ギルド会議2
各五大ギルド長達はそんなにイベントに参加できない事が辛いのかズーンと効果音が付き添うなぐらい頭を抱えあからさまに落ち込んでいる様子のラインハルトを呆れた顔+反省しろよと思いながら見ていた。
「しかしこう言っちゃなんだがこの馬鹿に対してルビィさんが言うことも分かるな。
ムカつくが一応こんなんでも俺等の頂点に立つ男だ。
こいつが他の奴等に嘗められたら今はこいつに勝てない俺等迄嘗められてしまう。
はぁ、しっかしよ、此れが最強の男だとは普段のこいつの表面しか知らない奴等からすれば信じられないというか信じたくない姿だな」
マオがラインハルトの現状に嘆くと
「現実とはまさに非情」
リリアがマオの言葉に同意見だと頷く。
いや、リリアだけではなくアンを除いた各五大ギルド長及び副ギルド長、側近達も同意見だと頷いていた。
「まぁと言ってもだ、結局俺達もあの時のクエストがなければこいつの印象は一般のプレイヤー達と同じ様な泰然自若、無私無偏、不撓不屈の男だと思って今なおこいつの本性を知らなかったかも知れないしな」
ジュウベエがラインハルトを指差しながら苦笑すると周りも同意見だと頷いているなか
「ふむ?本性と云っても私は私なんだが」
ラインハルトだけはジュウベエの言葉や周りの態度に不思議そうに頭を傾げる。
「まぁ、本人は裏表を使い分けていると言う訳でもなく、素を出していて周りからの評価なんて自覚無しだがな」
「只の天然ですわね」
「そう呆れるほどのですね」
呆れた様に溢すジュウベエ、シオン、クオンに対し
「待ってくれ、私も周りから自分がどう見られているかぐらい分かってるつもりだ」
ルビィに指摘されたばかりなので心外だと口を挟むラインハルトに
「へぇ~じゃあ言ってみろよ自分が周りからどう想われてんのか」
ニヤニヤした表情でラインハルト自らの口で言わせようと意地の悪い事を言うマオ、気付けばマオだけではなくジュウベエ、シオン、クオン、リリアもにやついていた。
……リリアは表情の変化が乏しいのでよく見なければ分からないが。
しかしだ、此れはかなり恥ずかしい。
自分の周りからの評価を自分で言うのは下手したら自画自賛につながる。
高評価を挙げるならこいつ自分の事評価高過ぎと引かれるし、逆に低評価で挙げればこいつ保身にはしったなと見下される。
どっちを選ぼうと地獄である。
さて、ラインハルトと云う男はどっちを選ぶのかと云うと
「私が周りから抱かれている評価はジュウベエ君の言った通り泰然自若、無私無偏、不撓不屈にして全プレイヤーの頂点に立つ象徴だ」
一切恥じることも躊躇うこともなくそれが当たり前だと前者を選んだ。
ラインハルトの言葉を聞いた皆は開いた口が塞がらなかった。
いやアンだけはラインハルトの言葉に眼を輝かせて当然だと何度も頷いていた。
しかしだ、そりゃあ意地の悪い問答だったがまさかラインハルトがジュウベエが言った言葉に+して恥ずかしげもなく真面目な顔で言うとは思わなかった。
長い付き合いで他のプレイヤー達よりかは断然ラインハルトについて知っていることの多い五人のギルド長達であったがまだまだ知らないラインハルトの底の深さにある意味戦慄していた。
マオ、シオン、クオン、リリア、ジュウベエの五人がラインハルトの本性というか実態を知ったのはジェネティクノーツが始まって4ヶ月が過ぎた頃つまり現段階で五大ギルドと呼ばれる以前にギルド自体まだ作ってない時期で各々がトッププレイヤーと呼ばれる前の一般のプレイヤーだった時。
それは奇跡、奇運、天命と呼ばれるほどに唐突に後の五大ギルドのギルド長が偶然によりあるクエスト、パンドラクエストに集り挑んだ六人の物語。
「さて、こいつに対するPVPの件はこれで終りとしてさっさと本来の会議内容に戻ろうぜ」
ジュウベエが周りを見て提案すると他の者は了解だと頷いた。
「じゃぁ、」
ジュウベエが話し始めようとした瞬間、アンが自分にメッセージが来たことに気付いた。
アンはこんな時に誰だと思い会議が終わってから確認しようと思ったが何か予感というか今すぐ確認しなければ後で地獄が待ってるような嫌な悪寒がし皆に背を向けメッセージを確認すると送り主はルビィからであった。
「げっ!」
アンはルビィからのメッセージと云う時点で思わず大きな声をだしてしまい周りから注目を集めると
「あっ、ちょっとすいません」
自分に注目する皆の方を向いて謝ると再び背を向けメッセージの内容を確認した。
fromルビィ
今そっちにアラヤが行ってるから会議室まで案内よろしくね
この事は他の面子には内緒だよ
(はぁぁぁ!?何が案内よろしく内緒だよよ!?
お姉ちゃんいったい何考えているのよ!
とうとう頭可笑しくなったの!)
