一撃PVP5
ラインハルトがアミュレット[クロイア]を試用したまさにその瞬間、世界は一瞬にして静寂の時を迎えることとなった。
あれ程迄の声援。
世界の果てまでいきとどく熱をあげていたプレイヤー達は驚愕に静まり返ったのだ。
プレイヤー達は思う、いや思い出す。
アラヤとラインハルト二人のプレイヤーの闘争に心が奮え熱が入りすぎてラインハルトとと言うプレイヤーについて重大な事実を忘却していた。
そうラインハルトと戦う事において絶対的に聳え立つ難関。
だからこそ沈黙を期す。
あまりに高く厚く強く険しい難関。
しかし何事にも例外は存在する。
それは一様に沈黙を期すプレイヤー達に対し理解不能と困惑を顕にするプレイヤーだ。
~酒場~
「?おいどうしたんだよ急に黙って。
ってかなんだぁ他の奴らも急に静かになってよ?」
「……お前、あれが何なのか分かってねぇのか?」
「はぁ?知らねぇよ。あのペンダントがいったいなんだってんだよ?」
「ハァア。まっ分かんねぇならその反応も無理もねぇか」
「チッ……なんだよ勿体ぶらずさっさと話せよ」
「いいかあれはあのアイテムはなぁ……ゴクッ…神威開放のリキャストタイムを0にするとんでもねぇ代物なんだよ」
「ハァア!?神威開放のリキャストタイムを0って!なんだよそれ!!」
「まぁ初めて聞くならそりゃ驚くよな」
「いや驚くよなじゃねぇよ!?ってか神威開放って一回限りの代物じゃねぇのかよ!?」
「あーお前神威開放の事あんま知れねぇ奴だな」
「ハァア「いいいい。別にお前みたいに神威開放の事に対して勘違いしてる奴なんじゃ珍しくねぇよ。」……」
「神威開放保持者なんてほぼ五大ギルド所属な奴らだしソロやゲーム初めてまもない奴等なんて実際直接目にする機会なんてどれかの五大ギルド所属じゃなきゃそうないからな」
「いいかそもそも神威開放ってのは勝負において一回しか使えないそう言われてるのはお前も知ってんだろ」
「ああ」
「だがなこれは厳密には違ぇんだよ」
「違うって……」
「一回しか使えないんじゃねぇ、一回しか使う機会がねぇんだ」
「?それどっちも同じだろ意味わかんねぞ」
「神威開放ってのは使おうと思えば1日に4回は使えんだよ」
「ハァアアアア!?4回ってなんだよそれ!あり得ねだろが!ってかそれが本当だとして何で一回って話しになってんだよ!!」
「なげぇんだよ」
「なげぇってなにが…………!おいまさかリキャストタイムが0って」
「ああそのリキャストタイムがなげぇんだ」
「ゴクッ………どのぐらい」
「6時間」
「!?6!!」
「一回使ったら次使うまで6時間のリキャストタイムがあるんだよ」
「いや6時間っていくらなんでも長すぎんだろ-!!」
「ああなげぇな。まぁだが一撃で戦況を変えるしろもんだ逆にポンポン使われちゃあ俺達みたいなプレイヤーはたちゆかねぇがな」
「!…確かにそれはそうだな」
「だろ。だから当然っちゃ当然の処置だな」
「ああ。だけど」
「うん?」
「それは分かったが。なげぇ確かに6時間はなげぇがそれでも言い変えれば6時間待てば使えるんだろ」
「まぁそうだな」
「ならよなんで一回の戦闘に一度きりなんてなってんだよ」
「ハァア。お前なぁまじで言ってんのか」
「なんだよその馬鹿にした顔は」
「お前なぁこれを聞いたのが俺じゃなくてもそうなるわ。
いいかどこの世界にたった一回の戦闘にずっと6時間も費やす馬鹿がいるんだよ」
「……あ」
「いいか長時間の戦闘ともなればチェーンクエストかレイドクエストやハイクエスト後はやる勇気があればグランドクエストだな。でもこれは長いと言えどほぼ連戦であって一回きりの戦闘じゃねぇ。
まぁ中には一回の戦闘で敵が強く長く掛かる奴もあるがそれでも6時間なんて頭のおかしな長さの戦闘はねぇ」
「たしかに」
「まぁ使った後敵を倒しきれずログアウトしてリキャストタイムが0になったらまたログインするって手もあるが、そんなことしたら最初からつまり敵HPフルからやり直しだまったくもって意味がねぇ。
まぁってな訳で神威開放は一回の戦闘で一回きりの切り札厳密にはチゲぇがその認識で別にかまいやしねぇよ。
それこそお前ぇが神威開放を手にいれない限りはな。
まぁ何年先になるかはしんねぇがな」
「うんだとこら!俺だって!俺だってな!すぐにあのラインハルトやアラヤって奴を超える神威開放を手にし天辺まで駆け上げってやるだからな!!」
「!……クックク、アッハハハハハハ!!おもしれぇ吠えるじゃねぇか!!」
「ああ!今に見てろよ!!」
「アッハハハハハハ!!」
アッハハハハハハ!!
