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ルビィとユエ


やぁ、こんにちは語り手だ

己よりも遥か高みに座っする男に敗けられない想いを背に己の全てを掛ける闘いが今定められた。

定められし1ヶ月後の舞台でアラヤはラインハルトに勝利の栄光を掴みその先にある己の

本懐を遂げる事が出きるのか。

……なにはともわれ1ヶ月後そこで全てが決まる。


オリュンポスギルドホームクロノスタシスを後にしたアラヤはルビィにラインハルトとのPVPが成立した事についてメッセージを送った。

メッセージを受け取ったルビィからの返信は『そうかい。

ユエの事は私に任してあんたはラインハルトとのPVPに集中しな』と来た。

アラヤはそれに『すまないルビィ。

ユエの事はラインハルトに勝利して決着をつける。

それまでユエの事を頼んだ』と返信し終えるとこの日はログアウトした。



~ルビィの店~

「『すまないルビィ。

ユエの事はラインハルトに勝利して決着をつける。

それまでユエの事を頼んだ』…だってさ。

クックッ。

しかしなんだねユエの事頼むってまるで恋人や旦那みたいな言い方だね~。

その辺あんたはどうだい~」

ルビィはクロノスタシスに向かう前アラヤが座っていたカウンター前の椅子に両手を握りしめ膝の上に置き頭から湯気が出そうなくらい白い肌を耳まで赤染め顔を俯かせて座るユエにニヤリと口を歪めからかう。


「べ…別に私とアラヤ君は恋人でも夫婦でもないですし、どうだと言われましても……その…あの…」

ユエは消え入りそうな声で否定するが自分でも考えが纏まってないのか後半はしどろもどろになる。

「まったくあんたは…。

アラヤが一緒にいる時は平然な態度の癖にいないとなればこの様だ」

そんなユエに呆れるルビィ。

「うにゃーー!だって!だってぇ~!」

顔を上げまだ赤く染まる顔のまま猫の様に唸るユエに右手を向け

「だってぇ~じゃないよ、まったく」

「あいった!」

ルビィはユエの額にでこぴんをする

「あんたもアラヤももどかしいったらありゃしないよ、間に入る私の身にもなって欲しいもんだ」

「………ご迷惑をかけてすいません」

ジーとルビィから抗議するよう半目で睨まれると流石にユエもルビィに今現在の様に自分とアラヤの間に入ってもらい世話になっている自覚があるのでルビィに申し訳なく思い罰が悪そうな顔をし謝罪した。


「で、どうするんだい」

ルビィは額を抑え謝るユエを見ながら質問するが何の事か分からず首を傾げるユエ。

「この先のことさね」

「この先…」

「1ヶ月後アラヤはラインハルトとPVPに勝利してユエあんたとの決着をつけるらしいけどユエ、肝心のあんたはどうするんだい。

アラヤがラインハルトに勝利したとしても肝心のあんたがアラヤに会う気もましてや会ったとしてアラヤが何を言うのかは私にも分からないが言われるあんたがアラヤの言葉を聞く気がないなら本末転倒全て無意味さね」

