表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/56

恐怖の意味


真田守の祖父に連れられ道場に着いた連夜と真田。

そして現在連夜は柔道着に着替え竹刀を右手に持ち腕を組み仁王立ちとなった真田守の祖父と相対していた。


真田の祖父曰く

「私には分かり知らない事ではあるが荒木君が言うそのFシステムとやらが己がイメージをゲームの世界で再現できると云うのであればゲームの中だけではなく実際に剣を振るのも一興だろう。

しかし此処に荒木君が使う剣はないので竹刀にはなるが其処は申し訳ないが勘弁して貰いたい」

「いえ…」

「兎に角だ私としてはゲームのシステム補正で真っ直ぐに完璧に振れることでは決して得られず理解できない事を実際の現実にて剣を振ることで荒木君に何か新たに与えるきっかけが出来るのではないかと私は考える」

実際に武術、武道を嗜んでいる真田の祖父だからこそゲーム中だけではなく現実の特訓も大事と云う発想なのだろう。

だが一理ある。当たり前の様に出来てしまうと其処で安堵し満足してしまうと進化も進歩も無い、もとより考えることすらしない其よりかは駄目な部分不出来な部分現実を知ることで自分の底を知りまだまだ上があると知ることが出来る。

当たり前だと安堵する無かれそれは只の慢心、驕りである真田の祖父はそう言いたいのだ。

実際に此れが自分にどう影響を与えるのかは連夜には分からない、だが折角の好意でありもしかしたらこの立ち会いで新たな発見、可能性が見えるかもしれない。

だからこそこのチャンスを逃さぬ為連夜は真田の祖父の胸を借りることにした……したのはいいのだが

「あの、ご好意はありがたいんですが……その…いいんでしょうか」

連夜は困惑する。

そんな連夜の顔を見て真田の祖父は腕を組んで仁王立ちのまま

「ああまったく問題はない。

さぁ遠慮はいらないきたまえ」

眼光が光りながら鋭い目で問う。

(きたまえと言われても問題ありだと思うが……)

「その失礼ですが防具も着けてないうえ竹刀を持っているのは俺だけなんですが大丈夫なんですか?」

そう真田守の祖父は防具は一切着けておらず竹刀も持ってない無防備の状態だ。

そんな相手に竹刀を装備している自分此れは相手が武術、武道を嗜んでいると云っても倫理的に躊躇いが生まれる。

連夜が困惑するのも無理はないことである。

まだ相手に対し信頼・信用・理解があればまだしも連夜と真田の祖父は今日会ったばかりであるいや、連夜が真田の祖父を信頼も信用もしてないと云うわけではないが会ったばかりで深い理解をしているわけではない。

今だに竹刀は持っているものの構えを取らず棒立ちの連夜

「私は問題ない」

真田の祖父は再度告げるがはい、そうですとはいかない

(折角の好意だがどうするか…)

防具をしてない以上下手したら連夜の竹刀が真田の祖父の目、喉等の急所に当たる可能性がある。

まだ躊躇い動けない連夜に壁際に正座をし此方を見ていた真田守が連夜の心情を察し近付いてきた。

「荒木君が不安に思う気持ちも分かるけど大丈夫だよ。

荒木君お爺ちゃんはね段位は取っていないんだけど空手、柔道、剣道、銃剣道、短剣術、棒術、槍術、薙刀、弓道、合気道、居合道、チャンバラ、太極拳、古武道、少林寺拳法、八極拳、中国拳法、日本拳法、相撲、指相撲、紙相撲、カバディ、フェンシング、テコンドー、ボクシング、パンクラチオン、レスリング、プロレス等色んな事に挑戦して極めているんだよ!」

両手を握りしめ弾んだような声を上げる真田守は自分の祖父を凄く尊敬しており誇らしげだ。

そんな真田を見ると連夜も次第に大丈夫な気がしてきた。

連夜自身は自覚がないが連夜が心の底で真田守を信頼・信用・理解している証拠だ。

ただ…

(凄い、凄いとは思うが………なんか途中変なの混じっていたような)


そして連夜は覚悟を決めた。

大丈夫だと自信満々に告げる真田守と真田の祖父が連夜に安心してもらう為に道場の用具室から出した大人一人分の大きさのある世界一硬い木リグナムバイタでできた木人形を素手で正拳突きしバゴーン!!と強固な鉄球を粉砕する様な轟音と共に木人形を胴体を真ん中から真っ二つにしたのを見たからだ。


連夜は真っ二つになり床に倒れ伏す木人形の残骸を遠い目で見ながら覚悟を決めたと云うか此処までされたらまだ不安ですなんて口が裂けても言えない、言えるわけがない!