アッハハハハハハ!!
アッハハハハハハ!!
いつの間にか話を小耳に聞いていた外野のプレイヤー達も大爆笑していた。
「いやいくらなんでも笑いすぎだろ!?
馬鹿にしてんのか!?
ってかそもそもてめぇら勝手に話し聞きやがったうえに笑ってんじゃねよ!!」
「ハハハ、まぁまぁそう興奮すんじゃねぇよちったあ落ち着きやがれ」
「ふざけんな誰のせいだと思ってんだ!!」
「そんなの決まってるだろ、お前ぇしかいねぇだろうが」
「「「「「「「「お前だよ」」」」」」」」
「ああ、ああそうかい。いやいやまったくもって、いい度胸だな、てめぇら----------!!!!」
周りのプレイヤーに威嚇の咆哮を上げる男を尻目に男は雰囲気を出すために注文していた自身のウィスキーに似せたウーロン茶の入ったグラスを呷ると
「まぁ結局のところ何が言いてぇかと言うとラインハルトはこのPVPにおいてもう一度神威開放を使えるって事だな」
そう溢した。
暫く静まり返っていたた声援だがまた一気に吹替した。
だがそれはアラヤへの声援ではなくラインハルトへの声援だ。
おおおーーーーーーーーーーーーーーー!!「ラインハルト!!」「ラインハルト!!」「ラインハルト!!」「ラインハルト!!」「ラインハルト!!」
ラインハルトがもたらしたこの絶望的状況にアラヤに声援を送っていた者達は流石にもう駄目だと悲観にくれていた。
そんなか荒野エリア都市デゼルトアース中央広場にて周りが口々にアラヤの絶望的劣勢を口にするなか悲観にくれるでもなくアラヤの勝利を疑わずPVP0を観続ける者達がいた。
「シド君」
「ああ。分かっている。
ラインハルトが[クロイア]を使いもう一度神威開放使う。つまりはもうすぐそれこそあと数秒であいつらの決着がつく」
「うん。
本当に。本当に長かった。実際のところ時間にすれば10分にも満たない闘い。
でも本当に長く感じた」
それは現実的、理屈的なものではなく心、感情即ち心情的に勝て欲しいと強く、どこまでも強く全力で願うからこそ感じた時間の概念。
「ようやく最後だ。
ここまで、最後に至る全てが予定通りとまではいかなかった。……だが本筋は離れていねぇ」
「うん。後はアラヤ君次第」
「ああ。
眼前に聳えるは最強、関係ねぇ。
雷神の化身、関係ねぇ。
最強、関係ねぇ。
頂点、関係ねぇ。
超えなきゃいけねぇならそれがどんなものだろうと超えるしかねぇんだよ。
だから振り絞れ全力を全開をてめぇが持つ全てを血の一滴すら残さずに出しきりあいつをラインハルトを超えていけ!」
「うん。アラヤ君勝つんだ。君の為に、君が手にしたい未來の為にも!」
二人は信じている。絶望を超えアラヤが勝つことを。
「さてと」
シドは周りを見渡すと立ち上がり
「おいてめぇら」
アラヤの敗けだと悲観にくれている周りにいるプレイヤーに対し声をかける。
プレイヤー達はシドの呼び掛けに暗い顔をPVPからシドへと向ける。
「いつまで何もかも終わったような馬鹿面さらしてやがんだ。
まだ勝負はついちゃねぇだろが」
「ちょっとシド君…」
シドのあまりに馬鹿にした言い方にそれはどうかとシドを諌めようとするクレスだが既に放たれた言葉だ。カチンとき怒るプレイヤー達。
「あん。なんだとてめぇ「よせ」…」
怒りシドに近付こうとしたプレイヤーにそのプレイヤーの仲間と思わしき別のプレイヤーが制する。
「だがよ!「まぁ待て。気持ちは分かるが落ち着け。他のお前等もだ」」
プレイヤーは仲間と同じくシドを睨むプレイヤー達を制するとシドに向き直る。
「なぁシド。ラインハルトのギルドオリュンポスに属するお前が何故自分のギルド長の敵対者であるアラヤに組みしてんのかは知れねぇがよ。
