真田家
やあ、こんにちは語り手だ
全ての人が幸福な日々を過ごしているわけではない。
アラヤこと荒木連夜、シドこと木戸健哉、ユエ皆が何かを想いをはせ生きている。
苦しい事も悲しい事も生きているならば幾らでも訪れよう。
だが忘れてはいけない過去が今がそうあろうと未来が不透明である限り誰もそう、自分自身すら分からないのだから。
翌日の10時。
手土産を持って真田家に訪れた連夜は真田の家を目の当たりにして呆然となったた。
「デカイな…」
其所にあると云うより最早聳え立つと云う表現が相応しいほどのまるまる一軒家いや二軒家ぐらい収まるぐらいの広々とした日本庭園風の広大な庭に家の真横に道場がついている立派な一階建ての武家屋敷であった。
家と云うか敷地の広さにも驚くが連夜が一番目を惹かれたのは道場の入り口に飾ってある【極み道場・始極にして終極にして究極~極みの全てがここにある!強くなりたい君へさぁ今こそ訪れよ!~】と何故か道場名だけではなくメッセージも書いてある色々ツッコミどころ満載の看板だ。
(ビックリマークが書いてある道場の看板なんて始めてみた……と云うか何故看板にビックリマーク入りメッセージなんだよ…)
しかもプロの書道家が本気の全力で書いたみたいに凄い達筆である。
連夜が呆然と看取れているなか突然背後から右肩に手を置かれ
「家になにかようかな少年」
厳かな声が聞こえた。
まったく気配の欠片も感じなかったので思わず連夜は一瞬ビクッとし体を振るえさせ恐る恐る振り向いた。
振り向いた先に居たと云うより存在していると云う言い方が適切な凄みを感じる男、肩までの黒い胴着に長い白髪を無造作にゴムで纏め胸板がまるで鋼鉄の様な分厚い筋肉で覆われている筋骨隆々の格闘漫画に出る厳つい顔をした男が鷹の様に鋭い眼光で連夜を見ていた。
(胴着を着ている…真田の家族か関係者の人か?)
「すいません俺荒木と言います。
今日は真田と約束していて」
おそらく真田守の親族だと思った連夜が男に対し正直に此処に居る用件を伝えると男は頷き
「ふむそうか。
それはそれははるばる家迄ようこそ。
して少年よ実は私も真田の姓であるのだが少年が約束しているのはどの真田のことかな」
(やっぱり真田の家族の人か。
五十代いや四十代後半ぐらいか白髪は目立つが…もしかして真田の父親か?)
「真田守さんとの約束です」
「ほぉ、守と約束とな…」
男は思うことがあるのか右手で顎を擦りながら連夜が言う真田守との約束について吟味する様に呟き頷くと
「よし、少年よよく来た。
私についてきたまえ」
眼前に居る連夜を追い越し武家屋敷の玄関迄歩くと振り返り後ろで棒立ちで見ている連夜を見た。
「どうした少年よ。
家の孫と約束しているのだろ遠慮することはないついて来たまえ」
「あっ、はい」
連夜は男の催促に頷くと男に続いて武家屋敷の中に入って行った。
男に案内され和室の居間に通され座布団の上で正座している連夜の前には冷えた氷入りの麦茶と羊羮が置かれている。
「ほんとごめんなさいね~怖かったでしょう~お父さん顔が怖いものだから~」
連夜の対面から間延びした声で20代ぐらいの真田守によく似た顔立ちで髪がフワッとカールした女性が頬に手を当て言う。
「いえ、全然そんなことないですよ」
五大ギルド会議に乗り込んだ連夜だが流石に此処で正直にちょっと怖かったです、などと答える無神経さや度胸は持ち合わせてはいない。
ちなみに女性の後ろにはキラキラした目で連夜を興味深そうに見つめる真田守によく似た顔立ちの幼稚園ぐらいの男子一人と女子二人の子供がいた。
(………)
ジー
(………)
ジー
(………)
ジー
(……汗)
最早凝視と言っても過言じゃない程見られているので連夜は少し落ち着かない気持ちになった。
子供達からの無言の圧に耐えられなかった連夜は気持ちを切り替えるつもりで取り敢えずまだ自己紹介をする事にした。
「すいません自己紹介が遅れました。
俺は真田守さんと同級生の荒木連夜と言います。
本日は真田守さんとの約束で参りました。
あっ、これよかったら詰まらないものですがよかったらどうぞ」
連夜は真田の家に行くにあたって失礼がないように持参した手土産を入れた紙袋を渡した。
「あらあら!これはどうもご丁寧にありがとうございます」
連夜から手土産が入った紙袋を受け取った女性は連夜の気遣いに喜び嬉しそうに頭を下げた。
「じゃあ次は私達の番ね。
私は守の母で、此方の私の隣に座る顔の怖い人は私の父、つまり守のお爺ちゃんになります、そして此方のおちびちゃん達は守の弟妹です」
(母親に祖父だと!?見た目若すぎるだろ!)
