覚悟
やぁ、こんにちは語り手だ
悩み迷う連夜に対し選択する意味を伝える父親。
連夜は父親の言葉を聞いて心の内よりある一つの思いが浮かび上がる。
そんな連夜にまるで呼応する様に夢に劇的な変化が訪れる。
其処に露るのは何時もの光の粒子ではなく一人の謎の少女。
選択とだけ呟く少女、一体この少女は連夜に何を伝えたいのか。
そしてこの物語もいよいよ終局に向けて動き出す……そうこのVRMMOと云う物語の終局に。
シャワーを浴び汗の不快感をスッキリさせた連夜は何時もの黒い短パンTシャツに着替えるとお腹を満たすためにリビングに向かった。
リビングに入るとテレビを点けたままソファーで横になって寝ている父親が眼に入った。
寝ている父親の服装は連夜の部屋に入ってきた時と同じ服装なので連夜の部屋から出てからずっと此処に居たみたいである。
連夜は父親の側にずれ落ちていた毛布を拾うと夏といえど自分の様に熱を出したらと思い父親に掛けなおした。
「うっ、」
連夜が父親に毛布を掛けると同時父親は目を開けた。
父親は自分に毛布を掛けた状態でいる連夜を認識すると連夜の現在の体調を問うてきた。
「ああ、連夜か。体はもう大丈夫なのか?」
「ああ。お陰様でもうすっかり元気だよ」
「そうか。それはよかった」
父親は寡黙な表情で一見分かりにくいがどうやら連夜が無事元気を取り戻した事を知り安堵したみたいだ。
「お腹が減っただろう。何か作ろう」
連夜の無事を知った父親は立ち上がり自分と連夜の二人分の朝食を作り出した。
連夜は最初自分が作ろうかと言ったが回復したばかりの連夜にきつかろう任せろと言って父親は譲らなかった。
連夜は自分を気遣ってくれる父親に嬉しさを抱く反面この前の焦げて塩辛いチャーハンが
脳裏に浮かび熱の汗とはまったく別の冷や汗が背中をツーと伝った。
(大丈夫だよな?)
席に着いた連夜と父親の前にあったのは牛乳に連夜の懸念通り案の定焦げたトースト、焦げた目玉焼き、焦げたウインナーであった。
(……想像道理だな)
食べれないと云う程丸焦げではないうえ連夜の体調を気遣って作ってくれたので文句は言えない。
というか此処でハッキリ「食えるか!」と言う人は人の心が欠如しているかどっかのゲームにいる腹黒愉快犯の似非陰陽師ぐらいである。
『wwww!?なにこの焦げたのマジ有り得ねぇないんだけど!?
此方は病人、回復したとはいえまだ病み上がりの病人なんですけどwwww!
えっ?分かってるよねこんな焦げた物食べたら折角回復したものも即OUT、下手したらGAMEOVERなんですけどwwww!
だいたい病み上がりにトースト、目玉焼き、ウインナーって普通此処は胃に優しいお粥かうどんじゃないかな~wwww!
