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此処に居る

やぁ、こんにちは語り手だよ。

諸君等は思考と行動についてどう考える。

私は考えて行動することと考え行動する。

この2つは一緒のようでその実まったく違うと思っているんだよ、それこそ天と地程にね。

考えて行動とは、次の行動を考えてから行動していること。

それに対し

考え行動するとは、考えと行動を一緒にしていること。

つまり前者は考えと行動で二つの行程をしているのに対し後者は考え行動で一つの行程のみで終わらしている。

そら、理解するとまったく違うものに感じるだろ。

まぁこんなのを屁理屈だと通すものも居るけど私からしたらこの違いは勝負の世界においてはもっとも重要だと主張しよう。

何故なら1と2それこそたったコンマ数秒それこそ0.000001秒の違いでさえ命運を確実に分かつのだから。


シドの弱くなったと言う言葉に真意が分からない。

クレスもアラヤと同様の様でシドの言葉を理解できず言葉を失くしていた。

(弱くなった俺が前よりも……)

「どう…」

アラヤが訳を聞こうとがシドに聞くよりも先に向かうものがいた。

「ええー!アラヤ君が弱くなったってどういう事なのシド君!?」

クレスは自分が座っていた岩から勢いよく飛び降りるとその勢いのままシドに詰め寄る。

「うっせぇよ!耳元で大声出すんじゃねぇよ」

「あっ、ごめん……って、じゃなくて!」

「ああああ、分かった分かった落ち着け。

はぁ、そのなんだちょっと俺の言い方が悪かったというか抽象過ぎたな」

よっぽどクレスが煩いのかシドは自分に詰め寄るクレスを面倒さそうにどうどうと暴れ馬を落ち着かせるように制する。

「馬扱い!?」

「どうどう落ち着け、うるさいたらありゃしねぇ」

「ええー!シド君の方が爆弾発言したのに!?」

「……………」

もう構うのも面倒なのかクレスに対し無言になるシド。

「ええっ!?ちょっと無視、無視なの!?フグッ!…」

シドは抗議をあげるクレスの顔面を掴みこれ以上喋らせないように制止させながらアラヤを見る。

そんななかゲーム内なので痛みはない筈だがクレスはまるで痛がってるように自分の顔を覆うシドの手から脱出しようと踠いていた。

その様は画面越しのキャラクターがダメージを受けたさいにあたかもまるで自分もダメージを受けたように「いたっ」と思わず

言ってしまう共感性そのものだ。

「この際だ、ハッキリ言ってやる。てめぇ今の状態を続けるようなら確実に敗けるぞ」

アラヤは眉間に皺をよせながらも真剣なシドの表情に出任せや自分を貶めようとしてのこと或いは嫌っているからの発言ではなく何か根拠が有ってからの発言だと感じた。

そしてそう感じたからこそアラヤは今日迄の特訓全てを否定するような言い方をしたシドに対し岩に座したまま取り乱さず怒るでも反抗するでもなく冷静に訪ねる。

「シド、お前の表情から察するに何か根拠が有っての発言と言うのは俺にも分かる」

シドはアラヤの言葉を静かに聞く。

「俺は絶対にラインハルトに勝たなければいけない。

だから今ここで立ち止まっている暇なんかないし、ましてや間違えるわけにはいかない。

だから俺の欠点だろうと弱点だろうと俺が理解してないなんて有ってはいけない。

実力もありラインハルトのギルドに属しているお前が、今まであいつの戦いを直に見てきた事があるお前が、今のままじゃあ敗けると言うのならきっと確かなんだろう」

アラヤは頭を下げシドに懇願する。

「だから頼む聞かせてくれ、俺が前よりも弱くなり今のままでは確実に敗ける訳を」

(今はこうやって一緒にいるがちょっと前まで色々あった俺に対し勝つためだからといってもこうも躊躇いなく頭を下げるかよ。

ハァこれじゃあ色々気負ってた俺の方が馬鹿みたいじゃねぇかよ)

シドはアラヤの純粋な誠意を感じとる。

「こんなことでいちいち頭下げてぇんじゃねぇよ頭を上げろ。

だいたいこっちは最初からそのつもりできてんだ」

アラヤが頭を上げるとそこにはクレスの顔面を掴んだ手とは逆の手で頭を掻きながら憎まれ口を叩くシドの姿があった。

「いいかよく聞け。

俺がてめぇを俺とのPVPの時より弱くなったと評したのは力や技量の事を言ってんじゃあねぇ」

(?力や技量のことじゃあない)

「じゃあいったいなにが……」

「まだ話は終わってねぇよ。

俺がてめぇを弱くなったと評した、ああ、弱ぇと評したから分かんねぇのか。

要するにだ、てめぇはあれこれ考えすぎてんだよ。」

(考えすぎ…)

