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一撃PVP2


カウントダウンが《0》を告げる。


同時に動くアラヤとラインハルト。


両者が見せる最初の一手は………………


奇しくも同じ、己が究極の切り札たる神威開放(アルティマ)であった。


戦術的に見れば確かに切り札を最初に使う行為は相手に意表を突かせ隙を生ませる事が出来る。

しかし逆に意表を突く事が出来なければ後に迫る重大な場面で切り札を使用することが出来ないという決定的な致命傷になる。


そんな事は数多の経験を積み重ねた両者共に重々に承知している

その上で只の一見して無謀にしか見えない選択を二人は躊躇うことなく選び行うのだ。


其処に有るのは策略か自信故か……


ラインハルトは己が武器たる両手剣スノーヘブンを天に掲げる。


「システム起動。

天空座する神々の王、祖は雷光の加護を受けし天上の神」


システム起動を合図に詠唱を始めたラインハルトの体を光が包むと同時にラインハルトの上に雷光が天から降り注ぐなか天に向かい手を掲げまるで己が雷を降らしてる様に見える男神が描かれた丸いステンドグラスの紋章が表れる。


雷霆神罰(ゼウス)神威開放アルティマ」


バチバチバチ!!


ラインハルトが最後の詠唱を唱えると激しい雷音が鳴り響き紋章が上から下に降りていきスノーヘブンを含めたラインハルトの全てを通りすぎていく。


紋章が通り過ぎていった箇所からラインハルトを包む光が轟雷に変わっていきラインハルトの防具を雷鎧に変化させていく。


淡々と何時もと変わらず詠唱を唱え続けていたラインハルトだがその実、アラヤの()()()()()()に僅かに眼を見張っていた。


それはラインハルト同様一度でもアラヤの神威開放(アルティマ)使用を見た事が有る者からしたら驚愕に値するものであった。


「「「「「ハァアーーーーーーーーー!!!?」」」」」



実際にアラヤの神威開放(アルティマ)を見た事のある者、情報を会得していた者達もライブ中継を通し驚きを露にしていた。


問題はラインハルトと同時並行で神威開放(アルティマ)を詠唱していたアラヤの詠唱文だ。


アラヤが一度目のラインハルト戦に唱えた神威開放(アルティマ)の詠唱文は


「システム起動。

勇名轟く不屈の勇姿、祖は不死の加護を受けし駿足の躯」


だが今回アラヤが詠唱したのはそれとは全く別の詠唱文である。


「システム起動。

天啓に刻みし不屈の英姿、祖は不砕の加護を受けし神域の躯」


神威開放(アルティマ)の詠唱文はあくまで神威開放(アルティマ)を起動させる為の(キー)であり正確に唱える必要がある。

とは言っても詠唱に対する制限時間(リミット)や必ずしも流暢に唱えなければという訳ではなく

例えば

「天空・座っす・る神・々の王」

の様に途切れ途切れであろうとも全てを繋げ詠唱文に成ってさえいれば神威開放(アルティマ)は起動することが出来る。


しかし今回アラヤが神威開放(アルティマ)を起動するにあたって唱えたのは以前とは全く違う詠唱文であるうえ問題なく神威開放(アルティマ)が起動していっている。


今までのまったくのない前例にプレイヤー達がサプライズを受けたように度肝を抜かれ騒ぎ出すが忘れてはいけない詠唱が変わったということはつまり以前の神威開放(アルティマ)とは別のものに成っている可能性があるということを。


そして実際にアラヤの神威開放(アルティマ)は変貌を遂げていた。


前回までの

「システム起動。

勇名轟く不屈の勇姿、祖は不死の加護を受けし駿足の躯」


での詠唱では唱え始めたアラヤの体を光が包むと同時にアラヤの前に円を作るように六つのそれぞれ片手剣、双剣、槍、弓、鎚、篭手、描かれた神の様な人の姿すらない丸いステンドグラスの紋章が表れるものであった。