まさかそんなことも分からないの逆にwwwwなんですけど!!』
人の親切心をプチプチの様に容易く踏みにじった挙げ句煽ってくるまさに腐れ外道の男である。
しかし父親も焼くと云う作業だけの筈が何故焦げるのかそれも一つではなく三つ全て、しかもトーストに至ってはトースト機に入れて時間を待つだけなのに不思議である。
焦げた朝食を目の前に連夜と父さんはなんとも言えず沈黙していたが
「……すまない」
父親が寡黙な表情のまま朝食の現状について謝りだした。
「…いや大丈夫だ」
自分で言ってて何が大丈夫かは分からないが食べれないことはないと思い連夜は若干顔を引きつりながらも応える。
(それにこの間のチャーハンと同じ味も塩辛とは限らないしな…限らないよな)
連夜は覚悟を決めるとチャーハンの塩辛さを思いだし震える手で箸を取り朝食を食べ始めた。
(……塩辛い)
味は結局この間と同じだったが今回は大量に汗をかいた分丁度いいと思うことにした連夜は朝食を食べ進めていった。
同じ朝食を食べている父親の表情はと言うと塩辛さなぞ気にした様子もなく表情を変えず黙々と食べていた。
その姿に連夜は内心父親に対する懐疑を抱いた。
(まさかとは思うが父さんにとってこの塩辛さは普通の分類なのか)
朝食を何とか完食した連夜は食器は父親が自分が洗うと言うので自室に戻ろうとリビングを出ようとしたら食器を洗いながら父親が
「行くのか」
連夜に問いかけた。
連夜も父親に対し何がだとは聞かなかった。父親が連夜自身がこれからどうしようとしているのか全部とは言わないが何となく察している事を分かっていたからだ。
それは父親の息子に対する親子の絆故か。
「ああ。今でも自分がどうしたいのかなんて分からないんだ。
……でも、このままじゃいけないのだけは分かってる。
だから行くよ」
連夜はまだ心中迷い悩みながらも意を決した面持ちで告げる。
「そうか。……頑張れ」
「ああ」
連夜は父親の淡白だが自分を心から応援する想いの籠った応援に対し口を綻ばせると自室に戻りジェネティクノーツにログインした。
ジェネティクノーツにログインした連夜が立っている場所は最後にログアウトした場所でありシドに勝ちユエの目の前でラインハルトに大敗を期した因縁の場所である森林エリア都市フォレストパレス中央広場である。
「ふぅ」
連夜はざわつく心を抑えるため軽く息を吐くとストレージを操作した。
現在フレンド機能からユエが現在中央都市アルカディアに居るのは分かった。
ユエの方もフレンド機能を見ているなら連夜がログインしたことは分かっているだろう。
連夜は緊張から震える指でフレンド欄を操作しユエに《会おう》とメッセージを送ろうとしたら自分の方に誰からかメッセージが届いた。
連夜はメッセージの送り主を確認すると送ってきたのはルビィからであった。
fromルビィ
『アラヤ三分以内に今すぐ私の店に来な
来なかったり、一秒でも送れたら……………分かっているね』
メッセージの内容は最早脅迫文そのものである。
「……………」
連夜にとってはルビィから来るよう言われたが今はどんなことよりもユエの事を優先させたい気持ちではあるがルビィが連夜にメッセージで呼びつけるのは珍しい事でよっぽどの事が有るのかと悩んでしまう。
それに加えルビィには何かと世話にもなっているし何より
(メッセージの分かっているよねの言葉に恐怖を感じるのだが)
ルビィのメッセージから得たいの知れない圧を感じた。
連夜はユエへの気持ちで後ろ髪を引かれるもまずはルビィの店に向かうことにした。
(…もしかしたらユエの事についてかも知れないし)
前にユエと共にルビィの店に行った時に二人の中の良さ気安さを見ていた連夜にはその可能性もあった。
中央都市アルカディアに転移した連夜だがルビィの店に向かっている途中既に連夜がこの間のPVPの一件永劫無双神威開放保持者だとばれたので好意的な視線を向けてくる者も要れば嫉妬等の暗い視線を向けてくる者様々いる。
中には興味本位で話しかけてくる奴もいたが連夜は先を急ぐため断りを入れルビィの店に向かい歩みを止めず進んでいく。
(こんなことならカメレオンチェンジを使うかローブを被ってくればよかった)
余りに周りの眼が鬱陶しいので連夜は辟易していた。
ゴゴゴゴゴゴ!!!!
