宣戦布告
やぁ、こんにちは語り手だ
父親とルビィ二人との会話を経てユエへの想いを自覚したアラヤ。
アラヤはユエと紡ぐこの先の未来の為にラインハルトに挑む決意をする。
アッハハハ。
まったくもって素晴らしい。
どんな未来が待ち受けようと選択しなければ先には進めないし始まりもしない
故に必要なのは一頻りの想いではなく決して折れない不屈の覚悟である。
例えアラヤとユエ二人の待つ先が茨の道であろうと不屈の覚悟さえあれば絶望的な未来だろうときっと乗り越えられる私はそう信じている。
石造りで出来てる通路の壁には通路を照らすために燃え移らず熱くもない松明が等間隔で設置してある。
カツカツカツ
その通路の中を二対の足音が響いている。
一方はアラヤでありもう一方はギルドオリュンポス副ギルド長である《ヘラ》の異名を持つアンの足音である。
通路を歩く二人の間には会話は無くただお互いの足音や衣擦れ、時折する呼吸音だけが聞こえている。
現在アラヤがいるのはオリュンポスギルドのギルド本部であるクロノスタシスである。
クロノスタシスはまるで神話や伝説、伝承、物語に出てくる様な古代の神殿を城に近付けた外観をしている。
クロノスタシスは外装も然ることながら内装に至っても決して五大ギルドだからといって金を至るとこに散りばめてある等の悪趣味を感じさせる派手さはなく逆に一見して地味とも捉えらるシンプルな建物である。
謂わば誰しもが第一印象に思い浮かべる古代の神殿を城風にしたと言ったらイメージはつきやすいだろう。
さて、ジェネティクノーツ内でギルドホームを手にする方法だがこれには大まかに二通りの方法がある。
一つはNPCが販売しているのを買う。
もう一つはクエストをクリアする事で手に入れる。
この二通りが主である。
どちらを選んだとしても手に入れる際は最初から外観や内装が定まっている。
しかしホームを手に入れた時点で所有者に登録されればホームの全てを自由決めることが可能になる。
つまりは所有者であればホームの外観や内観を自由に変えることが出きると云うわけだ。
だがそうなると最初からホームを除外し土地だけを手にすればいいのではないかと思われるだろう。
実際ジェネティクノーツでは建物はない土地だけを手に入れることもできる。
つまり材料さえあればギルドホームのクラフトさえ可能である。
だがこれには幾つか問題点がある。内観はともかく外観に対しては制限がある。
簡単に云えば土地以上の大きさのホームをクラフトすることは出来ないと云うこと。
まぁ、当たり前ではある。
自分の土地の面積が決まっている以上それを越えるホームは造れはしない。
しかも此れには高さも制限がかかる。
自分の土地面積プラスα以上の高さの建物は造ることは出来ない。
つまりもし多人数が使うギルドホームを造ろうものならそれ相応の広さがいる。
そして当たり前の如く広い土地を買おうものならそれ相応の高額な値段となる。
では購入ではなくクエストで手に入れればとなるが土地はただであろうとホームの材料費とクラフト時間を考えれば最初から自分好みのホームを手に入れた方が良いと云うものだ。
まぁ、中には物好きもおりそれでもと云うギルドもいるが。
では最初から自分好みを探したら良いんじゃないかと云われれば良いと云うだけで必ずしも最良ではない。
何故なら自分好みの見つかるとも保証できないホームを探す手間もある。
では所有者が外観や内観を自由に変えれるのだから適当なホームを手に入れ変えればよいのではないかと思われるが此れにも制限がある。
所有者が外観や内観を変更できる範囲に制限があるのだ。
例えば西洋の城を武家屋敷に変えたり一軒家を宮殿に変えたりなど前のホームの原型が無い程の変更は出来ない。
だからこそ、ホームを手に入れる時はある程度先を見越し自分の理想に近いものを手に入れた方が一番無駄がなくていいのである。
以上を踏まえて結果として言えるのはオリュンポスギルド本部クロノスタシスはその所有者であるラインハルトの理想の城ということである。
ちなみに所有者が自由にホームの外観や内装を変えられるということはつまりその人の個性がでてくるということでありつまるところその人の品性が問われるのと同じである。
