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一撃PVP4

《6》

刻々と両者の神威開放(アルティマ)使用時間が減少していくなかアラヤとラインハルトお互いの剣戟は既に三十は優に越えている。


「はぁ!」

「はっ!」

速さもある。

だがそれだけではない。

お互いとも剣に迷いがなく躊躇なく次の一撃を繰り出していっているのだ。

まさに息もつかせない攻防。


アラヤもラインハルトも一瞬たりとも気を抜かないし抜けない。

ただの一手それこそ瞬きほどの一瞬だろうとおくし相手より出遅れればそれだけで致命的でありたった一回の遅れがそのまま相手に勝利への流れを持っていかれる。


何度も言うが現在の二人の条件(優位)は圧倒的にアラヤである。

幾らラインハルトの剣がその身に届こうがノーダメージ(無敵)である以上意味がない(勝ちは得ない)

逆にラインハルトはアラヤの剣が一閃でも届いた時点で敗北をきっする。

だというのに実際はどうだラインハルトは自身の現実的不利を一切感じさせない振る舞い。

別にアラヤの剣がラインハルトに全く届いていないわけではない今もラインハルトが自身の剣を打ち払った反動を生かしラインハルトに斬り下げ、斬り上げ、突きを繰り出している……そう繰り出してはいるのだ、しかし全てが避け、防がれているだ。


一筋の苦悶の表情すら見せず観る人によると笑ってる様にすら見えるラインハルト。

ラインハルトもアラヤとの戦いが心が踊り高鳴る程に楽しんでいるのは確かなのだ。

しかし楽しいからといっても決して終始余裕というわけではない。

(!…フッ…今のは危なかった。

もうあと数センチいや数ミリの差でアラヤ君の剣が私の頬を掠めるところだった。

しかし流石だよ、今のところは全てを防げているとはいえ切り替えのための一瞬の間すら与えて貰えないとは、いやはやどうしたものか…)



息をつかせぬ切迫した状況の最中にも関わらずアラヤの剣を捌きながらラインハルトは決して思考を止めず常時勝利への策を思考し続ける。

実際のところラインハルトにはアラヤの無敵の神威開放(アルティマ)が終わりを告げるその時まで剣の届かぬ間合いまで退き続けると云う一点を除き一切の不備はない。

よく捌きその上でダメージは通らないもののアラヤに幾つも剣を通らせている。


幾ら無敵であろうと無限ではなく有限である以上誰もが終わりを待つという常識かつもっとも安全な策を選ぶなか一切退くこともなく立ち向かう姿は誰が何を言おうとその技術、度胸はトッププレイヤー達からしたら称賛に値する。


だがそれでもやはりその称賛に値する行為も無敵の状態のアラヤには無意味、無駄、無謀、ただの徒労でしかない。


幾ら卓越した技術から繰り出した剣がアラヤに通ろうがダメージが与えられなければ勝利を獲ることは出来ない。

それでも相手に自身の存在(強さ)を刻み込みプレッシャーつまりは精神的恐怖を与えるといった意味では効果的ではある。

PVPを観ているプレイヤー達のなかにはそれがラインハルトの狙いでありそれ故にこんな無謀をおかしているのではと考える者達もいたりする。

では仮にそうだとして当のアラヤはどうかというとだが

その目には迷い・動揺・焦燥・悲観・怒り・絶望・嘆き・悲壮といった負の色彩はなくただ、そうただの一滴、一切の揺れもなくラインハルト(倒すべき敵)を真っ直ぐに、純粋に従順に強く、強く見定めている。

まるでその有り様はアラヤの世界にラインハルトしか存在してないかのようだ


(ふむ。効いていないのか、それとも効いているにも関わらず尾首にも出さないだけか……)


当のアラヤ本人が自身に剣が通ろうとも一切の動揺もなく意にも介してはいないようでは

ラインハルトが今現在不足しなおかつ一番知りえたいものが捉えられない。


ラインハルトにはアラヤの癖・動作・仕草・機敏に至るまで圧倒的までに情報つまりはアラヤという人間性に対する知識が不足している。

そもそもラインハルト程のプレイヤーからすれば相手の癖・動作・仕草・機敏さえ十全或いは最低でも七割程でも把握できたなら相手の次の行動を予測するなどぞうさもない事だ。

