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休息

 やぁこんにちは語り手だ。

休息とはまさに運命の分岐点である。

特に戦いの前の休息程左右されるものはない。


その日をどう過ごすかでその後の運命が決まったりするからだ。


そもそも休息とは休むと記されてあるがただなにもせず身体を休めるだけが全てではない

何故なら休み方は人それぞれだからだ。


言葉通りなにもしないもの。


友達と語り合うもの。


恋人と共に過ごすもの。


通常の日課を過ごすもの。


心を静める為に逆に己を鍛えるもの。


或いは全部を行うもの。


どんな休息を過ごすのもその人次第だ、その休息の結果どんな運命を辿ろうとも結局重要なのはこれで良かった後悔はないと胸を張り言えることなのだから。


 ラインハルトPVP前日だという一番大事な今日この日アラヤ達は一度もジェネティクノーツにログインをしてなかった。


だがログインしていないのはアラヤ達だけではなくジェネティクノーツをプレーする全プレイヤーがログインしていないのである。

というのもジェネティクノーツ運営からシステムアップデートをおこなうにあたりゲーマーにとっては新しいシステムに嬉しくもゲームが出来ないという悲痛な時間である緊急メンテがおこなわれるからである。


 緊急メンテというが前々から運営より告知はおこなわれていたのでアラヤ達は今さら準備が足らず慌てるような展開にはなる事はなかった。


 今回告知されたシステムアップデートの内容はPVPシステムである。

では何故アラヤとラインハルトのPVP前日にまるで図ったかのようにPVPシステムがアップデートとなったかは予想しやすく余程鈍い者以外はほぼ全プレイヤーが確信を得ていた。


早い話アラヤとラインハルトの一撃PVPが当事者二人の予想より大幅以上にジェネティクノーツ全体に反響したからである。


 従来のPVPでは形式が完全決着のみであり今回の様な一撃を前提としたPVPではシステムではなくPVPを行う当事者達が判定することになる。

一プレイヤー達の単なるいざこざから始まる単なるPVPであるならばそれでもいいだろう。


だが今回は訳が違う。


只でさえその強さ故に近年挑むものすら皆無に近い頂点にして最強の男の久方ぶりのPVP戦のうえにその男に一月前無惨にも敗れ心折れた筈の神威開放(アルティマ)使いが再度しかも一月と云う短期間を経て挑むと云うものだ。

当事者達以外のプレイヤーからしたら勝敗は簡単にして当たり前に予想がつくとはいえ此れにそそられない者はいない。

したがってこのPVPはジェネティクノーツ全プレイヤーが観戦する程の一大イベントと成なった。


 そんな一大イベント程の人気を博したPVPである。

当事者達の万が一の判定間違いなどあったのなら盛大なバッシング、下手をするなら暴動さえ起きかねない状況に成るのは容易く想像できる。


運営陣としても自由にプレイヤーする事を推奨しているとはいえ下手したら暴動が起きると分かっている事を何もせずにいたとすれば運営責任にも取られかねずジェネティクノーツ自体の停止も起こりかねない。


それだけは絶対に避けなければならない。

運営が掛ける理念は只一つジェネティクノーツをプレーしている全てのプレイヤーにジェネティクノーツと云うもう一つの世界を思う存分過ごして欲しい。

故に観戦しているプレイヤー達にも結果が明白に分かるように新たなシステムを加えたのである。


実際これに一番驚きを露にしたのはアラヤとラインハルトである。

まさか自分達のPVP一つが運営まで関わる事態になるとは想いもしないことである。


 今回おこなわれるPVPのアップデート内容であるが全体的にPVPの様式を変更したと云うわけではなく従来のPVPたる相手のHPをゼロにするかシステム画面で降参を選択するしかない完全決着に新たな決着の仕方先に相手に一撃を入れHPを削ったプレイヤーが勝利という一撃決着を追加したのである。


