ルーベルの森
やぁ、こんにちは語り手だ
ルビィの店で落ち合ったアラヤとユエ。
アラヤはユエから今回のオリュンポスとの騒動について詳しい詳細を聞く。
今後どうするか悩む二人はジェネティクノーツ最大の高難度クエストグランドクエストに挑戦することを決めた。
さてさて二人はグランドクエストをクリアすることができるのか。
中央都市アルカディアから森林エリア都市フォレストパレスに転移した俺とユエは直ぐ様フォレストパレスからフィールドに出ると辺りに他のプレイヤーが居ないことを確認し姿を隠す意味が無いことを知るとカメレオンチェンジを解き変化していた容姿を元に戻し必要なくなったローブを脱ぎストレージに仕舞い変わりに武器を装備した。
俺は剣帯の左側に剣を納めた鞘をユエは全体が白色で天使の羽を型どった装飾のある自身より少し小さいぐらいの弓と弓と同じ白色の天使の模様がある矢筒を背中に装備してクエスト発生場所に向かうためルーベルの森の中を進んでいた。
森林エリアはその名の通りエリアのほぼ全てが木が生い茂り森と化してあるエリアである。
整備された街道もいくつかあり、街道はモンスターの出現率が森の中より低いため比較的安全に進むこともできる。
しかし今回行くのは森林エリア内のルーベルの森の中にあるマロンの村なのでクエストの条件もあり街道ではなく森の中を進んでいる。
この森林エリアで出現するモンスターは主に虫系や野獣系、樹木系が中心である。
かといって他の種類のモンスターが居ないわけではない、例えばグリーンスライムなど通常モンスターがそのエリアの特性を得て居ることもある。
俺とユエはルーベルの森の中を警戒を怠らず進みながら会話をしていた。
「今さらなんだが、ここは虫系のモンスターが多く出現するが大丈夫なのか?」
俺は前を向いて歩きながら然り気無く隣を歩いているユエに聞いた。
前を向きながら隣を歩いていたユエが歩いたまま顔を俺に向けた。
「へぇ~」
少し口元を緩めにや~とした表情で言う。
(なんだ、そのからかうような表情は)
ユエの顔を横目で見ていた俺はユエのその表情に思わず立ち止まりユエの方を向いた。
「なんだよ」
「いや、心配してくれているのかな~と思って」
俺のぶっきらぼうな言い方にユエは口元を緩めたまま応える。
(ツッ!)
「ほら苦手なモンスターとかだったら戦闘中に動きが止まったりして危険だったりするからな」
一応女性なので気を遣った発言だったが本人からそれを指摘されるのは中々恥ずかしいものがあり口から出る言葉は誤魔化すような早口で言い訳みたいになってしまった。
ユエは俺の返答を聞くと再び前を向いて
「まぁ、そういうことにしときましょう」
まるで子供の嘘を信じてあげる親みたいに頷くと歩き出した。
(そういうことって………)
俺はなんだか綽然としない気持ちだったが
これ以上話を続けても俺が被害にあいそうというかろくなことにはならないと思ったので止まっていた足を動かし黙って歩いていたら俺より少し先を歩いていたユエが
「大丈夫だよ」
ポツリと声を漏らした。
「え?」
(なにが?)