実際レイドレベルで挑む強モンスターに対しラインハルトはモンスターの行動パターンを理解する事でソロで打ち勝っている。


しかし現在ラインハルトが相対するは感情で多様に変化する無数の回路を持ちそれを制御する理性というブレーキングを持つ人間という名の複雑怪奇な魔物である。

最初から定められたプログラム(法則)たるモンスターならばある程度のパターンさえ把握できればそこから組み立てる戦術次第でどうとでもなる。


現在ラインハルトが知るアラヤの情報は

シドとの戦い

自身との始まりのPVP

現在のPVPが始まって僅か数秒足らず

であり把握している情報はよくて四割でしかないこれでは如何にラインハルト云えどアラヤの次なる行動を理解し予想する事など不可能に近い。


しかしとはいえだその四割程度の情報と自身の技量を組み立てアラヤの剣を見事防ぎ躱し迎え撃っているのはひとえにラインハルトという人物の元々持っているプレイヤースキルの高さゆえであるが。


(しかしどちらにしても、凄まじいと言わざるおえないな。

自身の切り札(優位)を全て対処されているにも関わらず顔色がまるで変わらない。

君が真剣に戦っているのは重々理解しているがそれでも失礼ながら称賛を贈る。

君は強い)


例えば皆さんご存知正義のヒーローが一度敗北を期した相手に対し急激な圧倒的パワーアップを遂げ新たに生み出した新必殺技をかましたにも関わらず無傷の上『それがなにか?』みたいな平気な顔をしていたら動揺し挫折し逆に心を爪楊枝を簡単にバッキバッキに折るぐらいの圧倒的に絶望レベルに叩き落とす悪魔的所業だ。

そんな悪魔的所業(ラインハルトはそこまで意識しているわけではないが)を受けているにも拘らずアラヤは自身の剣が防ぎ躱され迎え撃たれようがそれが予定どおりと言わんばかりに平然としている。

これにはラインハルトのアラヤへの称賛レベル強いては警戒度を一ついや二つ飛び越え三つ四つ上げる。

分からない程不気味。

まさにこの言葉通りである。



(…しかし分かってはいた。分かってはいたが流石にこうも見事に対処されるとは、現状圧倒的有利は俺のはずだが逆に俺の方が追い詰められている気分にさせられる)

アラヤにとって現在の結果は予定調和、初めから想定の範囲内ことでしかない。

しかし分かっていたからといっても何も感じないわけではない。

驚き、焦燥、苦悶、悲観。

心の内海より確かに感じるその感情を懸命に蓋をし押し込め尾首にも出さないだけ。


分かっているからこそ出せない。

蓋が抉じ開けられ僅かでもその感情が溢れ零れ垣間見得たならば自分がどうなるのを。

だから抑える、抑える、抑える、抑える、抑える。

懸命に抑える。

抑えながら冷静に剣を振るい続ける。勝利の為に。



(ああ。こうしてラインハルトと直に戦うと改めて思い知らされるな。もしこの1ヶ月。そうこの1ヶ月という期間を得られなければ俺は何も出来ずに終わっていたと)

1ヶ月、そうこのラインハルトに向けての1ヶ月の特訓がなければとうにアラヤの蓋は簡単にそれこそそよ風程度赤ん坊の力程でも空いていただろう。


《5》

両者互いの想い等関係なくただあるがままにタイムリミットが慈悲なく削り行く。

《4》

お互い一歩も譲らない

《3》

一瞬足りとも目を背けない

《2》

常に目指すは勝利ただそれだけを

《1》

そしてタイムリミットは…

《0》

終幕の刻を告げる。


神威開放(アルティマ)を使用したアラヤとラインハルト二人の五十を越え百に頂かんとする速く強く重く気高い類いまれなる剣戟の数々。

それは正に伝説や神話に語られる視るものが心を奪われ賛美を送り焦がれ憧憬を抱く英雄達の一幕。

始終条件的に優位に立っていたアラヤであったがその剣はくしくもついぞラインハルトに届くことはなかった(勝利を抱かなかった)




