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木戸健哉

産まれたのは何処にでもあるごく普通の一般家庭だった。

そこいらの奴等と同じ様に優しい父さんと母さんに愛されながら三人で住むには丁度いい小さい一軒家で平和で平凡な生活を過ごしていた。

小さい俺はこの風景が当たり前でずっと続いていくものだと思っていた。

…いや違うな当たり前過ぎて思いすらしなかったな。

転機が訪れたのは俺が小学三年の頃だ。

それはあまりに唐突であり最悪で最低な出来事であった。

母親の不倫が発覚し俺の平和で平凡な家庭は一気に瓦解したのだ。

今にも明確に思い出すのは朝昼晩に関わらず何時終わるかも分からない両親の言い争う声。

それは幼い俺にとっては恐怖を感じるものであった。

まるで業火を纏う悪鬼な顔と飛び交う怒号。

観ているだけでまるでその業火に俺まで灰も残さず焼きつくされるんじゃないかと思い震えていた。


結局最後は母親は家を出て不倫相手の所に行き家には俺と父親だけが残った。

父親は当初は母親が居なくなり急な環境の変化に戸惑う幼い俺に心配かけないように

「大丈夫だ父さんが健哉のことは絶対に守るからな」

微笑んでいた。

戸惑い此れからの事を不安に感じていた俺にはその父親の表情と言葉に母親が居なくてな優しい父親が居ると安心を感じた。

しかし父親自身も微笑んでいたが俺と同じぐらい愛していた妻が他所に男を作り居なくなったので精神的にきていたのだろう、今までタバコも酒もギャンブルもしたことがない人だったのに一時の安寧の為か手を出し次第に依存し溺れていき終いには仕事も辞めてしまいやがった。

そんな溺れた父親は俺に対する態度も徐々に変化していった。

優しかった姿が成りを潜め次第に俺にお前のせいだとあたるようになっていきやがったんだ。


俺はそんな情けない父親を見続けている内に次第に父親に対し増悪を抱くようになった。

自分では現状を変えようとすることもせずタバコ、酒、ギャンブルただ何かに頼り依存しやがる。

前に進む事の意志さえ抱く事を辞め逃避しやがる父親の姿が情けなく哀れに思いこんな奴には自分は絶対にならないと想った。


そんな俺は自分自身の変えようがない現実に対し嫌気がさした結果俺自身が選んだのは現実から逃げるようにケンカに手を出しストレスを発散させる事だ。

だが幾らケンカでストレスを発散させようと現実は何も変わりはしねぇ。

当たり前だ成らないと想いながらも俺がしているのは父親とは違う方法、ケンカで現実から逃避しているのだからな。

子は親に似ると云うがまさしく同じ穴の狢だ。

親が親なら子も子。

自分でも心の奥底では浅はかで何の意味を持たない無意味な事だとは自覚はしているさ。

しているが自分でもこの胸の奥底から抑えても抑えても沸き上がり荒れ狂う怒りの炎を抑えることはできねぇ。

……そしてまたそんな情けない惨めな弱い自分にも怒りが沸いている。

なんて無様で情けねぇ事だ。


そんな変わらなく下らねぇ生活を過ごしていた時だ仮想現実にフルダイブする画期的なゲームが発売されると知ったのは、現実ではないだがもう一つの現実としてある仮想世界、もしそれが本当でこの変えようのなく救いのない現実から離れられるなら俺は悪魔にだって魂を渡してもいいそんな想いだった。

興味を引かれた俺は必死にそれこそ学校を休んででもバイトし金を貯めた。


認めたくはないが幸いなことに両親が勉強ができた人達だったからか俺もその血を受け継ぎ周りの奴等よりは遥かに勉強は出来たしテストも満点が当たり前だった。

そのせいか俺の素行の面を学校側が何か言うことはなかったしバイト先も薄黒い俗に言うブラックな所なので見た目中学生の俺の年齢を疑うこともましてや聞くこともなかった。


そして目標金額まで貯めた俺はフルダイブに必要なデバイスを買いジェネティクノーツ も発売日当日に買うことができた。

待ちに待った時だ購入した俺は直ぐに家に帰り自室に戻ると早速プレーを始めた。

実のところプレーヤーネームと今後使っていく武器については既に決めていた。

プレイヤーネームシド、武器は弓だ。

このシドと言うのは父親の昔の名字つまるところ結婚前の旧姓である。

弓に関しては父親が学生の頃しておりまだ両親の中が健全であった頃に父親に教えてもらったことがあるからだ。

別に心の中では増悪しながらも本当は父親に憧れていたと云う事ではない。

此れは俺の父親に対する改めて掲げる意志表示であり誓いであり自分への戒めだ。

俺は今の弱いあんたを認めない、情けなく惨めに成る前の昔の頃のあんたを超えて見下してやる。

それと同時に今のあんたと同じにはならないと云う。


ジェネティクノーツにログインして直ぐに俺の心は震えた。

現実と違わぬリアルな感覚まさに噂に違わぬもう一つの現実に。


フィールドに出て様々なモンスターを薙ぎ倒しレベルを上げ強くなる実感を感じていた。

(ああ、俺は強い強いんだ情けねぇあいつとは違ぇんだ!)