連夜はルビィの店に着くとルビィの店から謎の圧を感じた。
さながらRPGで云うとこの魔王城並みの圧である。
「ゴクリ」
連夜は体が野生の本能からか震えながらも今更引き返せないと覚悟を決め意を決して店の中に足を踏み入れた。
店の中は何時も通りルビィが吸うキセルの煙が漂い独特の匂いがしていた。
店の奥カウンターには
「久しぶりだね」
何時もの様にカウンターの後ろに置いてる椅子に優美に座りながら右手にキセルを持ち此方に体を向け入ってきた連夜を見るルビィがいた。
「ああ」
連夜が返事を返すとルビィは黙って連夜を暫く見つめた。
ルビィの表情からは何を考えているのかは分からなかった。
数秒いや数分にも及ぶ沈黙の末ルビィは
「……なるほどね」
何かを理解した様に小さく呟くと左肘をカウンターに乗せ左手で頬杖を着くと
「アラヤ。
あんたとユエがグランドクエストを受ける前、に私があんたに言ったことは覚えているかい」
アラヤから目線を逸らさず真っ直ぐ見て聞いてきた。
それはグランドクエストを受ける前に店から出るアラヤに対しルビィが言ったこと。
ユエの事守ること、そしてユエの味方でいること。
アラヤは覚えていた。それこそ片時も忘れたことはない程に。
アラヤもルビィの自分を見る眼から逸らさず真っ直ぐ見る。
「…ああ。憶えているよ」
「そうかい。……ユエがね、昨日泣いて私のとこに来たんだよ。
自分のせいであんたを傷つけてしまったってね」
「なっ!」
ユエが泣いていたその事に驚き言葉を失うアラヤ。
「アラヤ、あんた昨日ログインしなかっただろ」
(昨日の…)
アラヤはユエが泣いていた原因が昨日ログイン出来なかったせいだと分かり血がでらんばかりに右手を強く握り締めた。
熱自体はアラヤのせいではなく意図せず起きたことである。
故にアラヤに責任はない。
そもそも現実世界の知り合いでもないユエが昨日アラヤがログインしなかったいや、出来なかった理由を知る術がない。
其れ故かアラヤが昨日ログイン出来なかった理由をラインハルトに敗北したためであり元を辿ればユエがオリュンポスギルドメンバーに追われていたのをアラヤに助けを求めたのが原因だと思ってしまうのも無理はない、それ程までにユエと云う少女は優しい女の子である。
だがアラヤが熱を出したタイミングも悪かった。
結果としてユエがアラヤの事を心配し大事に思っていたから起きたすれ違いである。
(俺の責任で)
アラヤもそれは分かっているがアラヤ自身もユエを心配し大事に思っているからこそ自分を責めずにはいられない。
そんな連夜の心情をルビィは見透かしていた。
「分かっているよ。
あんたにも何かしら事情があったんだろうよ」
だからこそアラヤに対し怒るでも悪態をつくでもなくルビィは優しく告げる。
ルビィはだからアラヤは悪くないと言うがアラヤはいまだに自分を責め続ける。
そんなアラヤを見ながらルビィはその時のユエの様子を思い出すかの様に話す。
「だからね私もあの子に言ったんだ。
あんたの所為じゃないって、だけど私がそう言ってもあの子は泣きながら自分の所為だって譲ろうとしないんだよ。
まったく優しいいや、優し過ぎる娘だよ」
「ユエが……」
アラヤがラインハルトに敗北し昨日ログイン出来なかったその事でユエがそんなにも傷ついていたなんてと思わなかった考えもしなかったアラヤは自分が情けなく思い弱々しく眼を伏せた。
「言っとくがねアラヤ、私はあんたの所為とも思ってないからね」
そう告げるルビィの連夜を見る目からは連夜を気遣うでも心配するでもなく本気でその通りだと言っているのが分かる。
「これはただたんに二人ともお互いを想っていたから起きたことさね」
(想っていた?)
