勝負形式
「ではアラヤ君。
PVPが決まったとこでだが早速PVPの勝負形式はどうする。
先のPVPでは勝負の決着を一撃勝負と決めたのは私だ。
なら今回のPVPの形式を決める権利は君にある。
だから今回のPVPの形式について全面的に君の要望を聞こうじゃないか」
ラインハルトは両肘を円卓に付け両手を組ながら勝負形式によっては自分が不利に成る可能性もあるにも関わらずアラヤに一切の躊躇いもなく余裕が感じられる態度である。
実際にアラヤやラインハルトは一撃勝負をしたがジェネティクノーツにおいてPVPは一つでしかない。
どちらかのHPがゼロになるか降参するかそれだけだ。
だが決着は全て同じだろうと勝負の方法に関しては如何様にも決められる。
先に攻撃が当たりその攻撃によりHPが減ったとされ決まる一撃勝負。
お互い妨害しながら決められた場所に先についた方の勝ちとするレース勝負。
特定のドロップアイテムを先に採取した方を勝ちとするドロップ勝負。
つまり完全決着以外に関してはHPがゼロになり決着がつくものではなくアラヤとラインハルトのPVPの様にプレイヤー同士の勝負形式にのっとり負けたプレイヤーが自主的に敗北宣言するしかない。
なので勝負が決した後に自分は負けていないのだと諦めの悪いプレイヤーが文句を言って勝負をなかったことにしないためにも独自の形式でPVPをする場合は公平な第三者をつけてからした方がいい。
ではそんななかでアラヤがラインハルト相手にいったい何の勝負を挑むかだが
(俺もラインハルトと同じジェネティクノーツ初期プレイヤーではあるがステータスやプレイヤースキルゲーム内の知識に関しては確実にラインハルトが上回っている。
普通の完全決着では間違いなく俺が負ける。
……なら考えるまでもなく最初から俺がラインハルトに勝てる可能性があるものは一つだけだ)
「ラインハルト。俺があんたに挑むPVPは一撃勝負だ」
アラヤはラインハルトを見ながらそう答えた。
周りもまさかPVPの形式を前にラインハルトに敗北した一撃勝負するとは思わず驚きの表情を浮かべる。
だがそんなかラインハルトだけはアラヤに対し驚いた様子もない。
「ほー。面白いことを言うねアラヤ君。
君は私に負けた勝負方法で私に挑むというのか、いやはや本当に面白い」
ラインハルトはアラヤに愉快そうに笑みを浮かべる。
アラヤは大抵なら一度自分が負けた勝負形式を言わない筈なのにそれには周囲の様に驚かずただ愉快そうに笑みを浮かべるラインハルトに対しある可能性が浮かんだ。
(…この男まさか俺が一撃勝負にすることを分かっていたのか?
……だが仮に読まれていたとしても俺がラインハルトに勝てる可能性があるのは一撃勝負である以上変更はできない)
アラヤはラインハルトの態度に内心訝しげに思ったが元より他の勝負では勝ち目がないと分かっているのでどのみち考えても仕方ないと考えを振り払った。
アラヤにしたら他の勝負方法ではどうしても長期戦になる可能性が高く時間がたつたびにどんどんプレイヤーの自力の差が出てしまう。
それに相手は最強の男、時間が過ぎる度にアラヤに掛かる精神の負担も尋常ではない。
なら一撃だけ当てればいいと云う短期決戦かつPAS【プレイヤーアシストシステム】の根幹にある人間の未来の可能性を実現させるTDシステムが一番有用されるのはプレイヤー同士の戦いその中でも一撃だけを当てることに専念すればいい一撃勝負なら他の勝負よりはまだましである。
「ああラインハルト。
あんたの言う通り俺はあんたに負けた一撃勝負であんたに打ち勝つ」
アラヤはラインハルトを見据える目を強くし自分の揺るがぬ意思の強さをラインハルトにぶつけた。
ラインハルトはアラヤから自分に対しての強い圧を感じた。
「ほー」
目を見開き感嘆の声をあげると笑みを浮かべる。
「いいだろうアラヤ君。PVPは一撃勝負で戦おうじゃないか。
……さて勝負形式は決まったとこで次に勝負の日程はどうするかだが」
だがそれに関しても初めからアラヤは決めていた。
「その事なんだが勝負を挑んだ手前悪いがPVPは今から1ヶ月後にしないか」
アラヤの学校は明後日から夏休みに入るのでPVPを先に延ばしたとしても時間にも余裕がある。
それにアラヤには今すぐラインハルトに挑んでも勝負の結果は目に見えていた。
なのでアラヤにしてみればラインハルトに挑むにしてもそれ相応の準備の期間が必要である。
なら1ヶ月より先ではと云うとそれでは五大ギルド会議に乗り込んでまでした意味がなくラインハルトを除いた他の五大ギルドから反感を買う恐れがあり折角ラインハルトが受理し他の五大ギルドも了承したにも関わらず無効にされる恐れがある。