アンはルビィに対しかなり失礼な事を本人に聞こえたら本当に地獄を見るようなお仕置きを受けること間違いない事を思っていたら下の方にまだ何か書いてあることに気付き
(うん?まだ何か書いてある…)
見ると
姉の事を頭が可笑しいなどとのたまう不出来な妹にはお仕置きが待ってるからね
(よ、読まれてるー!?)
今度はルビィへの恐怖で顔を真っ青にし慌てふためきだしたアンに周りは怪訝な表情を浮かべる。
「アン大丈夫かい、もしかして何かおきたのかい?」
「だ、大丈夫ですラインハルト様!私の事などお気になさらず!」
ラインハルトが心配して声を掛けるとアンは振り返り全然大丈夫じゃなさそうな青ざめた顔で食いぎみに返事した。
「いや、全然大丈夫じゃないだろ」
アンの尋常じゃない様子に周りの気持ちを代表してジュウベエがそう告げる。
「大丈夫ですよ」
「いや、でもな」
「大丈夫と言ってます、抉りますよ」
頑なに大丈夫だと言い仕舞いには青ざめた顔のまま底冷えのする声で言い食い下がるジュウベエを睨んだ。
「何をだ!?」
此れには堪らずジュウベエもいや、マイペースなラインハルトとジュウベエの後ろに控える男性以外の男連中は皆下半身に嫌な恐怖を抱いた。
アンは取り敢えず無理矢理にこの場において冷静になるとラインハルトに何時も様子で
「ラインハルト様、会議の最中申し訳ございません。
急な案件が発生しました。
少し席を外しても宜しいでしょうか」
訪ねるとラインハルトはアンとの長い付き合いからルビィ案件だと察して苦笑した。
「構わないよ。しっかり案件を片付けたまえ」
「ありがとうございます。
では一旦失礼いたします」
アンはラインハルトに一礼すると会議室の扉から出ていった。
「なんだ?急な案件ってまさかまたてめぇんとこのギルドメンバーがやらかしたとかか」
アンが急に出ていくものだから胡乱な目でマオがラインハルトを見ながら言う。
周りの連中もマオと同じ気持ちでラインハルトを見ている。
「さぁどうだろうね。私にもアンが告げた急な案件が何なのかは検討もつかないよ。
しかしだ、ギルド関連ではないのは確かだよ」
ルビィが五大ギルドの会議中に下らない案件送るはずがないしルビィの事だからきっと此方の予想だにしない何かだと察しているラインハルトは冷静の中に微かに喜色の混じった表情を浮かべた。
ラインハルトとジェネティクノーツの中だけとはいえ同じギルド長として其れなりに長い付き合いからマオだけではなく他のギルド長も何かを察してはたがこういう時素直に言う男じゃないと云うのは分かっている。
「ふ~ん。あっそう」
これ以上は無駄だと追求はしなかった。
「ねぇ。
ずっと気になってたけどジュウベエ」
突然声を出したリリアに皆の視線が集まるなか波のない平淡な口調でジュウベエに問い出した。
「なんだ?」
「ハルアキはどうしたの」
「あら、そのことなら私達も気になっていましたわ」
「そうね、何時もは副ギルド長のハルアキさんがジュウベエさんと一緒に参加しているのに今日は別の方が一緒みたいだし」
「確かにそうだ。俺も気になっていたがハルアキはどうしたんだ、とうとう愛想でもつかされたか」
「ふむ。どうやら気になっていたのは私だけではなかったみたいだな。
ジュウベエ、ハルアキ君が居ないがどうしたのかね」
こういった場には呼ばれてなくても湧き出してくる男が居ないことに疑問を持つリリア、シオン、クオン、マオ、ラインハルトが口々にジュウベエに訪ねる。
確かに今この場に居る各五大ギルド長は自分のギルドの副ギルド長を連れている。
本来なら武蔵の副ギルド長であるハルアキこそがジュウベエの後方に控えているはずだが今この場に居るのはハルアキではなく上下黒の剣道着に首に【二対の白と黒の刀が交差するエンブレム】が描かれた水色のマフラーを着けた眠たげな表情の少年である。
皆一同にハルアキの所在を問うているが一つだけ言えるのはこの場にいるラインハルト以外の五大ギルド長、副ギルド長、側近達も含め皆がこの場に居ないハルアキの安否を心配して尋ねているのではない。
ハルアキが五大会議に出席せず皆が集まっている隙に何か仕出かそうとしてないかが心配なのだ。
何故ハルアキが其れ程までに信用がないかというとだがシンプルに云えば日頃の行いであり胡散臭い此れに限るのである。
そうハルアキと云うプレイヤーは姿、言動全てにおいて100人中99人がこいつ絶対裏で暗躍しているだろうと言うほど胡散臭いと云う男だ。
ちなみに残り1割は無垢で純粋なプレイヤーである。
ハルアキは晴明の神威開放保持者であるが他の神威開放保持者とは違い知っている人からすれば神威開放の名では呼ばれず腐れ外道、似非陰陽師、腹黒、愉快犯と言われている。