現実をみろよ。
ラインハルトは神威開放を後一度使えるのに対しアラヤは使えない。
どう足掻いたってもう無理だろうが。
そりゃ俺達だってアラヤの奮闘には目を見張ったさラインハルトによくここまで食い付いたってな。
だから俺達ももしかしたらアラヤが今だ誰も超えられないラインハルトを超えるんじゃねぇかと期待も抱いただからこそ面白ぇと思ってアラヤ応援した。
だからこそ俺達は……」
「勝てないと感じ落ち込んだ。とでも言いてぇのか」
「……まぁそうだな」
周りのプレイヤー達も同意見だと頷く。
「だから馬鹿なんだよてめぇらは」
「あん?」
自身もシドの言い方に怒りが無いと言うと嘘になるがそれでも冷静に場を制しようとしたプレイヤーも再度の言い分に眉を潜める。
「てめぇ現実って言ってたな」
「……ああ」
「てめぇらよ。ゲームの中でも現実の様に自分より高みにいる奴等に対し敗者で居続けるのかよ」
「はぁ?なに言って「これは俺達にとってもう一つの現実であってもゲームなんだよ」…」
「確かにプレイヤーによって技量知識の差は違ぇ。だがなそれでもステータスって点では誰もが生まれながら同等の一レベルなんだよ。
現実の様に生まれながらの格差がついてる訳じゃねぇ。誰もが、俺もてめぇもてめぇらも強くどこまでも強くなれんだよ。
それが俺達が望み欲に動かされ始めたどこまでも自由に欲深く自分の生き方を自分がしたいように生き抜けるVRMMOじゃねぇのかよ」
「………」
「それをなんで現実の様に限界を決め止まってやがる」
プレイヤー達は皆が一様にこのジェネティクノーツが発売されると知った時の事を思い出す。
有るものは現実と全く違う自分に憧れ。
有るものは現実とは違う強い自分に成るために。
有るものは自由と謳われたこのゲームで誰よりも自由に生きたいと。
有るものは現実の疲れから幻想の世界に心を高鳴らせ。
純粋にゲームが好きだからと言う者もいれば何かしら志しを抱いてプレイヤーしている者もいる。
学校・社会・生活・家族・友人・恋人種類は違えど皆が変わらぬ現実的現実に疲れていた。
つまり皆が皆何かを心に秘めプレーしているのだ。
「だいたいてめぇらがあいつ、アラヤに期待したって言ってんのはアラヤの奴ならラインハルトよりかは挑んだら勝率が高けぇあわよくば勝って自分が最強の座を手に出きるんじゃねぇかと思ってるからじゃねぇのか」
プレイヤー達は図星をつかれたのか一様にバツが悪そうな顔をする。
「まぁ分からなくもねぇよ。
アラヤの奴の神威開放は確かに厄介だ。
だがラインハルトとは違いそれさえどうにか凌げば隙をついていけるだろうな。
あいつも力量自体はまだまだラインハルトに及ばねぇからな」
「まぁそう言うシド君はアラヤ君に負けたんだけどね」
ギロ
つい軽口を出してしまったクレスに射殺さんばかりに睨み付けるシド。
「プュ…プュ、プュプュプュ~」
出来ない口笛で誤魔化そうとするクレス。
(後でぜぇてぇボコス)
内心クレスに対し処刑を決めるシド。
そんな二人に真面目と言っても過言ではなかった空気が一変しぎこちなくなる雰囲気にどうしたらと困惑しだすプレイヤー達。
「ゴホン」
シドも流石に一変した空気に先程の様な雰囲気を出しずらいのか軽く咳払いする。
「まぁなんだ。あれだよ」
((((…いやあれってなんだよ!?))))
「期待したんなら最後の時迄期待してやれ。例えそれがどんな結果に成ろうともだ。
以上だ文句あっかコラ!!」
シドはぶっきらぼうに言い放った。
((((えっ…ええええええ!?こいつ空気に耐えかねて全力でぶん投げやがった!?))))