それに何よりもアラヤ自身がこれ以上時間を掛けることは出来ない。
(あくまでラインハルトに勝つのは必要条件であり俺が求めるものはその先にあるユエの事だ。)
過程を求めすぎるあまり結果が疎かになるなら本末転倒である。
つまりアラヤにとってはこの1ヶ月が最低であり最高でもある定めた上限である。
これより下にも上にもすることはできなかった。
「1ヶ月か…」
アラヤの提案を顎に手を宛て吟味するラインハルトに周りで聞いていた五大ギルドの一角ブリテンのギルド長シオンとクオンがアラヤに問う。
「ねぇ、あなた分かっているのかしら?」
「そうよ、PVPを1ヶ月後にするその意味が」
「まったくもって姫達のおっしゃる通りだ。重要な五大ギルド会議に乱入し何をするかと思えば恥知らずにもPVPを挑み挙げ句の果てにはPVPを1ヶ月待ってくれだと、あまりに虫がよすぎないか」
自身のギルド長に呼応するようにシオンとクオンの後方に控えていたアーサーが非難する様な目でアラヤを見る。
確かにアーサーの言ってることは正しい。
普通ならばちゃんとした場でちゃんとしたルールのもと1ヶ月という提案をするのはまだいい、しかしいくら事情があろうともアラヤは自分の個人的事情で五大会議に乱入した上で勝負を挑んでおきながら勝負は1ヶ月迄待ってくれだこれには身勝手だと非難されても仕方がない事だ。
結局個人が大事な事であろうとそれが他にも大事な事かと聞かれればそうではない。
個は個、他は他でしかない。
アラヤにもアーサーがそう非難するのも痛い程分かってはいた。
普段なら何も背負うものもなくただ戦いリベンジしたいなどであるならアラヤも自分の事だけではなくラインハルトの事情も省みてPVPをきちんとした形で挑んだだろう。
しかし今のアラヤには例え他に理解されずともそうは言ってられない事情があり此れ以外には他に打つ手はなかった。
他の副ギルド長もアーサーと同じ意見なのかアラヤを呆れたように見る者もいればただジーと見る者、果てはそもそも興味すらないのか退屈そうにする者までいる。
各五大ギルド長も己が副ギルド長や側近と同じ反応するかと思いきやそれとは別のまったく違った反応を示した。
「アーサー少し静かにしなさい」
「いい子だから黙っていなさい」
シオンとクオンはアラヤを非難するアーサーを嗜めた。
「しかし姫様!」
尚もアラヤの行いについて非難しようとするアーサーに
「アーサー、あなたは勘違いしているわ」
「そうよアーサー…いえアーサーを含めあなた達、あなたもね」
シオンとクオンは各五大ギルド長の後ろに控える副ギルド長や側近を流し目で見ると最後にアラヤに視線を向けた。
勘違いと言われ困惑するアーサーやアラヤに
「別に私達はあなたの1ヶ月と云う提案に不服があってあなたに聞いたわけじゃないのよ」
「そうよ。
私達が聞いているのはあなたが今すぐではなく1ヶ月と云う期間を求めるその意味をちゃんと理解しているのかを聞いたのよ」
シオンとクオンが真剣な眼差でしそこまで言うと今度はジュウベエとマオが二人と同じく真剣な眼差しをし
「其処のツインズの言う通りだ坊主よPVPまで1ヶ月待ってくれってその意味分かっているのか。
言っとくが俺達ギルド長はアーサー達とは違う見解をしているぜ」
「ああそうだ。
そいつ等とは違い俺等はお前が言った言葉の意味をこう捉えているぞ。
一撃勝負なら1ヶ月あれば五大ギルド一角のギルド長でありジェネティクノーツ内最強の男に勝つことが出きると 」
ジュウベエとマオが告げるとシオンもクオンもリリアも同意見だと頷いている。
(流石は五大ギルド長だな)
アラヤも負い目があったので各五大ギルド長達もアーサーと同じ意見になるだろうと思っていたが完全に自分の言葉の真意を読まれており感嘆し目を見張ったが直ぐ様表情を戻し
「ああ。そういう意味に捉えてくれていい」
肯定の意を示した。
アラヤの肯定にしばし会議室に沈黙がおりたが
「「アッハハハハハ!」」
「「クスクスクスクス」」
「クックククク」
一瞬にして会議室を爆笑が包んだ。
マオとジュウベエは腹を抱えるように大笑い。
シオンとクオンは手を口元にやり可笑しそうに小さく笑い。
リリアは右手で帽子の鍔を下げ赤くなる顔を隠すと体をプルプル震えさせながら静かに笑っていた。
「最高だなお前!ついこの間惨敗した男に対し1ヶ月あれば倒せるってアッハハハハ!あ~可笑しい!」