(瓦割りならまだ分かるよく武道家がテレビで重ねた瓦を割るのを見たことあるしな……だがこれは違う、違いすぎる別次元だ、まさか俺の信用を得るために世界一硬い木を一撃で真っ二つにするなんて……あはっはは………これ逆に俺の方が大丈夫なのか(汗)…………マジで。

と云うかそもそも何でそんな世界一硬い木が何で道場にあるんだよ!何で木人形になってんだよ!まさか今みたいな時の為に常備しているんじゃないだろうな…)

真田の祖父に戦々恐々し真田家に謎を持った連夜であった。

ちなみに連夜の懸念通り真田家道場にはこのリグナムバイタで出来ている木人形が後9体が置いてありその時が訪れるのを待ち続けている。


連夜は真田の祖父に向かい合うとジェネティクノーツで剣を持ち敵に立ち向かう何時もの剣先を下に向け脱力した体勢の構えを取る。

「つっ(汗)」

覚悟を決め構えをとったからこそ連夜は気付くそれまで自覚することすら出来なかった目の前に腕を組み仁王立ちの体勢でいる真田の祖父から発せられる途方もない威を圧をプレッシャーを、浅く軽い言葉で表すならまさに

強さの頂点。

(なん…で)

連夜は息を飲み目を見張った。

真田の祖父から発せられるプレッシャーもあるが真田の祖父に因縁の男にして己が全てを掛けPVPを挑む男

(なんで真田の祖父にラインハルトの姿が重なる…)

ラインハルトの姿を幻影を見たからだ。

そしてラインハルトの幻影を見たとたん連夜に異変が起きた。

(なんで…なんでだ俺は、俺の手はなんでラインハルトの姿に()()()()()!)

連夜の竹刀を握る手は小刻みに震えていた。

それは傍目から見ても心に恐怖を抱いている者の姿であり連夜の精神が身体が警告を出していた。

何故そうなっているのか連夜には分からない検討もつかない此から戦う相手、倒し乗り越えると決めた相手、もう二度と絶対に敗けられない相手に五大ギルド前で宣戦布告迄したにも関わらず今さら何を感じ恐れているのかまるで分からない。

(ふざけるな、今さら此処まで来てラインハルトを恐れているとでもいうのか、馬鹿か俺は!)

けたましくそれこそ外部の真田の祖父や真田にも聞こえそうな程大きく高鳴る鼓動を抑える。

「ふうー…ふうー…ふうー…ふうー」

連夜は短く深呼吸を繰り返し心身を落ち着かせていく。

(落ち着け、落ち着くんだ今俺が今相手をしているのは真田の祖父でありラインハルトじゃない、そうラインハルトじゃないんだ、幻なんかに振り回されるな動揺するな集中しろ、集中するんだ)

ラインハルトの幻影を振り払い目の前に居るのは真田の祖父だと自分に言い聞かせる。

30秒ぐらいか連夜は鼓動が段々落ち着いてくのを感じ何時もの状態になると

「いきます」

真田の祖父に宣言し竹刀を握る手に力を入れ床を蹴り一気に駆け出した。

「はぁああああ!」

駆けた連夜は竹刀の届く間合いに入ると駆ける勢いのまま竹刀を真田の祖父の胴体目掛け後ろに振り絞り全力の渾身の突きを繰り出した。

システムで補正されてないだけあり動作も無駄があり竹刀も竹刀の重量や掛かる重力、慣性によってぶれるまさに素人の攻撃である。だが駆け出したままの勢いある一撃だ防具もしてない真田の祖父が当たれば相当の痛みがあり怪我もしくは鳩尾等急所に当たればただではすまない。

