同一心
「…どうゆうつもりだシド」
(何故此処にシドがいるんだ…)
アラヤが問いかけてもシドは微動だにせずただ岩の上から無言でアラヤを見下ろすだけでありその表情からは如何様な想いを抱いているのか分からない。
「…………」
「…………」
アラヤにしてみればシドこと木戸健哉に最後に会ったのがあれなだけに色々思うことは有るが今眼前に居るシドこそが先程の攻撃の主だと分かったがそれにしても何も答えず黙したままのシド自身にどうしたものかと思い必然的に黙りシドとの無言の見合いが続いていく。
(意趣返しか…それとも何か他の思惑があっての行動なのか)
シドの思惑は分からないがシドが弓を仕舞わない以上何時また攻撃してくるのか分からないので何時でも迎え撃つくとが出来るよう剣を握ったままシドと見合っていたらシドが動き出した。
シドは弓を握っている手を上げ矢筒から矢を一矢取り弓に矢をつがえ引くと詠唱を始めた。
「システム起動」
「なっ!」
アラヤが神威開放を発動させようとするシドに見張り驚くなかシドは詠唱を続けていく
「不夜を終らす灼熱の射手、祖は太陽の加護を受けし必中の矢」
シドの体を光が包み弓につがえた矢に集束するとシドの前に太陽を背に弓を引く男神が描かれた丸い円形のステンドグラスの型をした紋章が表れる。
(シドの思惑は分からないがどうやら冗談ではなく本気みたいだな)
アラヤはシドが本気で神威開放を使用しているのを感じ剣を握る手に力をいれ構えをとる。
「アポロン」
まさに一触即発アラヤとシドお互いの緊張が高まるなかシドが最後の詠唱に入ったまさにその瞬間
「…!…ちょっ!ちょっと!ちょっと!いやいや!?一体全体何しているの健哉君は!?」
岩銅鑼の入り口から茶色の短髪に鳶色の目、精悍さと言うよりは人の良さを感じる柔らかな顔立ちに接近戦主体の手に重厚な鉄の手甲をし黒を基調とした半袖長ズボンの軽服の上に銀の軽鎧をあしらった防具に身を包んだ男のプレイヤーが砂埃を上げながら荒げた声を上げながらで走ってきた。
「チッ」
シドは此方に来る男のプレイヤーに対し心底面倒くさそうに舌打ちをする。
「ええー舌打ち!?
いやいや何面倒な奴が来たなみたいな態度なの!?」
シドは憤りを露に抗議する男のプレイヤーに気がそれた様子で神威開放を中断し構えを解く。
「おい守、ゲーム内で本名を言ってんじゃねぇよ、常識だぞ」
(守?守ってまさか…)
アラヤはまさかと思いシドから此方に来た守と呼ばれるプレイヤーの方を見る。
そんなアラヤを他所に二人は会話を続けた。
「あっ、そうだねごめん………じゃないよね!?」
守と呼ばれるプレイヤーは自分が悪いと謝るが元をただせばシドが原因だと気付き
「まったくなに話しそらそうとしてんのさ!僕はアラヤ君に対するシド君のさっきの行動について言ってんだけど!」
「チッ」
シドは騙されなかった守と呼ばれるプレイヤーに対しまた面倒そうに舌打ちをし
「あーくそっ、めんどくせぇ奴だな」
髪を掻きながら顰めっ面で悪態をつく。
「いやいやめんどくさいじゃないよ!?まったくもう誰のせいだと思ってんの!」
「あーはいはい俺が悪かった、たくうるせぇ奴だなこれでいいだろ」
「反省の色が微塵も感じないんだけど!?」
二人はアラヤを他所にさらに漫才みたいな会話を続けていく。
「でぇクレスいったい今まで何してたんだよ」
「いやいやそれ僕の台詞なんだけど!?僕を置いて先にアラヤ君との待ち合わせ場所に行ったうえに神威開放まで使って何してるんだよ!?」
まったく微塵も悪びれる様子もないシドに対し地団駄を踏みそうな勢いで憤慨するクレス。