PVPをライブ中継で観ていた多くのプレイヤーが神威開放(アルティマ)が終了した時点でアラヤの確定的敗北を悟りPVPという祭りの終幕の空気を醸し出す。


それはいたしかないことだ。


アラヤがこのPVPにおいてラインハルトに勝利を得る可能性が有ったのならそれは先程の無敵状態にしかほかならなかった。


其ほどまでに神威開放(アルティマ)においてはアラヤの方が性能がよく『もしかしたら』『いけるんじゃないか』という僅かな期待を希望を願いを感じさせた。

だが蓋を開ければ結果は無情。

僅かに抱いた願いさえも塗り潰す結果。

勝利は抱けず無敵状態ですら無いアラヤにはいくら一撃、そうたった一撃剣が通れば勝利を得る条件だとしても何も無い状態のアラヤ。

トッププレイヤーの一員では有るアラヤ。

それでもラインハルトという圧倒的プレイヤーの下に位置する数いるトッププレイヤーの中の一人にしか過ぎないアラヤ。

そう神話や物語に出てくる英雄や勇者(特別)では無いアラヤではラインハルトに勝利する可能性など1%もなく絶対的0でしかない。

これがPVPを観戦していたプレイヤー達の見解である。



(……僅か数秒。だが確かに交わした数々の剣戟。だがその剣戟をもってしてもいまだアラヤ君という人間性が僅か(朧気)にしか見えない)

ラインハルトには今だアラヤの情報(姿)の全容が把握できない。

その為一瞬とはいえ今此処で勝負を決めに掛かるか躊躇ってしまう。

(……まさかとは思うがこれで終わりなのか。

確かにアラヤ君は強い。

私と戦った一度目よりも遥かに強くなっている。心も力も。

そのアラヤ君が私への備えとしたこの1ヶ月がこれで終わり…)

迷いを抱くもののそれでももし決めるとしたら今この瞬間神威開放(アルティマ)が終わりステータスのバフも消え無敵ではなくなったまさにこの瞬間。人が全力を出し終えた一瞬こそもっとも絶好の機会でしかない。

ならば例え全てが見えず迷いが僅かでも有ろうとともラインハルトにとってその一瞬を見逃す(躊躇う)道理はない。


(…ふむ。いささかだが疑念は残る。

疑念が僅かでも有る限り決めに掛かるのは失態ともとれる。

しかし反対に私の疑念がとるに足らないものであったならこの一瞬を見逃す方もまた失態でしかない。


シュレディンガーの猫。

つまりどちらをとっても選んだ結果を知るまでは未知でしかない。

そう未知。

ならばどちらを選ぶべきかは明白。

そう。どうなろうともやってみなければ結果が分からないならどちらがより私らしいかそれこそが大事である。

それこそが私が私自身が決して後悔しないやり方なのだから。

……アラヤ君。ついぞ私には君という人間性の全てを把握する事など出来はしなかった。

だがこれで終幕だ。

さぁ私達の戦いの終わりを迎えよう)


慈悲などない。

そもそも掛けるきなどもうとうない。

PVPを受けた時点で例えアラヤ()に如何なる事情が戦う理由が有ろうとも彼は一度たりとも『勝たせてほしい』と縋ったわけでも『敗けてほしい』と懇願したわけでもないただ『私を倒す』と宣言し挑み私はそれを受けいれた。

ならば慈悲など憐れみなど躊躇いなど有ってはならない。

それは彼へのアラヤへの侮辱でしかない。

私にはアラヤ()の戦う理由など知らずともいい。

私はただ全力で彼に応えるだけ。

応えたうえで勝利を掴むだけ。

それにそもそも戦う理由において

優劣

正否

善悪

そんなものは考えるだけ全てが無駄とは言わないが結局は徒労でしかない。

私達は同人でも同一でも無く別の人生を歩む者どうしでしかない。

自身が正義だと信じていても相手からしたら悪でしかなくその逆もまたしかりなのだ。

故に戦いとは善悪で戦うのではなく自分の、そう自分自身の譲れない、決して譲ることの出来ない我。それを互いに相手の我を踏み込えてでも通すために戦うのだ。


(さてアラヤ君。幾ら短くともこの闘いが私にとって久しく感じる闘争で有ったとしても君に譲れないものが有るように私に譲れないものがある)