ユエはルビィの言葉に吟味する様に目を伏せると静かに椅子の上で膝を抱えだした。

「ルビィさん、私ね…分からないです」

目を伏せてルビィの問いに答えるユエはまるで波のたたない海の様な静かで今にも消え入りそうな雰囲気をかもしだしていた。

「アラヤ君がラインハルトさんに勝って私に何を伝え示そうとしているのか…私も何となくですが分かってはいるんです。

だけど私自身がそれに対してどうしたらいいのかが分からないんですよ。」

ユエの中ではアラヤはラインハルトに勝って不可能な事はないだからユエにも頑張って生きて欲しい大雑把ではあるがだいたいこの辺りの事だろうと思っていた。

ユエにしたら純粋にアラヤの気持ちは嬉しいものの、ではそれを実際に言われた時素直に受け取る事が出来るのかそれはその時になってみなければユエ自身にも分からない。

「ごめんなさい。

折角ルビィさんが気を利かせてくれたのに」

ユエが首を小さく横に傾け儚い笑顔で自分の為に行動してくれたルビィに感謝を伝える。


「……私はアラヤと話している最中あんたが突然物音をたてるもんだから気づかれないかひやひやしたけどね」

そんな儚く笑うユエの表情を見たくないのかルビィはユエを茶化すようにクックと可笑しそうに笑う。

ユエは笑うルビィを見てさっきまで雰囲気を変え頬を膨らませると私怒ってますと抗議する。

「あれは急にルビィさんが私がアラヤ君とグランドクエストを受けるのを心底嬉しがってるとか言うからじゃないですか」


「おやおやこの娘は何を言い出すかと思えばまったく心外だね~。

私は嘘は言ってない筈なんだけど」

ルビィは私怒っていますと云うユエに悪びれもせずニヤニヤする。

ユエは抗議はするもののルビィが言っていることが事実ではあるので、うっ!と詰まった表情になるが

「た、確かに本当ですけど!それでも何も本人の目の前で言いますか普通!」

「でもそのお陰でアラヤの心の内は知れたんだだから万々歳じゃないか」

その時のアラヤの言葉を思い出し恥ずかしさと嬉しさでユエは顔を赤く染める。

「う~~!それはそうですけど…」

確かにルビィのお陰ではあるが納得できるかと云えばそう簡単に出来ないのが乙女心である。

ユエもそこのところは理解はしているので拗ねる様にルビィに抗議することしか出来ない。


そう今ユエとルビィの会話で分かるように何を隠そうあの時ルビィがアラヤにユエへがアラヤに抱いた気持ちを話した時にあった物音の正体はユエである。

つまりあの時のルビィとアラヤの会話でアラヤが宣言した『ルビィ。

俺は…もう一度ラインハルトに最強に挑戦する。

そして今度こそ勝利しこれから先どんな敵が訪れようともユエを必ず守れることを証明する。

そしてユエに俺の想いを伝える』

事はユエ本人に知られていた。


「アラヤはああ言っていたけどユエ、あんた自身はアラヤの事はどう思っているんだい」

ルビィはユエの心の内アラヤに対する感情を分かっていながらもユエ本人に問う。

「…私はアラヤ君の事が好きです。

友愛でも親愛でもなく異性としてアラヤ君と云う一人の男性が好きです。

今にして思えばアラヤ君に初めて会ったあの日あの時に恋に落ちたのかもしれないです。」


「可笑しいですよね。

数年、数ヶ月それこそ1日時間を共に過ごしたわけでもないうえそこにあるのはゲームの作られたアバターなのに好きになるなんて」

「だけどあんたは短い時の中アラヤに惹かれたんだろ」

「はい。

まぁあ恋に落ちた、一目惚れと云うか好きだと自覚したのは随分先のことなんですけどね。

でも其処からなんですアラヤ君の事が気になりだしたのは」

ユエは頬を仄かに紅葉させ照れ臭そうにアハハと笑うと恥ずかしがりながら

「出会ったその日からずっとアラヤ君の事を考えていました。

アラヤ君は今どんなクエストを受けているのか、どんなモンスターを倒しているのか、どんな人達と冒険しているのか気になって気になって仕方なかった。

正直アラヤ君を見かけるたびに声をかけたい気持ちはありました。

でもあの時の事をアラヤ君は覚えているのか知らないと言われるんじゃないかなによりも弱い私ではアラヤ君に何かを背負い苦しんでいるアラヤ君に実際に会ったとしてどうしたらいいのか分からなくて怖くて心の中で震えていた」

ユエの心情を聴きながらルビィは思う。

(不器用な娘だね~。

手の届く距離に逢える距離にいながらも自分に自信が持てないばかりかアラヤの事を気に掛ける…なんて不器用で優しい娘なんだい)


「そんな中でした私がアラヤ君を好きだと自覚したのは。

ルビィさんも知ってるように出逢いから一年半以上たったあの日、今おこってる全てが始まった運命の日とも言える日、私はオリュンポスのギルドの人達から逃げていました。

逃げてる最中に意としたわけでも計画をたてていたわけでもなく偶然にもロックゴーレムと戦っているアラヤ君を見付けました。

私は逃げている事も忘れアラヤ君の戦う姿を見ていたら何故か今まで抱いていた不安や恐怖が嘘のように消えさって気づいたらアラヤ君に声をかけていました。

その後です。オリュンポスのギルドの人達から助けてもらいアラヤ君とまた会う約束を交わした瞬間に私の中に塞がれていたアラヤ君への気持ちが堰を切ったように溢れ自覚したんです。