「チッ…ああ悪かったよ、矢が全部防がれるもんだから少し剥きになりすぎちまった」
シドも流石に神威開放まで使おうとしたことに対しては罰が悪いと自覚しているのかクレスから目線を反らしながら言う。
「いや、謝るなら僕じゃなくアラヤ君にだしそもそもアラヤ君に攻撃している事自体が可笑しいしからね!?」
(ふっなんか面白いな…)
正直今の状況はよく分からないアラヤだが端から見ている分には二人の会話はまるで悪さを働いた思春期の子供とそれを叱る母親の様で微笑ましい様な可笑しいような少なくとも二人の絆を感じさせるものであった。
現在アラヤ達は岩銅鑼内にある岩に各々向かい合うように座っている。
「一週間ぶりだねアラヤ君」
アラヤに笑顔で一週間ぶりと切り出すクレスにシドが口にした守と言う名前と照らし合わせ真田守本人と確信したアラヤ。
「お前やっぱり真田なんだな」
「このアバターでは初めましてだね。
僕は正真正銘真田守でありクレス、これがジェネティクノーツでの僕のプレイヤーネームさ」
クレスは腰に手を宛て胸を張って答える。
「そうか、しかしそれにしても以外だな」
「何がって……ああ、これのことね」
クレスはアラヤの言葉に最初不思議そうにしていたがアラヤの目線から自分が装備している重厚な鉄の手甲だと分かると
「アハハ、アラヤ君僕には似合わないって思ってるでしょ」
クレス自身は自分に不釣り合いだと自覚があるのか頬を人差し指で掻きながら言う。
「いや、別に似合わないという訳じゃないんだが…ただなんだ以外だと思ったんだ。
俺の勝手なイメージなんだがお前は手甲を主軸にした殴る蹴るっていった近接特化型じゃなく剣や槍で戦う中距離型か後方から弓で射つ遠距離型っていう感じがしてな。
…ああでもお前の家は道場をやってるしもしかしてそれ関係だったりするのか?」
だとしても正直現実の真田守を知っているアラヤからしたらクレスのプレースタイルは違和感しかない。
そんなアラヤの思考を他所にクレスは目を見開き頷いた。
「まさにそうなんだよアラヤ君。
うん、ほぼアラヤ君の言う通りなんだよ」
「ああ……?ほぼ?」
「アラヤ君僕ねお爺ちゃんみたいな大事な時…そう本当に必要な時にね大切な人を守り自分の意思を通せる強い男になりたいんだ。
今の僕には難しいかもしれないけど、でもそうなりたいいやそうなると決めているんだ。
それに将来は僕がお爺ちゃんの後を継いで立派に道場をやっていきたいと思ってるし」
「そうか」
握り拳を作り決意を顔に浮かべるクレスにアラヤは本気だと理解する。
「うん。そのためにもまずは苦手を克服ってことなんだ、本当は誰かを殴ったり暴力を振るうのは苦手というか嫌なんだ、けど道場を継ぐと決めた以上そんな弱音は言ってられないだからゲームの中からでもって事で近接型の手甲を選んだんだよ」
確か真田家の道場は武道全般どころか様々な格闘技も教えている所だ勿論殴る蹴るといった行為は当たり前、苦手や嫌だと言ってられない。
「はいはい悪かったな、殴ったり暴力を振る嫌な奴でよ」
今まで岩の上に右腕で右足を抱えるようにし右膝の上に自分の顎をおきそっぽを向いてぶっきらぼうに言うシド。
アラヤにはそんなシドが心内で罰の悪そうに感じている様に思えた。
予期せぬ所からの言葉にクレスは慌てる。
「えっ!?いやいや違う違う!僕は別にシド君が嫌な奴なんてまったく微塵も思ってなんてないから!」
「ちっ別に否定しなくていいぜ事実は事実だからな」
シドはクレスにシッシッと払うように手を振りながらぶっきらぼうに言う。
(さっきから思っていたがこいつらいつの間に仲良くなったんだ?もしかしてこの一週間で何かあったのか?)
