一撃PVP終幕
『congratulation!そうボクこそは偉大…偉大?まぁいいさ!ボクこそはギルド【武蔵】のメンバーであらせらる月よりの使者ハルアキ!通称ハルハル!
だからアラヤたん!ボクのことはハルアキじゃなくハルハルと呼ぶのが適切なのだ!』
『ええー!?そうなの!!』
『馬鹿かてめぇは、あんなん出鱈目にきまってんだろが、いちいちこのアホの言うことを真に受けてんじゃねぇよ』
『………ハァ。そんな通称初めて聞いたし適切でもないし、取り敢えずたんは止めろ。
ってかさっきと呼び方変わってるし』
『ヒドイ!ヒド過ぎるよシドたん!』
『たんは止めろ撃ち抜くぞ』
『キャアア、怖い怖い怖すぎるボクの大切な心を撃ち抜くなんて、シドりんはそんなにボクのこと好きなの』
『りんも止めろ』
『でもゴメンね、ボクもシド某のことは好きだけどあくまでLIKEであってLOVEじゃないんだよ、ほんとゴメンね~』
『ハァ、頭痛くなる。もういい、俺はもう何も言わねぇ、だいたい用件はアラヤなんだろうよ、アラヤがどうにかしろ』
噛みつく相手は選ばない喧嘩を売られれば受けてたつ精神のシドも流石にハルアキ相手には自分の精神処か常識がまるで明後日、宇宙の彼方に思えたのか頭を痛そうにしアラヤに投げやる。
『そ、そんな~!シクシク。ボクはシクシクシドぽんとシクシクもっとシクシク楽しい楽しいシクシクお話をシクシクしたいのに~』
ハルアキはわざとらしさを隠すきもなく手を目元にやり途中途中シクシクと自ら悲しんでますと程を出しながら言う。
『………』
そんな様子を見て頭がいたい処か意気消沈しそうなぐらい疲れた顔になるシド。
するとそんなシドの顔を見て
『へぇ~~~』
泣き真似を止め意味ありげに見るクレス。
『………なんだその面は』
『いやいや噂はホントだったんだな~と思ってね。
うんうん。あのトゲトゲしく荒々しいシドいんが丸くなったね』
『悪いか』
『いやいや別に~。ただ………………』
ハルアキはアラヤとクレスの方をチラリと見る。
『うん。つまんなくなってなくて良かったと思ったただそれだけだよ』
『………』
『やっぱり人間変わるとしてもそうじゃなくちゃいけないね。
ボクとしては前の荒々しく獰猛なシドとんも好きだったからね変わってつまんない人間になったらなんて……ああ、ああ、考えるだけでも嫌になる』
『………』
『だってみんなそうでしょ、つまんない人間に価値なんてない。
だから安心した、いやそれ以上だよ。
今のシドシドは前よりも面白くなりそうでボクはワクワクしているよ!』
ハルアキは飄々としふざけているような言動、虚実だらけに見えたりもするが何故かその中には一種の芯を感じさせる。
だからこそハルアキと相対した事があるプレイヤー達は決してハルアキと言うプレイヤーに対し警戒を怠らない。
隙を見せたらただではすまないと。
シドを見ていたハルアキはクレスを見る。
『と、いけないいけないボクとしたことが、シドみんとアラみんは初めましてじゃないけど君は初めましてだね!』
『…えっ?あっはい』
『君のことは風の噂で聞いていたけど、……ふむふむなるほどなるほど』
『えっ…な、なんですか』
『いやいや気になさらず、ただ噂は宛にはならないと思っちゃっただけだよ。
改めましてボクはハルアキ、【武蔵】所属のハルアキだよ!よろしくね!』
『あっは、はい。
僕はクレスです。
よろしくお願いします』
『うんうん。良い子そうで何より!