瞬き程の一瞬の思考を終えラインハルトは動き出す。

ラインハルトは勝利を眼前にしても一切の油断もなく神威開放(アルティマ)終了と同時にアラヤの剣を弾いた剣を翻しアラヤ目掛け渾身の一撃()を斬る。



PVPを観戦していたプレイヤー達からしたらもはや結果は明白でしかなくこれ以上は観戦するのは無駄だと感じる。


「あ~あ。まぁ分かってたけどこれで終わりだ、もう少しやるんじゃねぇかと思ったんだけどな」

「いやいやしょうがねぇって相手はゼウスだぜ最初から勝ちめなんて有る分けねぇよ」

「当然の結果ってやつだな」

「まぁほらアラヤって奴ももよくやった方さ」

THE END。


これ以上無い程に覆せぬ現実。

口々にアラヤの敗北を溢すプレイヤー達であった。





………………………………………………………………が


「!?ハアッアアア!」

「!?おい嘘だろ!」

「!?なんでだよ!」

そんなプレイヤー達の度肝を一瞬にして抜くような予想だにしない衝撃的出来事が巻き起こった。






我眼にラインハルトの全身全霊渾身の一撃が迫るなかアラヤの精神()はまるで静かな凪の様に落ち着いていた。

何故ならこの結末はアラヤにとって()()()()でしかない。


剣が迫るなかアラヤは一種の躊躇なく直ぐ様身を翻し自身の剣をラインハルトの剣に沿わせるとラインハルトの剣の勢いに同調し流水の様に流れるような動きでラインハルトの剣を流し自身から反らすと逆にラインハルトに向かい剣を振るう(反撃の一閃を繰り出す)


このアラヤが振るう反撃()にラインハルトは慟哭し息をのむ。

「ツッ!」

自身が振るったのは確かな一閃。

剣には満身も躊躇も慈悲も憐れみも施しも救済も情けも慈愛も情愛も一切ない確かな一閃。

アラヤを仕止め勝利を飾る正真正銘の確かな一閃。

だがその結末は異にしないものを迎えた。


ラインハルトは予想だにしない反撃に目を見開く。

危険!

危険!

危険!

(!?馬鹿な!私には一雫たろうとも驕りも慢心も躊躇いもなかった!なのに何故!?…いや今考えなければならないことは何故を問うことではない。そんなもの今この瞬間において意味をなさない。冷静になれ。私が今最もすべきことは……今私を切り裂こうとする剣をどう躱すかだ)

不意を突かれ自身の圧倒的危機を悟ったラインハルトは瞬時に冷静さを取り戻すと自身に訪れる危機に対し最も重大な最善の策を瞬時に行使する………と云うよりは危機を悟るとほぼ同時に既に行っていた。


地面を軽く蹴り後方へバックステップを行い跳躍すると剣を紙一重で躱した。

そしてもう一度後方に今度は地面を強く蹴り跳躍しアラヤの間合いから距離を取る。

完全な安全圏まで下がったラインハルトだが警戒は怠らず剣を構えたままアラヤを見据え息を吐くと何故か愉快そうに笑いだした。

「……はぁ。フフッ、ハッハハハッハハ!

アッハハハ!」

一頻り笑い落ち着いたラインハルトは吐露する。

「……ああ驚いた驚いた。本当に驚かされたよ。

こう言ってはなんだが些か疑念は有ったのだよ。君があの程度で終わるのかと。だが勝負を決めるとしたらあの瞬間が最も最善であるなのは明白だ。そう私は最善を選んだ、選んだ筈だ。だからこそ私は勝利に手を伸ばした。今のは、私の剣は君に届いたと確信まで抱いた。

だが結果はどうだ。私の剣は君には届かずあまつさえ私の方が逆に窮地を迎えることに成ろうとわ。

クックック。

ああ本当に驚いた。ほんとこんなに驚いたのはあの時、彼女達の時以来だよ。」

驚いたと言いながらも結果は見事に対応され完璧に躱された。

ラインハルトが言ってるからこそ本心だと分かるが人によっては皮肉にも捉えられる言である。


ちなみにライブ中継を観ているプレイヤー達からしたらアラヤの見事な反撃にも驚愕したがそれと同じくけそれ以上に何時もは冷静沈着この言葉を体現と云うよりは其の者であるラインハルトが愉快そうに笑う姿に驚き目を丸くしていた。