マオが目尻に涙を浮かべながら円卓を右手でバンバン叩くと
「お前分かっているよな!ここまで言ったからには敗北はもとより準備不足だった実力が足りなかった、レベル差があったからと情けねぇ言い訳はできねぇぞ!何よりそこまでしといて負けるのかよと全てのプレイヤーからお前の地位、印象全てが地の底に堕ちるんだぞ!」
アラヤに敗北した結果起こり得る負債を伝えながら鋭い目をして後戻りは出来ないとアラヤの覚悟を問うた。
だがそれはマオだけじゃなくラインハルトも含め先程まで俺を非難する様に見ていた副ギルド長や側近、アラヤを除く此処に居る全ての者がアラヤに覚悟を問う様に見据える。
昔のアラヤならここでたじろぎ逃げていたかもしれないしそもそも人に関わろうとしなかったアラヤがこんな馬鹿げた真似は絶対に行いはしなかっただろう。
だがユエと出逢い過去、現在自分を取り巻くものに己が想いに気づかされた今のアラヤは違う。
(…ああまったくルビィの言う通りだよ。
確かに俺はユエに出逢い変わったみたいだ。
でも今の自分に悪い気はしないし逆にこれでよかったと思える。
これも全てはユエ、君のお陰だ)
アラヤは心の中でユエに感謝すると揺らぐことのない気持ちで真っ直ぐ前をラインハルトを強く見据え強く言い放った。
「負けた後なんて必要ない。
俺が見据えるのは自分の未来、ラインハルトあんたに勝利する未来ただそれだけだ。
俺は全て覚悟の上でこの場に立っている。
あんたはどうするラインハルト」
「へぇ!」
「「ふっふ!」」
「うん!」
「ほー!」
周りはアラヤから出る圧に覚悟が本物だと分かりその姿勢に感嘆な声をあげる。
そんな中アラヤに問われたラインハルトはアラヤの圧に愉快そうに口角を上げると座っていた椅子から静に立ち上がり右手をアラヤに向ける。
「いいだろうアラヤ君。
PVPは1ヶ月後、一撃勝負にて私は君を迎え撃つ」
此処に今二人の今後を左右する運命のPVPの日程が定まった。
ラインハルトが日程に関しても了承した後ジュウベエが手を上げ皆の注目を集める。
「日程も決まったとこで俺からちょっといいか。
お前等の戦いの場所なんだが前みたいに都市内でやられてもプレイヤーがたくさん集まり邪魔でお前らも戦いに集中できないだろう。そこでだ安心して勝負できなおかつお互いフィールドによって得意不得意がないよう公平をきすためにも場所は俺達の方で決めさせてもらえないか」
ジュウベエはどうだとアラヤとラインハルトに伺った。
「私は構わないが」
「俺も大丈夫だ」
アラヤとラインハルトが了承の返事をするとパン!と勢いよく両手を叩く。
「よし!じゅあ早速だが俺から一つ候補があるんだ。
フィールドも広く障害物も少ない荒野エリアの地平荒原でどうだい」
境間荒原
荒野エリアにあり周りは所々に岩があるだけの障害物も少なく地平線みたいに広がった荒野である。
周りの者もそこなら問題ないと同意を示しアラヤとラインハルトも問題なしと頷き此処にいる全ての者の了承を得たジュウベエは愉快そうに笑顔を浮かべるとついでとばかりにアラヤとラインハルトに一つの提案を行った。
「で物は相談なんだが、お前等には悪いと思っているが俺達からしたらこんな面白いこと俺達だけが見ることができるなんて勿体なくてな、だから当日は全プレイヤーが見れるようにライブ中継にしたいんだがどうだい」
アラヤにしてみたらどのみちユエにはラインハルトとのPVPを見てもらおうと思っていたし今さら他のプレイヤーが見ようと見まいと関係ない。
「私は構わないよ」
「俺も大丈夫だ」
「そうか!ありがてぇ!」
アラヤもラインハルトもジュウベエの提案に了承の返事をすると後はPVPの細かいルールの会談を皆で決め此処にアラヤとラインハルトのPVPの全てが決まった。
・PVPは一撃勝負
・勝負は1ヶ月後
・場所は荒野エリア地平荒原
・決着方法はあくまで攻撃が当たりHPが減った場合のみ
・アイテムの使用はお互い自由
・神威開放の使用は可
PVPの全てが決まりもう此処に用事のないアラヤは身を翻し会議室を後にしようとしたら
突如何者かに服をくいっと引っ張られた。
アラヤが振り替えるとそこにはアースガルズのギルド長のリリアがおり無言でアラヤの服を摘まみながらアラヤを見上げていた。
「……」
「…えーと、何か?」
「貴方、私のギルドに入らない」
無言で自分を見上げるリリアに戸惑うアラヤにリリアは口を開いたかと思えばまさかの何の脈絡もない突然の勧誘発言を行った。
「おいおい!早速抜け駆けすんなよリリア!こんなおもしれぇ奴逃してたまるかよ!