「俺とのPVPを思い出せ。

てめぇはあの時アルテミスを侮辱した俺に対し怒り狂っていた。

本来なら怒りなんざぁ視野を狭めるだけの無用の長物だ。

だが結果はどうだ、てめぇは俺を倒すと言うただ一つの視野に狭まれた筈なのにまるで視界が無限に広がったみたいにムカつくことだが四方八方からくる俺の神威開放(アルティマ)の矢を完璧に対応しやがった。

つまりあの時のてめぇは俺を必ず倒すと言う一つの思考を元に瞬時に行動を判断し体を動かしたんだ。

だが今のてめぇはラインハルトっていう巨大な敵に対し対抗策は思い付き実行するものの時が経つにすれてめぇ自身の未熟さを知りあれもこれもと課題ばっか増えていっていやがる。

まぁそれに対する答えもその都度出してはいってるみたいだが、正直言って今のまま、ってかもう既答えが追いつかなくなってしまってんのかも知れねぇがよ」

アラヤにもシドが言った今の自身の欠点が明確に分かった。

と言うのもアラヤ自身薄々感じていたことだからだ。

レベルや力や技量が上がりなまじ出きることが増えたせいでラインハルトに対する戦略の幅が広がりあれも出来たら、これをしなければ、そうあらなければラインハルトには決して勝てないと課題がどんどん増えていた。

ならば確かにシドとの一戦に対し今の自分が弱くなったと評されても仕方ない事実だ。

「てめぇこのままじゃ絶対幾つか答えが出てない状態で戦いを迎えることになる。

そうなったら最後戦いの最中なのに始終迷いや不安に駆られるぞ」

「シド。お前の言っていることは全て正しい。

確かにお前の言う通り課題が残ったまま完全を迎えてない状態でラインハルトと戦ったなら俺は確実にこの一撃はこれで本当に良かったのかと不安を抱き疑心暗鬼に陥っていた。

だけどシド今の俺にはこれしかないんだ」

そうアラヤが今ラインハルト対策に出来る事は今までやってきた事を積み重ねるしかない。

「てめぇも分かってんだろ。

あの時俺とのPVPで魅せたまさに神憑り的な動きができなきゃラインハルトに勝つこともましてや追い詰めることさえできやしねぇ」

「ああ、だがどうするんだ。

確かにお前の言うようにあの時のような動きが出来るならいいが今の俺はお前の言う通りラインハルトに対する課題を決戦まで全て消化出来るのかすら怪しい状態だぞ」

アラヤは辿り着く先は分かれどそれまでの道筋に迷い顔を伏せる。


「だから俺が、俺達が此処に居るんじゃあねぇか」

シドはクレスの顔面を掴んだ手を離した。

「えっ」

アラヤはシドの言葉に顔を上げた。

「てめぇが挑むのは最強、無茶や無謀なんて最初から分かりきってたことじゃねぇか。

それでもてめぇはラインハルト(あいつ)に挑み勝つんだろ」

「ああ」

シドはクレスを指さし

「なら俺とこいつがその無茶、無謀を通してやるよ。

課題が多い、結構なことじゃあねぇか。

だってそれはつまり全部果たしたらてめぇは今よりも強くなりラインハルト(あいつ)に手が届く処か並び立てるってことだろが。それにてめぇ一人じゃ時間が掛かることも三人で知恵を振り絞ればさっさと答えもみつかんだろ」