アラヤは不平も不満も漏らさずただ剣を構えラインハルトを見据える。

その様子はまるでラインハルトが避けると初めから分かっていたようだ。

(…ほぉー。しかしだ微塵の動じもない。

まるで最初からこの展開を読んでいたよう……いや読んでいたなアラヤ君)

ラインハルトはそんなアラヤの姿に内心感嘆な声を漏らす。


「……神威開放(アルティマ)で無敵になった。

終了した瞬間の一撃に対し予想に無い返しの一撃を繰り出した。

俺もあわよくばという気持ちが無かったわけじゃない。

勝利を目指してなかったわけじゃない」

そう勝利は何時だって目指している。

だから手を抜いていた訳じゃない。

だって最初からラインハルトという男を甘く観てはいない、軽んじてはいない。

その逆だ。甘く観てなく軽んじてないからこそこの結末を確信していた。

「……お前に、お前という最強()これで、()()()()()()()()()()()()


「………ほぉ」

ラインハルトはアラヤの言葉に興味を露にした。

「つまりはこうゆうことかなアラヤ君。君は初めからその無敵と言って過言ではない神威開放(アルティマ)を使用しても私に勝てないと分かっていた。その上で躊躇いなく一回限りの必殺を使用した」

「ああ、そうだ。

例え進化し強くなり性能が上がり無敵であろうともお前なら普通なら投げ出すぐらいな状況だろうと容易とはいかずも必ず越えてくるだろ」

それがアラヤが知るラインハルト。

その有り様はラインハルトに対する信頼。

「こう言ってはなんだが君のその私への評価は嬉しく思うよ」

だからこそそれを受けるラインハルトは考察する。導き出す為に考察する。

アラヤの戦略を戦術を狙いを。

(アラヤ君の狙いはなんだ……。

神威開放(アルティマ)を使用し勝つことではないなら一対一で一番有効的なのはお互いが神威開放(アルティマ)が終了し私がアラヤ君の変貌した神威開放(アルティマ)にまだ動揺が収まらず思考が鈍る中の一撃。

だがアラヤ君はその一撃すらも私に防がれることを最初から予期していた。

ならば彼の狙いは一体なんだ……。

本来ならたった一度キリしかない神威開放(アルティマ)を無為に消費することは致命的でしかなく勝利を投げた愚策でしかない。

それも力量差が顕著かつ一撃で勝負が尽くこのPVPにおいては勝負を投げ出したと捉えられてもしょうがないことではあるが)

ラインハルトが見るアラヤの姿にはそんな様子は微塵も感じられない。


(……ならば考えれるなかで最も可能性は低いがまさか自身の神威開放(アルティマ)に対抗する術として私の神威開放(アルティマ)を消費させることが狙いだったのか?)

確かにアラヤの狙いがラインハルトの神威開放(アルティマ)を狙った時に強制的に消費させる術として自身の神威開放(アルティマ)を魚を釣る撒き餌の様に使用させる。

これは別に愚策でもなく良策でさえある。


ただし絶対的な2つの条件のもとではある。

そしてこの絶対的な2つの条件が有るからこそラインハルトはこれを最も低い可能性と断じる。

だが考えても解が見えないならば問うしかない。

「……はぁ情けない。私はどうやら私自身が気づかぬ内に心の何処かで君に対し私に届くことはないと傲慢な慢心を抱えていたようだ。

……可能性は低いが0ではない…フッ。まったくもってその通り……。

アラヤ君。君は神威開放(アルティマ)の中において私に勝つことを目的にしたのではなく君は私に神威開放(アルティマ)自体を使わせる事其の物が目的だったというわけか」

「ほんと流石だよ。こうも簡単に見破るか。

ああ、あんたの言う通り神威開放(アルティマ)は一種の必殺だ。

それが何時使用するかによって戦局も大きく変わるしあんた程のプレイヤーなら使用した時点で確実な一撃必殺になりかねない。

なら俺がお前に勝つためには神威開放(アルティマ)を代価にしても早い段階でお前の神威開放(アルティマ)を消費させることが必要だ」

アラヤの返答にラインハルトは一瞬の沈黙の後

…………ハッハ!アッハハハ!!