実際本人の目の前で言うプレイヤーもいるが。
「ああ。こいつはマサムネって言うんだ家の新人の中で一番の優良株だなんだ。
よろしくしてやってくれ。
で、あーハルアキなんだが、今あいつな体調を崩していて寝込んでいるんだ」
ジュウベエは頭を掻きながら罰が悪そうに言う。
「あいつが体調を?」
マオがハルアキが体調を崩すなんて信じてなさそうに懐疑的な表情を浮かべる。
「それは心配だな」
純粋にハルアキを心配するラインハルトを除き他の皆もマオと同じ表情を浮かべている。
体調を崩したと云うのに心配されるどころか懐疑的にされる、ハルアキの日頃の行いがどんなものか伺わせるものだ。
「あー何か家族で桃を食べてな、なんでかあいつだけあたったみたいなんだ」
「家族で桃を食ってあいつだけ具合悪くするって」
(桃ってたしか魔除け、厄除けの意味があったよな
やっぱりあいつ邪悪な分類にいる奴か…まぁそれよりもだ)
ラインハルトを除く皆は同じ様な事を思いながら
「ザマァ!」
「自業自得ね」
「そうね、日頃の行いね」
「これを機に反省すべき」
今まさにガッツポーズをしそうなぐらいかなり嬉しそうであった。
無理もない皆ハルアキには今まで散々迷惑を掛けられたからだ。
ジェネティクノーツ内にはルビィが使うキセルと同じ様に嗜好品に属するアイテムがありその中には現代で言うとこのジョークグッズつまり悪戯目的に使えるアイテムがある。
何故運営がそんな物を採用したのかは不明である。
ジョークグッズには様々な物がありプレイヤーの臭いをカメムシの臭いに変える物や服装を自在に変える物。
食べ物を激辛に変える物など色々ある。
普通のプレイヤーは冒険には役にはたたないので好んで集めようとしないがハルアキは違う。
逆にコレクターの様に収集し色んなプレイヤーに平然と使いまくる。
しかもそれだけでは飽きたらずその内容を新聞にしジェネティクノーツ内に配りまくる。
ちなみにこの新聞は意外にジェネティクノーツ内にて人気が高い。
何故なら皆自分が受けるのは嫌だが他人が受けたとなると面白いのだ。
だがそれは他人が被害に会うから笑えるのであってやられた方はたまったもんじゃない
「私は彼の行動は面白いと感じるのだが」
ラインハルトはハルアキの行動は自由で愉快なものであると言うが
「お前、アンが今この場にいたら流石にお前の事を全肯定しているアンといえど怒るぞ」
アンもハルアキには酷い目に遇わされているのを知っているのでマオはラインハルトに能天気さに呆れるが内心
(……いや、もしかしたらそれさえもラインハルトの美徳だと言って肯定しそうだなあいつ)
アンのラインハルトへの狂信的忠誠心は有名である。
余談だがハルアキのモットーは汚い、卑怯、侮蔑、軽蔑何のその面白ければ全てよしだ。
ラインハルトがPVP違反を軽度、本人は軽度だと思ってないが許されたのはハルアキよりかは全然マシだと言った理由もあったりなかったり。
「まぁ、あの腐れげ…ハルアキさんのことはいいわ」
「そうね、あの腐れげ…ハルアキさんの事はもういいとしてリリア」
シオンとクオン、今この二人ハルアキの事腐れ外道と言いそうになっていった。
もしかしたらこの二人普段はハルアキの事を腐れ外道と言っているのではないかまぁ、言っていても仕方ないと皆が思った。
「なに」
「貴方のとこも普段とは違いノワールじゃないみたいだけど」
シオンはリリアの後方に目を向ける。
「はわっ、わわわ!」
シオンの言葉で皆がリリアの後ろにいる少女に注目するなか水色の長髪をポニーテールにし髪と同じ色の目を持ち体を体のラインが分かる布と銀の鎧が合わさったのを着た少女は自分に注目が集まり緊張で顔を真っ赤にして世話しなく体を動かしていた。
「この娘はヘレナ。
ノワールの変わり」
リリアは皆にその少女をヘレナと紹介した。
「なんだノワールの奴も食あたりか何かか?」
マオがニヤニヤしながら問うと
「違う。
写真の現像が忙しいから」
「写真?写真ってあいつ此処に来れないほど何撮ってんだよ」
「私」
「はぁ?」
「私を撮ってる」
「おおっ…そ、そうか」
リリアの言葉にマオはちょっといやかなり引いた。
何故なら「私」と言うリリアの表情は何の感情も無さそうな程変化がないがこれ以上踏み込んではいけないような圧を感じた。
ちなみにリリアに対するノワールの異常な愛は有名である。
五大ギルドがそうこう話していると会議室の扉の奥から
「えっ!ちょっ、待って!」
アンの焦るような声がした。
皆何事かと扉に注目したら扉が
バン!と勢いよく開き会議室の中にアラヤが入って来た。
会議室に入ったアラヤはラインハルトだけを真っ直ぐ見据え
「ラインハルト俺ともう一度PVPで勝負しろ!」
戦いを申し込んだ。