……だがそれは結局はゲームの中だけの話し幾ら強くなろうがログアウトすると変わらぬ現実に戻され結局はいくら強くなろうがゲームの中だと云う虚しさを知らしめられた。

そんな虚しさに苛まれていた時だそいつに出逢ったのは……いや出逢ったと言うよりは俺が一方的にそいつを見つけて見ていただけでそいつは俺の事など気付いてすらなかったがな。


そいつは無謀にも草原エリアの一角に出現するボス級モンスター蛇頭の尻尾と背中からエンチャントの数と同じ炎、水、風、雷、土、闇、光の七種の力を帯びた七匹の蛇を生す双頭の魔犬オルトロスと対峙していた。

本来なら一人では絶対に不可能と言っても過言ではないレベルのモンスターであり最低五人以上のチームを組んで戦うレベルの相手だ。

そいつがやっているのは無謀で無茶自殺行為に他ならない、そいつ自身それは理解している筈だそれなのにそいつはゲームの中だと言うのに必死にまるでそこに自分の全てを命を掛けているみたいに戦っていやがった。


結局そいつは当然のごとくオルトロスにやられた。

他のプレイヤーからしたらそいつの戦いは無謀なだけで取るに足らない話しであろう。

だが俺には俺の中では今でもその情景は鮮明に写し出されている。

そいつのプレーが凄かったのもあるが何よりもそう……戦うそいつの目があまりにも印象的だったからだ。


そいつの目は観ている俺の心を揺さぶられる程に現実に苦しみ悲しみ痛みを抱えながらもにそれに抗い続ける輝かんばかりの強い意志を感じらるものだった。

(ああ…なんて、なんて惹き付けるんだろうか)


俺は現実世界でもこのゲームの中でさえ戦うのは自分より弱いものつまり勝てる相手だけとだった。

本能的に自分より強い奴と戦っても負けるだけ自分が惨めになるだけと理解していたからだ。

なのに、なのにだそいつは俺と同じ様に現実を拒否している目をしながらも自分より遥かに強い相手に挑み懸命に必死に戦っていやがる。


他の奴からしたらそれだけの理由でと嗤うかもしれない、実際俺だって驚いているさだがなそれでも、目を惹かれたそんだけの理由であろうとそいつのアラヤの生き様に目を惹かれ憧れたんだ。


『シドは知らないし此れからも知ることはない。

シドが抱いた感情それは奇しくもユエがアラヤに抱いたものと似るものであった』


それからの俺は敗けると分かっていながらも自分よりも強い相手にも必死に挑むようになった。

勿論俺がやっているのはアラヤの奴と同じ無謀で無茶自殺行為だ。

負けることが遥かに多かった。

だがそれでも確実にレベルもステータスもプレイヤースキルも高く強くなっていった。

それは弱いモンスターを相手にし勝利し得るものよりも遥かに俺に充実を与えるものであった。

そして月日は流れ俺は神威開放(アルティマ)を獲得することが出来た。


強くなった俺は自分の力を確かめるためにオリュンポスギルドのギルド長でありゼウスの神威開放(アルティマ)保持者でありジェネティクノーツ最強の男と呼び声が高いラインハルトに勝負を挑んだ。

