以下無限ループである。
だから俺はいつも通りの、もはや日課になってしまった台詞を言う
「あ~、疲れてるしゆっくり寝たいから、また今度お願いするね」
と微笑む。
「分かりました!隣のお部屋で控えてるので、いつでもお呼びください!」
ブンブンとしっぽを揺らす彼女を見ながら、こればっかりは慣れる気がしねぇ.....その前に君達、積極的すぎない!?それともこれがこっちじゃ普通なんだろうか?分からねぇ....と、内心頭を抱えながら彼女に『おやすみ』と小さく告げて、ドアをそっと閉じるのであった。
~キャラ設定メモ③~
本名:神代ミリア(元の名はミリアーナ)
種族:神族
性別:女
身長・体重:160cm・??kg
年齢:?歳(見た目は自由自在)
好きな食べ物:和希の作る料理
嫌いな食べ物:特になし
戦闘スタイル:なんでも有りのやべー奴
容姿:腰まで伸びた綺麗な銀髪と、金色と真紅のオッドアイ。超絶美女。
性格・その他:のんびりとマイペースで自由人。語尾がやや間延びする癖があるが、焦った時や怒る時には無くなる。元々ミーアゼルクを管理していた女神であるが、他世界の邪神による侵略を受けていた際になんとかしようとして陣を召喚してしまう。本来は強力な眷属を召喚しようとしていたのだが、何がどうなったのか、陣が召喚されるという事態になってしまい、陣の助けを借りながら無事、勝利を収める。
陣からの猛アタックを受けるが、陣を巻き込んでしまった罪悪感から最初は断っていた。しかし陣と共にいるうちに徐々に惹かれ、結婚に至る。
陣の事を深く愛しており、仲は良好。息子の和希の事を溺愛しており、度を超えた過保護っぷりを度々覗かせる。和希の為なら彼女の頭の中の辞書から自重と言う言葉は消える。
甘えん坊であった10歳前後の和希の事が忘れられずに、なんとかして再び甘えてもらおうと考え、和希を若返させる時にちゃっかり1番甘えてくれていた10歳に戻そうとするが陣に阻止される。それでも諦められずに、陣との間を取って15歳にしてしまった。
実は神の中でも最高位に近い神格を持つが、現在はミーアゼルクの管理は後輩の女神に押し付....譲っており、隠居中。彼女の眷属のアリアエルは、家族以外で唯一彼女を叱れる存在なので、少し苦手にしている部分もあるが、叱られそうになると察して逃げるぐらいである。
沢山の孫に囲まれた自身の楽園化計画を密かにたくらんでおり、和希の専属メイド達にゴーサインを出した犯人。無理強いする気はなく、本人達の自由意志に任せているがメイド達は全員ノリノリでやる気になっているため、ホクホクとご満悦である。しかし、思ってた以上に息子のガードが固く、自分が何か手伝ってあげなくちゃ!と余計な事を考えている。
和希の心労の大半は、この人のせいである。