 つまり今後PVPをするプレイヤーは完全決着か一撃勝負どちらかを選択できるのである。


だがアップデートの内容はこれだけではない驚く事にPVPに対するライブ中継が可能となったのだ。


 PVPする当事者達が承認さえすれば他のプレイヤー達はそれをその場でなく例えば違うフィールドもしくは現実世界においてパソコンやテレビやスマホをジェネティクノーツのサーバーにアクセスすればリアルタイムでライブ中継で観戦できる。


勿論記憶された過去のPVPもアップされていれば観ることができる。


これにより純粋なVRMMORPGプレイヤーだけではなくVRMMORPGに興味が薄いもしくはない者もこれを機に有名になりたいと動画アップ目的でプレーし始める者も出始め結果的にジェネティクノーツプレイヤーが大幅に増加すること間違いはない。


初期から始めている古参プレイヤーにとっては純粋なプレー目的ではない新参プレイヤーに対してあまりいい感情は持たないだろうと思いきや元々自由をうたうゲームだいつかこういう日が来るのではないかと薄々分かっていたので確かに不満を持つ者もいるがそれはごく一部であり大多数のプレイヤーは歓迎していた。


何故ならVRMMOは元からテレビゲームと違い住・年齢・性別・人種など普段では決して繋がりを持てないような遠く離れた人達とアバターを通じ語り触れ合う事ができるものだ

そんな新しい出逢いにワクワクしないわけがない、面白い人、楽しい人、信頼できる人、強い人、優れている人、人の数だけ様々な出逢いがあり様々な運命をもたらす、だからこそ面白く古参の私達が新たなプレイヤー達を暖かく見守る事が大事なのであるというなんとも優しさ溢れる人格がともなった理由である。


…………………………というのは表向き、つまりは超薄皮一枚の表面上の理由でしかない。

超薄皮一枚の向こうである真実の顔である本音は今回のアラヤとラインハルトのPVPを機に新システムが加わったのでプレイヤーが増加することにより更に新たなシステムやイベント新アイテム新スキルがあり増えるのは間違いないだろうという打算であり欲望MAXの理由からであり

その他の理由としては男性プレイヤーは可愛い美人プレイヤーを

女性プレイヤーは格好いいイケメンプレイヤーを切望していたりもする。

調子の良い話ではあるがモテなく恋人もいない喪男、喪女からすれば切実である意味純粋な願いだったりもする。

結局はアバターであり本人の容姿は不明だというのに欲望、理想を追い求める姿はある意味尊敬にあたいす………いややっぱりないのである。

まさに欲望尽きることなし。


 ジェネティクノーツにログイン出来ない今日荒木連夜達は朝から真田守の家に集まり最後となるハイオメガ、デッドバイト、リバイスクエストの三種をしたり戦略の最終確認をしたり真田家のご好意により昼食をいただいたり真田守の祖父と組手をしたりし後悔、未練を残さぬ様に自分達が出来る全てをやりとおしていた。

最後の真田守の祖父との組手に関してはもともと予定になかった予想外の出来事ではあるが。


組み手は二時間を費やしたが結局三人とも真田守の祖父には一撃も当てることは出来なく躱され投げられ絞められ打たれ圧倒的実力差で始終赤子の様に翻弄されるだけであった。

結果荒木連夜達は思った。

(((いやいやいやいや明日に向けての気合いをいれるためのものではなかったのかよ)))

最初その名目で始めた組手だったが此方に華をもたすきはまるでない組手であった。


 真田守の祖父のここで勝って慢心や自嘲する事のないよう可能な限り手加減を行い怪我のないよう打ち負かすという意味が込められているのはなんとなく察しはついているが勝つ以前に一撃も当てられてない、下手したら自信喪失レベルな結果だ、もうちょっと何とかならなかったのかと想いたくもなる。


(ハァーお爺ちゃん、ほんと、ハァーーお爺ちゃん)