だがこれが正解だった。
「ハッハ…アッハハハハハハハハハ!!確かにそうだ!実際に闘ってない俺達が勝手に期待しておいて不利だからと勝手に見限るのは筋違いだそりゃあ馬鹿と言われてもしゃあねぇなぁ!
なぁお前等!!」
「ああ確かにそうだ!!」
「俺達が勝手に諦めてどうする!!」
「よっしゃあ!気持ち切り替えるぞ!!」
プレイヤー達の雰囲気がまた盛り返してきた。
「そうだ!神威開放がなんだってんだ!!」
「お前ならぜぇてぇーいける!!」
「ラインハルトを打ち倒せ!!」
「頑張ってぇーアラヤ君!!」
「アラヤ!!」「アラヤ!!」「アラヤ!!」「アラヤ!!」「アラヤ!!」
皆アラヤが勝つと確信を抱いているわけではないだが期待だけはしている。
アラヤがラインハルトを超える事を。
(此処が正念場だぜぇてぇ勝てよ)
(アラヤ君必ず勝つんだ。君ならきっとできると信じているよ)
だがそんな期待だけの中でもシドとアラヤはアラヤの勝利に揺るがない信頼を抱いていた。
何故なら此処に至るまでの道筋は三人がラインハルト攻略で幾重も話し合い導き出したものとほぼ相違なかった。
果たして今現在この事実に気付けた者は要るのだろうか。
多くのプレイヤーは今だその事実には気付いてなくアラヤやラインハルトに声援を送るだけだ。
無理もない誰が予想できるだろうか、一撃で勝敗が決する。
全ては紙一重の勝負謂わば此処までの結果すら奇跡の様にすら思える戦い気付くのなんて無理な芸当だ。
だがそんな無理な芸当だからこそ疑問に思う者達も存在する。
(……なんだってんだあいつのあの冷静な顔は。
妙に落ち着いてやがる。
普通ならこの状況下で焦り一つねぇなんてまずあり得ねぇだろ。
オレ、いやオレじゃなくてもこの状況なら使わせないように妨害の一つや二つはするだろう。
なのに……どう言うわけか動きやがらねぇ)
(あの子分かっているのかしら。ラインハルトが神威開放を使えば自分の勝機なんて無いことを)
(それともクロイアがあることが分かっていながらもそれをラインハルトがこのタイミングで使うことすら計算にいれていたと言うの)
(全ては予定通り?)
(確かラインハルトの奴あの坊主に最初のPVPの時に[クロイア]を使わせたんだったよな。
ならあの小僧はその効果も承知の筈。
ならここは警戒して当然。
なのにあの小僧は防ぐ処か眉一つ動かさずまるで使えとばかりの…………はぁ?まさかそう言うことなのか。
ハッハだとしたらまじであの小僧…)
マオ、クオン、シオン、リリア、ジュウベエはアラヤの考えに思考を巡らせるとある一つの答えが導き出された。
「面白いな」
「「面白いわね」」
「愉快」
「面白れぇな」
つまりアラヤはこう言っているのだ。
ラインハルト、お前の神威開放を超え俺が勝つ。
此れはアラヤがラインハルトに向けた1ヶ月の間の出来事。
アラヤは自身の神威開放の変化した性能を理解しその上でラインハルトに対しどう有効化するかをクレス、シドと話していた。
『しかし無敵なんざぁスゲェーどころかバグった性能に成っちまったなてめぇの神威開放は』
『ほんと僕もビックリしたよ。
そもそも只でさえ凄い神威開放が更に変化するなんて初めて聞いたし!』
『ああそれに関しては俺も正直おどろいている。
ただでさえ神威開放は今のところ限られた奴しか使えない強力なギミックだ、それが更に性能が上がるなんじゃゲームとはいえ普通じゃあり得ないだろ。
』
『だからこそ隠されたギミックなんだろうね』
『とは言ってもだ、真実はどうかは今のところ分かりやしねぇ。
もともとアラヤ、てめぇの神威開放が最初から不完全な代物だったのかもしれねぇし。