正直真田守の姉と父親辺りだと思っていた連夜には驚愕な真実である。
真田守の母親から手土産を受け取った子供達は中を見るとよほど中身が嬉しかったのかはしゃぎだした。
「わぁ!いきなり団子だ!」
「わっ!」
「わーい!」
万歳までしている。
連夜にしたら此れ程までにお世辞ではなく純粋に喜んでくれるなら嬉しいものだ。
ついはしゃぐ子供達につられ真田家族との面談に硬く緊張していた連夜の表情も柔らかくなる。
真田守の母親も頬に手を当て子供達と同じ様に嬉しそうに微笑む。
「まぁ、ほんと。
荒木君ありがとうね。
家の家族皆此れが好きでねほんと目がないの朝昼晩此れでもいいぐらいに」
(それは幾らなんでも言いすぎだろ)
真田守の母親の冗談か本心か分からない言に心の中でツッコミを入れる連夜。
「いえ、何が好まれるか分かりませんでしたが喜んでいただけたならよかったです」
「ふっふふ、ありがとうね。
お父さんも此れが大好きでね、ほら見て見て嬉しそうだわ」
真田守の母親に言われ真田守の祖父の方を見て見るが特段何か変わった様には見えなかった。
連夜にはさっきから厳つい顔のまま表情が変わらずお茶を飲んでいる姿しか
(うん?真田の祖父の頭の後ろで何か動いている様な…)
連夜は真田の祖父をよく見て見ると後ろに無造作に纏めてある髪だけがどうゆう原理か左右に揺れているのに気づいた。
(馬かこの人は)
連夜は真田の祖父の左右に揺れる髪が馬の尾みたいに思えまたもや内心ツッコミをいれた。
そんな賑やかな真田家の居間だが
(それよりさっきから真田の姿がないがもしかして家にいないのか)
家に通されたのはいいが肝心の約束の相手である真田守自身が姿を現さない。
どうしようか悩みだす連夜、その時居間の襖が開いた。
「ねぇお母さん。
昨日も言ったけど今日僕の同級生の人が家に来るから来たら教えて……」
戦闘機がプリントされているゲームのTシャツに黒い短パン眼鏡を掛けた真田守が入ってきた。
「…って荒木君!?」
入ってきた真田守は連夜の姿を確認すると
驚き大きな声で叫んだ
「守、そんな大きな声をものではない。お客さんの前だぞ」
茶をすすりながら真田の祖父が真田に注意を促す。
「あっそうだねごめん荒木君……いやいや!そうじゃなくて!昨日行ったよね荒木君が来たら教えてって!?それなのに何で教えてくれないうえ皆団欒してるの!?」
今にも地団駄を踏みそうなぐらい真田は興奮している。
「だってぇ~、守が誰かを家に呼ぶなんて珍しいんだもの~せっかくだからお母さんお話がしたいなぁと思って~」
真田の母親はそんな真田守にも慌てずのほほんとした態度である。
「あっそうそう守。
荒木君が親切にもいきなり団子を持ってこられたのよ~」
いきなり団子と聞き真田守も連夜から自身も好物のいきなり団子を貰ったと知り
「本当!?」
真田の母親と兄妹達と同様に喜んだ。
(流石は家族喜んでる顔がそっくりだな)
「わざわざありがとうね荒木君!…ってじゃないよ!?も~~!!」
まさに暖簾に腕押し全然母親に話が通じないので真田守はとうとう唸りだした。
「はぁ、荒木君、此処に居てもなんだし僕の部屋に行こうか」
このまま此処に居たら何時までたっても話が進まないので真田守は疲れたように溜め息を吐くと連夜を促した。
「え~お母さんねまだまだいっぱい荒木君とお話ししたいな~」
「僕も僕も!」
「「私も!!」」
それに対し真田の母親、弟妹ともに抗議の声を上げる。
「したいな~じゃないよ。
いい!今から僕と荒木君は大事な話があるんだから邪魔しないでよ!」
真田守はそんな家族に対し頭が痛そうに頭に手をやりながら注意する。
