五大ギルドとアポロン
やぁこんにちは語り手だよ
自分の団員の不始末のためルビィの店に赴いたラインハルトとアン。
謝罪をするもルビィからの言葉で己の立場を再認識し決断を下す決意をする。
さてさて今回はどんな物語になるのやら。
「アン。あんたの目から見て最近のラインハルトはどうだい」
ルビィはキセルを吸いながらカウンター越しに痛む頭を抑え床に蹲っているアンに聞いた。
実際は現実ではなくゲームのアバターなので痛みはなく唯単にアンが現実世界でルビィにされた時の痛みを記憶内から思い出しそう感じている幻痛みたいなものだ。
分かりやすく言うならテレビゲームをしている時自分が操作しているキャラクターが攻撃を受けた時「いたっ!」と何故か自分が受けた訳ではないのに口に出してしまうのと一緒だ。
ルビィからの質問にアンはルビィから受けたお仕置きなんてもう何処えやら頭を抱えるのを止めすっと立ち上がり
「そんなの決まってるよ」
一点の曇りなき眼を携えたキメ顔でルビィを見ながら言ったかと思えば次の瞬間
「ラインハルト様こそ最も強く賢く優しい志高な方だよ!」
信奉者の様に両手を天に掲げ目を輝かせながら興奮した様に声をあらげた。
「ハァ、誰がラインハルトのことを聞いたかい」
ルビィはアンの的外れな言動に呆れながら溜め息をついた。
「それ以外に何かあったっけ?」
アンは心底分からないと首をかしげた。
「このお馬鹿な愚妹にはまだお仕置きが必要なのかね」
とルビィが呟くとアンはさっきのお仕置きの恐怖を思い出したのか顔を青ざめさせてサッと素早く頭を両手で覆い後ろに下がるとびくついた様子で
「じゃ…じゃあなんのことよ」
震えながらルビィに問うた。
ルビィはキセルを吸い煙を吐くと呆れ顔のまま横目でアンを見ながら
「あんたら以外の五大ギルドとシドのことに決まってるじゃないか」
アンはなるほどその事かと納得し頷くと唇を尖らせ拗ねた顔で
「……じゃあ最初からそう言えばいいじゃん」
と小声で抗議する様に呟いた。
「何か言ったかい」
すかさずルビィがアンの呟きに反応し聞くとアンは頭と手をブルブルと否定する様に横に振り
「な、なんでもないよお姉ちゃん!」
聞こえていたら絶対にまたお仕置きされることは明白なので慌てながら言った。
実はアンの呟きがばっちりと聞こえていたルビィは内心で
(後でまたお仕置きだね)
アンへのお仕置きを確定させた。
その瞬間アンは何か自分に良くないことがおきると今までの経験からかそれとも危機を訴える本能からか全身に悪寒を感じブルッと身体を震わせた。
「で、どうなんだい」
再び問うルビィにアンは近よりルビィとの間に隔てているカウンターに手を付き後ろ向きで寄りかかりながら真剣な顔をルビィに向け
「私がみる限りだと私達以外の五大ギルド、ブリテン・武蔵・桃源郷・アースガルズはとりあえず今んとこ動きはなく静観って感じだよ」
「へ~静観ねぇ」
アンはルビィの何か思案する顔に頷き
「ラインハルトの言い付けでの五大ギルドに迷惑をかけないってゆうのだけは守ってたみたいでそっちの方は特に問題はないかな。
下手に手を出して抗争なんて展開になったら洒落にならないしね」
流石にオリュンポスギルドのメンバーだからといって他の五大ギルドに突っかかるのは駄目だと理性が働いたのか、単純に恐怖ゆえか或いは両方か。
まぁ実際自分がきっかけでギルド間抗争となったら目も当てられない。
ブリテン・武蔵・桃源郷・アースガルズ。
四種のギルドはオリュンポスと同じジェネティクノーツ五大ギルドの一角である。
ギルドによって特色は違えど五大ギルドとそれ以外のギルドとは強さも規模も一線を画している。
これもそれもひとえにギルド長の強さやカリスマゆえにだ。
ゴスロリで服の色が白と赤以外同じのアバターが一緒の二人の女性のギルド長
《シオン》こと《白い竜》と
《クオン》こと《赤い竜》
の《双煌姫》が治める【二対の赤と白の竜のエンブレム】のブリテン
黒の和服に肩に炎のように赤い羽織を羽織っている男のギルド長
《ジュウベエ》こと《スサノオ》が治める【二対の白と黒の刀が交差するエンブレム】の武蔵