何の事か分からず俺が戸惑っているなかユエは前を向いたまま
「虫系のモンスターのこと」
(ああさっきの話しか……)
「そりゃあ現実の虫は苦手だよ、特に台所とかに出てくる名前を出したくないアレとか」
(まぁ、アレに関しては俺も苦手だ…というかアレに関しては逆に好きな奴なんていないだろう)
「でもここはゲームの世界だし出るとしても本物じゃなくモンスターとしてだもの。
それに虫系モンスターなんて他のエリアでもしょっちゅう出るしそんなのいちいち怖がっていたら冒険なんてできないよ」
(たしかにそうだ。
ユエも女の子だからとみくびっていた俺の方が悪かったな、彼女もトッププレイヤーの一員だし気遣いは無用ってことか)
俺はユエに対しユエと云うプレイヤーをみくびるような発言をしたことを反省しているなか前方より
「そう…ここは結局はゲームの中の世界で現実ではないんだから……」
悲しげに消え入りそうな声でまるで自分に言い聞かせる様な呟きが聞こえた。
「え?」
突然の声に思わず驚いた俺に対しユエは
さっきの呟きがなかったように俺の方にくるりと振り返ると
「女の子として気を遣ってくれてありがとうね」
俺に向かい笑顔で言った。
笑顔で感謝されてるにも関わらず俺は自分が何かしてはいけない、そう過ちを犯したような言い様のない不安を覚え俺は笑顔を向けるユエに対しなにも言えず黙っていた。
先程の呟きの意味は分からない、分からないが。
何故かその時前を向いて呟きを漏らしたユエの表情があの悲しげな呟きと同じ様に悲しげに泣いているような表情をしていたのではないかと思った。
俺とユエはポイズンワスプ、スタンスパイダー、スリープトレントなど際限なく出てくるモンスターを倒し時には避け、逃げながら順調に進んでいた。
(しかし情報とおりとはいえ、モンスターが多いな…)
森林エリア都市フォレストパレスからマロンの村までにはちゃんとした街道がある。
街道なだけに出現するモンスターも少なく安全に行けるが今回に限ってはそうはいかない。
先程も言った通り街道では行かずルーベルの森の中を通って行くことが重要である。
ちなみにこの条件が高難度クエストがグランドクエストと言われる理由の一つでもある。
そもそもこのグランドクエスト挑むにあたって最初の発生条件が街道を通らずルーベルの森を通ってマロンの村まで行くことでありそのなかでマロンの村に着くまでに【プレイヤーのHP中10%以上のダメージを受けない】ことも条件である。
ちなみにパーティーを組んでる際はパーティーのトータルHPで計算される。
ただでさえルーベルの森の中は出現するモンスターが多いうえにそのほとんどが状態異常を興す攻撃をするモンスターである。
受けたら一秒毎にダメージが発生する毒は勿論、動けなくなる麻痺や睡眠状態なんてうまく防いでダメージを0にしたとしても状態異常になったら追加攻撃をされた時動けず致命的になりかねない。
しかもマロンの村に着くまでは使っていいのは状態回復石だけで回復石や転移石は使えない。
誰か一人でも使った時点でクエストを発生させることが出来なくなる。
なのでもしパーティーを組んで挑もうとする場合仲間が状態異常になったらモンスターの攻撃から自分も出来るだけダメージを受けないように守りつつ状態異常を治すしかない。
つまり一人で挑むならHPが100ならば10ダメージ受けたらアウト。
アラヤゆユエみたくパーティーを組み二人で挑む場合
二人のHPが片方1000でもう片方が1500の合計2500の場合は10%つまり片方が或いは二人合わせて250のダメージを受けたらアウトだである。
ちなみにルーベルの森には通常のモンスターより遥かに強いモンスターも居るので運悪くあたると一撃くらっただけでクエスト発生は失敗であり最初からやり直しなのだ。
実力もさることながら運も試される。つまり両方兼ね備えなければ無理だと云うまさに高難度クエストに相応しい発生条件である。
「やっぱり分かってはいたけどマップも駄目みたい」
ユエがマップを開きながら深刻な面持ちで言った。
ルーベルの森の中はマップが効かず分かるのは方位だけだなのでモンスターから逃げる際にも道を逸れず真っ直ぐ逃げなければ早い話迷子になる。
なので戦闘の際には来た方向と行く方向を忘れないように気を付けなければならない。
普通なら方位さえ分かれば来た道は分かるだろうと大丈夫だと思うかも知れないがルーベルの森はいりくんでいるため下手にきていた道から逸れて方位だけを頼りに真っ直ぐ行こうとすると全然違った所に出たりする。
なので普段の冒険ならまだしもこのグランドクエストでは、来た道を進むべき道を外れないようにできるだけ戦闘は避けるべきなのだ。
といってももやはりどうしても避けられないと云う状況はあるが。
(しかし自分で挑んでみて分かったがやっぱり不思議に思うなラインハルトの奴……)
「どうしたの?」
俺が悩んだ顔をしたので何かあったのかと思いユエが聞いてきた。
「いや、大したことではないけどなよくラインハルトは一人でこのルーベルの森の中に入っていたなぁと思って」
俺がそう言うとユエは目を見開き確かにと頷いた。
「そういえばそうだね。
ラインハルトさんがこのクエストの発見者ってことはその時まで発生条件は謎のままで知らなかったはずだもんね」
「ああ、しかもその中でよく条件もクリアできてるし」
(ほんと、謎の多い奴だ)
俺がそう思っているなかユエは顎に手をやり何か考える仕草をした後俺に何か思案している顔を向けながら
「ねぇ、もしアラヤ君の前に謎の未開のエリアがあったらどうする?」
「捜索する」
俺はユエの問いに考える間も無く即答した。
だって誰も知らない謎の未開のエリアなんてわくわくするじゃないか!