実の孫にして祖父をよく知る真田守でさえそう思うほどなのだから。



「「「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」」」

荒木連夜と木戸健哉と真田守は道場の壁に寄りかかり息を荒げ疲労を露にしていた。


真田守の祖父曰く怪我や筋肉痛にはならなく明日には疲労が全くない状態を計算し調整してのギリギリの稽古とのことだが

(ハァ…ハァにしてもまじできつかった、ほんと目茶苦茶きつかった、俺達の攻撃は一回もあたんないし、床には何回も打ち付けられるし、身体は動けない程激痛ってほどじゃないが…ツッ、なんか軽い筋肉痛みたいな感じで地味に痛い)


 真田守の祖父はタオルとスポーツドリンクを人数分疲れて壁に寄りかかっている荒木連夜達に渡すと既に道場から去っていった。


「フゥー、フゥー、フゥー」

荒木連夜が息を整えながら額から滴り落ちる汗をタオルで吹き横を見る。

真田守は目元をタオルに埋め口を忙しくパクパクしている。

武道をしている事から視覚を遮る事で無駄な労力を減らし呼吸を整える事に集中する為か

或いはただ単に光が煩わしく目を開けるのすら最早しんどい為のかは分からないが目を隠し陸にあげられ空気を求める魚のように口をパクパクさせている姿は気持ちは分かるが奇っ怪であり不気味にしか見えない。

ただそれよりも気になるのはその体勢と動作から全く変化がないことである。

大丈夫なのかと心配になるレベルを通り越しもうこいつ駄目なんじゃないのかと思うレベルである。


一方木戸健哉の方はというと頭にタオルを被せて俯いている。

タオルから覗く目は疲れと酸素不足によるものか虚ろであり死んだ魚の目みたいになっている。


「あの爺さんこれで手加減だとまじで正気かよこちとら全然攻撃あたんねぇし自信なくなるしなんだよ俺なんて人間じゃなくて赤子いやミジンコレベルってことかよ上等だよどうせ手加減されたあげく一撃も当てれない俺なんてミジンコレベルだよだがなミジンコなめんじぁねぇよ小さいなりにちゃんと生きてんだよ精一杯生きてんだよ上等な生き物じゃねぇかよ―――――」


酸素不足により正常な思考ができず自分を卑下したと思えば何故か後半からミジンコを讃えるという意味不明な事をぶつぶつと呟いていた。


(……………………………フゥー)

荒木連夜は尋常じゃない正直自分よりヤバイ状態の触れたくない今の二人を見た後視線を前に戻し

(……二人とも大丈夫みたいだな)

全力で今あった現実を亡きものにし自分の分のスポーツドリンクを手に取り乾いた喉を潤した。


「いや~それにしてもきつかったね」

真田守がスポーツドリンクを床に置くと疲れきった顔で言う。

「あほか、きつかったじゃねぇよきつすぎだ、あー…ツッ、クッソ、身体中地味にいてぇ。

まったく爺さんの奴これ本当に明日には疲労回復してんだろうなだんだん怪しくなってきたぜ」

木戸健哉がスポーツドリンクを右手に持ちながら真田守と同じく疲れきった表情で真田守の祖父への呆れを苦言する。

「あっははは、大丈夫だよお爺ちゃんそこのところは調整するのは上手だからきっと明日には全回復しているよ。

それより連夜君は大丈夫?お爺ちゃんは明日筋肉痛にはならないと言ってだけど怪我とかしてない?」


(……守お前無意識かもしれないが前半と後半正反対の事を言ってるぞ、俺よりお前が大丈夫なのか?)