肩を震わせ笑いあげる。




ラインハルトはひとしきり笑うと好戦的な笑みを浮かべ

「つまり私は君の手の平の上で踊らされたさながらマリオネットというわけか。

……クックッアッハハハ!いやはやこれはまた。

アラヤ君。君はやはり面白いな。神威開放(アルティマ)すなわち隔絶した(強さ)すら不要と切り捨て、その上で純粋な剣技のみで私に勝つと。

こうまで言葉ではなく行動で示されると感心を越えて愉快になるざるおえないな」

心の底から自分に対するアラヤの無謀とも傲慢ともとれる行為に怒りは全くなくただただ愉快だと笑う。


そしてこれこそがまさにアラヤが必要な絶対的2つの条件の一つ。

プレイヤースキル(純粋な技量)においてラインハルトと同じ領域に立つ]


「その為の1ヶ月。俺にとって短く長く……そして大切な1ヶ月だ」

アラヤはそれ以上は不要だと神経を集中させ鋭く尖らせる。

「いくぞラインハルト」

ラインハルトにはアラヤが本当に自身と並び立つほどのプレイヤースキル(技量)を身に付けたのかそれとも隠していただけで元々備えていたのかは定かではない。

だがこれに関して云えば考えるだけ無用の長物。

何故ならその解は直ぐに分かるのだから。

「ああ。いこうかアラヤ君」


ラインハルトの応答を合図にアラヤは剣に(アニマ)属性付与(エンチャント)すると地面を蹴りラインハルト目掛け駆け出す。

それと同時にラインハルトも剣に(エクレール)属性付与(エンチャント)するとアラヤ目掛け駆け出す。

駆け出した両者の剣が衝突し再び両者の剣戟が開始された。


アラヤの敗北を確信していたプレイヤー達は今だに終わらぬばかりか再び始まった二人の剣戟に驚愕を露にしていた。


武蔵ギルドホーム

「いやいやなんでだよ!終わるどころかまだ続くのかよ!ってかそもそも神威開放(アルティマ)がない、無敵じゃないあいつがあのラインハルトと張り合えるわけねぇだろが!」