しかし今回の

「システム起動。

天啓に刻みし不屈の英姿、祖は不砕の加護を受けし神域の躯」


での詠唱では唱え始めたアラヤの体を光が包むと同時に表れたのは中央に畏怖堂々とした男神がおりその男神の周りを片手剣、双剣、槍、弓、鎚、篭手が描かれた丸いステンドグラスの紋章に変化していた。



永劫無敗(アキレウス)神威開放(アルティマ)


アラヤが最後の詠唱を唱えると眼前にある紋章がアラヤの全体を包めるぐらいに拡大し前からアラヤの方に迫っていきアラヤを通過する。


紋章が通過して幾度アラヤの体を包んでいた光は緑の旋風に変化していきアラヤに纏っていく。


アラヤの防具はまるで風の鎧を着ているかの様に緑を主とした節々に装飾と鎖を施したロングコートにレーザーズボン、ロングブーツの装いに変化し

右手に握っていた黒の片手剣は姿を変え剣身が鮮やかなエメラルドのような緑色で柄がまるで夜空の様に漆黒で鍔の中央に虹色の宝石が入った片手剣「イーリアス」に昇華した。


アラヤの神威開放(アルティマ)の変化にPVPを見ていたプレイヤー達は更に驚愕を顕にしていた。


「ハァアア!?」

「嘘だろ!?」

「なんだよあれは!?」

「おいおい前のと違えじゃあねぇか!?」

騒ぎだす者。


「アッハハハ!」

「マジかよ!」

笑い出す者。


「へぇー……神威開放(アルティマ)の仕様が変化するねぇ―」

「興味深いな」

片時も見逃さないと探求の目を向ける者。


「―――――」パクパク


そもそも脳がオーバーフローするぐらいの常識はずれの出来事に空いた口が塞がらない者。


種類は千差万別だが皆が一様にして未知を味わうなか五大ギルドのギルド長は興味深そうに見る者と面白いと高笑いする者の二通りに分かれていた。


前者は

ブリテンのギルド長シオン、クオン

アースガルズのギルド長リリア


後者は

桃源郷のギルド長マオ

武蔵のギルド長ジュウベエ


だがそんなアラヤの神威開放(アルティマ)の変さた姿を初見で見るものの中でも流石というべきは一番にアラヤの神威開放(アルティマ)を警戒し味わう当事者たり

ラインハルトその人である。


通常この様な重大であり一撃で勝負が決まる

戦いの最中だ、常人なら常識では計れない未知を見たなら幾ら心を鋼の様に強く厚く硬く不揺の精神で有ろうと動揺を顕に揺れ思考が幾度も駆け巡るか空白、どっちにしろ精神のバランスが崩れそれに連鎖される様に体が停止する。


しかしそれは決して心が精神の甘さ脆さ未熟さと言った弱さではなく当たり前な事なのだ。

未知とは既知から出た枠外であり未だ誰もが体感し得ない領域外の事象

つまり体感し既知と成るまではそもそもが有るか無いか分からない蜃気楼であり空想に近いものである。

そんなものが目の前で突然現状したら誰だって理解出来ず理解を示す迄時間を要する。

そんな中で平然と出来るものは誰もが驚愕する未知すらも既知である者しかいない。




ラインハルトはアラヤの神威開放(アルティマ)の変化を見るも僅かに眼を見張るだけであり動揺のあまり唱えていた詠唱を中断するといったこの場で致命的な愚行を起こすわけでもなく最後まで終えている。