普通の人なら絶対に当たりたくないと全力で回避行動をとるだろう。

だが此処にいる真田の祖父は普通の人と云うカテゴリーに居る人間ではないその遥か先に居る人間である。

自身に迫る竹刀に恐怖も動揺も緊張すら見せず冷静に落ち着いた姿勢を一ミリたりとも崩さず腕を組んだ体勢のまま横にすっと予備動作も感じさせないまるで流水が如く無駄の一切ない自然の動きで竹刀を紙一重で躱した。

「つっ!?……」

竹刀を躱された連夜はそのまま真田の祖父を通りすぎていくと直ぐ様右足を軸に身体を回転させ振り返る。

その顔は驚愕に満ちていた。

(嘘だろ!?…確かに素人同然の俺の突き確実に当たるとは思わなかった…だから当たらなかった事は別にいいんだ。

そよりも………まったく分からなかった!何時の間にか躱されていた!いや違う俺が認識できなかったんだそれが当たり前だと自然だと云うように無駄の感じさせない流れる様な動きで!!)

真田の祖父は驚愕する連夜を他所に

「さぁ荒木君その調子だどんどん遠慮せずかかってきなさい」

と言う。


その後幾度も突き、真っ向切り、袈裟斬り、逆袈裟斬り、左袈裟斬り、逆左袈裟斬り、一文字切り、左一文字切り、一回だけではなく竹刀を連撃で放ったり、フェイトをいれ攻撃する。

ゲームの様にシステム補正が無いので不恰好では有るものの今自分が出来る全てを持って攻撃していくが全てを紙一重で躱されていく。


5分、10分もしかしたらそれ以上かもしれない、現実では慣れない激しい動きの為息をあらげる連夜の体からは大量汗が滴り落ちる。

そんな連夜に比べ真田の祖父は汗一滴かいてないどころか息一つすら乱してない。

実力の差いやそれ以前の問題である。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

最初に比べ激しい運動の疲れと全然攻撃が当たらないどころか掠りもしない現状に焦り苛立ちもあり段々攻撃が単調になり我武者羅になっていく。

幾度の攻撃の後袈裟斬りをした連夜の攻撃を避けた真田の祖父は

「荒木君ここまでにしよう」

立ち会い終了の声を告げた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

床に崩れる様に座り込み顔から止まることなく滴る大量の汗のなか荒い息を整えていく。

(くそ、簡単にいくとは思わなかったがまさか一撃も当たるどころか掠りもしなかった、真田の祖父が凄いのは分かったがそれにしても自分が情けない)

自分の不甲斐なさ現実に悔しい想いを抱いていたら

「はい、荒木君」

真田守が近付きいつの間に用意したのかタオルとスポーツドリンクを渡してきた。

「はぁ、はぁ、あっ、ありがとう」

連夜は受け取ると右手に持ったタオルで汗びっしょりの顔を拭き冷たすぎず温すぎない丁度いい温度のスポーツドリンクで乾いた喉を潤す。


「ふぅ」

一息つき汗もだいぶ引いた連夜に

「どうだったかね何か得ることはできたかな」

真田の祖父が近付き連夜の前で正座すると相対の成果を問いかける。

「そうですね」

連夜はさっきまでの立ち会いを頭の中でリプレイさせながら

「攻撃を仕掛けても全て紙一重で躱されるし最後には当たらない焦りで動きは我武者羅に目茶苦茶になるし自分の現実での力量のいたならさを思い知らされました」

(分かりきったことだったが正直ゲームの中とはまるで違う、身体は重いし自分の思い道理に竹刀も振ることすら出来ない、真田の祖父が強すぎると云う以前の問題だ)

「……そうか、他にはあるかい」

深く頷く真田の祖父に連夜は再び考えるがさっきの事だけでこれ以上は思い付かない。

「すいません。

わざわざ立ち合って貰ったのにこの程度しか思い付かなくて」

すまなさそうに謝る連夜に対し真田の祖父は視線を連夜から真田守に移す。

「……!ごめん荒木君ちょっと用事があるから家に戻るね」

「えっ、ああ」

「じゃあまた後で」

真田は急にそう言って道場から出ていき道場には連夜と真田のだけが残された。

突然の展開に戸惑う連夜に

「荒木君今から私と問答をしないか」

真田の祖父はそう告げる。


「問答…ですか?」

「ああ。

今から私が君に質問をするから君は自分の想いのもと答えるだけでいい」

「想いのもと…」

「そうだ。私は荒木君君の真意を知りたい。しかしだこれはあくまで私からの一方的な願いだ受けるか受けないかは君の意思に委ねるがね」

連夜には真田の祖父の意図することは分からないがこの僅かな時間で真田の祖父は酔狂や興味、悪戯に聞く人ではないと思うし真田のあの態度きっと祖父からの視線でこの事を察し席をはずしたのだならきっとこれには自身には理解できない何か重要な意味があるものだと思い頷き了承の意を示した。