連夜はルビィのその言葉に顔を上げる。
「呆れた…あんた、あんだけ感情を見せながら根本的な事は自覚がないのかね、それとも分かった上で気付かないようにしているのか。
はぁ、まったくあんたときたら、はぁ」
何度も溜め息をつきながらアラヤに呆れた様に言葉を漏らす。
「アラヤあんたはユエの事どれだけ知っているのかい?」
ルビィは一旦空気を変えるためかキセルを吸い煙を吐くと聞いてきた。
(まさかルビィもユエの事情を知っているのか)
アラヤはルビィの言葉からルビィもユエからユエの事情を聞いたのではと思っていたら 連夜の表情から何か察したルビィは話さなくていいと追い払うように左手を振るった。
「あー、言っとくが私はあの子が抱えているものについては知らないからね。
それとあの子の事情に関してはあの子自身が言うまでは他の奴からなんて聞く気なんてないからね」
アラヤはルビィと会話をしていてルビィがいかにユエの事を大事に想っているのか分かっていた。
それも見知らぬ誰かの不幸を心配する様なものではなく友達や家族のように近しい誰かを想うように大切に。
「ルビィはいいのかそれで」
そんな大切に想っているのなら大切な人の事を知らないというのは悲しく不安にならないかアラヤはルビィにそう聞かずにはいられなかった。
ルビィは苦笑すると
「言いたくない、言いずらい、言えない事なんて誰しもが持ってることだからね。
それはあんたにも私にもそうさね。
いくら近しい誰かとはいえ自分の事ではない以上他人が勝手に興味本位に足を簡単に踏み入れていいものじゃないさね。
だから私は別にあの子が言いたくないならそれでいいさね。
何よりもあの子が元気に笑ってくれてるならフゥー…それだけで充分さね」
連夜が知らないだけでユエとルビィにもそこまで想えるような何かがきっとあったのだろう。
だってアラヤにユエの事を語るルビィの表情は何時もの妖艶さやからかう様な表情ではなく本人は否定するかはぐらかすかもしれないがユエに対しての慈しみが溢れるように笑っていたから。
ルビィの話を聞きながらアラヤは逆にユエの事情以外のルビィが知っているユエの事を知りたくなった。
連夜がユエの事について知っているのはあくまで彼女の現状とそれに纏わる事とグランドクエストを共に挑んだ三日間ぐらいだ。
「なぁルビィ。俺がしっていれのはユエの抱えている事情とグランドクエストを一緒に受けた三日間ぐらいだがルビィはユエの事はどのぐらい知っているんだ」
「うん?私かい。
そうさね~」
ルビィはそこで一旦区切ると何故か二回に続く階段がある店の奥の方をチラリと何かを気にする様に見るとまた視線を連夜に戻すと何時ものからかう様に口元を歪ませた。
「私が知っているのはあの子があんたとグランドクエストを受けるのを心の底から喜んでたことさね」
「えっ?」
連夜がルビィの突然の内容に理解が追い付けないまま目を見開くと先程ルビィが見ていた店の奥の方で
ガタン!
何かが勢いよくぶつかるような大きな物音がした。
連夜は音にビックリして目線を物音がした方に向けた。
「おいルビィ、まさか奥に誰かいるのか?」
連夜は音の正体をルビィに問うがルビィは音に対し気にした様子も微塵もさせない。
「ああ~おそらく何か物が倒れたんだろうさね、別に気にすることはないさね」
ルビィは気にするなと言うがアラヤは納得できず怪訝そうな顔で店の奥に向ける。
「いや、でもあれ物が倒れたにしては音がでかかったような」
「アラヤ。私は物が倒れた気にするなと言ったはずだがね。
それともなにかい私が嘘をついているとでも言いたいのかい」
ルビィは表情を変えず言葉だけはまるでボス級モンスター、いやそれ以上の圧で言う。
「いや俺の勘違いです。すいません」
アラヤはまるで謝罪のベテランの様に素早く綺麗なお辞儀をした。
「でぇ、さっきの話だがね」
「ああ」
「アラヤ。あんたがユエに初めて出会ったのは何時だい」