その有り様は見てる者からも分かるように常人の精神ではない。


しかし別にラインハルトの心中に全く動揺が無いというわけではない。

その証拠に戦いが始まり最早一度の動揺、揺らぎすらも許されない局面で確かにラインハルトはアラヤの神威開放(アルティマ)を見て僅かとは表情を変えたのだから。


ラインハルトは分かっているのだ。

此処で動揺や揺らぎを見せ例え一秒いや0.1秒すらの僅かな時間さえ思考を止めで遅れるようものなら勝敗を決してしまうことを。


つまるところラインハルトはそれ程までにアラヤの力を技術を認め警戒しているのだ。



アラヤとしてもラインハルトの揺らぎを狙ってないかと問われれば………………


勿論狙っていた。


相手が勝負の真っ最中に油断を晒し隙を見せるなかそこをつかない馬鹿はいない。

ましてや決して敗けられない戦いだ。


だがアラヤは分かっていた。

それはあくまでラインハルトに勝利する可能性の中の僅かな可能性の一つにしかなり得ないことを。


ラインハルトにとってはアラヤの神威開放(アルティマ)の変化は見過ごすことは出来ない未知の出来事ではあるはずだ。

そうあるはずなんだが……………


(……しかし本当流石としか言いようがないな………まぁこの展開は最初から読めていた事だ、そもそもこの程度で動揺も隠せず隙を見せてしまう様な単純な男なら誰もが認める最強にして頂点ではないからな)

それは見ようによってはアラヤからラインハルトへの純粋な信頼である。




二人が神威開放(アルティマ)を使用し

使用可能時間《10》のカウントダウンが始まりを告げる。


カウントダウンが開始されると同時にアラヤは前のPVPの時を再現する様に地面を力強く踏み締めラインハルト目掛け駆け出す。

アラヤが踏み締めた地面はまるでクレーターの様に地面の中央が凹み周りに罅を入れ割れていた。


(前回よりも速い……。

しかしそれはあくまでレベルが上がりステータス上のAGI(俊敏)が前回よりも上がっからに他ならない。

つまり神威開放(アルティマ)の変化はAGI(俊敏)が前よりも強化されるといったたぐいではない。

なのにアラヤ君の神威開放(アルティマ)を使用しての一手は前回とまったく同じ。

ならば考えられるのは他のステータスが上がるものか、それとも……)


ラインハルトは己に神速の勢いで迫りくる翠の閃光を見据えながらも動じず冷静に思考巡らせた。


(……本来なら不確かである以上確実に避けて一度様子を見る事が賢明ではあるが…………フッ、面白い。

いいだろうアラヤ君、君にどのような策略が有ろうと私は迎え撃つだけだ)


ラインハルトは微かに口元を緩めると避ける動作も防御する動作もせずアラヤと同様前回のPVPの時の様に天上に掲げた雷を纏いし剣を握る手に力を籠める。


前回と同じ場面にも関わらず動揺も見せず迫るアラヤ。


剣の間合いにアラヤが踏み入れた瞬間アラヤ目掛け頭上に構えた雷を纏いし剣を振り下ろした。


刹那


(ツッ!!)

ラインハルトの背筋に一筋の雷光が駆け巡った。


それはラインハルトの本能か或いは経験則からか

(何故かは分からない、だがこの剣をアラヤ君に振り下ろしてはダメだと私の感覚が警鐘を鳴らしている)


自分がアラヤの身体に剣を振り下ろし終えた瞬間に自分が敗北する気配を感じたのだ。


「ハッアア!!」

「ハァアア!!」


直ぐ様ラインハルトはアラヤの攻撃に対しカウンターで振り下ろしていた剣の標的をアラヤの身体からアラヤが突き出した剣の方に変え剣を振り下ろした。


ガキーン!!


「ツッ!!」


自身が握る剣からくる回避出来ない衝撃に進んでいたアラヤの動きが止まり前のめりに体勢を崩す。


そしてそんな絶好の機会を見逃すラインハルトではない。


アラヤの剣を上から叩き付けると直ぐ様力を抜き剣と剣の衝突の反動で上へ浮き上がった剣を水平に返し左下から右上へアラヤの胴体を斬りつける。


アラヤに迫る雷光の刃。


動きを制された上に体勢を崩したアラヤには直ぐ様防御或いは回避をしようにもあまりに時間が足りずそれよりも先に雷光の刃が届いてしまう。


あまりにも呆気ない幕引き。


アラヤが浮かべるのは

自身の迂闊さに対する苦悶か

それとも自身の不甲斐なさに対する悲痛か

それとも運すら味方に出来ない怒りか。


どれにしろ全ては終えた。

ラインハルトの一撃が当たりアラヤの敗北が決まった。





アラヤは自身を一切の慈悲なく斬り裂く剣を受けながら


「フッ」


笑みを浮かべた。


ライブ中継で見ていたほとんどのプレイヤーが一撃入れたラインハルトの勝利だと歓喜の声を上げるなかラインハルトを除く他の五大ギルド長や他の実力者達は今のラインハルトの攻防に違和感を覚えていた。