「即答って…」
ユエは即答した俺に呆れた表情を浮かべた。
「私、ラインハルトさんの事はよく知らないけど案外アラヤ君と似た者同士なのかも」
(俺とラインハルトが似ている?)
「全然似てないだろ」
片や大手ギルドのギルド長に対しソロ。
片やいろんな人に慕われてるのに対しいけすかない奴と思われている。
片や最強に対しそこいらのプレイヤー
似てる要素がまるでない。
俺が全然分からんと腕を組んで唸ってる姿を見て
「はぁ、いいよ。
私の思い過ごしかも知れないし」
と溜め息を吐いて呆れたように溢すと俺を置いて先に歩いて行った。
「えっ…ちょっ」
俺はその様子になんだか綽然としないまま先に行くユエを追いかけたら木が少ない開けた草原に出た。
俺は草原に出る一歩手前で止まっていたユエに追い付きさっきの事を問いただそうとしたら
「アラヤ君」
ユエが前方を警戒した面持ちで見ながら俺にだけ聞こえるぐらいの小さな声を発した。
俺もユエの目線の先を見て気づいた。
進行方向先のルーベルの森から緑色の毛皮をし牙と爪が鋭く頭にチェスのポーンの先端を催したヘルムを被っている見た目細マッチョのゴリラみたいた猿型野獣が三体やって来た。
「よりにもよって《ポーンエイプ》か…」
《ポーンエイプ》エイプ系モンスターでエイプルギスの一体だ。
エイプルギスとは《ポーンエイプ》《ルークエイプ》《ナイトエイプ》《ビショップエイプ》《クイーンエイプ》《キングエイプ》のチェスを催したエイプ系のモンスターだ。
ポーン→ルーク→ナイト→ビショップ→クイーン→キングにいくにつれて強さが上がる。
各エリアに存在しているモンスターで毛皮の色以外は姿形はほぼ一緒だ。
大きさもポーン→ビヒョプはだいたい150cmぐらいでクイーンとキングはだいたい2mぐらいだ。
武装もポーンは素手、ルークはアックス、ナイトは片手剣、ビショップは弓、クイーンは槍、キングは両手剣である。
その中でも《ポーンエイプ》はプレイヤーの中では厄介なモンスターとして知られている。
別に特別強いといったり状態異常をおこす攻撃をするわけではない。
攻撃も殴ったり、引っ掻きや噛みつき石や木を投げるといったものだ。
確かに簡単に倒せるほど弱くもない。
だが一番厄介だとされてる理由はこの《ポーンエイプ》は仲間を呼ぶのだ。
それだけかと思うがこれが厄介で一定時間内に倒さなければ仲間を呼んで安全エリアに入るまでしつこく追いかけてくる。
しかも一体で三体も呼ぶのだ。
つまり二体いれば六体。
三体いれば九体。
ねずみ算方式に増えてゆく。
ほどほどに強いのがだ。
しかも通常は同じ《ポーンエイプ》しか呼ばないがランダムで《ルークエイプ》《ナイトエイプ》《ビショップエイプ》《クイーンエイプ》《キングエイプ》を呼ぶのだ。
ちなみにプレイヤーの間からは《狂気の猿軍》とも呼ばれている
見つけたら腕のいいプレイヤーはとにかく早く倒そうとし、逆に自信のないプレイヤーは転移石でさっさと逃げる。
でもたまにだが経験値を稼ぐためわざと仲間を呼ばせて倒す奴もいるがうまくいった奴はいない。
《ポーンエイプ》は俺達に気付き三体の内中央にいた一体がこちらにゴリラみたいに手と足で地面を蹴り駆け出してきた。
「ウホッ!ウホッ!」