「では始める」

「はい」

連夜は最初真田の祖父と同じく自分も正座をしようとしたが畏まった体勢より楽な姿勢で受けた方が気持ちも楽に答える事が出来ると言われお言葉に甘え胡座で受ける事にした。

「まずは軽くいくぞ君の名前は」

「荒木連夜です」

「男性か」

「男性です」

「好きな食べ物は」

「ハンバーグです」

「好きな色は」

「緑と黒……白銀です」

まるで合コンの様な簡単な問答を繰り返す。想ったままを素直に答える連夜もまだこの問答の意図は分からない。

「大切な存在はいるか」

「います父親……と掛け替えの無い人が」

「ゲームは好きか」

「今まで色々ありましたが今は胸を張って好きだと言えます」

多少詰まるとこはあるものの素直に答えていた連夜だったが次の質問で本格的に言葉に詰まり押し黙った。

「君は誰かに恐怖を抱いているか」

「…いいえ」

「私と相対する時君は私に誰の幻影を見たか」

「つっ……」

連夜の脳裏に此方を見下ろす巨大なラインハルトの虚像が映り思わず歯を食い縛り両膝に置いた握り拳に力が入る。

「荒木君大丈夫だ、もし答えたくないのなら答えなくてもいい。

ゆっくりでいい落ち着きたまえ」

真田の祖父は優しく声を掛ける。

「ありがとうございます、でも大丈夫です」

連夜は深く深呼吸した後

「ラインハルトの、俺が倒さなければ乗り越えなければならない男の幻影を貴方に見ました」

「ラインハルト、それが君の言っていた男か」

「そうです。……だけど分からないんです。

倒さなければ乗り越えなければ男、覚悟を決め宣戦布告までしたのに自分がいったい何を恐れているのか、そもそもこれは恐怖なのかそれすらも分からないんです」

自分の感情、心情でありながら連夜には分からない。

「荒木君守の部屋で君が私に言った事は覚えているかね」

それはつい先程1時間近く前に言った事。

『自身の此からの未来の為にどうしても勝ちたい、いや勝たなければならない最強の男がいる』

「はい覚えています」

「ではその時の自分の事を覚えているかね」

「自分の事?」

言った事は覚えているがその時の自分の様子など気にもとめてない普段通りであり何か変なとこでも有ったのだろうかそう思う連夜に

「あの時の君は自分では自覚がないが君の心と身体が発していたのだ」

「発していた?」

「そうだ。

あの時の君は意図したものではなく自分では気付いていなかったが言いながら目線が四回程あらぬ方向を見声も微かに高くなっており肩が僅かなに硬直し手も小刻みに動いていた、全てが僅かな仕草であるがそうあったのだ」

連夜は思わず目を見開く。

普段通りだと思っていた自分にそんな仕草が出ていたなど全く気付くことが出来なかった。

嘘だと勘違いだとは思わない先程の相対で先真田の祖父の実力の高さは知らされたし真田の祖父がこんな冗談を言う人には見えない。

おそらく武術、武道を極めた真田の祖父だからこそ連夜自身の意図ではない心、身体から出た僅かな片鱗を見逃さなかったのだろう。

「荒木君。

人は自分に自覚の無い仕草を行う時、それは自分が抱く感情、意思、決意、思慮が自分にとって自覚が無い或いは抑える隠そうとする場合意図もせずに表れる。

分かりやすい例で言うなら防御姿勢と云うのだよ。

だが仕草と云っても千差万別皆が皆同じ仕草を表すわけではなく人それぞれだでそれを読み解く事など見識に優れ極めた者或いは人生において同じ様な仕草を行った者でしか分かり得ない。

