一撃PVP6
《10》
カウントダウン開始される。
神威開放終了までの10秒。ラインハルトがアラヤに一撃を与えるかアラヤが凌ぎラインハルトに一撃を与えるか、どちらが先に勝利を飾るかそれはPVPを観戦するプレイヤー達には分からない。
だが不思議と感じるものがある。それはまるで予感めいたもの。
理屈ではないただ感じとる。
この10秒で二人の決着がつく終幕の時を。
ラインハルトが神威開放を始動したと同時アラヤはラインハルト目掛け風の速さで駆け出す。
そしてアラヤに応える様にラインハルトも雷速の速さで駆け出す。
駆け出す行為事態は同じであっても二人の速さの差は歴然である。
属性付与風でAGI を上げてはいるが神威開放始動時とは天と地さえ差があるアラヤの速さに比べアラヤの神威開放始動時には劣るもののそれでもただの属性付与ごときでは遥かに差がある雷神の速さでは圧倒的にアラヤが負けている。
ならば初斬がどちらになるのかは明白の理だ。
先んじて剣の間合いに辿り着いたラインハルトはアラヤ目掛け剣を振るう。
右下から左上に降ろされる剣に対しアラヤは自分の剣で受け流すと独楽のように身を翻しラインハルトの背を取ると剣を振るった状態のラインハルトの無防備な背中に向かい水平に剣を奮う。
このアラヤの一連は僅かな淀みもない滑らかな動作であり見事なカウンター。
完全にラインハルトの攻撃を読みきったうえで繰り出された無駄のない流れるような一撃。
見事に相手の出鼻を挫く不意を突いた一撃だ。
一撃勝負である以上このカウンターが決まったならアラヤの勝ちだ。
「お!!」
「此れは!!」
PVPを観戦しているプレイヤー達も思わないアラヤのカウンターに驚きの声を上げる。
さしものラインハルトも此れには反応できないだろそう思われる……………だが現実は甘くはなかった。
ラインハルトは自身の背に迫る剣に凄まじい反応速度で身を翻しアラヤの剣を弾くと剣を切り返しお返しとばかり今度は自身がアラヤにカウンターを振るう。
アラヤは紙一重で剣を避けるがラインハルトの剣閃はそれでは終わらず連撃を放つ。
一閃。
(迷うな)
二閃
(疑うな)
三閃
(揺らぐな)
四閃
(退くな)
アラヤはラインハルトの一閃一閃を剣で流し裁きながら自身に言い聞かせる。
五閃 ガキン!!
(信じろ!)
自分の強さを。
ラインハルトの強さを。
真田守の祖父の教え道理に。
『アラヤ君。君が今度戦う者は君よりも遥かに強い者なのだろ』
『はい』
『ならば私からの助言だ。今から言う五つの定めを心に刻むといい』
『五つの定めですか』
『迷わないこと、疑わないこと、揺らがないこと、退かないこと、信じること、この五つだ』
『迷わないこと、疑わないこと、揺らがないこと、退かないこと、信じること』
『そうだ。
迷わない。
疑わない。
揺らがない。
退かない。
信じるのだ自分の強さを』
『俺の強さ…』
『そして』
『……』
『相手の強さをも』
『ラインハルトの強さを…』
『迷わない。
疑わない。
揺らがない。
退かない。
信じるのだ迎え撃つ相手の強さを。
さすればいかなる場合でも君は驕らず油断せず隙を見せずわたりえる。
それがどんなに自分より強き者であったとしても』
五閃目を弾いたアラヤは動揺を顕にするラインハルトに剣を振るう。
「おおおお!!」
自身に迫る剣を視界にいれながら動揺を顕にするラインハルト。
何故ラインハルトが此処まで動揺を顕にしているのか。
アラヤが今に勝負を諦めてないからか―――否。
アラヤに五閃全てを防がれたからか―――否。
確かに見事だと称賛に値することであっても今更その程度でラインハルトは動揺はしない、寧ろこの程度乗り越えてくるだろうとアラヤにある種の信頼すら得ていた。
なら何故表に顕す程に動揺を顕にしたのか。それは
(何故…動けている)
既に麻痺状態になり動けなくなっている筈のアラヤが今なを動き剣を振るっているからだ
此れはアラヤの神威開放アルティマが変化しその能力を確かめた後ラインハルトにどう使うか話していた時の会話の続きである。
『ああそうだ。このジェネティクノーツ初の神威開放無しのてめぇだけの力で神威開放を破るっていう偉業を成し遂げたことになるな。
ああいいだろう。
てめぇの我が儘に付き合うと言ったのは俺達だ、大言壮語だろうとてめぇが覚悟があるなら俺達に言うことはねぇとことん付き合ってやるよ』
『うん。まかせて!!』
『シド、クレス頼む』
『よし、なら今から俺が知ってるラインハルトの神威開放の全容について話すが分かってるとは思うが此れは他言無用だ』
『ああ分かってる。決して他には洩らさないと誓う』
『うん。僕もぜぇーーーたい、洩らさないって違うよ』
『此れは俺達オリュンポスでも限られた奴しか知らないことだ。
大半の奴等はラインハルトの神威開放はステータスを大幅に上昇させるものだけだと思ってやがるが実はそれだけのものじゃねぇ』
『だけじゃないってことはステータスを上昇させる以外に何か俺みたいに他の能力が有るってことか』
『ああそれもとびっきり恐ろしいものがな』
『恐ろしいもの……まさか!アラヤ君みたいに無敵な能力とか!?』
『あ?馬鹿かてめぇはそんな能力ならいくらラインハルトの奴でも直ぐにギルド以外にもバレてんだろうが』
『あっ、で、でもだよシド君。
それはラインハルトさんが神威開放を使った後一撃も当たらなかったらHPの減少はなくて分からないだけなんじゃあ』
『ハァア。確かにお前の言うその条件下なら他の奴等は気付く間も無く負けちまうからラインハルトが無敵かなんか分かりっこねぇがよ』
『でしょ!でしょ!』
『辞めろそのムカつくドヤ顔めいた顔。
思わず握り潰したくなる』クレスの顔を掴む
『す…すで…に…つか…ま…れてる…んで…す…が』
『!あっワリィ、ワリィ』クレスの顔を放す
『いや全然悪いと思ってないでしょ』
『そんなことねぇよワリィと思っているに決まってんだろ』ボー読み
『すごいわざとらしいボー読みなんですけど!?』
『チッ条件反射だチッ。
許してやれよチッ。』舌打ちしながら言う
『嘘でしょ!?舌打ちしながら上からの物言い!?