暫く経ち正常な何時もの真田守に戻ったと思ったがちぐはぐな事を言い出し実はまだ回復していなく思考が狂ったままではないのかと心配になる荒木連夜、木戸健哉も同じ意見なのかひき攣った顔で真田守を見ている。


「あ、ああ身体は木戸と同じく地味に痛いが怪我もないし大丈夫だ」


「良かったそれならいいんだけど、それにしても、ウフフフフフ」

突然楽しそうに笑いだした真田守に荒木連夜も木戸健哉もこいつもう駄目なんじゃないのかと憐憫な表情を浮かべた。


「フフフフフフフフフフフ」

今だに笑みを溢し続ける真田守をそのままにしておくわけにはいかずどっちが声を掛けるかという目配せにより押し付けあいの攻防を経て渋々、ほんと渋々だが荒木連夜が声を掛ける。 


「……ま、守どうしたんだ急に笑いだして?」

荒木連夜が尋ねると真田守は笑うのを止め一度天井に向けると上に向かい手を伸ばす。

「連夜君。僕今がね凄く楽しんだよ」

幸せそうに微笑んだ。

「はぁ?急に何言ってんだよ守」

荒木連夜と木戸健哉は突然な言葉に思わず目を丸くし顔を見合わせると木戸健哉が怪訝な顔で尋ねる。


「フフフッ僕も今ある時間が連夜君にとって未来を勝ち取る為に必要なとっても大事で大切な時間なのは分かってるよ。

連夜君には本当にごめんだと思ってる真剣に連夜君の事を応援し協力しなくちゃっいけないのにって、でも、でもね僕久しぶりなんだ、そう本当に久しぶりなんだよ友達とこんな風に色んな事をしたのは、一緒にゲームしたり武道の稽古をしたり話したり笑ったり喜んだり怒りあったり喧嘩したり。

楽しかった、本当に楽しかっんだよ。

だからね毎日夜寝る時に思うんだ明日はどんな事が起きるのかな、楽しいのかなワクワクするのかなそれとも喧嘩したりするのかな怒りあったりするのかなでもどんな事が起きようと連夜君と健哉君と一緒ならどんな事でもきっと最後は楽しく笑いあえるだろうなぁ、ああ…今日も楽しかったけど明日も楽しみだってね。

僕にとってはこの毎日は特別だったんだ毎日がわくわくで宝石よりも何よりも他に比べようがないほどに輝いていたんだ」


真田守の有り様それを例えるならこれしかない。

なんて

((……純粋な奴なんだろう))


荒木連夜も木戸健哉もまるでこの世で一番尊い光を幻視する様に目を細め改めて思う真田守がいかに純粋で潔白で真っ直ぐな男であり自分の気持ちを偽りなく言葉に出来る強い男であるのかを。


荒木連夜も木戸健哉も真田守の気持ちはいたい程によく分かる。

何故なら同じ気持ちだからだ、この日々が変えがたい未来を決める大事な日に向けての道であり途中の通過点に過ぎないのは分かっている、分かっているがラインハルトやユエの事とは別に特別な日々であったのだ。

真田守と同じ様にこの日々が大切であり輝いて見えるほどに。


「きっと僕だけじゃないんだよ、分からないからこそ怖くて変えることに不安でただそこにあるだけ、誰もが勇気を持ち一歩踏み出すことに恐怖する。

例え目の前で恐怖し蹲る人が居ても例え自分に救いの手を目を指し求められていても自分がって踏み出せない、考えてしまうんだ。

どうしてこうなっているんだ、

何が原因なのか、

助けを求めているこいつが発端ではないのか悪いんじゃないのか、

こいつを助けて何になるのか、

自分が巻き込まれるんじゃないのか、

家族や友達が巻き込まれるんじゃないのか、

そもそも自分には関係のない事だ。

他人より自分そんなのは至極当然なんだ、他人を助けたところで自分が傷つくのなら意味がないこと、たがら否定も非難も拒絶もしてはいけない、それを当然のように言えるのは結局それを俯瞰して見ている第3者だからだよ、自分が当事者になれば実際に義務以外の正義感だけを持って行動できる人なんて僅かでしかない」