(おかしい……今のあいつの一手、そのまま直接剣を振り下ろせばよかったはずだ、

にも関わらずなんでわざわざ剣の方に振り下ろしもう一手加えたんだ、普通に考えればあれは余分な一手だろ。

とっすると…………ハッ、ラインハルトの奴最初の一手の間にいったい何を察しやがったんだ)


だがそんな五大ギルド長達の疑心もラインハルトの勝利に歓喜するプレイヤー達も次の瞬間画面に映る光景に一様に驚愕を表すことになる。


何故なら勝負が既に決したにも関わらず翠の閃光(アラヤ)黄色の閃光(ラインハルト)の剣戟が続行していたのだから。


二人の勝負が一撃PVPシステム初回故かはたまた興奮故かプレイヤー達は数人を除き誰一人として気づいていなかった勝者と敗者を告げる表示が出てないことに。



「はぁ?なんで?」

「勝負は決まっただろ」

「おいおいシステムバグか?」



勝負は決まったと確信していたプレイヤー達が状況を理解できず呆然とするなか瞬時に状況を把握した五大ギルドのギルド長達は自身のギルドメンバーに告げる。


「「フッフフそんなの分かりきってるでしょ」」

「答えは明白だろうが」

「簡単な導き」


「ほら、よく見てみろ。

まだ決着の表示はされていないだろ。

つまるところラインハルトの攻撃はアラヤには当たったがダメージは与えられてないということだ」


「「「「「……………………………………………………………ハァアーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?」」」」」


一間の空白の後ようやく状況を理解できたプレイヤー達は驚愕の声を挙げる。


何故なら各々のギルド長達の言を信じるなら一撃がクリンヒットしたにも関わらずダメージが通らなかったというわけだ。


「いやいや確かに剣は当たってましたよ!?」

「そうですよ!確実に剣は当たってました!」

「なのにダメージがないってどうゆうことですか姉御!!」


「さぁな、オレにも確実な事は分かんねぇよ」


口々に訴えるギルドメンバーに答えるマオ。


(候補としてはアイテムかあいつの変化した神威開放(アルティマ)のどちらかだが、攻撃を無効にする破格のアイテムなんか聞いたことねぇ。

まぁ、かといって無いとは断言もできねぇがな。

とにかくだ、一番可能性が高いのはやっぱ変化したっていうあいつの神威開放(アルティマ)だな、性能はAGI(俊敏)値の上昇と回数或いは時間の間受けたダメージを0にするってとこと、そしてもう一つ………)


ギルド《桃源郷》だけではなくギルド《ブリテン》、ギルド《アースガルズ》、ギルド《武蔵》でも各ギルド長はマオと同じ考察にいたり驚きに満ちたギルドメンバー達と議論が交わされていた。


剣戟の最中全ラインハルトの剣が全てではないにしろ数回当たるもまるで何事もない様に()()()()()()()()()()()


「やっぱりそうか、まぁ最初の一撃を見てれば分かることだが」


「?どうしました姉御、何かありましたか?」


無理もない事であるがどうやら他のギルドメンバーはアラヤへのノーダメージに気を取られもう一つの現象には気づいていなかった。


「ああなぁーに、ほらあいつダメージは通らないにしても剣は当たっているだろ、にもかかわらずださっきからノックバックが発生してやがらねぇだろ」


「へっ?そういえば………あ、あああ!マジだあいつ攻撃を受けてもぶっ飛びやがらねぇ!!なんで!?」


PVPを見る多くのプレイヤーが驚きと議論を交わすなかPVPはまだまだ続いていく。

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