「うん?何時ってグランドクエストを受ける前、俺が荒野フィールドでモンスターとの戦闘後ユエが声を掛けてきたのが初めだが」
連夜はルビィの質問に不思議にする。
ちなみにアラヤは今もその時のユエとの出会いの事を鮮明に憶えている。
「やっぱりさね。気付いてなかったみたいだね」
ルビィはそう言うと
「アラヤ。あんたとユエが初めて出会ったのはそのずっと前なんだよ」
「ずっと前って…」
連夜には全然覚えがない。
そもそもアバターとはいえユエ程の容姿端麗な少女に出会ったら普通男なら忘れないものだ。
ルビィは悩むアラヤに可笑しそうに
「クックッ」っと笑う。
「まぁ、無理もないさね出会ったと言ってもほんの一時の事だったし。
それにこのゲームが始動してからまだ半年も経たない時だしね」
出会ったのが一時のうえ一年以上前なら覚えてなくても無理はない。
しかもまだジェネティクノーツが始まって間もない時ならば一番アラヤの心が荒み荒れていて現実の世界から逃避するよう踠いていた時期である。
つまり目の前の事だけに一生懸命であり自分の事で精一杯であり他の事なんて眼を向けてる余裕など微塵もなかった。
「俺とユエはいつどこでどの様に出会ったんだ」
連夜は覚えてないのがなんだか悔しくてルビィがいるカウンター前迄行くと前のめりになりながら矢継ぎ早しに聞いた。
「落ち着きな」
ルビィは右手に持ったキセルで前のめりの連夜の頭をポコンと叩くと椅子に座る様に促した。
連夜が椅子に座るとルビィは話し始めた。
「あんたはユエがこのゲーム開始当初恐怖を抱いていたのは知っているね」
「ああ」
(その事はルビィも知っているのか…)
「ユエは最初都市外のフィールドは勿論だけど都市内でも宿から余り出ようとはしなかったしたまに宿を出て都市内を歩くさえもフードを被りまるで自分自身を隠す様に空気な様に生きていたんだよ。
ユエは自分の身を護ることだけ、それだけに一生懸命だったんだよ。
でもねぇそんなことを永久に続けるなんて到底無理な話しさね。
たまに外に出て都市を歩くなか聞こえる他のプレイヤー達の楽しそうな声や笑い会うプレイヤー達を見るたびに聞くたびにユエの心は荒んでいく」
それは人間として当然のことだ。
人は他人と比べたがるより幸福により幸せに成ろうとするものである。
だからこそ他人と比べ自分が幸福じゃないと不幸だと分かると自分が惨めだと間違っているんじゃないかと感じてしまう。
だがそこから惨めだと感じたままいるか現状を変えようと努力し踠くかはまたその人次第でもある。
果たしてユエはどっちを選んだかと云うと現状のユエを見て分かるように
「ユエもねこのまま何もしないままじゃあ何時の日か限界が訪れ自分が自分でなくなるそう思った。
だからこそそんな想いを振りきるようにフィールドに出たんだ」
ユエは後者を選んだ。
「ユエも最初は喜んだんだよ。
初めて見る景色、匂い、音、感触に」
ルビィは知らないがゲームの中でしか生きられないユエにとって都市以外の景色が匂いが音が感触が五感全てで感じるものがどれだけ感動し素晴らしいと想えたのかを。
ユエにとってはリアルに近いジェネティクノーツがある意味で救いであった。
「だからこそ忘れてしまったのさ。
安全に守られた都市内ではなくフィールドにあるモンスターと云う危険を。
ユエは景色に感動し夢中に成っていたらねモンスターに襲われたんだよ。
それもスライム等の初級レベルではなくよりにもよって初級者には厄介なポーンエイプにね。
ユエも必死に応戦したが始めての戦闘故に中々倒せずにいたうえポーンエイプ特有の仲間まで呼ばれたんだよ。
しかも運の悪いことにキングエイプをだよ。それでもユエは必死に応戦したけど流石にレベル1じゃあどうしようもなくユエも駄目だと勝てないと分かり逃げようとしたが恐怖から足がすくみ動けなかったんだよ」
まさに絶体絶命な状況である。
「だがそんな劇的なピンチであるユエを助けたプレイヤーがいた。