そこを垣間見るとオリュンポスギルド本部クロノスタシスは重厚で趣きがあり派手ではなくかといって地味でもなくホームからは品性の良さが感じられる事から如何にラインハルトと云う男が品性に優れていることが分かる。
余談ではあるがジェネティクノーツ内ランキング上司にしたい及び仕えたい人ランキング一位はラインハルトである。
数分前中央都市アルカディアにあるオリュンポスギルドクロノスタシス前に着いたアラヤはラインハルトに会うためにクロノスタシス内部に入ろうとした。
だが門番に止められ中に入れずに困っていた。
ラインハルトに会いたい取り次いでくれないかとアラヤは言うが門番は駄目だと取り付く隙もない。
門番のアラヤを見る眼は完全に不審者を警戒するものである。
それも無理もない事だ。
アラヤはオリュンポスギルドメンバーでもないうえシドやラインハルトとのPVPの一件でオリュンポスギルドメンバーからかなり警戒されていた。
おそらくアラヤがクロノスタシスにきたのもラインハルトに負けた腹いせに仕返しに来たとでも思われているのだろう。
この数日間に幾度と無くオリュンポスギルドと関わったしかも何れも決して良いことではなく悪い事でを踏まえればオリュンポスギルドメンバーとしては当然といえば当然の想いだ。
(まさか…ホームの中にすら入られないとは)完全にラインハルトに戦いを挑むことに頭が一杯で自分に対するオリュンポスギルド員の印象を失念していたアラヤは自分のバカさ加減に頭を抱えたい気持ちであった。
(正直数分前のルビィにありがとうと言って覚悟を決めた顔で店を出た俺をなかったことにしたい)
まったくもって情けない穴があったら入りたいとはまさにこの事であろう。
ルビィにもし今のアラヤのこの事が知られたら爆笑されるうえ暫くの間はこの事でからかわれるのは確実であろう。
「頼む。少しの間でいいからラインハルトに会わせてくれ!」
「駄目だと言ってるだろが!」
「其処をなんとか!」
「ふざけるな!どうせラインハルト様へ復讐しに来たのだろう!」
「違う!俺は…」
「ええい!しつこいぞ!痛い目をみたくないならさっさと去れ!」
アラヤと門番との押し問答が続くなか突然極寒を思わせるような冷徹な声が響いた。
「一体何を騒いでいるのですか」
アラヤと門番二人が声のした方に顔を向けると紫色の髪をサイドアップさせ女性用の下がスカート型の騎士風の戦闘服を着た女性がホーム内からアラヤ達の方に歩いてきた。
「ア、アン様!」
門番は此方に来た女性オリュンポス副ギルド長でありヘラの神威開放保持者であるアンに驚き慌て敬礼した。
「神聖なる我等が神王ラインハルト様が居られるギルド前でなんたる騒ぎ」
氷の様に冷たい目で門番を見据えながらアンは冷徹な声で苦言を告げる。
「も、申し訳ありません!」
門番は冷たき眼で自分を見据えるアンに顔を青ざめさせ頭を下げながら
「こ…こいつがラインハルト様に会わせろとしつこくて」
アラヤ指差しながら弁明する。
するとアンも門番からアラヤの方を一瞥すると門番を見ながら
「この者なら私が許可します。
なので通しても大丈夫です」
アンがアラヤに対しクロノスタシスの入室を許可するので門番は慌て
「で、ですが!こいつは幾度と無く我等ギルドに迷惑をかけたうえ、どうせ此処に来たのも…」
アラヤがラインハルトに仕返しをしに来たと思っている門番はそうアンに危険なのではと告げようとしたらアンは冷徹な目を細め門番を見据えながら
「聞こえなかったんですか、私は大丈夫と言ったはずそれに反論でも」
その冷徹な目いや最早表情全体から発せられる声色はまるで氷河期が訪れたみたいな極寒を感じさせるものである。
此れには二人の側で話を聞いていたアラヤも背筋が震えるほど出会った。
門番も流石にアンの表情、言葉から自分の失言を悟った。
「反論なんて滅相もございません。
誠に申し訳ありませんでした!」
門番はアンに対し深々く頭を下げた。
アンはそんな頭を下げる門番を他所にアラヤの方に顔を向けた。
「あなたをラインハルト様の所に案内します。
私の後についてきて下さい」
アンは淡々と一方的にアラヤに告げると身を翻しホームの中に歩きだした。
アラヤは案内すると言ったのに此方をまったく気にせず黙々とホームの中に入っていくアンの後を黙ってついていった。