私には荒木君君が出した仕草には見覚えがあるのだ。

それは私がまだ若く未熟だった頃に無謀にも己より遥かに強い男に敗れた後自分の実力では此れが当然の結果だと自分に言い聞かせ平常を保っていた私に師匠たる父から指摘されたものと似ていたのだ。

だからこそ分かる荒木君君は一度そのラインハルトと云う者に敗けているな」

「つっ!」

「それも圧倒的大敗を期して」

「……はいおっしゃる通り俺はラインハルトに負けました、何も…何も出来ず一撃で自分の弱さを敗北を完膚なきまで知らされました」

「ならば君がその男に抱いている感情、君自身が自覚出来ず心の奥底に沈んでいる想いは紛れもない私があの時自覚なく抱いたのと同じ………………………恐怖だ」



「…恐怖」

(ああ…確かにそうかもしれない)

真田の祖父の真剣さ故か否定することなく連夜はラインハルトに対し恐怖を抱いている事実を受け入れたが

同時に自分自身が情けなく思う。

「たぶん…いや間違いなく俺は自分に自覚の無いままにラインハルトと云う男を恐れている。

それにしても指摘されるまで分からないなんて…認めたくなかったのかそれとも目を背けていただけなのか本当に分かっていなかっただけなのか何にしても自分の気持ちだと云うのに情けない、本当に情けない話です。

それに覚悟して自分で挑みながら、敗けられないと意気込んで置きながら今さら、今さらだ…ああ本当に情けない…馬鹿だろ本当に…」

(本当に馬鹿だよ俺は、こんなんでどうすんだよ…)

顔を天井に向け悲観し不甲斐ない自分に怒りが沸いてくる。

そんな連夜に真田の祖父は励ましでも叱咤でもなく

「連夜君君は自分が恐怖を抱いていた事を知らなければ良かったと思っているか」

「…はい。

絶対に乗り越えなければならないとは分かっています、分かってはいるんですけど正直今自分がラインハルトに抱いている恐怖をこの1ヶ月で乗り越えられるか不安です。

当日になっても恐怖を抱いたままなのはいけないと敗けるとは分かっているのに」

強気に勝ち気に絶対に乗り越える!と宣言できれば良かったがあいにくと連夜は今までの人生から知っている、知ってしまっている。

気持ちと云うものは一度抱いたものが簡単に変わることもあれば変わらないものもある。

ましてや今回連夜が抱いているのは正の感情ではなく負の感情だそう簡単に切り替える乗り越える事はまず難しい。

だからこそこんな気持ちを抱くくらいなら最初から自覚せねば良かったと分からなければ良かったと思う。

悲観する連夜だが今此処に恐怖と云う感情に別の意見を意味を持つものがいた。

「荒木君恐怖を抱く事を情けない愚かだと思っているならそれは間違いだ」

連夜は呆然と顔を真田の祖父に向ける。

「えっ?」

「そもそも恐怖と云うのは乗り越えるものではない向き合い理解するものなのだ」

「理解するもの…」

「そうだ。

いいかい荒木君、恐怖を乗り越えたそれはただの満足したと云う欺瞞であり驕りであり慢心でしかない。

何故なら自分では恐怖を乗り越えたと思ってはいても実のところ思っているだけで心の中には未だ恐怖は蠢いているのだ」

真田の祖父が言うには例えば熊に恐怖を抱いている猟師がいたとしよう。

猟師は狩りの訓練を積み実際に熊を猟銃で倒し恐怖を乗り越えた自分は熊に勝てるんだと思った。

だがその実そう思いながらも猟師の心の中では熊への恐怖が消えたわけではないのだ。

何故ならその者は恐怖を乗り越えたと言いながらも熊と出会うかもしれないと常に気を張り用心に用心を重ね猟銃を備えている。

つまり乗り越えたと言いながらも理解しているのだ熊の恐ろしさ強さをだから慢心はしないのだ慢心を抱き気を張る事を止め用心に用心を重ねた結果待っているのは自分の終わりだと云うことを。