今後ともふかーいふかーい、深海よりもふかーいお付き合いをよろしくー!』
『え、ええこちらこそ。
……ところでさっきの噂と言うのは』
『ああ、別に大したことじゃないよ』
『ああそうなんですか』
『君がアラヤんやシドんを下僕にしているビーストテイマーだなんて』
『どんな噂!?ってかビーストテイマーってなんですかそれ!?そんなのになった覚えは僕ないよ!?』
『ハッハハハハ、ねぇ大した噂じゃないでしょ』
『無茶苦茶ありますよ!?』
ハルアキとクレスの、会話を聞きながらアラヤとシドはハルアキが言っていることは全て嘘だと分かっていた。
一目でその人の人物像を把握するハルアキの事だ、クレスを一目見た瞬間からかいがいのある奴だと見抜いた上での行為だろう。
実際ハルアキの術中に嵌まったクレスはいいように踊らされていた。
『そこまでだ』
話が一向に進まないのでアラヤは制止をかける。
『で一体何のようなんだ』
『あっ!てへぇ。いけないいけないボクとしたことが、ちょっと待ってね』
ハルアキはシステム画面を出し操作する。
『え~と、え~と、え~と、』
『……』
『え~と、え~と、え~と、え~と』
『………』
『え~と、え~と、え~と、え~と、え~と』
『…………』
『え~と、え~と、え~と、え~と、え~と、え~』
『長い!まだか!』
アラヤはあまりにも長い捜索につい声を挙げた。
『アッハハハハ!!、冗談!冗談!そんなに大きな声を挙げなくても贈り物は直ぐに見つかっていたよ!』
(こ、こいつ)
アラヤはハルアキのわざとらしい処かわざとな行為の軽い告白におもわず顔が引き攣りそうになりそうに成るがハルアキの言った言葉に引っ掛かりを抱いた。
『……贈り物?』
『そう、贈り物』
『…お前からか』
『いやいや今回はボクからじゃないよ』
『じゃあ誰からだ』
アラヤがそう聞くとハルアキはニコリと笑みを浮かべる。
『その質問に答える前にボクからもアラりんに聞きたいことがあるのじゃよ』
『俺に聞きたいこと…』
ハルアキはアラヤに向けて歩み出す。
ハルアキはアラヤの目の前に立つと背伸びをしアラヤの耳元に顔を近付け
『アラヤ、君は何の為に戦うの、答えなんて最初から無いって分かってるのに』
(こいつ!?)
ハルアキの問いにアラヤの鼓動が跳ね上がり身を引く。
(まさか知っているのか!)
アラヤを見るハルアキは笑みを浮かべているだけ、しかしアラヤにはその笑みが自身の全てを見透かした上での笑みに見えた。
アラヤの事、ユエの事。
どうかしたのかと訝しげに此方を見ているシドとクレスを他所にアラヤとハルアキは見合っていた。
アラヤは此処でハルアキの真意を問いただしたい気持ちもある。
だが
『答えは?』
ハルアキの催促。
其処には答えだけを求める圧を感じる。
(……違う。今しなきゃいけないのはハルアキの真意を問うことじゃなく)
気持ちを押し込める。
(ハルアキの問いに答えることだ)
『分かってる、俺も分かってるんだ、答えなんて無いことぐらい。』
『………』
『だからこれは他でもない自分の為だ。
つまりただの自己満足だ』
アラヤは何も無い訳じゃない、幾つもの想いは確かにある。
ただその全ての行き着く先は答えの無い自分がそうしたいからする自己満足でしかない。
だからこそそう答えるしかない。
『…………』
アラヤの答えを聞きながら、聞いた後も無言で此方を見るハルアキは何か思案している様に思える。
数秒かはたまた数分かアラヤは体感時間が長く感じる。
『……うん。それでいい』
ハルアキは何か納得したように頷くと一つのアイテムを出しアラヤに差し出す。
『!?これは、なんでお前が!』
アラヤは差し出されたアイテムに驚く。
『も~アラそんは忘れポイのかな、さっき言ったじゃないかアラはんにボク以外からの贈り物があるって』
『!じゃあ』
『そ~だよ~ん。今アラヤままが思い浮かべている人からの贈り物、まぁといってもボクに贈る様に言ったのはルビィの姉さまだけどね』
『ルビィが…』
アラヤは手の平にあるアイテムを見詰める。
『ホントルビィねぇだけだよボクを配達人に出来るのなんて……あっ!するのじゃなくて出来るの、ここ重要だから!ホントにホントに重要だから!もしルビィねき以外がボクを配達人にしようものなら…くっふふふふふ、ねちょねちょのぐっりぐりなんだから!』
ハルアキが喋っている内容も今のアラヤには素通りでしかない。
アラヤは見詰める。
の手の平にあるアイテム…【ヨモギ】の葉が描かれた黄色と白銀の色をしたアミュレットを。
(なぜ…)
ラインハルトの洞察力をもってしても今だに分からない。
本来なら既に麻痺状態になり動けないはずのアラヤが今だに自身の剣を防ぎ続ける訳を。
アミュレット【アルテミシア】。
アラヤとユエがグランドクエストをクリアした時のクリア報酬でユエが獲得したアイテムである。
