自称取り巻き達と選択肢
「私達です。」
サイラスとリリアの後ろから5人ほどの令嬢たちが現れる。
「彼女たちですか?」
ユリアがサイラスに尋ねた。
「そうだ。」
「皆さまに証言します。私達5人はユリア様に命令されてリリアさんを階段から突き落としました。教科書を盗んだのも落書きしたのもユリア様に命令されたからです。この証言は精霊神ティターニア様に誓って嘘ではありません。」
ユリアの返事を待たずに5人の内金髪に縦ロールの華美なドレスを着た令嬢が言った。
「嘘でしょう。ユリア様が本当にそんなことを・・・!?」
「ティターニア様のお名前を出されたということは嘘ではないようですし。」
「なによりあの場にヘスティン伯爵令嬢がいるというのは・・・。」
「あの、悪事ばかりやっていることで有名な?」
「そうそう。何人もの貴族令嬢たちを退学に追い込んだらしいわ。」
おしゃべり好きな貴族たちがひそひそと会話に花を咲かせる。
「社交界に疎くて申し訳ないのですが。その方たちはどなたですか?一度もお話したことないのですが・・・。お顔を拝見するのも今日が初めてです。」
不意にユリアが言った。
「そんな!私達を脅してやらなければ殺すと言ったのに!?」
貴族たちにヘスティン伯爵令嬢と呼ばれていた令嬢、ユーテミア・ヘスティンがホロホロと涙を流す。
「わざとらしいですわね。」
一人の貴族令嬢がつぶやく。
「殿下、もういいです。殿下とお話するのが疲れました。ここまでということにしましょう。」
ユーテミアの存在をガン無視して、ユリアはサイラスに言った。
「リリアが本物かどうかを試すのはどうしたのだ?」
サイラスは意地悪く笑いながら言う。
「・・・もうどうでもよくなったので。リリアさんが精霊の愛し子になりたいのなら止めはしません。ただしその行為の代償は高くつきます。日々気を付けて生活なさった方がよろしいですよ。」
ユリアは胸元に飾っていた精霊の愛し子の記章を外すとリリアに近づいた。
「な、なにをするんですか?」
おびえたようにリリアが言うとユリアは心底不思議だというように首を傾げた。
「なにをってリリアさん。精霊の愛し子になりたいのですよね。ならばこの記章をつけなくては正式に認められません。それに記章は先代が自分の手で次代につけるのです。よろしいですか?」
「は、はい・・・。」
リリアはうなずいたが心配そうサイラスを見た。
「リリア安心しろ。ユリアは往生際は悪くない。」
サイラスは安心させるように微笑んだ。
「わかりました。」
リリアはしっかりとうなずきユリアを真正面から見た。
「失礼しますね。」
ユリアは一言声をかけるとリリアの胸元に記章を付けた。
「これで大丈夫ですよ。」
ユリアはリリアに一礼すると父であるシェーラ侯爵のもとに駆けよった。
「ユリアよくやった。」
シェーラ侯爵はユリアにだけ聞こえる声で言った。
「はい、お父様。」
ユリアは背伸びして父の耳元でささやいた。
「今この時をもってユリア・シェーラは精霊の愛し子ではなくなった。本物の精霊の愛し子はリリア・ミーナである!」
サイラスはシェーラ侯爵とユリアのやり取りに気づかないで言う。
「そして、精霊の愛し子の名を騙ったユリア・シェーラには2つの選択肢をやる。」
「・・・なんでしょう。」
サイラスの言葉にユリアは穏やかに微笑む。
「国外追放かリリアの側付きかだ。」
どちらを選ぶかは明確だろうと誰もが思った。当然リリアの側付きを選ぶだろうと皆が思った。
「・・・そうですね。では国外追放でお願いします。」
ユリアは心底嬉しそうに言った。
「・・・いいのか?」
サイラスの問いにユリアはうなづいた。
「もちろんです。ただ一つだけ。国外追放場所は死の森でお願いします。」
そして一つだけ要望を伝えたのだ。
「死の森だと!?いくら何でもあそこは駄目だ!魔物がうじゃうじゃいるところだぞ!」
サイラスは血相を変えて叫ぶ。
「殿下は選択肢の中に処刑を入れてくださらなかったでしょう。なので死ぬにはこの方法しかないと思ったので。」
ユリアは事も無げに言う。精霊の愛し子をいじめたという決定的な証拠がない今、本物を騙ったというだけでは処刑するのには罪が足りないのだ。
「わかった。だが、死ぬなよ。死んだら夢見が悪くなる。」
サイラスが渋々うなずいた。
「うふふ。何をおしゃっているのかわかりかねますわ。夢見が悪くなるだなんて 冗談を。」
ユリアはクスクスと笑った。
「殿下、私は爵位を返上した上で娘についていきます。娘のいないこの国に用などないのですから。」
ユリアの隣に立つシェーラ侯爵が冷たい声音で言う。
「侯爵まで・・・!・・・分かった。父上には爵位返上の上国外追放としたことを伝えておく。」
サイラスは大広間の戸口に立っている騎士に命じた。
「馬車を用意しろ。今夜中にユリアとシェーラ侯爵・・・いやロバートを死の森に連れていけ。」
「はっ。」
騎士は短く礼をすると他の騎士と交代して大広間から走り去っていった。
「ユリア、ロバート。平民の服に着替えるか?それともその恰好のままで行くか?」
「それでは、平民の・・・。」
「待ってくださいな、お父様。」
サイラスの提案にシェーラ侯爵、否、ロバートは返事しようとする。しかしユリアがロバートをとめた。
「サイラス殿下。私たちはこの格好のまま行きます。」
「ユリア!?」
ロバートが慌てる。
「お父様。私に策があるのです。」
ユリアはロバートの耳元でそう言った。
「わかった。いえ、わかりました殿下。娘の言う通りこの格好のまま連れて行ってください。」
ロバートは一つうなづくとサイラスに言った。
「本当にいいのだな?」
「はい、もちろんです。」
ユリアはうなずいた。
「殿下、馬車の準備が出来ました。」
サイラスに命じられて馬車の準備に行っていた騎士が戻ってきた。
「そうか・・・。じゃあ、ユリア、ロバート。あの騎士について行け。」
「わかりました。本日までありがとうございました。」
ユリアは最後にサイラスに深々とお辞儀をすると騎士のもとに行った。
「殿下、私からも。この国を見捨てる機会を下さりありがとうございました。」
ロバートはサイラスの耳元でささやいたのだった。