俺には正直勝つ自信しかなかった。

最初の頃よりは格段に強くなったし神威開放(アルティマ)も獲得した勝てる、いや絶対に勝てると思い挑んだ。


だが……結果は言い訳も出来ない程の惨敗だった。

俺の慢心を弁解の余地がない程見事に打ち砕かれた。

今までのは俺の強さはなんだったのか、幻だったのかそう想う程に徹底的に打ちのめされた。

それ程までにラインハルトと云う男は俺なんかめじゃないくらい途方もない程に遥かに強い男だった。


地面に這いつくばる俺に向けラインハルトは驚くべき事に自分のギルドに入らないかと誘いを掛けた。

その時ラインハルトの側にいたアンは目茶苦茶驚き止めるようラインハルトに注告するがラインハルトはそれに苦笑しながらも俺に勧誘を続けた。


俺は勿論そのふざけた勧誘に怒った。

馬鹿にされてると感じたからだ。

だがラインハルトは怒る俺に笑顔で否定し俺自身と俺の強さが欲しいからと告げた。


「俺の強さだと…今お前に惨敗したばかりの俺の強さが欲しいだと、嘗めてんのかてめぇ!」


「別に嘗めてはいないさ。

君は確かに私に負けを期したが君の強さは本物だ、その強さは評価するべきものだ。

それに君が私に負けたのは当然の結果だ」


「な!」


「私は君より強いからね」

ラインハルトは照れる様子も嘲る様子もなくただ事実だと真顔で言いやがった。

俺はラインハルトのその顔と言葉に思わず開いた口が塞がらなく唖然とし敗北の怒りすらも何処かに消え失せた。

それ程までに真顔で言うラインハルトが衝撃的だった。


「ハッハ…ハハ、アッハハハ!」

暫く沈黙していた俺だが次第に何だか可笑しさが込み上げ笑った。

「てめぇで土つけた相手に勧誘した挙げ句自分が勝つのは当然だと!正気かよてめぇ!」

俺の言葉に怒るアンを他所に

「ふむ。

私は至って正気だが」

心底自分は正気だと云うラインハルトの顔に

「そうか、そうか。

……ああいいぜ、あんたのギルドに入ってやるよ」

「そうか、では此れからよろし……」

「だがな」

「うん?」

「覚悟しとけ俺はいつかてめえよりも強くなっててめえを倒してやる!」

「ふっふふ。

ああいいだろう、その時を楽しみに待っているよ」


こうして俺は二人目の憧れの男を得た。

アラヤの生き様とは違う何者にも屈しない頂点の強さを持つ男にだ。


それからの俺はオリュンポスのギルドの幹部とし様々な高難度クエストをギルドとして受け更に強さを得ていた。


アラヤの事は噂で聞いていた。

ソロでやっている生け簀かない奴がいるなどばかりで良い噂など殆どなかったがな。

それでも誇らしい気持ちだった。

俺はオリュンポスギルドに入りチームとして行く道を選んだが憧れの男が誰ともつるまずソロであり孤高の強さを持ち続けているんだと。


だからこそ許せなかった。


俺の部下からアラヤにPVPでやられたと聞いたときは怒りを顕にしながらも内心喜びがあった。

昔ならいざ知らず今になっては五大ギルドの一角たるオリュンポスとPVPをする勇気がある者はいなかったのだから、……その戦いの理由を知るまでは。


アラヤはアルテミス、少女を守るためにPVPを受けたのだ。


ふざけるな!と思ったあの自分が強くなるために自分の為だけに戦っていた男が誰かを庇う為に戦っただと!

その時俺の脳裏に最悪な光景が写し出された。

それは酒、タバコ、ギャンブルに依存し弱くなった父親とアラヤの姿が重なって見えたのだ。

(違うあいつはあんな目をしていた男が何かに依存しなきゃ生きられない男と同じな訳がない、あんな男に成るわけがない!)


それは一方的で独善的な俺の身勝手な願望である事は自分でも分かっている、分かっているが俺はそう願わずにはいられなかった。


だからこそ俺はアラヤを探しアルテミスを侮辱してまでPVPを仕掛けた。

結果は惨敗だった。


昔の自分の為だけに戦っていたアラヤに敗北したのならラインハルトの様にいつか越えてやると言うことが出来た。

だがあいつは自分の為ではなくアルテミスの為に戦い俺を倒したんだ。

(嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!!)

認められなかった、認めたくなかった。

俺の憧れが泡のように消えていきそうで、俺が本気で心の底から強くなろうと決意した想いさえ消えてしまいそうで。


その後の事はあまり覚えていない。

聞いたところによればあの後アラヤはラインハルトと戦い敗北したらしい、それも完膚なきまでに。

それは当然の結果だと思った今の弱くなったお前がラインハルトに勝てる以前に迫れるものかと。

だが昨日、アラヤが再びラインハルトとPVPをすることが分かった。

それもアラヤから言い出したとの事だ。

それを聞いた瞬間俺の心は真っ黒に染まりぐちゃぐちゃになり激しい黒い炎を宿し怒りに包まれた。


俺もラインハルトに負けた時はいつか倒してやると宣言したが今だに再戦を申し込んではなかった。

やはりいくら昔よりはましに強くなったとはいえ現状ではまだまだラインハルトには及ばないと分かっていたからだ。


なのにあいつは圧倒的な敗けをきしたと言うのに僅か数日で再戦を決意し五大ギルド長の奴らの目の前で宣言しやがった。


おそらくアラヤが戦うのはアルテミスの為だろう。

俺にはまったく理解が出来ない何かに依存することは弱さでしかないのに。


(ムカつく!ムカつく!ムカつく!)


俺は自分でも抑えられない怒りをぶつけるため現実の世界で真田守に暴力をふるっていたら誰かに腕を掴まれた、最初は誰だか分からなかったがあいつの目を見た瞬間何故かアラヤが重なった。

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