それがアラヤ、あんただよ」
「えっ?」
ルビィは薄く笑うと
「此方に耳にタコができるぐらい何回も繰り返しユエが言うんだよ。
怯える自分の前に立ちポーンエイプをすかさず倒すと私を助けるためキングエイプと戦ってくれたんだって。
まぁ、結局倒せはしなかったが自分の手を取り都市近くまで自分を守りながら連れてきてくれたって言っていたよ」
「そしてあんたがユエに言った事も言ってたさ。
怯えるぐらいならフィールドに出るなと何も出来ないまま死にたいのかと説教されたって。
ユエ自身も助けてもらったのはありがたいがそこまで言わなくてもって余りの言葉に怒りが沸いて反論しようとしたらあんたの顔を見て何も言えなくなったって。」
「……何でだ」
アラヤもまだその時はユエの事情を知らないとはいえ相当酷いことを言ってるのは分かってる。
もし言われたのがアラヤだったら大きなお世話だと言っていただろう。
それはアラヤやユエだけじゃなく他のプレイヤーだったとしても怒りを憶えるだろう。
「だって見えたあんたの顔があまりにも必死であり自分に似ていると感じてしまったからだと」
「俺とユエが似ている?」
「あの娘が言うにはあんたの顔が何かに怯えそれから逃れる為に必死に踠いているように見えたらしいさね」
ユエが前にリネイシアの花園でアラヤに話した事と今のルビィの話から察するにおそらくアラヤとユエが出会ったのはゲームが始動してから3ヶ月迄の間だろう。
その時の連夜ならその様な表情をしていても不思議ではない。
「でも最初は似ていると思っていたけど自分とはまるで違ったんだって。
アラヤ、あんたには自分とは違い苦悩から逃げず強者に臆さず立ち向かおうとする強い覚悟が有るように感じた。
それに比べ自分は自分らしく生きたいと思うだけで心の底から現実を受け入れ立ち向かう覚悟がなかったんだと」
(違うんだユエ、俺のは覚悟なんて大層なものではない)
「それは違う。
俺のは覚悟とかそういう大層なものじゃないんだ。
俺はただ現実から逃れようとただ我武者羅に踠いていただけなんだよ」
「そうかい。
でもねあんたはそうでもユエにはそう見えたんだ。
だからこそユエは自分も思いだけじゃなく本気で生きようと覚悟を決めたんだよ」
その結果今じゃあトッププレイヤーの仲間入りさ、ルビィはキセルを吸い煙を吐きそう呟く。
人の印象見方なんて人それぞれだ。
自分が悪いことをしていても他人から見たら良いことをしている様に見えたりまたその逆もある。
しかしそもそも人間とは矛盾を抱える生き物である。
もしかしたらアラヤはただ現実から逃げる為にプレーをしていたことも別ベクトルとはいえ似たような悩みを抱えるユエにはアラヤ自身が気付かないアラヤの心の奥底それこそ海の海底の様に深い深い所にある意志を感じたのかも知れないし。
ルビィは微笑みながら
「だからこそユエはあんたと一緒に冒険出来て嬉しかったんだろう。
あんた等がグランドクエスト受けている最中なんか仕切りに暇をみては私にあんたの事についてメッセージを送ってきたしね。
やっぱりアラヤ君は凄い、アラヤ君は強い、アラヤ君、アラヤ君ってさね」
(ユエがそんなことを…)
ルビィはユエの事を語り終えると
「アラヤ、あんたはどうする」
「どうするって…」
「あんたユエに会いたいだけど会う事に対し恐怖も抱いているんだろ」
ルビィにはどうやらアラヤの心情はお見通しのようだ。
「ああ。
ルビィの言うように俺はユエに会いたい。
でも会ったとしてどうしたいいかはまだ自分でも分かってないんだ」
「そうかい。
……ならアラヤいまだ自覚がないあんたに私から一つの事実を告げてあげるさ」
「事実?」
「アラヤ。
あんた自身気付いてないかもしれないけど昔に比べ随分変わったよ」
「俺が変わった?」
「あんたが最初に私の店に来た時は鉄仮面を被ってるように全然表情を変えないし口に出す言葉もああ。違う。そうだ。そればっかりだったさ。