真田守はそう言って荒木連夜に向かい微笑む。


「だから連夜君ありがとうね。

きっと全てはあの日、連夜君が僕を救い手を伸ばしたあの日からただ耐え忍び待つだけで何も変えられず何も出来なかった僕の運命はまったく別のものに変わったんだ。

健哉君とも昔のように笑ったり泣いたり喧嘩したりそしてまた笑いあう、友達同士のそんな当たり前の事ができるようになった。

今あるのは連夜君が僕、いや僕達に勇気を持って踏み出してくれたお陰なんだ」


真田守の言いたいこと、その言葉に宿る感情は荒木連夜にも分かる、自分ではどうにも出来ず彷徨うだけの現実にもたらされた一筋の導きの光それは荒木連夜がユエからもたらされたものと酷似したものだからこそ分かる、痛い程に分かってしまう。

だからこそ言わなければならない事がある。

切っ掛けは別であったとしても今ここに至ったのはいったい誰の意思や想いからだったということを。


「守…それは違う。

俺があの日お前を助けたのは俺がそうしなければ今までの自分を振り切り前に進むことができなったから、つまり俺の俺自身の独善的な理由からだ。

だから今があるのは俺が全てじゃないんだ、

今があるのは守お前自身そして木戸が選んだ結果だ。

お前等の意思や想いが今をもたらしたんだ。だから感謝されることはないしそれになぁ、逆に俺がお前等に感謝しているよ

お前等のお陰で俺はここまで強くなれたんだ、ありがとうな」


「フフッやっぱり連夜君は優しいね、連夜君ならそう言うと思っていたよ。

だけどね連夜君これに関しては連夜君の意見を僕は聞く聞はないからね。

だって連夜君がどう思おうが僕は僕達は連夜君に感謝しているから。

君が居てくれて手を差し伸べてくれて今こうやって一緒にいる、偶然だろうと奇跡だろうと今がある事実を僕は感謝している」


真田守はそう言うと覚悟を決めた真剣な顔で荒木連夜を見る。


「守……」


「だから、だからこそ誓うよ。

今度は僕が僕達が君を助ける」


「連夜君が辛く悲しい現実を迎え絶望の中に居るのなら、それが例えどんな困難であろうと例えどんなに離れた場所であっても、時空や世界の果てだろうと必ず僕達は君を助ける為に駆けつけるよ」


真田守の言葉は他人が聞くなら大袈裟であり馬鹿馬鹿しいもの冗談だと笑うものだ、だが荒木連夜はそれを冗談だと笑うことも偽りだと憤慨することもしない何故ならそう言っている真田守が真剣だから一点の曇りも微塵も感じさせない程に。

だからこそ荒木連夜も真剣に返す。


「ああ、頼む。

きっと俺はお前の言う絶望が訪れたならうちひがれなにも見出だせず蹲ってしまう、そうなったら俺には、一人ではなにも出来ないだろうだからこそ頼む、そうなった俺をお前等が助けてくれ」


「うん」


「……ケッなんだそりゃあ、守もてめぇも僕達、お前等って人が黙って聞いてれば勝手に俺を含めて言いやがって、そもそも今だってただ俺に勝っておきながらラインハルトの奴に2度も負けるなんて許せねぇのと守があまりにもしつこくてめぇの為にってギャアギャアギャアギャアうるせぇからしょうがなく手を貸してやってんだ、なのになんでこの先まで俺が手を貸してやらないといけねぇんだよ」

真田守と荒木連夜の会話に今まで黙って聞いていた木戸健哉が顔を伏せたまま怠そうに溢すと荒木連夜の方に視線をやり暫く見つめた。


「……チッ。

まぁと言ってもなんだ、ピンチの情けないてめぇを俺が助けてやるっていうのも案外悪くねぇかもなぁ。

だからしょうがねぇ、しょうがねぇから助けがいるなら呼べばいいさ、頭を垂れた無様な様のてめぇを笑いながら俺が有りがたーく助けてやってやるよ」

木戸健哉は疲れさえなければ高笑いも付け加えていそうな程上から目線で言う。

そんなガキ大将みたいな態度に


「ハァー。

まったく健哉君はしょうがないんだから、連夜君ごめんね健哉君は素直じゃないからこんな言い方だけど要約すると連夜、俺とお前は掛け替えのない友達いや親友だ、そんな親友に水くさいこと言ってんじゃねぇよ、親友なんだから助けるのは当たり前だろ遠慮なく言いなって、ねぇ」