こんなのあり得ないと叫ぶギルドメンバー。

それに対しジュウベエは胡座をかき頬杖をつきながらニヤリと口角を上げる。

「まぁ慌てるのも分かるがちったぁ落ち着けや。

そんな様じゃ最後まで持たねぇぞ

だいたいラインハルトと張り合えるそんなのあの坊主がそれだけの実力を現実において備えてたそれだけの話だ」


「だがそうは言うが大将。あいつ前の時一瞬で敗けちまってやがったぜ」


「ああそうだな」


「だったらよ……「だがよ」…へぇ?」


「それは前、つまりは過去の話でしかねぇ」


「うっ…。それはそうだけど…」


「過去はどれだけ刻を経ようと今や未來じゃねぇ、過去は過去でしかねぇんだ。

だからこそ人なんじゃあ時間を経れば幾らでも変わりやがり有り様を容易く変えちまう。それは俺もお前らだってそうさ」

「…………」

「いいか、人間なんてな不変じゃなく刻を経れば経る程変容していく生きもんなんだよ。

一年、1ヶ月、一時間、もっと短くそれこそ一秒だって変容していく。だからこそ過去の強さなんて今においては鼻かんだちり紙にも劣る評価でしかねぇ。

まぁそれに坊主は1ヶ月ラインハルトに勝つためだけに鍛えていたそうじゃねぇか」

「だがそうは言ってもな大将たった1ヶ月だぞ。

いくら変化するとしてもたった1ヶ月なんて短じけぇ間で普通こうまで劇的に強くなるもんかねぇ~?」

他のメンバーもあり得ないだろと口々に慟哭する。

それも無理はない前のアラヤとラインハルトのPVPを観ていたうえにそもそも自分達のギルド長すらラインハルトに勝てないのに1ヶ月特訓したとはいえ勝てるものかと。

そんな心中のギルドメンバーに対しそれまでの楽しげな表情から一変しジュウベエは真剣な表情をギルドメンバーに向け

「そんなもの俺が知るか」

呆気カランと他人事のように言うものだから

「はぁ?」

思わず馬鹿を見る目になるギルドメンバー諸君。

「いや…はぁってなお前。

ってかそんな馬鹿を見るような目で見んじゃねぇよ。

いくら俺でも拗ねるぞ。恥も外聞もなく子供の様にみっともなく拗ねるぞ」

既に子供の様に拗ね出し始めたジュウベエだがこういう展開は今までに何度もありお約束なのでギルドメンバーはさっさと次を話せと目で促す。


「………俺ギルド長なんだがな。

はぁあ。いいか俺はあの坊主じゃねぇんだ。

あの坊主が今この時点においてラインハルトの奴に迫る強さを備えていることは分かってもあの坊主が元々備えているポテンシャルつまり潜在能力は知らねぇんだ。

そんな俺がどうやってあの坊主が1ヶ月で強くなったかなんて分かるわけねぇだろう。

まぁだがなんだ。それでも分かることが有るとすれば…あの坊主本当にこの1ヶ月ラインハルトというたった一人に勝つそれだけを目標に頑張ったんだろうな」

そうジ言うとュウベエはギルドメンバーに戦いの様子を観るように促す。



そこに映るは先程の神威開放(アルティマ)同士の神かがった力の応酬ではなく神威開放(アルティマ)を使ってないからこそ明らかにされるアラヤとラインハルト二人が備えるプレイヤースキル(技量)のただただ純粋な技と駆け引き。


その姿は死力を全力を意思を極限を滴一欠片さえ残さず今を全開を持って戦う男達の闘争(熱力)

ゴクリ。

その姿を視ているプレイヤー達は思わず魅入られ拳を握り息を呑む。

何故か観ていると自分の身体中が沸騰しそうな程暑くなってさえくる。


(……すげぇなあいつ)


「なぁ、格好いいだろ」

ジュウベエが悪戯小僧みたいにニヤリと笑う。

今まで二人の攻防に看取れていたギルドメンバー達ははっ!と顔を上げジュウベエを見た。

ジュウベエはPVPのライブ中継を観ながら

「流美な技や駆け引きはそれだけでさえてめぇの意思とは関係なく人を魅入り深淵へと引きずりこむ。

謂わば魔性の産物だ。

それに加えあいつらのあの観ている此方が燃え尽きそうなぐらい熱い闘争(熱力)だ。てめぇらが自身の意思とは関係なく思わず魅いちまうのも無理もねぇよ。

(しかしなんだかなぁ、あんなの魅せられちゃあ疼いてしゃあねぇ)

……ああまたっくよぅ。俺も戦いてぇもんだ」



だがこの時そう思っていたのはジュウベエだけではない。

他の五大ギルドのギルド長や永い年月を経てトッププレイヤーに成ったもの果ては初めて数ヶ月、数日のプレイヤー達も同じ焦燥に焦がされていた。


アラヤやラインハルトみたいにゲームとか現実とかそんなものは関係ない、ただ単純にそう単純な程に己の全てをかけ出し尽くしながらそんな闘争を自分もしてみたい。


結局のところ栄誉、名誉、名声、称賛、金、地位、誇り、強さ、快楽、競争、愉悦どんな理由で有ろうとも皆根本的なものは一緒なのだ。

ゲームが好きだ------!!。

特にフルダイブゲームまで手を出すようなゲーム好きは自身に自覚などなくとも純粋なゲーム馬鹿が大半なのだ。



斬る

薙ぐ

尽く

打つ

叩く

防ぐ

躱す

弾く

受ける

反らす

避ける


絶え間なく繰り広げられるアラヤとラインハルト息も尽かせぬ攻防。

フィールドを駆け巡りながら一手一手慎重に或いは大胆に戦況を瞬きよりも速く眼前に映る敵よりも速く計りながら属性付与(エンチャント)をその場その場で最適に切り替えていく。