此れは熊を知る猟師の理性よりも本能が訴えてるものであり自分では理解できてない事を自分の心、本能が警戒し出しているものだ。


「つまり荒木君君がその男に恐怖を抱いている事は悪いことではないのだ。

確かに恐ろしく怖いかもしれないだがそれは君がその男を知っているからこそのもの強さを高さを威を圧を」

「だけど俺がラインハルトと戦ったのは一度だけです。

それに一撃で瞬殺されました、確かに噂からラインハルトの強さは聞いてはいましたがそれでも聞いただけで本当にそれだけなんです」

「何を言う、それだけで充分ではないか」

「えっ?」

「例え一度だけ一撃とはいえ君は知った、知ったからこそ君は恐怖したんだそれはすなわち君はその一度においてその男の強さを本能で理解したのだ。

もし君がその戦いの後でも平然と何でもないように心の底から思っていたのならそちらの方が問題だ、荒木君がその男に恐怖を脅威を抱いていないと云うことで少しもその男を理解していないということなのだから。

いいか荒木君君がこの先その男も含め全てに勝とうと思うならまずは相手を理解することだ、相手を理解すれば見えてくるものがあるのだそれは相手の呼吸であったり癖であったり動作であったり隙であったり弱点であったりだ」

「動作、癖、隙…」

「そうだ。恐怖は乗り越えるものではなく向き合い理解するも。荒木君怖くてもいいんだ逃げてもいいんだそれは君がその者の全てを知らずとも強さを理解している証拠なのだから」

「じゃあ恐怖を乗り越えようとしたらいけないと言うことなんですか」

連夜がそう聞くと真田の祖父は真剣な表情を崩し苦笑しながら

「ああすまない、私の言い方が悪かったな別に乗り越えようと思う事は悪いことではないのだ、それは自分の挑戦すると云う意気込み気合い覚悟でもあるのだから。

だから乗り越えようと思うこと自体はいい駄目なのは乗り越えたと思う事だ、それはその時点で満足したと云う慢心、驕りなのだから」

「………」

真田の祖父の話しを身体、心全てに行き渡すように噛み締める連夜に真田の祖父は申し訳なさそうにする。

「すまないな荒木君。私がもう少し上手に言えることが出来たなら良かったのだが恥ずかしながら私自身自分が口下手だとは分かってはいるのだが、はぁ歳を重ねても此ればっかりは昔から変わらなくてな……」

「謝られることなんて何一つ有りません。お爺さんのお陰で自身の感情をはっきりと知ることが出来ました。

お爺さんと話せて良かったです本当に感謝しています」

「そう言ってもらうなら助かる。

さて此れで問答は終わりになる、長々と爺に付き合わせてすまなかったな」

「いえそんなことはまったく、先程も言いましたが俺は本当にお爺さんに感謝してます。

俺の方こそ自分が未熟なばっかりにお手数かけて申し訳ないです」

逆に申し訳なく思う連夜に

「いや私が行ったことだ、荒木君が申し訳なく思う事はない」

「いえ俺が」

「いや私が」

………………

お互いがお互いに相手に対し申し訳ないと思言いあっていたが

「「アッハッハハハハ!!」」

暫くたつとなんだかその有り様が可笑しく思い初め連夜と真田の祖父は吹き出しお互い声をあげて笑いだし道場の中は二人の男の明るく楽しそうな声が響いた。


暫くしお互い落ち着いたタイミングで連夜はふっと気になった事を聞いた。

「お爺さんにも今恐怖していることって有るんですか?」

真田の祖父は静かに目を伏せる

「…ああそうだな……荒木君私はな、残してしまうことが怖いのだよ」

「残してしまう?」

「私は多くを見送ってきた友をライバルを両親をそして妻を……。

だからこそ残される側の気持ちが痛い程に分かる辛く悲しい気持ちがな。

私も歳が歳だけしてそう長くは生きられない守や孫達が成長し大人になり愛する人と結婚し曾孫を見また曾孫の成長を見るそんな幸せな日々をおくれたらと夢を見るだがこれはがりは運命であり確定している未来だ私にはどうしようもない。

だから私は怖いのだもし私が死した後残されるもの達がどんなに悲しく辛い気持ちになるか考えるだけで怖いのだ、赦されるのなら私が全てを最後を看取り遺されて欲しい、そうすれば背負うのは私だけでよいのだがな」