二人の中を不思議そうに見るアラヤに気付いたシドがクレスを顎で差しながら
「?なに見てや、ああ…おい言っとくがこいつが一週間てめぇに協力できなかったのはこいつ自身のせいじゃなく俺のせいだからな其処んとこ間違えんじぇねぇぞ」
アラヤが訝しげに自分達を見ているのを何か勘違いしたのか自分のせいだとわざわざ弁明するシドだが元よりこの一週間についてクレスを責めるきはまったくないアラヤには分かっていると頷く一方でシドの案件でクレスが一週間も関わっていることには気になった。
「シド君…」
事情を知るクレスが悲しげにシドを見ている。
アラヤもクレスの雰囲気に事情は知らずとも何かよっぽどの事が有ったのだと察した。
アラヤ・シド・クレスの間で重苦しい雰囲気が漂い始めた最中シドが目を伏せると口を開いた。
「まぁてめえには関係ない話だが…ふぅ、本来ならてめぇとこいつとの必要な時間を俺が使っちまったのは事実だ知る権利ぐらいはあるだろ。
……俺の親父が一週間前に死んじまった、その葬式やらでクレスの家に世話になっていてこいつはログイン出来なかったんだ」
「シド君…」
シドのあまりの内容にアラヤは目を見開き言葉を失う。
「俺の家は母親が男作って出ていきやがってな俺と親父との二人暮らしなんだよ、そんな馬鹿みたいな理由から親戚からは厄介者扱いされてな他に頼るとこもなかったんだ、俺自身も親父の突然の死でどうしていいか分からなかったんだけどな、クレスの親父さんが親父が死んだことをお節介な知り合いから知ったらしくてな俺一人だと大変だろうって葬式やら全て世話してくれたんだよ」
起こった出来事をまるで既にある文章みたいに何でもないように淡々と言うシドだがその瞳はアラヤが今まで見たシドの全てを燃やしつくさんばかりの激しく剥き出しの赤い、紅い、赫い炎とはまるで違い炎ではあるがそれとはまったく異なる正反対の氷の結晶の中で淡く揺蕩う青く、蒼く、碧く冷たい炎の様に静かであった。
シドのその様子にアラヤは思わず
「大丈夫なのか」
「けっ」
声を掛けるとシドはアラヤを睨み付けるがその瞳からは負の感情は感じられない。
「大丈夫にきまってんだろうがてめぇに心配されるいわれはねぇよ。
……だいたい心配されるなんざぁどっかのお節介な奴らで充分だ」
(後半は小声で何を言ったかは分からなかったが取り敢えずシド自身は完全に平気とは言えないが〈クレスをチラリと見る〉強がりではなさそうだな。
大丈夫ではないが、クレス達のお陰で大丈夫になっていっているってとこか)
流石に本人が大丈夫と言っている以上これ以上踏み込んだらシドも何かしら反論し言い合いになるし何よりシドの矜持を傷つける恐れがある。
「そうかそれならいいが」
アラヤがこれ以上踏み込まないと分かるとシドは座っていた岩から飛び降り地面に着地しアラヤの方を見る。
「ってことでそいつが一週間来れなかったのはそういう訳でこの話は終いだ。
さっきも言ったが文句なら俺に言え」
「それなら俺からは何もない。
元から俺の私事にクレスを付き合わせているからな」
「そうか……ああところでそいつから聞いたがてめぇラインハルトの奴を倒すためにあのハイオメガ、デッドバイト、リバイスクエストの三つのクソゲーをしてるみたいだが今どれぐらい行ったんだ」
シドの言葉に思わずクレスの方を見ると
「ごめん!アラヤ君!」
すまなさそうに手を合わせていた。
何処までクレスがシドに話したのかは分からないが
(まぁ、今のこいつのならラインハルトに喋ったりはしないか)
クレスが話したと云うことはシドを信じての事、ならアラヤもクレスの判断を信じることにした。
「そうだな一応どれも最初の頃に比べ30分は続けれる様になった」
「わー本当!スゴイいよアラヤ君!」
拍手しながら喜ぶクレスに対し何故かシドは神妙そうに顎に右手をやり何かを考えていた。
「おいてめぇが俺達に合う前、つまり最後に戦った奴とはどうだったんだ」
アラヤは何でシドがそんなことを聞くのか不思議に思った。
クレスもアラヤと同じ気持ちのようでアラヤ同様シドの質問の意図が分からず不思議な顔をしている。
だがシドの表情は真剣そのものであり茶化したりからかうものではなく何か意図があると思い取り敢えず此処に来る前戦ったゴルゴーンとの戦いを話した。
アラヤのゴルゴンに対する倒せはしなかったが善戦した事にクレスがスゴイ!と目を輝かせるなかシドは神妙な顔のままであったがアラヤが話し終えると眉を潜め舌打ちをした。
「ちっ、やっぱりさっきの俺との攻防で俺が感じたことは間違いじゃあなかったか」
「えっシド君が感じたこと?」
(シドが感じたこと?)
不思議に思うアラヤとクレスの前で驚きの発言をした。
「てめぇ俺とPVPした時と比べ弱くなってやがるな」