そう「ちゃんと案内しろよ」等の苦言をアラヤは言わない。
と云うか前を歩くアンから静かに発せられる威圧に言える雰囲気ではない。
ちなみにアラヤはアンに冷徹な対応をされた門番に対しこのような事を思っていた。
(幹部とは云え普通これだけ無下にされたら怒りを顕にすると思うんだがあの門番…………アンは気付いてなかったみたいだがアンが冷徹に言うたびに申し訳なさそうに謝りながらもまるでご褒美を貰ったみたいに嬉しそうにしていやがった。
頬も上気した様に赤くしてたし。
それにあの門番アンと俺が頭を下げる門番の側を通る時「ハッハッ」と興奮したような声を発して嫌がった……はぁ忘れよ)
アラヤはこれ以上想像したくないというか考えたくもないし関わりたくもないので門番の事は忘れさっきまでの一部始終はなかった事にした。
余談であるがジェネティクノーツ内である叱られたい女上司及び無言で睨まれたいランキング一位はアンである。
アラヤは暫くの間アンに案内されるがままアンの後に黙ってついていってたがそもそも何故副ギルド長であるアンがオリュンポスギルドに因縁のある自分をギルドホームに入れたのか疑問に思い聞いてみた。
「よかったのか、俺をホームの中に入れて」
アンはアラヤが質問した瞬間歩いていた歩みを止めアラヤの方を振り向く。
振り向いたアラヤを見るアンの目はさっきの門番に向けていたものよりも格段に上な冷徹な眼であった。
「私は貴方が好きではありません」
(なんでいきなり振られたみたいになってんだ……)
いきなりのアンからの好きじゃない発言に何とも言えない表情になるアラヤ。
「だけど嫌いと云うわけではありません」
(うん?今度は嫌いじゃない、どういうことだ?)
アンのますます意味が分からない発言に更に何とも言えない表情になるアラヤにアンは冷徹な眼を和らげると溜め息を吐いた。
「はぁ、私はシドが貴方とアルテミスに迷惑を掛けたことは同じギルドメンバーとして副ギルド長として申し訳なく思っています。」
そう告げたアンは再び冷徹な眼になり
「しかし貴方とシドのせいでラインハルト様に迷惑を掛けた事については許せません」
(ラインハルトに迷惑が?)
「どういうこ……」
意味が分からず詳しい事情を聞こうとしたアラヤを
「なによりもラインハルト様とPVPなんて!私でも滅多に相手して貰えないのになんて妬ましい!」
アンは勢いよく遮ると冷徹な眼を怨念の籠った目に進化させアラヤを威殺さんばかりに睨んだ。
「いや、そんなこと言われても…」
アラヤもまさか予想だにしない怨まれ方に困惑した。
(だいたいあのPVPはラインハルトから挑まれたことで俺を怨まれても困るんだが)
アラヤは正直文句はラインハルトに言えと言いたいがアラヤを見るアンからは今にでもアラヤに恨み辛みを物理的にぶつけようとする雰囲気が感じられたので何も言わず黙っていた。
だって雰囲気どころかアンは既に腰の剣帯にさしているレイピアの柄を握り締め理性と本能の狭間で震えている。
「はぁ、」
理性VS本能。
理性が勝利したのか暫くレイピアの柄を握り締め震えていたアンはレイピアを装備から外しアイテム欄に直すと溜め息を吐くと
「私だって本当は貴方なんかをラインハルト様の所に案内などしたくないんですよ。
でもでも案内しなければお仕置きだって言うから」
子供の様に拗ね始めた。
アラヤ拗ねるアンを意外そうにと云うかさっきまでのアンとは似ても似つかない
(誰だこの人)
態度に不可解を憶えながらもアンが言った事に対し疑問を覚えた。
「お仕置きって…いったい誰が?」
問いかけるアラヤをアンはジーと見ると
「はぁ、」
また溜め息を吐いた。
「貴方の事はお姉ち…ルビィから頼まれたんですよ」
「えっ?ルビィが……うん?今お姉ちゃんって」
アラヤはルビィがと聞こうとしたがちょっと、いやかなりそれよりも気になる事ができアンに聞いてみたら
「言ってません」
「いや、でも今お姉ちゃ……」
「言ってません」
「いや、お姉ち」
「案内しませんよ」
「…………」
アンに頑なに否定され最後には先程よりもいや今までで一番な冷徹な眼で見られ脅されたアラヤはこれ以上は踏み込んではいけないと悟り黙った。
「ゴホン。えー先程の事ですが貴方の事はルビィから頼まれたので仕方なく、本当に仕方なくですよ、案内しているのです。」