だが、それならそれでなんでてめぇだけが不完全な代物を掴まされたのかがわかんねぇしな』
『でもシド。それは…』
『ああ、もしかしたらてめぇだけじゃなく今神威開放を持っている俺達の神威開放も不完全と言うことも有りえる』
『だけどそれだけじゃないんだね』
『ああ、不完全じゃなく完全でありその上での性能の向上も有りえる』
『はぁ、こればかりは幾つもの可能性が有ってどれが正解かは分かんないな』
『まったくだ』
『アラヤ君の方は何か通知とかきた?』
『いや一応俺の方からも運営の方に連絡をとってみたが、返事は問題ないです。のそれだけだった』
『なんだそれ答えになってねぇじゃあねぇか』『なってないね』
『でぇ、実際のところどうだ』
『どうだって何がだ?』『何なのシド君?』
『てめぇの変化、というよりは進化した神威開放だよ。
それでラインハルトには勝てるのか、てめぇ自身はどう思ってんだ』
『ああその事』
『その事かっておいおいそれが一番重要だろうがアホクレス。
はぁ、いいかラインハルトとの戦いに神威開放が変化した過程や理由なんじゃあどうでもいい事だ。
それこそ無意味、無駄、無価値でしかねぇ。
今一番問題視しなければならねぇのはアラヤ、てめぇの変化した神威開放がラインハルトに届くかどうかそれだけだ。
ってかそれが一番重要な事だろうが。
なのにそれをクレスてめぇは……ハァ』
『た、溜め息!?えっ僕そんな呆れられるほど駄目だったの!?』
『……ハァ』
『二回目!?』
『まぁいい、アホは置いといて実際そこんところ当の本人たるてめぇ自身はどう思っていやがるんだ』
『…確かに神威開放の性能が変化し10秒とはいえ無敵になる破格の力を得たのは事実だ。
無敵になれるんだこれで俺の勝ちは確定だ…………と自信を持って言いたいとこだが。正直無敵をもってしてもラインハルトに通用はするが届く…勝利できるかと言われれば難しい、いや無理だろうな』
『それに関してはシド君。
僕も正直のところ僕自身信じたくはないけどアラヤ君と同意見かな。
そりゃあ無敵が制限なく無限に続くなら勝てるとは思うけどそんなのは有り得ないし有ってはいけない。
だってそんなのゲームバランスを崩壊させるものでありそれこそ最悪なゲームな証拠だもん』
『確かにな』
『とにかく僕も時間制限の無敵なだけで勝てるほどラインハルトさんは甘くないと思う。
それに例えアラヤ君が無敵に成ろうとラインハルトさんには神威開放の使用回数を回復させるアイテムクロイアがある限り一回目でアラヤ君の神威開放を相殺させて神威開放を使用出来ない状態のアラヤ君に対し二回目の神威開放を行うっていう手がある。
正直かなり厳しい、と言うか打つ手が有るのかなぁと思うよ』
『ああ、俺もこいつの意見とほぼ同意見だが
別にまったく打つ手がないわけじゃねぇ。
例えクロイアが化け物染みた性能とはいえ所詮は一アイテムでしかねぇ以上アイテムを使い回復し神威開放を使用するまでには数十秒とは言え時間を要する。
ならその数十秒の間に隙をついて仕留めるって手もあるが………一世一代のPVPにそんなことをしてみろ、相手が最強だからとは言え拍子抜け、卑怯だとバッシングは有るだろうな』
『でもだよシド君。
アラヤ君には悪いけど確かに僕も一ゲームプレイヤーとしてシド君の言うことに完全には否定できない。けどアラヤ君がラインハルトさんに勝ちたい、どうしても勝たなければいけない事情があるならそれも仕方の無いことだと僕は思うよ。
そう言うのって大事なのは周りからどう見られるかじゃなくて自分がどうしたいのかだし』
『お前にしては良いこというじゃねぇか』
『いやシド君。誉めてるつもりかもしれないけどお前にしてはって結構酷いからね』