でもあの日オリュンポスからユエを助けた次の日ユエとの会話のためにこの店に来たあんたはまるで別人の様に全然違って見えたんだよ。
正直内心あんたの急な変化に驚いたね。」
アラヤはルビィに言われて改めて自覚した。
ユエに出会った事で自分が変わったことを。
そしてそれと同時にようやくユエに対する自分の気持ちに気付いた。
どうしてこんなにもユエの事に必死になり焦がれるのかを。
「ああそうか。俺はユエの事が」
アラヤがユエへの気持ちを口に出そうとした瞬間ルビィはまるで遮るようにキセルを吸い煙を吐くと
「でぇ。あんたこの先どうするんだい」
(ユエに直ぐにでも会いたい)
父親、ルビィと交わした会話がアラヤの中を駆け巡る。
(だけど今の俺では駄目だ。
今ユエに会った所でリネイシアの花園の時の様に何も言えないくなるだけだ。
いや言ったところでその言葉には確信もなく意味を持たないだろう)
アラヤはルビィが言った事を思っていた。
前にアラヤの姿を見てユエが覚悟を決めたと言う事を。
(なら今度は俺自身の自覚を持ってもう一度ユエに示さなければならない)
「ルビィ。
俺にはユエに会う前にしなければならないことがある」
アラヤはある一つ決意を持ちルビィに言った。
「ほぉ~。それはユエよりも優先しなければならないものさね~?」
アラヤの言葉に怒らず興味深そうにルビィが問う。
「ああそうだ。
会いたいだけでは駄目なんだ。
俺が今会って何かを告げたとこでその言葉には信憑性もなくユエにユエの心に届くとは思えない。」
アラヤは一旦目を瞑り軽く息を吐くき目を開けた。
「だからこそ、証明するだ」
「ほぉ~。証明ね~」
連夜は頷くとルビィにすら予想だにしない驚くべき発言をした。
「ルビィ。
俺は…もう一度ラインハルトに最強に挑戦する。
そして今度こそ勝利しこれから先どんな敵が訪れようともユエを必ず守れることを証明する。
そしてユエに俺の想いを伝える」
アラヤがルビィに告げたその瞬間また店の奥の方で
ガタン!
先程と同じ何かがぶつかる様な音がしたがアラヤは今度は音を気にせずルビィを真っ直ぐ見た。
ルビィはアラヤの言葉に驚いたように硬直すると少したってから
「ハ、ハハハハハ!」
腹を抱え大爆笑した。
「いいね、いいね!言葉では足りないから行動も含め全てを持って伝えるってことさね!アラヤあんたも男だね!」
ひとしきり笑ったルビィは連夜の決意に愉快そうにしながら
「でもさアラヤ勝算はあるのかい、相手はあの最強だよ」
「今は無理だ。
今の俺とラインハルトじゃあ実力差があり逆立ちしたって勝てないことは分かっている。だから………」
連夜はラインハルトへの勝利するための自分の考えをルビィに伝えた。
「なるほどね~。だけど分かってるのかいそれにはどうしてもクリアしなければならない条件がある事を」
「ああ。それは俺も分かっている。
挑むにしてもラインハルトが戦いを承諾しなければ始まらない事を。
だから頼むルビィ。
ラインハルトが今何処に居るか教えてくれないか」
頭を下げるアラヤ。
「分かってるだろうね情報屋に情報を聞くなんて高くつくよ」
ルビィは口元をニヤリとしながら言う。
「まぁ、今回は特別に料金はあんたの勝利にしてやるよ。だから負けたら当然分かっているさね」
アラヤは頭を上げ苦笑しながら
「ああ。何でも言うことを聞くさ。
だけど負けるつもりはない勝つのは俺だ」
と力強く言った。
ルビィはアラヤの気迫にまた口元をニヤリとする。
「ああ、その意気さ」
「さて、ラインハルトの居場所だけど今は自分のギルドの会議室にて対談をしているよ」
場所だけを聞いたのに何をやっているのかも知っている事に不思議というかちょっと怖く感じるアラヤだが
「ありがとうルビィ」
ルビィお礼を言ってルビィの店を出るとラインハルトに向かい歩きだした。
アラヤが店を出る直前ルビィはアラヤの父親と同じ様に「頑張れ」と声援を掛けた。