真田守はやれやれ仕方ない子だと思春期の子供を持つ母親の様に自分は木戸健哉の内心は分かってます感で全然似てないどころか最早おちょくってないかレベルの木戸健哉のモノマネを披露する。


「てめぇほんと言い度胸してんなぁ、この体が自由に動く様になったらまじで覚えてろよ」

それに対し木戸健哉はまだ疲れが残っている顔に青筋をたて口元をひきつかせる。


「クククッ……アッハハハハハハハハハハハ!」

荒木連夜は何だかその様子いや今ある暖かく心地よい空間におかしくなり笑う。


真田守と木戸健哉は最初急に笑いだした荒木連夜に驚きお互いに顔を見合わせていたが次には荒木連夜に呼応した様に笑いだし道場には心の底から楽しそうな男三人の笑い声が響いた。


ちなみに三人は気付かなかったが笑う三人の様子を守の祖父が道場の扉の後ろで厳つい顔を綻ばせながら右手に構えていたビデオカメラで三人に気付かれないように青春真っ盛りの三人の姿をカメラで記録していた。

(若人の熱き気高き青春の日々まったく……素晴らしいものだ、私の若かりし頃を思い出すな)



 青春の時間は過ぎ疲れ身体の痛みが殆ど引き家に帰ろうとする荒木連夜、そんな荒木連夜に真田の祖父から全てにかたがついたら勝利祝いに100本組み手をしないかと誘われた。


正直荒木連夜には普通負けたら反省の意味も込めてするというなら理解出来るのだが何故に勝利して100本組み手なのかまったく理解が及ばない。

だいたいが武道家や闘争が好きではない者からしたら100本組手なんてただの罰ゲームでしかないだろう。

(武道家である真田の祖父独特の感性なのだろうか)


両方ではない荒木連夜からしたら普通なら断ったとしても差し障りはないのだが真田の祖父が悪気や悪意から誘っているのではなく好意で言っているそれだけは理解出来るし真田の祖父には色々助言や稽古等で助けてもらい世話になった手前無惨に断る事も出来ない。それに先程のキツイ組手が頭を過るが武道家からの勝利の祝いであり此方に華を持たせる楽なものだろうと楽観視し了承した。


ちなみに荒木連夜の側で同じく帰ろうとし側で聞いていた木戸健哉は二人の会話に血の気が無い真っ青な表情をしていた。

100本組手の経験がある木戸健哉からしたらそれがどんなものであるか理解しているからだ。

なので自分は巻き込まれないように静かにフェードアウトしようとしたら真田の祖父に肩を捕まれ

「当然健哉お前も一緒だ」

告げられた木戸健哉は真っ青な顔を絶望の顔にに変えた。

(………もしかしてなんだが俺は何かとんでもない間違いを犯してしまったんじゃないだろうか)

楽観視していた荒木連夜だったが木戸健哉の表情を見て自分は何か致命的なミスを犯してしまったんじゃないかと不安に駆られた。




幾えの者達の思想、後悔、焦燥、嘆き、覚悟、決意、歓喜が入り交じった短く長い1ヶ月を経て今日この日、運命の日を迎えようとしていた。


8月21日午後17:00

アップデートも終了しジェネティクノーツにログインできる今日、荒木連夜=アラヤ、ラインハルト、全てのプレイヤーが大望し待ち望んだラインハルトとアラヤの一撃PVPが幕を開けようとしていた。


このPVPを持って幾人の運命が決まる。

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