「…………」

連夜も母親が死に残された側で有るからこそ気軽に答えるものでは決してないと思いどう声をかけたらいいか分からない。

深刻そうな連夜を見たからか真田の祖父は

「ああ、連夜君そんな深刻そうにさずとも大丈夫だ。そもそも私の考えすぎであり孫達なら案外平気でいてくれるかもしれない事だ」

分からないがそれは違うと思う。

簡単に口にだしていいことではないことは分かっているがそれだけは決して違うと否定しなければならない。

「それは違います」

「ふむ?」

「俺は真田と長い時間を過ごしたわけではないですし真田の家族となると今日初めて会って少し会話をしただけです。

烏滸がしい事は重々承知ですがそれでも言わせてもらいます。

もし貴方が居なくなったら真田は家族も含め皆は絶対に貴方が居なくなることを悲しみます。

それは僅かばかりの時間を過ごしただけの俺ですら分かります。

お爺さん、貴方の家族は本当に優しく温かい人達です。

だからお願いします平気だなんて冗談だとしても決して言わないで下さい、それは貴方の家族の優しさへの侮辱だと思います」

連夜も此れが他人の想いに踏み込み説を述べる怒鳴られても殴られようが仕方のない失礼な事なのは重々承知頭である。

「……ああ、君が守と知りあってくれて本当に良かった」

頭を下げて言う連夜に真田の祖父はふポツリと声を漏らす。

「えっ?」

真田の祖父の言葉が聞き取れず頭を上げる連夜に頭を静かに横に振る。

「ああそうだな確かに荒木君の言う通りだな……すまないそしてありがとう荒木君」

真田の祖父は今日初めて厳つい顔を崩し優しく微笑んだ。

(…そっくりだな)

やはり血の繋がった家族であるその笑みは優しく微笑む真田守に瓜二つであった。



日も暮れてきたので真田家で軽くシャワーを浴びた連夜は帰ることにした。

ちなみに真田守には今日の夜ジェネティクノーツで合う約束を交わした。

真田守の母親、兄弟からは不満の声が上がり泊まっていかないかと声があがったが連夜は父親にも何も言ってない事もあり帰ろうとしたがそれでも不満の声があがる。

真田守はそんな家族に恥ずかしくなりながら連夜に謝ると今だに抗議を続ける母親と兄弟を家の中に連れていったので外には真田の祖父と連夜だけとなった。


「今日はありがとうございました」

「いや、此方こそ大したもてなしができずすまなかったな」

「いえいえ、お爺さんのおかげで俺は自覚することができましたし充分助かりました」

「そうかそれならば良かった。

荒木君用があろうと無かろうが何時でも来たまえ私、いや私達は荒木君を歓迎する」

真田の祖父の心からの言葉に胸が暖かくなる連夜は微笑んだ。

「ありがとうございます」

その後真田守が戻ってくると真田守と真田の祖父に再び礼を告げ自分の家に帰って言った。


連夜を見送った後

「ねぇお爺ちゃん」

「なんだ」

「僕お爺ちゃんの事大好きだから」

いきなりの愛情表現に真田の方に視線を送る真田の祖父。

「うんうん、僕だけじゃないお母さんもお父さんも弟、妹達皆お爺ちゃんが大好きだから、だからいっぱい泣くよ辛くて悲しくて、きっと悲しみがいえることはないと思う……けどねそれに敗けないぐらいいっぱい笑い喜び幸せになるから」

真田の祖父は悟った、守が自分と荒木君との話を聞いていた事を聞いたうえで自分を心配かけないように安心させるように想いを抱その()()()()()()()で言っていることを。

(フッフまだまだ子供だと思っていたがその実立派な男に成長しとる、此れでは私の方が子供ではないか…ああ私もまだまだ未熟と云うことか)

孫の成長に感慨深くなり目頭が暑くなりそうになりながら真田の祖父は真田の頭に手をふわりと優しく乗せる。

「そうか」

「うん」

(荒木君。

改めて言おう、君が守に出逢ってくれて仲良くなってくれた事本当に感謝する)


夕焼けが沈み行き夜の闇が訪れる最中此処に心通わす二人の家族にして男達が居た。


ちなみにだが真田守が言っていたがハイオメガ、デッドバイト、リバイスクエストをクリアした人と言うのは真田守の父親と祖父らしい。

家族揃ってゲームって本当中の良い家族だなぁと思う反面あのお爺さんゲーム迄やる上に死にゲー全てクリアってもはや出来ないこと無いんじゃないかと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