それ悪いと思っている人の態度じゃないからね!?
悪意100%の人の態度だからね!?』
『でだ』
『ええー!?打ち切り!?打ち切りなの!?
そのままさっきの事は終わらせて進むきなの!?』
『ハァア。時間は有限なんだ何時までも過去のくだんねぇ事を引き摺ってんじゃねぇよ、それでも男かお前はよ』
『うぐっ!た、確かに……ってシド君が言うことじゃないよね!?』
『………』ジト目でクレスを見るシド
『ええー!?何その目!僕の方が悪いって言うの!?』
『………』ジト目でクレスを見るシド
『くぅぅぅぅ!分かった、分かったよ!もういいよ!完全100%に納得いかないけど時間が有限だって点には同意だし!』悔しげなクレス
『分かりゃいいんだよ。ってか最初からそうしやがれ』やれやれな表情なシド
『くぅぅぅぅ!やっぱ納得いかないーーーーーー!!』吠えるクレス
『話は戻すがラインハルトの神威開放にはステータス上昇以外に能力が備わっていやがる。
だがそれはクレスの言う無敵なんかじゃねぇ。
場合によっちゃあ無敵よりも恐ろしいもんだ
』
『無敵以上の…』
『ああ。それは……神威開放状態のラインハルトの剣または奴自身に触れた相手に対し一撃か一触毎に麻痺確率を25%ずつ付与すると言ったものだ』
『麻痺確率の付与だと!しかも一撃か一触毎に25%ずつ付与するってことは…』
『ああ状態異常を起こさない神威開放時の無敵なてめぇならともかく素の状態のてめぇなら悪ければ一撃、一触目でそうじゃなくても二撃、二触で50%、三撃、三触目で75%、そして四撃、四触目で』
『100%麻痺状態になる』
『そうだ。てめぇが四撃、四触目を受けた時点でてめぇは麻痺により動けなくなる。
つまり四撃、四触目を受けたその時点でてめぇの敗北が決まる』
『………』
『だがさっきも言ったがてめぇの運が悪ければそれこそ一撃、一触目で成るってこともあり得るし一撃、一触目が運よく不発だったとしても二撃、二触目で成ることもあり得るし二撃、二触目も運よく不発だったとしても三撃、三触目で成ることもあり得るし三撃、三触目も運よく不発だったとしても四撃、四触目は確実。此処まで言えば分かるな』
『ああ。つまり何撃、何触目に成ったとかは意味がなく一撃、一触、最初から麻痺に成らない確実の手が必要だと言うこと』
『その通りだ』
『う~ん。ラインハルトさんの神威開放が凄いのは分かった。
確かにシド君の言う通り恐ろしいものだけど、まったく手がないわけじゃあないんじゃないかな、ほら麻痺なら装備の付与を使って防ぐってのも有るでしょ?』
『無理だ。確かに装備に関しちゃあ付与として状態異常に対し耐性つける奴もある。
それは麻痺に関しても例外じゃねぇ』
『だったら…』
『それでも俺が知ってる限りじゃあ今あるやつで精々最高で60%の耐性。
状態異常に対し完全耐性を付けるやつなんて聞いたこともねぇ。
それが例え全ての耐性じゃなく一つだけの耐性としてもだ。
そもそも状態異常に対し完全耐性を得るなんじゃあ仮に一つだけとはいえ破格な性能だ。
それ一つで条件次第で高難度クエストが簡単にクリアできちまうからな。
それこそラインハルトの持つロケットと同レベルのアイテムだ』
『…………』
『確かにもし100%耐性のある装備なんて有ったら大騒ぎに成っても可笑しくないもんね。
それ一つで全部じゃないけど攻略の仕方が変わるしね』
『ああ。麻痺の完全耐性なら麻痺状態にしてくるモンスターは麻痺を気にせず、毒の完全耐性なら毒状態にしてくるモンスターは気にせず、睡眠の完全耐性なら睡眠状態にしてくるモンスターは気にせずにいいからな』
『後はダメージを気にするだけだしね。
うん。やっぱり状態異常を気にせず戦えるだけで凄く楽に成るね』
『まぁとにかくだ。仮にアラヤが麻痺耐性60%の装備を身に付けたとして完全に防げるのは25%を二回、つまり二撃、二触目迄で三撃、三触目以降は死地でしかない、つまりアラヤはその前までに一撃を与えるかそれ以降全てただの一度も触れずに躱し神威開放の終わりを待つか三撃、三触目に麻痺状態と引き換えに確実にラインハルトにダメージを与え勝つかしかねぇってことだ』