その切り替えは全てが瞬時でなければならない。

遅れは致命的であり決して赦されない。

何故なら一手の遅れが全てを終わらせる。

だからこそアラヤもラインハルトも止まらず互いの剣を交差させる。



「ハァ!」

「フッ!」

一分、五分、十分、いやもしかしたらそれ以上に感じる体感の最中果たして一体どのぐらいの数の剣戟を重ね合わせたのだろうか。

アラヤとラインハルトには分からない。

いや、もとより分かる必要がない。

二人とも自身の勝利(決着)を告げるまで止まる気はないのだから。




最初はラインハルトや五大ギルドのような名声も栄誉も強ささえ定かではないアラヤ(名も知れない奴)がどんなに足掻いたとこで結末は確定されたものそれでもあのラインハルトが公の場でPVPをするんだ暇潰し程度には観てやろうと物見遊山であったプレイヤー達は二人のまるで神話や英雄話に出てくるような英雄然とした二人の男の姿に充てられ胸を熱く熱く焦がしていく。

「頑張れ!!」

「頑張ってぇ!!」

「いけー!小僧!!」

「勝てぇ!!」

多くのプレイヤー達が拳を握りしめ或いは天に掲げアラヤの勝利を鼓舞していく。


しかしなにも鼓舞されているのはアラヤだけではない。

アラヤを鼓舞する者達がいるようにまたその一方でラインハルトの勝利を疑わないオリュンポスのギルドメンバーやプレイヤー達もいる。

「勝つのはラインハルトだろうが!!」

「ぶっ倒せラインハルト!!」

「信じていますラインハルト様!!」


今や都市、フィールド内に存在する全てのプレイヤーがアラヤとラインハルト二対の声援が沸き立ち溢れかえっている。


「アラヤ!!」「アラヤ!!」「アラヤ!!」「アラヤ!!」「アラヤ!!」


「ラインハルト!!」「ラインハルト!!」「ラインハルト!!」「ラインハルト!!」「ラインハルト!!」


無論この熱き声達も今戦っているアラヤとラインハルトにはこの声援は届いていない。

それでもプレイヤー達は関係ないと声を感情を意思を高らかに張り上げる。

二人の熱き英雄()達の為に自身から溢れだす貴き心のままに。



剣戟を繰り広げていた二人だったが突如示しあわしたかのように同時に度距離を取る。

その姿はまるで物語の一区切りがつき次で終話を迎えるようだ。

持てる全てをかけ全力で戦っていた二人の間に立ち込める気持ち或いはオーラと呼ぶものはこの瞬間を持って極限まで高まり張りつめていた。

「アラヤ君」

「なんだ」

「君は強くなった…いやもしかしたら元からその強さを秘めていたのかもしれない。」

「ああ」

「ふっふ。普通ならここはそうでもないさと否定するものだと思うが」

「ああ普通ならそうだな。

だけど今この場で自分の強さを否定することは俺を強いと評価したお前への否定でありなによりも俺を信じ一緒に歩んでくれたあいつらへの侮辱だ。

だから、だからこそ俺は決して俺自分の強さを疑わない否定はしない」

「…クッククアッハハハ!成る程!成る程!道理だな!確かにそれは否定してはいけない尊きものだ

これは聞いた私が愚かだったな。すまない」

「別に謝るほどのことじゃないだろ」

「いいやそうでもないさ。

例え一滴たりとも僅かなしこりを残したくないそれ故だよ」

(つまり先ほどの謝罪は俺の為というわけじゃない。いや勿論俺へのがないわけじゃないがどちらかというとラインハルト自身の為というわけか。

言ってることは厚顔極まりないがそれを分かった上でハッキリと言うのはなんというかほんと流石としか言えない。

まぁそれもこれも分かったうえか………………次で全てが終わると)


ラインハルトは軽く息を吐く。

「アラヤ君。君がこの闘いにかけてるように私にもかけるものが決して負けられない理由がある。

故に勝利を手にし栄冠を掴むのは私だ」

アラヤは軽く息を吐きラインハルトの宣告に応える。

「俺は俺の為にお前を倒しお前を超え未來を掴む」


ラインハルトはアラヤの宣告を皮切りに首に掛けていたアミュレット[クロイア]を発動させ自身が持つ神威開放(アルティマ)と並ぶ最奥の切り札を使用した。


そえこれこそが絶対的2つの条件の2つ目。

ラインハルトによる神威開放(アルティマ)の再来。

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