ああ私はこの人のことがアラヤ君の事が好きなんだと。

ふっふ、急にですよ自分でもビックリしました。

なんか私って単純なんですかね」

ユエはアハッと自嘲気味に笑う。

「いいんじゃない。

恋に落ちたのが一目惚れだったとしても結局はそれも恋の始まりの一種だ。

それに元から人の感情なんて複雑なもんさ、自分でも何がきっかけで誰かに恋するなんて分かったもんじゃない」

自嘲気味に笑っていたユエだったがルビィの諭す様な言葉が身体の中に染み渡っていた。

「だからねユエあんたがアラヤを好きだと想う気持ちは恥ずかしいものでも照れるものでもない、この人が好きでよかったと誇っていいんだよ。」

「ルビィさん…」

「それに私は安心したさあんたの話を聞いている限りじゃあ吊り橋効果みたいに恐怖の中助けられたからその時感じた高鳴りが恋だと勘違いをしているわけでもなさそうだしね」

ユエはルビィに対し頷くと

「はい。

この気持ちは勘違いなんかじゃなく私にとってとても大事な本物の気持ちです」

「そうかい」

ユエはルビィの自分を気遣う気持ちに嬉しく想い微笑むと

「ルビィさんありがとう。

私ルビィさんに出逢えて本当に良かった」

心からのお礼を告げる。

礼を言うユエにルビィも微笑む。

「さて、ルビィさんに発破を掛けられたからには私もこうしちゃいられないです。

1ヶ月後ラインハルトさんに勝利したアラヤ君に対しどう応えるか覚悟を決めなくちゃ!」

ルビィは椅子からおり胸の前で頑張るぞ!と握り拳を握るユエに微笑ましく想い薄く笑った。

「そうさねユエ。

アラヤがあんたの為に覚悟を決めた様に逆にユエあんたがアラヤの為に覚悟を決めなくちゃね」

「うん!私頑張るよ!」

ユエは力強く頷いた。

その姿をルビィは愛おしいものを見るように微笑ましく見守りながらまったくこの場に関係ないある一つの想いに駆られていた。

(…悩みを抱える少女に悩みを抱える少年が出逢い引かれ愛、苦難を乗り越えながら答えを見つけお互いを想う。

ああ、まさに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ユエとアラヤには悪いが此処までくると作為さえ感じるねぇ。

果たしてこれは最初から最後までアラヤとユエ二人の意思で決められた事なのか、それとも私やラインハルト、他の人達も含め全ての者が自分達の意思で行動している様に見せられているだけで誰かにそうさせられているのか)

ルビィはそんな訳はない有り得ないことな筈と分かってはいるのにルビィの本能が女の勘が警鐘を鳴らしていた。

まるで今までの全て過去、現在に限らず此れから起こる未来でさえアラヤとユエの二人の為だけに作られた物語の様だと。

(ラインハルト…私はユエやアラヤの為にもアラヤにはあんたに勝って欲しいとは思っているさね。

だけどその一方っもし本当に一人の少女の為に最強に打ち勝つと言うまさにハッピーエンドを序章する結果に成るようなら何か取り返しのつかない事が起きるんじゃないかと私の本能が勘が警鐘を鳴らしているさね。

……ラインハルトあんたならこの状況をどう捉えるさね)

ルビィは自分と同じ違和感を警鐘を持つラインハルトに心の中で問いかけるのであった。



だがまぁそれはそれとして

「ユエ」

「なぁにルビィさん?」

「アラヤの事を考えていたって台詞を口に髪の毛を数本咥え目を見開いた状態で言ってみてくれないかい」

ユエはルビィの指示に不思議そうに首を傾げるがルビィの指示通り口に髪の毛を数本咥え目を見開くと

「出会ったその日からずっとアラヤ君の事を考えていました。

アラヤ君は今どんなクエストを受けているのか、どんなモンスターを倒しているのか、どんな人達と冒険しているのか気になって気になって仕方なかった。

正直アラヤ君を見かけるたびに声をかけたい気持ちはありました。」

「ふむ。今度はアラヤの名前を何回か呼んでくれないか」

「?…アラヤ君アラヤ君アラヤ君アラヤ君アラヤ君」

「もっと低い声で」

「アラヤ君アラヤ君アラヤ君アラヤ君アラヤ君」

「更に低く遠くからアラヤを呼ぶように」

「アラヤ君アラヤ君アラヤ君アラヤ君アラヤ君アラヤ君」


(これはまた凄いね………)

ルビィは自分でやらせておきながらアラヤ君と連呼するユエを見ながら表情は冷静だが内心冷や汗が止まらなかった。

「これでいいですか?」

ルビィが黙ったのでもう大丈夫と思ったユエは髪を整えながらルビィに聞くと

「あ、ああ大丈夫だよ」

ルビィは吟味する様に深く目を閉じ返事をした。


(これを見たらアンのラインハルトに対する忠誠心も大概だか普通に見えるさね。

ユエ本人には自覚はなさそうだが……アラヤ惚れた弱みだ頑張りな)

ルビィはアラヤに対し思わず冥福を祈らずにはいられなかった。


ちなみにルビィは先程のユエをトーンキューブと云う声を録音できるルービックキューブ状のアイテムにユエに気付かれないように録音していた。

今度アラヤが死霊、ゴースト系のダンジョンかクエストを受ける時に対死霊、ゴースト系に有利なアイテムと称して暗闇の中使わせようと目論んでいた。


(暗闇の中自分の名前を呼ぶ低い女の声が聴こえたらさしものアラヤも…。

まぁ世話掛けたんだ此のぐらいは大目にみてもらわなきゃね…クックック)

その時を想像して愉悦に嗤うルビィを見ながらユエは

(ルビィさん何か楽しそうだな)

とまさか自分の声がアラヤに使われるとは思わず呑気な事を考えていた。


知らぬが仏とはまさにこの事である。

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