『大事なのは周りからどう見られるかじゃなくてアラヤ、てめぇがどうしたいかだ』
『あっ、僕の抗議はスルーなんだね。
まぁ悲しいぐらいに分かってたけど』
『だから有象無象どもの戯れ事なんじゃあ無視しててめぇを貫け、って言いてぇとこだがそもそもてめぇ自身が最初からその気がまったくねぇって言うなら話しは別だがな』
『すまん。
俺はラインハルトに勝ちたい、絶対に勝ちたい、勝たなければならないんだ。
その為なら例え卑怯だとバッシングを受けようが構わない筈なんだ。
だけど俺は…俺は出来ればラインハルトの全力を全てを引き出したうえでラインハルトを越え勝ちたいんだ。
結局これは俺の我が儘でしかないのも分かっている。
だけど俺はそうしたいんだ』
『ちっ、ホントに馬鹿だなてめぇはよ』
『シド君』
『だいたいよ此れはてめぇの戦いじゃねぇか、なら何を選択するにしてもてめぇの自由だろうが。
我が儘だと、上等じゃねぇか。
そもそも人間なんじゃあ欲張ってなんぼの生き物じゃねぇか、ならどうせならとことん高くいこうじゃねぇか』
『そうだよアラヤ君。
此れはアラヤ君の戦いなんだ。
ならアラヤ君が納得出来るまでとことん我が儘でいこうよ』
『二人ともありがとう』
『まぁそれによ此処まで言っときながらだがそもそもラインハルトの奴がそんな無防備を晒すとは思ぇねぇし下手したらそこも計算の内って反撃されてTHE ENDって可能性もあるしな……いやラインハルトの奴なら有りそうだな』
『最強は伊達じゃないってことだね。
でもだったらどうする?話が振り出しに戻っちゃったけど』
『あーそうだな。
アラヤ、てめぇ自身は何か考えはねぇのか?まぁ直ぐに思い付くのは難しいかもしれねぇが『一つだけある』…『えっあるの!?』ってあんのかよ!?』
『ああ、と言っても自分でもかなり無防だと思うんだが』
『この際無茶でも無防でもなんでもいい、考え付いたことがあるなら言ってみろ』
『俺の一回限りの神威開放をラインハルトの一回目の神威開放にぶつけ相殺させる。
ラインハルトも俺が神威開放を使用するなら確実に神威開放で対抗してくるだろう』
『神威開放使いに対する常道策だな』
『その際勿論俺は手は抜くことはしないし一撃を与える事も狙っていくつもりだ』
『そんなの当たり前だ、だいたい手を抜くなんて嘗めた真似なんてしようとしやがったらラインハルトの前に俺がてめぇをぶっ潰す』
『うん。
シド君の言う通りゲームとは言え真剣な勝負で手を抜くなんてラインハルトさんに失礼だしね』
『ああ分かってる。
さっきも言ったが俺はこの戦い手を抜くきは一切ない』
『ならいいが』
『俺が一度目の神威開放同士の攻防の最中やろうとしているのはこの一度目でラインハルトの神威開放を一回分消費させることとこの攻防の最中ラインハルトの動作、攻撃の仕方、防御の仕方、避け方を体に意識に情報を刻み付けることだ』
『刻み付けるって、つまりラインハルトさんの戦い方のデータを得るってこと?』
『そうだ。
そしてそのデータをもってラインハルトの二度目の神威開放を迎え撃つ』
『………つまりだ、てめぇは神威開放がない素の状態で神威開放状態のラインハルトに対すると言いてぇわけだな』
『そうだ。俺は神威開放ではない状態でラインハルトの神威開放を迎え撃ち勝つ』
『…………』
『つまりアラヤ君はラインハルトさんの二度目の時の為に一度目の、10秒の攻防でラインハルトさんの動きを見切ろうとしている、いやするんだね』
『ああ』
『『…………』』
『…………』
『……クックク、アッハッハハハ!おもしれぇ、おもしれぇな、何を言い出すかと思えば俺達の考えでは到底思い付かねぇ、ってかはなっから考えることすらしねぇとんでもないことを言いやがる!