オレはお前が気に入ったぜ!オレのギルドにこいよ!ってか勿論来るの一択だよな!」
桃源郷のギルド長マオがリリアの勧誘に不服を言いながら此方に来るとアラヤの肩に手を回し自分もアラヤを勧誘しだした。
「あらあら、まったく野性的だこと。
あなたみたいな野性人に脅されてはこの方も怯えてしまうじゃない」
「本当ねぇ。急にそんなことを言われても怖いだけじゃない。
あなたもあの野性人の事は見なかったことに、いえ出会わなかった事にして大丈夫よ。
………ねぇ、ところであなた私達のとこに来ない盛大に歓迎するわよ」
「おいいい度胸だなぶりっ子ども。ええおい誰が野性人だって、てめぇら覚悟できてんだろうなぁ!」
ブリテンのギルド長のシオンとクオンも此処に来るとアラヤにぐいぐい勧誘を飛ばす二人を諌めたと思いきやどさくさに紛れてアラヤの手を握りしめると勧誘、と云うか最早誘惑じゃないのだろうか。
「おいおい、モテモテじゃあねぇか坊主よ、
両手に花処か全身に満開の花ってか、まぁなんにせよ美人に迫られるなんじゃあ羨ましいこったな。
ところでよ、こう言っちゃなんだがどうせなら俺の所に来いよ。
俺のギルドにはよ美人な奴等がわんさかだぜ」
右手を和服の内側に入れながら武蔵のギルド長ジュウベエはニマニマした顔を近付けながら先の三者と同じ様に俺を助けに止める処か先の三者をまるで挑発するかの如く勧誘しだした。
「おいおい!言い度胸だな顎鬚野郎!私達という絶世の美女が揃うなかてめぇの所に美人がいるからって勧誘しやがって、舐めてぇんのか、あぁ!」
「まったくですわね」
「失礼きまわりないですわね」
「無礼」
「アッハ、アッハハハハハ!こりゃあ失礼しちまったな!
アッハハハ!
だがな確かにあんたらは絶世の美女と言っても過言じゃねぇがよ、それでも家のギルドの奴等も全然劣っちゃいねぇんだよなこれが」
女性連中から恐ろしい程の殺意の籠った笑ってない目で睨まれるとさしものジュウベエもこれは自分の言い方が悪かったと反省するかと思いきや後半部分に挑発の様にも聞こえそうなことを言いだす。
そんなジュウベエ達の後ろの方では
「我らの姫達が至高です!」
「いや、でもでもリリア様が一番可愛い
ですよ~!」
「あらマオちゃんも可愛いわよ」
「馬鹿者!ラインハルト様こそ至高の御方だ!」
アーサーとヘレナ、サーシャ、アンが己がギルド長が最高であり至高だと言いあってる。
四つの大規模ギルドからのぐいぐいくる勧誘にただどうしていいか分からず困惑するアラヤ。
傍目に見れば目麗しき女性に囲まれるハーレム的展開…まぁ一人男は混ざっているがそれはそれで一部の女女性陣から喜ばれそうな状況。
外部に漏れれば間違いなくアラヤは嫉妬の嵐に巻き込まれるだろう。
ちなみにこの時此処には居ないアラヤに特別な感情を寄せるある一人のプレイヤーの少女が女の勘からか何かを察し背筋も凍る険しい顔をした。
「皆落ち着きたまえ、急な事でアラヤ君も困っているじゃないか」
そんななかラインハルトの制止の声が入ると皆が一斉にピタッと止まる。
(…まさか俺を助けてくれるのか。
勝負を挑んだ相手に頼むのはなんだが…頼むどうにかしてくれ)
アラヤは自分ではどうにもできずただラインハルトに願いを込める。
ラインハルトは静かに畏怖堂々とした面持ちで此方に来るとカッと目を開くと
「アラヤ君を勧誘するなら先に彼と関わった私の方が先だろう」
(お前もか!)
他の五大ギルド同様にアラヤへの勧誘に混じった。
そして暫くの間五大ギルドでは会議やPVPの事はそっちのけで何処のギルドにアラヤが入るかと言い合いが始まった。
(…そもそも俺は最初から何処のギルドにも入るきはないんだが)