桃の模様が入った赤いチャイナ服を着た女性のギルド長
《マオ》こと《天帝》が治める【水面に桃の木のエンブレム】の桃源郷
黒い修道服に肩から黒いマントを羽織って右目に黒い眼帯をしている女性のギルド長
《リリア》こと《オーディン》が治める
【隻眼の白と黒の烏のエンブレム】のアースガルズ
ルビィは取り敢えず他の五大ギルドは問題ないと理解したので残る後一つ。
「で、他の五大ギルドはそうだとしてシドの方はどうなんだい」
「うーん。
私が見た感じだと少年に報復するまでは許さないって感じで怒り狂ってるよ。
まったく自分の部下の不始末の癖にバッカみたい。」
唇を尖らせながら嫌悪感丸出しで言うアンにルビィは可笑しそうにクックと笑い
「あまり人を悪く言うもんじゃないよ」
アンはルビィの言葉に怪訝な顔をして呆れた声で
「いやいや。お姉ちゃんが言うそういうこと」
ルビィに言うと腕を組みながら頭を捻り何かを考える様な仕草をした。
「どうかしたのかい?」
「うーん…いや、なんかシドの奴ね確かに部下をやられて怒ってるってのは確かなんだけどね、なんかそれだけじゃないっていうか…こううまくは言えないんだけどなんか別の事に対しての怒りも含まれているって云うか混じってるんじゃないかなぁと思って」
「へ~別のねぇ」
興味深そうなルビィの様子にアンは頷いた。
「まぁでも結局悪いのはあいつらなんだけどね。
だいたい《アルテミス》の一件に関しても私達のギルドは強引な勧誘はしないようにってラインハルト様からの御達しがあったのにも関わらずそれも破ったみたいだし!まったくあいつらは!」
アンは握り拳を作り憤りを露にしていた。
ルビィはアンの様子をしょうがない娘だと苦笑しながら見ていた。
暫くして落ち着きを取り戻し冷静になったアンにルビィが視線を宙に向けながら唐突に
「ねぇ~アン」
「どったのお姉ちゃん?」
「…あんたはさぁ自分の行動が自分の意思で動いているじゃなく、そうだね~…謂わば物語みたいに誰かが描いたシナリオ道理に動かされているみたいだと思ったことはあるかい」
「唐突にどったのお姉ちゃん?」
ルビィはルビィの言ってる意味が理解できなく心底不思議そうに顔を傾げるアンを見てふぅと短く笑みを浮かべると
「なぁ~にただの戯言さ」
キセルを吸い煙を吐いた。
「あっ!」
ルビィの様子がなんだか気になったアンはしばらく顎に手を当て唸る様に考えていた何かを思い出したのか
「そういえばなんだけど…」
「うん?何かあったのかい」
「いや今思い出したんだけどたまたま…たまたまだよたまたまだからね!」
やけにたまたまだと念を押すアンに
「あんたのたまたまはいいからさっさと言いな」
めんどくさそうに先を促すルビィに
「前にギルド長室の側を通った時何だけどその時中にいらしたラインハルト様も似たようなことを呟いてたなぁと思って」
あんなに念を押すと云うことはたまたまではなく意図的に用もないのにギルド長室をうろうろしていたのだろう。
しかしその事についてはどうでもいいと云うかどうせ何時もしてんだろうなぁと思っていると云うか妹の行動に確信を持っているルビィはそんな事よりもラインハルトが自分と似たような思案をしているのを知り驚いた様に目を少し見開くと
「ラインハルトがね~」
と呟き神妙な表情で何かを考える仕草をした。
「お姉…」
アンはその様子にもしかしたら先程の質問はただ事ではないかもと思い心配そうに何かあるのと聞こうと口を開いた瞬間ギルドからメッセージが届いた。
自分が喋ろうとした瞬間のメッセージに若干いらっとし誰からだと思い送信者を見た瞬間顔を輝かせながら弾んだ声で
「あっ!ラインハルト様からのギルド通知だ!」
オリュンポス全ギルドメンバーに送信されたメッセージとはいえ敬愛しているラインハルトからのメッセージに嬉しがりながら内容を読む。
ちなみにアンは今までラインハルトから送られた自分宛やギルドメンバー宛の全てのメッセージを消去せず大事に保存している。
メッセージを読み終えたアンは納得した表情で浮かべた。
「あ~なるほど」
ルビィは自分の思考を一旦止めるとアンにメッセージの内容を聞いた。