アッハハ。クレス!つまりこいつは必死、切り札と言われている神威開放に対し素の状態、つまりただのこいつ自身で破ろうとしているって事だ!こんなの常人の発想じゃねぇよ!』
『確かに普通なら有り得ない。だけどもし、もし本当にそれが出来るのなら、いや起こりえたならアラヤ君は!』
『ああそうだ!このジェネティクノーツ初の神威開放無しのてめぇだけの力で神威開放を破るっていう偉業を成し遂げたことになるな。
ああいいだろう。
てめぇの我が儘に付き合うと言ったのは俺達だ、大言壮語だろうとてめぇが覚悟があるなら俺達に言うことはねぇとことん付き合ってやるよ』
PVPをライブ中継で観ていた五大ギルド長達が気付いたようにアラヤと相対するラインハルトもクロイアを使ったにも関わらず一切表情を変えないアラヤの冷静な様子に此処までの流れ全てがアラヤのシナリオ通りだと言うことに気付くと心の内から込み上げる感情と共に答え合わせを行う。
「…私が再び神威開放を使えるようになったと言うのにアラヤ君、君は全く動じず落ち着いているまるで関係ないとばかりに。
それもそのはずだ君は既に私との最初のPVP時にクロイアの存在を周知したのだ。
ならこのPVPで一度目の神威開放同士の衝突で決着がつかずその後の剣鑽でも決着が付きそうにない時点で私がクロイアを使用し二度目の神威開放をもちいて君を倒そうとするのは容易に想像がつくことだったな。
だがそれは想像がつくだけであり実際に行おうとするにはあまりにも困難でしかない。
それにそもそも一面的な組み立てた筋書きならともかく始終全てを打ち合わせすらなく運ぼうなど有り得ることではない。
だがアラヤ君。君の様子から察するに君は運んだのだな私を君が最初から描き続けていたシナリオ通りに」
ラインハルトは顔に手を充て愉快そうに大きな声で笑う。
「アッハハハハハハ!!、君は初めから二回目の神威開放との勝負にかけていたと言うことか!
つまりは一回目の神威開放同士の衝突は君にとって勝利を目指し本気で一撃を狙いながらもその真たるものは私の動きを見極めるためのものだったと言うわけか!」
アラヤは自身のシナリオと寸分違わないラインハルトの解に対し感心を得苦笑した。
「流石だよ。
この僅かな情報のなかで俺の狙いを導きだなんて。
お前の考察通りだよ」
「僅か?いやそれは違うよ。
君との戦いのなかで十分過ぎる程の情報は有ったんだ、ただそれに私が気付かなかったそれだけのことさ」
ラインハルトは自身を情けないと恥じるように言う。
「俺としてはそれで良かったんだがな。
もし途中で気付かれていたらその時点で勝負はついていたかもしれないしな」
実際アラヤにはこの戦いを自身が描いたシナリオ通りに運さえ不確定要素とも言う懸念が有った。
ラインハルトが途中で気付くと言う懸念が。
だが結果はアラヤの方に軍配が上がった。
ラインハルトはアラヤの言葉に笑うのを止め手を下ろした。
「アラヤ君。なかなか意地悪を言うじゃないか。
結果は見ての通り私は君の予想を上まれなかった。
ならその時点で君の私に対しその懸念は意味を成さないずIfの可能性等意味がない。
今此処に有る現実こそ全てだ」
「どうする全てがシナリオ通りと言うなら俺にはお前の二度目の神威開放を打ち破る秘策があると言っようなものなんだが」
アラヤがそう言った瞬間PVPをライブ中継で観ているほぼ全てのプレイヤーが映像越しに映し出されたラインハルトの表情を観て背筋が凍るような恐怖を抱き息を飲んだ。
ラインハルトの表情はまるで捕食者。
悪魔も逃げ出しそうな程に獰猛な笑みだった。
「こうまで踊らされたんだ。
例え君が幾つもの策をこうじようとも今更躊躇いなんてない。
私はただその全てを捩じ伏せ君から勝利を得るそれだけのこと」
「……なんとなく思ってはいたけどラインハルト、お前かなり傲慢な性格だな」
「ハハハ、そうさアラヤ君。私は崇高な人間でも潔白な人間でもない、ただの人間。
君の言う通り傲慢であり欲深くあり決して特別なんかじゃないありふれた一人の人間でしかない。
だがそれでいいんだ。
それが私なのだから。
それにこんな私を険悪を示さず肯定し見ていてくれる人もいる。
ならそれで十分」
アラヤは備える。
眼を瞑り深く深呼吸し備える。
決着に。
終幕の時に。
運命の時に。
これまでの全てを想い備える。
―――――――――――――――そして覚悟を決めた。
アラヤは閉じた眼を開しラインハルトを見据える。
そして唱える。
「属性付与風」
アラヤは緑剣を構え狼煙を上げる。
「いくぞラインハルト!!」
「ああ。君が抱く幻想を実現し乗り越えてみたまえアラヤ君!」
ラインハルトは二度始める。
力の顕現を。
雷神の力を。
この世界に来神させる。
ラインハルトは己が持つ両手剣を天に掲げ神威開放を発動させる。
「システム起動。天空座する神々の王、祖は雷光の加護を受けし天上の神」
「雷霆神罰神威開放!」
今この時をもちPVP において雷神が二度降臨した。