その効果は
所有者が装備している限り常時所有者に対するデバフ効果を打ち消す
そしてこの効力を知るのはアラヤとユエだけでありそもそもそんなアイテム自体有ることすらまたアラヤとユエだけしか知らない。
だからこそラインハルトには分からない、分からないからこそ思考する。
理由を原因を。
本来なら直ぐに何かしらのアイテムの恩恵なのではと思い付くが今は最終局面、緊張が高まり後数秒でPVPは終幕だと感じていたなかでの予想外。
その予想外の思考を負わせられた故に自身の意思とは関係なくラインハルトの動きが鈍った。
そしてその瞬間をアラヤは見逃さなかった。
『アラヤ!』『アラヤ君!』『連夜』『連夜君』『アラヤ』
自分を応援してくれた人達の声が聞こえた気がした。
そして此れまでの1ヶ月がアラヤの脳裏に閃光の様に駆け巡る。
シドやクレスとの特訓。
応援してくた父親。
戦闘の心構えなど色々指導してくれた守の祖父と笑顔で迎えてくれる守の家族。
飄々とした様子で頑張れと言ってくれたルビィ。
『アラヤ君』
そしてアラヤの勝利を信じ待ち続けているユエ。
鈍ったなか上段から出されたラインハルトの雷速の剣に合わせ自身の剣を流しその勢いを一速たりとも衰わすことなく身を翻しラインハルトを斬りつける。
「ウォォォォォォォォ!!」
だが鈍ったとはいえラインハルトも伊達にジェネティクノーツ最強の男ではない。
素早く思考を切り変えるとアラヤを斬りつける。
「ハァァァァァァァァ!!」
そんな二人を見てPVPをライブ中継で観ているプレイヤー達の熱は最高潮を迎えていた。
「アラヤ!」「アラヤ!」「アラヤ!」「アラヤ!」「アラヤ!」
「ラインハルト!」「ラインハルト!」「ラインハルト!」「ラインハルト!」「ラインハルト!」
二人の剣戟が交差し二人は互いの剣で吹き飛び地面に叩きつけられた。
PVPをライブ中継を観ていたプレイヤー達がその結果に一斉に声援を止め固唾を飲み沈黙する。
どっちだ……
結果を待つプレイヤー達。
地面に叩きつけられ仰向けに倒れていたアラヤはそのまま空を見上げる。
(おれの、俺の)
右手を上げて天を掴むように拳を握った。
そしてその瞬間が訪れた。
【WINNERアラヤ】
「勝ちだ」
PVP勝利の文字がアラヤに表示された。
「「「「「ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」」」」」
沈黙していたプレイヤー達の歓声が吹き上がった。
「まじかよ!やりやがったぜあの小僧!」
「勝ちやがった勝ちやがったんだぞあのゼウスに!」
「まぁ俺は最初からあいつが勝つって分かってたがな!」
「嘘つけてめぇ!」
アラヤの勝利に様々な声を挙げるプレイヤー達。
各五大ギルド長達もアラヤの勝利に愉快そうに笑う者闘志を滾らせる者妖艶に微笑む者分かりにくいが口角を上げ笑みを浮かべる者様々だ。
何しろ今長きに渡る時代が変わりを迎えたのだ。
荒野エリアには都市デゼルトアース中央広場
では
「やったよ!やったよシド君!アラヤ君の勝ちだよ!」
「うるせぇぞクレス、うんなの観れば分かるだろうが。
それにしてもあの野郎ホントに勝ちやがったか、マジでギリギリだったじゃねぇか観ていてヒヤヒヤする戦いしやがって」
「もう仕方ないなシド君は、こんな時でもシ素直じゃないんだから、ホントはアラヤ君が勝手嬉しいくせにそんな憎まれ口きいて、やれやれだよ」
「てめぇ…調子にのんなクレス!」
「ギャあああ!」
余計な一言を言いシドに追いかけられるクレスの姿があった。
ちなみに二人の表情は困った顔でも怒った顔でもなく心底嬉しそうに笑っていた。
ルビィの店
「うぇぇぇ~ん!ラインハルト様ラインハルト様ラインハルト様ーー!」
「はぁ全くこの妹は、お互いに全力を出した結果なんだ泣くもんじゃないよ」
「だってぇ、だってぇ!お姉ちゃん~」
「まったくあんたときたら」
ラインハルトが敗けた瞬間泣き出したアンにルビィが呆れた顔をしながら慰めていた。
(よくやったねアラヤ。
ホントならここでおめでとうと言うべきなのだろうね。
だけどあんたの戦いは、本当の戦いはここからさね)
ジェネティクノーツ内で唯一ルビィだけはアラヤが何の為にラインハルトとPVPをしたのか理解している為今ここで全てが終わった様に祝勝を挙げることはなくこの先について想いを馳せていた。
アラヤの事情自体は知らずともこのPVPがただ再戦の為に行なわれた訳ではないと分かっている者は他にも居る。
アラヤに協力したシドやクレスそしてPVPを受けたラインハルト自身である。
アラヤは上に上げた右手を下ろし体を起こす。
地面に座している状態のアラヤに影がさした。
顔を上げるとそこにはPVPが終了し神威開放が解除されたラインハルトが立っており真剣な表情でアラヤを見下ろしていた。