「どんな内容だったんだい」
「う~ん。ギルドメンバー宛なんだけどまぁ、お姉ちゃんなら問題ないか。ラインハルト様からの御達しで例の少年と《アルテミス》の捜索を打ちきるんだって」
「まぁここまで騒ぎになったなら仕方ないことだね~」
実際表には出ていないだけで今回はルビィみたいにオリュンポスギルドを笠に威圧的にアラヤとユエの情報を問いだされたプレイヤーもおり今回の一件でオリュンポスにいくらなんでも横暴だと不満を抱いたプレイヤーも多くでている。
いくらオリュンポスが大手ギルドだとしても
あまりに行き過ぎた行為は自由を売りにしているジェネティクノーツと云えども運営から忠告あるいは何かしらペナルティーを受ける可能性が高い。
その為のラインハルトからオリュンポスギルドメンバーへの御達しではなく宣告である。
『破ればどうなるか分かっているだろうな』と。
しかし流石はラインハルト迅速な対応は流石としかいいようがない……いいようがないが
「しかし」
ルビィが少し眉をひそめた。
「うん」
アンも同じことを思ったみたいで少し眉をひそめた。
「ギルド長の決断としては正しい判断だけどあのシドが黙っちゃないだろうね」
ルビィはそう言いながら内心で先程の事を思った。
(しかしラインハルトも感じていたのかい。てっきり私の杞憂かと思ったんだがね……)
ルビィは無事に何事にもならなければいいがと祈る気持ちだった。
オリュンポスギルドギルド長室
椅子に腰掛けギルドメンバーにメッセージを送ったラインハルトは机の上に肘を置き両手を組んで目をつぶり静かに待った。
ドタドタと誰かが勢いよく此方に迫る足音が部屋の外から響き扉がバン!と吹き飛ぶんじゃないかと云う勢いで開くと怒りを露にした《シド》が入って来た。
「どういうことだゼウス!」
怒りのまま怒鳴るように問いただすシドにラインハルトが厳かに
「メッセージ通りだが」
「ふざけんじゃねぇよ!まだあのガキは見つかってねぇんだぞ!」
怒鳴るシドにラインハルトは目を開きシドの怒りなど威にも介さず冷静な態度のまま
「シド、私は君に他のプレイヤーに迷惑をかけないようにと伝えたはず。
それにも関わらず他のプレイヤー達からはオリュンポスギルドに威圧的に脅すように言われたと苦情が出る始末」
淡々と言うとシドも心当たりがあるのか苦虫を噛み潰した様に顔を歪ませながら舌打ちすると
「だがそうでもしなきゃあ見つけられねぇだろうが!
今だって居所処か目撃情報すら上がってねぇんだぞ!」
あくまで自分は間違っていない正しい判断だと言い募るシドにラインハルトは目を瞑り小さいが重い溜め息を吐いた瞬間シドはラインハルトから重圧を感じ息を飲んだ。
ラインハルトは目を開き曇りなき黄金の瞳でシドを見据えると
「私は決定を変えるきはない。
言っとくが此れは私個人ではなくオリュンポスギルド長としての決定だ」
「だがなゼウス!」
シドが尚も食い下がろうとしたがラインハルトは歯牙にもかけず淡々と
「シドあまり私を失望させないでくれ」
忠告した。
シドはラインハルトの言葉が重くのし掛かり目を見開いた後目を伏せ歯を割れんばかりに噛みしめると
「……ああ、分かった」
小さく了承の声をあげそのままギルド長室から出ていった。
「はぁ」
シドが出ていくの見た後ラインハルトは息を吐くと再び目を瞑り
(…シドにはああ告げたがしかしはたしてこれも私の考えなのだろうか、それとも……)
瞑想した。
ギルド長室を後にしたシドは暫く無言で歩き人気のない通路に入ると怒りの表情で右手を握りしめ壁を力の限り殴った。
「ふざけんじゃねぇ失望、失望だと!クソが!これも全てあのガキせいだ!」
怒りを露に憎々しげに怒鳴るシドは
「いいぜ。
こうなったら俺一人でも探しだしてやるよ。
覚悟してろよクソガキ!」
自分一人だろうが見つけ出してやると決意を固めた。
部下をやられた事もあるが何よりも尊敬しいつの日か追い越してやると想い続けていたラインハルトに失望と言われたことそしてゲームの中ではない現実での事も合わさりシドの心は全てを焼きつくさんとする業火のように怒りで燃え赫染まっていた。。