(いや嫌なのは分かるが仕方なくを二度も言わなくても…)
アンは本当にアラヤを案内するのが嫌なのか言葉だけではなく見て分かるぐらい顔にも出していた。
「だからこそ貴方が私達のオリュンポスギルドホームに入れ案内されてることに感謝しているならそれはルビィに向けるべきのものです」
アンの言う事は最もである。
アラヤはラインハルトに勝利するための策は考えたもののラインハルトに挑む迄のお膳立ては全てルビィがやってくれている。
「ああ。分かってる本当に彼女には感謝しているよ」
(ルビィ、ありがとう)
アラヤは心の中でルビィに対し感謝の言葉を述べた。
ルビィ本人には直接言うと
「そうかい」
何でもないと流されそうだが全てが終わったらユエの事も含め彼女に感謝を述べようとアラヤは決意していた。
止まっていた足を動かしまた歩き始めたアンとアラヤであったが通路を歩いたり階段を登ったりして暫くすると広々とした円形のホールに辿り着いた。
円形のホールは円を描くように床と天井を繋ぐ柱が8本建っておりアラヤとアンの向くホールの先には劇場の扉の様に両開きの金の取手が付いている赤い扉があった。
アンは自分とアラヤの先にある赤い扉を指差し
「あの中に今ラインハルト様は居られます。
しかし今は大事な会議の真っ最中。
なので会議が終わる迄此処で大人しく待っていてください」
アンはアラヤに対してこの場から動くなと注告する。
「悪いが俺にも事情がある」
しかしアラヤはアンの注告を聞いた上で赤い扉に向かい歩いて行った。
「えっ!?ちょっ、待ってください!」
アンは会議中だと告げたにも関わらず赤い扉の方に歩くアラヤに驚き制止する様に言うがアラヤを強引に制止しないとこを見るとルビィに頼まれた事もありギルド副長としての責務とルビィからの頼み二つが鬩ぎ合い葛藤しているのだろう。
ルビィの頼みもあるが何だかんだと言いながらも案内してくれたアンに感謝し本当ならアンの言う通り待つのが正しいだろう。
だいたい人のギルドホームにも入り制止も聞かず傍若無人な態度を取るアラヤの方が間違っているだろう。
だがアラヤには今正にこのタイミングしかなかった。そう3ヶ月に一度五大ギルドのギルド長が一同集まり会議する今だからこそ意味がある
「すまない」
アラヤはアンに謝罪しながらも赤い扉に向かい足を進めた。
足を進めながらアラヤはルビィとの会話を思い出していた。
「アラヤ、再度言うけどラインハルトに勝負を挑むのはいいさ。
けどそもそもラインハルト自信が承諾しなければ意味のないことさ」
「ああ分かっている。
だが俺にはラインハルトに対し伝手も何もない。
だからルビィが教えてくれた通りラインハルトが居る今オリュンポスギルドホームに乗り込みラインハルトに勝負をする様に頼むしかない」
「あまいね。それだとラインハルトが拒否してしまえばそれでしまいだよ」
「じゃぁどうしろと言うんだ」
「簡単な事だね。
ラインハルトに勝負を挑むにしても拒否できない状況で言えばいいだけさね」
「拒否できない状況?」
「そうさ。
アラヤさっき私は今ラインハルトは会議中だと言ったね」
「ああ」
「その会議だが実は只のオリュンポス会議ではないんだよ。
あんたも噂ぐらい知っているだろ、五大ギルド長が一堂に会して行う会議があるなんてことを」
「確かに噂では聞いたことはあるが……えっ、まさか」
「そう。そのまさかさ、実はその噂は本当なんだよ。
そして今日がまさにその日なんだよ」
「今日が……待て、もしかしてルビィが言う拒否できない状況って云うのは」
「そうさ。
いくら五大ギルドの一角にして最強の男でも…………」
アラヤは両手を扉の取手に掛け勢いよく開いた。
中には円卓を囲う五大ギルド
オリュンポス・ブリテン・武蔵・桃源郷・アースガルズのギルド長が椅子に座っており壁には各ギルドの副ギルド長及び関係者が立っており会議室に居る全員が扉を開いたアラヤの方を見ていた。
全員の視線を浴びつつもアラヤは扉の真っ正面に居るオリュンポスギルド長ラインハルトだけを真っ直ぐ見据え
「ラインハルト俺ともう一度PVPで勝負しろ。
まさか他の五大ギルド長の前で勝負を挑まれたのに逃げるなんてことはしないだろうな」
ラインハルトに対し挑発を交えながら宣戦布告をした。




