精霊神ティターニアの神殿
「はい、2時間前までは私が精霊の愛し子でした。」
ユリアは少し俯いた。
「2時間前までは?」
シオンが首をかしげる。
「まるで今は違うかのような言い方だが・・・。」
「私の精霊の愛し子としての評価をご存じありませんか?」
ユリアが尋ねた。
「存じませんよ。ヴィ―ルヘミア王国とラピスラズリ大帝国は敵関係です。軍を送って戦争を始めるのは簡単ですが間者を送るのがどれだけ難しいことか分かりますか?ヴィ―ルヘミア王国は戦力はほとんどないくせして間諜からの守りだけはあついんです。」
レイがユリアを忌々し気に睨みつける。
「レイ!?ユリア嬢、レイが失礼をしました。帝国の者が王国を悪く言ってしまい申し訳ありませんでした。」
エルが慌ててレイをとめ、レイの頭を下げさせた。
「お気になさらないでください。私は国を捨てた身です。母国であろうと私を偽物扱いする国には居たいとは思いませんわ。」
ユリアは苦笑する。
「今、偽物扱いと言ったか?」
シオンの声が震える。
「はい。」
「あんな素晴らしい精霊術が使えて偽物か?一つの時代に複数の精霊の愛し子がいたという話は聞かない。つまり今王国にいる精霊の愛し子は偽物ということか。」
シオンがつぶやく。
「信じてくださるのですか?」
ユリアは美しい緑色の瞳を大きくしながら言った。
「そりゃああんな素晴らしい精霊術を見せられたら認めざるをおえない。」
「ありがとうございます。」
ユリアはほっとしたように微笑んだ。
「よかったら王国でのユリア嬢の評価となぜ追放になったのか教えてくれないか?」
なんとなくわかるけど・・・とシオンが言う。
「殿下、ここで話す必要はありません。精霊術で治癒を使うことができるのですからとりあえずは皇都の神殿に行きましょう。話は馬車の中でも聞けるはずです。」
レイが冷静に言う。
「そうだね。エル、馬車の準備を頼む。」
「そういわれると思いましたのですでに準備を済ませておきました。」
シオンがエルに言うとエルは事も無げに言う。
「・・・そうか。・・・もう。さすがエル。準備が速いね。」
シオンは顔を引き攣らせた。
「あ、びっくりしたかな?」
軍の駐屯地の入り口に停まっている馬車を見てユリアは呆気にとられた。
「い、いえ。」
「皇太子が乗ると言っても軍だからね。豪華すぎても質素すぎてもいけないんだ。このぐらいがちょうどいいんだ。」
「そう、なのですね。」
シオンの説明にユリアはうなずいた。
「ところで、話してくれるかな?」
「・・・はい、もちろんです。」
ユリアは一つ大きくうなずいた。
「・・・ここまでが私が死の森に来ることになった一連の出来事です。評価に関しては・・・精霊の愛し子としての役割を果たせない無能・・・と呼ばれていました。」
ユリアが説明する。
「・・・それは。」
シオン達は絶句する。
「無能・・・か。あの精霊術を見た後では無能とはとても思えないけど。」
「・・・無能のふりをしていたのです。無能のふりをすれば噂を聞きつけた誰かが必ず精霊の愛し子を名乗ると思ったのです。」
「つまりこの追放は望んでいたということか?」
信じられないというようにシオンが尋ねた。
「はい。精霊の愛し子を使いつぶすようなヴィ―ルヘミア王国には愛想が尽きました。」
ユリアが言う。
「ヴィ―ルヘミア王国は一体何をしているんだ。」
シオンは頭を抱える。
「王太子殿下はまともなお方ですわ。第二王子殿下とは違って王妃殿下の実のお子ですもの。頭の違いはやはり血筋によって決まるのですね。」
ユリアは笑顔で毒を吐く。
「王太子もまともではなかったら王国は終わっているだろう。」
シオンがため息をつく。
「殿下、今回のこと・・・総帥閣下に報告しないわけにはいきませんね。」
エルが心配そうに言う。
「そう・・・だな。報告しなくてもいつかわかることだ。神殿に行くついでに本部にもよるか。先ぶれを出しておいてもらえるかな?」
「かしこまりました。ついで・・・ついでですね。」
エルはニコニコと言う。
「ま、待て。ついでとか本当に書くつもりか?」
慌ててシオンがとめる。
「・・・書いてはいけませんか?」
「駄目だ!あとでねちねち言われるに決まっているだろう。」
心底不思議そうに首をかしげるエルにシオンは半ば必死に言う。
「・・・そうですか、わかりました。」
エルはうなずくと万年筆をとった。
2日後・・・。
「ここが精霊神ティターニア様の神殿ですか?とても綺麗ですね。」
皇都の中心にある巨大な神殿にユリアは圧倒された。
「お待ちしていました皇太子殿下。大神官様と聖女様は奥でお待ちです。」
出迎えにあらわれた神官はユリアたちを奥に案内した。
「こちらでございます。」
神官は大神官の部屋に案内した。
「失礼します。」
シオンは声をかけると返事を聞く前に扉を開けた。
「ようこそいらっしゃいました皇太子殿下。お久しぶりにございます。ユリア様、ロバート様お初にお目にかかります。聖女アルスティーナと申します。」
部屋のソファーでくつろいでいた聖女アルスティーナは立ち上がるとカーテシーをする。
「初めましてアルスティーナ様。ユリアと申します。」
「初めましてアルスティーナ聖女様。ロバートと申します。」
ユリアとロバートは挨拶をする。
「皇太子殿下。お久しぶりです。」
部屋の奥から大神官があらわれる。
「ユリア嬢、ロバート殿は、はじめましてですね。精霊神ティターニア様の神殿の大神官アヴィオと申します。」
「お初にお目にかかります。大神官様。ユリアと申します。」
「お初にお目にかかります。ロバートと申します。」
ユリアとロバートは丁寧に頭を下げた。
「お話は聞きました。ユリア嬢が精霊の愛し子かどうかを確かめてほしいということであっていますか?」
アヴィオが尋ねた。
「あっています。」
シオンはうなずいた。
「それでは場所を移しましょう。ここでは精霊の愛し子かどうかを確かめることはできませんから。」
アヴィオはシオン達を引き連れて部屋を出た。
「ここが祈りの間です。精霊神ティターニア様が唯一現れることができる場所です。」
アルファポリスさんの方で投稿、更新している『無能と称され婚約破棄された精霊の愛し子は国を見切ります』は本編が完結しました。