『提示されたのは三つの選択……アラヤ君を卑下する訳じゃないけど、正直僕からしたらどれも難しい選択だと思う』
『だが結局難しかろうが何だろうが此れを乗り越えない限りはアラヤの勝ちはねぇんだ、なら腹くくるしかねぇだろ』
『それは分かってるけど……』
『時間は有限だ、こんなとこで詰まずいてる暇はねぇ…………ハァ。だが易々と飛び越えらねぇ高けぇ関門なのも確かだ。
選ぶのはアラヤだ。
慎重に選びやがれ、と言っても何度も言うようだが時間は有限だ、限られている以上、そうだな………猶予は一日だ。』
『一日!?シド君それはいくらなんでも早すぎるんじゃないかな!』
『分かってる、俺だっていくらなんでも明日には決めろなんじゃ無茶に近けぇとは分かっちゃあいるが他にもまだまだ詰めなきゃならないとこがある以上一日しかねぇんだよ』
『それはそうだけど!』
『待ってくれクレス』
『アラヤ君…』
『お前の思いは分かるがシドの言ってることは正しい。
時間が有限である以上何日も掛けてる場合じゃない』
『でも!』
『それに今すぐじゃなく逆に一日考える時間が貰えることの方が有難い。
シド、お前の言う通り一日じっくり考えて明日迄には必ず答えは出す』ピコン!
そうして返事をした瞬間アラヤに対し一通のメッセージが届いた。
こんな時に誰からとシステムを操作し確認するアラヤ。
そこに書かれていたのは
【上を見ろ】
『うえ?』
謎の一言書かれたメッセージに思わず困惑声を出すアラヤ。
『どうかしたのアラヤ君?』
『なんか有ったのか?』
そんなアラヤの変化ににどうしたのかと疑付するクレスとシド。
『いや、メッセージが届いたけど【上を見ろ】しか書かれてないんだ』
『なんだそりゃあ、アラヤの知り合いの悪戯かなんかか、こんな時にふざけやがって』
『上を見ろって……』
空気と言うかタイミングの読めないメッセージに若干怒りを顕にするシドとメッセージに書かれた通り頭上を見上げるクレス。
『……あっ!!』
上を見上げていたクレスが突然何かに気付いたように声を挙げた。
その声に釣られアラヤとシドも頭上を見上げた瞬間。
何かが落下してきて
ズドン!
落下音と共に砂埃が巻き上がった。
突然の事に呆然とする三人に対しそれは
『ゲホゲホ…あーゲームの中だと分かってるんだけどゲホゲホやっぱ、五感がたフルダイブだけは有るよ、あーもう煙たくってしょうがないったらありゃしないね、そこんとこどう思ちゃったりする』
自らが起こした砂埃で咳き込みながら姿を表した。
『『『………………』』』
『わ~無反応とはこれいかに、なに三人ともクールキャラクターでも目指しているわけ、全く駄目だな~人に問いかけられたら笑顔で応えるのが常識、世界の真実だよ。
クールキャラクター目指しているからって無反応キャラなんて安直、単調過ぎて恥ずかしいったらありゃしないよ』
やれやれとそれは肩を竦めながらアラヤ、シド、クレスを窘める。
『まぁまぁまぁいいや!ボクは心が太平洋より広いからね許してしんぜようじゃないか!
わ~なんて良い子なのだろうかボクって!
全世界の人に見習われせたい、いや見習わせなくっちゃ!』
それは満面の笑みを浮かべ上から目線で自画自賛する。
その態度に呆然から若干の苛つきに変化するアラヤはそれに問いかける。
『どうゆう腹積もりだ』
『どうっていったいなんのことかな~、アラヤ丸の言葉には主語がないからボクにはなにがなんだかさ~~っぱりわかんないにゃにゃ』
『ハァ。突然のメッセージといい登場といい一体どうゆうつもりかと聞いてるんだ―――ハルアキ』
アラヤ達の前に現れたのはギルド【武蔵】所属でありジェネティクノーツ一番の問題児自称最高のエンターテイメントであると広言し憚らない晴明の神威開放保持者プレイヤーネームハルアキだった。