「「「「ブー!ブー!」」」」
真田の母親と弟妹頬を膨らませ抗議のブーイングをしてきた。
「ブーブーじゃないよ。
はぁ、荒木君行こう」
「あ…ああ。
では折角のご好意すいませんが失礼します」
連夜は真田家族に一礼すると席を立ち居間から出ようとしている真田守の後に付いていこうとした。
「守」
すると今まで我関せずと云うように静かにお茶を飲んでいた祖父がまるで今から重大発表するような重い声を発した。
その重さを感じる声に場は一瞬にして静寂に包まれる。
その重い空気に連夜や真田守が固唾を飲む。
「な、なにお爺ちゃん」
(……………ゴク)
真田家族との祖父は静かに連夜達の方に顔を向けカァ!と勢いよく眼光を光らせる。
(いやいやアニメみたいに眼光光ってんだけど、いったいどうやってるんだよ)
「……私も荒木君と話したいのだが」
真田の母親、兄妹と同じ様な事を言い出した。
シリアス空気が一瞬にして消えさった。
「もーー!お爺ちゃんまで!」
真田守はもう付き合ってはられないと連夜を連れて自分の部屋に向かった。
部屋に向かいながら
「まったく!皆は!」
連夜の前で家族コメディーみたいになったので気恥ずかしさとちょっとした憤慨が混じり頬を赤く染めプリプリ家族の態度に怒る様子を見せる真田守だが連夜には本気で怒っている様には見えく真田守と家族の団欒や絆が垣間見え微笑ましく思った。
「いい家族だな」
「え?……うん。
えへへへへ」
真田守は連夜の自分の家族に対する評価に今度は別の意味で頬を赤く染め頷くとよっぽど嬉しかったのかはにかんだ。
(ほんとうに嬉しそうだな)
見ているこっちの顔が緩むぐらい真田守は幸せそうに笑う。
連夜と真田守は真田守の自室に入る。
真田守の自室は畳の和室であり中には勉強机に服をしまう桐タンスにTV、大きな棚が二つありその一つには漫画やゲーム雑誌が所狭しと入っておりもう一つにはTVゲームに携帯ゲームにVRゲーム、様々な種類のゲームが所狭しと入っている。
物は多いが足の踏み場の無い程散らかっていると云う事はなくきちんと整理整頓されている。
部屋に入っ当初多種多様なゲームの多さに驚いていた連夜だが部屋を見渡した時何故か他のどんな物よりも気になるあるものを見つけた。
(あれは…)
連夜がそれを見ている間真田守は押し入れから座布団を2つを手に取ると一つを連夜に渡した。
真田守と向かう合うように座る連夜は先程から気になっていたことを聞いた。
「なぁ真田」
「うん?どうしたの荒木君?」
「その、なんだ大したことじゃないんだが…あの机に置いてある」
此れはあくまで真田守のプライベートだ。
連夜は気にはなるものの気軽に聞いていいことか分からず歯切れの悪い
連夜は勉強机に置いてある一枚の写真が入っている写真立てに視線をやりながら言う。
真田守は歯切れの悪い連夜に不思議そうにしながらも連夜の視線の視線の先を辿ると
「ああ」
連夜の態度に納得し軽い微笑みを浮かべた。
真田守はおもむろに立ち上がると勉強机の方に歩き上に置かれている写真立てを壊れ物を扱うように優しく手に取った。
「荒木君これはね昔の小学三年の時の写真なんだ」
真田守は写真立てを握りながら懐かしく憂いを帯びた表情をする。
連夜にはそれがまるで昔の残滓を辿っている様に見えた。
写真には真田家族道場を背景に二人の少年が写っていた。
写真に写る少年二人は胴着を着ており今が本当に楽しそうに穢れなど知らないかの様に無垢に笑っている。
「荒木君。
この写真に写っているのはね、僕と木戸…」
真田守はそこまで言うと首を振り
「いや、僕の始めてで大切な友達、健哉君なんだよ」