俺も右手で左腰の剣帯にさしてる鞘から片手剣を抜くと右手と左手を後ろに地面を蹴り駆け出した。
迅速に倒さなければ。
俺が駆け出したタイミングで左右の二体が石を握っていたみたいで右手を後ろにやり野球のピッチャーのように振りかぶり俺に向かって投げてきた。
「ツッ!」
俺が迫る石に対しどう回避行動をとろおか考えてると
背後から
「そのまま中央の奴に行って!」
声と同時に二対の閃光が俺の左右をかけて石を砕きそのままの勢いで左右の《ポーンエイプ》の顔のど真ん中に直撃した。
「ウホッ!?」
どうやら後ろからユエが矢を射ったみたいだ。
しかし二本同時なうえ石を砕きそのまま急所である顔に当てるとは…。
二体の《ポーンエイプ》は矢の勢いで後ろに飛んだ後クリティカルヒットでそのまま体勢のまま光の粒子になり消滅した。
俺はユエの言ったとおりそのままの勢いのまま走り
「エンチャント炎」
と呟き片手剣に炎を付与した。
片手剣は業火を纏ったように赤くなりそのままこちらに駆け出したままその鋭い爪で攻撃しようと振りかざした《ポーンエイプ》を
「ハァッ!」
後ろにやっていた右手に握った片手剣でそのままの勢いのもと右上にやり《ポーンエイプ》の体を右上から左下に切り捨てた。
「ウホッ!?」
《ポーンエイプ》は光の粒子になり消滅した。
俺はその場で止まると他にいないか警戒した。
…………どうやら他にはいないみたいだな
「他にはいないみたいだね」
ユエも右手に矢、左手に弓を持ち何時でも打てる体勢のまま周囲を警戒しながら俺の側まで来た。
「そうだな大丈夫みたいだな」
俺は警戒を解き剣を鞘に納めるとユエも左手に持った矢を背中の矢筒に直し弓を背中に背負った。
「早く倒せてよかったね」
「ああ仲間を呼ばれると面倒だったからな」
俺はそう言うとユエの方を向き先程の二連射について尋ねた。
「なぁ」
「うん?」
「さっきの二連射だけどほぼというかまったく同時に見えたがどうやったんだ。
弓使いのプレイヤーで今まであんなの見たことなかったが誰でもできる奴なのか、それとも何かのアイテムを使ったのか。」
俺は興奮してユエに詰め寄りマシンガンのように聞いた。
「ちょっ!ちょっと!」
俺があまりにぐいぐい来るものだからユエは焦ったように両手を前にやり
「説明するからとりあえず落ち着いて!」
と制してきた。
俺はその言葉でまるで嫌がる女の子に無理やり迫っている男みたいな今の状況に気付き
「すまなかった」
全力で頭を下げた。
説明すると言ったもののまだルーベルの森の中でマロンの村にも着いてない状態なので話は着いてからとユエが言い俺はそれを素直に………正直今すぐにでも聞きたかったが怒られることはわかりきっているので了承し先に進んだ。
その間も色んな虫系、野獣系、樹木系のモンスターが大量に出て倒したり時には逃げたりした。
幸いなことに《ポーンエイプ》は出現しなかった。
そしてルーベルの森を進んでいた俺達は目的地である
「着いたな」
「うん。着いたね」
マロン村に着いた。
余談だが今まで挑戦したプレイヤー約500人の1/3がここで挫折する。
その原因は《ポーンエイプ》だ。
条件1【プレイヤーのHP中10%以上のダメージを受けない】
クリア