「いいのか」

アラヤにとってラインハルトのPVPは何処まで行っても私欲でしかない。

今更ながらクレス()もそうだがシド(木戸)に迄付き合わせてしまっていいのかと不安に駆られる。

「馬鹿だろてめぇ」

「そうだよアラヤ君」

そんなアラヤに呆れた様にシドが言うとクレスもその通りだと頷く。


シドとクレスの二人はアラヤの方に顔を向けた。

「「俺達/僕達は全て承知の上で自分で決めて此処に居るんだ」





「ありがとうシド、クレス」

アラヤは自分の為に協力を惜しまないシドとクレスに頭を下げ感謝の意を伝える。

「あはは、いいよ御礼なんて。友達なんだからアラヤ君に協力するなんて当たり前だよ」

クレスは至極当然の事だとにこやかに笑いながらアラヤ伝える。

一方のシドは照れ臭いのか視線をアラヤから外しそっぽを向く。

「ちっ、おい勘違いすんじゃねぇぞ。俺は言っとくがそこの天然馬鹿と違いてめぇとダチになった覚えはねぇ。

だいたい俺は別にただ事実を言っただけだ、感謝されるいわれはねぇよ。

だいたいてめぇさっきも頭を下げやがるがよ、良いとした男が簡単に頭下げんじゃねぇよ。………まったく調子狂うぜ」

アラヤに対しシドは嘆息をつくがそれでも頭を下げ続けるアラヤ。

「はぁあ。…敗けんじゃねぇよ」

「?」

今までとは違い真面目な雰囲気で言うシドにアラヤが頭を上げる。

頭を上げたアラヤの眼に写ったのは自身を見る強い眼差し。

アラヤはそのシドの眼差しに火を幻視した。

熱く強く一度視たら決して逸らすことのできない燃える火。

そう決して逸らしてはいけない信念の猛る眼差し。

「てめぇが挑むのはラインハルト(最強)だ。

例えどんなに対策を練ようと戦略を講じようと用心に用心を重ねようが100%じゃねぇ。スマートに勝つなんて到底無理な奴だ。

まぁ生半可な相手じゃねぇって言うのはてめぇも承知の上だがな」

シドの言うようにアラヤも初めから分かっている。

どんなに備え策を講じようが用心を重ねようがそれこそ弱点や弱みにつけこもうが簡単に勝てる相手じゃない。

それを分かっているうえで挑むのだ。

「だかなそれでもてめぇは敗けられねぇ勝つしかねぇんだ、今てめぇが背負いてめぇを信じ願いを懸ける全ての者のためにも」

シドの言うようにアラヤには敗けられない理由がある自分を信じ協力してくれる父親、ルビィ、クレス、そして今此処で自分に助言をする嘗ての敵たるシド、何よりも今すぐにでも駆け寄りたい、側にいたい、抱き締めたい、話をしたい、触れ合いたいユエの為にも。

「みっともなくても、土をつけられても、地べたを這いずろうが泣き喚こうが他の奴等に嘲笑され罵られる事になろうが敗けんじゃね、不様であろうと勝利を掴みとれ、例えその勝利を笑われようが否定されようがアラヤお前がその勝利にどんな想いを覚悟を決意を信念を抱いていたのか、抗い続けていたのか知ってる奴等はいる。

奴等…俺達だけは決してお前を笑わねぇ、否定しねぇ、だからてめぇはてめぇの敗けられねぇ理由の為に敗けんじゃね」

シドなりの不器用な激励。

だがそこに…そこにあるものには一切の偽りも傲りもない真摯なもの。

アラヤの為だけに送る魂からの言葉。

だからこそアラヤはシドの言葉を心に魂に刻む。

忘れないため、道標にするため、この先どんな困難が苦難が絶望が訪れようと自分の戦う意味を理由を意志を見失わないために。


さてアラヤとシドがまさに青春の1ページを謳歌しているなか此処にいるもう一人の男、先程からやけに静かなクレスはというと

ボタボタボタボタボタボタボタボタ

号泣していた。

身体中の水分を全て全部出しているんじゃないかというぐらい涙を流していた。

一言もなにも言わずに静かに。

これにはアラヤもシドも驚きよりも若干だが怖さを感じ引いた。

無理もない嗚咽混じりに涙を流しているならともかくただ無言で涙を流しているのだこれは怖い。

「お、おいクレス」

「だ、大丈夫か」

アラヤとシド二人は顔がひきつらせながらもクレスに声をかけるとクレスは

パチパチパチパチパチパチ

涙を流しながら拍手をしだした。


(いったい何の拍手だよ!)

(スタンディングオペレーション!?怖ぇよ!)

クレスの行動の意味が分からないんアラヤとシドは顔をひきつりながら困惑する。

「かん…」

クレスは拍手を止めると涙を流しながら口を開き何事かを言ったが言いながら顔を伏せたのでアラヤとシドに聞こえずらく最初の二文字しか分からなかった。

((かん?))

最初の二文字しか分からなかったアラヤとシドはお互いの顔を見合わせるとクレスは勢いよく泣き顔を上げる。

「えぐっ…感動したよ~えぐっ…二人とも!えぐっ…友情、絆、熱い想いえぐっ…まさに青春の一ページえぐっ…僕はえぐっ…僕はえぐっ…感動した!」

クレスは泣きじゃくりながらそう言うとアラヤとシドは無言のままお互いの顔を見先程の一時を振り返る。

「「…………………」」

「えぐっ…僕はえぐっ…尊いえぐっ…ものを綺麗なえぐっ…ものを見た」

「「………………(カァ~)!!」」

アラヤとシドは瞬時に顔を茹でたこの様に赤くさせる。

「えぐっ二人とも…素晴らしいよ!」

アラヤとシドに向かい親指を立てグッドサインを贈るクレス。

「「やめろーーーーーーー!!!!」」

岩銅鑼(ガンドラ)一帯に二人の男の羞恥の声が響き上がった。


笑いあい、泣きあい、喜びあい、いがみ合い、喧嘩しあい、また笑いあうそれは現在においては普通の事であり当たり前、特別な事ではないと思うだろ、しかし未来においてはこの何気無い普通、当たり前の事が如何に特別であり掛け替えのないものだったと思う日がくる。

それは春の桜のなか新たな未来に胸馳せ歩く笑みを見た時。

それは夏の気だるげな暑さのなか汗を流しながら友達と共に自転車をこぐ姿を見た時。

それは肌を震わす秋風のなか寄り添い歩く二人を見た時。

それは真冬の寒空のなかふと曇りなき星空を見上げた時。

いやそれとも友と昔を語り合った時かそれとも何かを失った時かそれはその時にしか分からない、だからこそ忘れてはならない掛け替えのない特別な事が当たり前の事だと想うように当たり前の事が掛け替えのない特別な事であるということを。












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